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『また、やったみたい。これで……五人目?』
『……』
『明日、そっちは予定無かったよね。例のやつ、やるの?』
『そのつもりだよ。もう、あたしは我慢しない』
『まぁ、仕方ないか。誰も入れない様にはしてあげるから、好きにしていいよ』
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朝。目が覚めると同時に抱き締められているのが分かった。こういう時は大概ホタルか開拓者。前者なら顔を上げれば目が合って、後者なら涎を垂らしながら寝ているのがいつもの事。服の生地越しに感じる柔らかさは眠気をまた誘ってくるけど、今は誰かを確認しようと顔を上げる。
「んっ!?」
途端、口を塞がれた。何が起きたのか分からなかった。目の前に映るのは薄紫色の瞳で、その中に目を開けて驚いた様子の私が映る。
「んんっ!」
「駄目、逃がさない」
余りに急過ぎて、私は距離を取ろうと後ろに下がる行動を選んだ。けれど、私の頭と背中に回っていた手がそれをさせてくれない。強引に引き寄せられて、そのまま続けられる。もっと深く、もっと絡め取られるみたいに。
「ホタ、んむっ!」
目の前にある目はジッと、私を見つめている。初めてされたキスの様に、私の全てが奪われていく様な感覚。口の中が蹂躙されて、それが快感になって体から力が抜ける。離れる気力も、抵抗する意志も、その全てが消えていく。
『逃がさない』という言葉だけ。それで今日、これからの時間起きる事の全てを理解させられた気がする。銀狼は私がヘルタにされた事を知って、それをきっとホタルや開拓者に共有している。その他について知っているかは分からないけど、察されているのかもしれない。
「!」
ホタルの体が私に圧し掛かって来る。ベッドから本当に逃げられない様に、足で身体を絡め取られた。私よりも大きなホタルに抑え込まれたら、もう何も出来ないのは当然。ホタルの半身以上が私の上に覆い被さって、見下ろされる様な姿勢になる。そこで初めて、キスから解放された。
「今日はあたしの番、だよね?」
「ホタ、ル」
「今、貴女とあたしは恋人。でも貴女はもう他の人にいっぱいされちゃったんだよね? だったら、恋人のあたしがそれ以上しないと」
私の顔、その左右に手を付いて見下ろして来るホタルの目は妖しいくらいに光っていた。生きる者の本能とでもいうべき何かが、このままじゃ不味いとけたたましく警鐘を鳴らしているのが分かる。でも動けない。
不意にホタルが笑みを浮かべる。普段通りの優しくて可憐で、綺麗な笑み。一瞬だけ元に戻ったような気がした。けれどその事で生まれた私の無意識な警戒の緩みを狙ったみたいに、ホタルの両手が私の頭を掴む。耳も閉ざされて音が隔絶された世界で、近づいて来るホタルの顔。キスと同時に入って来る舌の感触と快感も、聞こえて来る卑猥な水音も、その全てが私の脳を揺さぶる様に襲い掛かる。
恋人体験。ちょっとした疑問から始まったそれを、私はもっと平和でほのぼのとしたモノだと思い込んでいた。銀狼の時はヘルタの事でああなってしまったけれど、本当はいつもみたいにダラダラとした時間を、いつもとは違う心の距離が近づいた状態で過ごせると。ホタルだったらくっ付いているのはいつもの事だけど、お姉ちゃんとしてではない時間を過ごせるって。そう、思っていたのに。
「はむっ。今日、は。口がふやけるまで。ううん、ふやけても止めてあげない。貴女はあたしのだって、刻み込んであげるから。あたしはもう、お姉ちゃんで我慢しない」
ずっと、まっしろだった。なにもかんがえられないまま、きすをされつづけた。
「お昼ご飯、食べよっか」
「ぅ、ぁ……」
まったくちからがはいらない。でも、すこしずつ戻ってくる。
「やり過ぎちゃった? もう、まだこれからなのに」
体が持ち上げられる。部屋から連れ出されるみたい。感覚からして、人形を抱えるみたいに私はホタルの腕中に納まっているんだと思う。手足がぶら下がっているのを感じるから。
