迷い家の少女   作:ウルハーツ

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夢の中の特異点1 - 2

――――――私にとってそれは、何時もの日常と言える時間。

 

「そろそろ帰る時間だね」

 

「ん。あっという間。……またね」

 

――――――銀狼もホタルも居ない時を、彼女と共に過ごす事は特別な事でもない何気ない時間。

 

 

「バイバイ、開拓者」

 

――――――それが崩れ去ったのは、余りにも唐突だった。

 

 

『彼女が目を覚まさなくなった』

 

 

 不安が募る。銀狼から送られてきたメッセージを見て、私は居ても立っても居られずにチケットを使った。バスルームの扉があの家へと繋がって、私はそこへ飛び込む様に入る。瞬間、景色が見慣れた家の玄関へ辿り着いた。

 

 彼女の部屋に人の気配を感じて、私は迷わず向かう。ノックもせずに開け放ったその先に、三人が居た。

 

「開拓者……」

 

「どういう事?」

 

「……分からない」

 

 私と同じかそれ以上に不安な目で弱々しく声を掛けて来たホタル。その隣では真剣に、何なら少し怖めな面持ちで宙に浮かぶディスプレイを両手で操作し続ける銀狼。そして、ベッドへ仰向けになって眠ったまま動かない彼女。

 

 呼吸はある。寝息も聞こえる。ただ眠りが深いだけだったなら、笑い話で終わっただろう。だけど呼びかけても揺らしても、彼女は一向に目を覚まさない。きっとこんな行為は二人とも真っ先にやっている筈。それでも起きないから、問題なんだ。

 

「昨日、おかしなところは無かった?」

 

「特には。いつも通りだったと思う」

 

 最後に彼女と出会っていたのは私だったらしい。二人は遅くに帰って来て、既に夕食がリビング置かれていた。その時点で少しだけ違和感がある。彼女は二人が遅くなったとしても、帰って来ると分かっていたら夜遅くだろうが深夜になろうが起きていそうだから。

 

「耐えられないくらいの眠気に襲われたって事?」

 

「かもしれない。二人を放っておくイメージが湧かないから」

 

「それはそう。彼女なら、私とホタルを絶対に待ってる」

 

 解釈は一致した。となれば、私が帰った後に何かがあったと思うのが自然。でも今ここで考えても答えは出なさそう。こういう状況で頼れる、真っ先に思いついた存在は二人の天才。特にその片方は彼女の身体について詳しい筈。

 

 その名前を出した時、銀狼は渋い顔をした。だけど事が重大なだけに、文句も拒絶もしない。

 

 宇宙ステーション『ヘルタ』へ彼女を連れて行く。ヘルタへのメッセージは自動返答のせいで真面に届かないけど、ルアン・メェイには届く筈。あくまでも予感だけど、気難しくて忙しい二人でも彼女の為なら動くと思う。

 

「お願い」

 

 ホタルは行けない。銀狼も本体では無くてホログラムで来ると思う。私は眠ったままの彼女を横抱きに抱えて、玄関へと近づいた。途端に玄関が光り出して、何処かへと繋がる。と同時にメッセージが届いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

『今すぐ彼女をここへ』

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 短い一文。だけど今この時に限ってはとても頼もしい一文だった。

 

 

 

 

 

 機械の音が響き渡る研究室。そこで私は募る不安に苦しみながら、ルアン・メェイが結果を出すのを待つ事しか出来なかった。

 

 ポッドの中には彼女が入ったまま、変わらずに眠っている。その額や身体には沢山のパッチが付いていて、大きな画面には彼女の状態を記した文章が並んでいた。正直、内容が多すぎる上に難解過ぎて全く理解が出来ない。バイタルが正常な事だけは分かるけど。

 

「っ……これは……?」

 

「何か分かった?」

 

「どうやら今、彼女は夢を見ている様です」

 

「夢?」

 

 寝ている人が夢を見ている事は別におかしい事じゃない。けれどルアン・メェイの様子から、それが彼女が起きない事と何か繋がっている可能性は高そう。それから何も言わずに操作を続ける姿に、これ以上の答えは帰って来ない気がした。

 

「開拓者、大丈夫よ」

 

「アスター……」

 

「天才が居るんですもの、後輩ちゃんはきっと大丈夫よ」

 

 信頼から来る言葉。だけどその姿を見れば私と同じ様な不安を抱えているのが分かる。アスターが彼女を後輩として可愛がっているのは知ってる。時には星について一緒に話をする事もあるらしい。何となくだけど、アスターが一方的に星について熱く語っているのを彼女が聞き続けている姿が浮かんだ。

 

