迷い家の少女   作:ウルハーツ

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気分が良かったので続きを公開。


ホタル:2 - 開拓者

 ホタルが家に住み始めてどれくらいが経ったのだろう。外の景色を見る事は未だに出来なくて、日が変わったと分かるのは二人が帰って来て寝る時くらい。あの日からホタルと一緒に寝る事が多くて、偶に銀狼も一緒になって川の字で寝る様になった。

 

 楽しい日々だと思う。出来ない事の方が多いけれど、何かの為に外へと出て疲れた様子で帰って来る二人を迎えられる事には幸せを感じてる。銀狼が言うには誰かここへ迷い込む事もあるらしいけど、今のところそんな場面には遭遇していない。なんでも、何かここへ来る切っ掛けが必要らしい。そしてそれを渡せるのは私じゃなくて二人だけ。銀狼とホタルが許した人だけが、ここへ迷い込むって事だと思う。後は私が何かをここで渡せば、それが導になって簡単にやって来れる様になる。そう、言ってた。

 

 外の世界。私はこの家以外の場所を全く知らない。記憶を失う前の私だったとしても、それは同じだった筈。世界が違うんだから。……気にならない訳じゃ無い。普段二人がどんな事をしているのか? とか、どんな街や人が居るんだろう? とか。だけど銀狼は私がここから出る事を余りよく思っていない様にも見える。ホタルも何も言わないけど、多分銀狼と同じ。二人に迷惑は掛けたくない。ちゃんと、我慢しよう。

 

「?」

 

 メッセージが届いた。相手はホタルみたい。

 

――――――――――

 

『もう少ししたら、帰るよ』

 

『分かった。お腹空いてる?』

 

『ううん、平気。それより、君自身を開けておいて』

 

――――――――――

 

 ホタルが帰って来る。普段は銀狼の方が先か、一緒に帰って来るけど、今回はホタルだけみたい。私自身を開けておいてって事は……何かした方が良い事は今すぐにやった方が良いのかも。多分、リビングか部屋で一緒に過ごす事になりそうだから。

 

 銀狼の用意したゲームはリビングにも部屋にも沢山ある。協力出来るゲームから、一人用まで種類は様々。何時だって時間があれば銀狼はゲームをしているし、ホタルも銀狼に誘われて色々遊んでいるみたい。私自身、銀狼と繋がったのはゲームから。それがどんなゲームかも覚えて無いけど、銀狼に進められて始めたゲームはどれも面白い。最近は一人が殺人鬼になって四人くらいが逃げるゲームとか、協力して大きな怪物を倒すゲームとか、三人一組で銃撃戦をして生き残りを目指すゲームとか。怖いのは少し苦手。でも協力出来ると、どれも楽しい。

 

 少しして、ホタルが帰って来た。私が玄関の開いた音に気付いて出迎えに行くと、ホタルは優しい微笑みと共に抱き締めてくれる。

 

「ただいま」

 

「おかえり、ホタル」

 

 銀狼の時も時々する、この帰って来た時の抱擁が私は好き。人の温もりなのか、二人だからなのかは分からない。でも私は二人しか知らなくて、そんな二人を感じられるこの瞬間が大好き。

 

「部屋に行ってて。あたしもすぐに行くから」

 

「分かった」

 

 ホタルは一度洗面所へ向かう。私は言われた通り、二階へ上がってホタルの部屋へ入った。どっちの部屋かは少し迷ったけど、多分合ってると思う。私の部屋は外へ出た事が無いのもあって、かなり質素な部屋。ベッドがあって、銀狼が用意してくれたゲームの機械とディスプレイがあるだけ。対してホタルの部屋はそれなりに色々ある。ベッドは勿論、タンスとか立ち鏡とか。服も色々あるみたい……いつものしか見ないけど。銀狼もそう言えば、いつも同じ服な気がする。

 

「お待たせ。ふぅ……はぁ~っ!」

 

「んぎゅ……お疲れ様」

 

「うん。んっんーーー! あぁ、癒されるよ~」

 

 入って来たホタルは流れる様に私を抱きしめると、そのままベッドへダイブする。結構な衝撃を感じはしたけど、痛みとかは全くない。そのままホタルに強く抱きしめられると、さっきと同じ温もりが心地良くて私も抱きしめ返す。何時も二人は何処かへ行っては疲れて帰って来るから、私が癒しになるのならいくらでもしたい。

 

「……」

 

「……」

 

「……ふふっ、可愛い」

 

「? ホタルも、可愛い」

 

「ありがとう。えいっ! ぎゅー!」

 

「んむっ……やふぁらふぁい(柔らかい)

 

