迷い家の少女   作:ウルハーツ

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三度目にしてホヨバ通行証のメールアドレス変更申請が通って一安心。
駄目が二回続いた時は本当に不安がピークに。受理された時は嬉しくて泣きそうだった。

って事で今後の安全が保障されて十分に『良い事』だったので、一ヵ月待たずしての更新。


マダム・ヘルタ:5 - 銀狼:10(恋人体験)

「ねぇ、開拓者。貴女は何時になったら模擬宇宙へ入るの?」

 

「今ちょっと忙しいから、ごめん」

 

「スマホ触ってるだけにしか見えないけど? はぁ、彼女は言わなくても自分から入るんだよ。最初は来なくなった貴女の代わりのつもりだったけど、今じゃメインは彼女。この意味分かってる?」

 

「ごめん、今本当に忙しい。本気でデートプラン考えてるから」

 

「デート? 貴女が? ふぅん、誰と?」

 

「彼女が気になったみたいで、一日私達が恋人になる約束をしたんだ。あぁ、銀狼もするよ」

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 今日は朝に突然ヘルタから呼び出されて、宇宙ステーション『ヘルタ』へやって来た。最初にアスターとも少し話をしてから、人形が普段居るヘルタのオフィスへ入る。だけど今回そこに居たのは珍しく本人で、私が入ると同時にヘルタの人形が閉まる扉の前に立った。まるで私がここから出るのを妨害しているみたい。

 

「模擬宇宙に入って」

 

「分かった」

 

 私を一瞥して即座にヘルタが言う。定期的に模擬宇宙へは入っているけど、今回は何か普段と違う特別な調整をしたのかもしれない。言われた通り入口へ向かい始めた時、ヘルタがゆっくりと近づいて来て耳元で囁き掛けた。

 

「今回、報酬を変えたから。いつも同じはつまらないでしょ?」

 

 耳に掛かる吐息が少しくすぐったい。ヘルタからの報酬はその殆どが開拓者の元へ行く仕組みになってる。あの必死になって集めている券を手に入れる為の何かを、報酬としてもらっているみたい。元々私は私自身が少しでも戦える様にって、試練を用意してくれる様になったから、それに対しての不満はない。それに報酬が全くない訳じゃなくて、通貨として使える信用ポイントとかは貰ってるから十分満足してる。

 

 報酬の変更。スマホのゲームとかでもよくある改変。もっと豪華になる事もあれば、改悪されて報酬がしょっぱくなってしまう事もある。ヘルタの場合、後者は無いと思うけど少し心配。私じゃなくて開拓者が悲しい思いをしてしまうかもしれない。流石に私が文句を言われる事は無いと思うけど。

 

 模擬宇宙の中へ。いつもの様に視界が歪んで、見えて来るのはピノコニーの景色。入ったと同時に服装はヘルタの宇宙船専用給仕服に変わっていて、背中には重みを感じるミニガンもある。薙刀と力を使った戦い方は攻撃力が無くて、戦闘が長引く。この戦い方を覚えてからは、こっちの方が敵を殲滅するのは簡単。現実では扱えないから、ヘルタが傍に居る時専用だけど。

 

『それじゃあ、いつも通り頑張って』

 

「ん」

 

 聞こえて来るヘルタの声。目の前に現れる複数の敵。私はミニガンを構えて、戦闘を開始する。報酬がどんな風に変わったのかは後のお楽しみ。今はいつもと変わらない模擬宇宙の試練を熟そう。敵の種類が増えたりしている可能性もあるから、ちょっと注意して行かないと。

 

 ミニガンを掃射して敵を倒していくのはかなり気持ちが良い。変な癖になりそうだから、そっちへ堕ちる前には何とか戻って来てるけど。問題なのは重さ。とにかく重いので、移動が大変。撃ってる時に横から攻撃されたりすると、回避するのも間に合わない。間違いなく動きは重量級。

 

 私一人だけでの挑戦だから、難易度も相応の設定になっているんだと思う。敵の数は少し多いけど、それはミニガンを使う代償みたいなもの。特に苦しむ場面も無く、最後の亀裂に入ってボスエネミーを倒し切れば、外へ繋がる白い亀裂が目の前に現れる。

 

「ふぅ。ゲーム、クリア」

 

 亀裂の中へ足を踏み入れれば、視界が歪んでヘルタのオフィスに戻って来る。まだ出入り口にはヘルタの人形が立っていて、扉の色が赤くなっているのを見ると、ロックされているみたい。その必要、ある?

