ジオン共和党は選挙で大敗した。3分の2を掌握していた議席数は4分の1まで減少した。キャスバル・レム・ダイクンが新たに設立したジオン第一党は、風の会と共に過半数を取得。連立政権を立ち上げた。
この政変を受け、ジオン共和党は不正選挙を主張した。しかし、その訴えが受け入れられることは無かった。ジオン第一党と風の会は、ガルマ・ザビを明確に敵視していた。
「国民を破滅に導いたザビ家の生き残りは、今や連邦政府の代弁者に過ぎない。ガルマ・ザビはスペースノイドを捨て、連邦の靴を舐める畜生に成り下がった。そんなガルマにサイド3の未来を委ねられるというのか!? 否である!
私、キャスバル・レム・ダイクンは父、ジオン・ズム・ダイクンの意志を継ぎスペースノイドに独立を齎す! ジオンを栄光に導くのはこのキャスバル・レム・ダイクンだ!」
マスメディアはキャスバルを大きく取り扱った。ガルマ派も切り崩しが行われており、共和国軍内でのガルマの地位も揺らいでいた。
ガルマは、イセリナを伴い自宅でシャアと飲んでいた。和平派のダルシア・バハロが、首相の任期を満了すると共に、ガルマも共和国軍の中央から切り崩される可能性があった。
ガルマは参謀本部長などを歴任していたが、非常時の措置であり正式な根拠を持った任官では無かった。そこを突けば、職を剥奪し、ガルマを左遷することが出来るのだ。
「民衆は、あのキャスバルの真贋に拘っていない。例え偽物であろうとも、世論はアイツの味方だ。やってられるか!? 民主主義国家っていうのは欠陥じゃないか! あんな
「落ち着けガルマ。かつて君の兄、ギレン・ザビがやったことだろう。キャスバルには中身がない。アレは単なる神輿だ。神輿を担ぐ側が何を喋らせたいのかを、よく観察するべきだ」
ガルマはショットを煽った。
「良くない飲み方だぞ」
「ふん。傀儡の台本なんか見え透いている。奴らが考えていることは連邦政府に対する反抗だ。そしてテロ組織への支援だ。ようやく。ようやく経済も回復してきたというのにバカげたことをやりかねない!」
「彼らが国力差も顧みず、一年戦争の愚行を再び行うと? 考え難いな」
「ジオン国民は愚かだ。僕とダルシアの政策なんか見ちゃいない! 何が、バハロに殺されるだ! 誰が、売国奴だ!」
ガルマは泣き上戸であり、散々喚いたが、終いには酔い潰れる。酒に付き合っているシャアとイセリナはよく知っていた。
シャアは鈍感だったので、メディアで報道されるキャスバルの姿を見ても、エドワウを連想することは無かった。
「今さら、ダイクン派の気持ちを思い知るとはな……政権を奪われたキャスバルやラル家に同情する日が来るとは」
シャアと親しかったかつての上官ランバ・ラル。彼はア・バオア・クーで戦死している。ラルと、もっと話をしておけば良かったとシャアは思った。
ガルマの納車されたばかりの新車が数台爆破されたり、銃撃や爆発物がプレゼントされた。シャアのなんかすごい勘により、ガルマは無事だった。
「ガルマ・ザビ准将。シャア・アズナブル中佐。はじめまして。私が、ジオン共和国首相キャスバル・レム・ダイクンだ」
「…シャア中佐です。一体、就任されたばかりの首相が参謀本部に何の用でしょうか?」
キャスバルは、ガルマを親の仇のように睨んでいた。彼がガルマ・ザビを憎んでいるという風評は正しかったようだ。
「ガルマ准将、シャア中佐、君たちは栄転だ。首相の名において、君等を昇進させた上、ティターンズへ出向させる。ダルシア元首相と君等が推進していたジオン兵の引き揚げ任務を果たしてくれたまえ。期待しているよ」
キャスバルは愉快そうに、ガルマの肩を叩いた。ガルマの表情は硬くなっていた。代わりにキャスバルの口元は緩み、喜悦を浮かべていた。悦びを隠せないのか、時折、笑いを漏らしていた。
「失礼。ザビ家の御嫡男がかつての私のような立場になるのが、皮肉でね。つい笑ってしまった」
キャスバルが去ったあとの参謀本部は、お通夜状態だった。
「クソ! やられた! 畜生! アイツ、先手を取りやがった!」
ジオン共和国軍はシビリアン・コントロールが行き届いている。首相が、軍人の人事に介入することも法理論上は可能なのだ。もっとも、これらはイレギュラーな措置であり、普通ならば行えない。しかし、可能ではある処置だ。
ガルマが油断していたのではない。キャスバルが首相に就任するかは、不透明だった。そして、その就任に備え幾つかの策は講じていたのだ。しかし、キャスバルのスタッフの動きが異常に早かった。
