合体したセルポ星人を倒したのは良いが、ここで問題になってくるのはシャコ星人の生存が確認出来ないことだ。
あれはのちの展開で仲間になる以上に重要な役割を持つ。それは、このダンダダンの裏主人公である金太の主力武器となるナノスキンを持つルドリスとの橋渡しだ。
正直、俺がダンダダンを読み始めたきっかけは、友達が「金太がやべぇ!」って熱く紹介してくれたことなんだよな。俺の中では、ダンダダンのキャラの中で金太が堂々の人気ナンバーワンに輝いている。
アイツの特徴というか魅力を一言で語るとするのなら、肝心な時にだけ役に立つオタクという、中々に面白いギャップをついているキャラ立ちが気に入ったんだよな。
というわけで、なるべく殺さないように左右ではなく上下別れるように横一線で真っ二つにしたんだけど、あれで大丈夫だっただろうか?念押しであのシャコの手よりも上の位置で切ったけど、作中でもなんでシャコだけが生き残ったのか明言されてないから不安だ。
ただ、今の問題は……。
「つーか、新条!お前の中にいるソレって何なんだよ?」
「いや~、俺も詳しいことはさっぱり分からないというか……」
全身びしょ濡れになったせいで保健室で強制的に着替えさせられた後、綾瀬に詰め寄られている新条の方だろう。
俺自身があまり詳しい説明をしていなかったので、新条としてもなんと説明していいのか分らずに戸惑っている様子だ。
さて、ここで俺が出て説明するのもいいが、まずはこの世界がどういう世界なのかを冷静に把握する必要がある。
この世界がダンダダンの世界だとしても、俺という呪術廻戦要素が加わったことで、何らかの変化が起きている可能性は十分にある。
特に、呪術廻戦のキャラクターがこの世界に参入している可能性が考えられるが、その場合、俺が注意すべき人物は主に3人といったところだろう。
まずは何と言っても五条悟。指を19本取り込んだ状態でなければ、絶対に戦いたくない。いや、俺の実力では20本取り込んだ相手に勝てるかどうかも怪しい。領域展開も黒閃も修得していない今の状況で、しかも指を1本しか取り込んでいない状態では絶対に鉢合わせたくない。綾瀬にもし説明して、奴の祖母の元に案内されたなら、ワンチャン五条(存在するか不明)に連絡が行く可能性は十分にある。
2人目は乙骨憂太。彼のコピーの術式、底なしの呪力、戦闘センス、そして何よりも戦いにおける覚悟が完全に固まっている点が最も警戒すべきところだろう。
宿儺との最終決戦で見せた覚悟こそが最大の脅威であり、ただの読者である俺ですらゾクッとしたものだ。
3人目は羂索だ。戦闘能力もさることながら、知識量と頭の回転の速さが際立っている。さらにサイコパス的な精神性とゲスさが相まって厄介だ。それに加えて、両面宿儺を知っているというのもネックだな。
俺自身、頭がキレるタイプじゃないから、羂索がどんな行動を起こすのか、それに対処できるのかと聞かれたら、正直無理としか答えようがない。
そういうのも踏まえて、羂索にはなるべく会いたくはないな。
この3人が存在していた場合、どうにかして出会わないように立ち回る必要があるのだが、それを新条にどう納得させるかが問題だ。
奴にとって俺は昔の人間だから、現代の人間に注意しろと忠告しても「なんで?」と疑問を抱くだけだろう。それをうまく説明するベストな方法が思いつかないし、どうしたらいいんだ!?
俺は智略が得意なキャラじゃないってさっきも説明したんだがな。
(なあ、宿儺。どうしよう?俺、綾瀬さんになんて説明すりゃいいんだ?)
(とりあえず、煙に巻いとけばいいだろう。知らぬ存ぜぬ関わるなと言えば相手は勝手に離れていくだろうさ)
(いや、それじゃ俺がめっちゃ嫌な奴じゃん!!)
