迷い家の少女   作:ウルハーツ

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気付いたらこの小説も初回投稿から一年。
色々あって昨日は間に合わなかったので、本日記念として早めに投稿。

改めて読んでいただきありがとうございます。


小話集:Vol.1 - キャストリス:2

【独特の匂い】

 

 銀狼とホタルが外出する用事の無い日、三人はとても近い距離間でゲームを楽しんでいた。少女を膝の上に座らせ、そんな少女の膝上に頭を乗せる銀狼。明らかに頭の下へ入れるには高い位置だが、銀狼は特に気にした様子もなくコントローラーで操作を続けている。

 

「よし」

 

「やったね!」

 

「流石に二対一はずるくない?」

 

「だって銀狼、強いから。ね?」

 

「ん。仕方ない」

 

 三人の中で一番ゲームのスキルが高いのは間違いなく銀狼。次いで少女であり、二人と一緒に過ごす事で自然とやる機会の多いホタルが結果的には一番低い。とは言っても、二人と共にやって来た彼女のゲームスキルは一般的に高いと言えるだろう。

 

「すぅー、はぁ。ふふっ」

 

「また吸ってる。私もするから」

 

「んっ、くすぐったい」

 

 ホタルが少女の髪に顔を埋めて大きく息を吸い込む。彼女の嗅覚が少女の匂いを確実に感じ取り、恍惚とした様子を浮かべる姿は少々官能的とも言えるだろう。そんな姿を見て対抗心を燃やした様に、銀狼が少女の腹部に顔を埋める。行う行為は同じであり、だがその表情を確認する事はホタルと少女には不可能だった。

 

「二人とも、毎回する。私、そんなに臭う?」

 

「臭い訳じゃないよ。だったら何度も嗅がないし」

 

「そうだね。貴女の匂いは本当に良い匂いだよ。他の人にはない、独特な……甘すぎない爽やかで幸せを感じる香り」

 

 少女は自身の匂いを説明されて、確認しようと思ったのか自身の腕を鼻に近づける。だが自分の匂いを自身で感じるのは難しい事。普段からその匂いに慣れてしまっているのだから、仕方がない。故に分からず、少女は首を傾げてしまう。

 

「? 誰か来た」

 

「あぁ、そういえば開拓者が来る予定だった」

 

「私、参上!」

 

 誰かが玄関から入って来た事に気付いた少女。そこで思い出した様に銀狼が言った途端、三人の背後に開拓者が現れる。一塊になっていた三人を全て抱き締める様に、ホタルの背後へ迫った開拓者。だがその身体が触れるよりも早く、ホタルの顔が青くなると共に猛スピードで少女を抱えて距離を取った。

 

「あいたっ!」

 

「か、開拓者。今、貴女から凄く生ゴミの様な臭いがするんだけど……?」

 

「あぁ、さっきまで入ってたから」

 

「ゴミ漁り?」

 

「お願い、その臭いで近づかないで」

 

 強制的に床へ頭を打ち付けた銀狼の悲鳴を聞きながら、鼻の前に手を添えて顔を引き攣らせてホタルは尋ねる。今、開拓者の周りに異臭を示す悍ましい色が浮かび上がっている様にホタルの視界には映っていた。そしてそれは銀狼も同じだった様で、起き上がると同時に鼻を押さえてお風呂へ入る様に促し始める。

 

「仕方ない。入るよ」

 

「ちょ、ちょっと? 何で近づいて来てるの?」

 

「? そんなの、連れて行くから以外にある?」

 

「!?」

 

 その後、予期せぬ入浴をする事になった三人。幸いにも銀狼が用意したこの家のお風呂は四人が同時に入っても問題なく、脱衣所を隔てるガラスの向こう側で響く声はいつまでも騒がしかった。

 

 

 

 

 

【異なるDNAの検出】

 

「?」

 

 ルアン・メェイは少女の定期健診中に不思議そうな表情を浮かべて端末を操作する。その端末に映っているのは、大きくズームされた少女の口元から喉までを透過したもの。その横には読むのも億劫になる様な文字列が多量に並んでおり、少し目を細めながらルアン・メェイは映った少女の口元に触れる。

