誰かと一緒に過ごそうって話になった時、次に考えるのはどこで何をするかになるのは自然な事だと思う。アスターみたいに宇宙ステーション『ヘルタ』から殆ど出る事がない人の場合、ヤリーロ-VIへ行ったりするのは有りだと思う。だけど普段から頻繁に色々な場所へ行っている開拓者だったりすると、落ち着いた場所で過ごしたいって時もある。……例に出しはしたけど、開拓者の場合はどこかで落ち着こうって余りならないかも。
「御機嫌よう、妹ちゃん」
「ん。いらっしゃい、ロビン」
今日はロビンが家にやって来た。普段から歌姫として常に忙しい毎日を送っているロビンの貴重なオフの日。勿論ロビンにも自分の家がある筈で、そこで日々の疲れを少しでも癒すのだと思っていた。だけど実際はこうして家へ遊びに来てくれた。きっと、疲れている筈なのに。
だから今日、私は全力でロビンをもてなそうと思う。お菓子や飲み物の用意は当然として、色々な癒しになる方法を調べて、それに必要な道具の調達もしておいた。来るって聞いたのが数日前だったから、やろうと思っている事の大体は下準備出来ている。横になる必要もあるけど、それは後で私のベッドを使えば良いと思う。
「どうぞ」
「いただくわ。……ふぅ。あら? 今日のは知らない味。新しい茶葉を用意したのね」
「ん。今日はロビンの為に、色々用意した」
「私の為に? そう、ふふっ。それは楽しみだわ」
疲れを癒すハーブティーだとか、お菓子にもそれなりにちゃんと知られている癒し効果のある食べ物を混ぜて作った。まずはいつも通りにリビングで過ごしてから、適当なタイミングで次に移行しようと思う。そうだ、今日は一日オフらしいけど、泊まっていったりするかな?
「今日、泊まる?」
「実は何も決めていないの。それも良いかもしれないわ。迷惑じゃないかしら?」
「ん。二人、今日帰って来ないから。私は嬉しい」
「そうなの? なら、今日は一日ずっと、お姉さんと過ごしましょうか」
ロビンの泊まりが決定した。いつもリビングのソファで一緒に過ごす時、隣同士に距離が近い事もあって、今回は私からロビンの隣に移動してみる。ちょっと驚いたみたいな表情になってから、また優しい微笑みで何も言わないから嫌だとは思われてない筈。
最近の出来事を世間話として話す。最後にロビンとあったのは、ピノコニーの夢境で花火に出会った時。お互いに顔を見る事は出来たけど、結局話は殆ど出来ないままにお別れしてしまったから。それ以前だと、随分前になってしまう気がする。確か、なのかと出会う前くらい? うん、相当前。ロビンが忙しいから、仕方のない事だとは分かってるけど。
「ここで今日は何をしてもらえるのかしら?」
「マッサージ。お風呂にブラッシング。最後に耳かき」
「……」
思っていたのとは大分違ったみたい。また驚いた表情を浮かべるロビンに、私は用意していたモノを見せる為にテーブルへ並べていく。
まずはマッサージ。道具はオイル。ロビンなら受けた事があると思うけど、結構練習はしたからそれなりに出来ると思ってる。ホタルと銀狼には実際にやってみたけど、悪くない評価だった。感想が気持ち良かったとか、コリが解れたとかじゃなくて、癒されたなのが気になったけど。
お風呂ではヘルタにやった時と同じ様にするのが良いと思った。相手を洗ってあげる行為だけど、ここには沢山のヘルタ人形が居る訳じゃ無いから私一人で全身を洗う。お試しの時、銀狼はされるがままになってたけど、ホタルとは途中から洗い合う状況になった。
ブラッシングはその名前の通り、ブラシで毛を撫でる。道具は専用のヘアーブラシ。梳くって言葉の方が正しいかもしれない。私の周りに居る人の多くは髪が長かったりするから、覚えて損はないと思った。勿論、髪が短い人にも出来る。偶にホタルにしてもらう事もあるけど、髪をブラシで梳かれるのって結構気持ちが良いから。