俺の提案に全力で拒絶する新条だけど、俺も中身は普通の人間だから、その反応には理解できる。
ただ、個人的には素直に受け入れてくれた方が正直嬉しいんだよな。
「おい、さっきから急に黙り込んでどうしたんだよ!」
「綾瀬さん。そんな風に急かされたら答えられるものも答えられませんよ!」
「テメェ、オカルンはどっちの味方だよ!!」
俺と新条が心の中で会話している間に、痺れを切らした綾瀬とそれを止めようとするオカルンでちょっとした喧嘩になってしまっている。
このぐらい2人の間ではじゃれ合い程度のやり取りなのだろうが、新条の目には自分が原因で喧嘩になったと勘違いしてしまったみたいだ。
「お、おい、やめろって!」
「うっせぇ!お前がそもそもの原因だろうが!!」
慌てて2人の間に割って入るが、普通に綾瀬に蹴飛ばされていた。
何やってんだまったく……。まあ、こういったワチャワチャした雰囲気は割と嫌いでないから存分にするといいって感じになるな。
「ああ、もう!埒が明かないから、宿儺!!ちょっと変わって!!」
うおっ!?急に主導権を変えられるのは心臓に悪いんだが!!
「ったく!小僧め、この俺を便利扱いするとは、不敬が過ぎるわ……」
「「「っ!!?」」」
ん?ああ、少し不機嫌を表現する為に呪力を垂れ流しにしたのが気に障ったのか。
いや、これは若干怯えているな。そりゃ、異能の力を持っているとはいえ、元はただの高校が指一本とはいえ、ラスボスの呪力に当てられたらそういう反応もするものか。
「さて、小童ども、この俺の正体を知りたがっているが、その覚悟はあるのか?」
「「「っっっ!!!?」」」
今度は一気に距離を取ったか。オカルンはターボババアにいつでも変身しそうだし、綾瀬やアイラは既に臨戦態勢か……。
漫画の登場人物とはいえ、ただの高校生にしては反応がいいのは高評価を付けれる。
「くっくっく、そう怯えるな。貴様らから攻撃せねばこちらも小僧に邪魔されて殺しは出来ん。安心するといい……」
余裕をアピールして両手を広げて攻撃するならどうぞ?と示すと、ようやく3人は臨戦態勢から警戒態勢に切り替える。
それでも敵意は消えてはいないが、これなら最低限の会話ぐらいなら出来そうだろう。
「さて、ここで俺からの提案だが、ここは互いに見て見ぬふりで済まさないか?」
「はぁ?そんなの信じられる訳ないだろ!?」
「確かに、お前たちの立場からすれば正体不明の敵かもしれん相手からのこんな提案など信頼には値せんだろうな」
一歩、それだけ足を動かしたと同時に、3人は再び臨戦態勢に戻る。
とはいえ、それだけで攻撃に移ることはない。ちゃんと線引きが出来ているのはますます高評価だな。
やはり、ジャンプラの最人気作品のキャラはちゃんとしている。
「っと、そろそろ会話は終わりのようだな」
体から入れ墨が消え、元の新条の状態に戻る。
「アイラ!大丈夫!?どーしたのいきなり!」
アイラの親友が保健室に入ってきたことにより、会話は強制終了となった。
俺もこの世界がダンダダンと分かって色々と考えたい事が出来たので、原作の宿儺が作ったような心象世界に引きこもることにした。
それを後悔することになるのは、1日も経たない頃だった。
「っで、なんでこうなっている、小僧?」
「いや、だから悪かったって!!」
「でいス!!」
俺が心象世界から出てみれば、新条の奴が傷だらけのシャコ星人を綾瀬の家に運ぶ手伝いをして、結果として星子の前に姿を出してしまっている。
今は寿司パーティーの最中のようで、新条がマグロを食っている最中に俺が出てきた訳だ。
いや、マジでぶっ殺されるかもって説明したのに、なんで敵の本拠地かもしれない場所に自分から出向いてるんだ?
