迷い家の少女   作:ウルハーツ

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アグライア&キャストリス

 自他共に認める天才ハッカー、銀狼。彼女の手に掛かれば世界の常識や理ですら飛び越え、変える事が出来るのかもしれない。

 

 

 

 

「ふぅ~。やっと出来た」

 

「? お疲れ様」

 

 今日は朝から銀狼が外出しないで家に居る。だけどやる事があったみたいで、朝食の後はずっと部屋に籠っていた。普段なら一緒にゲームをしたりするけど、そんな時だってある。それが仕事なのか趣味なのか私には分からないけど、頑張っているのなら邪魔はしない。だから私はいつもの様に家事をしてから、お昼を作っている最中だった。

 

 大きく伸びをしながら何かを成し遂げた様子の銀狼がキッチンに入って来る。冷蔵庫から飲み物を出して飲みながら、私の手元を覗いて来た。お昼はパウチじゃなくてタレから作ったカルボナーラの予定。何も言わずにそれを察した銀狼は、飲み物を戻してから声を掛けて来る。

 

「後で試して欲しい事があるんだけど」

 

「試す?」

 

「この前、開拓者とホタルも一緒でVR世界に入ったのは覚えてるよね?」

 

「ん。海、綺麗だった」

 

「ちょっと色々設定とかを組み直してさ。やってみて欲しいんだけど」

 

「分かった。お昼ご飯、食べたら」

 

「うん、よろしく」

 

 普段からゲームは沢山するけど、銀狼が一から作り上げたゲームは別の楽しみを感じる。開拓者の『水着が見たい』って事から始まったあのVRの世界は凄くリアルで、とても綺麗な海だった。またあんな風にヤリーロ-VIやピノコニーとも違う景色が見れるのかもしれない。楽しみ。

 

 

 お昼を食べ終わって、銀狼が隣でセッティングするのを見ながら自室のベッド上で待機する。この前と同じヘルメット型の機器と、それに繋がった大掛かりな端末がある。私はヘルメットを被った状態で少し背の部分を上げたベッドに半分寝て半分座ってる様な姿勢で。

 

「それじゃあ、行くよ」

 

「ん。銀狼も、来る?」

 

「今回は行けない。でも外から貴女を見てる」

 

「分かった」

 

 新しいVRの世界で一緒に遊べると思ったけど、今回は私一人で入るらしい。とても残念。だけど銀狼がこの為に頑張っていたのは知ってるから、少しでも役に立てるのならそれでも良い。

 

「じゃあ、お決まりのセリフよろしく」

 

「リンク、スタート」

 

 言った瞬間、視界が一気に変化する。私の部屋だったのが一瞬で真っ白になって、気が付いたら全く知らない場所に立って居た。

 

 

 身なりを確認する。服装はさっきまでの私と何も変わらない。インベントリを開く、みたいなシステム的な操作は存在しないみたい。この前は水鉄砲とかが入っていたけど、今回は違うらしい。今の私が持っているのはスマホと組み立てで作れる薙刀。それと、家に繋がるチケットだけ。最後のは持っていた覚えが無いけど、何であるんだろう?

 

 次に周囲を確認する。とにかく水が沢山。ここはプールか何か? 足元に水が広がっていて、でもここは建物の中みたい。それに私はそこそこ高いところに居るらしい。遥か下の方に地上が見える。同じ様に水が広がっていて、人らしき姿も沢山。

 

「何者ですか?」

 

「!」

 

 突然聞こえて来た声に振り返る。その瞬間、見えたのは金色の糸。ただ漂う様に浮かびながら、私の身体に触れるそれは別に何かしてくる訳でもない。そしてその金糸の向こう側に、女の人が二人立っていた。こっちを見ているその姿は警戒していて、一人に至っては大きな鎌を携えてる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 どうしよう。ここが銀狼の用意した世界だとして、目の前に居る人達はNPCって事になる? だとしてもこの状況、無視したりする訳には行かないと思う。そもそもここが何処かも分からないし、これが始まりなら案内人的な存在なのかもしれない。

 

「ここは、何処?」

 

「金糸に反応はありませんでした。まるで今、ここに生まれたかの様に」

 

「アグライア様」

 

 取り敢えず質問する。だけどそれに対する答えは無くて、鎌を持っていない女の人がゆっくりと近づいて来た。一度呼び止められていたけど、片手を上げて制止しながら。そんな目の前の人から金糸は広がっているみたい。いつの間にか身体中に拘束とまでは行かないけど巻き付いていた糸。目の前に立たれると、その大きさから見下ろされる。

 

 その目に光は無い様に見えた。私を見ているのに、まるで見えていない様に感じる。だけどちゃんと見えている? 後ろの人もそうだけど、NPCだとしてもかなり重要な存在だと思う。所謂モブキャラとは明らかに違う。そんな異質な存在感をヒシヒシと感じる。

 

「キャス」

 

「っ! はい」

 

