迷い家の少女   作:ウルハーツ

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モンハン楽しい。


ルアン・メェイ - ヘルタ:2 - カフカ

 外へ出られる様になった私の身体。元々世界が作り出したのをルアン・メェイが作り直す事で完成したとも言えるこの身体は、定期的に検診を受ける約束をしている。まだ宇宙ステーション『ヘルタ』とヤリーロ-VIしか行っていないけど、外へ出た事で何か良くない問題が身体に起きていないか等を確認する為にも、最初は少し頻繁に来る様に言われていた。

 

「特にこれといった変化は無さそうですね」

 

 ベッドというより寝台の上で、私は腕や身体にコードの繋がったパッチの様な物を沢山付けられていた。薄くて白い生地の服を着せられてこの状態になったのはもう何回目か覚えてない。多分十回以上はやってると思う。本当に何処かへ行く度に見られたし、その前から数日ここに泊まっていた時だってこの状態が殆どだった。

 

「まだ、掛かる?」

 

「もう意味は無さそうですね。外して良いですよ」

 

 何もせず、動かないで居る時間は凄く暇。この前、ホタルに捕まった時もそうだった。やっぱり何かしていたい。ゲームとか……うん、ゲームとか。

 

 身体に付いているモノを外していく。刺さっている訳じゃないから、ちょっと皮膚が引っ張られる感じがするだけで全然痛くない。全部外してから寝台を降りれば、ルアン・メェイが近づいてくる。そういえば、今回は彼女に渡す物があるんだった。

 

「お菓子、持ってきた。食べる?」

 

「貴女の手作りですか?」

 

「ん。ちょっと、自信作」

 

「いただきましょう。こちらへどうぞ」

 

 ルアン・メェイがお菓子を好んでいる事は開拓者から聞いてる。私の作ったお菓子を食べた事がある事も。前に作り過ぎた時、ホタルが開拓者に渡してから、それがルアン・メェイにまで届いたらしい。それが口に合ったのかは分からないけど、お菓子好きならきっと喜んでもらえる筈。

 

 私は持ってきた袋を広げる。入っているのは四角い箱。その中にあるのはパッと見て少し豪華な感じのフルーツタルト。私が外へ出られる様になったのはルアン・メェイのお蔭でもあるから、かなり腕に縒りをかけて作った。

 

「これは……本当に手作りですか?」

 

「頑張った。お礼の気持ちもあるから」

 

「なるほど」

 

 最初に出会った時、ルアン・メェイの私を見る目は実験対象でしかなかったと思う。それはもしかすると、今も変わらないのかもしれない。だけど何度か会って、話をしたりする内に少しは変わったと思ってる。今も切り分けたフルーツタルトを口に運んで少し微笑んでいる姿を見ると、普通に綺麗な人にしか見えない。それで私を見て「美味しいです」と言ってくれるその目はもう、怖くない。

 

 私も自分で作ったフルーツタルトを食べる。それなりの大きさに作ったから、流石に一人で食べ切れないと思う。そもそも一緒に食べようと思って作ったから。これからも私はルアン・メェイのお世話にはなると思う。この身体が無事に外で活動出来る為に、必要な事。だからこの際、彼女の好きな食べ物とかを知りたい。お菓子が好きと言っても、やっぱり好みはあると思うから。

 

「お菓子、好き嫌いある?」

 

「これほど沢山は必要ありません。少しだけでも、十分です。新鮮な果物、花や木等の旬で作られた物は好んでいます」

 

 果物をそのままよりも、やっぱり私が出来るお礼としてはこうやってお菓子にする方が良い気はする。花や木は和菓子とか? そもそも旬が少し難しい。ここは宇宙だし、ヤリーロ-VIは常に冬みたいだから。家は季節以前に昼夜すら曖昧。結構、難しい問題かも。

 

「難しく考える必要はありません。以前いただいた菓子もそうですが、貴女の作った菓子は自然と私の味覚に合う様です」

 