オカルン、綾瀬、アイラはちゃんとしていたというのに、この新条という奴は低評価だな。
「しっかし、オメェさん、初めて会った時も度肝抜かれたが、こうしてあの両面宿儺と堂々と会話してるのを見る限り、マジで制御下に置いてるのもビックリだぜ」
なにやら特徴的な招き猫が俺──いや、新条の元に寿司食いながらやって来た。
こいつ、ターボババアか!?まあ、立って喋る招き猫なんてターボババアしかいないし、そうとしか考えられないのだが、この言い方だと両面宿儺の事を知っているのか。
っていうか、俺の正体知られちまってんじゃねえか。
(おい、一体どういう経緯で俺の正体を知られた──?)
(いや~、それは……)
新条の記憶がぼんやりと浮かび上がってくる。同化した影響なのかと驚いている間に、頭の中で当時の記憶が再生され始める。
新条が綾瀬の家にシャコ星人を運び込み、治療を施している最中、出迎えた星子とターボババアが新条を見て目を丸く見開いて驚いていた。
「おいおい、桃テメェ!トンデモねえ奴を家に入れやがったなチクショウがぁ!!!」
ターボババアが綾瀬に飛び蹴りをかますが、綾瀬がそれを受け止めて喧嘩が始まる。
シャコ星人の怪我は包帯を巻いただけで、治療もすぐに終わったが、問題となる新条は正座させられて取り囲まれていた。
「それで、婆ちゃん。こいつに取り憑いてるのなんなわけ?」
「オメェ、そんな事も知らずに家に招き入れやがったのか?」
呆れる星子は懐から札を取り出し、新条に近づける。しかし、その札は貼り付けられる直前、紫色の炎を上げて燃え尽きてしまった。
「うおっ!今の何ぃ!?」
「そりゃ、こいつの纏ってる邪気が札を燃やしちまったんだよ」
札が燃えたことに驚く綾瀬に、冷静な態度を崩さない星子は新条の異常な状態を説明する。
タバコをふかしながら、星子はお手上げだとばかしにバンザイして縁側でふて寝する。
「んだよ!結局のところ、コイツの中にいるのはなんなんだよ!?」
「はぁ~、おい、ターボババア、桃に説明してやれ。私よか、お前の方がソイツの中にいる化け物の事、知ってるだろ?」
「クソだらぁ、な~んでワシが態々そんな説明せにゃならねえんだ」
「コイツらが下手に暴走して、ソイツの中にいる奴を怒らせてもいいってんなら、ワシは別に構わんがな……」
「ぐぬぬぅ~~~──っ!!」
プライドと今後の面倒事を考えて、渋々ながらターボババアは説明し始める。
「コイツの纏っている邪気、ワシが知るなかでここまで邪悪なモンを発せられる怪異なんざ1つしかねえ、怪異全盛の時代、あらゆる魑魅魍魎の頂点に立った呪いの王──両面宿儺さぁ」
渋々といった感じで腕を組みながら説明するターボババア。
とはいえ、その説明は綾瀬たちには理解できない内容だった。正直、怪異全盛の時代だなんだと言われてもピンとこず、スケールが大きすぎて現実感が湧かないのだ。
しかし、新条だけは目を見開いているのを見るに、その説明は間違っていないのだろう。
「テメェのその反応。どうやら、テメェの中にいるのは両面宿儺でほぼほぼ確定みたいだな……」
「いや~、あっはっはっは……!」
「おい、こら!笑ってねえで正直にゲロっちまえ!!」
「ぐふっ!」
「ちょっ、綾瀬さん。だから暴力はいけませんってぇ!!」
「こら、綾瀬桃!私の目の黒いウチはあんたの狼藉は許さないんだから!!」
「テメェらはどっちの味方だよ!!!」
綾瀬が無理矢理に新条の首元を掴み上げ、オカルンとアイラがそれを止めるが、2人の制止も聞かずに新条を締め上げていく。
「おい、その辺で止め時な、モモ」
縁側で寝転んでいた星子だが、顔だけを新条たちに向けながら、静かに告げる。
「そうだな。星子の言う通り、そこらでじゃれ合いはストップだ。言ったろ、ソイツの中にいるヤベェ奴の話はよぉ~……」
「やべぇって言われても……。その呪いの王とかいうの、婆ちゃんでもどうにもならない系なわけ?」
