シャア・アズナブルは勤勉だ。なので、報告連絡相談を怠らない。上司であるドズル中将へ、V作戦の計画書の奪取が成功したこと。そして部下を2名失ったことを報告した。
「ザクを2機失ったか。それがガンダムとやらの機体性能か。シャア。貴様にそのガンダムの鹵獲を命じる」
「は…!? はっ。了解しました」
ドズルの命令にシャアは動揺した。それを見越してドズルは言葉を続ける。
「安心しろ。失ったザクの補給はきっちり行う。ガデムのパプアが補給を行う。ランデブーポイントで、データをパプアに渡し、補給を受けろ。貴様を含め合計で6機のザクだ。これで取り逃したとは言わせんぞ」
「閣下。僭越ながら申し上げます。戦争というのは、敵より多くの兵器を適切な時に適切な場所に配置し、相手よりもミスが少ない方が勝つものです」
「つまり、ガンダムに拘泥するなと言いたいのだな。だが、奴らをみすみすジャブローに行かせるのは癪だ。俺から送る戦力は貴様で最後だ。逐次投入はせん。地球に逃げるのならば、貴様も降下しガルマと協力しろ。……ガルマを頼んだぞ」
「了解しました」
シャアは、少しばかり苛ついていた。連邦軍の新兵器であるガンダム。新型でありそれを鹵獲することの重要性はよく分かる。しかし、兵器は単なる道具だ。1つの道具であるガンダムだけでは、ゲームチェンジャーとは成り得ない。新しい戦術やパッケージを伴うことで、ようやく兵器は戦争を変えるのだ。
「ガデム大尉、これがV作戦の作戦書だ。補給もあと30分程で完了か。何事もなく終えられそうだな」
ムサイはとうにサイド7から離れている。ガンダムの母艦であるホワイトベースが襲来する可能性は低かった。
補給が完了し、ファルメルはルナツーからジャブローへの宙航路に移動した。ここでホワイトベースを待ち伏せるのだ。通常であれば、ホワイトベースはここを通るはずだった。
「熱源探知しました。画像出します」
「サラミス級1。それとペガサス級も1隻います。木馬です」
「木馬のメガ粒子砲に注意しろ。ファルメルは距離を取れ。ガンダムもビーム兵器を装備している。戦艦並みだ。射程には注意しろ」
ブリーフィングを終え、シャアは乗機に搭乗した。
「シャア・アズナブル、ザク出る」
シャアの立案した作戦は、単純なものだった。シャアがガンダムの相手をし、その他のザクはサラミスや木馬から出てきたMSの相手をするというものだ。
シャアはゲルググのテストパイロットであったためビーム兵器に慣れていた。だが、他のパイロットは違う。そのため、シャアがガンダムの相手をするのが効率的だと判断したのだ。
ザク・マシンガンではなくバズーカを全機が装備している。データからガンダムの装甲は対艦装備ではないと抜けないことが、分かっていたからだ。
「見せてもらおう。ガンダムの性能を」
ホワイトベースから射出されたガンダム。ビーム・ライフルの射撃を躱しながら、バズーカの射程まで近づく。
「そんなものか? ガンダム!」
シャアが撃ったバズーカは、ガンダムの盾をデブリにし、ビーム・ライフルを吹き飛ばした。
「さて、近接といこう」
撃ち尽くしたバズーカを捨て、ヒート・ホークを構える。そのまま、ガンダムに吶喊した。
「なんで、なんで当たらない!?」
「女? いや子供か? 民間人を使うとはな。連邦め。胸糞の悪いことをする…!」
「コイツ、速い」
ガンダムのバルカンを避け、コクピットへ斬りかかる。ヒートホークはビーム・サーベルにぎりぎりで防がれた。
「パイロットは未熟だな。機体性能に救われている」
「クソっ」
シャアのヒートホークが、ガンダムの腕を斬り落とした。
「殺さないのか…?」
「少年。君は部下の暴走のせいで戦いに巻き込まれたのだろう。私の詫びだ。今回は見逃しておこう。君にその機体は荷が重い。艦に戻ったら正規の軍人に託すことだ。また戦場で相見えようなら、私は君を殺す。戦場に立つなら覚悟を持つことだ」
シャアはガンダムを見逃した。彼は
彼らが攻撃を行わなければ、あの少年も戦争に巻き込まれることはなかったはずなのだ。統制しきれなかったシャアの落ち度を、見逃すことで伝えたつもりだった。
