迷い家の少女   作:ウルハーツ

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銀狼:2+α

 最近、お菓子を作る様になった。銀狼とホタルが帰って来た時にご飯を用意しておく事は多いけど、忙しい二人は家で食べる前に済ませてしまっている事もある。先に用意しても食べれなかった時、ホタルは凄く申し訳なさそうな顔をする。でもホタルは何も悪くない。何も出来ないのが嫌で、私が勝手に用意しているだけだから。そこで考えた。ご飯はお腹がいっぱいだと食べられない。だけどお菓子とかなら食べ易くて、物によっては長持ちして持ってもいけるかもしれない。

 

「流石にもう、要らないかな」

 

「あたしも……うぅ」

 

「……作り過ぎた」

 

 思いついたお菓子をとにかく沢山作った。ケーキだったらチーズを入れたり、チョコを溶かしたり。クッキーも作った。他にも調べて和菓子なんかも挑戦してみた。自然と頭の中に浮かんだものも作ってみた。大変だったけど、途中からは凄く楽しくなって一杯作った。

 

 作り過ぎた。銀狼もホタルもちょっと苦しそう。だけど作ったお菓子はまだ沢山残ってる。食べるのは私達三人だけなのに、量を考えずに思うがまま作ってしまった。持たないモノは仕方ないから捨てるにしても、色々持つモノは一度しまってゆっくり食べようと思う。二人が居ない時のご飯代わりにしよう。クッキーとかは持って行ってくれるかな?

 

「もしかして、残りは私達が居ない時にご飯代わりで食べようとか考えてない?」

 

「? ん。勿体無い」

 

「だ、駄目だよ! こんなに一杯のお菓子だけを食べてたら、絶対身体に良くないよ」

 

 余り考えて無かった。いつもご飯を作る時は二人が何なら喜んで食べてくれるかを考えていたけど、私だけの時は普段から適当だった。食べないでゲームだけしている時もある。それに不健康というのなら、一切ここから出ない時点で身体に悪いと思う。文句を言うつもりは今もないけど。

 

「はぁ、仕方ない。配ろう」

 

「?」

 

「まずはカフカと刃に。それと開拓者にもあげて、一緒に手伝ってもらえばすぐに無くなるね」

 

 いつの間にか、私が作ったお菓子を配る話が始まってる。自分の作ったものが、知らない人の手に渡るのは少し複雑。味は問題ない。二人も美味しいって言ってくれた。色々な人に食べられるのは少し恥ずかしいけど、きっと大丈夫。もしお菓子を作る人が居るなら、もっと美味しく出来る方法とかも教えて欲しい。

 

「ふぅ……それじゃあ、あたしは開拓者に渡してくるよ。カフカと刃には銀狼がお願い。行って来るね」

 

「いってらっしゃい」

 

 お菓子を適当に小分けしてから、少し苦しそうにホタルは前に裸で来た女の人のところへお菓子を持って行ってしまった。銀狼はテーブルの上に置いたそれをそのままに、私を手招きする。同じソファに座ったら、ゲームの端末を手渡された。

 

「ゲームしよう」

 

「ん」

 

 起動する。最近は二人専用のゲームも始めた。銀狼と遊ぶゲーム。ホタルと遊ぶゲーム。三人で遊ぶゲーム。時にはこの場に居ない誰かと一緒に遊ぶ事もある。開拓者もその一人。他にも偶に誰か分からない人が開拓者と一緒に参加して、前に8人くらいで遊んだのはとても騒がしくて楽しかった。あれは一人が仮面の大男になって7人が逃げるゲームだったと思う。

 

「?」

 

「なに?」

 

「……なんでもない」

 

 ゲームを始めると、目覚めた日の様に銀狼が私の膝へ頭を乗せてソファで横になる。もう慣れた姿勢だけど、腕を持ち上げていないといけないのが少し大変。その内腕が降りちゃうと、銀狼の首元と頭に当たっちゃうから。前に降ろしてしまった時は、そのまま輪の中に頭を入れられて凄くゲームがし難くなったのは覚えてる。

 

 前の私を含めても、私が一番遊んでいるのはやっぱり銀狼だと思う。協力するゲームだと、お互いに情報共有しないと進めない部分が多い。だけど私も銀狼も、殆ど喋らないで互いに必要な事が分かる。ずっと喋らないと、詰まらない様に見えるかもしれない。ホタルからも『楽しい?』って聞かれた事がある。私は、楽しい。話はしないけど、それは話さなくても伝わって来るから。銀狼も、そうだと嬉しい。

 

「外に出たい?」

 

「……ん。でも、大丈夫」

 

 私はこの家にずっと居る。銀狼とホタルが何時も出ている外。開拓者が教えてくれる外の世界。私の知らないその世界を、見てみたいと思う事は時々ある。だけどそれが二人にとって大変な事なら、私は我儘を言ってまで出たいとは思わない。それにメッセージで今度、開拓者がここへ来た時に外の写真を見せてくれるって約束もしてくれたから。

 

「そう。なら、いいや」

 

 少しだけゲームの画面から私を見上げていた銀狼が、すぐに視線をゲームに戻す。私がこの世界へ来れたのも、こうして一緒に傍でゲームが出来る様になったのも、全部は銀狼のお蔭。

 

「銀狼」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

 今度は顔を少し逸らして、銀狼は小さな声で返してくれる。どんな顔をしてるのかは分からないけど、怒らせたりする様な事は言っていないからきっと大丈夫。

 

 ゲームがムービーになったとたん、銀狼は姿勢を変える。仰向けだった姿勢を横にして、私の方へ顔を向ける様に。ゲームを出来る姿勢じゃない。多分、目の前には私のお腹しか無い気がする。

 

「猫吸いって、分かる?」

 

「猫、吸い……?」

 

 『猫』は分かる。実際には見ていないから、知識としてしか残っていないけど。『吸い』は言葉の通りなら、吸うって事?

