まあ、番外編という感じで…。
同一HNでpixivにも投稿済みです。
俺の名はリュウ、サンゴッド3のパイロットだ。
サンゴッド3ってのは、超合体戦闘ロボ・サンゴッドVの3号機。
俺はこのサンゴッド3を駆り、三重県の平和を守るため、日々命を賭けて戦っていた…戦っていた。
「四日市コンビナートに、怪獣が接近中…サンゴッドV、緊急出動…サンゴッドV、緊急出動…。」
この日も俺たちの基地、三重科学防衛研究所に警報が鳴り響いた。
サンゴッド1を駆るタケル、サンゴッド2を駆るカオリ、そしてサンゴッド3を駆る俺は、開けた丘の上に建てられた秘密の基地から出動した。
タケルのサンゴッド1は大鷲のように大空を飛び、カオリのサンゴッド2は虎のように大地を駆けた。
そして俺のサンゴッド3は…濡れないように、干潮時を狙って波打ち際を行った。
…どうにも腑に落ちねえ…。
サンゴッド1とサンゴッド2が合体!
二つのマシンが一つになって、超合体戦闘ロボ・サンゴッドVの登場だ!
そして俺のサンゴッド3は…必然的に一台余った…。
…やっぱり…どうにも腑に落ちねえ…。
この日もサンゴッドVは、激しい戦いの末に怪獣を撃退し、四日市コンビナートを護りきった。
俺たちが基地へ帰ると、博士…三重科学防衛研究所の所長・サイモン益田博士が、格納庫で俺たちを出迎えた。
「いやあよくやってくれた、タケル君、カオリ君!これでまた三重県の平和は守られたよ!」
「博士!今日はカオリが本当に大活躍してくれました!今日のMVPは、カオリで決まりです!」
「そんな、タケル!あなたがいてくれなかったら、私なんて!」
「カオリ!」
「タケル!」
益田博士に誉められて、照れながらも抱き合うカオリとタケル。
「おお?見せつけてくれるのう?やはり、若いというのは良いものじゃのう。」
益田博士が二人を囃し立てると、その場に集まった研究所員たちも一斉に二人を囃し立てた。
…そしてこの場で、俺に声をかけるヤツは誰も居なかった。
腑に落ちねえ!腑に落ちねえッ!
「あああああああああああ!」
この日の夜も、俺は人気の無い公園を駆けた。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
この日の夜も、俺は五寸釘を藁人形に打ち込んだ。
体の奥底から溢れ出る怒りと憎しみに駆り立てられて、俺は五寸釘を藁人形に打ち込んだ。
死ね!死ね死ね死んじまえ!
タケルも、カオリも、益田博士も、研究所のヤツらも!
俺の、この怒りと憎しみに呑まれて!悶え苦しんで死んじまえッ!
この日の夜も、俺はひたすら藁人形に五寸釘を打ち込み続けた。
こうして、俺のいつも通りの一日が過ぎていった…。
別の日。
その日は怪ロボットが出現して、鈴鹿サーキットに接近していた。
そしてサンゴッドVは、この怪ロボットを撃退・撃破するために出撃した。
俺のサンゴッド3もサンゴッドVに付いて、戦いの場に赴いた。
サンゴッドVは、タケルとカオリは、例によって激しい戦いの末に怪ロボットを追い詰めた。
劣勢になった怪ロボットはその場で空に上がり、そのまま何処かへ飛び去ろうとした。
サンゴッドVは、タケルは逃げようとした怪ロボットを追いかけようとした。
「くっ!逃がすものか!…追うぞ!カオリ!」
「ええ!追いかけましょう!」
…そのとき、益田博士からの通信が入った。
「待て!タケル君、カオリ君、追わなくても良い!」
「えっ!何故ですか博士!今、ヤツを逃がしたら!」
「大丈夫だ…タケル君、カオリ君、あとついでにリュウ君、ひとまず研究所に戻ってくれたまえ。」
何故か益田博士は、怪ロボットを追いかけようとしたサンゴッドVを止め、研究所に戻るように指示してきた。
タケルもカオリも納得がいかない様子だったが、サンゴッドVとサンゴッド3…俺は、指示通りに研究所に戻った。
研究所の司令室では、益田博士が俺たちを待っていた。
司令室に入るなり、タケルは博士に抗議した。
「博士!あと一歩でヤツを撃破できたのに!どうして戻って来いなんて言ったんですか!」
タケルの抗議を受けて、益田博士は…。
「うむ…まずは、モニターを見てくれ。」
司令室のモニターには、どこか山の中の様子が映し出されていた。
そのまま見ていると、さっき逃げ出した怪ロボットがモニターに現れた。
怪ロボットが現れると、山の斜面に擬装されていたゲートが開いた。
どうやらこの山は、怪ロボットのアジトらしい。
「は、博士、これは…!」
「うむ、まあ、見ていたまえ…。」
この時、司令室の天井から塵が落ちてきた。
司令室自体も、ちょっと揺れたような気がした。
タケルとカオリはモニターに集中して、気づかなかったようだが…。
モニターで、怪ロボットがアジトのゲートに進入しようとした、その時!
