ガルマ・ザビは疲れ果てていた。仕事が終わらないのだ。ガルマの仕事は多岐に渡る。ガルマはガルマ派といわれる派閥を形成している。そもそも、本人には派閥を形成する意思は無かった。しかし、ジオン公国北米方面軍がそのままガルマの派閥となってしまった。
ガルマは否応なく政治にも巻き込まれていくこととなった。
現在のジオンにおいて、大きな問題が3つある。
1つ目が地球に取り残された兵士や軍属、そして彼らの家族の引き揚げである。地球のほぼ全土に派遣された彼らを本国へ帰さなければならない。巨大なスケールの話だ。一朝一夕で終わる仕事ではない。
現地軍の中では、ガルマに反発しジオン残党となっている部隊も少なくない。彼らが、残党となる理由は、支配領域だったり権力だったり、金銭だったり思想だったりと様々だ。
連邦軍との調整局を設け、どれが引き揚げ部隊で、どれがジオン残党なのかを識別しているが、うまく行っていない。残党が引き揚げ部隊に紛れテロを起こす。引き揚げ部隊が残党と誤認され殺害される。
また、一部の横暴な連邦軍部隊により抑留や、強制労働、捕虜殺害などが行われているケースもあった。連邦軍にとってもジオンの引き揚げ部隊と残党の問題は大きな課題だった。
2つ目の問題が、戦争犯罪人である。自首した者や終戦直後に捕縛した者は連邦軍へ引き渡された。しかし、戦争犯罪人の中でも、アサクラ大佐、シーマ・ガラハウ中佐が捕縛されていない。ガルマは、2人の行方について、連邦軍から厳しく追及されていた。
連邦軍にとってはコロニー落としに関与した犯罪者であり、軍の威信にかけて処刑すべく熱心になっていたのだ。
アサクラ大佐は、アクシズへ逃亡したところまで分かっているが、その後は不明である。シーマ中佐は艦隊を連れグラナダを出たあとから、行方が分かっていない。
ガルマの姪であるミネバ・ザビは、ア・バオア・クーの混戦の中、アクシズに逃れようとしたことは判明しているが、生死すら不明だ。
和平を聞き、アクシズから艦で逃亡した兵によると、マハラジャ・カーン総督とその娘、ハマーン・カーンは内紛に巻き込まれ、死亡したという。アクシズはサイド3からの連絡を拒絶し音信不通となった。内部状態は不明だ。
3つ目は、派閥問題と関連する国内問題である。ガルマ派はダルシア・バハロ率いるジオン共和党の後援者だ。ジオン共和党は和平派である。連邦政府と上手く折り合いを付けようと努力している。口さがない者からは、恭順派や降伏派、連邦の狗と呼ばれている。
野党、風の会はジオン独立を訴えるナショナリストの集まりだ。軍内の非主流派が彼らを支持している。彼らは、ジオン共和国軍の軍服。その袖を長くしアレンジした服装を好んでおり、袖付きを自称している。
「もう袖付きの奴らに任せれば良いんじゃないか? 本土が占領され国がボロボロになれば、僕たちが正しかったことが分かるだろう??」
「ガルマ。しっかりしてくれ。そうならないために君は努力しているんじゃないか」
「もう。疲れたよ」
「待てガルマ。その車に乗るな! 爆弾が仕掛けられている!」
「うぉっ!?」
ガルマが車のドアから飛び降りると、瞬時にシャアが覆い被さった。
「っ、痛っ」
「無事か?」
「シャアこそ無事か?」
「ああ。何ともない」
ガルマの車に爆弾が仕掛けられるのは3度目だった。下手人はその都度捕らえているが、組織的な犯行であることは間違いない。
「お陰様で、もう慣れたよ」
「風の会の連中か?」
「どうだろうね。案外連邦政府かもしれない」
シャアの異様に鋭い勘により、ガルマは辛うじて命を拾ってきた。ガルマの妻であるイセリナにも、危害が及びそうになったこともある。
「連邦政府にカマを掛けるか……」
「あの大尉には利かないだろう」
ガルマは予定を変更せず、連邦軍との連絡事務所へ向かった。ガルマの対応を任されたのは、若い大尉だった。
