迷い家の少女   作:ウルハーツ

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ヘルタ:4 - ルアン・メェイ:3

 私が使っている武器は銀狼に頼んで作ってもらった技術武器。どんな仕組みなのかと聞かれたら私には分からないけど、アクションゲームなどで普段私が好んで使っていた薙刀を再現出来る様にしてくれた。二本の棒を繋げる事でブレード部分を展開出来る仕様。戦いの場面でも、これのお蔭で危険な攻撃を受け止められたりする機会は多い。だから、銀狼にはとても感謝してる。

 

「ほら、好きなのを選んで」

 

「……」

 

 だけど、少しだけ思ってしまう。もし違う武器を使えたらって。ゲームの中ではとても奇抜な武器なんかも存在していて、現実でそれを使うのは危険が伴う。例えば鎖鎌とか、三節棍とか。実際にそれっぽい感じで振り回した結果、自分に当たって自滅する未来が容易く想像出来る。

 

「約束通り、データは取らせてもらうから」

 

「私の身体、前と同じ?」

 

「貴女の能力は最大まで上がってるよ」

 

 奇抜だったり、癖のある武器を扱うのは私に実力が無いから。それがもし、実力のある状態で試せるってなったら……試さない選択はしない。薙刀を一旦やめて、この模擬宇宙でヘルタがヘルタ人形を介して用意してくれた武器の並びを見る。

 

 私の身長よりも大きな大剣や、それと同じ長さの太刀。他にも二本の剣が対になっている双剣や、斧、銃なんかもある。今の私は成長出来る未来の力をお試しとして使えるから、それなりに重くても持ち上げる事は出来る筈。だけどヘルタに試された時、力は弱いと言われた。成長しても攻撃力に期待は余りしない方が良いって事だと思う。

 

「? 杖、必要?」

 

「それ、魔法が使える様になってるから」

 

「魔法……」

 

 試せる武器のラインナップに混じっていた、杖。いかにも魔法使いって感じの杖だけど、それを試したところで私には振り回す事しか出来ないと思って疑問に感じた。だけどヘルタの答えを聞いて、一気に惹かれ始める。本物のヘルタは魔法使いの様に不思議な力を使っていて、他にも停雲なんかがどこからともなく火の弾を飛ばしたりする。ゲームや空想の世界ではお馴染みの魔法、試せるなら今すぐにでも使ってみたい。

 

「これ」

 

「ふぅん。なら、相手はこれで良いね」

 

 私が杖を持った瞬間、目の前にあった武器の数々が消えてしまう。手に持った杖だけが残って、目の前に生まれる亀裂。そこから現れる異形は、私が魔法を使う為の相手って事で間違いない。持っただけじゃ特別な感覚も何もないけど、どうすれば戦える?

 

「振って」

 

「こう? っ!?」

 

 ヘルタに言われて異形へ向ける様に杖を振ってみる。途端に生まれたのは緑色の光。それはやがて刃となって、異形の身体を傷つけた。今回の異形は攻撃して来ないらしい。トレーニングルームとかにある、サンドバック代わりらしい。

 

 振って、振って、大振りしてみる。強く振れば振る程に風の刃は勢いを増すらしい。今まで遠距離で攻撃する手段が無かった事もあって、離れた位置から攻撃出来るのが新鮮に感じられる。こんな事が出来たら、もう少し危険から離れられるのに。

 

「ふぅん。魔法なら属性は風なんだ」

 

「どういう事?」

 

「その杖は持ち主の潜在的な力を魔法の形に変換出来る。もし仮に貴女が魔法を使えたなら、風を操れたって事だよ」

 

「風を、操る」

 

「期待してるところ残念だけど、それはあくまでも仮の話。現実で貴女に魔法は使えないから。いつもの光で我慢して」

 

 私に風の魔法を使う才能があるかも、なんて一瞬思ったところでヘルタに否定されてしまった。考えてみれば、私が誰かへ送る光も魔法みたいなもの。攻撃出来る要素は無いけど、あれもこれもって望むのは良くないと思っておこう。

 

「次の、試したい」

 

「じゃあ、さっさと選んで」

 

 ちょっと魔法を扱う体験が出来ただけでも、満足は出来た。更に私は杖じゃない別の武器を試してみたくて、ヘルタに消された武器をまた出してもらう。

 