アジトと、アジト周辺の地面が突然爆発した。
いや、爆発したと言うより、どこかから砲撃を受けたらしい。
突然の砲撃と爆発によって、怪ロボットとそのアジトは、完全に破壊されてしまった。
そしてモニターは、怪ロボットとアジトの最期を、確りと映し出していた。
モニターに映し出された光景を見て、タケルとカオリは言葉を失っていた。
言葉を失った二人に向かって、益田博士は語りかけた。
「…この通り、今回出現した怪ロボットは、アジトもろとも完全に撃破された。」
「は、博士、それはわかりましたが…あの砲撃は一体…それに何処から…?」
「うむ…もう少し待っていたまえ。」
益田博士の言葉通り、タケルとカオリ、そして俺が待っていると、司令室のドアが開き、女が一人入ってきた。
灰色の軍服風のシャツの上から、濃い灰色の陣羽織のようなものを羽織った、褐色肌・銀髪の女だった。
司令室に入ってきたその女は、とにかく背が高く…たぶん2メートルはあった。
その巨体は俺を、そしてタケルとカオリも圧倒・威圧した。
女は俺、タケルとカオリをちょっとだけ見ると、俺たちに一礼して益田博士の前に進み出た。
そして女は、益田博士に話しかけた。
「ご依頼の件、これで完了した。」
「…このモニターでご覧になっていたようだが、何か不備などはなかったか?」
「いや、この通り問題の怪ロボットもアジト…運用施設も完全破壊された。」
「こちらの依頼は完遂されたと判断するよ。」
女と益田博士のやりとりを聞いて、タケルが口を開いた。
「博士、今のアジトへの砲撃は、彼女の…武蔵の砲撃だったのですか?」
司令室に入ってきた女は、艦娘・戦艦武蔵だった。
益田博士は、タケルの質問に答えた。
「うむ、その通りじゃ。」
「そうですか…でも、なぜ今回は武蔵を投入したのですか?」
「それはな…。」
タケルの質問に答えようとした益田博士を制して、武蔵が話し始めた。
「お初にお目に掛かる…私は見ての通り、艦娘・戦艦武蔵…通り名を黒鉄武蔵と謂う。」
「海神警備・岩川台営業所に所属する艦娘だ。」
「今回、海神警備は<委員会>からの依頼を受け、怪ロボットとその運用施設の完全破壊を請け負った。」
「そこで三重県に派遣されたのが、私・黒鉄武蔵というわけだ。」
「<委員会>の依頼?」
タケルが呟いた。
<委員会>というのは、三重科学防衛研究所の上部組織だ。
三重県全域防護特別法とか言う法律に基づいて設置された組織で、スゴイ権限を与えられた組織…らしい。
でも俺たちは、<委員会>については、スゴイ権限を持ったエライ人たちと言うことしか知らない。
武蔵は話を続けた。
「…まあ、これだけでは色々疑問もあると思う。」
「怪ロボット運用施設の位置が特定されていたのなら、敵が怪ロボットを出す前に攻撃すべきではなかったのか、とか。」
「三重県にも大和や武蔵はいるのに、何故わざわざ県外から私を呼び寄せたのか、とか…な。」
「だが生憎、私もあまり詳しいことは知らされていない。」
「私から言えることは」
「ここから、あのタイミングで怪ロボット運用施設を砲撃し、完全破壊することが私の仕事だった」
「…と、言うことだけだ。」
結局、この日突然武蔵が現れたのは、それが<委員会>の判断だったから、ということしかわからなかった。
この時の俺には、誰が怪獣や怪ロボットを撃破するか、なんてことはどうでもよかったんだが。
武蔵は俺、カオリ、タケルを確かめるように見回すと…。
「…ところで、皆さんはパイロットスーツのような服を着ておられるが」
「もしかして皆さんは、話に聞くサンゴッドVのパイロットなのか?」
