エンジェル・ハイロゥが崩壊してからの地球圏は荒れた。それはもう凄まじいくらいに荒れた。信頼していた夫が浮気をしていた。妻が男を作っていた。友達だと思っていた人が、裏で悪口を言っていた。統合からの分断は深刻だった。
ハイロゥにより、1つに統合された人類は、秘密を共有してしまったのだ。ロンド・ベルは大忙しだった。世界の警察となってしまったロンド・ベルは、東奔西走し、なんとか世界の安寧を保とうとした。
シロッコ紛争は終了し、ジオン帝国は解体された。ズムシティの人口の半分を失ったジオンは、独立を断念。連邦政府に帰属した。
連邦政府もただでは居られなかった。隠しておきたい後ろ暗い秘密が共有されてしまったのだ、地球連邦政府は枠組みこそ残ったが、西暦時代のように、国家が群雄割拠することとなった。ガルマ・ザビの働きにより、スペースノイドに参政権は付与され、連邦政府は緩やかに解体されていった。
大きな戦争は起きなかった。完全に繋がってしまった相手を殺すことを、誰もが躊躇ったからである。見ず知らずの相手なら兎も角、全てを知ってしまった人間を殺すというのは難しいものだった。
パプテマス・シロッコの傀儡となっていたキャスバル・レム・ダイクン。実のところ彼は、殆ど政治に関わっていなかった。
ララァ・スンを使い、ガルマ・ザビを追い落としたまでは良かった。そこで人生の絶頂に達したが、すぐにキャスバルは政治家という仕事が嫌になった。
首相就任1年後には、全ての実権を、風の会が言うまま影武者である強化人間に預けていた。ララァ・スンが思ったよりキャスバルに依存的であり、それが嫌になったということもあった。
強化人間は、酒と女に逃げつつもなんとか政務を熟した。彼は必死に努力したのだ。
全裸中年男性として徘徊を楽しんでいたのに、強化人間にされた哀れな経歴を持つフル・フロンタルは、優秀な男だった。シロッコ紛争後に、全ての責任から解放され、全裸徘徊を行い警察に逮捕されている。
キャスバルは、クワトロという偽名を使い、コロニー公社で働いていた。現場作業員は、地球滞在期にキャスバルがやっていたことである。彼はモビルワーカーやモビルスーツの操縦が得意であり、仕事に満足していた。
同僚のケン・ビーダーシュタットは、彼がキャスバルであることに気が付いていなかった。ちなみに、パプテマス・シロッコもそれは知らなかった。
キャスバルは、それほどまでに土方姿が板についていた。結局、彼はそのままコロニー公社の作業員として一生を終えた。
キャスバルは公社の同僚と結婚しており、その小さな結婚式には、セイラ・マスも出ていたという。
セイラ・マスは、ジオン共和国首相である兄が明らかに偽物であることに気が付いていた。まず、肥満体であること。そして顎が割れていること。セイラの知る兄は、ケツアゴでなかった。兄はストイックな性格であり、肥満になるとは考え難かった。
確かに偽物は、兄に似ている。ララァ・スンの能力に支配された大衆が、兄と誤認するのも無理はない。兄を太らせればああなるだろうとセイラは思った。
兄の偽物がジオン共和国の首相をしていることに、思うところは有ったが、干渉はしなかった。
ジオン共和国の国民は、1年で激太りしたキャスバルを見て、失望した。しかし、それだけだった。そもそもキャスバルの政治家としての能力は高くなかった。血筋と顔と声が良いだけの男であり、単なるポピュリストだった。すぐに化けの皮がはがれ、頓珍漢な発言を繰り返すキャスバルに、民衆は失望していた。
血筋と声が良いケツアゴは、キャスバルよりマトモだった。つまらない親父ギャグは発するものの、キャスバルに出来なかった傀儡という役目を果たせていた。
ケツアゴが第二次キャスバル政権を発足出来たのは、シロッコのアシストが有ったからだ。しかし、ある種の独特な雰囲気がありジオンの電脳空間では、ネットの玩具として人気だった。
ジオン帝国の皇帝となったミネバ・ザビもまた偽物だった。本物のミネバ・ザビは、一年戦争において行方不明となっている。
ロンド・ベルが行方を追うと、彼女は工業コロニーのインダストリアルセブンに居ることが分かった。バナージ・リンクスという少年と懇ろらしい。
彼女は、自身の出自を知らずのびのびと育ってきた少女であり、どこかの勢力が政治的に利用するとは考えられなかった。
シロッコ紛争の主犯であるパプテマス・シロッコはMIAと判定された。彼が、戦争を起こした動機は不明だった。しかし、とあるゴシップ誌には、恋人であったララァ・スンとハマーン・カーンのために、全世界を1つにしたという記事が出回った。
また、パプテマス・シロッコの腹心であったマシュマー・セロにも逸話がある。シロッコの愛機オーヴェロンとマシュマーの愛機タイタニア。2機の関係から、2人はただならぬ関係だったというものだ。真相は不明だ。
アムロ・レイは、尉官にこだわり生涯現役を貫いた。彼はベルトーチカ・イルマと結婚したものの、チェーン・アギと不倫をした。ベルトーチカに刺されかけたが、なんとか和解してはいる。
ブライト・ノアはロンド・ベルを率い、世界を守った。しかし、アムロ同様、家庭は守れなかった。ブライトは浮気こそしなかったが、仕事に追われ家庭を蔑ろにしてしまった。
息子のハサウェイ・ノアは恋人であるクエス・パラヤと共に駆け落ち。ブライトと縁を切った。
カミーユ・ビダンは、両親と絶縁した。軍の生活に馴染み、優秀なパイロットとなった。しかし、性格に難がありトラブルメーカーであった。戦場でのみ優秀だったと同僚は話す。
ジュドー・アーシタはリタ・ベルナルと共に、木星船団に乗った。その後の足取りは不明だが、妹のリィナや、ロンド・ベル時代の仲間とはちょくちょく会っていたようだ。
リィナ・アーシタは、ジュドーからの送金で進学した。シャングリラから抜け出した彼女は、優秀な官僚となった。
ガルマ・ザビは、ジオン自治共和国を設立。連邦政府の一員として、ジオンと連邦の架け橋となるべく奮闘した。ガルマはジオン再興の父となり、世界平和に多大な貢献を行った。
シャア・アズナブルはガルマ・ザビと共にサイド3の復興に従事した。妻のミリーナとはおしどり夫婦であり、アムロと違い不倫などは起こさなかった。
シャアは、エンジェル・ハイロゥに接続した代償としてニュータイプ能力を失った。しかし、本人はそれを微塵も気にしていなかった。五体満足であり、特に生活には苦労していなかった。
エンジェル・ハイロゥは、世界を少しだけ良い方向に導いたのだ。完全に世界から争いが無くなったわけではない。しかし、人々は少しだけ相手を思いやることが出来るようになっていた。悲しみも憎しみもある世界で、人々は生きていくのだ。