※今作は原作で死亡・消滅・会えなくなったキャラが基本関係なく普通に今後も登場します。既にEx.編の最後が出来ている段階で本編と大いに矛盾していますので、予め記載しておきます。
「芦毛ちゃん、ジッとスマホ見て何してるの~?」
「! 花火か。中々デートプランが確立しなくてね」
「デート? 芦毛ちゃん、誰かと付き合い始めたの!?」
「彼女とするんだよ。今度、お試しで恋人になる事になってね」
「へぇ~、ふ~ん。そうなんだ。花火、用事思いついちゃった! バイバイ芦毛ちゃん!」
「……何でここに来たんだろう?」
「良い事知っちゃった♪ 花火も混ざって、ロビンちゃんも揶揄っちゃおっと!」
誰とも約束をして居ない日。銀狼とホタルが外出して一人っきりの家はとても静かで少し寂しい。だけど予定が無い日でも、急に出来たりする事はある。例えば何の連絡も無いのに、突然誰かがやって来た時。大体この場合、相手は決まってる。
「花火」
「遊びに来たよ~、名無しちゃん!」
玄関から真っ直ぐに私の居る部屋まで迷いなく近づいて来る足音。ノックもされずに開いた扉から覗いた顔に、私は声を掛ける。ニヤニヤとした笑顔が一転、私を見て花が咲いたみたいに可愛い笑顔になった花火が駆け寄って来る。それもかなりの勢いで。ベッドの上で足を外に出して座っていた私は、そのまま花火に押し倒された。
「う~ん! 名無しちゃんの匂い、最高~!」
「んっ、くすぐったい」
花火は来る度にこうしてくっ付いてくる。最初は驚いたけど、誰かにくっ付かれるのはもうホタルが居る事もあって慣れた。匂いを嗅がれるのだって普段通り。この前は寝ている時にやって来て開拓者に捕まっていたけど、今回は普通に遊べそう。
「何する?」
「花火、聞いちゃったんだよね~。芦毛ちゃん達と恋人ごっこするんでしょ? 花火もしたいなぁ~!」
「開拓者?」
「正か~い! 芦毛ちゃん、デートプランを必死に考えてたよ?」
何処から聞いたのか、考えて真っ先に思いついたのは開拓者。多分他に喋る人が居ないと思うから。銀狼とホタルの交友関係を全部知っている訳じゃないけど、花火とは関わりが殆どない筈。
今にして思い出してみれば、ヘルタが急に襲って来た時も恋人体験の事を知っていた気がする。もしかして、言い触らしている? それは無い筈。そんな事をする意味が無いから。でも隠す事もして無いと思う。ヘルタや花火が知った感じから、聞かれた事へ正直に答えているのかもしれない。開拓者が頑張って考えてくれてるデートプラン、楽しみ。
「って事で、花火とイ・イ・コ・ト♪ しよ?」
「良い事?」
花火の言う良い事がどんな事かは分からないけど、ちょっと危ない気がしてしまう。だけど他に予定も無い今日、せっかく来てくれた花火を無視するのは流石に嫌だ。私に抱き着きながら匂いを嗅ぐ花火の提案をまずは聞いてみよう。
「クンクン。今日はこうやって一緒にくっ付いたまま過ごして、何なら肌と肌をびったりくっつけて恋人しかしない様な事をするんだよ~!」
「別に、いつも通り……っ!」
くっ付いているのなんて普段からやっている事。そう思った瞬間、花火の手が突然服の中に入って来た。今までは服の上からだった接触が直接触れ合う様になる。肌と肌をくっ付けるって、言葉通りそういう事?
