迷い家の少女   作:ウルハーツ

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最終話ではないです。


迷い家の少女

 目が覚めた時、見えた光景は家の天井でもリビングの一角でも無かった。知らない世界。見えている景色全てが、始めて見るものばかり。だけどこれは本物に似せただけの偽物だと言う。私は存在する場所を模した世界で、意識を借りの場としてここに置いている……らしい。

 

「……探さないと」

 

 この場所には、開拓者も居る筈。私が本当の意味で私になる(・・・・・・・・・・)為に、協力してくれているから。

 

 

 少し前

 

 銀狼とホタルが外出している時、家にその人はやって来た。連れて来たのは開拓者。だけどここへ来る様に仕向けたのはヘルタ。二人が居ない時間を見計らっての来訪だから、準備はしていた。

 

「貴女が、世界が作り出した生命ですか」

 

 その人はルアン・メェイという名前の女の人だった。ヘルタと同じ天才で、私がここから出られる様にしてくれる存在。生命に関する研究をしていて、私の事は開拓者から知っている様子。世界を超え、この身体を作ったのが人ではなく世界だと聞いて、凄く興味を持っていたらしい。

 

「まずは見せてください」

 

 ちょっと怖かった。今まで会って来た人達とは違う、私を人として見ているのか分からないその目が。ヘルタの時も似ていたのかもしれないけど、目の前の人は本気で私を実験動物やそういった類にしか見ていない様な気がする。

 

 開拓者は大丈夫だと言ってくれた。私はそれを信じて、言われた通りにする。服を脱ぐ様に言われて、下着まで脱いだ。身体中をしっかり見られて恥ずかしくはあったけど、これは検診みたいなものだから。

 

「少し時間をください」

 

 私は頭の天辺から足の爪先まで、しっかり調べられた。それから何かを考え始めている間、私は開拓者と一緒に用意していたお菓子を食べる。途中で考えるのを止めてお菓子を欲しがられたので、途中からは全員で息抜きの時間にもなった。

 

「外に連れ出す事は可能?」

 

「恐らく。ですがそのためにはすべき事がある様です」

 

「何を、すれば良い?」

 

「身体そのモノを改めて作り変える事も必要です。しかしそれ以上に、大事な事が一つ」

 

 

 

 現在

 

「『前の世界との繋がりを完全に断つ』……ここで、それが出来る……?」

 

 私は銀狼のお蔭で世界を渡る事が出来た。だけどそれは完璧では無かったみたい。私の意識はこの世界で作られた身体となって、記憶の殆どは置いて来てしまった。それでも私は私だと思っているけれど、今も前の世界には私だったモノ(抜け殻)が残っている。それは中身の無い私だけれど、それでも私だから。世界を超えた今でも、見えない糸の様なもので繋がってしまっているらしい。

 

 物理的に繋がりを切る事は不可能。だから私は私の意志で、前の世界との残った繋がりを断ち切る必要がある。だけどその方法は分からなくて、ルアン・メェイが私の身体を作り変える必要もある事から、一度意識を別の場所へ移す事になった。意識を身体に残したままするのは危険らしい。怖い話だと思う。

 

「あ、居た」

 

「開拓者。ここが、模擬宇宙?」

 

「そうだよ。前は毎週入ってたから、間違いない」

 

「毎週……?」

 

 何をしているんだろう? そんなにここへ来る事があった? 気になるけど、今は置いておこう。

 

 開拓者と合流は出来た。だけど私はこれから何をすればいいのか分からない。前の世界との繋がりをここで断ち切れるとして、その方法は何にも分かっていないから。

 

「っ! 何……?」

 

「下がって」

 

 突然、変なのが現れた。本当に何処からともなく現れたのは、明らかに人間じゃない異形の存在。開拓者が私の前に立って、バットを取り出した。そういえば、入る時にヘルタが言ってた。『やられない様にね』って。何の事か分からなかったけど、もしかしてここは安全な場所じゃない……?

 

 開拓者に隠れる様に言われて、私は取り敢えず身を隠せそうな場所へ向かう。バットを振り回して異形を相手に戦う開拓者。普段星を巡っている話も聞いているけど、その度に何かの事件に巻き込まれているのも聞いている。戦う事が多い事も。だけどゲームじゃなくて目の前で本当に誰かが戦っているのは見た事が無い。

 

「一撃で、沈めるっ!」

 

 怖いって思うのは本当。だけどそれ以上に、開拓者がカッコよく見えた。

 

「開拓者……頑張って」

 

「っ! やぁ!」

 

 一瞬だけ、こっちに目配せしてから開拓者が異形を殴る。それから戦い続けて少し、異形は消えて開拓者はバットをしまってからこっちに近づいてきた。

 

「怪我は無い?」

 

「ん、大丈夫」

 

 開拓者曰く、ここは『戦闘』の場所らしい。突然空間を割く様にして道が出来る。ゲームとかじゃ偶に聞く、次元の裂け目みたいな感じの。これを何度か通った先に、ボスが待ち構えているらしい。

 

「それを、倒す?」

 

「普段はね。でも今回は違うと思う」

 

 今居るこの場所をゲームに例えるならダンジョンで、その最奥にはボスが居る。だけどクリア条件が別に存在していて、どうすれば満たせるのかが分からない状態。ここに居てもしょうがないけれど、闇雲に奥へ行っても意味は無い。私自身がどうすれば良いのかを見つけないと。