 そう言われると、ちょっと嬉しい。次にここへ来る時も、何か作って持って来よう。まだ何も思いついて無いけど、こうやって検診が終わってからのお菓子を嗜む時間は欲しい気がする。友達と言っていいのかは分からないけど、ルアン・メェイとの付き合いはこれから長くなると思うから。

 

 

「遅い」

 

「ヘルタ?」

 

 ルアン・メェイのところから戻って、アスターにでも会おうと思っていた私は突然掛けられた声で振り返る。そこにはヘルタの人形が居て、私に近づいて来ていた。今日は別に会う約束をしていた訳じゃない。そもそもヘルタは神出鬼没だから、急に現れるのは今に始まった事じゃないけど。

 

「待ってた?」

 

「今日来るのは分かってたから。随分長かったね」

 

「お菓子、食べてた」

 

「ふぅん。何か作って来たの?」

 

「フルーツタルト」

 

 偶に不思議だと思う事がある。ヘルタはいつもここに居なくて、誰かと一緒に居る時は余り多くないと聞いてる。興味を無くした者への扱いは雑になって、無駄話は好まない性格。だとしたら、この話だって多分ヘルタにとってそんなに有用な話じゃないと思う。私はお菓子のフルーツタルトを作った事、興味なんて持ちそうにないから。でも、ヘルタは現れる度に色々話しかけてくれる。共通の知り合いとして開拓者の話題になる事も多いけど、こういった雑談もある。

 

「私の分は?」

 

「人形、食べれない」

 

「そうね。でも、用意しても良いんじゃない?」

 

「必要? なら、次」

 

「えぇ、貴女の作ったお菓子はそれなりに評判が良いみたいだから」

 

「そうなの?」

 

「主な評判はアスターだよ。あ、持って来る時は事前に教えてね」

 

 確かにアスターには色々持っていく事もあるけど、それはヘルタにまで話として届いていたらしい。もしかして、私への興味じゃなくてお菓子に興味を持ってたりする? 見た目が少女な人形だけど、ヘルタ自身も意外とお菓子に興味を持つ人間味がちゃんとある。でもやっぱり人形は食べれないと思う。

 

「ねぇ、模擬宇宙に興味ある?」

 

「模擬宇宙……私が、入った場所?」

 

「そう。最近、開拓者がサボり気味だから。星核を身体に宿してる開拓者の方が断然良いんだけど、世界に作られたっていう貴女でも面白い事になるかもしれない」

 

「???」

 

 何言ってるのかよく分からないけど、私がその模擬宇宙へ入る事がヘルタにとって面白そうな事らしい。確かあの中では異形が居て、それを倒しながら奥へ進んだ先に居るボスを倒す事でクリアできる仕組みだった筈。ゲームで言うダンジョンみたいなもの。私一人では厳しい気がするけど、誰かと一緒にならやれるかもしれない。

 

「戦える人が、必要」

 

「あぁ、貴女自身の戦力は低かったね」

 

 開拓者が真っ先に思い浮かぶけど、そもそも開拓者が模擬宇宙に入らない事でこの話が生まれているのなら論外。銀狼はヘルタと確執があるみたいで良い顔をしないと思う。ホタルはどうだろう? やっぱり良い顔はしない、のかな。アスターは協力してくれると思う。見かけただけだけど、一緒に居る人ももしかしたら。……そうだ。

 

「ヘルタも、一緒」

 

「私? まぁ、良いよ。直接見るのも悪くなさそうだし」

 

 自分を含めれば四人。でも一人は分からないから、他の誰かも考えておいた方が良いかも。私の残る知り合いと言えばロビンとクラ―ラ、ルアン・メェイもそう。だけどロビンとルアン・メェイはいつだって忙しそう。クラ―ラも簡単には呼べない気がする。そもそも別の星に居る人を呼ぶには開拓者と協力する必要がある。私の家を経由する方法もあるけど、少し手間が掛かる。まずクラ―ラに来てもらってから、アスターかヘルタにここへの道を作ってもらう必要があるから。

 

「興味はあるけど、まだ難しそう」

 

「そう。でも興味があるならそれで良いよ」

 