「こちらへ」

 

 鎌を持っていた人に声を掛けて、呼び寄せる。何故だろう、身体が動かない。拘束されている訳でもないのに、逃げられない。

 

『ごめん、まだ構築が完璧じゃないみたい』

 

「!?」

 

 突然銀狼の声が頭に響いた。そういえば、この光景を銀狼は見ている筈。目の前の二人がどういった設定の存在なのか、教えて欲しい。身体が動かないのはまだ完全にLoadingが出来てないからなのは今の一言で分かったけど。

 

『なんか、居るね。多分その星の住人だと思う。言っとくけど、NPCじゃないよ』

 

 NPCじゃない、この星の住人。それってつまり、開拓者が連れて行ってくれたヤリーロ-VIやピノコニーみたいにここは別の星って事?

 

『今回は現実にリアル寄りのホログラムで投影してるから、そこは本当にある場所だよ。あ、ホログラムって言ってもモノに触れる事は出来るから』

 

 ここはゲームじゃ、無い。そう分かった瞬間、少し怖くなる。この人達にとって、私は急に現れた不審者でしかないから。動けない今、出来る事は説明だけ。でもなんて言えば良い?

 

『取り敢えず、このままだと面倒事になりそうだから、一回再転送して人の居ない場所で身体の構築を完了しよう。転移っと』

 

「待って……っ!」

 

「!?」

 

 急に私が喋った事で驚いた二人だけど、もう遅かった。私の身体が急に光って、気が付いたら同じ様な雰囲気ではあるけど違う場所に立っていた。何処かの部屋、だと思う。周囲が柱で囲まれたバルコニーみたいな場所で、まだ身体は動かない。部屋の扉は閉まっていて、中には誰も居ないみたいだから危ない事は無いと思う。

 

「どれくらい、掛かる?」

 

『後二分くらい。少し待ってて』

 

 今の私には何も出来ないから、銀狼の言う通り待ってるしかない。さっきの人達は只者じゃないって雰囲気があったけど、また会う事になるのかな。

 

 

 

 

 

「消え、ましたね」

 

「えぇ。ですが客間の方に移動した様です。それに彼女の言葉」

 

「待って、ですか。まるで誰かにお願いする様な……」

 

「最初の言動も含め、彼女の意志で現れた訳では無いようです。ですが野放しには出来ません。キャス、迎えに行ってください。目的を聞き出す必要があります」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 二分くらい待って、ようやく身体が動かせる様になった。銀狼曰くここは実際に存在するどこかの星で、私はそこに物理的な接触を可能にしたホログラムの様な形で表れているらしい。もし死んでしまったりしても、強制的に身体の方へ意識が戻るだけで命に関わったりはしない。でもここが現実の世界なら、ゲームみたいな好き勝手はしない方が良い。殺されたりするって、よっぽどの事だから。

 

『適当に世界を回ってみれば? 冒険といえば、でしょ』

 

「ん。ここから、出よう」

 

 傍に居なくても銀狼が見てくれているから、少しは安心出来る。自由に動けるとなったら、やっぱり知らない場所を冒険してみたい気もする。開拓者だったら間違いなく留まらずに動き出して、心の思うままに行動してる。

 

「? 開かない」

 

 外へ出ようと扉に触れるけど、押しても引いてもビクともしない。鍵っぽい場所も見当たらないから、色々試してみる。でも開かない。最初から閉じ込められたかもしれない。これはさっきと同じ様に緊急脱出的な何かをするべきかも。

 

『無理だね。一時間は使えないから』

 

「……」

 

 最初の行動から詰んだかもしれない。まさかの状況に困っていると、突然さっきまで動きもしなかった扉が開き始める。そしてその向こうに、さっき鎌を持っていた女の人が立っていた。ここは、さっきの場所から意外と近い場所だったみたい。扉が開いて最初に見つめ合うと、少し冷たい視線を感じる。私が怪しいのは仕方のない事。だけど、今はそんな事よりも大事な事がある。

 

「ありがとう」

 

「えっ……」

 

「出られなかった。助かったから」

 

「……」

 

 冷たい表情が、少し和らいだ気がした。

 

 ここはオクヘイマという場所らしい。目の前に居る人の名前はキャストリスで、さっき金糸を纏っていたのがアグライア。黄金裔だとか難しい話もあるけど、取り敢えずアグライアはここで偉い人だったみたい。そんな人の前に突然現れて消えてしまったから、怪しまれるのは当然。まずは説明をしなくちゃいけないけど、どう話すべきだろう。別の世界から姿だけここに映してる、で良い?