そういえば、この武蔵は自己紹介していたのに、俺たちは自己紹介をしていなかった。
それに気が付いたのか、先ずはタケルから名乗りを始めた。
「あ、ああ、俺はタケル、あなたの言う通り、サンゴッド1のパイロットだ。」
「私はカオリ、サンゴッド2のパイロットです。」
「…俺はリュウ…サンゴッド3の…パイロットだ…。」
俺たちの(簡単な)自己紹介を聞くと、武蔵は…。
「サンゴッド…3?」
「サンゴッドVに、3号機なんてあったのか。」
3号機なんてあったのか。
3号機なんてあったのか。
3号機なんてあったのか。
…
この後のことで俺が覚えていたことは、二つしかない。
まず司令室にあった椅子を持って振り上げたこと。
そして振り上げた腕を掴まれて、武蔵と目を合わせたことだ。
俺は医務室のベッドの上で目を開けた。
「気が付いたか。」
ベッドの上で身を起こすと、ベッドの傍で武蔵が座っていた。
武蔵は…身を起こした俺に頭を下げた。
「すまなかった。」
「…すまなかった、って…何だよ…。」
俺が聞くと、武蔵は答えた。
「初対面の人間と、その仕事について」
「3号機なんて、などという言い方は、確かに礼を失していた。」
「…私としたことが、とんだ失言だった。」
「本当に、申し訳ない。」
ここで俺は、武蔵の「3号機なんてあったのか」という言葉にキレて、暴れて、武蔵に取り押さえられたことを思い出した。
武蔵は「3号機なんて」という言葉について謝っていたが、俺の気分は晴れなかった。
と言っても、武蔵を許せなかった、わけじゃない。
「やめてくれよ…。」
「3号機なんて、か…」
「確かにサンゴッド3なんて、俺なんて、その程度のモンなんだ…。」
自分をディスった俺に対して、武蔵は…。
「軽々しくそんな言い方をするものではない。」
「…重要であるにも関わらず軽く見られがちな業務は、確かにある。」
「例えば、兵站とか…な。」
「この点でも、私の言葉は軽率だった。」
「武蔵…あんた、俺が、サンゴッド3が、縁の下の力持ちだと思ってんのか…?」
「じゃあサンゴッド3の実物をを見ても、同じことが言えるか?」
「…見せてやるよ、俺の、サンゴッド3を…。」
「来てくれ。」
俺はベッドを降りて、武蔵を格納庫に案内した。
格納庫に着いた俺と武蔵は、サンゴッド3の前に立った。
サンゴッド3の実物を前にして、武蔵は…。
「私は海のもの故、戦車や装甲車については素人だが…これは…。」
「…屋根にサンゴッドVの頭部が取り付けられているようだが、これには何か意味があるのか?」
「優れた
俺は武蔵の質問に答えた。
「そんな意味なんかねえよ。」
「全く意味不明の、デコレーションってヤツだ。」
「俺はサンゴッドVが出撃する度に、わけのわからねえデコレーションを乗っけた車で、怪獣やら怪ロボットやらが出現した現場に、楽しくも何ともねえドライブをしているってわけだ。」
「本当にサンゴッド3には、何の役割も意味もありゃしねえ…囮にも盾にも、ただの案山子にだってなったことがねえ。」
「意味も役割も無く、ただそこに居るだけ…それが俺の乗機、サンゴッド3なんだ。」
「笑いたきゃ…笑えよ。」
俺の内側から、また怒りと憎しみが湧き上がってきた。
その時、武蔵は俺に質問した。
「リュウ、ここ…三重科学防衛研究所では、給料の不払いや遅配はあるのか?」
「?…いや、給料は毎月確かに支払われてるが…。」
「そうか、なら取り敢えず、その給料は貰っておけ。」
「…俺は、仕事らしい仕事なんてしてねえんだぜ?」
