開拓者は面白い人だと思う。みんなそれぞれ独特の雰囲気を持っているけど、開拓者はその中でも特に不思議な雰囲気を醸し出している気がする。
「遊びに来たよ」
「ん、いらっしゃい」
今日はそんな開拓者が遊びに来た。予め遊ぶ約束をしていて、今日がその日だったから。一緒にゲームをする約束。今日は銀狼とホタルも帰って来れる予定で、この後は四人でもゲームをしようって話はしている。まだ居ないから、今は二人だけだけど。
「何する? 狩り?」
「ゲームは後にしよう。今は外の写真を見せてあげる」
この場所から出た、外の世界。開拓者は彼方此方の世界を巡っていて、ホタルと銀狼も同じ様に色々な星を巡っているらしい。元の世界も、この世界も、私には分からない。正直、直接外へ出て見たいと思った事もある。それが銀狼にとって良くない事だと分かっているから、我慢はしているけど。だから開拓者が見せてくれる外の世界はとても楽しみ。
「まず最初に。これは……」
開拓者が訪れた星の数だけ、物語がある。かなり大きな事にいつも巻き込まれている様にも思うけど、こうして無事に生きてここで話してくれているから安心。にしても、本当に巻き込まれ過ぎだと思う。まるで超大作の主人公みたい。
「ただいまー」
「ホタル、お帰り」
「おかえり」
ホタルが帰って来た。リビングで隣合って座っていた私達の傍に近づいてくると、自然な流れで私を持ち上げて私の居た場所に座る。そして持ち上げた私はホタルの膝上に。背中から抱きしめられるのは、凄く安心する。いつも疲れて帰って来るホタルは、必ずと言っていい程にこうして私を抱いてくる。私が安心している様に、ホタルも癒されるらしい。悪い気はしない。
「姉妹仲は良さそうだね」
「うん。あたしはもう、この子が居なきゃ生きていけないかも」
「そんなに良いんだ。ねぇ、私も感じてみたい。貸して」
「良いけど、もう少しこのままで居させて。後でなら、許してあげるから」
「……私の意見は?」
癒しを与えられる存在になるのは光栄だけど、私の意志とは関係なく貸し借りを始めるのはどうかと思う。別に嫌じゃないけど。
「あ、これ……もしかして、
「うん。見せてあげてたんだ」
ホタルがテーブルに置かれていた写真を手に取る。私の目の前にも近づいてきたそれは、宇宙ステーション『ヘルタ』と呼ばれる人達が沢山映っている写真。アスターとヘルタ人形の他にも、色々な人が映っている。テーブルの上には他にも沢山写真があって、ロビンの映ってる写真も何枚かあった。
「何見てるの?」
「開拓者が撮った写真……って、銀狼!?」
「おかえり」
ソファに座っている私達の後ろから覗き込む銀狼が、気付かない内に居た。やっぱりいつの間にか居なくなって、いつの間にか帰って来てる。驚いているホタルを横目に、突然私は両脇の下に手を入れられて持ち上げられた。その行先は開拓者の膝上。
「ふぅん。なるほど」
「何が?」
「癒し効果の確認をしてる。……テイクアウトで」
「駄目に決まってるじゃん」
「そうだよ。この子はあたしの何だから」
「いや、ホタルのでもないって」
ソファに三人で座って、ホタルか開拓者の膝上に私は座らされる。そんな状態でも予定通り四人揃ったので、私達はゲームを始める事にした。今日遊ぶのは大乱闘。チーム戦も出来るけど、基本は全員敵同士で。
「よし。それじゃあ、勝った人が膝に乗せられるって事で」
「ま、負けられない……っ!」
「景品にもしない。ってか、私は乗せられないし」
「私が、勝ったら?」
「その時は普通に座れるで良いと思う」
膝の上を転々とするのは流石に面倒だから、何とか勝って自由を手に入れよう。
