今日は久しぶりにロビンが遊びに来た。前回は私以外誰も居ない時にやって来たけれど、今回はホタルが家に居る。
「こうしてロビンさんと家でお話出来るなんて、ビックリだよ」
「私もよ。それに最初聞いた時は本当に驚いたわ。まさかホタルさんが、この子のお姉さんだったなんて」
「……」
二人は過去にどこかで会った事があるみたい。ロビンには前ここへ来た時に話した。でもホタルには何も教えて無かったから、再会した瞬間は物凄く驚いていた。
『御機嫌よう、ホタルさん』
『ろ、ロビンさん!?』
『ふふっ。私はこの子のお姉さんなのよ?』
『お姉、さん? …… ねぇ、どういう事かな?』
お姉さんとお姉ちゃん。言い方は違うけど、知らない人が聞けば同じ意味で認識出来てしまう言葉。ホタルもそうだったみたいで、凄い目で私を見て来た時は少し怖かった。私はロビンが前にここへ来た事、ホタルが家族の意味で。ロビンは年上のお姉さんという意味でそう呼んでいる事を説明した。徐々に怖かった雰囲気が緩和されていって、最後はホタルも納得してくれた。
「普段は何をしているの?」
「ゲームが多いかな。家族はもう一人居るんだけど、彼女とこの子がゲーム好きだから」
「そうなの。挨拶したいけれど、今は居ないみたいね」
「あはは……その、結構忙しくしてる事が多いから」
「……ねぇ」
「? どうしたの?」
「暑い」
少し言い難そうに頬を掻いているホタルを前に、私はもう我慢出来なかった。二人が同時に訳が分からない様子を見せるけど、そんな筈はない。だって明らかにおかしいから。同じソファに三人で並んで、真ん中に私が居る状態で完全に挟まれているこの状況は。ただ位置として挟まれてるんじゃなくて、左右にピッタリくっ付かれてる。膝も腕も触れ続けてるのは、流石に近すぎる。
多少強引なのは仕方ない。二人の間から抜け出そうと足に力を入れた瞬間、左右から伸びて来た手が私をソファに引き戻す。息がピッタリな二人にまた座らされると、今度は本当に身動きが出来ない程にくっ付かれ始めた。
「離して」
「お姉さん達と一緒に居るのは嫌?」
「そんな事無いよね?」
「……」
暑苦しくて身動きが取れないのは嫌。だけど別に二人と居るのが嫌な訳じゃない。そんな不安そうに、ちょっと怯えた感じの目で言われたら無理に逃げようって気にはなれなくなる。ホタルはともかく、ロビンはもしかすると演技な可能性もある。でも可能性だけで、傷つけるかもしれない事を考えると離れられない。前はホタルに引っ付かれて何も出来なかった。今回は二人だけど、その分共有されている状態なのでまだ楽な方だと思う。
「せめて、ゲームしたい」
「お姉さんとお話しましょう?」
「ロビンさんとお話なんて、この世界でしたい人は数え切れないくらい居るんだよ?」
ロビンが銀河中に名を轟かせる歌姫なのは当然知ってる。確かにそんな人と話したり、目を合わせたり、触れ合ったり出来る人なんて殆ど居ないんだとは思う。でもそれはそれとして、不自由を受け入れるつもりは流石に無い。ゲームしながらだって話は出来るし、何なら一緒に。そうだ、そうしよう。
「ロビンも、ゲームする」
「私も? 出来るかしら」
「大丈夫、教える。ホタルと一緒に」
「えっ、ロビンさんにゲームをやらせるの!?」
「貴女達が普段、どんなゲームをしているのかは興味あるわ。是非、ご教授願おうかしら」
意外とノリノリなロビン。もしかしたら、一緒にゲーム出来る相手が増えるかもしれない。流石に忙しいだろうから、頻繁には遊べないと思うけど。ホタルは乗り気じゃ無かったみたいだけど、ロビンが興味を示した事で一緒に教える側に回る。思えばホタルは銀狼に誘われてゲームをする様になり、私と一緒に遊ぶ事でゲームをする頻度が増えたと言っていた。銀狼と私程じゃないにしても、今じゃホタルも立派なゲーマー。人にゲームを教えた事は無いかもしれないけど、その知識は確かなモノだと思う。