 

「お帰り」

 

「ん、ただいま」

 

 ヘルタ本人が迎えてくれる中、私は模擬宇宙の入り口から離れて傍へ近づいた。普段なら人形が出迎えてくれるけど、本人ってなると存在感が全然違う。報酬をもらって、後は帰宅するだけ。本人が居るとは思ってなかったから、今日はお菓子も何も持って来てない。教えてくれたら、用意するのに。

 

「それじゃあ、報酬。これはいつものだよ」

 

「ありがとう。……?」

 

 信用ポイントはスマホで送ったりも出来るから、実際に手渡しされる事は殆ど無い。だけど今回はヘルタの手にしっかりと存在していて、私はそれを受け取った。だけど掴んだ信用ポイントがヘルタの手から離れない。

 

「新しい報酬もあげるね」

 

「ぇ……んむっ!?」

 

 余りに突然の出来事だった。信用ポイント越しに掴んでいた手を急に引っ張られて、一気にヘルタの顔が近づいて、口に当たる初めての感触。何が何だか分からない間に、今度は私の唇を温かい何かが押し広げる様に入って来る。

 

「はむっ、じゅるっ!」

「んんっ! んぐっ……ヘル、タ……?」

 

「へぇ。この前の照れ顔もそうだけど、良い顔するね。もう一回」

 

 口の中を這い回って滑る何か。普段何かを食べる時や、歯を磨く時くらいにしか口の中に何かが入って来る事は無い。私の意志は関係ないとばかりに何かが容赦なく私の舌を絡めとって、頭の中が真っ白になっていく。この感覚は、何? 初めての感覚で理解が出来ない。

 

「気持ち良いでしょ? 私にキスされるなんて、例え全宇宙の存在が願っても叶わないよ」

 

「キ、ス……?」

 

 した事はない。この前銀狼と試そうとした時には、ホタルが現れた事で寸前に止まったから。どんな行為なのかは知っていても、その感覚は全くの未知だった。この頭が真っ白になって、意識の奥で火花が散るみたいな感覚。これが、気持ち良いって事? でも、どうして。

 

「ほら、舌を出して」

 

「待っ、て……」

 

「待たない。はむっ」

 

 また、キスされる。口内を好き放題される。身体から力が抜けて、立っている事も出来なくなる。なのにヘルタはいつの間にか私の腰を片手で支えていて、無意識に逸らそうとしていた頭さえも後ろから掴まれて逃げられない。舌が絡む度に刺激が走って、何も考えられなくなる。

 

「ふぅ、弱すぎ。貴女、そんなだと簡単に襲われるね。全く、開拓者や銀狼(小娘)と恋人ごっこなんて。貴女が大好きなのは私、そうでしょ?」

 

「ぅ、ぁ……ヘル、タ……」

 

「……はぁ。これは、目覚めちゃうかもね」

 

 ヘルタの顔が近づいて来る度に、口の中の感触に頭の奥が弾ける様な感覚がある。少し休んでは身動き出来ない中で、ジッと見つめて来るヘルタの名前を呼ぶ事しか出来なくて、なのにヘルタはまたキスをして来て……その連続。ロックされた扉からは誰も助けに来てくれない。

 

 初めてのキス。覚えていない前の私がどうかは知らないけど、私の中では間違いなく始めて。こんなに気持ち良くて、だけど恐ろしいモノだったなんて知らなかった。頭の中の弾ける感覚は絶えなくて、それを与えて来るヘルタが怖い。なのに彼女を嫌いになるどころか、ヘルタにされる事が嬉しく思えて来る。もっとして欲しい、そう思ってしまう。おかしいのに。こんなのおかしい、筈なのに。

