ヘルタが用意した試練は私を強くしてくれると信じている。だけど私の力は、私自身には余り意味がない。誰かと一緒に戦う時にこそ、この力は意味を成す。だから共に戦ってくれる仲間が必要だった。
開拓者はいつだって彼方此方を回っている。だけど常にメッセージをすれば即座に返してくれるし、何かお願いをすれば受け入れてくれる事も多い。だから今回はそれに甘えようと思う。勿論、開拓者へのお礼は準備してある。銀狼に聞いて開拓者が集めていたあの金と赤色のチケットを手に入れる方法を知って、何とか四枚まで集められた。思った以上に大変だった。
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『開拓者。お願いがある』
『良いよ』
『……まだ内容、話してない』
『イベントでしょ?』
『報酬は欲しいからね』
『イベント……確かにそうかも』
『ヘルタが私に試練を用意した。一緒に戦って欲しい』
『模擬宇宙で出来るから、ヘルタの部屋で待ってる』
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約束をしてから、準備をして宇宙ステーション『ヘルタ』にあるヘルタの部屋へ行く。ヘルタの人形が一体だけ立っているけど、本人と繋がってはいないみたい。模擬宇宙の中へ入ればきっと、ヘルタの試練が待っている。ここで開拓者が来るまで、ゲームでもして待っていよう。
少ししてから、部屋の扉が開いた。ちょうど私の画面でもボスを撃破したところだったから、タイミングはバッチリ。ゲームの報酬を確認してから、開拓者を迎える。向こうも入った瞬間、私が居る事に気付いたみたいで真っ直ぐに近づいてくる。
「ありがとう、開拓者」
「報酬はプレビュー出来る?」
「これ」
私は開拓者にチケットを四枚見せる。それを見て驚いた後に頷いてくれたから、報酬には満足はしてくれたんだと思う。
「試練は五つ」
「五つ? 一つ一枚だと思ってた」
「足りない?」
「うん。追加で一枚欲しいかな」
「むぅ……どうしよう。もう、無い」
「なら…………」
渋り始めた開拓者に困っていると、本人から欲しいモノを言われる。予想してなかったモノだからビックリしたけど、それが欲しいなら仕方ない。何に使うのかは分からないけど、多分知らない方が良いと思う。開拓者が言うには、銀狼とホタルにも内緒にした方が良いらしい。
報酬の話は終わり。私は開拓者と一緒に模擬宇宙へ入る。もう慣れて来た視界の揺らぎを感じた後、ピノコニーの光景が周囲に広がる中で、今までは無かった看板がその真ん中に置かれていたのに気付いた。
「あれ」
「うわぁ」
「?」
看板を指差せば、それを見た瞬間に開拓者の顔が嫌なモノを見た様な表情に変わる。私はピノコニーへまだ行った事が無いけど、どうやら実際にあんな看板があるらしい。上の部分に二つの目がついた、変な形の看板。生き物みたいに揺れてるのがちょっと気持ち悪いかも。
「見つかると、しつこく追い掛けて来るよ」
「客引き?」
看板と言えばお店の物。お店のメニューが書かれているそれをお客さんへ見せる事で、購買意欲を誘おうとしているんだと思う。だけどそれを煩わしかったり、しつこくて嫌になる人も居る。ピノコニーは広いと思うから、看板もきっと沢山ある。これが一杯追いかけて来る事を想像すると、やっぱり気持ち悪い。
ここに看板があるのにはきっと意味がある。だから私達はそこに記された物を読んだ。五行の文字が並んでいるけれど、一番上だけが読めて他は『※※※』で見えなくなっているみたい。多分、最初の奴をクリアしないと次の段は出て来ないんだと思う。
「最初は……バフの扱いだね」
「『仲間にバフを掛けた時、掛けられた仲間の与ダメージ50%アップ』? ゲームみたいな説明」
「やってみよう」
開拓者が看板に書かれていたその唯一読める文字列をなぞる様に触れる。途端に看板がその場から逃げる様に走り出して、異形たちがその後ろから列を作って表れ始める。そんな異形の頭上には花火が上がって、それは言葉になった。
「3ターン以内にクリアで、★3?」
「なら、チケットは★3の報酬だね」
「やっぱり、ゲームみたい」
試練はそれぞれの戦闘に何か特殊な条件があって、それを超える事で達成になるとヘルタから聞いてはいた。つまり★はその達成度の事だと思う。そう考えると、本当にゲームのシステムでよくある感じ。もしかして、ヘルタなりに分かり易くしてくれたのかもしれない。開拓者も即座に理解したみたいで、バットを片手に構える。私も薙刀を用意して、準備は万端。
