迷い家の少女   作:ウルハーツ

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Ex.編
銀狼:9&ホタル:11&開拓者:8


「みんなの水着姿が見たい」

 

「?」

 

 それは唐突だった。遊びに来た開拓者とゲームをしている時、時間を掛けて完成させた自分そっくりのゲームキャラに着せ替えをしていると、急に開拓者はそう言って立ち上がる。可愛いキャラに可愛い服装を。そんな風に着せ替えをしていたけど、どうやら現実にもその思考を持ち込んだみたい。

 

「水着。持ってない」

 

「そうだね。そもそも、海に行く事はなかった。プールはあるけど」

 

 持っている服は殆どがアスターの用意してくれたモノ。その中に水着は無かったと思う。アスターの趣味が全開になったラインナップには、外出するのに適した服はあっても、プールや海水浴に行く想定の服は流石に含まれていない。

 

 更に思うなら、水着を着る場面が無い。私の知る世界に海は無いし、プールは……夢境の中にナイトプールはあったと思う。多分開拓者が思い浮かべているのも、そこな気がする。でもあの場所は夢の中だから、水着にならなくても遊べる。

 

「難しい」

 

「はぁ……。そうだ。銀狼なら、どうにかしてくれるかも」

 

「どうにか?」

 

「例えば、VRとか」

 

「……」

 

 VRゲームは少しだけ遊んだ事がある。仮想空間に入る事で、家から出なくても外や普段行けない様な場所に入る事の出来る世界。有名な創作物の題材にもなっていて、それなりに存在は周知されていると思う。私は面白かったと思うけど、そんなに夢中にまでは成れなかった。

 

「銀狼なら、海の世界をちょちょいと作って私達が遊べる様にしてくれる筈」

 

「そんな、都合の良い話」

 

『あるよ』

 

「っ!?」

 

 急に声を掛けられてビックリした。ホログラムの銀狼がいつの間にか立っていて、私達の話を聞いていたみたい。しかも開拓者の案を肯定までする。銀狼なら作ったりする事が出来るかもしれないけど、絶対大変な筈。でもホログラムの状態で見える銀狼の顔は、明らかに楽しんでいるみたいだった。

 

「銀狼。よろしく。あ、ナー○ギアが良い」

 

『アミュ○フィアの方が楽じゃない?』

 

「付けるより被った方が、ダイブ感が出ると思わない?」

 

『うーん、一理あるかも』

 

 この流れ、間違いなく銀狼がVRを作り上げる。もしくは既存の何かを自分達の良い様に作り変えてしまうのかもしれない。まずは完成次第、発案者の開拓者と開発者の銀狼は勿論、私とホタルも入る事で話が纏まっていく。私は良いけど、ホタルの意志は聞いた方が良いと思う。嫌、とは言わない気がするけど。

 

『じゃ、出来たら連絡するから』

 

「楽しみにしてる」

 

『あ、それと今日は帰れないから。元々それを伝えるつもりだった』

 

「ん。分かった」

 

 銀狼のホログラムが消えた。今日はホタルだけが帰って来るとして、夕食は二人分で良いって事になる。時折来ている誰かが食べていく事もあるけど、今回開拓者はどうするつもりだろう? 一人分増えたってそんなに手間は増えないから、一緒に食べるなら歓迎出来る。

 

「どんな水着が似合うと思う?」

 

「分からない。着た事、無い」

 

「確かに。ネットの世界じゃ、私達の想像された水着姿が見飽きる程出回ってるのにね」

 

「?」

 

「あぁ、貴女のは無いか。当たり前だけど」

 

 開拓者は時折よく分からない事を言う。今に始まった事じゃ無いし、そういう時はスルーしてしまっていいと経験から学んだ。水着については銀狼が用意してくれたVRのシステムとか、作るアバター次第だと思う。現実(リアル)をそのまま反映するなら、服を着替えられる様にする筈。

 

「銀狼に任せるしかないか」

 

「それしか無い」

 

「まぁ、銀狼に任せるって事は、そのまま各々の想像に任せるって事だけど」

 

「?」

 

 

 それから数日後。私は銀狼によって用意されたヘルメットを渡されて部屋に居る。開拓者の突発的な言葉から生まれた、VR世界の海へこれから入る事になる。実は話をした後日、今日が来るまでに気付いた事がある。銀狼が頑張ってVR世界を作るよりも、普通に集まって水着を用意して着れば良かったんじゃ……。気にしない方が良いのかな。場所と雰囲気はいつだって大事だから。

 

「……言った方が良いかな」

 

 ベッドへ横になってヘルメットを被る。PCとかが無くてもこれだけで入れるらしいから、電源を入れるだけで良い。少し緊張しながら、私は電源のボタンに触れる。

 