 突然、聞こえていた端末を叩く音が無くなった事で私達はルアン・メェイへ視線を向ける。手を止めて画面をジッと見つめている彼女はやがて一息、端末から私達へ視線を返して来る。それは原因が何か分かった瞬間だと、私は確信した。

 

 

「彼女は今、夢に囚われています」

 

「夢に、囚われる?」

 

「はい。彼女は夢を見続け、その夢から抜け出せずにいる状態の様です」

 

 眠った彼女は夢を見て、そこから抜け出せずにいる。どうしてそうなったのかはまだ分からないけれど、原因ははっきりした。

 

「もっと強引に、叩き起こせばいい?」

 

「ちょ、ちょっと開拓者!?」

 

 凄く心が痛むけど、多少手荒な真似をして起こせば起きるかもしれない。そう思ったけど、ルアン・メェイは静かに首を横に振った。

 

「意識が囚われている以上、外部から干渉しても無意味でしょう」

 

「そんな……それじゃあ、私達に出来る事は何もないの……?」

 

 アスターが気落ちする。確かにルアン・メェイの言う通りなら、私達に出来る事は何も……夢? それなら、まだ私達が干渉する方法はあるかもしれない。

 

「夢境」

 

「えっ?」

 

「貴女も気付いた?」

 

「! ミス・ヘルタ!」

 

 思いついた夢境の存在。それに答えたのはヘルタだった。本体じゃなくて、ずっと部屋の隅に居た人形だけど。いつだって急に動き出すとビックリする。

 

「ピノコニーにある夢境みたいに彼女の夢へ入れれば、内側から彼女を起こす事が出来る」

 

「ですが、ここにピノコニーにある様な夢へ入る設備がありません」

 

「流石に今すぐ部屋を借りてっていうのは私でも難しいわね。お金だけじゃどうにもならないわ」

 

 夢境へ入る為の設備が必要。思い浮かんだのはあの貝殻の様な設備。あれがあれば、彼女を助けられるかもしれない。でも場所も無ければ設備も無い。なら、それを用意できれば良い。

 

「場所はピノコニーならいける?」

 

「開拓者?」

 

「可能ではありますが、何か方法が?」

 

「うん。まずピノコニーでは知らない人がいない、彼女の為なら何でもやりかねない有名なお姉さんに連絡しよう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

『緊急。彼女の為にロビンの力が必要』

 

『なんでも言ってちょうだい、開拓者さん』

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 メッセージで連絡すれば、即座に返答が帰って来た。そこで口頭で伝える為に電話を掛ければ、少し騒がしい音をバックにロビンの声が聞こえる。私は彼女に起きた出来事と、ピノコニーの設備が必要である事を説明。するとロビンはすぐに場所を用意出来ると答えた。元々自分用の部屋にはもう一つあり、彼女が過去に使った事があるらしい。ホテルに泊まってたんだ。知らなかった。

 

『今からなら私も時間があるわ』

 

「了解。なら今すぐに連れて行く」

 

「後輩ちゃん、凄いお姉さんが居るのね」

 

「ヘルタ、少し宇宙ステーション『ヘルタ』(ここ)を離れます」

 

「えぇ。私も後で行くから」

 

 電話を切る。彼女をピノコニーへ連れて行く事は決まった。ルアン・メェイは勿論、ヘルタも後で来るつもりらしい。本体で来るのか人形で来るのかは分からないけど、心強いのは間違いない。

 

 眠ったままの彼女をポッドに入れたまま、ヘルタの人形が六体ほど集まって移動させ始める。アスターは宇宙ステーション『ヘルタ』の所長として離れられないため、私達に託して業務へと戻っていった。

 

「そういえば、銀狼は来なかった……?」

 

 彼女の事で銀狼は絶対に来ると思っていた。例えヘルタと会いたくないと思っても、そんな感情は無視して。姿を見せなかっただけ? もしかしたら、私達の会話は聞いているのかもしれない。

 

 

 

 

 

――――――このままでは

 

「?」

 

――――――お前を受け入れたのは失敗だったのか

 

「だ、れ……?」

 

――――――あるべき道程へ、再び戻さなくては

――――――あるいはその結末を、伝えなくては

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 ピノコニーにあるロビンの部屋は二人部屋のVIPルームだった。過去にここで彼女が泊まった事を考えると少し羨ましい。きっとルームサービスから何まで好き放題。彼女が調子に乗って豪遊する姿は全く想像出来ないけど。

 

「準備が出来ました」

 

 貝殻の様な水の貯まったそこで、彼女は今も眠っている。彼女の夢へ入るための準備はルアン・メェイが済ませてくれた。もう一つの貝殻は夢境へ繋がり、今彼女が居る貝殻は彼女の夢の中へ繋がっている。ならそこへ入る為には、同じ場所で眠る必要がある筈。

