迷い家の少女   作:ウルハーツ

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銀狼:7&ホタル:9&開拓者:6 - マダム・ヘルタ:2

 この前、銀狼と一緒に自堕落な一日を過ごしたものの、ホタルが帰って来てからの記憶は曖昧。だけど怒られたのは間違いない気がする。褒められた事をしていないのは重々承知しているけど、あれは凄く楽しいからまたやりたいとは思ってる。銀狼も間違いなく同じ気持ちだと思うんだけど、そうなると問題はホタルにどうやって内緒で始めて終わらせるか。

 

「……そうだ」

 

「ん~?」

 

「銀狼。良い事、思いついた」

 

 私はずっと、ホタルが居ない時にどうやって隠れて過ごすのかを前提に考えていたけど、その根底から変えてしまえばいい。ホタルが駄目だと言って怒るのなら、そんなホタルも取り込んでしまおう。あの自堕落で楽しい時間にホタルも引きずり込んで、みんなでダラダラと過ごせばいい。

 

「そう簡単にいかないと思うけど?」

 

「ん。手強い」

 

 確かに簡単にはいかない。ホタルが本気で怒ったりしたら、きっと私達じゃ敵わない気がするから。戦えるのかとか知らないけど、何かそんな確信がある。となったら、まずはホタルを押さえられる様な仲間が必要かもしれない。そんなの、私の周りには一人しか思いつかない。

 

 

――――――――――

 

『ダラダラする事に興味、ある?』

 

『なんの話?』

 

『ベッドから降りないで、お菓子やジュースを常に手の届く範囲に置いて、好きなだけ食べながらゲームを飽きるまで遊び続けて、最後は寝たい時に寝る』

 

『なにそれ、最高じゃん』

 

『でも、それを良しとしない人が居る』

 

『ホタルだね』

 

『ん。だから、一緒にダラダラしない? それで、ホタルも引き込むのに協力してほしい』

 

『分かった。ピザとポップコーン、持っていく』

 

――――――――――

 

 

 開拓者を味方につけた。今度は正々堂々とホタルを呼び込んで、あの続きをしよう。

 

 銀狼と一緒にこの前を再現する様にダラダラする準備は出来た。今日はホタルも最初から家に居る状況で、まずは銀狼の部屋に二人で籠り始める。そこで開拓者が家へやって来ると、ホタルとリビングで軽く話をしてから銀狼の部屋へ入って来る。メッセージでここへ来る様に言ってあったから、流れはスムーズ。しばらく過ごしていると、開拓者が来たのに降りて来ない私達と、そんな開拓者も上がってから戻って来ない事を不思議に思ったホタルが様子を見にやって来る。

 

『みんな、居るの?』

 

「来た」

 

「準備は良い?」

 

「いつでも行けるよ」

 

『……入るよ?』

 

 扉越しに聞こえて来るホタルの声。私達は何時でも行動出来る様に構える。やがてゆっくりと開いた扉から入って来るホタル。その前を取り囲む様に私達は待っていて、入って来ると同時にまずは開拓者が暴れ出す前にホタルを取り押さえた。

 

「な、なに!?」

 

「銀狼!」

 

「はい、デバフデバフ」

 

「へっ? 二人とも、何するの!」

 

「ホタル」

 

「ねぇ、何してるの?」

 

「一緒に、堕ちよう?」

 

「っ!」

 

 銀狼に少し弱らせて貰ってから、私はホタルに近づいた。ホタルの行動を制止する方法は物理的な事以外にも一つだけあった。それも物理的と言えばその通りなんだけど、開拓者みたいな取り押さえとは違う方法。それはホタルの姿勢を低くした上で、正面から私が抱き着く事。正確には銀狼曰く、吸う行為を強制的に行わせる事。

 

 開拓者のお蔭で低くなった姿勢のホタルに抱き着いて、胸にその顔を抱く様にする。一緒に寝る時とかはよくホタルがしてくる行為だけど、こうやって反対になると私が少しだけお姉さんになった気分。急な事で抵抗していたホタルから力が抜けていくのが分かる。やがて開拓者が拘束を解いても、私に頭を抱かれたままホタルは動かなくなった。窒息している訳では無いから、大丈夫。私にはそもそも無理だと思う。

 

「ホタル」

 

「ふぁ」

 