 

 

 少しの時間を置いて、少女は入っていたカプセルから出てルアン・メェイの元へ向かった。普段通りであれば、少女の持参したお菓子を一緒に食べながら結果を聞く流れ。とは言っても特に体調に問題や支障、懸念点などが無ければ即座に終わって甘味を楽しむ時間である。

 

「? 何か、あった?」

 

「少し気になる事が。貴女の身体から貴女以外のDNAが検出されたのですが、心当たりはありますか?」

 

「……」

 

 様子をおかしいルアン・メェイに話し掛けた少女。しかしその言葉に彼女は思い当たる点がいくつもあったため、黙ってしまう。そんな事をしたところで意味が無いと分かっていても、簡単に何をしたのかを言えなかった。

 

「誰かとキスしましたね」

 

「……ん」

 

「それにこのDNA。ヘルタのモノが混ざっています。それ以外にも複数」

 

「……」

 

 無表情に、だが少し目を細めたルアン・メェイの質問を受けて少女は委縮した様子で俯いてしまう。謎の威圧感と問い詰められている様な状況。まるで浮気をした事がバレてしまったかの様な雰囲気だが、決してそういう訳では無い。

 

「したんですか? 彼女とキスを」

 

「……ん」

 

「そうですか。よろしければ、経緯を聞かせてもらっても?」

 

 ルアン・メェイはただ静かに、抱いた興味をそのままに少女へ語る事を要求する。普段表情が余り変わらない少女もそれは流石に恥ずかしいと僅かに頬を赤らめて俯き続けるが、ルアン・メェイは決して逃がそうとはしないだろう。

 

 それから少しして、少女は自分がされた事を説明するという辱めを受ける事となった。変わらない無表情のままその話を聞いていたルアン・メェイは、少女が話し終わったと同時に目の前にあるお菓子を一口。唇の下に付いたクッキーの生地を手で口元へ運ぶと、立ち上がる。

 

「ヘルタが経験したキス。是非私も試してみたいです。宜しいですか?」

 

「えっ……んむっ!?」

 

 聞きながらその答えを受け取るよりも早く、驚き顔を上げた少女の唇をルアン・メェイは奪う。今までのキスには無かった強い甘さを少女は感じながら目を見開き、決して長くないその時間が終わるまで動けない。やがて口が離れた時、ルアン・メェイの表情は僅かな笑みを浮かべていた。

 

「貴女の存在に関する権利を主張するのなら、ヘルタよりも私の方が上の筈です。その身体の半分は世界が、そして半分は私が作りましたから」

 

 それは天才同士の対抗心なのか、ただの嫉妬なのか。少女には分かる筈もない。だがその妖艶に映る瞳は他の者と同様に、紛れもなく少女を捉えていた。

 

 

 

 

 

【少女の下着事情、その行方】

 

 アスターが来訪する日。ホタルと銀狼の居ない家で、少女は彼女の着せ替え人形の様になるのがある種の宿命だった。しかし来る度にアスターは疑問に思っている事があり、それが目に見えて明らかになった事で彼女は少女を問い詰める。

 

「ねぇ、私が貴女に用意した下着が明らかに無くなっているの。どうしてかしら?」

 

「開拓者」

 

「……まさか、彼女が?」

 

「ん。報酬」

 

 アスターは激怒した。あの傍若無人な存在に。嘗て宇宙ステーション『ヘルタ』を救った恩人であったとしても、目の前の少女に渡した下着を奪っている事実は決して受け入れられない事だったのだ。それも話を聞けば全てが使用済みであり、何を目的にしているのかを問い詰める必要があると確信する。

 

 

 数日後、アスターは開拓者と出会う機会があった。常に多忙な彼女の時間の空いた貴重な日に、彼女の居る星穹列車へ乗り込んだと言うべきか。開拓者用に作られたその広い部屋で、アスターは問い詰める。少女から下着を奪っていた事実の確認、そしてそれをどうしているのかを。