それから、私とホタルの二人掛かりでロビンにゲームを教えた。銃撃戦のゲームと、狩りをするゲーム。前者は余り良い顔をしてなかったけど、後者はそれなりに楽しんでくれたと思う。ここに居られる時間が限られている中で、普段私達が頻繁にやっているゲームだけでも知りたかったらしい。銀河は広く、星も多いけれど、回線は何処までも広がり届く不思議なもの。ここに居なくたって、遊ぼうと思えば離れた場所に居ても遊べるから。ボイスチャットのやり方だけでも完璧に教えておこう。
「メッセージとは違くて、電話とも似て異なるゲーム専用の通話方法なのね。ふふっ、少し違うってだけで不思議と特別なモノを扱えている気分ね」
「みんな、電話は使わない?」
「そういえばそうだね。あたしもメッセージばかり使ってるかも」
「私もよ。だけどこれからは遠くに居ても、お話しやすくなるわね」
「ん。ゲームしてる時でも、大丈夫。遊びながら、話せるから。掛けて来て良い」
こうしてやって来た人や、外で知り合った相手とも電話をする事は考えてみると殆ど無かった。メッセージばかりのやり取りなのは、私が元々話せる相手では無かったからなのかもしれない。私がメッセージだけでやり取り出来る相手だったから、その印象が多分まだ残ってるんだと思う。何なら開拓者とかもゲームをするから、改めてボイスチャットの存在を思い出してもらって話すのも面白そう。ロビンは開拓者とも知り合いだった筈だから、銀狼も交えれば五人で遊んだりも出来る。都合が合う時は中々無いと思うけど、遊べる時があるならいつの日か遊んでみたい。
「あら? もうこんな時間。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうものね」
「もう、帰る?」
「仕方ないよ。ロビンさんも、忙しい合間を縫って来てくれたんだから」
「ふふっ、また来るわ。それに時間がある時はゲームもして、腕を磨いておくわね」
ロビンが帰る時間になってしまった。無理に引き留める事は出来ないけど、そういってロビンは微笑んでくれる。やっぱり初めて来た時もそう、ロビンの傍は不思議と安心出来る気がした。一緒に遊べる時は勿論、今度は傍に居なくても話を聞けるかもしれないって事に少し期待する。
「バイバイ」
「そうだわ。こっちへ来てくれるかしら」
玄関で振り返ったロビンに手を振ると、何かを思い出したみたいに手招きをするロビンに私は近づいた。すると突然目の前から温かい感触が。抱き締められたみたいで、後ろでホタルの驚く声が聞こえる。これは別れのハグ? だったら、私もロビンの背中に手を回し返そう。
「必ず、また来るわ。ここはとても居心地が良いの。きっと、貴女が居るからね」
「ん。待ってる」
「ふふっ。ホタルさんも、また会いましょう」
「またね、ロビンさん」
ハグを止めて、ロビンが光輝く扉の向こう側へ消えてしまう。やがてその光がただの壁に戻った時、ロビンはもうそこに居ない。
ホタルと一緒にリビングへ戻る。いつもは誰かが帰ってしまったら一人になってしまって、物悲しさを感じる時が殆ど。だけど今日はホタルが居る。さっきくっ付いていた時は暑く感じていたのに、急にその温かさが恋しくなってくる。
「っ! ど、どうしたの?」
「なんでもない。少し、こうさせて」
「……うん、良いよ」
人の暖かさはやっぱり心地いい。ホタルの身体に、その腰元辺りに抱き着いたら驚かれはしたけど、その後は優しく頭を撫でてくれる。それからしばらくの間、私達はソファでそんな状態だったと思う。途中で眠ってしまったみたいで、離れた記憶は無かった。目が覚めた時にはホタルも居なくなっていて、また物悲しさが襲ってくる。私は人と出会って触れ合う事が多くなったせいで、いつの間にか独りで居る事を寂しく感じる様になってしまったみたい。
今日は開拓者がやって来る。それも友達を連れて来るらしい。実は最初に連れて来ようと思っていた人らしいけど、その本人が凄く嫌がってたみたい。少し悲しいと思う反面、仕方ないとも思う。家に住んでいる私ですらよく分からない力で行き来出来る、そんな場所へ行く事に警戒しない訳がない。なんか他にも理由があったみたいだけど、そっちは詳しく教えてくれなかった。
「ここがアンタの言ってたところ?」
「そうだよ。多分すぐ迎えに……来た」
「いらっしゃい、開拓者。それと」
「三月 なのか だよ! よろしくね!」