「あれ? 名無しちゃん、下着は付けて無いの?」
「ちゃんと履いてる」
「おぉ~、水色のストライプ! ってそうじゃなくて、おっぱいの方だよ!」
「上は、必要ないから」
「そっかぁ~。むふふ~っ! それじゃあ、花火が沢山揉んで育ててあげる!」
揉むと育つ? 自分のおっぱいの大きさを気にした事は無い。確かに開拓者やホタル、色々な人に色々な大きさがあって抱きしめられると柔らかさを感じる事はある。だけど私みたいに大きくない人でも、抱きしめられる感触は誰だって暖かい。それで十分だと思う。
「ふにふに~。あはっ! 柔らか~い!」
「んっ! 変な感じ、する」
「ピリって痺れる感じがするなら、それは気持ち良いって事なんだよ~!」
ただ肌が触れるだけじゃなくて、花火の手が分かり易く私の胸を撫で始める。ほんの少しだけ、電気が走る様な痺れを感じた。ゲームとかで強い敵を倒した時の様な気持ち良さじゃなくて、意識がぼんやりする様な感じ。キスされた時とかなり似ている気がする。酸欠になると意識が薄れるものだけど、ヘルタは言っていた。これもまた、気持ち良い事だって。
「ふふっ。名無しちゃん、良い顔するねぇ。そんな顔されると、花火も本気になっちゃうな~」
顔に触れられて、少し強引に花火の方へ顔を向けられる。その瞬間、目の前に迫った花火の顔。口の中に感じるのは、ここ最近経験のある滑った何か。また、私はキスをされた。ヘルタの時も銀狼の時も、私の意志なんて関係ない。反射的に生まれた抵抗すらも奪う様に、口の中を花火の舌が這い回る。頭がボーっとして、だけど身体は熱くなって、私にはそれをどうする事も出来ない。
「蕩けた顔、可愛い~! 花火のキス、美味しいでしょ?」
「どう、して……?」
「ん~、分かんない。でも名無しちゃんなら良いかなぁ~って思ったから。花火とキス出来るのなんて、名無しちゃんくらいだよ?」
力が抜ける。飛び込んで来た時のまま、仰向けの私に覆い被さる花火の顔が明かりの影になってよく見えない。だけどその薄赤い綺麗な瞳を妖しく光らせながら見下ろしてきて、一瞬だけ見えた口元の舌が私との間に掛かった唾液の橋を飲み込むのが見えた。
両手で頭をガッシリと押さえられて動かせなくなる。笑みを浮かべる花火の顔が近づいて来て、少し不味い予感がした。このままキスをされ続けたら、自分がおかしくなってしまう。それにキスだけで花火が満足するとも思えない。愛し合う男女がする行為は知識でなら知ってる。それが女性同士となったらどうなるのか。とにかく、恋人体験だとしても限度はある。
「待って」
「ん~? あはっ! い・や♪ はぁむっ」
きっと、私の目は怯えていたと思う。花火はそんな私を見て凄く愉しそうに笑った。その笑みはとても無邪気で、恐ろしいモノだったと思う。だけどそれも一瞬。近づいて来た花火の顔が視界を完全に覆って、口の中にまた入って来る舌が私の頭の中まで一緒に掻き回し始める。
何を考えていたのか、分からなくなる。何をしていたのか、思い出せない。ただ視界が真っ白になって、自分が何だったのか忘れてしまって、一瞬解放されると同時に耳元で誰かの声がした。
「名無しちゃんは花火の
「ぅ、ぁ……」
「名無しちゃんは花火のモノ」
「わ、たし……は……」
「名無しちゃんは……」
聞こえて来る声が頭の中を満たしていく様な感覚がある。花火の玩具。花火のモノ。私は、花火の……。
「ち、がう」
「あれ?」
「花火は……友達。私は、友達」
思い出した。キスが止まって囁かれる様になった事で、少しずつ正気に戻れたみたい。まるで洗脳するみたいに私と花火の関係が書き換えられそうになっていたけど、私達の関係は前に言った通り。花火は私の友達で、一緒に時間を過ごすのが楽しいと思える大事な人。
「もう一回キスしてあげる! あぅ!」
「もう、駄目」
何とか右手を動かせた事で、私は近づいて来た花火の口元を覆って押し退けた。まだそんなに力は入らないけど、これ以上される前に離れる必要がある。このままされるがままになっていたら、本当に取り返しがつかない事になりそうだから。
「あーあ。残念」
花火は心底残念そうに、だけど笑みは絶やさずに私から退いてくれた。
「名無しちゃん、キスは初めてじゃないでしょ?」
「ん。前に、された」
「あーあ、本当に残念だなぁ。名無しちゃんのファーストキス、花火が欲しかったのに」
これで誰かとキスをしたのは三回目。その全てにおいて、私は正気を保っていられなかった。頭が真っ白になって、されるがままになってしまう。そう思うと、キスという行為そのものが怖くなって来る。
「名無しちゃん」
「……」
「これからいーっぱい、遊ぼうね! 沢山、してあ・げ・る♪」
だけどキスからは逃れられない確信もある。ヘルタが言っていた、私は弱すぎるって。このままだと、簡単に襲われるとも。それを今、私は味わったのかもしれない。
「? 誰かからのメッセージ。動画ファイル?」
