ガルマの指揮する北米方面軍が、宇宙での戦闘に適応するまでに、ソロモンが陥落した。ドズル・ザビは死亡した。ガルマはドズルの死を聞き、泣いた。
ちなみにガルマの恋人であったイセリナ・エッシェンバッハをはじめとする親ジオン市民もグラナダへ同伴している。ジャブローの宇宙港へシャアがゲルググで突入するほどの本格的な欺瞞工作。そして、MSから生産機械、家財までもを伴う撤退作戦には、かなりの時間が必要だった。そのため、北米方面軍はソロモン防衛戦に間に合わなかった。
ガルマの指揮下の部隊はベテランを多く残している。更に新兵であっても訓練時間が長かったため、他部隊よりもかなり練度が高い。また、キャリフォルニア・ベースでのゲルググの生産やビーム兵器の生産などを通して装備も充足している。ゲルググの中にリック・ドムをちらほら見る程度で、ザクは完全に2線級となっている。この部隊は、名実ともにジオン1の有力部隊となっていた。
「キシリア姉さん!? どうして、僕の部隊はア・バオア・クーへ行けないんだ! 連邦軍は向こうに攻撃軸を定めているんだろう。ならこの部隊をア・バオア・クーへ持って行くべきだ」
「ガルマ。あくまで敵がその素振りを見せているだけだ。進路をこのグラナダへ取る可能性も否定できない」
「でも、ギレン兄さんを助けないと! 父さんも死んだ今、ここは兄弟揃って団結しないと!」
センシティブな政治の話題になりそうなので、シャアは席を立とうとした。だが、それをキシリアが止めた。
「貴様にも聞く権利は有る。キャスバル坊や」
「キシリア閣下、それは誰のことです。私はシャア・アズナブルです。そしてそれ以上でもそれ以下でもない」
「ふむ……そうか」
キャスバルが自身の政治的な野心を捨て、ガルマ・ザビの部下であるシャアに徹する。そんなメッセージをキシリアは受け取った。それは、勘違いなのだが奇跡的に意味が通じていた。
「ガルマ、お前にはグラナダを任せる。私がア・バオア・クーへ行く。シャア、貴様はガルマをよく支えろ」
「そんな、姉さんが行くなんて」
「キシリア閣下の意思だ。私がガルマを支えよう」
キシリアは父デギンを兄ギレンが殺したこと。そして、自身がギレンを殺すつもりであることをガルマへ伝えなかった。ガルマに、政治的に中立の立場でいてほしかったのかもしれない。もしくは、無垢な弟へ醜さを見せない愛だったのかもしれない。
だが、結局ガルマがその真意を知ることは無かった。ア・バオア・クーは陥落し、ギレン・ザビ、キシリア・ザビもまた戦死した。
混乱したのは、残されたジオン公国議会である。リーダーが死亡したもののガルマ・ザビは生きており、その麾下には強力な部隊がいる。
議会が勝手に講和に応じれば、ガルマの軍団が暴れ出すかもしれない。ダルシア・バハロ議長は混乱していた。
同じようにガルマ・ザビも混乱していた。ギレンとキシリアが戦死してしまったのだ。決定権がガルマへ降りてきてしまった。ガルマには政治的野望は無かった。コロニー落としを否定も肯定もしなかったが、悲劇を見れば涙する感性はあった。
しかし、官僚的真面目さも同時に持っており、リーダーシップを発揮するタイプというよりは、フォロワーシップを発揮するタイプだった。
「シャア。助けてくれ。どうすれば良い?」
シャアは政治音痴だった。政治の話は全く専門外であったし、よく分かっていなかった。しかし、親友の悩みを共に解決しようとする善性は持っていた。
「そうだな。連邦軍に勝てるようなら継戦すれば良い。勝てないようなら降伏するべきではないか?」
「……そうか? ……そうだな」
「連邦軍の勢力は強大だ。ア・バオア・クーを陥落させるほどの軍をグラナダへ回されれば一溜まりもないだろう」
「なら、降伏か……」
「無傷である我々は未だに強力な戦闘力を保っている。連邦軍も疲弊しているだろう。ならば勝てるかもしれない」
「戦闘を継続するべきなのか??」
結論が出ないガルマに、シャアは言葉を続けた。