掴んでいた新条の首元から手を離し、星子に問いかける。
「まあ、ぶっちゃけ、ワシも両面宿儺の事に関しては詳しくは知らん。古文書みたいなのに書かれているのを読んだぐらいで、大昔の化け物だってのと、封印されて20の指に分けられてるって事までだな」
「おう、その認識で間違いはねえな。ただ付け加えるなら、その大昔に星子並みの霊媒師が束どころじゃねえ、軍隊ぐらい雁首揃えてようやっとこさ封印出来た怪物よ」
「えっ?マジで!?」
「マジもマジ、大マジよ!言っただろ、怪異全盛の時代だって。そいつは言い換えれば霊媒師共にとっても力のあった時代ってことよ。その時代の頂点の存在だぜ、この妖怪の存在も薄れている時代の霊媒師程度じゃ、まず勝ち目はねえよ」
「あのターボババアがここまで言うなんて……」
まさか、自尊心の高いターボババアがこんなに真剣に語るとは予想外だった。それだけにオカルンと綾瀬はただ驚くばかりだった。
「こいつ、やっぱしそれだけ凄え奴なんだ……」
「そもそも、オメェはなんで両面宿儺を宿して無事で済んでんだぁ?」
「あっ!そうですよ!!ジブンもターボババアに呪われた際は全然制御出来なくて暴走してたってのに!?」
確かにオカルンも呪いを受けた時に暴走していたが、今の新条はそんな素振りは一切見せてはいない。
それはつまり、両面宿儺を新条の制御下に置いていることを意味しているのだ。
「なんでって言われても、俺の身体だし勝手すんなって念じたらこう、なんとなく?」
「けっ!随分とふわっとした答えだな、このファッキンボーイがぁ!!!」
「あっ!今は足蹴んないで!!!」
曖昧な返答にターボババアは舌打ちをしながら、小さな足で正座している新条の足を蹴った。
正座のせいで痺れていたのだろう、ゴロリと転がって悶える新条を見て、星子が指をさして笑い出した。
「テメェ、まだ両面宿儺がどんだけやべぇ存在かまだ自覚が足りてねえみたいだな」
「いや、なんとなく理解したよ。つまり、昔の凄い人達が大勢でなんとか封印したぐらいヤバイ存在なんでしょ?」
「なら、その封印された指の脅威はどうだ?」
「指の脅威……?ああ、そういえば、あの指の封印解いた時に呪霊が沢山湧いて出てきたな~」
「ん、ちょっと待て?封印を解いたって言ったか、オイ?」
最後の一言に引っ掛かった星子が、目を鋭くさせて新条を睨みつける。
綾瀬とオカルンも急に雰囲気が悪くなった星子に戸惑うが、ターボババアは新条の発言に驚愕していた。
「おい、このファッキューサノバビッチ!!!テメェまさか、自分から両面宿儺の封印を解いたってのか!!?」
「………………申し訳ございません」
そう言って深々と土下座する新条に、ブチ切れた星子とターボババアが容赦なくその後頭部を蹴り飛ばす。
ボコボコにされながらも、自身が肝試しで封印を破ったことが悪いと自覚しているため、抵抗することなくその仕打ちを受け入れる。
「さて、このボケカスへの仕置きはまた今度にして、これからオメェさんをどうするかだが……」
「あの、俺ってもしかして殺されたりだとか……?」
「けっ!それが出来んなら、ワシが真っ先にテメェみてえなドブカスをこの世からグッバイさせてやんぜ!!」
「出来んならって、それって新条君を殺せないってことなの?」
ターボババアの殺せないという発言に、同じクラスメイトであるアイラは少し安心したように聞き返す。
そんなアイラの質問に対して、星子が代わりに説明する。
「まあ、本来なら殺した方が安全だろうけど、そいつがどういうわけか、両面宿儺を封じ込めている檻みたいになっているこの状況で、下手にその檻となっているコイツを殺したら、中身の両面宿儺が飛び出す可能性があるからな」
その説明に、少なくともすぐには殺される心配はないのだと安心して新条とアイラはほっと一安心する。
