変更したくても本人確認で使用不可のアドレスにコードが届いてしまう。
もし今後ゲームのプレイで確認する機会があったら、出来なくなるリスクが。
焦って変更出来る方法を探して、カスタマーサービスで申請。現在返答待ち。
そんな事やってたら、前回から一ヵ月後の15日を過ぎてました。
突然画面いっぱいに現れるゾンビ。隣で小さな悲鳴と振動を感じながら、私はコントローラーを操作して画面の中央に存在するレティクルをゾンビの顔に合わせる。そして銃で数発撃てば、やがて力尽きる様にゾンビは倒れ伏した。
「大丈夫」
「うぅ、怖いよ……」
私と同じくらいの身長。だけど開拓者から聞いた話だと、私達とは比較にならない程に長い時間を生きているらしい。そんな彼女は突然開拓者が連れて来た新しい人で、停雲と同じ狐族のフォフォ。かなり臆病な性格なのは出会った瞬間から分かった。この家にやって来た時は開拓者の後ろにずっと隠れていたから。
ここへ来た目的は怖がりを克服出来ないかって事らしい。本人にその気は余り無いみたいだけど、その性格を良しとしない存在が近くに居るみたい。本当は常に傍に居るらしいけど、開拓者が連れて行ってしまった。火の玉みたいなのが手の上で暴れていたから、それだったのかもしれない。最初、フォフォは開拓者が連れて行ったのを見て驚いてから、ここに残されて困り果てていた。
「ゲーム、する?」
「え、えっと……う、うん」
開拓者の思いついた方法はここでホラーゲームをする事で、恐怖に耐性を付けられると期待していた。初対面だから何とも気まずい空気が流れてる中、それでも開拓者の目的通りに私はゲームを起動した。明らかに始める前から怖がっているフォフォに操作は無理だと思って、まずは私がやっているのを見てもらう事に。
「ひゃ!」
「むぐっ」
「あ、ご、ごめんなさぃ……」
「大丈夫」
始めたのはゾンビが主に出て来るTPSのゲーム。急に現れたり、徐々に遠くから近づいてくる脅威に怯えながらも限られた弾や回復といったリソースを駆使して生き延びていく。何度かクリアした事もあるから、何処に何が出て来るのかを私は知っている。だけど当然知らないフォフォは現れる敵を見る度に怯えて、少し離れていた距離が今ではくっ付くまでになっていた。怖がる度にしがみ付かれるので、少し手元が狂う。この様子だと、フォフォ自身にプレイしてもらうのは無理だと思う。
怖いモノが苦手なのは別に悪い事じゃない。臆病なのだって、言い換えれば慎重とか警戒心が強いって事になる筈。それでも怖がりながら画面を見るフォフォの姿は、嫌がって恐怖を感じながらも、開拓者の事を信じて克服しようとしている様に見える。
「あ……この先、来る」
「な、何が来るの……?」
「演出。3・2・1、はい」
『グワァァァァ!』
「ひゃぁぁぁ!」
「わぷっ」
ゲームの中で屈指のビックリポイント。ホラーの醍醐味といえど、今のフォフォには辛いと思って少しだけ心の準備をしてもらった。だけど現れる画面いっぱいの顔にフォフォは飛び上がって私の首にしがみ付いて来た。そんなに力は強くないから苦しい訳じゃ無いけど、垂れてる狐耳が視界を綺麗に遮って画面が何も見えない。聞こえて来る怪物のうめき声とダメージ音。連動する様にフォフォは怖がって、音が止んだ頃には画面に赤い文字で書かれる『YOU ARE DEAD』。
「あ、また……うぅ、ごめんなさい」
「気にしなくて良い。フォフォは、大丈夫?」
「ま、まだあの顔が頭から離れないよぉ……」
これ以上このゲームを続けるのは止めた方が良いかもしれない。私はゲームの電源を切って、ソファに座り込む。さっきまではゲームをする為に少し前屈みだったけど、今は背凭れに身体を預けて。まだ少し怯えるフォフォに、膝を叩いて示す。銀狼を始め、色々な人に膝を貸して来た。皆一様に、安心するって言うから。きっとフォフォにも効果があると信じて。
「え、えっと……?」
「ん。頭を乗せる」
少し困った様子のフォフォだけど、私が行った通りに頭を預けてくれた。考えてみれば、普通初対面でやるべきではない行為だったかも。それでも恐る恐るで預けてくれたフォフォの頭を優しく撫でる。停雲のお蔭で狐耳のどこが心地良くて、触らない方が良い場所も把握出来てる。お墨付きも貰った事があるから、撫でるテクニックには少し自信あり。
「ふぁ~」
「もう怖くない」
「そう、だね……ふみゅ~。あり、がとう」
何度か撫でていると、フォフォの表情から恐怖と緊張が薄れているのが目に見えて分かる。人との触れ合いは心を許した相手となら、大きな安らぎになる。まだ私では無理かもしれないと思ったけど、『撫で』は偉大。震えなくなったフォフォを前に、これからどうしようかを考える。
「その、ごめんなさい。いきなり来て、騒いで……迷惑、だったよね」
「そんな事ない。今こうして過ごす時間は、ちゃんと楽しいから」
怯えているフォフォを見て楽しいと思うんじゃなくて、今こうして居る時間が本当に楽しい。狐耳を撫でるのは安心させる意味もあったけど、私自身その触り心地は好き。柔らかく暖かくて、ふさふさでふわふわ。いくら触っていても飽きたりしない。
