迷い家の少女   作:ウルハーツ

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ルアン・メェイ:2 - 三月なのか:2&帰忘の流離人:2

 定期的な健診をしてもらうために、ルアン・メェイの居る場所へやって来た。もう何度か経験しているから、作業の流れはとにかくスムーズに。停雲が寝ていたのと同じ様なポッドで横になって、眠りはしないのでガラス越しに端末を操作しているルアン・メェイを見る。

 

「今日の菓子ですが……」

 

 手を忙しなく動かして画面から全く目も離さないのに、話す内容はお菓子の事。最初に作って持って行ったお菓子を切っ掛けに、私が作るお菓子を気に入ってくれたみたいで嬉しい。グルメって訳ではないかもだけど、天才の口に合うって結構な自信になる気がする。ヘルタは『まぁまぁだね』とかしか言わないから聞き出すのが少し大変だけど、ルアン・メェイは最初から細かく感想や要望を言ってくれるのも助かる。

 

 バイタルや全身をスキャンしている現在、私は聞く事に徹するしかない。お菓子について話をするルアン・メェイは少し柔らかい感じの笑みを浮かべていて、初めて出会った頃との印象には凄く差を感じる。実験動物みたいに見て来る目は今でも思い出せる。少し怖かったから。

 

 目の前のガラスが遠ざかり始める。ポッドが開いて、縦になり始めるので、止まったところで私は外へ出た。定期的な健診で今のところ問題が見つかった事は無い。今回も大丈夫だったみたいで、機械から離れたルアン・メェイが近づいてくる。

 

「特に変わった点は無い様ですね」

 

「ん。健康」

 

「その様です。それでは、貴女を作った菓子を頂きましょう」

 

 今日持ってきたのはフルーツたっぷりのパウンドケーキ。家で切ってはあるから、それを用意してもらったお皿に乗せる。丸いテーブルを囲んで向かい合う様に座れば、優雅な動作でルアン・メェイが一口。前もそうだけど、やっぱり感想は欲しいから聞くまでは食べない。味見はちゃんとしてるから、食べられない筈はないけど、その人の口に合うかは別の話だから。

 

「これは、洋酒ですか?」

 

「少し、入れた。酔う程は入れてない」

 

 手に入れるのは銀狼にお願いした。まず私はこの見た目って事もあって、ヤリーロ-VIのベロブルグにあるお店で買う事が出来なかった。ホタルも見た目からして若くて、購入出来る年齢じゃないのは明らか。銀狼もそれは同じだけど、簡単にそれを何とか出来る方法があったみたい。宅配とかは当然あの家に来る訳もないので、どこかで手に入れて持って帰って来てくれた。カフカに頼んだのか、もっと別の方法だと思う。詳しくは詮索しない事にした。

 

「香る程度のブランデーと、優しく包むスポンジの中にわざと食感を残した甘酸っぱい果物」

 

「お酒の量、難しかった」

 

「入れ過ぎてしまえば、強い香りに全てが台無しになる事でしょう。とても美味しいです」

 

 実際、ルアン・メェイの言う通りに試作の段階で駄目になったのもあった。お酒の量が分からなかったから、多すぎて鼻が苦しくなったり。逆に入れる量を減らし過ぎてお酒の存在が全く感じられなかったり。前者は作ったものの強すぎて誰も食べれなかったので、勿体無いとは分かっても仕方なく処分。後者は味気ないだけだったから、違うものと合わせて食べ切った。

 

「?」

 

『ミス・ルアン・メェイ! 話したい事が』

 

「……」

 

 部屋の外側を映すモニターに、研究員らしき男の人が立って話し掛けて来る。それはこの部屋全体に聞こえて、当然私達にも。けれどルアン・メェイはそれを少し冷めた目で見ると、立ち上がってさっきまで触っていた端末に触れた。途端に自動で開閉する入り口の扉が緑から赤色に変わる。確か緑は近づいたら開いて、赤が完全に閉まっている証だった筈。

 

「良いの?」

 

「無粋な雑音は要りません。今はこの至福を堪能する時です」

 

 モニターには変わらずに研究員の人が立って何かを言っているけど、音声も遮断したみたいで何も聞こえない。そして最初から何も無かったみたいにルアン・メェイはティーカップで飲み物を飲んでいて、私はちょっと悪いと思いながらもこの時間を言われた通り続ける事にした。