 

「流石に、言えない」

 

「えっ……」

 

 あの開拓者が言葉を噤む答え。アスターはそれに一瞬恐怖を抱く。急に乗り込んだタイミングがお風呂上りだった事もあり、半裸に近い状態で妙に柄にばらつきのある縫い合わされたバスタオルを首に掛けて両胸を隠す開拓者。彼女の座ったベッドに置いてある枕のカバーも、明らかに縫って繋げた後がある。アスターは気付いてしまった。

 

「ひっ!」

 

「あ、気付いちゃったんだ」

 

 周囲にある布製のモノ。その殆どにその可能性を感じてしまったアスターはゆっくりと後退る。恥ずかしがる様子もなく普段通りの表情で見つめる開拓者の姿が何処か不気味に見え、アスターの顔は真っ青になった。

 

 その日、弱々しく帰還したアスターが以後少女の下着に関して触れる事は金輪際無くなった。今後も行われるであろう取引を止める事も、開拓者の反応を恐れてする事は無かった。

 

「流石に匂いが薄れて来た。新しいのをもらわないと」

 

 

 

 

 

 銀狼の作った別の星や惑星へと繋がるVR。何度か使ってみたけど、行ける場所は基本的にオンパロスだった。出現場所は街の真ん中だったり、宮殿の中だったり範囲内でランダムみたい。アグライアは何処に居ても誰がどう動いているのか、金糸を張り巡らせる事で把握しているみたいで、私が現れる度にキャストリスがそこへ迎えに来てくれる。

 

「……っ! …………ぁ」

 

「逸れない様に」

 

「そう、ですね……」

 

 今日も迎えに来てくれたキャストリスと一緒に行動中。街の中を探索するのも何度かやったので、今回はこの世界の書物や娯楽を触ってみたいとお願いしてみた。その結果分かった事は、この世界にもスマホがあるって事。呼び方は違うみたいだけど、中身は一緒。それと書物関連はやっぱりこの世界にしか無いものが多い。

 

 キャストリスの案内で本の読める場所へ向かう事にした。移動の際はいつも私から少し離れた場所に居るけど、案内だとそれじゃあ困る時もある。それに場所によっては人も多くて、逸れたら私は確実に迷子になる。まだ何回かしか来た事の無い、回り切ってもいない街で迷子は不味い。だから離れていたキャストリスの傍へ近づいて、その手を握る事にした。

 

「嫌?」

 

「いえ……大丈夫、です」

 

 拒絶されている訳ではないけど、反応を見て嫌なのかもしれないと少しだけ不安になった。誰かと触れ合う事が誰でも良い気持ちになる訳じゃないから。でもキャストリスは握った私との手をジッと見つめてから、何度か握り返してくれる。まるで感触を確かめるみたいに。

 

「気分は大丈夫、ですか?」

 

「? ん。楽しい」

 

「楽しい、ですか?」

 

「新鮮な場所で、友達(キャストリス)と一緒だから」

 

 開拓者が開拓の旅で経験しているのは、きっとこういう事なんだと思う。知らない場所、見慣れない場所を自分の思うままに見て回りながら、その現地に生きる人と出会って仲良くなっていく。時には別の世界との共通点や差異を知って互いに知識を深めながら、その世界を知っていく。アグライアから別の世界がある事は人々に言わない様にと言われたから、今この場で話せるのは知っているキャストリスのみだけど。

 

「ここです」

 

「ありがとう」

 

「ぁ……」

 

 書物のある場所に到着した。案内してくれたキャストリスへお礼を言ってから、少し離れて自由に読める書物の棚へ近づいてみる。星は違っても、この世界に書かれている文字は共通なのも多くて一安心。何か読んでみたいとは思うけど、キャストリスが暇になってしまうかもしれない。

 

「キャストリス、何か読む?」

 

「はい。そうします」

 

「ん。なら、あっちに座る」

 