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『ロビンちゃんにぷれぜんとふぉーゆー♪』
『動画ファイルが一件』
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「……」
ロビンにはこの様な事をする人物に心当たりがある。送られてきた動画を視聴する事で後悔するかもしれないと分かっていても、彼女は恐る恐るその動画ファイルを開いた。映し出されるのは、明らかに隠し撮りされた画角の映像。場所は、少女の部屋。
『待って』
『ん~? あはっ! い・や♪ はぁむっ』
「……ぁ……あぁ……妹、ちゃん……」
ベッドの上で花火が誰かに無理矢理口づけをするシーンがそこには映っていた。その相手の顔は見えないが、花火に跨られた者の身体は映っている。そして声もしっかり入っており、それが誰なのかを察するのは容易い事だった。
スマホがロビンの手から零れ落ちる。聞こえて来るのは口づけをする二人の水気が混じったキスの音。その日、銀河に名を馳せる歌姫が膝から崩れ落ちた。
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『ご馳走様でした♪』
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突然の連絡だった。相手はロビンから。だけどそのメッセージの内容は明らかに本人ではなくて、最初は疑わずに居られない。
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『私はロビンさんのマネージャーをしている者です』
『ロビンさんが昨日から、「妹ちゃん」と繰り返し上の空で呟きながら放心状態になっておりまして、活動に支障をきたしております』
『マネージャー、さん? 本物?』
『はい。証拠に今のロビンさんの様子を写真で送ります』
『ベッドに仰向けで胸の前に両手を組んで虚ろな目をしたロビンの写真』
『これで信じていただけますでしょうか?』
『不安。だけど一旦、信じる。どうすれば良い?』
『ロビンさんから貴女の話はよく聞かされております。何があったのかは存じませんが、どうか来ていただけないでしょうか? 恐らくロビンさんを元に戻せるのは貴女しかいないと思うのです』
『分かった。そこに、チケットはある?』
『チケットですか?』
『これでしょうか?』
『黒と青のチケットが映った写真』
『合ってる。それを何処かの扉の前で翳して欲しい』
『よく分かりませんが、やってみます』
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家を出る準備をする。取り敢えず、ロビンに会うとやっているブラッシング様のブラシや、マッサージのオイル等。玄関を見れば扉が光輝いていて、もうロビンの居る場所に繋がっているみたい。
一体、ロビンに何があったのか分からない。だけど私がロビンの力になれるなら、喜んで何でもするつもり。
扉を潜った先は、前に泊まったピノコニーのロビン専用部屋。ベッドの上には写真と全く同じ姿のロビンが居て、その傍には初めて見る女の人が立っていた。扉から入って来た私を見て目を丸くしているのは、きっとチケットの効果に驚いているんだと思う。さっきまで通じていた場所とは明らかに違う場所から現れたんだから、仕方ない。
「貴女が、ロビンさんの仰る妹さんなのですか?」
「ん」
血が繋がっている訳ではないけど、お姉さんの様な存在である事は本当。妹ちゃんと呼ばれているのも本当だから、肯定する。
「妹ちゃん…………妹ちゃん…………」
マネージャーさんに一度お辞儀をしてから、ロビンの傍へ近づいてみる。写真と同様に虚ろな目をしていて、天井を見上げているのに何も見えていないみたい。本当に何があったんだろう。か細い声で確かに私の事を呼んでいる。
「ロビン」
「妹ちゃん…………妹ちゃん…………」
「昨日からこの状態なのです」
声を掛けても反応しない。確かにこの状態じゃ真面に活動なんて出来そうにない。寧ろそれ以上にロビンの心が心配。どうすれば反応してくれるんだろう? 私はベッドに乗って、ロビンの顔を見てみる。虚ろな目で何も見ていないロビンの視界へ入り込む様に。
「ロビン」
「…………」
「反応が……」
何も言わなくなってしまった。声すら聞こえなくなって更に心配になる。だけど少しして、ロビンの手が僅かに動いた気がした。普段はしている白い手袋はなくて、とても暖かいその手が私の頬に触れた。
「妹、ちゃん……?」
「ん。ロビン、私はここに居る」
「ぁ……あぁ……妹ちゃん!」
「むぐっ!?」
急に生きた声がしたと思ったら、思いっきり抱き締められた。ロビンの胸へ強い力で押し付けられて、柔らかいのに少し痛い。でも反応してくれて良かった。
「ロビンさん! 正気に戻られたんですね!」
「マネージャーさん?」
