ティターンズは、主にペガサス級を単艦で運用し、各部隊が広い裁量権を持って地球や宇宙を飛び回るという部隊運用方針を取っていた。
フットワークが非常に軽く、それでいながら精強だったため、あちこちの連邦軍部隊に呼ばれ、引っ張りだこだった。
そんな忙しい中で、獲得競争に勝利し回ってきたサラブレッドは貴重な艦だった。それをガルマ少将率いるジオン共和国軍部隊に貸与するのである。レビル大将の思い切った決断だった。
「ガルマ少将。君をティターンズ第9独立部隊司令官に任命する」
「はっ。光栄であります」
「君たちは連邦軍所属というわけではない。しかし、ジオン共和国は連邦政府の友好国だ。友好と関係改善のため、君たちには期待している」
「粉骨砕身、励みます!」
ガルマは、サラブレッドのキャプテンシートにうきうきで座っていた。ペガサス級サラブレッドの艦長も重要な立場だったが、ジオン共和国軍の参謀本部長という重責に比べれば双肩にかかっている重みは軽い。
後方勤務という選択肢も有ったが、ガルマはそれを選ばなかった。現場を知らずに理想論にかまけた結果、ジオンはガルマらを支持しなかったのだ。その反省は有った。
また、部隊長というポストは軍人として楽しいものである。ガルマは、後方勤務よりも部隊長がしたかった。
「艦の整備が終われば、地球圏でジオン残党の始末か。もう終戦から5年だぞ。奴らを説得することは不可能だ。今になって残党が勢いづくのは、ジオン共和国の支援が有るからだろうな。奴らが本当に残党支援をするとは思わなかったぞ」
「尻尾を掴まれるようなヘマはしていないようだな。だが、物資の製造シリアルが、共和国のものだった。これで無関係と考えるのは、無理がある」
ジオン共和国に愛着はある。しかし、ガルマにとっては、失脚し追放されるような形で、出ていかざるを得なかった祖国だ。複雑な思いはあるが、残党に対し容赦するような感情はなかった。
ちなみに、ガルマと共に左遷された人員は、ルナツーへ家族を連れてきている。シャアも両親を連れてきていた。シャアの両親は、セイラとも繋がっているようだ。
「そういえば、両親から驚くべき事実を聞かされたぞ。10年前に行方不明になった友人が、キャスバルだったらしい。彼はエドワウ・マスというのだが、ルウムの首都で学生をやっていて、いつの間にか行方不明になっていたんだ」
「そうか。人の縁というのは狭いんだな」
「おや、あまり驚かないんだな」
「はっ。どうでもいいだろあんな男。せっかく買った新車を爆破されまくったんだ。僕はあいつに賠償金を請求したいよ」
「ああ。そうだな」
シャアも深いことを考えていなかった。10年前のシャアとエドワウはそれほど仲が良くなかった。シャアは、他サイドにも遊びに行き、レースに出場するなど、多忙かつ不良な学生時代を過ごしていた。
テキサス・ビレッジでセイラをナンパした時に、怒り狂ったエドワウに喧嘩を売られたこと。それぐらいしか、エドワウのことをシャアは覚えていなかった。ちなみに、喧嘩はシャアが完勝した。セイラとは、現在でもたまに手紙を書く程度の間柄に収まったが、エドワウとは喧嘩のこともあり彼が失踪するまで敵対していた。
「そいつが、お前の悪友ってやつか?」
「いや、エドワウは陰気で暴力的な奴だった。リノとか、イオだな。あいつらとレースに出たり女遊びをしていた。リノは、士官学校で一緒だっただろ。ガルマも知っているはずだ」
「リノ? ああ。覚えてる。陰謀論とかオカルトが好きだった奴だ」
「そうだ。あいつはジオニズムとかニュータイプが好きだった。リノがヨーロッパ方面軍で死んだと聞いた時は悲しかったよ」
「どうしても、昔の友人の話ってのは湿っぽくなるよな」
ガルマは目頭を抑えた。
「愚痴になる。聞いてくれシャア。友人や家族を亡くす痛みは、連邦もジオンも知っているはずなんだ。だから、僕は連邦と共に歩もうとしたんだ。だが、ジオン国民はまだ、敵味方に痛みと憎悪を振り撒きたいらしい」
「ガルマはよくやったじゃないか。君以外にあの政局を乗り越えられた人物はいないだろう」
