その目覚めは、共に1 - 2
宇宙ステーション『ヘルタ』。ルアン・メェイの研究室。
「……」
その部屋の主、ルアン・メェイは端末を前に黙々と作業を続ける。彼女の周りには生命の維持をする為のポットなどが沢山並んでいるが、その内の一つだけが現在使用されていた。中に眠るのはルアン・メェイが半分を、そして世界が半分を作り上げた少女の体。その意識は未だ返らず、既にどれ程の時が経過したのか定かではない。
「遂に、出来ました」
何かあってからでは遅いと、ルアン・メェイはポットに眠る彼女のメンテナンスをどんなに忙しい時でも決して怠らなかった。それだけ彼女にとって大事な存在になっていたのだから。そしてそれは
勿論、ルアン・メェイの作業はそれ以外にもある。長い時間を掛けて少女の体に関する作業を行い続けていた彼女は、その日何かを成し遂げた様に一度目を閉じてから少女の体へ視線を向けた。そして彼女は連絡をする為にスマホを取り出す。
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『ヘルタ、今時間を取れますか?』
『何? 貴女から連絡なんて、珍しいね』
『内容を率直に。彼女の身体を一から再形成する事が出来ました。ですが、どうしても足らないモノがあります』
『そういう事。なら、ちょうどよく私の目の前にあるのがそうかもね』
『貴女の目の前に? それは、どういう……?』
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場所は移り、ヘルタのオフィスにて。アスターと話をしていたヘルタは目の前に突如として現れた光の玉に視線を向ける。
「ミス・ヘルタ。これは、何でしょう?」
「返る場所が出来たから、現れた」
ヘルタが光の下へ手を近づければ、その上へ触れずとも乗る様に光の玉が浮かぶ。そして彼女にだけ聞こえて来るその
「アスター。開拓者に連絡して。彼女を起こす時が来たよ」
「!? 分かりました!」
その言葉で全てを察したアスターは、嬉しさを隠す様子もなく返事をしてからスマホを取り出す。
「どうせあの小娘も気付いたでしょ。ふっ、目覚めはもうすぐだね」
突然飛んできたアスターからのメッセージ。その内容が少女の事であると知った時、開拓者は飛び出す様に宇宙ステーション『ヘルタ』へと向かった。場所はルアン・メェイの研究室。そこには既に部屋の主であるルアン・メェイを始め、ヘルタ本体やアスターの姿もある。
「来たよ」
「よろしい。それじゃあ、やるべき事を伝えるよ」
眠ったままになってしまった少女を起こす方法が見つかった。それだけを伝えられてやって来た開拓者は即座にヘルタから何をすべきかの説明を聞く事になる。
「彼女の感情を探して」
「感情?」
「これの事よ」
ヘルタの言葉に聞き返した開拓者へ、アスターが両手で支える様にして持つ光の玉を見せる。大きさは野球のボール程。ゆっくりとそれを差し出すアスターに、開拓者は流されるまま受け取る。
『これで、外の世界をこれからは見に行ける?』
「!? 今のは……」
「彼女の感情よ」
途端、開拓者の頭に響き渡る少女の声。聞けなくなってそれなりの時間が経っていた事もあり、開拓者は懐かしむ様にその目を閉じる。
『繋がりは、私の強さ。そう、なのかな。だったら、嬉しい』
『開拓者が教えてくれた外の世界、遂に行けるんだ』
『ヘルタ、ルアン・メェイ、開拓者、アスターに他のみんなも。私を助けてくれて、ありがとう』
「これは多分、
今では当たり前になっていた外出も、最初は出来なかった少女。それが出来る様になった最初の切っ掛けはアスターだった。彼女を経由してヘルタと出会い、そこからルアン・メェイとも出会った事で外の世界へようやく行ける体になった。光の玉にはその喜びが満ちており、その他にも『ヘルタ』での出来事に限らず、喜んだ時の感情が永遠とその中では巡っている。