 何時か、誰かと一緒にまたあの空間へ入る事になるかもしれない。本当の戦いはまだ余りした事が無いけど、訓練としてもちょうど良いと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前は私が家で待っている側だったけど、外へ出る様になった事で誰かが待っている状態になる事も多くなった。誰か、と言っても銀狼とホタルしかこの家には帰って来ない。……だからこの状況は凄く想定外で戸惑っている。

 

「あら、おかえりなさい」

 

「……ただいま」

 

 リビングへ入ると、私を迎えてくれる女の人。知らない人が家に居て、出迎えられると凄く混乱する。なんとか普通な感じで返す事は出来たけど、逃げるべきなのか、銀狼かホタルに助けを求めるメッセージを送るべきなのか。扉の前で固まってしまった私を見て、女の人はクスッと、上品な感じで笑う。

 

「警戒しないで。私の名前はカフカよ、お嬢ちゃん」

 

「カフカ……! 銀狼とホタルの、仲間?」

 

「えぇ。そうよ」

 

 偶に二人の会話で聞く名前に、『カフカ』があったのを思い出す。前に銀狼がお菓子を渡しに行った相手でもあった筈で、何をしているのかは分からないけど二人の仲間である事は間違いない。それじゃあ、ここには銀狼かホタルが招いたのかも。なら、招いた本人が居ないのはどうして?

 

「二人は?」

 

「外出中よ。私はお留守番」

 

「……」

 

 仲間なのは分かっているけど、ここに住んでいない人が留守番を任されるのはどうなんだろう。取り敢えず、危ない人じゃないとは思う。二人の仲間なら、歓迎するべきであって追い返す理由は無いから。

 

「何か、食べた?」

 

「いいえ。銀狼(おチビちゃん)はそういう気を利かせたりしないもの」

 

 ホタルならその辺はしっかりやりそうだから、銀狼の伝手でここへ来たって事だと思う。確かに銀狼が誰かを迎える事はあっても、茶菓子を出したりしてもてなす様な事はしなさそう。ここが家である以上、帰ってきたら部屋かソファに座ってゲームへ一直線な気がする。私もそんなに人の事は言えないけど、誰かが来る事は多いのでもてなしてからではある。

 

 誰かが来た時用に作ったお菓子のクッキーが冷蔵庫にあったので、取り出してお皿に移してからカフカの前へ。飲み物もロビンやアスターが紅茶の茶葉とか珈琲の豆と焙煎出来る道具をくれたので、かなり良いものを出せるとは思う。味を損なわない様に、淹れ方も教わった。クッキーだから、今回は紅茶が良いかな。珈琲は時間も掛かるから。

 

「手慣れているのね」

 

「お客さん、よく来るから。勉強した」

 

 飲み物も出して、自分の分も用意してから向かい合う様にして座る。何か、凄い気がする。思えば私の周りにここまで大人な人はそんなに多くない。強いて上げるなら、ルアン・メェイくらいだと思う。だけど研究に目を向けていて余り周りに興味を持たない彼女と違って、目の前の人は私をジッと興味津々とばかりに見て来る。大人の余裕を持ちながら、私を品定めしているみたい。

 

「うん、悪くないわ」

 

「良かった」

 

 口に運ぶ仕草もやっぱり大人って感じがする。ルアン・メェイだと、口元にお菓子をくっ付けたりするお茶目? な部分があるけど、カフカは絶対にそんな事にはならなそう。気品があるって、こういう事なのかも。

 

 カフカの目は一向に逸れない。何を話して良いのかも分からず、黙々とクッキーを齧ってお茶を口にするだけ。ふと、カフカの身体が動いたと思ったら頬に手を当てて姿勢を変えただけ。何か怒っている訳じゃないとは思うけど、そんなに気にされる様な事をした覚えもない。

 

「どうして、そんなに見るの?」

 

「気になるから。私の周りに居る子達がみんなして貴女を気に入ってるの。不思議に思わない方がおかしいでしょ?」

 

「銀狼とホタルは、家族」

 

「その二人以外にも居るわ。開拓者とか、ね?」

 

「開拓者も、知ってる?」

 

「えぇ。彼女が知る以上に」

 