「確かに仕事らしい仕事をしていない者に給料が支払われるのは問題だ。」
「だが、少なくとも話を聞く限りでは、それは別にお前の所為ではない。」
「だから研究所が給料を出してくれると言うなら、それは貰っておけ。」
「そして貰った給料は、後々のことに備えて蓄えておくことを奨めておこう。」
「…後々のこと?」
武蔵の話は続いた。
「それから…お前が研究所で勤め始める時に研究所から渡された書類を、目の届く所に出しておけ。」
「まあこれは無いと思うが、紛失していたら、研究所に再発行を要求するように。」
「書類の確認、確保が出来たら、所長…益田博士に談判するのだ。」
「談判って?」
「談判の場で、お前が言うべきことは…」
「自分も三重県の平和を守るために働きたい、戦いたい。」
「結局サンゴッド3の役割は何なのか、教えてもらいたい。」
「…この二つだ。」
「まあおそらく、博士からマトモな回答は返ってこないだろう。」
「肝心なことは、この談判でのやりとりを確りと録音しておくことだ。」
「マトモな回答は返ってこない?」
「それじゃあ何で…。」
「繰り返すが、肝心な点はそのやりとりを録音しておくことだ。」
「そしてこれは、お前に働く意志が、戦う意志がある証拠を残しておくためだ。」
「ところで…お前は出撃した時、博士なり研究所のスタッフなりから、行動について細かい指示を出されているのか?」
「…いや…ただ、あいつら…タケルとカオリに付いて行って、何をするでもなく現場に居るだけだよ…。」
「なら、これから出撃した時は、できるだけサンゴッド3の姿を人目に晒すように動け。」
「え?それは…何で?」
「サンゴッド3の存在意義の無さ、わけのわからなさを、人々の目に証拠として残すためだ。」
「録音された益田博士とのやりとりを併せれば」
「これらは、お前に働く意志、戦う意志があるにも関わらず、研究所がお前を不当に扱っているという証拠になる。」
「あ…。」
「…それで研究所の、お前に対する扱いが改善すればそれで良し。」
「改善しなければ、あるいは更に扱いが悪くなれば…。」
「録音されたやりとりと、用意した書類を持って、法律事務所なり法テラスなりへ駆け込め。」
「そこで弁護士に相談すれば、何か手を打ってくれるだろう。」
…俺は今まで何をしていたんだろう?
気に入らねえことがあるなら、それに対してすることや出来ることはあったのに。
人気のねえ公園で、藁人形に五寸釘を打ち込んでも仕方なかったのに。
俺は今まで、何をしていたんだろう?
俺は武蔵からの提案を実行すると心に決めた。
俺と武蔵は、格納庫を出た。
格納庫を出た所で、また俺の体の奥底から怒りと憎しみが湧き上がってきた。
…タケルとカオリが…廊下の真ん中で、またイチャついていやがった…。
「どうしたんだ?」
突然武蔵に声をかけられた。
急に声をかけられて、俺は裏返った声で応えた。
「?ど、どうしたって…な、何だよ?お、俺はどうもしてねえぜ?」
「どうもしていない?…お前から尋常でない殺気…憤怒と憎悪の気が溢れているが?」
「何だよ、憤怒と憎悪の気って…あんた、武道の達人か何かなのかよ…。」
「お前の憤怒と憎悪を感じるのに、特別な能力など必要ない。」
「今のお前が、私の地元…N駅の駅前に立てば、異常を感じた通行人が警察か消防に通報するだろうな。」
「…いや、その前に、駅前が大混乱に陥る方が先か…。」
「今、お前から溢れている憤怒と憎悪の気は、それほどまでに凄まじいものだぞ。」
そんなことってあるのか?
大体、憎しみの気とか波動とか、マンガの中だけのモンじゃないのか?