「彼女の身体の半分は世界が、半分は私が作りました。しかし世界はあの一件で彼女を放棄した。つまり維持していた半分を止めた訳です。恐らく世界にとってはどちらでもよい些細な事かもしれませんが、それを何か失う代わりの代償としたのかもしれません」
「だからルアン・メェイはまた作った。今度は完全に最初から最後までね」
「本当に人一人を作ったって事?」
「例えれば、元あった型へ流し込んで出来たのが前の彼女です。世界が放棄して型自体が無くなっても、流し込んだ部分は消えません。今度はそれを元にして新たな型を作りさえすれば、良いのです。彼女は例外中の例外ですよ」
「要は世界が外を。ルアン・メェイが中を作って、今度は外が無くなったから外も中に沿って作ったって事で良いのかしら?」
「難しい」
理解しようとして俯いた開拓者だが、そんな頭を悩ませる彼女達に向かってヘルタが分かり易い咳ばらいをする。
「彼女がどうやって出来たかは関係ないよ。今必要なのは感情の話。彼女が戻れる器が出来上がったけれど、今彼女の意志は世界に散らばってしまってるみたい。この喜びの感情みたいにね」
「目星はあるの?」
「この喜びの感情は私のオフィスに突然出て来た。その内容はここの事が多かった事から考えると、感情と関連した場所に湧いてる可能性が高いね」
喜びの感情は『ヘルタ』で出現した。なら他の感情も同様に、その感情が沢山ある場所に現れる可能性が高い。そこで開拓者が思いついた場所が数ヵ所。そもそも少女は外出を出来る様になってから確かに外へ出てはいるが、その外出先は決して多くない。
「感情。喜怒哀楽って事で良いのかしら? だとしたら、残すは三つね」
「?」
アスターの言葉を聞くと同時に、開拓者はスマホが揺れた事に気付いて取り出した。
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『ベロブルグで待ってる』
『銀狼?』
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相手は銀狼。メッセージを送り返しても返信は来ず、開拓者は少女の感情を探す為に動き出す事にした。その行く先は勿論、銀狼が待っているであろうヤリーロ-VIのベロブルグだ。
「ホタル」
「うん。行こう…………待っててね」
ヤリーロ-VI ベロブルグへ到着すると同時に、開拓者は場所を指定される。常冬峰へ来る様に指示を受けてそこへ向かった彼女は、嘗て激闘を繰り広げた開けた場所に立つ二人の背中を視界に捉える。
「銀狼、ホタル」
「やっと来た」
「……」
声を掛ける事で開拓者に気付いた二人。銀狼が手にしていた端末をしまいながら話し掛ける中、ホタルは一度視線を向けてから周囲を見回し始める。開拓者を追って誰かが来ている訳でも無く、決して周りを警戒している訳ではない。ただ心ここに有らずといった様子で。
「説明は?」
「要らない。大体把握してるから。……彼女の心を見つければ良いんでしょ?」
「心。ここに、あるんだよね?」
「多分。彼女の行った事ある場所は限られてる。同じ場所にあるなら別だけど、場所毎に一個ならある筈」
「イベントなら大体、別場所に配置されるパターンだね」
銀狼とホタルに説明は不要だった。全てを理解している二人に話は早いと心のありそうな場所を考え始める。だが彼女が初めてここへ来た時、一緒に居たのは開拓者のみ。肉を焼きに来た時以外に銀狼とホタルが外出で同行する事は殆どなく、開拓者自身も場所を中々予測出来なかった。
「どんな感情でも良いから、心を揺らした場所を探す必要がある」