「ダラダラしよ?」

 

「ぅん。……するぅ」

 

「ふっ、堕ちたね。……あれ、そんなに良いの?」

 

「まぁ、一種の劇毒みたいなもんだよ」

 

 まだ終わりじゃない。このままの姿勢でゆっくりと後ろへ下がりながら、ベッドへと近づいていく。そこでホタルを誘いこんで、後は横になってから寝るのではなくて上半身を起こせば完了。一応念のために、ホタルの膝上に乗って身体を預ける。後ろからホタルの腕が回って来るけど、私の両腕は解放されているから問題ない。無力化完了の意味も込めて、銀狼と開拓者に親指を立てる。

 

「ホタル、何食べる?」

 

「すぅー」

 

「うん、もう食べてるね」

 

 これを食べると言っては駄目な気がするけど、聞いても吸うばっかりで反応しないから仕方ない。

 

 私の左右に銀狼と開拓者が座る。ホタルがこの状況を許してくれるままに元へ戻ったら、四人でゲームをする事にして、今は三人で始める。この前と同じ様に銀狼から食べたいお菓子を催促されれば、食べさせてあげる。それを見た開拓者が真似する様に催促して来たから、同じ様に。お菓子ならまだ分かるけど、ピザの催促はちょっと面倒。一口で入るモノなら楽だけど、何口か食べ切るまで持ってなきゃいけないから。

 

 遊び続けてどれくらい経ったか。それなりにゲームをしていると、ようやくホタルも話せる様になった。我に返ったら怒り出すんじゃないかと少し心配したけど、最初の一声が「なんのゲーム?」だったから大丈夫そう。

 

「いつものFPS」

 

「四人でやる? 今なら期間限定で四人プレイ(クワッド)、出来る」

 

「良いね。あ、チョコ頂戴」

 

「はい。あーん」

 

「あむっ」

 

「ずるい。あたしも食べさせて」

 

「何、欲しい?」

 

「え、えっと……あ! オークロールもあるんだ。それじゃあ、これで」

 

「ん」

 

 予め一口サイズにカットしてあったオークロールをホタルの口へ持っていく。これはホタルの好物みたいで、食べたホタルは美味しそうに笑みを浮かべて頬へ手を添えた。

 

 それから四人でゲームを開始。無事にこの自堕落の沼へとホタルを引き込む事に成功した今、私達はもう飽きるまで遊び続ける。この前は銀狼の横で寝てしまったけど、今回もそうなりそうな予感がする。だってホタルがずっと背中に居るから、抱き締められている事もあってとても暖かくて、今にも眠ってしまいそうな安心感があるから。

 

 

 満足いくまで自堕落な一日を過ごせた。ホタルがこの楽しさを少しでも分かってくれたら、今後は気にする事なくやれる。何ならまた、一緒になって自堕落な一日を過ごせると思う。でも終わった後、翌日になって開拓者が帰ったり、銀狼とホタルが用事で出て行ってしまうと急に寂しく感じてしまうのはどうにかしたい。ずっとくっ付いていたから、あの温もりが余計に恋しく思ってしまう。

 

「ねぇ」

 

「! ヘルタ?」

 

「約束のプリン、いつになったら持って来るの?」

 

「……ん。それじゃあ、今日」

 

 急に動き出したヘルタ人形。言われてみれば、しばらくヘルタの宇宙船へは行っていない。行ったら三日間は帰って来れないから、気軽には行けない。初めて行ったあの日から一回も行っていない訳じゃ無いけど、期間は空いた気がする。またお菓子を作って持っていく約束もしていたから、この際行こう。……銀狼とホタルに帰れないって予め伝えておかないと。

 

 

 

 

 

 ヘルタの宇宙船。本人からの催促もあって、約束の手作りプリンを持参した。ここへ来てしまった以上、三日間は帰れない。一応、銀狼とホタルには連絡だけしておいたから大丈夫の筈。まだ既読は付いて無いけど。

 

「これ、プリン」

 

「よろしい。それじゃあ、これを着て」

 

「?」

 

 普段通り、何かの研究をしているみたいに部屋で片手に本を持って読んでいた本物のヘルタ。そんな彼女の目の前に、箱に入れたプリンを見せる。机の上に置けば、中身も見ずに満足気な雰囲気で言ったヘルタが片手を振るった。すると目の前に突然現れた服。ちょっとヘルタっぽい紫が目立つけど、これは給仕服だと思う。少しフリルも付いたカジュアル寄りな雰囲気。でも今まで服なんか特に気にしてなかったのに、なんで今になって?