 

 お菓子を食べている間、そんなに沢山話をする訳じゃない。ルアン・メェイはお喋りする性格じゃないから。私も話すのは好きだけど、相手から話された事に返すのが殆どな気がする。だけど不思議とこの沈黙が気まずいって感じはない。ヘルタもそうだけど、優美な身構えはそれだけで見る価値があるのかもしれない。ルアン・メェイの動作は凄く綺麗。

 

「? どうしましたか?」

 

「ルアン・メェイ、綺麗」

 

「……ありがとうございます。貴女も……いえ。貴女の場合、綺麗とは違いますね」

 

「?」

 

「まるで、愛玩動物の様です」

 

「……褒めてる?」

 

「私なりの賛辞のつもりなのですが」

 

「ん。なら、ありがとう」

 

 多分、綺麗とか美しいって言葉をルアン・メェイは聞き飽きるくらいに言われてると思う。それでも思ったのだから、嘘はない。にしても、その返しが愛玩動物なのは何とも言えない気分。悪い様には捉えないにしても、ペットとかに向ける様な感情を向けられるのは流石に。もしかしてお菓子で少しは縮んだ気になっていた距離も、実際は研究動物から愛玩動物に変わっただけ? そんな事、無いと思いたい。

 

「ヘルタに会ったと聞きましたが」

 

「前に、家へ行った。フルーツタルト、作った」

 

「この前のですね。彼女の宇宙船へ入ったのですか?」

 

 ルアン・メェイは本物のヘルタに会った事があるみたい。天才同士で交流は深いって事だと思う。そんな彼女が言うには、本物のヘルタが誰かと会う事は凄く稀な事で、宇宙船へ招待するのは更に特別な相手にだけ許されているらしい。そう聞かされると、それになれた事が嬉しくなる。その内、宇宙ステーション『ヘルタ』へ本人が来る事もあるとは思うけど。

 

「彼女の元へは頻繁に通っているのですか?」

 

「偶に。行ったら三日、帰れないから」

 

「常に位置を変え、追跡不可な宇宙船へ繋げるとなれば、それだけ掛かるという事ですか」

 

 あの時から何回かお菓子を持って行った事がある。その度に帰ってから銀狼とホタルが離れなくなったりするけど。フルーツケーキ以外にも色々持って行った。このフルーツ入りパウンドケーキも、前に持って行ってる。思えばルアン・メェイとはこうした定期健診の時か何か特別なイベントでもないと会ってないから、本物のヘルタと同じくらいの回数だと思う。

 

「彼女へはフルーツタルト以外に、何を?」

 

「ビスケット。チーズケーキ。後は、プリン?」

 

「……私はまだ、それらを食していません」

 

「……」

 

 何が言いたいのか、分かった。ヘルタがルアン・メェイの食べたフルーツタルトを食べたがったみたいに、ルアン・メェイもヘルタが食べたお菓子を食べたいみたい。そこまで望まれて悪い気はしない。でも頻繁に会う訳じゃない上に、会うとしても一度で持って来るのは精々一種類。今までは同じ物にならない様にバラバラで用意していたけど、二人には共通で同じ物を一回は持っていくべきかもしれない。

 

「?」

 

 

――――――――――

 

『後輩ちゃん。今日は定期健診だったと思うんだけど、今、ミス・ルアン・メェイと一緒に居るのかしら?』

 

『一緒。お菓子食べてる』

 

『実は研究員が締め出されて、私にどうにかして欲しいって言ってきたの。何とかならない?』

 

『分かった』

 

――――――――――

 

 

 アスターからのメッセージ。さっきの研究員はいつの間にかモニターに映っていなくて、『ヘルタ』の所長であるアスターへ助けてもらいに行ったみたい。それ程大事な用事だったのかもしれない。

 

「アスターが、困ってる」

 

「先程の研究員ですか」

 

「ん」

 

「……この場所を仕切る彼女に迷惑を掛けるのは、私の望む事ではありません。残念ですが、この時間もお終いですね」

 

「また、ある。今度もお菓子、作って来るから」

 

「はい。楽しみにしています」

 