 それから色々な武器を使ってみた。やっぱり私の身体は今後能力が成長したとしても、力による攻撃力は期待出来ない事も分かった。大剣や太刀を持ち上げられても、サンドバックになっている異形を倒すのに何回も切りかからないといけなかったから。現実の戦闘であんなに時間は掛けていられない。ターン制のゲーム風なら、優に雑魚相手で30ターンくらいは掛かりそう。

 

 反対に手応えとして悪くない武器は銃だった。引き金さえ引く事が出来れば、反動はあっても火力に力は関係のない武器。銃も色々な種類があったけど、取り敢えずミニガンは楽しかった。反動が凄まじくて最初は天を仰ぎながら、途中からなんとか腰でしっかり持って撃つ事で異形を蜂の巣に出来て、火力も十分。私の力に関係ないって考えると、ダメージは固定かもしれない。欠点は速度がどうしても出ない事。とにかく、重いから。

 

 

 好きなだけ武器をお試し出来て満足した。だけどヘルタはまだ満足していない様子。そもそも私の我儘から始まったこの武器のお試し行為に、ヘルタが新しいデータを取れるかもしれないからと協力してくれた。どうやらまだ、足りないらしい。

 

「好きな武器持って」

 

「ん。それじゃあ、これ」

 

「気分も適当に変えて……こうしよう」

 

「!」

 

 身体が急に光に包まれたと思ったら、服がヘルタの宇宙船専用給仕服に変わっていた。なんで着替える必要があったのか分からないけど、取り敢えずさっきの感覚から選んだミニガンを持って敵を待ち構える。今の流れから、まだ戦闘をする必要があるのは明らかだから。

 

「次はエネミーにも攻撃してもらうから」

 

「頑張る」

 

「言っておくけど、私は手を出さないよ」

 

 戦うのは私一人。さっきのサンドバック状態だった敵と違って攻撃してくるなら、気を引き締めないといけない。

 

 ヘルタは何もしない。本物なら手を振る様な動作をしたりするけど、人形にそんな能力は無いから。だけど模擬宇宙を操作すること自体はどこからでも可能みたいで、突然目の前にまた生まれた亀裂。そこから入って来るのは……大きなハンマーを持った、ヘルタ人形。

 

「ヘルタ?」

 

「あれと戦って。攻撃の仕方は知ってるでしょ?」

 

 まさかヘルタ人形と戦う事になるとは想像もしていなかった。模擬宇宙で一緒に戦った事はあるから、確かに攻撃の仕方は知っている。ハンマーでの叩き上げと、氷を生み出す叩きつけ。そして少しでも弱って隙を見せたら、連続回転で叩かれ続ける。極めつけは巨大な宝石を頭上に作り出して、それを叩き落とす事で相手を潰しに掛かる。

 

 いつもの力は私に意味が無いから、やっぱり使えるのはこのミニガンだけ。持つ獲物が大きくて早く動けないのはお互いさまだから、何とか距離を保って攻撃をするしかない。

 

「それじゃあ、始めて」

 

『!』

 

「!?」

 

 ヘルタの言葉と同時に、人形がこっちへ向かってくる。ミニガンを発射して迎撃しようとするけど、華麗なステップで避けてハンマーを引きずりながら大きく弧を描く様に走り抜けて来た。やがて迫って来るハンマーを、重いミニガンを抱えて間一髪で躱す。絶対、当たったら痛いじゃ済まない。模擬宇宙で倒れても死にはしないけど、痛いのは嫌。

 

 狙って撃っても避けられるなら、今度は弾幕を張る様に広い範囲を撃ちまくってみる。何発か当たっているみたいだけど、流石人形。痛がる様子もなく弾を出来る限り避けながら、無表情に突っ込んで来る。結構怖いけど、タイミングはバッチリ。

 

「えい」

 

『!?』

 

 突っ込んできた人形のお腹にミニガンの先を振り子の要領でぶつける。ハンマーが私へ届く前に、強打を受けた人形。勿論、終わりじゃない。私はそのまま引き金を引いた。

 

「うわぁ……」

 

 ヘルタのドン引きする様な声が聞こえる。そもそも私に自分の人形を消し掛けたのはヘルタ自身だから、やられるとなったらこうなる事は想像出来た筈。確かに分かってても、自分の過去に似た姿の人形が蜂の巣になるのは見たくないとは思うけど。