凄く明るい人。差し出される手を握って握手した後、私は二人を先導する様にリビングへ向かう。来ると分かっていたので、飲み物もお菓子もバッチリ準備はしてある。ちょっと気合も入れた。入った瞬間、テーブルに置かれてるお菓子を見てなのかの目が輝いたのは間違いない。
「これ、全部作ったの!?」
「ん。美味しく、出来たと思う」
「前に貰ったお菓子も美味しかったし、楽しみ!」
ソファに座ったなのかの前に飲み物を用意して、同じ様に別のソファに座った開拓者のところにも用意する。最後に自分のを用意して、二人とは違うソファに座る。三人バラバラで座るのは、考えてみると珍しいかも。大体、誰かが座ってる場所に並んで座る事も多いから。
なのかが期待した様子で食べて良いのかと聞いてくるので、頷いて答えると真っ先にクッキーへ手を伸ばした。今回は色々用意したから、好きなモノを好きな様に食べてもらうつもり。頬に手を当てて喜んでいる姿を見ると、気に入ってはもらえたみたいで安心する。
「パンツで行ける場所ってどんなところかと不安に思ってたけど、最高じゃん!」
「パンツ?」
どうしてパンツが出て来るのか分からなかった。だけどなのかの話を聞いて思い出す。確か初めて開拓者がここへやって来た時、まだここへ来るためのチケットを知らなくて導として渡した事を。導とかの設定、どうしたんだろう? もうチケットが出て来てから無くなった気がする。
「普段はここに居るの?」
「前までは。最近、出れる様になった。開拓者のお蔭」
「そっか。アンタ、またウチが知らないところで頑張ってたんだ」
胸を張って誇らしげなアピールをする開拓者が少し面白い。なのかも同じ様に笑っていた。
なのかはお話が大好きみたいで、色々な事を話してくれる。開拓者と出会った事や、宇宙ステーション『ヘルタ』とヤリーロ-VIで起きた出来事。そして私の知らない場所、仙舟『羅浮』とピノコニーについても。前者は写真で見せてもらった覚えがある。確か星程に大きな方舟で、そこで大変な目にあったとか。後者はロビンから名前だけ聞いた。いつかはどちらにも行ってみたい。
「前に見せてた写真、なのが撮ったのも混ざってたんだ」
「そうなんだ」
「えっ? ウチが撮った写真を見せてもらってたの?」
「ん。出れる様になる前は、外の世界を知りたかったから」
「どういう事?」
私はなのかに元々この世界の存在では無かった事を説明する。言葉にすると結構難しいけど、出来るだけ簡単に。別の世界からこの世界へやって来て、その際に全ての記憶を失ってしまった事とか。この家から長い間出れなかったのをヘルタとルアン・メェイ、開拓者の力も借りて出られる身体になった事とか。
「そっか……。ウチもね、記憶が無いんだ」
「なのかも?」
「うん。だけどウチの事は開拓の旅を続けてれば、いつかきっと分かる。そんな気がしてるの!」
記憶がない事に悲しさを見せるどころか活き活きとした様子で言い切るなのか。凄いと思った。私は前の私が決断して捨ててしまった過去の記憶に拘るつもりも無ければ、思い出したいと足掻いた事も無い。それは未来で知る事だとか、そんな風にも思わない。本当に興味すら失ってしまった様な気がする。だけどなのかは自分を知るために旅をして、冒険をしてる。それが彼女の行動する原動力なんだと思う。
なのかとの話はとても面白い。喋る事が本当に好きなんだと、一緒に過ごしてよく分かる。少しでも間が空いたらすぐに次の話題を持ち出して、開拓者と私がそれに答えたり思った事を言ったりして、ただのお喋りする時間が終わる事なく続いていた。
「なのかは、ゲームする?」
「最近は付き合ってやる事が多くなったかな?」
「私が誘ってるからね」
「そうそう。アンタが勧めて来て……あれ? 最近多かったのって、もしかしてここに来たから?」
「なのもゲーム仲間になれば良い」
開拓者に誘われてゲームはそれなりにするみたい。何をしているのか聞いてみれば、スマホを取り出して入れているアプリを見せてくれる。流石にゲーム端末は持ち歩いていないみたい。私と銀狼は殆ど持ち歩いているけど、やっぱり基本は家とかに置いているものなのかな。開拓者はここへ来るとなったら常に持ってきてくれてるみたいで、なのか自身も自分の部屋にあるらしい。