だが、そこに釘を刺すかのようにターボババアが2人を睨みながら、新条を指さして告げる。
「それでも油断は出来ねえぜぇ。なにせ、両面宿儺の封印は解かれちまった。その影響で、全国各地で封印された残りの19本の封印も解けちまうかもしれねえからな」
「そうなれば、目覚めた両面宿儺の元に集まろうと指が動き出すかもしれねえからな」
「指が勝手に動くってのか!?」
「バァカぁ!違えよ、正確には指の霊気に当てられた思考能力ゼロの低級霊が操られっちまうってことを言ってんだ」
新条の疑問にツッコミを入れつつ補足説明をするターボババア。
つまり、封印された指を解放したことで、他の19本の指も動き出してしまう可能性がある、ということだ。
「こりゃ大事だぜ、平安時代から今日まで無事に封印され続けられてた両面宿儺が動き出しちまったんだからな」
「そ、そんなに大変なことなんですか?」
オカルンがそう尋ねると、ターボババアは神妙な顔つきで答えた。それは、新条たちの想像を超えた深刻な事態を示唆していた。
「そもそもの話、両面宿儺ってのは人間も妖怪も触れちゃならねえタブーなんだよ。それが何故だか分かるか?」
「そりゃ、両面宿儺が危険な存在だからじゃねえの?」
「確かに、人間にとっちゃ両面宿儺は生きた天災以外の何物でもねえ。だが、妖怪にとっちゃ封印されている強力な呪いの力なんて人でいうところの財宝ぐらい価値のあるもんだ」
ターボババアはドカッと縁側に腰を据えて、話を続ける。
「てめえらも覚えちゃいるだろ。ワシに最初に会ったあのトンネル。あそこにいる地縛霊とワシが合体してトンデモねえ強さになったのをよぉ!」
「そりゃ、勿論、忘れる筈がありませんよ!!」
「んで、ウチらがババアに勝ったんだよな」
「上等だあくそだらぁぁ!!!そこの小僧の前にてめえをファッキューさせてやんぜ!!!」
売り言葉に買い言葉で、2人が喧嘩に発展する前にオカルンが止めに入る。
「お前らいつもそんな感じなの?」
「まあ、いつも通りといえば、いつも通りですかね」
疲れた顔つきのオカルンから日頃の苦労を察せられる。
「っで、さっきその猫が言ってた合体ってどういう意味?」
「意味もなにも、文字通りの合体よ。ワシの霊気とトンネルにいた地縛霊の霊気が合わさる事で、誰も敵わねえ妖怪になってたのさ」
「えっ、でもさっき負けたみたいなこと言われなかった?」
「っっっ!ありゃ負けたんじゃね、ガキ共が卑怯な手を使ったからだな──!!」
「いや、それ負け惜しみじゃん……」
新条は呆れた目でターボババアを見るが、その目はどこか優しげだった。
「んでだ。ワシと地縛霊の合体でトンデモねえ強さになったわけだが、両面宿儺の指を取り込めばもっと強くなれてた。でも、ちょっとでも考える知恵のある妖怪ならそんな指を取り込もうとは考えねえ。何故だか分かるか?」
「えっと、それは……?」
「答えは簡単さ。呑まれっちまうからだよ」
答えに言い淀む新条に、ターボババアが低い声で答える。
呑まれるという答えに、新条は首を捻るが、オカルンはそういった経験があるために、呪い側が呑まれてしまうほどの呪いに恐れを抱く。
「おい、そろそろ、あの河童が目を覚ましそうだぞ?」
布団に寝かしつけていたシャコ星人が目覚める気配を感じ取った星子の一言に、全員の視線がシャコ星人へと向けられる。
確かに、なにやら寝言を呟いており、そろそろ目覚めそうな気配がしていた。
そうして、両面宿儺の危険性の説明会は終わり、原作通りの流れで今の寿司パーティーならぬ寿司争奪戦に至ったという訳だ。
(貴様、迂闊にも程があるぞ。敵の本拠地やもしれん場所に自分からノコノコと足を運ぶとはな……)
(うっ、しょうがねえじゃん。綾瀬さんがあの宇宙人を家に運ぶっていうから。女の子2人に運ばせる訳にはいかないだろ。オカルン1人でも無理だし、手伝うのが普通だろ?)