 

「夢中になっちゃう?」

 

 妖しく微笑むヘルタにどう答えたのか、意識も薄くなっていた私にはもう分からない。だけど初めてキスをした相手はヘルタである事。そして、キスをするのがこれっきりじゃない事だけは確信出来る。明らかに楽しんでいるヘルタが、この一度で終わらせる筈が無い気がしたから。

 

「これからはこっちもあげる。豪華な報酬でしょ?」

 

 薄れていく意識の中で、そんなヘルタの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 恋人体験。この前銀狼と一緒に家で過ごしていた時、ちょっとした疑問からそれをやってみる事になった。銀狼、ホタル、開拓者の順番でやる事を三人が相談して決めたみたいで、その日付も相談済みらしい。そしてその最初、今日が銀狼の日。

 

 恋人になったらする事。まず真っ先に浮かんだのはキスだった。それは好き合う者同士がする行為で、愛を物理的に伝えられる行為。……私がヘルタにされた、事。急にキスをされてから頭が真っ白になっていって、気付いたら私は宇宙ステーション『ヘルタ』にある休憩室で横になっていた。アスターが言うには、倒れてしまったって。模擬宇宙で疲れてしまったのかもしれないって。でも、私は覚えてる。ヘルタにキスされた事を。

 

「ねぇ、銀狼」

 

「うん。様子が変だね」

 

 朝起きて二人の朝食を作ろうとして、目玉焼きを焦がしてしまった。それでも二人は怒らずに食べてくれる。二人が食べ終わる頃に私はまだ半分も食べれなくて、あの出来事を思い出す度、唇に蘇る感触。またされている訳でも無いのに、無意識に触れてしまう。

 

「な、何か、凄く……その」

 

「妖艶ってやつ? え、何があったの?」

 

 二人が何か言ってるけど、正直頭はそれどころじゃない。ホタルが出掛ける時間になって何とか切り替えようとするけど、やっと他の事を考えられたと思ったらヘルタの顔が浮かんでは消える。言葉通り目の前に広がったヘルタの顔。自他共に認める綺麗すぎる顔で、私を見つめながらされるキスの感触。気持ち良くて、頭が真っ白になって……。

 

「こっち」

 

「……」

 

「ほんとに何があったの? 今日は私の日なのに」

 

「……」

 

「はぁ。しょうがないな」

 

 急に引っ張られる。その先はソファの上で、転がされた私の上に銀狼が乗って来た。いつもの様に私の身体を枕にでもするつもりなのかもしれない。そう思っていると、銀狼は私のお腹に頭を乗せる……のではなく、本当に私の身体へ覆い被さって来た。私の両肩を掴んで、自身の姿勢を少し起こしながら見下ろしてくる。

 

「今日は貴女が望んだ恋人体験を私とする日なんだけど、分かってる?」

 

「……ん」

 

「なのにずっと上の空なのはどういうつもり?」

 

「……」

 

 怒ってる。銀狼の表情は特に変わってないけど、その雰囲気が伝わって来る。朝から上の空になっていたのは分かっているけど、なりたくてなったんじゃない。嫌でもあの出来事が衝撃過ぎて、物事に集中出来ない。どうすれば良いんだろう。忘れる事なんて出来ないと思う。

 

「何があったの?」

 

「……この前」

 

 今のままでは良くない。そう思って、私は正直に銀狼へ説明をする。前回のヘルタが用意した模擬宇宙で行う試練の報酬という名目で、キスをされた事を。頭の中が真っ白になって、立って居られなくなって、何度も繰り返されて、意識を失った事を。そしてその感触が未だに残っている気がして、頭から離れない事を。

 

「…………は?」

 

 ヘルタの名前が出た時点で少しだけ面白くなさそうに眉間へ皺を寄せた銀狼。模擬宇宙へ挑戦しに行った辺りで何かを察していた様な顔になって、キスされた事を言った瞬間にその表情が正しく無になった気がした。私の肩を掴んでいる手に力が籠り始めて、少し痛い。