 

「私も行くわ。行かせてちょうだい」

 

 ロビンならそういうと思った。自称近所のお姉さんであるロビンが彼女を溺愛しているのは私も知っている。もう今日の用事は無いと言っていたし、もしあったとしても投げ出してここへ来そうなくらいには本気だと思う。

 

 貝殻の中へ。眠る彼女を挟む様に私とロビンは座って、彼女の手を握る。

 

「気を付けてください。整えられた夢境と違い、彼女の夢の中は何が起こるか分かりません」

 

「分かった」

 

 ルアン・メェイの忠告を聞いて、私は目を閉じる。意識がゆっくりと落ちていく様な感覚がして、そのまま私は浮遊している様な感覚になる。

 

 

 暗闇の中をずっと、ずぅっと頭から落ち続ける。目を開けても闇は消えず、音もしない。これが彼女の夢の中? 何も見ていない、何も感じていない。そんな筈ない。確かに無表情がデフォルトのロリだけど、ちゃんと薄くても表情を変える事もある。何なら最近、少し柔らかくなって更に言うならちょっと可愛さと色気まで増した気がするけど。大体理由の検討は付いてる。

 

「っと……?」

 

 急に体が何かに引っ張られた様な感覚に襲われる。ふわりと浮かび上がった体がそのまま何もない場所に足を付けて、私は立った。周りを一度見渡してみても、何もない。ここからどうすれば良いのだろう?

 

『……ゃ……い……く、しゃ』

 

「?」

 

 何も無い場所に響いてくる声。彼女の様にも聞こえる声だけど、ちゃんと聞き取れない。音の発生源、その方向は分かる。行ってみよう。

 

 進んでも進んでも、景色の変わらない闇の中。それでも響いてくる声だけは徐々に明瞭になっていく。『開拓者、開拓者』と私を呼ぶその声。やがて進み続けていた私の足元に、何かが転がっているのに気づいた。それは見覚えのある棒。彼女が銀狼に作ってもらった、合わせると薙刀になる武器。

 

「どうしてここに……っ!」

 

 落ちていたそれを合わせて見ると、急に先端からブレードの部分が生まれる。それは少しだけ発行していて、辺りを薄く照らしてくれた。そして見える、謎の穴。暗闇で全く気付かなかった。

 

『開拓者、こっち』

 

「……」

 

 声はこの武器から聞こえている。そして武器の傍にはこれ見よがしに穴がある。他に行ける場所も無いから、仕方ない。また落ちる事になるけど、飛び込んでみよう。

 

 

 

 一方その頃、現実にあるロビンの部屋にて。

 

『繋がった?』

 

「っ!? 貴女は……」

 

『もう開拓者は行ったんだ』

 

「何をするつもりですか?」

 

『変な事はしない。ただ親友として、家族としては当然黙ってられないから。私に出来るのはここまで、後はよろしく。ホタル(お姉ちゃん)

 

 

 

 落ち続ける事数分、数秒? また同じ様に地に足を付けた私は、さっきと少し違う景色を眺める。闇だけの世界から変わって、ここは……星穹列車の中? 白黒だけど。でも、それならおかしい。彼女は列車に来た事が無い筈だから。何時かは呼んでも良いと思っているけど、まだその時は来ていない。

 

「開拓者さん」

 

「! ロビン」

 

 モノクロな世界でしっかり色を持った存在、ロビンが居た。なのや丹恒の姿も無いし、本物の列車じゃないのは確実。夢や彼女の想像で出来た列車の中が、偶然似ているって事? それにしては流石に似すぎている気がする。

 

「見つけた?」

 

「いいえ。暗闇から穴へ飛び込んだら、ここへ来たの」

 

 ロビンのこれまでの動向は私と変わらないらしい。どうするべきか迷っていると、突然持っていた彼女の武器が光始める。

 

「開拓者さん、それって」

 

「彼女の」

 

「えぇ。でも、おかしいわ。だって私も持っているのよ?」

 

 そう言ってロビンが出したのは、私の持っているモノと全く同じ彼女の武器。穴へ飛び込んだという事から、これに導かれたのまで同じらしい。夢の中だから同じものがあってもおかしくは無いかもしれないけど、凄い違和感。

 

 考えていると、持っていた武器が浮かび始める。そしてロビンの持っていた武器と光の中で一つになって、列車の奥へと飛んで行ってしまった。何となく、あれが彼女への導になっている気がする。追い掛けてみよう。

 

「!」

 

「開拓者さん!」

 