 

 キャストリスから少しだけこの場所の話を聞きながら、移動する。少し距離があるのはまだ警戒されているからだと思う。そのまま移動を続けていると、さっきまで下の方に見えていた大きなプールの様な場所に出た。人が沢山居て、全員中世っぽい服装をしている。キャストリスは有名人みたいで声も掛けられているけど、やっぱり何処か物理的に距離がある気がする。

 

 やがて丸い台座に乗ると、それがエレベーターの様に上がり始める。そして私は最初の場所へ戻って来た。そこにはアグライアが座って待っていて、私を見ると目の前へ座る様に促して来た。私は言われた通り、向かい合う様な姿勢で目の前に座る事に。

 

「!」

 

「この金糸は私に全てを教えてくれます。私が今からする問いに対して貴女が嘘をつけば、震えと共にそれを教えてくれるでしょう」

 

「……」

 

 それはつまり今から私は質問攻めに遭うって事で間違いない。私から説明するのは難しいから、寧ろ助かるかもしれない。だけどここで危険な存在判定をされたら、どうしよう。

 

「不安になっていますね。ですが安心してください、貴女が脅威となる存在で無いと分かれば私達は何もしません」

 

「ん」

 

「それでは、問いましょう。貴女は自らの意志でここへ来ましたか?」

 

 この星を目的に最初からやって来たという質問なら『いいえ』。だけどVRを使って知らない場所へ行きたいと思っていたのは『はい』。この場合前者で良いと思う。なので『いいえ』と答えれば、金糸は全く微動だにしない。

 

「貴女の他に、ここへ現れた者は居ますか?」

 

「いいえ」

 

 また金糸は動かない。銀狼が今の状況を見ている筈だけど、この星にはやって来ている訳では無いから今の答えで間違いない。

 

「貴女以外に、この状況を見ている者が居ますか?」

 

「! はい」

 

 まさか、ピンポイントにそんな事を言われるとは思わなかった。確かにここへ来ていないとは答えたけど、見ている可能性をそれだけで指摘されるとは思っても見なかった。嘘をついても即明らかになってしまうのなら、それに意味は無い。私は正直に頷いて答える。

 

 それからされる質問は主にこの星、正確にはこの場所(オクヘイマ)に害を成そうとしているかどうか。だけど当然そんなつもりは全く無かったから、否定する。しばらくの問答を経て、やがてアグライアは満足したみたいに金糸を解いてくれた。

 

「分かりました。少なくとも貴女自身に、脅威は無いようですね」

 

 私が脅威になり得るのか、それを白黒はっきりさせるのがアグライアのしたい事。正直キャストリスが鎌を持って警戒していた時、敵として戦ったら私に勝ち目はないと思ってる。ここではミニガンも使えないから、攻撃能力に乏しい私では相手を倒す手段が無いに等しい。

 

「問答は終わりとしましょう。この後、どうするつもりですか?」

 

「決めてない。でも、この街を回ってみたい」

 

『ごめん、それもう無理』

 

「えっ……」

 

 今からする事として街を回りたい。そう言った私に返って来たのは、銀狼からの言葉。それと同時に私の身体が徐々に薄くなり始めているのに気づいた。

 

『時間切れ。まだそう長くは別の星に繋げていられない』

 

「身体が、消えています」

 

「ん。時間切れ、らしい」

 

「時間、ですか。貴女は消滅するのですか?」

 

「違う、と思う。今日はここまで。また来れる……多分」

 

『もう少し調整の必要があるけどね』

 

 いきなり現れて少し話をして、消えようとしている私の姿に困惑するのは仕方が無い事だと思う。街を回って見たかったけど、それはまた今度。銀狼の事だからまたここへ、今度は狙ってこの星に来る事が出来る様にしてくれる筈。

 

「また、来る。その時は街、回りたい」

 

「ふふっ、そうですね。今度は賓客として、貴女を迎えましょう。案内はキャスに任せます」

 

「私、ですか? ……分かりました」

 

 少し驚いた様子のキャストリスが最後には受け入れてくれたので、私は近づいてその手を取る。知らない街を案内してもらうのは楽しみだから、ちゃんと約束しておきたくて。

 

「!?」

 

「指切り」

 

「あ、あの……」

 

「?」

 

 歌い切るまでの時間は無さそうだから、小指を絡めるだけ。さっきまで金糸に絡められたり、今日は大活躍な気がする。いきなりだったから少し動揺しているキャストリスと指切りをして、私は二人に手を振った。

 

 

「お帰り」

 

「ん、ただいま」

 

 視界が見慣れた部屋に戻る。隣では銀狼が座っていて、私は頭に被っていたヘルメットを外した。VRの世界で遊んでいた時と同じ様な感覚。だけどあそこが本当にある星で、本当に存在する人なら、また行きたい。知らないモノに触れるのは、楽しいから。

 

「また、行きたい」

 

「良いよ。でも数日は無理だから」

 

「ん、待ってる」

 

 気が付けば時間は夕方になっていた。今日はホタルも夜に帰って来るから、今から夕食の支度をしよう。今日は何を作ろうかな。

 

 

 

 

 

「行ってしまいましたね」

 

「……」

 

 消えてしまった少女の残滓がまだ見える中、キャストリスは触れた小指をジッと見つめていた。




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