「はい。ロビンさん、ずっと妹さんの事を呼びながら虚ろな目で放心状態だったんですよ。一体、何があったのですか?」
「えっと……コンサートの打ち合わせを終わらせて、部屋に戻って来たまでは覚えているのだけど」
「ふはぁ。ふぅ……記憶が、無い?」
「そうみたい。けれど、何か大切なモノを失った様な気がしたのは覚えているわ」
「大切なモノ? ……」
マネージャーさんが私を見て来る。当然私が知る筈も無いので首を横に振って否定するけど、怪訝な表情で見られ続けた。ロビンは何か大切なモノを失って、そのショックで放心状態になってしまったらしい。どうやら今は何を失ったのかも思い出せないみたい。
「こほん。ロビンさん、この後なのですが」
「……ごめんなさい。少し、休ませて。何故かは分からないけど、凄く疲れてしまって」
「仕方ありません。先程まで休むというより死人の様でしたので。先方には体調が優れないと伝えておきます」
「ありがとう」
原因は分からないけど、ロビンの様子を見るにもう大丈夫そう。まだ休んだ方が良いのは確かだから、ここは大人しく帰るべきかもしれない。ブラッシングやマッサージは出来るけど、結局素人の私がしている事に付き合うのは寧ろ疲れてしまうかもしれないから。
「帰る」
「えっ……」
「……」
凄く、凄く悲しそうな顔をされた。マネージャーさんから感じる無言の圧力もある。これは何が正解なんだろう? ロビンの傍に居る事をマネージャーさんは許してくれる? あの圧力はどっちなんだろう。
「見ての通り、今のロビンさんには貴女が必要不可欠な様です」
「その通りよ、妹ちゃん。何故かはわからないけれど、私は今貴女を絶対に離したくないの」
「分かった」
痛みはもう無いけれど、私を抱き締めるロビンの両腕は未だに離れない。普段よりも強い力で抱き締められているから、逃げられそうにない。そもそも逃げる気は無いけど。
マネージャーさんは先方さんに伝える為、部屋を出て行った。「ロビンさんをよろしくお願いします」と私に告げて。どうやら悪い様には見られていないみたい。普段から私の事を聞いていたと言っていたけど、どんな風に伝えていたのか少し気になる。
「ロビン」
「なに? 妹ちゃん」
「マネージャーさんに、私の事。どんな風に、教えてる?」
「そうね。小さくて、可愛くて、愛らしく、愛おしくて……私を癒そうとしてくれるけど、その存在こそが癒しと言える大切な人、かしら」
凄く恥ずかしくなった。悪い様に言われていないのは分かってるけど、そこまで言われるとそれはそれで恥ずかしい。
普段なら後ろから抱き締められてロビンの膝上に乗っているけど、今の状態は違う。仰向けになっていたロビンに抱き締められたままだから、向かい合う様な姿勢。だからお互いの顔が見えて、恥ずかしさから顔を下げると小さな微笑む声と共に顎に手を添えられる。そのまま上に持ち上げられたら、優しい笑みを浮かべたロビンと目が合った。
「妹ちゃん、大好きよ」
綺麗な目に吸い込まれそうな錯覚を覚える。最近、こんな雰囲気になったらそのままされる事が多かった。ヘルタも銀狼も花火も、私の意志とは関係なく強引にしてきた。でもロビンは違う。雰囲気はもう、してもおかしくない気がする。だけどロビンは優しく見つめるだけでしては来ない。
「どうしたの? 妹ちゃん」
分かっていて聞いてるのかもしれない。三度の経験でキスがどんなものか、どんな気分になるのか、どんな人とするのかを学んだと思う。大好きな人だから、する。相手が大切な人だから……。ロビンは、どうなんだろう。
「ロビン」
「ぁ……ふふっ。大丈夫よ」
私は今、どんな顔をしているんだろう。あの三度の出来事を思い出して、今の状況を顧みて、『したい』と思ってしまった。あの頭が真っ白になる感覚が癖になってしまった様な気がする。まるで、何かに
ロビンの顔が近づいてくる。……違う、私が近づいている。もう私が何をしようとしているのか分かる筈なのに、ロビンは嫌がる素振りも見せずに微笑み続けていた。
「んっ」
「っ! ……妹ちゃんから、キスしてもらえる日が来るなんて思わなかったわ」
「嫌じゃ、ない?」
「嫌? どうして? 私は凄く嬉しいのに。貴女が私にそこまで心を開いて、好きと感じてくれている証拠だもの」
キスは相手を大切に想う心を行動に現した行為。キスをするのは気持ちが良い。今までと違って舌が入る事の無い、触れ合うだけのキス。だけどそれだけで胸いっぱいに広がるこの感情はきっと『幸せ』なんだと思う。
「ロビン。もっと、しよ?」
「妹ちゃん……ふぅ。お姉さん、ちょっと我慢出来なくなっちゃいそう」
後にロビンはこの時の少女の姿をこう語る。銀河に生きる生命の何よりも幼気でありながら艶めかしく、愛すべき存在に見えたと。愛さずには居られなかった、と。
尚、ロビンが放心状態になった原因が明らかになる事はこれ以降も無かった。彼女が見てしまった愚者からのメッセージと動画は既に端末から消え去っていたのだから。
-アチーブメント-
『キス魔の目覚め』