始まった大乱闘はみんな強かった。銀狼はやっぱり一番強いけど、それは私達も分かってる。だから三人で狙う事も多くて、そこで開拓者が裏切ったりするから更に盛り上がった気がする。ホタルは協力しようと言われればそれを信じて、だけど何時か裏切られてを繰り返していた。私は、誰も信じない。最後に勝ち残るのは、一人だけだから。
「あぁ! 負けちゃった……」
「最初の一人。これで……なっ!?」
「油断禁物。あ……」
「はいお終い。私の完全勝利」
ホタルが最初にやられて、その止めを刺した開拓者の隙を突いて私が倒して、今度はその隙を突かれて銀狼が勝利を手にした。まだ一回目の戦いに負けただけなのに、肩を落としているホタルと開拓者。ところで、私は銀狼の膝に乗るの? かなり辛いと思う。
「こっち」
「乗るの?」
「まさか。でも勝者の特権は活用しないと」
ゲームをする時、銀狼は横になる事が多い。何度かした事がある様に私が近づけば、座る様に促されて傍に座る。そうしたら、私の膝に頭を乗せて銀狼はゲーム端末を持ち上げながら続ける姿勢を見せた。
「膝枕、いいね。私もしよう」
「ねぇ、今度はちゃんと最後まで協力しよう。銀狼を倒すにはそれしかないよ」
「分かった…………ふっ」
「ホタル、信じちゃ駄目。私と一緒に戦う」
開拓者に協力を仰ぐホタルだけど、あの表情を見たら分かる。開拓者は絶対に裏切る気だ。なら私と協力して二人だけ生き残ってから私が最後に勝てば、晴れて自由の身になれる。これは裏切りじゃない。協力の末の結末だから、仕方ない。
それから私達は何戦か繰り返した。その度に私は誰かの膝上か、銀狼に膝を貸す事になってかなり面倒だった。後にして思えば、私は一度だって勝てなかった。きっと三人は裏切り合いをしながらも、絶対に私だけは勝てない様にしてたんだ……悔しい。
目が覚めた時、目の前に女の子の顔があった。正確には女の子の人形の顔。凄いビックリした時、声が出る人と出ない人がいるけど、私は後者だったみたい。冷静になって来るとそれがアスターの置いていったヘルタの人形だって分かる。瞬きはしない。関節は明らかに人じゃない。だけど、今この人形に意志があるのは分かる。
「貴女が、ヘルタ?」
「黙って」
声を掛けても、バッサリと切り捨てる言葉の刃が少し怖い。何がしたいのか分からないから余計に。寝ている私の上に乗って、今はジッと私の手首や肘なんかを触ってる。脈を図っているとしても、肘を触る意味は? 手が動いたら今度は服を脱がしてきて、私は上半身を裸にされる。
「ふぅん」
「……」
「……何見てるの? 何か言ったら?」
「黙れって、言った」
何も喋らないで、動けもしない私はヘルタを見る事しか出来なかった。だから少し理不尽だとは思うけど、アスターからヘルタの事は少し聞いてる。憧れる存在であって、天才とは正しく彼女そのモノを指す言葉らしい。だけど中々帰って来なくて、何かに興味を持っても飽きたらそこでお終いの気難しい人。世界を超えてここに居る私に興味を持ったみたいだけど、それならそんなに長くは続かないと思う。
「身体は人間。でもそれは世界が作ったモノ。言うなれば、世界が母って事ね」
「……」
「喋って良いよ」
「ん。満足、した?」
「まさか。寧ろここに来る以前より、あなたを研究したくなったから」
私の上から降りてくれる。服を元に戻してベッドから立ち上がれば、ヘルタは私について来るつもりみたい。
もう銀狼もホタルも居ない。今日はいつ帰って来るんだろう。何を食べたいと思うのか、考える。それから自分がここに居る間食べるモノとか、そもそも何をしようとか。ゲームくらいしか思いつかないけど。……そういえば、ヘルタはゲームするのかな?