 身長差があるせいで、私の頭はホタルの胸元辺り。上から見下ろされる様にしてジッと見つめられていると、不意にホタルが微笑みながら言う。可愛いと言われて、嫌な気分にはならない。だけど可愛さなら、絶対ホタルの方が可愛いと思う。綺麗で優しくて可愛い、誰にだって自慢出来るお姉ちゃんの様な存在。自慢する相手が居ないけど……そんな事を思いながら言い返したら、また強く抱きしめられた。今度は正面から。ホタルの胸に顔が埋まって、少し苦しい。でも柔らかくて暖かくて、匂いでもホタルを凄く感じる。

 

「あ、ごめんね。……でも、もう少しこのまま」

 

「大丈夫」

 

 ちょっと苦しさから解放されて、ホタルは私を抱きしめた姿勢のままゆっくりと目を閉じる。よっぽど疲れていたのかもしれない。身動きは出来ないけど、何かしなきゃいけない事は帰って来る前に約束通り終わらせてあるから……このまま一緒に寝てしまっても良い。この暖かさがあったら、寝るのは多分簡単だと思う。

 

「おやすみ」

 

「ぅ、ん……ぉゃ、す、み……」

 

 もう微睡んでいるホタルに告げて、私も目を閉じる。そういえば、スマホはリビングに置いて来てしまった。銀狼からメッセージが届いても今のままじゃ分からない。でもこの状況を壊してまで取りに行こうとも思わない。どれくらい寝てしまうか予想出来ないけど、きっと大丈夫。

 

 

 目が覚めたらホタルは先に起きていて、寝た時と全く同じ姿勢で私を上から見下ろしながら微笑んでいた。暖かいを通り越して少し熱くすらなっていた身体。一度離れて大きく背筋を伸ばしてから、一緒にリビングへ降りる。そこでスマホを確認してみたけど、メッセージは何も来てない。

 

「メッセージ、来てない」

 

「銀狼、まだ帰って来ないみたいだね。でも今日中には帰って来ると思うから、それまで何かしてる?」

 

「……ゲーム」

 

 他にやる事が思いつかなかった。なのでゲームの端末を手にソファへ座ろうとしたら、その前に抱え上げられてソファに座ったホタルの膝上に座らされる。逃げる気は無いけど、逃げられない様にお腹に両手を回されて。頭上から私の持っていた端末を覗き込む様な姿勢になった。

 

「今、やってるのは?」

 

「これ」

 

「あ、それならやった事あるよ。それじゃあ、少し教えてあげる。勿論ネタバレしない様には気を付けるから、ね?」

 

「分かった」

 

 二人が居ない時に遊んでいる一人用のゲーム。端末を操作してそれを見せれば、ホタルも遊んだ事があるらしい。人が遊んでいるのを見ていても、楽しい事はある。ホタルは今から私が遊ぶのを見ながら、楽しさを損なわない程度のヒントを与えてくれるみたい。一緒に遊ぶとは少し違うかもしれない。でもホタルがそれで良いなら、飽きるか銀狼からの連絡が来るまで、ゲームの続きをしよう。

 

 

 

 

 

 しばらくして。

 

「? メッセージ、来た。……あと少しで帰って来る」

 

「それじゃあゲームはお終いにして、御夕飯の支度でもしようか?」

 

「なに、食べたい?」

 

「うーん。そうだね……」

 

『手が汚れないのが良い。ゲームしながら食べれる奴』

 

「っ! 銀狼……?」

 

「もう、急にホログラム(それ)で出て来るとビックリでしょ!」

 

『大体、夕食の話をするだろうって予想はついたから』

 

「ゲームしながら。サンドイッチ、とか?」

 

「それだと、御夕飯には軽すぎる気がしない?」

 

「じゃあ……ハンバーガー」

 

『お、良いね。じゃ、それで』

 

「あ、消えちゃった……作れるの?」

 

「パン焼いて、お肉も焼いて、野菜と挟む。ソースも間に入れる。……何とか、なる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近リフォームをして出来た自分だけの部屋。そこで開拓者はご機嫌に鼻歌を歌いながらお風呂を楽しんでいた。置かれていたアヒルを湯に浮かべたり、入浴剤を少し無駄遣いしたりしながら自分だけの時間を楽しむ事しばらく。やがて満足して湯から上がった彼女はバスタオルを一枚、首に回して左右の胸を隠す様に乗せる。

 

「?」

 

 他に誰も居ない自分だけの部屋だからこそ、開拓者はそんな格好でも気にしない。そんな彼女はふと、部屋のテーブルに覚えのない何かが置かれているのに気づいた。それは一枚の手紙と、謎のカード。首を傾げて不審に思った後、それを確認する為に近づいた。