「私が知ってる場所だとクラーラと出会った場所かな。もしかすると、ここならあの子の方が詳しいかもしれない。彼女と一緒に居た時間も、ここ限定なら誰より長い筈」
「銀狼」
「私達の面は割れてるかもしれない。それでも行きたい、でしょ?」
「うん」
「この場合、ばれるのは銀狼だけだけどね」
二人はこの世界のみならず、全銀河中に指名手配されている身だ。それをクラーラが知っていなくても、素顔のまま行動するのは容易にするべき事では無い。指名手配の姿が違うホタルはまだしも、素顔の銀狼なら知っている人に見られた時点でアウトになる。それでも行きたそうなホタルの姿に銀狼は分かっていた様子で両手を広げ、飽きれた様子ながらも駄目とは言わなかった。
機械集落
雪を踏みしめながら辿り着いたクラーラが居るであろうその場所へ三人は到着する。周りに居る流浪者達の目を気にしながらも、スヴァローグの傍で機械を弄るクラーラの姿を開拓者は視界に捉えて近づき始める。
「あ、お姉さん!」
「こんにちは、クラーラ」
「こんにちは! 後ろの人達はお姉さんのお友達、ですか?」
開拓者の姿に気付いて笑顔で手を振りながら近づいて来るクラーラへ同じく笑みを浮かべて挨拶を返せば、その後に後ろを見て銀狼とホタルの存在に首を傾げる。そこで開拓者はなんと言うべきか少しだけ迷った。自身の友達である事に間違いはないが、それ以上に二人の事をクラーラへ簡潔に伝える言葉を。
『私の友達、だと思う』
この場合、銀狼とホタルは疑問に思っている姿に苦笑いしながらちゃんと肯定するだろう。
『立場的には敵かもしれない』
この場合、なぜ話を拗らせようとするのかと二人に呆れられながら、質問しているクラーラを更に困惑させる事となる。スヴァローグが居る以上、調べれば即座に銀狼の正体は分かってしまうので、より複雑にもなるだろう。
『彼女の家族だよ』
分かり易く関係性を現すのに一番相応しい言葉は恐らくこちらである。彼女を妹と定義して接しているクラーラからすれば、妹の家族はもう自分の家族も同然。一瞬で二人を受け入れる事だろう。家へ誘ったりもしており、家族と言える存在が居る事はクラーラも知っている筈だ。
二人の事を開拓者は彼女の家族として説明。そして眠ったままの彼女を起こす為にクラーラの力が必要である事を説明すれば、一気にやる気を出して協力する意をクラーラは示す。やはりスヴァローグが銀狼の存在に気付いて指名手配犯である事を告げるも、クラーラはその話に首を傾げた。
「大丈夫。彼女の家族だから。理由はそれで十分だよ」
「はい、そうですね! お姉さんを、あの子の家族を信じます! だからスヴァローグも、信じて!」
「警戒レベルを弱に設定。クラーラの意志を尊重する」
「弱って事は無くなった訳じゃないんだ」
「クラーラ。彼女と一緒にベロブルグで行動した場所は分かる?」
「ここで一緒に遊んだり、後は部品を探すのを一緒に手伝ってくれた事もあります!」
「ボルダータウン、リベットタウン、大鉱区へ各数回訪れている」
ボルダータウンは人の集まる場所であり、その他二ヵ所は危険な存在が居る場所。銀狼が居る事で余り人混みへ入る事に抵抗を感じた開拓者は、まず危険性のある場所へ回って見る事を提案する。
「クラーラも行きます!」
「うん、そう言うと思った。一緒に行こう」
「固定メンバーでこの4人。いや、4人と一体ってところかな」
「まずはどっちから行く?」
「じゃあ……」
リベットタウン
開拓者が選んだのはリベットタウンだった。そこには過去何度倒しても異形が再度湧いており、立ちはだかるモノ達を開拓者は愛用のバットで吹き飛ばす。
「ここで一緒に部品を探してくれました。それで一番上に行って、襲われた時にゼーレお姉さんが助けてくれた事もありました!」