「膝に乗せて一緒に食べるのは普段やってるよね。よし、それじゃあ」
思考は戻ってきたけど、体に力は変わらず入らない。片腕に抱かれたまま、見えるのは電子レンジで何かを温めている光景だけ。中身は多分ピザだと思う。温めている間、ホタルは移動もしないで電子レンジの前で待機して私の頭を撫で続けている。そこそこ時間の掛かるチンの間、ずっと。
「あ、出来た」
私にとっては長く、ホタルにとってはあっという間の時間。頭を撫でられるのもまた、キスとは全く違う心地良さで頭がボーっとしてしまう。
「はい、こっち向いてね」
「?」
テーブルにピザを置いて椅子に座ったホタルが私の姿勢を普段とは反転させて座らせる。いつもならホタルの膝上で同じ方向を向いているけど、今回はホタルと向き合う様な姿勢。まるで母親が我が子を抱っこするみたい状態。
「こうすれば、貴女の顔が見れる。それに、はむっ」
「なに、するの? うむっ!?」
「ふふっ、こうふぅるの」
目の前で見せつける様にピザを口に入れたホタル。別にお腹は空いて無いから羨ましくもなんともない光景だったけれど、それは見せる為だけの行動じゃなかった。口にピザを頬張ったまま、ホタルはまたキスをしてくる。そして口の中のピザを移して来た事で、何をしたいのか分かってしまった。本当に今日はホタルと一日中キスする事になりそう。
何度もピザを口移しで食べさせられる。味なんか、しない。ホタルが数回噛んだ後だから、凄く食感も変。でも何故か気持ち悪いとまで思えない。相手がホタル、だから?
改めてホタルの顔を見る。ゲームやアニメに出て来るキャラクターはその殆どが美男美女で、現実にそれを超えられる様な存在は殆ど居ない。それが常識だと分かっているけど、私の周りには美女・美少女が多すぎる気がする。ホタルはその近しい人の筆頭。最初、この世界で出会った銀狼の次に出会ってお姉ちゃんになった人。私の親友も、お姉ちゃんも、友達も、みんな容姿が良すぎる。
「あはっ、可愛い。もっと、あげる」
「う、ん」
戸惑うのも最初の数回だけ。何度か繰り返していると、口移しにも慣れて来てしまう。味はやっぱり無いけど、拒絶する余裕も意志も無いからされるまま。思うよりもこれ、疲れる。
ホタルもちゃんと食べてお昼を終えた頃、私はまた運ばれる。リビングでの時間は終わりらしい。連れていかれた先は朝目覚めた寝室で、これからされるのはさっきの続きなのかも。
「服、脱ごっか」
「ぇ……」
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『そろそろ出入り出来る様にするけど、満足した?』
10分後
『おーい』
『まだ寝てる?』
『ごめん』
『開けるのは少し待って』
『その……ちょっと歯止めが効かなくて』
『え?』
『掃除するから、夕方まで時間頂戴!』
『歯止めって、どこまでやったのさ』
『……え?』
『本当に、ヤったの?』
『えへへ』
『…………』
『遂に食われたか。まぁ、時間の問題だったけど』
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部屋でダラダラする至福の時間。始めは銀狼とする事が多かったその時間にやがて開拓者を誘い、最終的にはホタルも巻き込んだ。
誰かと一緒にダラッとするのは、楽しい。お菓子を食べて、ゲームで遊んで、寝たい時に眠るのはきっと至福。なら、それを他の人にも感じて欲しいと思うのはおかしな事じゃないと思う。
「うわぁ~!」
「今日は、ここで過ごす」
クラーラがやって来た。今日は前から約束していたから、迎える準備は万端。何をして過ごそうかと考えた時、思いついたのは一緒にダラッとする事。何度か約束して一緒に遊んでいるけど、こうして家へ招待する事はクラーラの場合少ない。私から行く事が多かったから。