「ありがとう。友よ」
ブリッジで、小さく咳払いが聞こえた。
「えへん。えへん。げほっ。げほげほ。あの~。地球連邦軍から連絡官として出向してきました。ミリーナ・レビル中尉です」
ミリーナ中尉はふんすと薄い胸を張っていた。
「ガルマ・ザビ少将だ。サラブレッドの艦長とこの部隊の指揮官を務める。よろしく頼むよミリーナ中尉」
「シャア・アズナブル大佐だ。MS部隊の指揮官をしている。よろしく」
「ええ。よろしくお願いします」
ミリーナは理由は不明だが、非常に偉そうな態度を取っていた。中尉が、大佐や少将に向ける態度ではない。
「お二人って、距離が近いですけど、LGBTな感じなんですか?」
「違うな。ガルマ少将は妻帯者だ。私は、家庭を持つような人間ではないがな」
「違うぞ。中尉、君は本当に軍人か?? 失礼すぎないか?」
「えー、だってスペシャルなわたしがなんで、オールドタイプなおじさんたちに遠慮しなきゃいけないんですか?」
少しガルマは頭痛がした。シャアは、手元に届いていたミリーナ中尉の軍歴を確認した。それをガルマが覗き込む。
「16歳か……若すぎる。しかも、レビル大将の義娘?」
「出身はオーガスタか……ガルマ、連邦にも強化人間というのは居たらしいぞ」
「ああ。あの子たちと同じか」
ガルマとシャアは、グラナダの研究施設にいた子供たちを思い出した。子供たちは、シャアが責任を持って孤児院に入れ、今は健康に育っている。
「何をコソコソしてるんです? ははーん。ミリーナの可愛さに参っちゃったんですね。艦長と大佐はイケメンなので、許します。イケメン無罪です」
「ミリーナ中尉。君のその自信は、どこから湧いてくるんだ?」
「ミリーナは、ニュータイプなので予知とか予感ができます。MSの操縦も得意です! ルナツーのシミュレータではアムロさんの次です!」
「シャア、格の違いを教えてやれ」
ガルマがそう言うと、話を聞いていたアポリーやロベルトが、ミリーナを囃し立てる。
「やってやれお嬢ちゃん。大佐をボコボコにしろ!」
「大佐は女の子に甘いから勝てるぞ!」
「保護した子供がいる孤児院におもちゃを寄付したりするロリコンだぞ! 勝てるぞ!」
「やってやりますよ! 金髪のイケおじを
外野に煽られ、シャアとミリーナは、シミュレータで対戦することとなった。両者が、ジム・カスタムを選択する。シミュレータの起動直後に、仕掛けたのはミリーナだった。
ミリーナ機が、バーニアを全開にし、シャア機の背後を取る。
「もらいましたよ! なっ、避けた!?」
「甘い」
「ぐ、偶然です。避けられるはずがないです!」
「それだけか?」
「う、嘘です。こんなの早すぎます」
シャアのジム・カスタムは僅かな動きでビームを避けていく。はじめから着弾点が分かっているような動きだった。
「こちらからも仕掛けさせてもらう」
「にゃっ!? は? 撃墜? はぁーー!?? チートです! インチキです!」
「不正はしていない」
「だってこんなの、アムロ少尉と同じレベルですよ。おかしいですよ。ハイパーキュート強化人間のミリーナちゃんより、ニュータイプじゃないですか!!」
「気は済んだか?」
「全然。まだまだです」
シャアはミリーナをシミュレータ上でボコボコにした。彼女は連絡官であり、MSパイロットではない。そのことに気が付き、シャアが今やっていることの意味について考えはじめていると、ミリーナが泣き出していた。
「うぅ。ひどい。こんなのびどい゛…」
「嘘泣きくらいは見抜ける。見苦しいぞ」
「ゔぞじゃないもん゛」
シャアは泣き出した少女を、人目につかない場所へと連れて行った。
「痛い。頭突きをやめてくれ。君は子供じゃないんだ」
「ふん。知りません。えいえい」
シャアの苦手なものに、ミリーナの相手をすることが加わった瞬間だった。
ガルマと共にレビル将軍にこの件に尋ねると、レビル将軍は、好々爺といった表情をし、ミリーナが、オーガスタ研究所の生き残りであること。彼女をニュータイプであろうシャアに預けたかったことなどを白状した。