「リンクスタート」

 

 

 歪んだ視界の後、目の前に広がるのは眩しさを感じる海だった。太陽の光が反射して、水面がキラキラしている。足元は砂浜でとても暖かい。私以外には誰も居ないみたいで、広大な世界に一人だけ居るのは少し寂しく感じる。

 

「!」

 

「入れた?」

 

 急に目の前が光ったと思ったら、銀狼が目の前に現れた。しかもいつもの服装じゃなくて、水着姿。大きな浮き輪を片手に風船ガムを膨らませている。ここでガムって食べられるの? それに味があるのかも気になる。

 

「銀狼」

 

「あ、居るね。開拓者とホタルは?」

 

「まだ。……来た」

 

「っとと! あ、二人とも!」

 

 次に入って来たのはホタル。服装はいつもと変わらないから、銀狼だけが予め着替えを済ませている状態みたい。眩しさはあるけれど、キラキラ光る水面が無限なんじゃないかってくらいに広がる光景は凄く綺麗。ホタルはその光景を見惚れたみたいに見つめ始める。

 

「綺麗だね」

 

「ん。これが、海」

 

「偽物だけどね。それでも触れるし泳げるよ。海の中で呼吸も出来る」

 

「魚も居る?」

 

「居るよ。サメとかも」

 

「た、食べられない?」

 

「襲い掛かっては来ると思う。HPが無くなったらここに強制転移させられるから、気を付けて。倒す事は出来るけど」

 

「……? あれ」

 

「どうしたの?」

 

 銀狼から話を聞いて海の中へ入ってみたいと思い始めた時、見える海面の遠くで何かが暴れているのが見えた。私が指差した事で二人もそれに気付いて、ジッと目を凝らす。何かが戦っているみたい。……正直、想像はついた。ここにはまだ一人、居ないから。

 

「おぉ~!」

 

「何かが、空に舞い上がって……」

 

「……サメ?」

 

 海面から大きく飛び出した何かがゆっくりとこっちに向かって飛んでくる。やがて私達の前に落ちた時、それがサメなんだと分かった。苦しそうに砂浜の上で身体をくねらせるも、明らかに鈍器で叩かれたように凹んだ頭が痛そう。心なしか目に涙が浮かんでいる様な気がする。

 

 それを見ていると、海の方から近づいてくる人影。バットを片手に回しながら、ゴーグルを頭に乗せた水着姿の開拓者がそこには居た。

 

「開始場所が海の中だとは思わなかった」

 

「えっと、これは開拓者が?」

 

「襲い掛かって来たから」

 

 返り討ちにした、と。私達は砂浜からだったけど、開拓者だけ海の中からだったみたい。着替えているのは、自分の意志というよりは環境に合わせて自動的に変わったらしい。水着姿になっても、太腿に付けている水色のガーターリングはそのままなんだ。

 

「あ、逃げた」

 

「逃がさない。銀河打者に喧嘩を売ったら、もう後戻りは出来ない」

 

「開拓者!? 追い掛けて行っちゃった」

 

 逃げたサメを追いかけて開拓者が再び海の中へ入ってしまった。そもそもここへ来た最初の切っ掛けは、開拓者が水着姿を見たいって事だった気がする。その本人が居なくなってしまった今、私達は着替える必要がある? 無い、かもしれないけど、せっかく来たのに遊ばないのは勿体無い。

 

「銀狼。着替えの仕方、教えて」

 

「そうだね。あたし達も水着に着替えないと」

 

「まずはウィンドウを開いて……」

 

 銀狼に服の変更方法を教えてもらう。言われた通りに操作していけば、私とホタルは水着姿になった。私の格好を私の目線ではどうとも思わないけど、ホタルのは印象が変わる。

 

「綺麗」

 

「へっ? そ、そうかな? ありがとう」

 

 開拓者とホタルの身体を一般的に見たら、きっと誰もが羨むくらいには整っているんだと思う。私と銀狼は子供みたいな身体つきだし、もしここに普通の人達が居たら、ホタルは大分目立つかもしれない。それこそ開拓者と並んだりしたら、歩く広告塔になってしまう。誰も居ないのは、幸いだったかもしれない。恥ずかしそうに照れる姿を見ると、余計にそう思う。

 

「貴女も、うん。凄く可愛いよ」

 

「ありがとう」

 

「スク水にしようか迷ったけど、流石にね」

 

 いくら子供みたいな身体でも、安直にスクール水着にされてたら怒っていたかもしれない。銀狼なら分かってくれると思った。インベントリの中には浮き輪やゴーグルもあるから、海面に浮かぶ事も潜る事も自由に出来る。普段、戦う以外に思いっきり身体を動かす様な事は余り無かった。ここは仮想空間だけど、全力で遊ぼう。