「戦争というのは究極的には意志力のせめぎ合いだ。敵の勝とうとする意思を挫ければ、勝てるだろう。しかし、ガルマ。君なら連邦軍の継戦意思をどのようにして挫く?」
「分からない……厭戦ムードの蔓延。我々の決定的な勝利。それで、敵の意思を挫けるだろうか?」
「さぁな。ギレン総帥も見誤ったんだ。我々は非人道的な手段を使い、スペースノイドから後ろ指を差される立場になった。そこまでして行ったコロニー落としですら、連邦の意思を折れなかった。それどころか逆効果だった」
シャアもガルマも、答えを出せなかった。数億、もしくは数十億の命を背負った決定だ。2人だけで出せるものではない。
「大佐。ダルシア・バハロ首相がいらっしゃいました。今後についての話し合いがしたいとのことです」
ガルマとシャアはバハロを巻き込むことに決めた。バハロは窓口となるであろうと考え、捕虜となっていたレビル将軍を連れてきていた。
さらに、ア・バオア・クーから撤退してきた部隊もグラナダへ集結しつつあった。なお、連邦軍は、ア・バオア・クー戦での多大な損害から立ち直れず、グラナダへの攻勢を掛けられずにいた。
それぞれの利害を掛けた会議が、グラナダで行われようとしていた。ジオンの1番長い日がはじまる。
「ガルマ・ザビ大佐だ。私はこの部隊ならば連邦軍を撃ち破ることが可能であると確信している。しかし、しかしだ。ギレン兄上が戦死された今、部下にむざむざと犠牲を出すことを避けたい。そう思う気持ちも無くはない」
ガルマの発言に議会側からざわめきが起こる。
「ダルシア・バハロ公国議会首相です。我々としては降伏を視野に入れています。このままでは、本土が戦場になってしまいます。我々は本土を犠牲にしてまで戦争を続けるべきではないと考えています」
「親衛隊エギーユ・デラーズ大佐だ。首相の発言は、本国が犠牲にならなければ良いという風に聞こえる。我々軍部は、ジオニズム、スペースノイドの未来のため犠牲を出して戦ってきた。まだ我々は戦える。貴様らは、敗北が見えたなら裏切ろうと言うのか!?」
「答えましょう。私たちは、本土を犠牲にするために戦争をしているのでは有りません。亡きギレン総帥は、言論統制を行い、それにより作られた民意で戦争を行った。戦争は我々民衆の意思ではありません。言論統制と軍部の暴走の結果、私たちは戦争へ突入せざるを得なかったのです!」
軍部は、首相らを射殺さんばかりの目付きで睨んでいた。
「貴様ら自身が選んだ戦争だ! 国民が選択し戦争を起こしたのだ! 軍は道具であり、貴様らがそれを振り下ろした。国民が我々を使ったのだ。詭弁はやめてもらおう」
両者はヤジを飛ばした。今にも軍人が銃を取り出そうとする勢いだった。
「双方。静粛に!」
進行であるシャアが睨み付けると、両者は大人しくなった。
「シャア・アズナブル少佐だ。連邦軍から見た意見も伺いたい。レビル将軍。発言を許可する。ヤジは行うな」
手錠により拘束されたレビル将軍が、口を開いた。
「如何なる場合でも、我が連邦軍は容赦しない。ジオンに容赦すれば、それは良くない前例を生み、コロニーの独立を容認することへと繋がる。そうすれば、連邦政府は崩壊する」
「ダルシア・バハロです。1点質問させていただきます。ティアンム提督の死亡により、連邦強硬派が勢いを削がれています。ジオンへの制裁は強く出来ない。我々はそう確信しています。それについて意見をお聞かせ願いたい」
レビルが強硬派であることは、よく知られていた。バハロの質問は、そこを突くようなものであった。
「……回答させていただく。連邦軍にはそういった考えの持ち主もいる。しかし、多くの真面目な軍人はそうではない。私はそう信じている」
「なるほど。確かな回答をありがとうございます。参考になりました」
一連のやりとりを聞いたガルマがようやく口を開いた。
「降伏しよう。僕はザビ家の男だ。兄上や姉上がしたことについて責任を取る必要がある。バハロ首相。この首1つで納められるよう交渉してくれ」
確して、ジオン公国の降伏は決定した。全権大使にはダルシア・バハロが任命された。