 ルアン・メェイがもう一度端末を操作して、今度は入り口の色が赤から緑色に変わる。私も帰る準備をする中、さっきまでの穏やかな笑みを失ったルアン・メェイが冷たい目で来るであろう研究員の映るモニターを見ていた。どんな話があるのかは分からないけど、あの研究員はこの後無言の圧を強めに感じる事になると思う。適当に合掌でもしておこう。

 

 

 

 

 

 開拓者と一緒にヘルタの用意した試練を超える事は出来た。だけどそれで私の修練は終わりじゃない。寧ろあれは始まりであって、ヘルタは定期的に試練を用意してくれる様になった。期間で言ったら、週に一度くらい。基本的に特殊条件は変わらず、でも敵は毎回変わっている。更新する度に手を加えてくれているのかと思ったけど、ヘルタに聞いてみたら『そんな暇はないよ』と言っていたから、自動で更新されているんだと思う。

 

(わたくし)でお役に立てるのなら、力を貸しましょう」

 

「師匠たちの剣術、見せてあげる!」

 

 今回、一緒に挑んでくれるのは停雲となのか。停雲とは始めて出会った時、彼女の居た裏の世界で少しだけ一緒に戦った事がある。あの頃の記憶は朧気みたいで、それでも覚えてくれていたみたい。初めて開拓者と共に家へやって来た時、私を見た時の驚いた様な顔は覚えてる。あれから何度か会っているけど、今は故郷へ帰らずに旅をしているらしい。何処からでも家へは来れるから、用や気が向いたら来てくれている。尻尾がとてもフワフワしてて、手入れの仕方は教えてもらった。

 

 なのかも開拓者と家へ来た時以来、偶に来ている。一緒にゲームもしたけど、やっぱりなのかはお喋りの方が多い気がする。いつも笑顔で元気もあるから、居るだけでその場が明るくなるし騒がしい。今日は開拓者に戦ってくれる仲間を相談したら、なのかがやって来た。今日は弓を使って戦ういつものスタイルじゃなくて、和服を着て二本の剣を持ったかなり違う雰囲気。見るからに前線って感じがする。

 

 模擬宇宙の中でお互いの戦い方を一度確認する。なのかに関しては戦闘を一度も一緒にした事が無いから、念には念を入れて。

 

 停雲は舞う事で周りを鼓舞出来て、火の玉を飛ばして敵を燃やしていたのは覚えている。ゲームで例えるなら、バフデバフを扱う補助弱体が得意って感じ。私はバフとおまけ程度のヒーラー。なのかは普段なら仲間を守る力を扱うのが得意みたいだけど、今の格好だと攻撃の方が得意らしい。同じ人なのに戦い方が服装で一転するって、本当にゲームっぽい。

 

「私が、みんなを強化して」

「私が敵を弱らせましょう」

「それでウチが無双すればいいんだね! 二人が居るなら、百人斬り出来ちゃうかも!」

 

 やる事は決まった。なのかには前に出てもらうけど、それだけ危険も伴うから出来る限り援護は切れない様に掛け続けよう。徐々に敵自体も強化されていて、初めて挑んだ時よりも難しくなっている筈。私は前に出る事は出来ないけど、こうして開拓者を通じて出来た縁もまた力だと教えてくれたから。二人に頼って、それで二人に頼られる様に、なるっ!

 

 現れる敵を前に、私達は各々の役割をきっちりと果たす。なのかとは初めてで、停雲とも一度だけしか戦っていないのに、不思議と違和感も感じないままに戦う事は出来た。途中でなのかがミルクティーを賛辞したのはどうしてだろう? 飲みたくなった、とか? そういえば、食べるお菓子を作る事はあっても飲み物を作った事は無いかも。今度、試してみようかな。

 

「大物が居ますね」

 

「先制攻撃、する?」

 

「いいよ。ウチの剣は準備万端!」

 

「それじゃあ、一緒に」

 

 現れる異形をバッタバッタとなのかが切り倒していく中で、大きな異形が姿を見せた。異形って言うか、あれは機械だと思う。片手がチェーンソーみたいになっていて、攻撃的なのは見た目から分かる。まだこちらに気付いていないみたいで、私達は見合って頷いてから先制攻撃を仕掛けた。

 

桃花(とうか)影落(えいらく)飛神剣(ひしんけん)!」

「期日まだ、来ず」

「油断大敵」

 