 一緒に読書するなら、問題ないと思う。少し離れた場所に椅子とテーブルがあるので、私は本を三冊ほど選んでそこへ向かった。キャストリスも同じ様に本を一冊手に取って移動すると、私が座った椅子に別の椅子をピッタリとくっつけてから座る。なんだろう、凄く近い。肩も腕も当たっていて、読み辛い気がする。でも普段銀狼もホタルもピッタリくっ付いてるから、おかしくは無いのかもしれない。キャストリスが距離を取る事が多いせいで、そう感じただけなのかも。

 

 

 それから少しの間、私達は一緒に読書をする。私の方は三冊も用意してしまったから、キャストリスよりも長く時間が掛かってしまうのは当たり前。私が二冊目の序盤に差し掛かった頃、用意した本を読み終わったらしいキャストリスがジッと横から見つめて来ているのを感じる。

 

「キャストリス?」

 

「はい」

 

「……ん、なんでもない」

 

 呼ばれて答える声には、『何かありましたか?』 といった感情が確実に含まれていた。別に見られるのだって慣れてるから、今は何も言わないでおこう。そう思って読むのを再開した時、不意に浮遊感を感じた。そう、まるで誰かに持ち上げられた様な浮遊感。

 

「キャストリス?」

 

「はい」

 

「……」

 

 変わらなかった。私の両脇に手を入れて持ち上げ、自身の膝上に乗せたキャストリスはその行為がおかしいと思っていないみたいに。視線が少し高くなって、背中やお尻にキャストリスの温もりを感じる。その体は少し冷たいけど、すぐに温かくなると思う。だって、ホタルみたいにお腹へ手を回して抱き着いて来ているから。後々暑くなる姿勢。

 

「本当に、何もないのですね……」

 

「?」

 

 気にしない。そのつもりで居るのに、キャストリスは何も言わない私に対して色々してくる。頬を突いて来たり、頭を撫でて来たり。やっぱりホタルみたいに髪の中に顔を埋め始めたり。くすぐったくて少し煩わしさも感じるけど、キャストリスには普段この星でお世話になっているから文句は言わない。凄く、読み辛いけど。

 

 二冊目を読み終わった。服はしわしわ、髪の毛はくしゃくしゃになってる気がする。三冊目へ行くのも良いけど、かなり暇を持て余しているであろうキャストリスが私で遊んでいるので止めた方が良いかもしれない。分かり易い音を立てて本を閉じれば、私を触っていたキャストリスの手が止まる。

 

「終わりにしますか?」

 

「ん。キャストリス、暇?」

 

「いえ、とても楽しいです」

 

「そう。よいしょ、っと」

 

「ぁ……」

 

 本を戻す為にキャストリスの膝から飛び降りる。歴史に近い話を二冊読んで、取り敢えずこの世界特有の物語は楽しめた。また読みたい本は別の日に。今日はもう読書を止めて、別の事をしよう。

 

「キャストリス。また、街を回ろう」

 

「分かりました。それでは、手を」

 

「ん」

 

 差し出された手を握る。この世界での買い物は星が違えど信用ポイントで出来るから、そろそろ見て回るだけじゃなくて何か買うのも良いかもしれない。ヘルタのお蔭で稼いでるから、きっとそれなりの物は買えると思う。

 

「キャストリス、どこ行きたい?」

 

「どこでもついて行きますよ」

 

 夕食を考える時に一番困るのと似た様な回答。取り敢えず目的が無いから、適当に市場へ行ってみよう。あ、そうだ。アグライアや他の人は確かキャストリスの事を略称で呼んでいた気がする。

 

「キャストリス。私も、キャスって呼んでいい?」

 

「はい、構いません」

 

「ん。キャス、行こう」

 

 ちょっとだけ、心の距離みたいなものが近づいた様な気がした。物理的にはさっき物凄く近づかれていた気もするけど。今日の帰り際、チケットを渡すのも良いかもしれない。勿論アグライア達にも。ここから繋がるかどうかは分からないけど、友達の証みたいなつもりで。

 

 キャスと繋いだ手をしっかり握って、私は引っ張る様に市場へ向かう。この世界、まだまだ楽しい事がいっぱいありそう。




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