耳かきに関しては、覚えるも何もない。実は銀狼の耳かきをそれなりの頻度でやっているから。膝に頭を乗せて来る事が多い銀狼に思い付きで始めたのが切っ掛け。ホタルにも当然やった事はあって、普段からやっている行為だから練習しなくても熟練度はそれなりの値まで成長してると思う。
リビングでそれなりに過ごしてから、予定通りマッサージをする為に私の部屋へ移動する。ロビンは恥じらいと不安を混ぜた様な目で私を見てくる。怖いかもしれないけど、私を信じて欲しい。確かにプロには劣る。それでも、痛かったり変な事になったりは絶対にしないから。
「いくよ」
「え、えぇ……んっ」
オイルを塗る都合上、ロビンには
「後ろは、こんな感じ」
「ぅ、ん……終わり、かしら?」
「まだ。仰向けになる」
「分かったわ」
「それじゃあ、続き」
「っ!」
背中に乗っていたみたいに、今度はお腹に足を広げて乗る。こういう時、この小さな身体は都合が良い。開拓者を標準の大きさとして、それより小さな銀狼に乗っても、重量は感じるものの苦しい程に重いとは思わないらしいから。だから誰かの上に乗っても、負荷を掛ける心配はない。
「お腹から」
「んっ……ふふっ。妹ちゃん、このマッサージを他の誰かにやった事はあるの?」
「んっしょ……二人には、やった」
「そう。容易く人にやっては駄目よ? …………きっと、襲われてしまうもの」
「?」
気持ち良さそうというより、何か目に優しいモノを見て癒されている様な表情を浮かべるロビンが、どうしてそんな事を言ったのかは分からない。最後にも何か小さく言った様な気がするけど、小さ過ぎてその内容は聞き取れなかった。
ロビンから見える景色なんて、自分の上に乗っている私が両腕を伸ばしてマッサージをしているくらいだと思う。天井に見て楽しめるモノは無いから、私以外は無い筈。あったら怖い。服装だって、別に変じゃない。女性用のマッサージ師が着る服だから。手に入ったのが大人サイズだったので、かなり胸元とかがブカブカだけど。
「気持ち、良い?」
「えぇ。とても、癒されるわ」
やっぱり感想がホタル同様、私の思っていたのと違う。癒されるって言葉も多分間違ってはいないけど、マッサージは気持ち良いものってイメージだから。
お風呂に誰かと入るのはそんなに珍しい事じゃない。最近で言えばやっぱりヘルタだけど、銀狼ともホタルとも入った事はある。なんなら三人で入った事も。家のお風呂はヘルタの宇宙船にあった浴室ほど大きい訳じゃないけど、一般的な物と比較すれば三倍くらいはあると思う。ロビンは色々な場所へ行く都合上、広いお風呂も日頃から経験している筈。
「私が背中を流す」
「頼もしい付き人さんね」
そういえば付き人って、ロビンにも居るのかな? 今のところ見た事は無いけど。それに実際に付き人が居たとして、お風呂まで一緒に入るのはやり過ぎな気もする。今回は家の人間としてもてなす為の行為なので、特別だからおかしくない。
背中を流すとは言うけれど、実際は背中だけじゃない。ヘルタの時は頭の天辺から爪先まで、ヘルタ人形と協力して全身を洗ったから。今回はどうしよう。それでも良いけど、私一人だとそれなりに時間が掛かる。余り浴室内で溜めたお湯にも入らず外に居たら、身体が徐々に冷えて風邪を引いてしまうかもしれない。シャワーからお湯を流しっぱなしにしていたとしても、限度はある。
「お湯、掛ける」
「えぇ。んっ」
背中の泡を流して、次は手足か前。そう思っていた時、持ってたスポンジをロビンに取られた。
「妹ちゃん、そこに座って」
「え?」
「ふふっ、今度は私が洗ってあげるわ」