 

「私の世話をするなら、それらしい格好にならないとね」

 

 確かにここへ来て私がする事といえば、持参したゲームで遊んでいるか、ヘルタの食べる料理を作ったり、生活の手助けをしているくらいな気がする。普段は何十人と居るヘルタ人形に自分の着替えとかを手伝わせているけど、私が居る時は五人くらいに数を減らしているみたい。

 

 もうヘルタにとって、ここへ来た私が自分の世話をするのは当然の事になっているらしい。別にやっていて嫌って思った事もないから別に良いけど、その為にこの服は用意したって事? 理由はともかく、せっかく用意してくれたから、着ないのは勿体無い気もする。

 

「どう?」

 

「似合ってるよ。私が用意したんだから、当然の事だけど」

 

 名付けて『ヘルタの宇宙船専用給仕服』を着用した。ヘルタと同じ様にスカートが前部分だけ短くて後ろは長かったり、肩や背中が出たりしていたちょっと着慣れない。あくまでも給仕服って分かる雰囲気が残ってはいるけど、少し御揃いって感じもする。

 

 そんな事を考えていると、ヘルタがもう一度手を宙で振るった。途端にこの服同様、現れたのは小さなとんがり帽子。これは本当にヘルタが被っているのと同じ御揃いみたい。それが私の頭上に現れて、ゆっくりと降りて来る。見上げていた私の顔へ最後には落ちて来て、視界が真っ暗になった。

 

「それはおまけだよ。あげる」

 

「ん。御揃い」

 

「私があげるんだから、大事にしてよね」

 

 アスターがくれた服の中には勿論、帽子もある。だけどあんまり好き好んで被った事は無かった。帽子を被るって習慣が無かったから、余計に。でも今回は少し特別な気分。ゲームとかでは存在しているとんがり帽子だけど、実際に被っていて似合っているのはヘルタ以外見た事が無い。だけどそんなヘルタが私にくれたなら、被ってみよう。似合わないって言われたら、その時はアスターのと同じ様に片付けてしまうけど。

 

 着替えて帽子も被ったけど、今すぐにお世話をする様な事は無いと思う。なので持ってきたプリンを開けて食べる事にした。スプーンとかはヘルタの家にあるモノを使って、いざ実食。ってなった時、ヘルタは目の前に置かれたプリンへ一向に手を伸ばそうとしない。本を読む手をそのままに、私を見て来るだけ。

 

「食べないの?」

 

「見て分からない? 今、私の手は塞がってるの」

 

 なら本を読むのを一旦辞めれば良い、なんて思った事をそのまま言ってはいけないって事くらいは分かってる。まだ食べる気が無かったのなら、開けようとした段階で何かを言われていると思うから、食べたいとは思っている筈。最近、多くなった気がする。誰かに食べさせる状況。

 

「あーん」

 

「よろしい。あむっ」

 

 天才は気難しくて面倒な存在っていうのが定番だけど、それは間違いじゃないと思う。でも同時に我儘で子供っぽいけど、満足させる事さえ出来ればきっと扱いやすいんだと思う。本人に言ったら絶対に怒るし、満足させる事が例え出来たとしても、扱いやすいかどうかはまた別の話かもしれないけど。ルアン・メェイもヘルタも、私達には全然分からない思考を持っているって事だけはよく分かるから。

 

 実際に食べさせる事を継続すると、私自身が食べられない。味見はして来てるから分からない訳じゃ無いんだけど、せっかくなら一緒に食べたかった。なんて事を考えていたら、またヘルタが手を振るう。私用の先程使っていたスプーンが勝手に浮き上がって、プリンを掬ってから口元へ近づいてくる。食べろって事だと思う。

 

「あむっ」

 

「ほら、手が止まってる」

 

「……あーん」

 

 ヘルタがそうやって私に食べさせるなら、もう最初からお互いに自分で食べれば良いのに。そう思ったけど、これも言わない方がいい気がするので黙っておこう。

 

 