「始めるよ」
飛び掛かって来る異形を相手に、私と開拓者は立ち向かった。
それからは必死だった。とにかく開拓者へ力を送りながら、私自身も倒れない様に攻撃を防いだりして生き延びる。私に殲滅する力はないから、開拓者のカバーは必須だった。力を与え、耐え、開拓者に倒してもらう。その繰り返し。私は真面に戦えない。
「次の試練は?」
「攻撃を受けたら、バフ解除」
「なら、全部避け切ってみせる!」
試練は勝手に前の条件を引き継ぎながら、次の段階へと進む仕様みたい。途中で止める事も出来はしたけど、やるなら出来るまでやりたいという思いは私も開拓者も同じだった。そのまま戦闘を続けて、今度は受け止める事も出来ないままに回避を続ける。それでも受けてしまう事はあるけど、傷もバフも開拓者になら何度だって掛け直せる。やっぱり私には効果が無いけど。
「次!」
「バフの使用者、狙われ率上昇……っ!」
一斉に異形たちが私へ向かって攻撃を仕掛けて来る。さっきまで開拓者が戦っていた異形ですら、無視して私の方へ。開拓者が素早く間に入ってバットを横へ薙ぎ払う事で多くの異形が吹き飛ばされるけど、数は全然減る様子を見せない。このままじゃ、いつか押し切られる。ここは、ありったけの力で開拓者にやってもらうしかない。
「開拓者、お願いっ!」
「やあぁぁぁ!」
バットが眩い程に輝き、それで十字を切る様に振るった事で斬撃の様に出来た光が敵を蹴散らしていく。全力で使う力は疲れる。何度も発動出来れば良いけど、そうはいかない。必殺技みたいなものだと思って間違いない。
「四段階目は?」
「……」
「どうしたの?」
「バフ、不可」
「!?」
私の力が一気に失われたのを感じた。光が出て来なくなって、迫って来る異形を前に私は開拓者に片手で庇われながら戸惑うしかない。私がもっと強くなるための試練。力を強くする事だけを考えていたけど、私自身も強くならないといけないって言うヘルタからのメッセージに感じる。やるしかない。
「無理は駄目だよ」
「ん……それっ!」
薙刀で敵へ攻撃を仕掛ける。ちゃんと攻撃そのものは命中してダメージを与えていると思うけど、開拓者みたいに一撃で相手を消し去る事は出来ない。だったら、何度も攻撃を仕掛けるだけ。相手の攻撃を避けて、もう一度。更にもう一度! おまけに、もう一度!
「っ! やった……っ!」
「まだ来るよ」
「……分かってる」
四度の攻撃を経て、異形が倒れ消えていった。異形を相手に戦った事は何度かあるけど、こうして自分の力だけで倒し切ったのは初めてだと思う。それでもここはヘルタ達天才が作った空間で現実じゃないから、本物となったらまた話は違うと思うけど、それでも倒せた事は嬉しい。
開拓者と一緒に近づいてくる敵を迎え撃つ。さっきまでは五体くらいで一斉に襲って来ていた敵が、急に三体ずつくらいになったのには調整を感じる。バフを受けられない開拓者と、攻撃力の無い私だけだとそれでも大変なくらい。だけど、試練はまだ一つ残ってる。
「アウトっ!」
渾身の振り切りをして、開拓者が異形を吹き飛ばした。私も何とかもう一体を倒せたところで異形たちが下がっていくのが見える。看板には最後の試練内容が掛かれていて……それはボスである事をすぐに教えてくれた。
「条件解除。ボスを撃退しろ。そう書いてある」
「急に分かり易いね」
敵が居なくなって静かになった。撃退しろと書いてあっても、その相手が居ないんじゃ何も出来ない。私は開拓者と目を合わせる。同じ事を思っていたみたいで、一緒になって首を傾げた時、突然私達の間へ挟まる様にそれは現れた。
黒い鎧。薙刀の様な武器。仮面を付けていて顔は見えないけど、人の様な姿をした異形。
「ぁ……」
それは過去に開拓者と戦った、もう一人の
開拓者がまず我に返って攻撃を仕掛けるけど、それは武器に防がれてしまう。そこで今度は私が攻撃を仕掛けようとしたところ、簡単に蹴り飛ばされてしまった。身体が宙を舞って、地面に転がる度に痛くて仕方が無い。戦いには傷が付き物なのは分かっていても、痛いのは辛い。
「っ! このっ!」
ボスを相手に開拓者が怒りを露わにしながら攻撃を仕掛けているのが見える。だけどそれは軽々と交わされていて、私はとにかく立ち上がった。バスを使えない条件は消えている筈。だから、開拓者にまたバフを……っ!