「ブライト大尉。僕がこうなったのに覚えがあったりするかい?」
「は? 全く心当たりは有りませんが……」
どことなく煤け、焦げているガルマとシャアを見る。ブライトに思い当たるフシは無かった。
「また車が爆破されてね。タクシーで来たんだ」
「ははは……それは、大変でしたね」
暗殺を軽く語るガルマに、ブライトは引いていた。
「で、呼び出された理由は何だ?」
「ジオン残党狩りを行っている部隊についてです。彼らは別個で動いており、情報共有もされていません。そのため、そういった部隊を統合し、軍内部に残党問題に対処する機関を作ろうとする動きがあります」
「機関ねぇ。僕としては肯定する。引き揚げを行っている共和国軍にも残党がテロを仕掛けてくる。アレは我々の敵だよ」
「待てガルマ。結論を出すのは早い。来年には、選挙が行われる。ダルシア首相が敗北し、反連邦派が主流になってもその組織は、ジオンにとって敵対的にならないのか?」
ガルマは、少し考えた。
「もしもの話だ。それを考えるよりも、今を考えるべきだろう。先の脅威よりも、今の引き揚げだ」
「では、ジオン共和国軍として同意を頂けると?」
「ああ。書類も書く」
ジオン共和国軍は、連邦軍の残党狩り部隊ティターンズの設立を認めたこととなる。それに伴いジオン共和国もティターンズを承認した。連邦政府の協力を得て、引き揚げを促進するためだった。
UC0083は政治の季節だった。ダルシア・バハロ首相が4年間の任期を終えるのだ。議員選挙も付随して行われることとなった。
この選挙の結果次第では政策がガラッと変わってしまう。事前調査では、ジオン共和党の得票率は高くなかった。
泡沫候補がどんどんと出馬し、有力野党である風の会は彼らの前衛組織である袖付きと共に、ガルマ派に暗闘を仕掛けてきた。
民間人の間でも、支持者同士の諍いや、大規模なデモや襲撃が発生していた。
「ブライト・ノア大尉。連邦は何もしていないんだよな??」
「はい。私の知る限り、工作は行っていません」
「君が知らないことを、上がしているかもしれないと?」
「その可能性は有ります」
呼び出したブライトを通して、ガルマが知ったのは、ブライト・ノア大尉が素直で実直な性格をしており、良い人間であるということだけだった。
連邦軍の駐在武官だが、引き揚げに関連していたため、ブライトはティターンズの一員ともなっていった。胸元に付けられた徽章には、ティターンズの所属を示す鷹があった。
「キャスバル・レム・ダイクンが出馬しただと??」
ブライトととの対談中に、シャアが持ってきた情報がそうであった。ガルマは驚きのあまり、椅子から落ちた。
「落ち着けガルマ。偽物かもしれない。風の会が公認しているが、それは、真贋を保証するわけではないんだ」
「万が一、本物だったら一大事だぞ!? 行方不明になり死亡説も有力だったんだ。生きているなど、そんなはずがない!」
「しかし、ダルシア首相の政治基盤は揺るがないだろう。自称キャスバルは単なる泡沫候補に過ぎない」
「そ、そうだな。そうだとも。ああ、ブライト大尉。呼び出したのに情けないところを見せた。今度、飲みにでも行かないか? ジオンを背負う立場というのは、僕1人には重すぎる」
「ええ。是非行きましょう」
しかし、この約束は果たされることは無かった。政情が激変したのである。
自称キャスバルと連れの黄色のワンピースを纏った少女は、瞬く間にサイド3の有名人となった。少女は異能を持っていた。彼女の持つ治癒能力は、重病人を回復させるなど現代医学に喧嘩を売っているものだった。
キャスバル・レム・ダイクンとララァ・スンは、風の会の後援もあり、瞬く間に民衆の支持を取り付けた。
ジオン共和党は単独で政権を維持することが困難となる見込みだった。