 

 蜂の巣になって地面へ転がった人形が消える。無事に倒す事が出来たみたいで一安心していると、持っていたミニガンも急に消滅した。服も元に戻って、ここへ入った時の私に戻ったらしい。

 

「うん、もういいよ。貴女も満足した?」

 

「ん。ありがとう、ヘルタ」

 

 お礼を言った瞬間、視界が歪み始めた。模擬宇宙から外へと出される時の感覚はもう慣れたから、驚かないし気持ち悪くなったりもしない。

 

 宇宙ステーション『ヘルタ』にあるヘルタのオフィスへ戻って来る。私は無接続で反応しないと分かっているヘルタへ、それでも念のために別れを告げて、今日は真っ直ぐに家へ帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

 普段、ルアン・メェイと会うのは定期的な健診の時くらい。私が宇宙ステーション『ヘルタ』へ行って、そこで健診をしてから一緒にお菓子を食べる。私が作ったものと、ルアン・メェイが用意したもの。お互いに用意し合って過ごす時間はいつも楽しい。

 

「それでは、始めましょう」

 

「んっ」

 

 だけど今回、珍しくルアン・メェイが家へやって来た。その目的はお菓子を一緒に作る事。お互いにお菓子は大好き。そして作る事も出来るから、健診後に話をする中で一緒に何かを作ってみようって事になった。普段研究で大忙しのルアン・メェイだけど、息抜きをする時間が無い訳じゃない。寧ろ彼女の研究は他の人も付いて行けない様な天才の世界なので、重要でありながらもその研究に関する塩梅は本人の意志で決められるらしい。つまり今回、ルアン・メェイは研究よりもお菓子作りに時間を割く事にしたって事。

 

「和菓子?」

 

「そのつもりです。作り方は分かりますか?」

 

「少しだけ。本格的なのは、初めて」

 

「私達は職人ではありません。ですがあの美しい造形を作り上げる者達へ敬意を払いながら、私達も思うままに挑戦してみましょう」

 

 ルアン・メェイと一緒に作るとなって、彼女が適当なモノを完成品として認める事は無いと思う。命にしろお菓子にしろ、()る事に妥協は許されない。和菓子と言っても形は様々。例えば代表的な、大福並な大きさの丸い菓子の上部分を花弁の様に見せる技術は、素人に決して真似出来るものじゃない。それでも、出来る限り頑張って作ってみよう。

 

「手先、器用」

 

「そうですか? それはお互い様の様ですが……」

 

 完成品の写真を見ながら、見よう見真似で色々試行錯誤してみる中。ルアン・メェイが物凄い手際良く形を整えているのが見えた。お菓子作りは勿論、刺繍なんかもやるとは聞いていたけど、手慣れてる様に見える。ただの丸いお菓子がルアン・メェイの手で、徐々にウサギへと形を変えていく。

 

「可愛い」

 

「これは失敗です」

 

「?」

 

 見た感じは可愛らしいウサギの見た目をしている。なのにルアン・メェイは納得いっていない様子。すると、彼女にとって失敗作となったウサギは容赦なくその口へ入ってしまった。一口じゃなくて半分齧った結果、下半身だけが残ったウサギの形。本人が満足してなくても、見ていた私としては可愛く見えたからちょっと複雑な気持ち。食べ物を動物の形にしたりするのは、見栄えは良くても食べ難くなる。それは分かっているのに、なんで時間を掛けてまで私達は動物にしてしまうんだろう。

 

「どう?」

 

「キツネ、ですか?」

 

「ん。難しい」

 

「そうですね。もう少し耳の形を修正した方が良いと思います」

 

「これは、失敗」

 

「はい。では」

 

「ぁ……」

 

 私のキツネ、食べられた。別に良いんだけど、失敗だと分かってもちょっとは置いておきたかったのに。味は満足出来る物だったみたいで、薄い微笑みを浮かべるルアン・メェイが、私に気付いて首を傾げる。食べられてしまったのはもう、しょうがない。もう一度作ろう。でも今度の形は生き物じゃなくて、食べるのに躊躇しない様な無機物にしよう。

 

 

 私は無機物を。ルアン・メェイは動物をモデルに形を整えては、満足の行かない和菓子を合間に食べていく。最初から食べる事は想定していた。だからこれが一種のお茶会みたいなもの。飲み物も置いてあるし、違うのはいつも以上に手が動き続けている事くらい。