「ここ、人の住んでいた跡ばっかりだね」
「それを奪われて今は跡地になった。ってところでしょ」
リベットタウンの最奥とも言える孤児院の前。遊具がまだ残るその場所で一緒に遊んだこともクラーラは語る。その話を聞きながら遊具の周辺を眺めていた時、開拓者は見覚えのある光を見つける。色は赤く、だが間違いないそれは探していた光。
「見つけた」
「! お姉さん!」
「敵性反応あり。接敵まで3、2、1」
光を手を伸ばそうとした瞬間、開拓者との間に空から飛来する何かが道を塞いだ。黒金の鎧を身に纏い、顔も何もかもが覆われる中で隙間からはみ出る真っ赤な髪。柄と刃が同じ長さの長巻を手に、まるで光を守る様に立ちはだかるその姿に開拓者は見覚えがあった。
「彼女の……?」
「開拓者!」
「!」
嘗て少女が自由に外へ出る為に入った模擬宇宙で相対した相手。髪の色が少し違うが、その姿は瓜二つと言える。明らかに光へ近づけないと言う意志を持って邪魔をするその姿に開拓者が呆気に取られる中、聞こえて来た仲間の声で開拓者が咄嗟に動けば、立っていた場所を異形の刃が通り過ぎる。
「お姉さん! 大丈夫ですか!」
「大丈夫。それより、あれを何とかしよう」
「ボス戦ってやつ? でも大して苦戦はしなさそう」
その銀狼の余裕発言と同時に開拓者とホタルが飛び出す。戦闘であってもホタルはサムにならないまま、ブレードで切り掛かった。と同時に反対側から開拓者もバットで襲い掛かり、それを片手と刀身で異形は受け止める。が、その頭上に浮かび上がる立方体。
「はい、弱点付与。後はよろしく」
「お願い! スヴァローグ!」
「排除する」
攻撃を受け止めていて避けられない異形は銀狼によって弱体化され、それと同時にスヴァローグの放った大量のミサイルが降り注いだ。着弾する前に開拓者とホタルは距離を取っており、異形だけがその攻撃を正確無比に全弾浴びる。
「目標消滅」
「やりました!」
「開拓者」
「うん」
異形は残骸も残らず、邪魔が居なくなった事で赤い光に近づいた開拓者。その光を手に入れようと手を伸ばした時、宇宙ステーション『ヘルタ』で起きたのと同じ様に頭の中で声が響く。
『ここにはきっと、笑顔があった』
『でも今は空っぽの街』
『こいつらがその原因。許せない』
「怒りの感情、だね」
「彼女が怒ったところなんて殆ど見た事無いけど、この場所が空っぽになってしまったその原因には怒りを感じていたんだ」
開拓者は手に入った怒の感情を問題ない様にしまう。目的が無事に達成出来た事でまずは一段落となり、全員で一度機械集落へ戻る事となった。
機械集落へと戻った開拓者達。もうヤリーロ-VIに彼女の感情は無いと予想して、開拓者は次に向かう場所を考える。
「彼女が行った事のある場所なら、ピノコニーじゃないかな?」
「喜びと怒りが今ある。多分後は悲しみと楽しみ。一つがピノコニーだとして、もう一つは?」
「分からない。でもピノコニーへは行ってみる」
「開拓者。ピノコニーにあたし達は……」
ピノコニーへ行くとなれば、確実に夢境の中を探す事になるだろう。そしてそれがホタルには難しい事である事を承知していた開拓者は言い終わる前に頷いて理解を示した。ここで二人とは別行動となり、開拓者だけでピノコニーへは赴かなければならない。だが彼女は一人で探す事にはならないと確信している。ピノコニーには彼女の姉を自称する人物がもう一人居るのだから。
「お姉さん。クラーラ、役に立てましたか?」
「大助かりだよ。ありがとう」
「はい! あの子が起きたら、クラーラにも教えてください! 絶対、会いに行きますから!」
ピノコニーのとある場所にて。
「んー?」
「んーー?」
「んーーー?」
「何だろうこれ? 触っちゃえ!」
「おっ? 今の、名無しちゃん声……?」