ガルマ自身の部下もほとんどが、人事異動によりバラバラにされた。古参のスタッフで残ったのはシャアとその麾下のMS隊くらいである。
「すまん。イセリナ。都落ちだ」
「いえ。ガルマが居てくれるなら、私はどこでも構いません」
「シャアも似たようなことを言ってくれたよ。僕には過ぎた妻と友人だ」
ガルマに対する暗殺はなくなった。彼の政治的な失墜が明確になったからだろう。ガルマ派も袖付きに飲み込まれてしまった。
ダルシアらジオン共和党も弱体であり、ジオンの政策に大きく関与できる立場ではなくなっていた。
UC0084年の某日。ガルマとシャアは艦でルナツーへと向かっていた。少将であるにも関わらず、ガルマの艦隊はティベ1隻と、ムサイ1隻のみだった。
「地球に行くのは、4年ぶりだよ」
「ああ。北米からの撤退以来だな」
「こんな形で地球に行くとは思っていなかった」
「ガルマ。すまん。話の途中だが敵襲の予感がする」
「ん、そうか。お前の勘がそう言うならそうなんだろう。キャスバルは余程、僕を殺したいようだな」
シャアはゲルググへと飛び乗る。一年戦争当時は新鋭機だったが、今ではロートルだ。
【不明艦を確認しました。ジオンの艦です。ザンジバル級1、ムサイ級6。ざ、ザンジバル級はリリー・マルレーンと照合されました…! ムサイ級もシーマ艦隊のものです!】
「一年戦争の亡霊が…! 貴様らどこに隠れていた! お前たちを匿っていないかと連邦から探りを入れられまくったんだぞ!! 対空戦闘用意! シャアが包囲を破るまで粘るぞ!」
ガルマは、シーマ・ガラハウの行方を連邦政府からせっつかれ追っていた。なので、シーマに対しての同情はもう無くなっていた。当初は同情していたのだが、連邦政府からの注文がうるさすぎてシーマを嫌いになっていた。八つ当たりである。
ガルマ艦隊のMSは防空戦を行っていた。シャアが単機で敵MSを遊撃しつつ防空する。アポリー隊とロベルト隊は、艦隊防空に徹していた。
「有り金と命を置いていきなぁ! ガルマ・ザビィ!」
「悪いが、やらせんよ」
「赤い彗星か。ゲルググなんかで、アタシのガーベラに勝てるとでも!!」
自信が有ったのか、単機で突入してきたシーマ・ガラハウのガーベラ・テトラ。それをシャアがゲルググで迎撃する。
ゲルググとガーベラ・テトラの機体性能は雲泥の差だ。しかし、ニュータイプとして覚醒していたシャア・アズナブル。エースではあるもののオールドタイプであるシーマ・ガラハウ。2人の能力差にもまた、圧倒的な差があった。
「何故だ! なんで、当たらないんだい!」
「自身の無能を敵のせいにするとはな」
「お前ぇ、異常だ。赤い彗星は、異常だよ!」
「問答には飽きた」
ガーベラ・テトラは、推進系にダメージを受け制御不能となった。推進剤を使い尽くすまで乱数飛行を繰り返すだろう。
ガーベラを捕まえるべく、シーマ艦隊のゲルググが救助に行くが、それはシャアにとって狙い目だった。シーマを囮にし救助に来た数機を撃破することが出来た。シーマは運が良ければ生き残っただろう。
「攻勢が弱まったな。敵を沈められそうだ」
シャアは単機で敵艦隊に突入。ムサイを1隻沈めた。それによりシーマ艦隊の包囲が綻ぶ。そこで、シャアは撤退を決意した。
「潮時だな。このままムサイとの艦隊戦に入れば敗北する。アポリー、ロベルト。撤退する。やられた奴はいるか?」
「おりません」
「こっちも無事です」
シャアは護衛を続け、ガルマの乗ったティベとムサイは無事に包囲網を脱した。これ以上の妨害はなく、無事にルナツーへと到着できた。
ルナツーでガルマとシャアを迎えたのは、元駐在武官ブライト・ノアだった。ティターンズのものである濃紺の軍服は、ブライトの精悍さを引き立てている。階級章は少佐となっていた。
「ブライト少佐。出迎えありがとう。こんな形の再会になるとは、僕も思っていなかった」
「ええ。私もです。ガルマ少将。シャア大佐」
ガルマとブライトは和やかに握手を交わした。
「同胞よりも、かつての敵と握手が出来るとは、過去の僕が聞いたら何と思うだろうな」
ストレス故かガルマの髪には白髪が混じっていた。
「ガルマ少将、いつかの約束です。ルナツーにもバーは有ります。シャア大佐も交え飲みましょう」
ブライトの優しさに触れ、ガルマは少し泣いた。