 

 ルアン・メェイの前には、完成した動物型の和菓子が並んでいる。それはさっきのウサギとは違う、彼女が納得した出来の完成品。その種類はウサギの他にも象や猫なんかも居て、そのどれもが可愛らしい。いつか食べるとは分かっていても、これは飾っておきたくなる。

 

「写真、撮って良い?」

 

「どうぞ、お好きな様に。誰かへ見せるのですか?」

 

「銀狼とホタル、開拓者にも。後は、ヘルタとか」

 

「なるほど。……彼女に見せるとなれば、もう少し洗練すべきでしょうか」

 

 不味い。ヘルタに見せるとなって、ルアン・メェイが更に本気を出そうとしている。別にそれは構わないけど、彼女の完成に対するハードルが上がって、その結果完成だった筈の動物達が今すぐにでも処分され(食べられ)てしまうかもしれない。

 

「今作り直」

「これで良い。撮る、撮った」

 

 構図とかを考えている暇も無かったので、ルアン・メェイが動くよりも前に動物達の写真をスマホで取った。急ぎ過ぎたせいで手に付いた粉がスマホにも付いて、画面とかが少し汚れてしまったけど、台無しにされてしまう前に撮れて良かった。

 

 送るのは後にする。まだ私のが完成してないから。私の前にあるのは一般的な花形と、モミジの形をしたもの。後は生き物じゃないからって事で、ちょっと遊んで大きい丸と小さい丸で雪だるまみたいなのも作った。顔は書いたけど、これは動物程食べるのに躊躇しないと思う。

 

「それは、ヒマワリですか?」

 

「ん。周りを作ってる」

 

 今私が作っているのは、ヒマワリの形。真ん中は茶色く、周りを黄色くした上で、後者の部分に道具で凹凸を作って花の様に形を整えていく。同じ間隔で同じ高さにする事を常に意識すると、かなり難しい。それでも一周するまでは集中を切らさない様にしないと、一度でも手を止めたら同じ形には二度と戻せない気がする。

 

 おやつの時間も含めて始めたつもりだったのに、気が付いたら時間は19時を回っていた。二人がいつ帰って来るかはまだ分からないけど、連絡は無いから今すぐ急にって事は無いと思う。今も動物を夢中で作っているルアン・メェイに、声を掛けるのは少し気が引ける。エプロン姿で和菓子を手に乗せて上下左右から眺める姿は、普段見る事ない姿。綺麗な人は本当に、どんな時でも崩れない。

 

「? どうかしましたか?」

 

「……ん。時間」

 

「もうこんな時間だったのですね。研究している時も時間を忘れる事は多々ありますが、和菓子作りも時間を忘れてしまう様です」

 

 今日、ルアン・メェイがここへ泊まる予定は無い。いつかそんな日が来る時もあるかもしれないけど、普段から多忙な彼女は明日の朝にも用事がある。ここではないどこか別の場所に居る人と会話をして、研究に関する事をいつだってしてる。余り遅い時間になってしまうと、そんな忙しい彼女に支障があるかもしれない。だから、もう作るのを止めて片付けを始めないといけない。

 

「最後にお互いの作った品を並べて見ましょう」

 

「分かった」

 

 私の作った花や雪だるまを後ろに、ルアン・メェイが作った動物達を前に並べる。全部合わせても十には満たない数だけど、二人でこれを作るのに数時間掛けたんだと思うと、和菓子の難しさを知ると共に愛着を凄く感じる。

 

 片づけをしてから、お互いに作った和菓子は食べてしまう。私のは無機物だから、さっきまで感じた食べ難さを感じる事は無かった。ルアン・メェイは最初と同じで最初から躊躇もせずに頭からパクリと口に入れてしまう。そうして写真だけを残して全ての和菓子を食べ切り、ルアン・メェイは帰っていった。

 

「ふぅ……お腹、いっぱい」

 

 餡子が入っている和菓子は食べ応えだって十分にある。そんなのをおやつ代わりに食べながら作っていて、今も完成品を食べた事で私は既にお腹いっぱい。二人には早く帰って来て欲しいと思う反面、ご飯の時間は出来る限り開いて欲しいと思う。今メッセージが届いてから二人が帰って来ても、一緒にご飯は食べられない。絶対、お腹に入らない。




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