ダルシア・バハロは、交渉を纏めるべく月面都市フォン・ブラウンへ向かった。連邦軍との交渉はジオンの色が濃すぎるグラナダではなくフォン・ブラウンで行うことに決まったのだ。
「バハロ首相!! 敵襲です!! グワジン級が向かってきています!」
「デラーズか!! 私を殺し、交渉を頓挫させる気だな!」
「シャア少佐とその部隊が既に迎撃に出ています」
「流石は赤い彗星だな。行動が素早い」
シャアとその部下のMS隊は、速やかに迎撃を行った。シャアに課せられた任務は、バハロの護衛だ。襲撃者が同胞であろうとも、容赦する理由にはならなかった。
「敵はゲルググではないのか」
「本国では学徒兵をゲルググに乗せていたらしいですよ。親衛隊の連中は、機種転換を行う時間が無かったようで」
「そうか。だからといって手加減する理由にはならんがな」
ビーム・ライフルにより、ザクやドムが一方的に撃破されていく。それほどまでに彼我の機体と練度には差があった。
「大義のため、犠牲になってもらう!」
「その割には迷いが見える」
「これは、ジオンのためなのだ」
シャアに近接戦闘を挑んてきたドムは、なかなかの腕だった。だが、それでもシャアの方が上だった。
「このアナベル・ガトーの誇りに懸け、赤い彗星、貴様を打ち倒す」
「その程度で、よくも大口を叩けるな」
シャアは、ドムの頭部と四肢を斬り落とし行動不能にさせた。
「貴様は、デラーズの愚行の証人となってもらう。アポリー。こいつを捕虜にしろ」
ガトーを捕虜にしたのを見送り、シャアはグワデンに向かった。遅まきながら、シャアを捉えた砲が撃ってくる。しかし、赤い彗星の前には無力だった。
「味方を沈めるのは、気持ちが良いものではないな」
撃沈したグワデンに敬礼を捧げながら、シャアは思わず呟いた。
「よくやってくれた。流石は赤い彗星だ。私の方も交渉ではベストを尽くそう。ガルマ様は自身の生命を掛けていたが、そうはさせん」
地球連邦軍の全権代表はゴップ大将だった。ダルシアにとって予想外の人事であったが、それでも平静を保つことが出来ていた。
「地球連邦軍大将のゴップだ。さて、交渉に入らせて頂こう。連邦軍がジオンに提示できるプランは2つだ。1つ目がこの場での条件付き降伏。もう1つが戦火を交えた後での無条件降伏だ。私としては無駄な犠牲は出したくないのでね。前者を薦めたい」
ゴップが切り出したプランはダルシアの想定内だった。しかし、連邦軍の武力を背景にした交渉であり、ジオンに対して厳しい条件を付きつけようとしていることは明白だった。
「ジオン公国議会首相、ダルシア・バハロだ。我々には、連邦軍に対し勝利するという3つ目の選択肢があるということも提示したい。現に、この交渉に赴く際にも戦争継続派に襲撃を受けた。もっとも、赤い彗星が護衛の仕事をしただけで終わったがね。強硬な軍部は、戦争継続を望んでいる。その声を我々は拾い上げることも出来る」
「ふむ。興味深い。しかしねぇ。私には、ジオンにそのような余力があるとは考えにくい。地球での戦闘に敗北し、ソロモン要塞、ア・バオア・クー要塞を失陥した。残された要地はグラナダのみだ。我々はジオン本国へ軍を進めることができる」
ゴップの態度は強気だった。連邦軍は勝利者であるという前提が有るからだ。
「我々ジオンは、まだ敗北したわけではない。ガルマ・ザビ大佐のもとジオンは団結し、戦争を継続することもできる。しかし、政治的にはこれ以上の犠牲を出したくはない。ガルマ大佐も同じ考えだ」
「そうか。ならばこの場で条件付き降伏をするべきだな」
「仕方があるまい。我々には選択肢がある中での条件付き降伏だ。それに配慮してもらいたい」
交渉は5時間にも及んだ。その結果、ジオンにかなり有利な条件を引き出すことが出来た。
降伏条件は、ジオン公国から共和国への国体の変更。コロニー落としなどの虐殺を行った戦争犯罪人の引き渡し。賠償金請求だった。
武装解除や占領、ガルマ・ザビの処刑などは免れた。
「シャア少佐、交渉結果は上々だったよ。ガルマ大佐の首は免れた」