 開拓者とも知り合いなのは初めて知った。それも意味深な言い方をする辺り、ただの知り合いって感じじゃ無さそう。

 

 私が気になっているのは分かった。だけどその理由は人によっては余り良くない感じ。だって、自分の周りに居る誰かが気になっている人。それも複数人が気にしている同じ人がもし居たら、その人が本当に大丈夫な人なのか心配になったりもする。一様に気に入られたりしているなら、余計に。それは私の周りに居るみんなが優しくて、きっと恵まれている証拠でもあるけど。

 

「銀狼が脚本に無い部分で自らの労力を惜しまず行動するのはとても珍しいの。貴女は彼女にとって、余程面白くて刺激的な存在みたいね」

 

「友達」

 

「別にその関係を疑っている訳じゃないわ。悪意ある相手にはみんな、敏感だもの。察して、距離を取るのには慣れている筈よ」

 

 笑みが少しだけ深くなった気がした。だけど肩が少し軽くなった気もする。もしかして、今まで私は知らない内に圧を掛けられていた? リビングに入ったその時からもう、蜘蛛の巣に引っ掛かったみたいに品定めは始まっていたのかもしれない。

 

「二人が普段、私達と何をしているのか知りたくはない?」

 

「……」

 

 何をしているのか、気になった事は何度もある。でも二人がそれを話そうとしないのなら、私が無理に聞こうとは思わない。これは外へ出る時の我儘と違う。迷惑だとか、そういった話じゃない。人には小さくても大きくても、それなりの秘密があるものだから。友達でも親友でも家族でも、本人が秘密にしたい何かを聞き出そうとするのはきっと違う。

 

「知らなくてもいい。二人が話したくなったら、その時に」

 

「一生話そうとしなかったら?」

 

「なら、一生知らないだけ。それでも一緒に居る事は出来るから」

 

 秘密を共有しなくても、私達は一緒に居られる。これからも銀狼とは何時間でも飽きるまでゲームばっかりして、ホタルとは甘えて甘えさせる様な時間を過ごして、開拓者とは知らない世界の色々な場所へ行ける。

 

「そう。それなら、私から話す事は無いわね。これからもあの子達とは仲良くしてあげて」

 

「ん、言われなくても」

 

 また優雅に、様になる動作で紅茶を飲むカフカ。私もクッキーを食べてから紅茶を飲んだら、それを最後にお菓子も飲み物も終わってしまった。どうやら思ってた以上に喉が渇いていたみたい。

 

「そろそろ時間ね。ご馳走様、美味しかったわ」

 

「また、来る?」

 

「そうね。気が向いたら、またお邪魔するわ」

 

 玄関まで見送りをする。私が入って来た事で壁になってしまった玄関の扉を前に、カフカが指を鳴らした瞬間。それだけで道が開いたのを見て驚いた。今まではチケットが必要で、私が出るには繋げてくれる誰かが必要だったから。どういう仕組みなんだろう?

 

「バイバイ、お嬢ちゃん」

 

「バイバイ」

 

 手を振りながら光の向こうへと帰っていくカフカを最後まで見送る。今まで通り、誰かが入ると同時に光は無くなってただの壁になった。カフカが居なくなった途端、また肩が軽くなる。と同時に身体が疲れを感じたみたいに重くもなった。もし何か変な事や、気に障る事を言っていたら私は生きていなかったのかもしれない。なにかを乗り越えた様な、そんな気がした。

 

 

 

「終わった?」

 

「えぇ。貴女にとって、あれが運命の子なのかしら?」

 

「そんな大層なものじゃないよ。友達で親友で家族ってだけ。会いたかったんでしょ? 満足した?」

 

「そうね」

 

「カフカ、脚本に無いモノに興味は無いんじゃなかった?」

 

「彼女がこの世界に元々存在しなかったのなら、無くて当然なアドリブの様なものよ。それに対策しておくのは演者として当然でしょ? そして、それすらもやがては脚本の一部として組み込まれて行く」

 

「これから、巻き込まれるって言いたい訳?」

 

「さぁ? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ。本人の運命と脚本次第ね」

 

 




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