「怖いの以外にも、ゲームはある。遊ぶ?」
「で、でもここに来た理由は……」
「気にしない。無理に嫌な事をする必要は無いから」
怖がりの克服がしたくてここへ来たとはいえ、さっきのホラーゲームでの様子を見た後だと流石に気が引ける。私に初対面の女の子を苛める趣味は無いから、ここで克服するのは諦めてもらおう。その代わり、他の人と同じ様にここで一緒に何かして過ごせればいい。どんな場所でどんな風に過ごしているのかは知らないけど、ここがフォフォにとっても心安らぐ場所であれば、それで良い。
それからフォフォと一緒に別のゲームを始めた。太鼓のゲームだったり、レースやパーティーだったり。怖いとは程遠い和やかで平和なゲームを主に選んで遊び続けた。途中で開拓者が帰って来てからは三人で。火の玉みたいなのがやっぱり暴れていたんだけど、特に害は無かった。
「ど、どうしちゃったの?」
「ここは男子禁制だから、喋れない様にした」
「?」
別にそんな事は無いんだけど、確かに男性を入れた事は無い。そもそも私、男性の知り合いが居ないけど。開拓者の言葉通りなら、あの火の玉は喋るらしい。フォフォの臆病を良しとしないのって、もしかするとあれなのかも。
目の前を火の玉が凄いスピードで動き回っていて、何かを抗議しているのは間違いない。だけど開拓者がゲームの邪魔をする火の玉を軽く手で払い退けると、弱々しくフォフォの傍へ浮かびながら近寄って……尻尾みたいになった。火の玉だけどソファは燃えないみたい。良かった。
「また連れて来るよ」
「お、お邪魔しました」
「ん。フォフォ、これあげる」
「これは、チケット?」
「この家に繋がる。いつでも、歓迎する」
やがて帰る時間になった時、私はフォフォにチケットを渡した。今後もフォフォだけでここへ来る事は無いかもしれないけど、一度来た事があるなら私は歓迎するつもり。一緒に居て嫌だと思わない相手なら、いつだって良い。思えばそんな相手には今のところ出会ってすら居ないけど。みんな、良い人だから。
「それじゃあ、また」
「ば、ばいばい!」
「ん、またね」
開拓者とフォフォが扉の先へと消えて行った。そして独りでにゆっくりと閉まる扉。鍵の掛かる音がして、もうチケットを使わない限りは外へ出る事も出来なくなる。
一気に音が無くなって寂しさを感じる家の中。誰かと一緒に居られる時の騒がしさは、消えてしまうと少し恋しく思ってしまう。
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『そろそろ帰る。ホタルも一緒』
『分かった。ご飯用意して、待ってる』
『よろ~』
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その寂しさもきっと少しの間。銀狼とホタルが帰って来るから。それまでに私はいつもの様に、夕飯の準備をして待っていよう。
私をこの世界へ引き込んでくれたのが銀狼。私にとって親友であり、家族の様な存在でもある。交友関係を主に広げてくれたのは開拓者かもしれない。けど、その根本的な始まりは銀狼が居たからこそ。ホタルだって銀狼が連れて来て、それからお姉ちゃんみたいな存在になったから。
「ねぇ」
「ん」
「うん、イイね」
いつもの様に、ソファに座っていた私の膝上へ頭を乗せて横になりながら端末を操作する銀狼。その姿を見て、親友ってどんな関係なのかふと気になった事がある。友達よりも深い関係。一緒に遊んで、時間になったら離れてまた会うのが友達。一緒に住んでいるのはそれ以上かもしれないけど、親友だって一緒に住んでいる関係の事を言う訳じゃない。『家族』と『親友』という関係がそもそも両立出来るのかも、今更考えて見ると分からない。気になる。
「銀狼」
「ん~?」
「私達、親友?」
「何、今更。それ以外ある?」
「一緒に住んでる。それは、家族。でも親友、なの?」
「いいじゃん、そんな細かい事。……あぁ、そういう事。家族が一緒に過ごす最終だとして、間が無かったから気になるんだ?」
そう、なのかもしれない。一緒に過ごすのが家族で、それが関係としては一番深い様な気がする。家族ってそもそもは二人の男女が一緒になって、もしかしたら子供が生まれたりして、その子供がまた新しい家族を作って行く事で家族の数が増えて行く。他にも形はあるかもしれないけど、それがきっと自然な流れ。なら、私達は? 家族だけど、恋人だった訳でも無い。一緒に過ごしているけど、その過程が無かったのは確か。
「ふぅん。じゃあ、付き合う?」
「? 誰と?」
「そんなの、私達に決まってるでしょ。確かに過程を省略して親友兼家族になったし、この際恋人にでもなってみれば良いんじゃない?」
恋人になる。それって、どんな風になるのか考えた事も無かった。もしなったら、何が変わるんだろう? 一緒に過ごしているのは、言わば同棲? ホタル、気まずくならないかな?