俺がそう思っていると、武蔵も俺たちの前でイチャついているタケルとカオリの姿を見ていた。
「あの二人、男女の仲になっているようだが…。」
「…もしかして、このことがお前を怒らせているのか?」
「そんなんじゃ…!」
ねえよ、と言いかけて、止めた。
たぶんこの武蔵には、ゴマカシや強がりは通用しねえ。
「…そうだよ…。」
「あんたも気づいてる通り、俺ァここの…研究所のヤツらにはのけ者にされてる。」
「あいつら…カオリとタケルは、サンゴッドVのパイロットとして共に戦い続けるうちに、距離を縮めて付き合いはじめた。」
「対して俺には誰も居ねえ。」
「俺は研究所のヤツらからのけ者にされてる。」
「そしてカオリとタケルも、同じサンゴッドVの…サンゴッド3パイロットである俺を、のけ者にしていやがるんだ。」
武蔵は俺が吐いた毒を聞いてから…。
「…繰り返しになるが、お前が今放っていた憤怒と憎悪の気は凄まじいものだ。」
「あの二人も、研究所のスタッフも、どうしてこの凄まじい気を見過ごしていられるのか…。」
武蔵はここで一度言葉を止めて、また続けた。
「…ところでリュウ、そもそもお前、サンゴッド2のパイロット…カオリさんとはどういう関係なんだ?」
「どういうって…俺もカオリも三重科学防衛研究所の一員で、サンゴッドVのパイロットだよ。」
「いや、そうではなくてだな…」
「幼馴染みだったとか、以前から…中学・高校時代から好きだったとか」
「そういった類の逸話は無いのか?」
「無えよ。」
「俺とカオリは、三重科学防衛研究所に勤め始めてから知り合ったんだ。」
「そうか…」
「なら、サンゴッド1のパイロット、タケルとはどうだ?」
「昔から何をやってもあいつには敵わなかったとか」
「逆に小学生の時は自分の方が勉強もスポーツも出来たとか」
「そういった類の逸話は無いのか?」
「それも無えな。」
「タケルともここに勤め始めてから知り合った。」
「そうか…ならば…」
「…お前にとって、カオリさんはどうでもいい女だし、タケルはどうでもいい男だということになるな。」
「…!?」
「ど、どうでもいいって…!」
「だって一応あいつら、俺の仲間で…!」
「だがお前とあの二人の間には、良い思い出も無ければ、悪い思い出も無いのだろう?」
「言い換えれば、お前はあの二人に対して何も思い入れが無い。」
「それに仲間とは言っても、サンゴッドVの仕事は」
「…言い難いが、お前がいなくても成り立つ仕事だ。」
「仕事の上でも、お前とあの二人との関係は希薄だと言わざるを得ない。」
「もう一度言うが、あの二人はお前にとって全くどうでもいい存在だ。」
「(まあ、戦闘中に目の前で戦死されては流石に困るだろうが…。)」
「どうでもいい二人が付き合おうがどうしようが、それはお前にとって全くどうでもいい話だ。」
「お前の、あの二人に対する憤怒も憎悪も、全く無意味な感情だ。」
「…確かにカオリさんは佳い女だ。」
「だがちょっと人通りの多い所に出て、周りを見渡してみれば」
「佳い女は何人でも見つかる。」
カオリだけが女じゃ無い。
いい女なんていくらでもいる。
この時の俺には、武蔵の言ったことが安っぽい気休めに思えた。
それで俺は武蔵に反発しようとしたが…。
「これは気休めなどではない。」
「歴とした事実だ。」
そんな気休めなんて聞きたくねえよと言おうとしたら、気休めではないと言われてしまった。
…武蔵に心を読まれたような気がして、俺は出そうとした言葉を詰まらせてしまった。
「お前が電車通勤をしているのなら、今日、帰りの電車の中で周りを見渡して見ろ。」
「カオリさんぐらいの佳い女なら、四、五人は見つかる。」
「そして電車を降りて、改札口を通って、駅を出るまでの間にすれ違う女、あるいはお前を追い越していく女に注意して見ろ。」
「すれ違う女、追い越していく女の三割は佳い女だ。」
「…そしてこの四、五人とか三割とか言う数は」
「これから先の人生で増えることはあっても、減ることは無い。」
まくし立てられて、俺は反発出来なかった。
…武蔵って、こんなによく喋る艦娘だったのか?