普段から活動しているロビンと、外出をする事はあっても一日家でゲームだけしている事もある私だと、ロビンの方が力は強かった。あっという間に位置を入れ替えられて、今度は私が背中を洗われる側に。ロビンが疲れる事をしてしまっては、もてなしの前提が崩れてしまう。そう思って立ち上がろうとした瞬間、首の後ろから手が回って来て抱き締められる。背中、凄く柔らかい。
「ダメよ。お姉さんにも妹ちゃんの背中を流させて」
「でも、今日はロビンを」
「妹ちゃんの背中を流す事でも、私はちゃんと癒されるの」
そう言われたら、抵抗出来ない。背中を流す行為は腕を使うから疲れると思うんだけど、ロビンからすればそうじゃないのかも。少なくとも本人がそういうなら、それを信じるしかない。なんか回って来た手がそのまま私の胸まで洗い始めてる気がするけど、これもロビンなりに背中を流す行為の中に入っているのかもしれない。
洗いが終わったら、そのまま入浴する。一緒に湯船へ浸かって浴槽の縁に身体を預けようとしたら、ロビンの手が私の身体を絡め取った。そしてロビンの前で背中を預ける様な状態で固定される。柔らかい上に今度は全体が温かい。
「今日はとても、癒される日ね」
「ん。なら良かった。まだ、この後もある」
「ブラッシングと、耳かきね。私もお返しにしても良いかしら?」
「疲れない? 疲れたら、駄目」
「大丈夫よ。寧ろ、私もしたいの。出来ない方が、モヤモヤして眠れなくなってしまうわ」
「眠れないのは、駄目。分かった」
癒しを与えるのに、眠れなくなってしまうのは本末転倒だと思う。眠る事は身体を休めたりする上で必要不可欠な行動。ブラッシングの耳かきは、お互いに交代でやる事にしよう。全部終わったら、そのまま寝ても良いし、何かしても良い。そういえば、あれからゲームをする機会はあったのかな? ちょっと、遊べるならそれも楽しみかもしれない。
「名ー無ーしーちゃん! 遊びに来たよ~!」
「……」
ロビンが朝になって帰った後。適当に過ごしていたら、突然家に花火がやって来た。初めて会った夢境での時、開拓者に変装して近づいてきた花火は、ここへ来るためのチケットを私が気付かぬ間に奪っていた。最初の来訪はそれを使って、誰も居ない時を見計らったかの様に現れた。
危険な存在だと、ロビンは言っていた。彼女にかどわかされない様に気を付けてと、開拓者も言っていた。だから最初は凄く警戒もしたけど、私に彼女を追い返す様な力は無い。私に出来るのは、彼女を出来るだけ早く満足させて帰ってもらう事だけだった。
「今日は何して遊ぶ~? 花火、色々練習して来たんだよ!」
「ん。なら……」
初めての日、怖がりながらも私は花火と数時間を共に過ごした。花火は愉しい事が大好きで、それがどんな事かまでは私もまだよく分かっていない。でもゲームをする事は私にとって楽しい事で、愉しい事は無いかと聞かれてゲームを勧めてみた結果、一緒に遊ぶ事に。正直に言えば、とても良かった。
「はい、甲羅~!」
「バナナ」
「むぅ! あっ、赤三つ♪ 覚悟してね~!」
「っ!」
今回も私だけの時に来たから、私の部屋で一緒にレースゲームを始めた。画面の前で並んでプレイを開始すると、花火はカーブする度に自分の身体も動かして頻繁に凭れ掛かって来る。反応がとても賑やか。これが例え私を楽しませるための
「はいっ!」
「あっ」
「むふふ~」
「早く、行って」
「ダメダメ~。起き上がったところに、ほいっ!」
「動けない……」
追尾型の妨害アイテムを手に入れた花火は、他の誰でもなく私を執拗に狙ってくる。レースゲームだから相手を妨害して順位を上げるのが目的なのに、花火にとってその目的は二の次で、真の目的は私で遊ぶ事。妨害されて動けない状態から復帰したタイミングでまた、妨害を繰り返してくる。性格悪い。