 

「銀狼から……なんだろう?」

 

 手紙は銀狼が用意したものだった。その内容はとても簡潔で、過去に紹介した存在と置いてあるカードを使えば会える様になるというもの。開拓者はそれを見て思い出す。銀狼を介して知り合って、メッセージのみのやり取りしかした事の無い相手を。年齢も性別も分からない相手だったが、ゲームをする事にそれは関係ない。共に遊ぶ事もあったが、最近は音沙汰がまるで無かった事を。

 

 開拓者は迷わなかった。カードの使い方は『適当な扉に向けて掲げる』だけ。銀狼の手紙を読んだ彼女は先程まで入っていた浴室のガラス戸へカードを掲げる。するとカードとガラスが反応する様に輝き始め、その向こう側はガラス戸をスライドさせても光に包まれて何も見えなくなっていた。使用したカードは消滅してしまった事から、使い捨てだったのだろう。

 

「よし、行こう」

 

 臆する事も無く、開拓者はその光の中へと入り込む。やがて彼女が光へ飲まれた後、誰の手も介さずに開けられたガラス戸がゆっくりと閉まる。そして光が収まり、その曇りガラスの向こう側は変わらない大きな浴室が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 今日も銀狼とホタルは外出。私は一人でゲームをする。ホタルが少し教えてくれながら遊んでいたゲームだけど、多分もう終盤。レベルも能力もあまり新しいのが無くなって来たから。○○○ガとかを超えて最上位魔法的なのが出てきてたりするから多分間違いない。

 

「?」

 

 玄関が開く音がした。でも銀狼とホタルから帰って来るってメッセージは来てない。もしかして、銀狼が話してた迷い込んだ人? 少し怖いけど、行ってみよう。

 

 私はゲームを置いて玄関へ向かう。普段なら二人を迎えるその場所に、立っていたのは知らない女の人。……タオルを首に掛けてるだけで殆ど裸の、人。なんて言うんだったか思い出せない。私の記憶には必要だった常識のみが残っているらしいから、必要ない言葉だったのかもしれない。でも、おかしいのは分かる。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 どうしよう。凄いジッと見つめて来るけど、なんて言ったら良いのか分からない。いらっしゃいませ、で良い? でも迷い込んだのなら、元々来るつもりは無かったのかも。この格好で迷い込んだって事は、日頃から裸で過ごしている人? 凄く、変な人。もしかして、関わらない方が……。

 

「ねぇ」

 

「っ!」

 

「一狩りしよう」

 

 何処から取り出したんだろう。本当にバスタオル一枚しか首に掛けていないのに、目の前の人は突然私が見た事のあるゲームの端末を持っていた。一狩りと聞いて思い浮かべるゲームは一つだけ。何度か三人で遊んだ事がある。迷い込んだ先で、知らない私を相手に裸でゲームの誘いをしてるの? やっぱり、凄く変な人。 でも、共通の何かがあるのはちょっとだけ安心する。端末はリビングだから、まずは中へ。

 

「ぇ……?」

 

「行こう」

 

 一瞬だった。リビングへ戻ろうと後ろを振り返った瞬間、温かくて柔らかい感触を背中で感じると共に足が地上から離れた。私は女の人に持ち上げられたらしい。そのままリビングへ勝手に進み始めて、さっきまで私が使っていた端末を見つけると即座にソファへ向かう。そのまま膝に乗せられて、端末を持たされた。ホタル以外の膝上はちょっと感触が違うけど、悪くない。

 

「やっぱり、その武器なんだ」

 

「?」

 

 ゲームを始めると、時折女の人が私の画面を覗き込んで来る。私の戦い方は三人で遊んでいる時と同じ。女の人はそんな私に合わせて武器を色々変えてくれているみたい。実際に戦闘を始めたら、初めて一緒に遊んでいる筈なのに馴染み深さを感じた。銀狼やホタルの時と同じ。私は知らないけれど、前の私の本質がこの人を知っている。そんな、気がした。

 

「貴女は……私を、知っている人?」

 

「メッセージのやり取りはしてたよ。会った事は無かったけど」

 

「そう、なんだ」

 

「こんなに小さいと思わなかった。ちょうどいいね」

 

 ホタルみたいに後ろから抱きしめられる。裸で抱きしめられてるから、私が着ている服一枚越しの感触が凄く柔らかい。そんな事を思っていたら、突然服の中に手が入って来た。そのままお腹の部分を捲られて、背中も少しだけ。直接触れる感覚がちょっとくすぐったい。

 

「どうせだから、裸になろう」

 

「? なんで?」

 

「裸の付き合い」

 