そう思っていると…。
「ああそうだ、そう言えば…今お前の目の前にも、一人居るな。」
…確かに武蔵はいい女だ。
だが、この流れでこう言われても、俺にはからかわれているようにしか思えなかった。
そこで俺はようやく武蔵に反発した。
「…確かにカオリだけがいい女じゃないだろうよ。」
「でもなあ!周りにいい女が居るからって、それが何だって言うんだよ!」
「あんただって確かにいい女だけどよぉ!」
「じゃあ、あんた、俺と付き合ってくれるって言うのかよ!俺にヤらせてくれるって言うのかよぉ!」
「ヤらせる、というのはセックスのことか?」
「決まってんだろぉ!?」
「それぐらいなら構わんぞ。」
「!?」
「まあ流石に今すぐここで、というわけにはいかんが…」
「…いや、そもそも今日は無理か…。」
「日取りはお前の都合に合わせよう。」
「都合の良い日を教えてくれ。」
「え?え?」
戸惑う俺をよそに、武蔵は自分のスマホで何か調べ始めた。
「待ち合わせ場所は…近鉄四日市駅で良いか?」
「ちょ、ちょと待ってくれよ。」
俺は話を進めていく武蔵を止めた。
「あ…あんた、ホントに俺と…セ、セックスするつもりなのかよ。」
「そのつもりだか。」
「ホントに良いのかよ?その…俺なんかと…って…。」
「俺なんか、などという言い方をするな。」
「…ッ!」
「じゃ、あ、あんたは良いのかよ?」
「セックスだぜ?…セックス、なんだぜ?」
「私は生来、好色淫蕩な
「縁あれば、私は誰とでも寝る。」
「まあこれも何かの縁だ、お前とも楽しませてもらおう。」
トントン拍子で進んでいく話に、俺はすっかりビビってしまった。
「で、でも、俺…その…したことが…ねえんだ…。」
「そうか。」
「まあ、誰にでも初めてはある。」
「良い機会だから、私の肉体で存分に練習するといい。」
「そ、そうじゃなくて」
「さ、さっきは勢いであんなこと言っちまったけど」
「や、やっぱこういうのって…何て言うか、もっと絆を深めてからってのが筋だと思うんだ。」
「い、いきなりカラダの関係からって言うのは…ちょっと違うと思うんだ…。」
ビビってるのか、このヘタレめ…そう言われるかと思った。
俺自身も、ビビってる、ヘタレてると思っていた。
でも…。
「肉体関係から良い関係が始まることもあるのだがな。」
「…まあ確かに強要は出来ない。」
「それに実際、お前と
武蔵は、土壇場でヘタレた俺をバカにしたりはしなかった。
「こういうことはもっと絆を深めてから、と言ったな。」
「あ…ああ。」
「なら、一つ教えておこう。」
「?…何をだよ。」
「ナンパの仕方だ。」
「ナンパって…何でだよ。」
「こういうことはもっと絆を深めてから、とお前は言ったが」
「絆を深めるには、まず誰かと出会い、言葉を交わさなければなるまい。」
「出会って、言葉を交わして、関係を築く…と言えば、それはやはりナンパだろう。」
「でも、ナンパの仕方って言われても…難しいんじゃねえのか?」
「難しいとはどういう意味だ。」
「だ、だから…服装とか髪型とか…トークの仕方とか…あんまり覚えることが多かったら、俺、どうしようもなくなっちまうよ。」
「覚えることなど殆ど無い、と言うか、二つだけだ。」
「二つだけ?」
「まずお前が心配している服装とか髪型だが」
「そんなものはネットで、春夏なら春夏、秋冬なら秋冬の『季節のコーデ』を画像検索して、真似出来そうなコーデをそのまま真似れば良い。」
「無理に良いもの・高級なものを揃える必要はない。」
「……。」
「覚えるべき二つのことというのは、お前が心配しているトークの仕方についてだ。」
「その二つというのは…」
「挨拶と」
「『それ、良いですよね』という一言だ。」
「挨拶?」
「ナンパの相手は大体初対面の女だ。」
「初対面の相手に話しかける時、挨拶は絶対に必要だろう。」
「しかし、これからナンパをしようと言うのに」
「その時の挨拶が『初めまして』では硬すぎるから…そうだな。」
「『ちょっと良いかな?』『ちょっと、良いですかぁ?』…まあ、こんなところだろう。」
「自分の性格に合った言い方があれば、それを使うと良い。」