 ヘルタの宇宙船での生活はそんなに悪くない。やっぱり家が一番とはいつだって思うけど、ここも十分快適だから。

 

「B-7で」

 

「むぅ……」

 

 喋る鏡なんかも居て、ヘルタが忙しい時なんかは一緒にオセロをしたりも出来る。結構強いから、楽しい。ヘルタに何かを言われているのか、そもそも沢山喋る訳では無いのか、こうしたゲーム以外で鏡は殆ど喋らない。雰囲気からお喋りって感じがするから、多分前者だと思う。

 

「ヘルタ様がお風呂に入る時間ですよ」

 

「そう」

 

「行かなくて良いのですか?」

 

「? どこへ?」

 

 家からは外が見えないけど、ここは宇宙だから見えても時間がサッパリ分からない。幸い時計はあるにはあるけど、家じゃないからどこにあるかを完璧に把握している訳でも無い。だから鏡が、何をする時間か教えてくれる。自らの容姿にも自信を持っているヘルタが、お風呂や睡眠などに気を使わない訳が無い。だからその辺は徹底してると思うけど、それで私が動く事って何? ベッドメイク、とか?

 

「ここに居たんだ」

 

「ヘルタ。お風呂?」

 

「そうだよ。早く用意して」

 

「浴槽、今から溜めるの?」

 

「何言ってるの。貴女が、私を洗うんだよ」

 

「……」

 

 言わないのに、当然でしょ? って声がどこからか聞こえて来る様な錯覚を覚えた。確かに今は給仕服の格好で生活の手助けをしているけど、そこまでやるのは流石に聞いてない。ご飯を作ったり、朝の着替えを手伝ったりはしてきた。それに加えて今度はお風呂まで?

 

 もうヘルタの中では決定事項らしい。ここで断ったり嫌がったら、機嫌を損ねるのは間違いない。ヘルタの宇宙船で、彼女の機嫌を損ねたりしたら、最悪宇宙へ放り出されたりする? 流石にそこまでしないとは思うけど、居心地が悪くなるのは嫌だから頑張ろう。

 

 脱衣所で、数体のヘルタ人形と協力してヘルタを脱がす。着せた事もある服だから、脱がすのはそんなに難しくない。ちゃんと裸に出来て後はお風呂から出て来るまで待つと思っていたら、今度は協力していたヘルタ人形達が一斉に私の服を脱がしに掛かって来た。

 

「なんで?」

 

「お風呂に入るんだから、服を脱ぐのは当たり前でしょ?」

 

「私も?」

 

 抵抗する間もなく、今日着ていた給仕服を脱がされる。帽子も取られて、しかも逃げられない様にか身体が浮き始めた。地に足が付いて無いとかなり不安になる。そのままヘルタの横を浮かばされて、浴室へ入った私はヘルタに言われるがままにその身体や髪を洗ったり、入って来たヘルタ人形に全身を洗われたり。やがて一人で住んでいるとは思えない、凄く広くて大きな浴槽の端で私は両肩を出して脱力する。

 

「疲れた」

 

「変に抵抗するからだよ。素直に身を任せればいいの」

 

 優雅に両腕へ手を滑らせて湯を堪能するヘルタ。いつも綺麗なのは知ってるけど、洗った後だからか余計に肌艶が増している気がする。まだやって来て一日目なのに、今回は最初からとても疲れた。何か雰囲気からして、残りの日数もお風呂はこうして同じになりそう。きっとあの給仕服がお風呂から出たらまた用意されていると思うし、これからここへ来る時は遊びじゃなくてヘルタのお世話をする為に来る気で居ないと駄目かもしれない。

 

 

「今日は、同じ部屋?」

 

「そうだよ。貴女、抱き枕だから」

 

 お風呂からあがってしばらくして、就寝の時。寝る時まで一緒な上に、ホタルの時同様に私が抱き枕化する事があっという間に決定した。慣れてるから別に嫌じゃないけど、ちょっと面倒に感じるのは仕方ないと思う。やっぱり口には出さないけど。

 

 今日だけで色々と思う事はあったけど、それでもそれ以上にヘルタからは沢山のモノをもらってる。だから少しでも満足してもらえるなら、私はヘルタの望む事を受け入れる気持ちでいる。あと二日間、ヘルタの宇宙船で過ごす新しい環境に頑張って慣れよう。




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