私の部屋は今日、ダラダラ出来る様に準備しておいた。お菓子もゲームもいっぱいあって、銀狼と一緒に着たTシャツも何枚かある。流石に着るかどうかはクラーラの意志に任せるけど、私は着ようと思っている。いつも通り、一生遊んで暮らしたいと書かれたTシャツを。
「着る?」
「良いの?」
「ん」
クラーラも着る事になった。ベロブルグは常冬だから、クラーラが着ている服のままだと暑いと思う。上着を脱いで軽装になってから、お互いにTシャツを頭から被った。クラーラが選んだのは私と同じ文字のTシャツ。理由は『御揃いだから!』らしい。
「好きに食べて良い」
「え、えっと……」
誰かに歓迎された事はクラーラならあると思う。開拓者辺りは間違いなくやっていそう。もしその時、沢山物があって自由にして良いと言われても遠慮してしまうのは自然な事。だから私は先にベッドへダイブすると、そのまま転がって上半身を上げてからお菓子の袋を開封する。そしてクラーラを手招きして誘い込む。私の姿に少し迷ってからベッドへ乗って来たクラーラ。そのまま隣に座ったところで、私は開けたお菓子の袋をクラーラに差し向けた。
「ん」
「い、いただきます!」
開けたのはチップス系。口の中に入って噛まれた時の良い音がクラーラの口から聞こえて来る。決して体に良くはないけれど、その分美味しいお菓子の味にクラーラは笑顔を浮かべた。
「お菓子、普段食べる?」
「偶に食べるよ。お姉さんが持って来てくれたり、他の人からもらったり。貴女が作ってくれる事もあるよね」
「ん。今、何か気になるお菓子、ある?」
「うーん。あ、このお菓子は初めて見るかも」
私が作って持って行ったのは別として、クラーラが食べた事あるお菓子は基本的にベロブルグに存在しているか、開拓者が持って来る別の星にあるお菓子だと思う。でもそれだってきっとお菓子の種類としては一部でしかない。銀狼のお蔭で色々な場所からお菓子を取り寄せたり出来るから、その種類は豊富過ぎる。勿論当たり外れもあるけど、そこは流石に美味しいと思った物しかリピートしないから大丈夫。
初めて見るお菓子なら、是非食べて見て欲しい。チップス系のお菓子を開けたばかりでも関係なく、私はクラーラの言ったお菓子を手にして袋を開けた。このダラッとする時間に迷いは要らないから。今は食べたいと思ったモノを食べて、やりたい事をする時間。
「あ、美味しい」
「違う味もある。食べる?」
「うん!」
また新しいのを開ける。大丈夫。もし今食べられなくても、明後日くらいまでには全部無くなる。今食べ切れなかった分は今後のお菓子として絶対に食べるから。今は後の事よりも、今しか食べれない珍しいモノをクラ―ラに食べて貰う方が大事。
「クラーラ、ゲームする?」
「そうだね。何しようかな?」
お菓子の袋を片手に並んだゲームの機械と、ソフトを眺める。スマホのゲームでも良いけど、それは外でも遊べる。せっかく家でやるなら据え置きのゲームもやりたい。クラーラはどんなゲームが好きなんだろう。例えばロビンだったら対戦ゲーム、特に争う系のゲームはやらない。銀狼は寧ろ対戦が多いけど、ホタルだと協力系のゲームが主になる。開拓者は雑食とでもいうのか、何でもやる。
「あれ? このゲーム、ボードで見た事ある!」
「ん。多分、そっちが先」
クラーラが目を付けたのは、赤ん坊から始めて人生をすごろく形式で進めていくゲーム。私もボードは遊んだ事がある。あの時は確か銀狼・ホタル・開拓者だった筈。一位が開拓者で二位が銀狼。三位がホタルで私が最下位だった覚えがある。とにかく開拓者が豪運でぶっちぎりの一位だった。銀狼も運が良くて、私とホタルは不幸が多かった気がする。
『主人公は負けない』
『運、良過ぎない?』
『負けちゃったね』
『ん。でも、楽しかった』
大勝ちした者と大負けした者同士で称え慰め合ったのは良い思い出と言えるのかもしれない。でも今にして思うと、運が悪かったのは私だけだった様な気もする。確か借金して終わったから。ホタルは借金までいかなかったけど、ずっと私を膝に乗せていた事で悪い運が少し移ったのかもしれない。それかホタルの悪い運を私が吸い取ってしまったか。