「それで、その挨拶のあとに『それ、良いですよね』と繋げるってわけか?」
「…でも、『それ』って…何だよ?」
「挨拶のあとに『それ、良いですよね』を繋げる、というのはその通りだ。」
「で、『それ』が何かということだが…」
「女を観察して、その女が好きそうな物で、かつ、お前も良いと思えた物だ。」
「例えば…そうだな…」
「本屋で見かけた佳い女が、お前が好きなマンガを手に取っているのを見たら」
「『ああすみません、もしかして、あなたもそのマンガ、好きなんですか?』」
「…と言って近づくんだ。」
「それでそのあとは、そのマンガについて語り合えば良い。」
「…そうか…。」
「でも、ホントにそんなので上手く行くのかよ?」
「上手く行くのかと言うのが、確実に口説けるかという意味なら、否と言わざるを得ないな。」
「今日の終業後、帰り道でこの方法を試したとして」
「それで相手を口説ける確率は一割未満、楽観的に見ても二割を超えないだろう。」
「それじゃ、何のための『ナンパの仕方』だよ!」
俺が文句を言うと、武蔵は…。
「やあ失礼、なかなか良い服を着ているな。」
「見たところ、私服というわけではないようだが…仕事の制服か何かか?」
「?」
「何言ってんだよ、これはサンゴッドVのパイロットスーツだよ。」
「アンタさっきからずっと見てたじゃないか?」
「ああ、急に話しかけて、変なことを言ってしまったな。」
「失礼した…。」
武蔵はそう言って俺に背を向けて…すぐに俺の方に向き直った。
俺が戸惑っていると…。
「挨拶をして、なかなか良い服を着ているなと…『それ、良いですよね』と言って」
「好い反応が返ってこなかったのを見て、失礼しましたと言ってこの場を離れる。」
「今、私はこの流れ…ナンパの流れを実演して見せた。」
「計測してはいないが、声をかけてから”失敗”するまでに、おそらく一分と掛かってはいまい。」
「一分も掛かってないって…それがどうしたって言うんだよ。」
「一日の間に出来るナンパの回数を稼げる、と言うことだ。」
「どう理屈を捏ねた所で、ナンパが上手く行くかどうかは博打だ。」
「博打で勝つには、賭けの回数を重ねるしかない。」
「ならば…」
「挨拶、『それ、良いですよね』の一言、そして相手の反応を見る」
「この流れの短さを活かして、できるだけ多くの女に当たって行くべきだ、ということさ。」
「それはわかったけどよ…」
「女に掛ける一言が『それ、良いですよね』なのは、どうしてなんだ?」
「『それ、良いですよね』という言い方には…」
「あなた、それが好きなんですか?」
「僕も、それが好きなんですよ。」
「僕たち、気が合うかも知れませんね。」
「…という意味が含まれている。」
「要は、相手との心理的距離を詰めるための言い方だからさ。」
武蔵はここまで、俺が質問すると即座に答を返してきた。
俺はこの時、武蔵に言葉で押しまくられているように感じていた。
「今日からナンパに励みます」
気が付けば、そう言いそうになっていた。
だがこの時の俺にとって、本当にそう言ってしまうことは、断崖絶壁から飛び降りるのと同じだった。
「今日からナンパに励みます」
俺はこの一言を言い出しそうで、言い出せないでいた。
武蔵は右手の指先を、そっと俺のこめかみに当てた。
俺は武蔵に促されるように、武蔵と目を合わせた。
「ナンパをする時、お前が言うことは…」
「やあ!それ、良いよね?君もそれ、好きなの?」
「…これだけだ。」
「小洒落た、気の利いた言い回しなど不要だ。」
「女の反応が悪ければ、急に話しかけてゴメン、とでも言ってその場を離れればいい。」
「女の反応が良ければ、そのまま女の話を聞いて、話の流れに身を任せればいい。」
「ナンパをする時、お前が言うことは…」
「やあ!それ、良いよね?君もそれ、好きなの?」
「…これだけだ。」
「別に難しくも何ともない…しくじった所で、失うものは何も無い…。」
「しない理由など、何も無い…しない理由など、何も無い…。」
パチンと言う音がして、俺は我に返った。
我に返った?
俺は気絶でもしてたのか?