 動き出した瞬間、現れたのは『守護者の影』。現実や模擬宇宙、階差宇宙で何度も倒して来た敵がここでも立ち塞がる。こいつは彼女がヘルタの手伝いで模擬宇宙へ頻繁に入っている筈だから、会っていても不思議じゃない。とにかく、進むにはこいつを退かさないと。

 

「速戦即決で行こう」

 

「援護するわ」

 

 私はバットを。ロビンはマイクを取り出して対峙する。そして私が飛び出そうとした瞬間、守護者の影が背中から何かに攻撃された。それは私達の周りを飛び回り、まるで共に戦うかの様に鎮座する。彼女の武器だ。どうやら一緒に戦ってくれるらしい。これはパーティーメンバーと言うよりはサポート枠。

 

 彼女の武器が切りかかり、ロビンが歌う事で湧いてくる力のままにバットを振り下ろす。二人と一本だけの少人数ながら、精鋭エネミーは無事楽に倒せた。そして再び私達を導く様に武器が飛んでいく。それを追いかけて、私達は夢の中の列車何を走り回った。

 

 

 やっぱり夢の中。列車の内装は本来と全く違っていて、一歩扉を潜れば宇宙ステーション『ヘルタ』の空間に。次はピノコニーのホテル内になり、ヤリーロ-VIの雪山になったりもする。それに分かった事がある。ここは彼女の夢の中だけど、明らかに彼女が見た事の無い景色が混じっている。多分、私やロビンが見た景色。夢の中で、意識が混じってしまっているのかもしれない。

 

 全てが白黒の世界で時折出て来る敵を倒しながら進み続けていると、突然浮きながら先を進んでいた武器が何かを見つけたみたいに猛スピードで飛んで行ってしまう。

 

「開拓者さん! あそこ!」

 

「っ!」

 

 追いかけて扉を潜った先は、宇宙ステーション『ヘルタ』にあるヘルタのオフィスだった。だけどそこに模擬宇宙への入り口は無く、代わりに会ったのは彼女の身体。夢の中でも眠っているみたいで、私達は気付いたと同時に駆け出していた。

 

「邪魔っ!」

 

 そんな私達を遮る様に、今度は鹿の様なエネミー。豊穣の玄鹿が現れる。その大きな体の向こう側で、彼女の身体が地面から湧いた闇に飲まれる姿が見えた。彼女の身体へ辿り着くのを、エネミーが確実に妨害しているのが分かる。原因も元凶もまだ分からないけれど、私達に接触されたら困るらしい。

 

 足を踏み鳴らして生えて来る梢。私と武器だけの火力では倒しても倒しても、無限に生えて来る。本体を攻撃しても生えた梢が傷を癒して、明らかに時間稼ぎをされている。それが目的だと言う証拠に余り攻撃はして来ない。止められればそれで良いと言う何かの意志を感じる。

 

「くっ!」

 

「このままじゃ、進めないわ」

 

 もっと一掃出来る手段が必要。そう思って困って居た時、その声は聞こえて来た。

 

「燃やし尽くす!」

 

「っ!」

 

「あれは……」

 

「今の内です!」

 

 見覚えのある鎧姿の人影。私達の前へ飛び出て拳を地面へ叩きつけた瞬間、梢が一瞬にして全て焼却される。鹿が再び足を踏み鳴らそうとするその前に、私と武器が一気に駆け出した。鹿の頭をぶっ叩き、ブレード部分が身体を切り裂く。光となって消えて行くのを前に、私達は彼女()へ視線を向けた。

 

「貴女は、星核ハンターの」

 

「助かった、ホタ……サム」

 

 私は正体を知っているけど、ロビンは知らないから。ギリギリ、本当にギリギリで何とか言葉を言い直す事が出来た。ロビンは気付いていないみたいで、警戒しながら同時に困惑もしている様子。それも仕方ない。何も知らないロビンからすれば、星核ハンターが彼女の夢の中へ来る事態がそもそもおかしいのだから。

 

「状況は銀狼から。目標は夢に囚われた彼女を起こす事、ですね」

 

「ロビン、大丈夫。味方だから」

 

 不安そうに見つめて来るロビンの目。ファンとかが見たら萌え死ぬんじゃないかな。私も今キュンと来てるけど。とにかく彼女の為に行動する私達の味方である事は保証出来る。それにこの先もきっと妨害されるだろうから、大きな戦力としても期待。

 

 

 

 

 

――――――やはり来たか、逸脱した運命の者よ

――――――汝こそが未来を決める。

――――――その身体、貸してもらうぞ。小娘よ

 

「……」

 

 




銀狼Lv.999とモチーフ光円錐が無事に確保出来たなら、次は早めに公開する事でしょう。


常時掲載

【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で公開しています。
https://fantia.jp/594910de58
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