 

 なのかがいつでも攻撃出来る様に武器を持って構えたのを見て、停雲が舞い始める事で炎が周囲を包み込む。そこで私達に気付いた機械に、私は不意打ちの決める様に薙刀で切りかかった。上手く入ったみたいで、一気に体制を崩した機械。かなり有利な状態から、戦いを始められたと思う。

 

 相手が大物でも、戦い方は変わらない。私が援護して、停雲が相手を弱らせて、なのかが強化された一撃を放つ。時には隙をついて連続切りまで入れて、やっぱり戦う度にミルクティーは思い出すらしい。それ程好きなら、最初に作る飲み物はミルクティーにしよう。それでちゃんと美味しいのを作れたら、今回のお礼としてなのかにあげよう。

 

 なのかの放った一撃が止めとなって、機械が音を立てながら爆発する。それと同時に模擬宇宙が終了したみたいに視界が強制的に歪んで、気が付いたらヘルタのオフィスに戻っていた。今回の試練も無事に突破出来たらしい。

 

「ありがとう、なのか。停雲」

 

「また美少女の力を借りたくなったら、遠慮なく頼ってね!」

 

「貴女様の力になれたのなら、何よりです」

 

 ヘルタの人形に本人は居ないみたい。模擬宇宙の試練を熟すと、私の修練になる上になぜか開拓者にも良い事があるらしい。報酬をどこでもらっているのかは知らないけど、良い事があるならそれに越した事は無いと思う。

 

「それじゃあ、一度家へ帰ろっか?」

 

「ん。お願い」

 

 基本的に、私は帰りのチケットしか持っていない。家から来るのに、家へ繋がるチケットで外には出れないから。そこで手間ではあるけれど、なのかは開拓者と一緒に家へやって来て、停雲も同じ様に旅先からチケットを使って家へ来て私達は合流。そして約束の時間になったら、宇宙ステーション『ヘルタ』からヘルタ人形に繋げてもらって、ここへやって来た。

 

 開拓者となのかの乗っている星穹列車は今もどこかを走っているのかもしれない。ここへは来ていないから、一度全員で家へ帰ってから、開拓者に迎えに来てもらう事でなのかは帰る事が出来る。停雲もその時に列車へ乗車して、元の居た星へ帰る手筈に。新しい場所へは中々行けないけど、一度行った場所へはなぜか軽々と行ける不思議な仕様だと開拓者は言っていた。

 

 家へ帰ってから、取り敢えずお茶をする事にした。開拓者がやって来るまでの間、ここに二人は居てくれるから。そう思って開拓者にいつでも来て良いとだけメッセージを送ったら、間髪入れずにやって来たのには少し驚いた。思えば、来たからすぐに帰る必要はないってすぐに気付いたけど。開拓者もここでお茶をして、それから帰れば良いんだから。

 

「あんた、良い事でもあった?」

 

「ガチャ石が増えた。三人のお蔭だよ」

 

「げーむ、のお話でしょうか?」

 

 ちょっと機嫌が良い開拓者。何かのイベントが思った以上に上手くいって、ガチャ石が増えたみたい。無課金だったり、微課金だったりすると、イベントの報酬はいつだって美味しく感じられるから待ち遠しくなる気持ちは分かる。ヘルタの試練や模擬宇宙のお蔭で少し稼げてるから、私も課金したって……するなら、程々にしないと。食材を買うお金をまずは最優先に。そうだ、ミルクティーの作り方を調べてみよう。

 

「なのか。今度美味しいミルクティー、淹れるね」

 

「えっ、本当!」

 

「そういえば、先程の戦場でも時々呟いておられましたね」

 

「あぁ、必殺技の固定セリフか」

 

「何言ってんの、あんた……確かに思いっきり攻撃する時、思い出しちゃうんだよね~。師匠達との修行を思い出すと、特に」

 

 美味しい茶葉はアスターが用意してくれると思う。だから私が用意するのは合う牛乳と、正しい淹れ方の知識。淹れ方だけで良くも悪くも味は変わってしまうから、簡単そうに思えて案外難しいと思う。だから今回は出さない。ちゃんと美味しいのを淹れられるようになってから、なのかに飲んでもらいたいから。




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