「なら、今度一緒に」
「ウチ、そんなに上手くないんだけど」
「大丈夫。上手下手は関係ないよ」
「ん。一緒に遊ぶ。それだけで、楽しいから」
「そっか。なら、約束しよっか!」
なのかが小指をこっちに差し出してくる。約束で小指と言えば、指切りげんまん。開拓者もノった様子で私に向けて来るので、そのまま私達は三人で輪を作る様にして約束をする。
約束が終わったからと言って、まだ帰る訳じゃない。変わらずにお喋りをしながら、お菓子を摘み続けるなのか。用意しようと思えばまだあるけど、流石に食べ過ぎるとこの後でご飯が入らなくなると思う。……そうだ。なら、いっその事。
「ごはん、食べて帰る?」
「えっ!? いや、流石に悪いよ」
「でも、興味はある。料理上手だから」
「確かに。ど、どうしよう!」
反応からすると、予定がある訳ではないみたい。だったらこのまま、二人と夕食を一緒に食べるのも良いかもしれない。銀狼とホタルが居ない中、一人で夕食を食べる事もある。寂しいと思う事もあるけど、仕方ないと分かっているから。こんな風に賑やかな中で食べられるのは嬉しい。
「気にしなくて良い。二人が良いなら、作る」
「アンタ、どうする?」
「ご馳走になろう」
「なら、ウチもそうしよっかな! そしたら、手伝う事があるなら何でも言ってね!」
「ん、ありがとう」
決まった。なら今日は腕によりを掛けて夕食を作ろう。多分銀狼とホタルは帰って来るにしても遅くなりそうだから、今回は先に三人で食べてから改めて作ろう。
夕食作りはとても賑やかになった。なのかがずっと喋りながら手伝ってくれたり、なぜかキッチンでゴミ箱を見つけてから気にし続ける開拓者にも手伝ってもらったり。ゴミ箱には特に変なモノを捨ててないと思うけど、何が気になったんだろう? なのかが呆れた感じで「また始まった」とか言っていたので、よくある事みたい。
出来上がった後も賑やかだった。お菓子を結構食べてた様な気はしたけど、ちゃんと作った夕食は用意した分全てを食べ切ってしまった。
「ふぅ。ご馳走様! すっごく美味しかった!」
「うん。毎日食べたいくらい」
「アンタ、それ意味分かって言ってる?」
「?」
「ん、お粗末様。予め来る日、教えてもらえたら、また作れる」
「そもそもこっちが分かってなかった!」
「?」
やっぱりなのかは元気で沢山喋って賑やかな人。居るだけでその場が明るくなる。何の話をしてるのかは分からないけど、特に気にする必要もないみたい。使い終わった食器を纏めてキッチンへ持っていけば、私の隣に開拓者が立って一緒に洗い物をしてくれる。
「なの、良い子でしょ?」
「ん。一緒に居て、楽しい」
「ちょっと! 二人で何コソコソ話してるの? ウチも入れてよ!」
少し控えた声で開拓者が話し掛けて来る。開拓者もまた、なのかと出会う前の記憶が無くて、ここに居る全員が記憶を色々な形で失っている。だけどそれを悲しんだり、悲観に思ったりは誰もしていない。あんな風に明るく笑顔で過ごしているなのかを見ていると、例え心が暗くなっても照らしてくれる気がする。開拓者が抱えたかもしれない不安も、なのかが祓ってくれたんだと思う。
後ろから近づいてくるなのかが強引に私達の間へ入って来ると、三人並んで狭くなった洗い場で話をしながら洗い物を進める。
それから片付けもして、少し過ごしてから二人は帰っていった。賑やかなのが一変、居なくなった途端にやって来る静寂に物悲しさを感じるのは仕方ない。
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『銀狼と一緒に今から帰るね』
『了解。食べたい物、ある?』
『結構ガッツリしたものが食べたい』
『パッと思いついたのは、ピザ』
『えっ!? 作れるの?』
『頑張る』
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だけどこれから銀狼とホタルが帰って来る。そう思うだけで嬉しくなる。二人のお蔭で綺麗になったキッチンで、ピザ作りを始めよう。