 

「すぅー……ふぅん。悪くないね」

 

「なに、してるの?」

 

「貴女を吸ってる。すぅー」

 

 服越しにお腹へ顔を埋めて、銀狼が大きく息を吸っているのが分かる。吸われて感じる冷たい風の感触と、込み上げて来る恥ずかしさ。なんでだろう? 開拓者と裸で居た時はそれが普通なんだと思ったのに、ホタルと一緒に寝る時は恥ずかしくないのに。このリビングで銀狼に見られながらホタルに抱き締められたり、こうして吸われたりすると恥ずかしくなる。

 

「ゲーム、始まった」

 

「すぅー」

 

「銀狼……?」

 

「すぅー」

 

「……むぅ」

 

 もう操作出来る様になったのに、銀狼は全然止めてくれない。続きもしたいし恥ずかしいから、ちょっとだけ仕返ししようと思う。

 

「えっ」

 

「……お返し。すぅー!」

 

「ひゃ! こ、このっ!」

 

 私は服越しだったけど、銀狼はいつもお腹を出してる。だからそこに私も顔を突っ込んで、思いっきり吸い込んでみた。普段傍へ近づけば感じる銀狼の匂い。人それぞれきっと匂いがあって、ホタルとはちゃんと違う匂い。それが一杯入り込んできて、少しだけクラクラする。直接触れて吸い込んだから、私より冷たさとかを感じたみたいで、銀狼は飛び上がる様にソファから離れて私を怒った様子で睨みつけて来る。怒って欲しくは無い。だけどこれは仕返しだから、私は悪くない。

 

「続き、しよう?」

 

「……はぁ。そうだね」

 

 操作出来る様になった画面を見せる。銀狼はそれを見て端末を持ち直すと、今度は横にならずに同じソファで並んで続きを始める。それから私達はホタルが帰って来るまで、ずっとゲームで遊び続けた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 開拓者はホタルから渡されたお菓子の包みを一つ開ける。中に入っていたのはクッキーであり、他にも羊羹や大福といった甘いお菓子が入っている事を聞いていた。それを作ったのが誰だかも、当然聞いている。

 

「うん、美味しい。なの達にもあげよう。後は……」

 

 自分でも食べた後、思いついた人物へ配る事にした開拓者。

 

「これ、アンタが作ったの? 凄いじゃん! えっ? 違うの? えぇ!? あの下着で行ける場所に住んでる人!? 嘘っ!?」

 

 最初に自分が作ったと勘違いされて驚かれた後、以前に見た下着で行ける場所に居る人物と知ってなのかは更に驚いた。彼女の中で、下着を使って行ける先に居る存在は既にかなりの変人か変態と確信していたためである。

 

 銀狼から開拓者へと繋がり、開拓者から繋がった縁で少女はこの世界へ来る前から少しの繋がりを持っていた。今少女がこの世界へ来たことを知って居るのは、銀狼・ホタル・開拓者の三人。そこで今回の事を切っ掛けに開拓者は伝えようと決める。

 

 

「これを、クラ―ラにですか? ありがとうございます! えっ? これを作ったのは、『彼女』……? か、彼女ってもしかして!? はいっ! メッセージ、送ってみます!」

 

「これは、お菓子かしら? 『彼女』の? でも、この世界には居ないって話じゃ。……世界を超えてやって来たって? それが本当なら、是非会ってみたいわ。ミス・ヘルタにも伝えた方が良いかしら?」

 

「『彼女』の作ったお菓子? でもどうやって……そう、彼女がこの世界に。別の世界の価値観はとても新鮮で、音楽の創作では沢山刺激を貰ったの。直接、お礼を言いに行けるのね」

 

「世界を超えた生命。別の世界で生きる為、世界に作り変えられた存在……興味があります」

 

 ヤリーロⅥで機械と共に生きる流浪の少女。

 宇宙ステーション『ヘルタ』で所長を務め、癖のあるスタッフを纏めるお嬢様。

 銀河に名を知らぬ者は居ない歌姫。

 開拓者がお菓子を配っている事で現れた、少女とは繋がりのない生命科学の天才。

 

 

 開拓の旅で出会った人々と、少女を繋いでいた開拓者はお菓子を配り終える。またあのお菓子を貰うのならば、もう一度少女の居る場所へと行く必要があるだろう。自室へと帰還した開拓者は、飾ってあった少女の下着を見ようとして驚いた。

 

「無い」

 

 そこにあった筈の下着は消え去り、代わりに飾ってあったのは見覚えのあるカード。それも数枚重なっており、傍には銀狼が書いたであろうメモが一枚置かれている。

 

『流石に彼女の下着を飾るのはどうかと思う。チケットを渡すから、今度もそれで来れば良い』

 

「下着……」

 

 しばらくの間、数枚のチケットを手に自室で膝から崩れ落ちる女性が一人。

 

 

 この日、『彼女』のスマホに数多くのメッセージが届くのは当然の事だった。




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