「?」

 

 どんな意味の言葉だったか思い出せない。でもそんな言葉があった気はする。変でおかしな人だけど、間違った事は言ってない? それが普通、だったのかもしれない。考えてる内に服を脱がされていた。気が付いたら裸にされていて、女の人が首に掛けていたタオルを自分の胸越しに私の胸へ巻いて横で縛る。背中が凄く柔らかい。

 

「よし」

 

「あ、モンスター居た」

 

「分かった。それじゃあ、狩ろう」

 

 お互いに裸の状態で、ゲームをする。裸の付き合いってこういう事だった? 分からないけど、嫌な感じはしない。凄く変な人だけど、悪い人じゃないのは分かった。……今度、銀狼とホタルにも同じ事をしよう。裸の付き合い、家族なのにまだしてない。

 

 

 

 

 女の人とゲームで遊び始めてしばらくしてから。

 

『何してるの?』

 

「っ! 銀狼……まだ、帰ってない」

 

『様子を見に来ただけ。それで? 何で裸な訳?』

 

「裸の、付き合い……だって」

 

 突然、青白い全身の銀狼が現れた。まだ帰ってきていない、本人がここに居ない状態の見た目。ホログラムってホタルは言ってた。凄い変なモノを見る様な目を私達を向けているけど、やっぱり裸なのっておかしい事? でも裸の付き合い、だから。

 

『変な事教えないでよ。脳のデバッグが増えるじゃん』

 

「小ネタ程度だから、大丈夫」

 

『裸族化は小ネタの域を超えてるって。直接合わせるには早すぎたかな』

 

 私は服を着た方が良いらしい。銀狼はちゃんと着る様に言ってから、ホログラムを消してしまった。女の人の言う通りに裸の付き合いをしていたけど、銀狼が間違ってるって言うならそうなんだと思う。私はゲームを置いてバスタオルを解くと、脱がされてソファの端に放られていた服を着直す。女の人は……バスタオルだけで来たから、着る服がないんだ。

 

「服、着て来る?」

 

「そうだね。あ、でもカードが無い」

 

「?」

 

 女の人が言うには、銀狼がカードを用意してくれた事でここへ来られたらしい。でもそれは使ったと同時に消えてしまって、もう何処にもない。

 

 銀狼は言ってた。ここへ来た人に私が何かを渡せば、それが導になってまた来れるって。一緒にゲームをしただけだけど、それでも楽しかった。それに前の私を知っているのなら、きっと大丈夫。でも、何を渡せば良いんだろう?

 

「欲しいモノ、ある?」

 

「?」

 

「この家にあるモノを渡せば、それが導になる。銀狼、そう言ってたから」

 

「この家にあるモノ…………」

 

 少し考える様な仕草で、その目はジッと私を見つめて来る。そして何かを決心した様に頷いた女の人は、私に言った。

 

「貴女が身に着けてるモノが良い。例えば……」

 

 

 

 

 

 

 女の人は帰って行った。いつかまた来るって約束をして。その時は友達も連れて来るらしい。それと、私の事を誰かに伝えておくって。それが誰かは分からないけど、教えてはくれなかった。スマホでニュースとか見てたなら、絶対に見た事ある人らしい。最初は見ていたけど、最近は全く見て無いから分からない。外の世界の情報を見ても、私はここから出ないから。

 

「そっか。彼女がここに来たんだ」

 

「また、来るって。その時は皆でゲーム、する」

 

「そうだね。あたしも楽しみだな」

 

 二人が帰って来てから、女の人と過ごした事を話した。銀狼は来ていた事を知ってるけど、ホタルは驚いたみたい。女の人の事を知ってるみたいで、何かを思い出してるみたいに優しい表情になってる。

 

「それで? またここに来るなら導が必要だけど、何を渡したの?」

 

「身に着けるモノが欲しいって言うから……これ」

 

「はっ?」

 

「えっ?」

 

 私は女の人が欲しがっていたモノを二人の前に置いた。何枚かあったから、一枚は渡したモノを教える為に持っておいた。適当に銀狼かホタルが用意してくれた、私の下着(ショーツ)。簡素な部屋にタンスも棚もまだ無いけど、ちゃんと着替えはある。そこから女の人が迷わず下着の場所に行って、気に入った一枚を持って帰った。

 

 

 

 

 

「アンタ、なんで下着を飾ってるの!? しかもこれ、アンタのじゃないでしょ! どう見たって小さいもん!」

 

「それは約束の証。大事な導だよ。今度、なのも一緒に連れて行ってあげる」

 

「訳分かんない! 下着で行く場所って何!? ウチを何処へ連れて行く気なの!?」




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