でも、武蔵が俺に言ったことは、はっきり頭に残ってる…。
俺が戸惑っていると、武蔵が俺に聞いてきた。
「リュウ、今、お前は何がしたい?」
「え?…何がって…誰かと話がしたいな…ハッ!?」
この一言で、俺は事実上「今日からナンパに励みます」と言ったも同然だった。
俺は断崖絶壁から飛び降りた。
…だが、俺が断崖絶壁だと思っていた所は、高さ1メートルも無い、ただの段差だった。
俺は段差から飛び降りて、そこから一歩を踏み出し始めた。
武蔵は研究所を出て、自分の鎮守府に帰る時、もう一つ俺に言った。
「ああそうだ、ナンパをした時…」
「『それ、良いよね』と言ったら、必ず『それ』についてネットで調べろ。」
「現代という時代は、本当に良い時代だな…端末があれば、ちょっとした調べ物なら何処ででも出来る。」
「Wikipedia、ピクシブ百科事典、ニコニコ大百科…上級者向きだが、アンサイクロペディアなんてのもあるな。」
「『それ』について調べるって…何でだ?」
「理由は二つある。」
「一つはもちろん、次のナンパのために、話のネタを用意するためだ。」
「そしてもう一つは…」
「ナンパの時にお前が『良いね』と言った物事の『良さ』を、深く知り、理解するためだ。」
「…物事の『良さ』を知ることは、世界の『良さ』を知ることは」
「お前の心と人生を豊かにする。」
「お前はナンパを通して、これから出会う女を通して」
「世界の『良さ』を知っていくんだ。」
その次の日から、俺はナンパに明け暮れた。
ちょっとでも「いいな」と思えた女には、それこそ片っ端から声をかけた。
結果はもちろん…連戦連敗だった。
「やあ!そのチョコレート、確かに美味しいよね!」
「やあ!かっこいいタトゥーだね!」
「やあ!君もあの店、行ってきたの?」
ナンパをする度に、俺は「それ、良いよね」と言い続けた。
いろいろな物事について、「それ、良いよね」と言い続けた。
ナンパ自体は連戦連敗だった。
でも「それ、良いよね」と言い続けているうちに、俺の周りには、世界には「良いもの」が溢れてるんだって、思えるようになった。
研究所からの扱いが腑に落ちねえとか、カオリとタケルが付き合ってるのが面白くねえとか…そんなことは本当にどうでもよくなってきた。
武蔵は、博打で勝つには賭けの回数を重ねるしかない、と言っていた。
それで俺は、ナンパの回数を重ね続けてきた。
俺とサチが出会ったのは、ミキモト真珠島…真珠博物館だった。
正直な所、サチは…美人かブスかで言えば、どっちかって言うとブスな方だった。
でも、何て言うのかな…ブスとは言ったけど、醜いってわけじゃなくて…。
…見ていると、幸せになってほしい顔って言うか、不幸にはなってほしくない顔って言うか…。
とにかくサチのことが、彼女のことが気になった俺は、彼女に声をかけた。
「や!熱心に(展示物を)見てるね!…君も真珠、好きなのかい?」
「三重には色々自慢出来るものはあるけど、やっぱ!まずは真珠だよね!」
そしてここで、俺のナンパはついに成功した。
「三重県の自慢と言ったら、何と言っても真珠だよね」と言ったことが、彼女の…サチの心を掴んだらしい。
サチは小さな頃、初めて見た真珠の美しさに心を奪われた。
この世にこんなに綺麗なものがあるのかと思った。
こんなに綺麗なものがある三重県は、世界は何て素晴らしいんだ、とまで思ったそうだ。
そんなサチは、三重大学・生物資源学部の学生だった。
将来真珠に関わる仕事に就くため、だそうだ。
それで俺たちは親しくなり、付き合うようになった。
サチは決して美人ってわけじゃない。
…でも俺は、真珠について、自分の夢について、それから世界の、特に三重の素晴らしさについて熱く語るサチに、惹かれていた。
武蔵にナンパの仕方を教わらなければ、俺はサチに出会うことはなかっただろう。
そう言えば武蔵は、俺がこれから見かける佳い女の数は、増えることはあっても減ることはないとも言っていた。
それは、こういう意味だったのか…。
俺はサチと付き合うようになった。
サチは、真珠という美しいものがあるこの世界を、とりわけ三重県を愛している。
だから俺も、三重県の平和のためにもっと実のある働きをしたいと、更に思うようになったんだが…。
…研究所の、俺に対する扱いは相変わらずだった。
武蔵は俺の仕事についてもアドバイスをくれていた。
俺だって、サチのために、三重県を護るために戦いてえ!
今こそ、このアドバイスを実行に移すべき時じゃないか!
…そう思っていたんだが、俺の志は、全く思いも掛けない形で実現することになった。