「それじゃあね~!」
「逃がさない……っ!」
遊びたいだけ遊んで、順位が最下位になった段階でアイテムを切らした花火が私を置いて進み始める。勿論、やられるだけで終わるつもりは無い。順位が低い程に、有利なアイテムが出やすいのがこのゲーム。だから今度は私が花火で遊ぶ番。
「バナナ」
「当たらないよー! って、三つ!?」
「スナイプ。からの、アイテム。……スター」
「うわっ! ちょっと、止まらないでよ! あっ!」
「一度下がって、再アイテム……キラー。バイバイ」
「ふっ飛ばされたーっ!」
二個のバナナで道を塞ぎ、一個を直接花火に当ててから、動けないところへ無敵になって突撃する。勿論それで終わらせずに、無敵の時間は何度もぶつかって花火を転がしながら、その終わり際に一度逆走してアイテムを再度抽選。大砲の弾になって進行方向に居た花火を轢き飛ばす。アイテムはランダムだから、決まった妨害は出来ない。だけど今回は良い感じに決まったと思う。
大砲の弾になった勢いで順位の中間にまで戻れば、花火からの追跡はしばらくない筈。追尾する妨害は基本、前方に居る敵か先頭の敵を狙う物であって、中間に居る私を狙う事は出来ない。
「やったなー! ふっふっふ、花火を甘く見ちゃ駄目だよ! やられたらやり返す、倍返しだー!」
「先にやったの、そっち。って、うそ……」
そんな油断を花火にするのは間違っていた。本当に勝ち負けはどうでも良いみたいで、私を妨害する事だけが花火の全てらしい。前回には無かったプレイスキルでアイテムを温存したまま、実力だけで軽々と中間順位まで上り詰めて来た。そして私の後ろについて、また邪魔してくる。他のに抜かれてあっという間に最下位に。そして満足した花火に仕返しをして……その繰り返し。結局順位は12人中、私が最下位で花火が11位だった。これがいわゆる、泥仕合。
花火は一緒に戦うゲームなんかでも妨害をしてくるので、協力が前提になっているジャンルは遊ばない方が良い。FPSの銃撃戦ですら、武器を奪ったりパーツや物資を奈落に捨てたりしてしまうから。人によっては二度と遊ばないって思ってしまう様な行為も、花火は平然とやってのける。
「ふぅ~! 愉しかった! ちょっと休憩しよ!」
「ん。!?」
「うーん! 抱き枕抱き枕♪」
ゲームを止めて一息入れる事になった。そこで飲み物とお菓子でも持ってこようと立ち上がった瞬間、花火に抱き着かれながら二人揃ってベッドへダイブする。結構な勢いだったから、身体が衝撃を受ける。ベッドの軋む音も凄い。……ちょっと心配になるレベルで。
「名無しちゃん、良い匂いするよね」
「そう?」
「うんうん。ねぇ、知ってる? 相手が良い匂いに感じるのは、その人と相性が良い証拠なんだって~。だから、花火と名無しちゃんの相性はバッチリって事だね!」
「……その理由だと、私が思った相手ともなる。ホタル、ロビン。他にも」
「むぅー! 今は花火なのっ!」
「むぐっ」
花火の胸に顔を押し付けられた。ホタルとロビンにされる時に比べると、そんなに柔らかくはない。安心は、出来そうでもしちゃ駄目な気がする。ゲームで妨害してくる花火は、現実でも愉しい事なら後先考えないでやって来そうだから。私は花火を友達だと思いたい。だけどそれが彼女へ抱く印象として良くないと、何度も釘を刺されている。私達は言わば、紙一重の友達。お互いに少しでもずれたら、友達では居られない。
「むふふ~」
「……」
だから、ずらしたくない。こうやって無邪気な笑みを浮かべて一緒に寝ようとする姿だって、きっと本物の花火なんだって信じたい。花火がやって来て、今まで一緒に遊んだ時間は本当に楽しかったから。まだ、一緒に遊びたいから。……花火と過ごす時間は、とても