でも少し、興味はある。誰かとする恋人みたいな生活、どんな感じになるんだろう。
「ん、なる」
「……へ?」
「恋人。なってみたい」
端末の背面しか見えないけど、やられたっぽい効果音が聞こえて来る。銀狼の操作する手は止まっていて、端末を持ったままポカンと呆けた様子で私を見つめている。言い出したのは銀狼なのに、とても驚いているみたい。
「恋人って、どうすれば良い?」
「どうすればって……キス、とか?」
「キス……する?」
「うぇ!?」
今度は端末が銀狼の胸に落ちた。それなりに痛いと思うけど、そんなの気にしてないみたい。普段見る事のない、真っ赤な顔。もしかして、冗談のつもりだった? どちらにしても、家族ではしなくて恋人がする事と言えば確かにキスはある。頭とか手の甲に、とかじゃない口同士でするキス。
「銀狼」
「あ、えっと……すぅー」
した事無かったから、してみよう。そう思って顔を近づけて見れば、慌てた銀狼がやがて意を決したみたいに目を瞑った。唇が触れ合うまであと少し、そんなところで私達を止める様に声が聞こえる。
「何してるの?」
「! ホタル。お帰り」
「ただいま。それで、何してるのかな?」
ビックリして、キスをする前に銀狼から顔を離した。いつの間に帰って来ていたんだろう。ホタルが気付いたら傍に立っていて、聞いてくる。目が笑っていない様に見えるのは気のせい? 目を瞑って待っていた銀狼もホタルに気付いて、さっきと変わらず慌てた様子で身体を起こした。
「キス、してみようって」
「なんで? どうしてそうなったの?」
「恋人になって、する事といえば、キス」
「実はさ……」
正直に答えるけど、ホタルの目が光の見えない真っ黒になのが少し怖い。銀狼がさっきまで話していた事を説明し始めると、徐々にその目に光が戻っていくのが分かる。やがて私の隣に腰掛けたホタルが目を合わせて来る。
「家族になるまで、か……。確かに恋人はその間にあるのかも。貴女は恋人が欲しい?」
「分からない。でも、銀狼とかホタルなら、それも良いって思った」
もう家族だから、恋人の域を進んだ先に私達はきっといる。だけどその過程を感じてみたいとは思う。
「そ、それじゃあ私が恋人になるのも……」
「いや、私が先だったんだけど」
「ちょっと待ったぁ!」
「! 開拓者?」
ビックリした。急に今度は開拓者が現れたから。ホタルの時もそうだけど、何の気配も感じさせずに現れるのはかなり怖い。
「家族で恋人体験をするなら、長女である私をハブるなんてとんでもないよ」
「いつ長女になったの?」
「私が長女、ホタルが次女。銀狼が三女で彼女は末っ子」
言われると少しだけ納得出来る四姉妹な気もする。開拓者が三女でも合いそうだけど。それに関係性って話でそれが成立するなら、ロビンとかも間に入って来るかもしれない。でもそうなると銀狼と面識が無かったりするのはおかしくなっちゃうから、違うかな? そういえば、なのかが言ってた。
「開拓者は、なのか達の末っ子」
「それはそれ、これはこれ」
「都合良過ぎ」
「とにかく、恋人体験は私も含めてもらうから。なんなら最初でも」
ホタルと銀狼が同時に開拓者へ視線を向ける。ちょっと威圧感のある視線に、少しだけ気圧される開拓者。それから私を他所に話を始めた三人がやがて納得した様に頷いてから、今度は私を一斉に見つめて来た。
「私、ホタル、開拓者の順番で一日恋人体験をする事になった。良い?」
「私、だけ? ホタルと銀狼、開拓者とかの三人は?」
「言い出したのは貴女だから。それに私達の関係はまた少し違うし」
こうして、私の小さな疑問から三人との恋人体験をする事が決定した。ところで、恋人になってする事ってキス以外に何があるんだろう? それも、体験をする事で知る事が出来るのかも。