「少佐、見逃したんですか?」
「逃げられたのさ。過去の清算だ。それでも、抗うようなら、悪いが始末させて貰う」
「ジーンのバカ野郎なんて、覚えておく必要有りませんよ」
「少なくとも、経験から学ぶ愚者では有りたいのさ」
襲撃により、突入角度がズレたホワイトベースは、北米へと落ちていく。ファルメルのコムサイに搭乗したシャアはそれを追った。損失が無かったためファルメルに4機のザクを残し、コムサイにはシャアの機体を含め2機のザクを積んだ。
十分な物資も積んでおり、シャアはガルマに迷惑を掛けないつもりだった。
「やあ、シャア待っていたよ。兄上から君が来るかもしれないと聞いて、一日千秋の思いだった」
「私もだ。嫌な任務も忘れられそうだよ」
「そう。その嫌な任務についてだ。木馬は僕の麾下で海に追い落とすように追っている。しかし、しぶといな。ドップによる襲撃を仕掛けているが落ちない。試作機のグフ・フライトタイプも撃破されたよ」
「なかなか粘るな。だが、問題はガンダムではない。敵の量産機であるジムだ。あれが本格的に配備されれば、ジオンは戦場での優位を喪失する」
「そうだな。ザクが完全に置いていかれるだろう。ゲルググの本格配備を早めて欲しいところだ」
北米大陸からホワイトベースは追い落とされた。そして、そのままヨーロッパへと逃げ延びていく。シャアは、ガルマと旧交を温めつつ、ゲルググの地上試験を行っていた。
北米の情勢に大きな動きは無かった。ジオンは占領地を広げすぎていたし、連邦軍はジオンを駆逐するには戦力が不足していた。
「シャア。敵に本格的な反攻準備が確認された。例の人型兵器であるジムの姿も確認されている。アジア、オセアニア、アフリカ、ヨーロッパでも連邦軍の反攻準備が為されているようだ。どこが連邦軍にとっての本命だと思う?」
「奴らにとって重要な場所はヨーロッパかアメリカだ。大方ヨーロッパだろう。アメリカを主軸にした反抗が起きようとも、ここには君と私がいる」
「なんだ? 自慢か? 僕も君とならどんな戦場にでも行けるとは思うがね」
連邦軍の反抗作戦は大規模だった。全地球規模で行われたこの作戦により、ジオンはチョークポイントであるオデッサへの戦力集中が出来なかった。
ジオン北米方面軍はガルマ・ザビ大佐のもと、一致団結し地球連邦軍と対決することとなる。
「ザクとは違う。軽いな。良い機体だ」
「シャア少佐。ゲルググってのはそんな良い機体です? 俺にはこのドムの方が使いやすいんですがね」
「それは個人の好き嫌いだろう。少なくとも私にはこの機体の方が合っている」
「そりゃあそうですな。道理です」
連邦軍に数で劣るジオン北米方面軍は、シャア・アズナブル少佐の指揮のもと機動戦を展開した。侵攻してきた連邦軍へ逆侵攻を掛け、連邦軍を海へ追い落とすことに成功する。
「ジムというのは厄介ですね。硬い」
「ゲルググを使え。ビーム兵器ならば奴らの装甲などバターのように溶ける」
「俺にはドムの方が合ってるんですよ」
「そうか。なら良い」
ジオンヨーロッパ方面軍はオデッサにおける地球連邦軍の攻勢を支えきれなかった。ジオンはヨーロッパを失った。その影響は顕著であり、重力戦線における主導権は連邦軍の手の中にあった。
マ・クベ中将が宇宙へと逃れた今、最大勢力となったのは北米方面軍だ。その司令官であるガルマ・ザビが、実質的に重力戦線の決定権を握っている。
「シャア、お前が反攻を成功させ、連邦軍を北米から追い落とした間に、オデッサは敗北したぞ。マ・クベ中将は宇宙へ行った。お前ならどうする?」
「ふむ。幸い我々には余裕がある。オデッサから慌てて逃げたHLVは鴨撃ちされたと聞く。規律を保った撤退をするべきだろう」
ジオン北米方面軍は、ジャブローへの攻勢を企図していた。事前爆撃の激しさからも連邦軍首脳部はそう判断した。しかし、それは欺瞞だった。
連邦軍がそれに気が付いた頃には、キャリフォルニア・ベースは空の状態であり、ジオン北米方面軍は、グラナダへと帰還していた。