「待ってっ!」
送ろうとした瞬間、異形が一瞬で私の前へ詰めて来た。居合の構えをする様に姿勢を下げて、今にも振り抜かれそうな刃が見える。急に世界が遅くなった様な気がして、胸の中を鷲掴みにされたみたいな寒気を感じた。この後どうなるかなんて、嫌でも分かる。開拓者が手を伸ばしてくるのが見えるけど、間に合わないって事も。
「みん、な……」
ここは現実世界じゃない。だから死ぬ事は無いと分かっていても、その瞬間は酷く恐ろしいモノだった。振り抜かれた刃が私の身体を斬り裂いて、また吹き飛ばされる感覚。斬られた痛みも、転がる痛みも、もう感じない。開拓者の声が遠く感じる中、私の視界は真っ暗になった。
目が覚めたら、模擬宇宙の外にいた。私自身はやられてしまったけど、試練自体はまだ続いているみたい。今も尚、開拓者が模擬宇宙の中であれと戦っている。開拓者が心配だけど、それとは別にもう一つ気になる事がある。これが私の試練なら、開拓者がもし無事に勝てたところでクリアとはならない気がする。超えるべき私はもう、倒れてしまったんだから。
「良いんじゃない?」
「っ! ヘルタ」
「確かに貴女へ用意した試練だけど、仲間の力を借りて戦うのは別に悪い事じゃないよ」
「でも、私は負けた」
「貴女一人じゃ何も出来ないんだから、仕方ないよ。そろそろだね」
「?」
急に喋り出したヘルタの人形が、やがて私の隣を指差した。目で追えばそれは開拓者の身体で、見ると同時にその目が開き始める。どうやら戦闘は終わったみたい。
「ふぅ」
「どう、なった?」
「勝ったよ。銀河打者に、負けはないっ!」
「そう。なら試練はクリアだね」
「良いの? さっきも言った、私は……」
「貴女の力はその光だけじゃないよ。開拓者なら、よく分かるでしょ」
「?
「力は何もそれだけじゃない。繋がりも立派な力だよ」
「繋がり……」
「そう、繋がり。私の存在も貴女の力。勿論私にとっても、貴女は力の一つ。仲間だから」
「貴女、一人で戦う事が出来ない事を嘆いていたけど、そんなの当然。さっきも言ったけど、貴女は一人じゃ何も出来ない。私の様に完璧じゃないんだから」
「だから、私達は足りないものを足りない者同士で補い合えばいいよ」
励まされる様に、二人から言われた言葉に考える。戦闘において、私には攻撃をする能力が余りにも足りていない。だけどその代わりに仲間を援護したり、傷を癒す事は出来る。バッファーである事を受け入れて、アタッカーになれない事に劣等感を抱いていたのは事実。だけど、ゲームでもそう。何人かで編成を組むのが普通で、二つの能力を使えるぶっ壊れキャラは環境を破壊する。偶に居るけど、普通は一人一つ。
「私は、貴女を援護する」
「うん。そして私が敵をぶっ叩く」
「なら、私は相手を叩き潰すね」
私が出来る役割を熟す事が、戦闘に置いて大切なのかもしれない。戦えない事を悔いて無理に前へ出るのではなく、戦える人が戦いやすく安全で居られる状況を作るのが、この光の使い道。そして開拓者や一緒に戦ってくれる仲間も、私の力。
「ありがとう、二人とも」
試練を用意してくれたヘルタと、一緒に戦ってくれた開拓者へお礼を言う。当然の事なのに、今まで私はそれに気付けなかったから。この試練が私にそれを気付かせてくれたから。
「報酬だけど」
「ん。チケット四枚」
「よしっ、これで天井分」
「何の話?」
「こっちの話だよ。それと、追加報酬もちょうだい」
「ん。取って来る」
「待って。その必要はないよ。今、ここにあるでしょ?」
「……」
いくら記憶が無くても、残っている常識が抵抗する。外でそれが無いまま過ごすのは流石に……。だけど一緒に戦ってくれた開拓者が欲しているんだから、あげるべきだとも思う。本当に何に使うのか分からないけど、これはお礼だから。渡そう。
「確かに受け取ったよ。……あったかい」
「それ、どうするの?」
「勿論…………銀狼とホタルには内緒にして」
勿論の先を聞く事は出来なかった。だけど受け取って喜んでいるのなら、良い事にしよう。とにかく今は早く帰りたい。下半身がとても寒く感じるから。