「ぁ……クラーラもやりたい!」
「ん。やろう」
思い出すと少しだけ楽しくて笑みが浮かんでくる気がする。クラーラが私を見て何か呆けていたけど、その後にやりたいと言った事で準備する事に。最新版も四人まで遊べて、基本的には無線のコントローラーで出来るから離れられるのは便利。しかも設定さえすれば、モニターじゃ無くて壁に映し出す事で大画面に出来る。ベッドの上から映画館くらいの感覚で見れる。
ゲームを起動する。お互いに自分のキャラクターを簡易的に作る事になった時、自分を作るんじゃなくて相手を作る事にした。といっても私とクラーラは似ているらしいから、ゲームの中でも少し色が違うだけの似た存在が二人出来るだけ。
最初は赤ちゃんからのスタート。ゲームの勝利条件は終わった時に資産が多い方だから、ここでどんな風に成長するかで未来の職業選択に大きく影響する。確かスポーツ系や芸能人系の職業が沢山お金を貰えた気がする。因みに前回の職業は最初から最後まで地下アイドルだった。ホタルが『絶対推すよ!』って言ってくれてた覚えがある。
「3が出た! えっと……卒園式で300万信用ポイント!」
「貰い過ぎ」
ゲームの中とはいえ、金額が余りにも大き過ぎる。普通、小学生に上がるくらいの子にそんな金額は渡さない。300万なんて、今の私でもそんな大金は持ってない。
「小学校卒業。中学を受験するかの選択」
「どんなお仕事に就きたいの?」
「お金目的なら、芸能人かスポーツ選手。でも運動能力が無いから、難しい」
「センスが高いんだね。そうなると、漫画家とかになるのかな?」
「ん。一番は料理人」
料理人に必要なステータスはセンス。知恵も体力も無い中で必要な事は揃っている。それで良いかもしれない。となると、受験してまで良い中学を卒業する必要は無い。リスクを冒して入ったところで、成長するのは知恵と体力だから。失敗すれば底辺校になって全ての能力が下がった上に上がりも悪くなってしまう。
「高校卒業! だいがく? どうすれば良いかな?」
「クラーラは勉強、したい?」
「うん、お勉強はしたい。フック達と一緒にナターシャさんから色々教わるけど、もっと知りたい事は沢山あるんだ。それに機械について学べれば、スヴァローグやみんなの力になれるから」
フック、ナターシャっていうのはベロブルグに住む人達の名前。私もクラーラと一緒に行動している中で会って話をした事はある。フックはクラーラと同じくらいの女の子で、モグラ党っていう子供達で作った徒党のリーダー。ナターシャは大人の女性でお医者さんだった。
クラーラは大学へ。私は高校卒業と同時に料理人への道を進み始める。それから老後までの間に様々なイベントを熟していき、最終的にまず最初にゴールしたのは私だった。
「料理人。総資産、12億8000万」
二人しかいないから、勿論次にゴールしたのはクラーラ。大学卒業と同時に就いた職業は機械専門の科学者だった。
「クラーラは科学者で、総資産は17億2800万!」
勝敗という話なら、私も負け。でも正直今回の遊びは勝敗を決める事なんて二の次だった様に思う。エンディングが流れる画面を前に、遊び切った事で自然と入っていた体の力が抜ける。クラーラも同じ様に終わった事でリラックスしていると、少し経った頃には寝息を立て始めていた。
「すぅ……すぅ……」
ゆっくりと身体を倒して寄りかかって来たクラーラ。楽しんでくれたんだとは思う。そして楽しい事をした後は誰だって疲れてしまう。リラックスした瞬間、その疲れに耐えられなかったみたい。
「お休み」
起こさない様にクラーラの頭を私の膝上へ移動させて、頭を撫でる。膝枕した時、相手の髪を撫でる方が気持ち良く眠れるのは知っているから。停雲やフォフォみたいに耳や尻尾があったらもっと癒してあげられるけど、無いものはしょうがない。
それからクラーラが目覚めるまで、私はそのまま過ごし続けた。やがて起きたけど寝ぼけたクラーラに抱き着かれ、今度は一緒に眠る事になったけど。