こいつ、本当に姿だけ違う虎杖みたいな奴だな。
「それで、こうなってしまったのなら仕方あるまい。改めて、自己紹介の必要はあるか?」
「おう、ヒトん家に来て挨拶もなしで寿司食おうなんざ、たとえお天道様が許してもこのワシは許しぁしねえ!」
「ちょっ!何言ってんですか、あんた!?やっぱしイカレてんだろ!!」
あれ程までに両面宿儺への危険性を問うていた星子が、いざ本人を目の前にして上から目線で文句を垂れる。
それを目にしてオカルンが全力でツッコミを入れる。
「くははは!中々に気概のある女だな。そういった女は嫌いではないぞ」
「はっ!ワシを口説くなら自分の体と口を持って来てから口説いてきな!!」
「わっひゃっひゃっひゃ!!!!」
両面宿儺を相手に啖呵を切る星子を見て、ターボババアが腹を抱えて笑い転げるが、そのやり取りを見ているオカルン、綾瀬、アイラの3人は口をポカンと開けて呆けた様子で、星子を見る。
「さて、存分に笑わせてくれた礼だ。俺の名は知っての通り、両面宿儺。貴様らの言う呪いの王で相違はない」
「ほお、ならこっちも自己紹介してやんよ。ワシの名は綾瀬 星子。この時代の霊媒師だ。妙な真似しやがったら遠慮なくぶっ潰すから覚悟しておけよ!」
宿儺に対して、中指を立てて釘を刺す星子に見ていた皆の背に冷や汗が流れるが、当の本人はそれを受けて上等だと笑って受け流していた。
その後、宿儺も交えて寿司パーティーが再開され、シャコ星人の家族事情も聞いた後に星子が解決案を出して事態は収拾した。
「それじゃ、新条つったか。今後テメェの周りで妙な事が起きたらまず真っ先にウチにやって来い!いいな!!」
「えっ、いいんすか?そんな迷惑掛けるみたいなことしちゃって?」
「迷惑もクソもぉ!テメェが両面宿儺の指食った時点で、こっち側としちゃ大迷惑なんだよ!!」
「ああ!すみません!!」
帰り際に玄関まで見送りに来た星子からいつでも相談するようにと言われ、新条が遠慮がちに首を傾げると、星子が蹴りを飛ばしてきて、それを新条は謝りながら受け止めていた。
「それじゃ、失礼しま──っ!?」
そんなこんなで、全員が自宅に帰宅しようと玄関の扉を開けた途端、そこには見知らぬ男が立っていた。
「えっと、どちらさんですか?」
「いや、そっちこそ誰?ここ綾瀬さんの家だよね?」
「おっ、来たのか。お前えの母親からは聞いてるぜ」
新条は見知らぬ男に対して警戒するが、星子がその男に気付くと親しそうに声を掛けた。
どうやら2人は顔見知りらしく、男がこちらに近付いてくると今度は綾瀬が声を掛ける。
「えっ、ジジ!?」
「もしかして、モモ?」
新条を挟んで2人の幼馴染が久方ぶりの再会を果たす。
(なあ、これって俺邪魔じゃね?)
(貴様など目に入らんくらいに感動の再会を果たしてるようだし、自意識過剰だな、ケヒッ!)