 

 

 最初は海に足を入れて、ホタルと掛け合った。ちゃんと冷たいけど、触っていればちょうどいい感じになって来る。途中、銀狼がいつの間にか装備したアサルトライフル式の水鉄砲で射撃して来たので、私も装備を探したらあった。ハンドガン式の水鉄砲。仕方ないとはいえ、装備のレベルが違い過ぎる。

 

「ホタル。手を組む」

 

「うん、良いよ」

 

「むっ、やる気?」

 

「レベル差は、連携で埋める」

 

 掛け合いから一変、撃ち合いになった。ホタルと協力して銀狼へ水鉄砲で攻撃をする。勝敗は決まってないけど、目標はあの浮き輪から銀狼を落とす事。私達の装備は弱いから、銀狼の撃って来る水を避けて防いで物理で攻めるしかない。

 

「ハイドロポンプ」

 

「っ!」

 

「あっ!」

 

 簡単じゃない。初期レベルの私達と、想像主の銀狼じゃ装備から何から差があり過ぎた。それは水鉄砲の筈なのに、大砲の様な勢いのある弾丸を放たれて、それに当たった私の身体は簡単に地上を離れて大きく空へ飛ばされる。場所は考えてくれているみたいで、海の奥へと着水した私は青い視界で魚が泳いでいるのを目にした。あ、遠くに開拓者とサメが居る。まだ戦ってるんだ。

 

「大丈夫!?」

 

「ん。ホタル、行くよ」

 

「うん、任せて」

 

「何度来ても同じ事」

 

 ゲームじゃ圧倒的なレベル差を埋める事は難しい。ここは仮想空間だから、それは同じかもしれない。だけどあの舐め切った銀狼に一泡吹かせたい。浮き輪から落としたいって気持ちは、ホタルと同じ。お互いに頷いてから、私達は行動開始する。とにかく移動しながら、ハンドガンで射撃。威力は弱くても、ヘッドショットを狙えば煩わしくて行動を妨害できる。

 

「わぷっ!」

 

「ホタル」

 

「それっ!」

 

「えぇ……」

 

 銀狼が顔に水を受けて怯んだ瞬間に、ホタルが大きく海面を揺らした。どこにそんな力があったのか分からないけど、水を掛けるのとは訳が違う威力。まるでサーフィンで乗れる壁の様に、影を作って近づいてくる水を前に銀狼は引いていた。私も少し、ありえないと思う。

 

「レーザービーム」

 

「うそっ!?」

 

 でも銀狼は取り出した銃で壁を一閃。放たれたそれは言葉通りレーザーの様に水を噴射して、壁を切断してしまう。水だから海面に戻るだけだけど、銀狼が頭から水を被る事は無かった。あれが上から覆い被さる様に当たっていれば、浮き輪に座って居られなかった筈。

 

「ふっ、甘いね」

 

「まだだよ!」

 

 ホタルがもう一度水の壁を作り上げようとするのを、銀狼がそのまま撃ち抜こうとするのが見える。だけどあれはそう見せかけるだけのフェイク。そう、全てはホタルがヘイトを買ってくれているだけ。その間に私は銀狼の水面下に移動していた。ちょっと怖いかもしれないけど、図に乗ったお仕置き。

 

「狙いう……えっ?」

 

「チェックメイト」

 

 浮き輪に座っていた銀狼の両足を掴む。急に出て来た手に銀狼が驚いているところで、一気に私はその足を引っ張った。浮き輪から海面に引きずり込まれた銀狼が、水中で私を見て悔しそうな顔をする。

 

「やったね!」

 

「ん。勝利」

 

 足の着く場所へ移動して、待っていたホタルとハイタッチ。浮き輪をロストした銀狼が後ろから戻って来るのを見て喜んでいると、遠くの方でいつかの様に水の柱が上がった。多分開拓者がサメと激闘を繰り広げているんだと思う。

 

「ねぇ、何か近づいて来てない?」

 

「うん。それに何か、勢いがさっきと違う様な」

 

「?」

 

 上がる水飛沫が徐々に近づいてくる。三人で目を凝らしていると、やがて飛び出した開拓者がバットを片手に私達の前へ転がりながら姿勢を低くして着地した。何か少し、焦ってる感じ。

 

「開拓者?」

 

「ごめん」

 

「何の謝罪?」

 

「エリアボス、呼んだっぽい」

 

「エリア、ボス?」

 

 聞き返した途端、一際大きな水飛沫が上がる。そして人でも動物でも聞いた事のない空気が震える程の轟音を鳴き声にして現れたのは、巨大なタコ。海のモンスターとしてはありがちなクラーケンだと思う。襲ってくるサメが居る時点で敵性体が居る事は想像出来たけど、今回の話でボスが出て来るとは思わなかった。