「それは、素晴らしい結果です。閣下、お疲れのところ申し訳有りませんが、グラナダでクーデター未遂が発生したとのことです」
「なんだと!? ガルマ大佐は無事か!?」
「ええ。クーデターは鎮圧されました。デラーズ大佐が絵を描いていたようです」
UC0080、1月11日。ジオン公国と地球連邦政府の間で和平が成立した。この和平では、ジオン公国の戦争犯罪人の引き渡しと処刑、賠償金などが盛り込まれていた。しかし、ジオンに突きつけた条件はこれだけであり、アースノイドからは不満の声が多く上がった。
賠償金の額にしても、天文学的なものでなく、常識的な範囲でありジオン共和国の財政を著しく悪化させるものではなかった。
「シャア! 無事に交渉できたようでよかったよ! こっちは大変だったんだぞ。ギレン派の奴らがクーデターを仕掛けてきた。それを撃退したんだ」
「首謀者のデラーズ大佐は、グワデンごと沈めてしまった。生かしておくべきだったな」
「政治的にはそうだろう。けれど、君がグワデンを沈めたことで、クーデター軍の説得が楽だったよ」
ガルマ・ザビは、准将へ昇格。ジオン共和国軍の実質的な指導者となった。ガルマ・ザビ准将はシャア・アズナブル中佐と共にギレンパージを実施。ギレン派の将官佐官クラスを連邦軍と共に戦争犯罪人指定した。
A級戦犯の罪状は平和に対する罪である。指定が行われるのは、指導者層のみだ。しかし、ジオン公国軍の指揮系統はギレン・ザビが反乱防止のため故意に複雑化させていた。そのため、佐官クラスであっても、戦争指導に関与したという追及が可能であった。連邦軍はこれにより広域な戦犯指定を行った。
A級戦犯は故人であっても追及され、ギレン・ザビ総帥、ドズル・ザビ中将、キシリア・ザビ少将がザビ家では指定された。
将官クラスでは、技術本部のアルベルト・シャハト少将。ジオン宣伝省のハーラン・レノックス准将らが、A級戦犯として処刑された。ほとんどの将官クラスがア・バオア・クーやソロモンで戦死しており、残された将官のほとんどが責任を追及される形となった。
佐官クラスでは、コロニー虐殺や非人道兵器に関与したアサクラ大佐。実行役であるシーマ・ガラハウ中佐。和平交渉を妨害したエギーユ・デラーズ大佐(故人)。実行役であったアナベル・ガトー少佐などがA級戦犯とされた。
本来ならば虐殺の実行役であり、BC級なのだが、平和に対する罪という点を問われ、見せしめとして指定されている。戦後の裁判が、連邦軍の恣意的なものであり、公平でないことの証左だった。
佐官に関してはA級戦犯の数は少ない。しかし、連邦軍が指定したBC級の戦犯が多かった。
一部の戦犯は逃亡を選択した。逃亡先はアクシズであったり、反連邦軍組織だったりした。
また、親ギレン的な発言をしていた政治家も公職から追放され罷免されることとなった。与党はダルシア・バハロが組織したものの、経験の浅い者が目立つ結果となった。
ガルマ・ザビのもと、ほとんどの旧ジオン公国軍がジオン共和国軍として再編されることとなる。
しかし、一部の部隊はアクシズへ逃亡した。
「シャア……助けてくれ。やることが多すぎる。軍の再編に、地球からの引き揚げ。戦争犯罪人の捕縛。アクシズに逃げた残党の対処。僕は1人しかいないんだぞ!!」
「仕事を配れば良いだろう」
「その仕事を配れる先が無いんだよ…! ジオンの将校は骨抜きにされた。政治家も手一杯だ。軍が政治家の代わりをしている! こうなるんだったら、連邦軍の駐屯を認めるべきだった」
ゴップの取った政策は、ジオンに温情的に思えるが実際はそうではなかった。ジオンの内情はぐちゃぐちゃだ。ガルマ、シャア、ダルシアは恭順派と呼ばれ派閥としての人気が無い。ガルマ個人に人気があるため、政策が回っているが、国内の過激派をいつまでも抑え込めるとは思えなかった。
他サイドや地球に比べれば、サイド3は楽園のような状況だったが、井の中の蛙は大海を知らない。ジオン共和国の安息はほんの一瞬だった。