「ゲーム、する?」
「しない。そんなモノに興味はないの」
「むぅ……じゃあ、何する?」
「さっき言ったでしょ? あなたを研究するって」
研究と言われても、私は何をすれば良いのか分からない。ゲームとなったら、ヘルタだけ何もしないのは流石に気が引ける。取り敢えず料理はするとしても、ヘルタは一緒にやろうとはしないと思うから、やっぱり分からない。
「どうすれば良い?」
「何もしなくて良い。普通に過ごして」
ヘルタの中で私は今、観察対象になっているみたい。だけどその言葉で少し楽になった。いつも通りで良いのなら、その通りにしよう。普通に過ごしている私を見るのがヘルタの望みなら、ゲームだって何時もの事だから。
それから朝ご飯を作ったりゲームをしたり、お昼ご飯を作ったりゲームをしたり、夕ご飯を考えて下拵えを終えてからゲームをして時間を過ごした。ずっと、ヘルタは居た。忙しい人で、殆ど同じ場所で過ごす事は無いって聞いたけど、今日はここに居る人形と繋がり続けていたみたい。
「これがあなたの日常? 自堕落過ぎ」
「出来る事、他に無いから。外にも、出れないし」
「? 外に出れない?」
この家から外に出た事は無い。玄関の外へ出ようとした事も。それがここへ私を連れてきてくれた銀狼にとって良くない事だと分かっているから。
「それ、ただの決めつけだよ」
「え?」
「相手がどう思っているかを勝手に想像して、一人で納得してるだけ。つまんない」
「……でも」
「自分の意志でしたい事をするのが人間。今のあなたは他人の意志を思い込んで、それを理由に考える事を放棄して引き籠ってるだけ。人間にすら成れていない」
「そんな、こと……」
無いって、はっきり言いたい。だけど私は銀狼の言葉を確かに聞いた事は無かった。それが良くない事なんだって思っていただけで、出ちゃ駄目とは一言も言われていない。それで良いんだって、我儘は言ってはいけないって、今でも思ってる。だけど家から一歩も出ずに二人が帰って来るのを待ってゲームをするだけの私は何? 意志を放棄したら、人じゃない……?
「ホントにつまんないね、今のあなたは。流石、不完全なだけあって」
「? 不完全?」
「やっぱり気付いて無いんだ? 小娘があなたを外へ出したくないのは事実だよ。だって、あなたはまだこの家でしか存在できないから」
訳が分からない。本当に、何も分からない。私はこの家でしか存在出来ないって……外に出ない方が良いんじゃなくて、そもそも私は出る事が出来ないって事?
「最初にこの世界へ来た時、何があったか覚えてる?」
「……この家で目が覚めて、銀狼に会った。気持ち悪くなった。倒れて……また目覚めてから、もう一度会った」
「身体を完全に構成し終わる前に意識を持った事で、長時間の活動が出来なかった。そこで世界は完璧に身体を構成するのを止めた。そしてこの家だけでなら何事もなく活動出来る様、急速に作りあげた」
「この家、だけ……。それじゃあ、外に出たら」
「確実に倒れる。どれくらい持つかは完全に未知数。一秒も持たずに命が絶えるか、弱るだけでここへ連れ返って来れるか。どちらにしても、真面に活動は出来ないね」
私が外に出れない理由がはっきりした。だけどそれは同時にこれからも出れない事を意味している様な気がした。別にそれでも構わないとは思っているけど、いつかは出て見たいと思っていたのも事実。少し、寂しい気がした。
「外に出たい?」
「でも、外に出るのは」
「さっきも言ったでしょ。あなたの意志はどうなの? 外に出たい?」
「……出てみたい」
外の世界を自分の目で見たい。開拓者が持ってきてくれる外の写真を見るだけじゃなくて、自分の足で歩いてみたい。それが無理な事だとしても、私はそう思っている。ヘルタに向けて言葉にした瞬間、その思いが溢れ出して来る様な気がした。銀狼に我儘を言ってでも、いつの日か。……何となく少しだけ、ヘルタが笑った様に見える。
「なら、出れる身体にしないとね」
「? どうやって?」
「すぐには無理だよ。でも彼女なら何とか出来る」
「?」
ヘルタは『また来るね』とだけ言って、人形との接続を切ってしまった。物言わぬ人形になってしまったそれを私は何とかして部屋に運び入れる。前はアスターにお願いしたけど、結構重い。
銀狼達が帰ってきたら、今日あった事をしっかり話しておこう。今までもやって来た人の話はして来たけど、今回は今まで以上に大事な話だから。ヘルタの話となったら嫌がりそうだけど、そこは仕方ないので我慢してもらうしかない。