 

「っ! サメゾウ!」

 

「サメゾウ?」

 

「あれ。さっきのサメ、捕まってるじゃん」

 

「名前、付けた?」

 

 いつの間にサメとは友情を育んだらしい。名前まで付けてる。それでサメと遊んでいたらあれと遭遇して、開拓者が面白半分で攻撃を仕掛けたら怒らせたみたい。完全な自業自得だけど、巻き込まれてしまったらしょうがない。安全に遊ぶため、アイツを倒そう。捕まって振り回されているサメも見ていて可哀想だから。

 

「胴体と八本足で体力は別だよ」

 

「足に捕まったサメを助ければ、協力してくれそうだね」

 

「三段階くらいはありそう」

 

「イッツ、ショータイム!」

 

 いつの間にか帽子を頭に被って構えていた開拓者。幸いにも、私達の武器はそのまま使えるみたい。ホタルは銀狼から水鉄砲を渡されてブレードと使い分けるつもりらしい。私は今回攻撃に回ろう。銀狼に聞けば、ミニガン式の水鉄砲はあるみたいだから。

 

 エリアボスといえば、それなりの強さがある。だけど正直四人で掛かると、そんなに強く感じる事は無かった。銀狼に貰ったミニガン式水鉄砲で八本足を撃ちまくり、まずは足に捕まったサメを解放。すると仲間を呼んだサメが定期的にクラーケンへ突撃攻撃をしてくれる様になった。

 

 ホタルがブレードで切り、距離を取ったら一発の火力が高い銃で射撃。銀狼も何かを操作して弱らせながらブレードで切り掛かる。開拓者は踊りながら綺麗に迫る触手を回避して、帽子を投げてはそれが切り傷を付けている。銀狼はこの世界の開発者みたいなモノだから、弱らせなくても相手を終わらせる事は出来そう。それじゃあ、面白くないと思っているんだと思うけど。

 

「ダウンしたよ!」

 

「特大のを撃ち込むから。支えて」

 

「ん、任せて」

 

 大きく身体を倒したクラーケンに向けて、私達の誰よりも大きな銃を取り出した銀狼。あれはもう、銃というより巨大兵器って感じがする。銀狼だけじゃ支えきれないみたいだから、私も一緒になって支える事にした。砲身の先に集まる球体の光。やがて開拓者とホタルも一緒になって、四人で支えながら放った弾丸は勢いが強すぎて全員吹っ飛んでしまう。

 

 砂浜に転がった身体を起こす。クラーケンの身体は大きな穴を作っていて、もう動きそうにない。三人も転がっていて、各々顔を上げてはお互いを確認する。取り敢えず怪我は無い。そもそも仮想空間だからしないとは思うけど、痛い思いもしていない。

 

「あ、消えていくよ」

 

「エリアボスは倒されたらしばらく居なくなるから」

 

「ねぇ、報酬は?」

 

「原因、開拓者。それにここは、実装外」

 

「って事は、無し?」

 

「ん」

 

 ガックシと項垂れる開拓者。でも仕方ないと思う。ここはそもそも銀狼が作った世界で、私達が遊ぶためだけに用意された場所。今みたいなのが居るのは、銀狼がゲームや仮想世界を作る上で無いのが許せなかったんだと思う。だから報酬なんか端から用意されていない。

 

「その、開拓者。元気出して」

 

「うん。……あ。ホタル、水着似合うね」

 

「へっ?」

 

「二人も。でもこうしてみるとなんか……ホタル、エロいね」

 

「か、開拓者ぁっ!」

 

 急に言い出した開拓者にホタルの顔が真っ赤になる。うん、流石にエロいはどうかと思う。確かに私と銀狼に比べたら色々凄いけど。それにそんな話をするなら、開拓者だって負けてない。

 

 開拓者が逃げ出して、怒ったホタルが追い掛け始める。仮想空間でいつまでも沈む事のない太陽が、私達をずっと照らしていた。影は凄く元気に動き、怒っていた筈のホタルもすぐに笑みを浮かべていた。

 

 

 後日。

 

「うぅ……身体、痛い」

 

「筋肉痛だね。あれだけ動いたから、仕方ないよ」

 

「なんで、仮想空間で……筋肉痛……?」

 

「あの世界は現実(リアル)に拘ったからね。現実でも動いた事が反映される様にした結果」

 

「あうぅ……痛い。動けないぃ……」

 

「あはは……楽になるまでゆっくり休んでて。今日は一日居るから、あたしが何でもしてあげる」

 

 私はしばらく、筋肉痛で自由に身体を動かせなくなった。




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