 

「薄々気付いてはいたけど、本気で私から貴女を奪おうとしてるんだ」

 

「銀、狼?」

 

「開拓者とかホタルなら、百歩譲って。……いや、千歩くらい譲って……譲りたくは、無いけど。でもよりによって貴女の始めて(ファーストキス)を奪ったのがアイツとか、流石に許せない」

 

 身体が動かない。押さえつけられてる事もそうだけど、銀狼から感じる雰囲気に全身が固まったみたいに動かせない。見下ろして来る細められた目が少し、怖い。

 

「上書きしないと」

 

「えっ……っ!」

 

 過去に目の前へ近づいたヘルタの顔と、銀狼の顔が重なった様に見える。口にあるのはあの時と同じキスの感触。頭を抱えられて逃げられない時と違って、今回はソファの上だからそもそも後ろが無い。触れ合わせるだけのキスはあの時ほど暴力的じゃないけれど、きっとこれだけでは終わらない気がする。

 

「どうせディープなキスもしたんでしょ?」

 

「待っ」

「待たない」

 

 制止の声も聞き入れてもらえない。力の無い私はヘルタも銀狼も、押し返せない。閉じた唇を柔らかい舌で強引にこじ開けられて、口の中を好き放題に舐め回される。力が抜けて、身体が震えて、頭の中が真っ白になる。キスは私を無力化するのに一番効率の良い手段、なのかもしれない。

 

「ふっ、弱点撃破。余裕」

 

「はぁ、はぁ……銀、狼……」

 

「恋人体験で端から優しいキスくらいはするつもりだったけど、もう収まらないから。まぁ、弱点撃破して終わりな訳も無いし。色々するよ」

 

 

 それから銀狼が満足するまで、力の入らない私はされるがままにキスを受け入れ続けるしかない。始めてされた時に知った。キスという行為が、好奇心で気になっていたその行為が恐ろしいくらいに気持ちが良くて、頭が真っ白になるんだと。

 

「ほら、ゲームするよ」

 

「む、り……ぃ……」

 

「はぁ。流石に雑魚過ぎ」

 

 ヘルタにも言われた。私は弱すぎるって。それは戦いじゃなくてキスの事。もしくはその延長線上にある話。銀狼がキスを止めて普段通りにゲームを始めようとしても、私は真面に身体を動かせない。でも、朝の様にヘルタの顔が浮かんでくるのは無くなった。その変わりにさっきまで目の前にあった銀狼の顔が浮かぶけど。ソファを背凭れにして座り、ゲームを始める銀狼の後ろ姿を見るだけで少し顔が熱くなる。

 

「タイマンしよう。負けたらまたキスね」

 

 ホタルも交えてやる事のある三人一組のバトロワFPS。その訓練が出来る場所で一対一のタイマンバトルを銀狼が提案してくる。だけどその目的は強くなるためじゃなくて、弱った私を倒してまた同じ行為をする事。力の入らない状態で、銀狼に渡された端末を操作する。当然真面に操作が出来なくて、銀狼のキャラに1割くらいしかダメージを与えられないまま敗北した。

 

「はい、私の勝ち。じゃあ9秒するから」

 

「なにそれっ、んむっ!?」

 

 誰かと恋人になったなら、キスはこれくらい頻繁にするのかもしれない。答えを知らない私には分からないけど、もしそうだとしたら私にはキツイと思う。一般にイチャイチャすると言った内容にキスが入っていたとして、こんな頻繁に腰砕けになってしまうのは流石に。

 

「第二戦、始めるよ」

 

「……」

 

「止まってたら一方的に勝って、10秒だから」

 

 何度も負けてはキスをされて、その繰り返し。銀狼が恋人体験を邪魔されない様にと他の誰も来れない様にされた家では、日付が変わってホタルが帰って来れるその時まで終わらない。

 

 

「絶対、あの女には渡さない。この事、ホタルと開拓者にも共有しておこう」

 




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