 

『あー、あー。聞こえてる?』

 

「ヘルタ?」

 

『一方通行だから、簡潔に。進んで。それだけ』

 

 いきなり響いてきたのはヘルタの声。だけど私達の声は届いていないみたいで、物凄い簡潔にそれだけが伝えられる。今はその言葉を信じるしかない。この先へ進めばまたあの異形が出て来るかもしれないけど、私には何も出来ないから……お願いするしかない。

 

「私を、守ってくれる?」

 

「その為に今、私はここに居るんだよ」

 

「……ありがとう」

 

 次元の裂け目に二人で入る。見える様になった景色はまた全然違う場所。今度は宇宙じゃなくて空の見える場所。空を飛んでいる乗り物も実際ここには無いけれど、背景として存在しているって事は何処かに存在する世界があるって事。そこにも、行けるなら行ってみたい。

 

 開拓者は凄かった。さっきはバットを使って戦っていたのに、次は炎を纏った槍を出したり。時には帽子を被って踊る様に華麗な動きで敵を翻弄したり。私が見つかって狙われても、開拓者が守ってくれて傷一つ付かない。その分傷ついてしまっているのかもと心配しても、開拓者自身も無傷で終わっているのが殆ど。それでも掠り傷はあって、手当の出来ない私に開拓者は「大丈夫」と一言。

 

「これで回復出来る」

 

「なんで、炒飯?」

 

 お茶碗に盛った炒飯だったり、変な見た目の飲み物だったり、それを口に入れると開拓者の傷はあっという間に無くなってしまう。ここは現実じゃないから、そういう物なのかもしれない。ゲームでは料理を食べてHP(ヒットポイント)を回復なんてよくある設定。でも、実際に見ると不自然過ぎる。

 

「この先は何だろう?」

 

「分からないの?」

 

「見た事ない色だから」

 

 今まで通って来た裂け目とは違う色の裂け目が目の前にあった。赤や青、時に紫なんかもあった中で突然出て来たのは虹色の光。なんか大当たり感がある。よく分からないけど、ここへ入った方が良い気がする。

 

「行こう」

 

 開拓者の手を引いて、私は率先してその中へ入る。その瞬間、開拓者の姿が消えて……私は独りぼっちになった。

 

 

 

『私はいつも独りだった』

 

「……」

 

 目の前にあるのは、誰かの部屋。モニターもゲームの機械もパソコンも存在していて、ベッドにタンスに本棚までしっかりある。壁に何かを貼っている様子はなくて、人が住んでいるのは分かるけど余り生気を感じない部屋。その全てがモノクロで、色が無い。

 

『みんな居なくなった』

 

 その部屋に一人、女の子が座っていた。虚ろな目をした女の子。私の目には何も映らない、ただ白く光るだけのモニターを見つめるその子は手入れもしていない様子の髪をそのままに動く気配すらない。

 

『どうして私は生きているんだろう』

 

 部屋から出る事は出来ない。窓の外の景色も見えない。女の子は私に気付いていないというか、そもそも視認出来ていないみたい。私はこの場所で何をすればいい? そもそも、ここは何処で女の子は誰?

 

『生きる希望は無く、死ぬ程の絶望も感じない』

 

 分からない。……分からない、筈なのに。この聞こえて来る声を私は知っている気がする。

 

『心が壊れたというのなら、何も考えられなくなってしまえれば良かった』

『この世界で生きている理由なんて、最初から存在しない』

 

 聞こえて来るのは何かの電子音。それはパソコンに届いたメッセージ。真っ白だった画面に何の操作をせずとも浮かび上がるのは、誰かからの言葉。

 

『それなら、そっちの世界を捨ててこっちに来てみる?』

 

 それが誰から来たのか、分からない訳が無い。私がそうやってこの世界に来た筈だから。思い出せる訳じゃない。私がどうして前の世界を捨ててまで銀狼の居る世界へ行きたいと思ったのかなんて、今でも分からない。だけど私はそのメッセージを見て、出来るならとありえない事に縋ったんだと思う。そして実際に意識は世界を超えた。だけど私だった抜け殻は残ったまま、今も終わらない真っ白な画面を虚ろに見続けている。

 

 私が私との繋がりを断つ方法。思いつくのは一つだけ。ゲームの中じゃよくある事でも、私自身がした事なんかは一度も無い。だけど、やらなくちゃいけない。(抜け殻)をこのままには出来ないから。

 

「貴女は、連れていけない。ごめん」

 

『どうして?』

 

「えっ?」

 

 

――――――どうして?

――――――どうして?

――――――どうして?

 

「ぅ、あ……」

 

――――――私も私を独りにするの?

――――――貴女は行けて、何で私は行けないの?

――――――自分だけ希望を持って生きるなんて、ずるいよ

 

 世界が変わる。部屋が黒に染まり、全てが真っ黒になる。(抜け殻)が闇に飲まれて、黒い塊になる。そこに真っ赤な目が生まれて、闇が急に晴れると同時に異形がそこに居た。

 

 黒金の鎧を着た様な人の姿で、顔も全てが覆われていた。だけど長く真っ白な髪は鎧の隙間からはみ出していて、柄と刃が同じ長さの長巻を手にしている。気配だとか、殺気だとかを感じられる訳じゃない。でも目の前の異形は私を殺そうとしているのが、分かる。

 

 ゆっくりと、武器を腰元に近づけて姿勢を下げる。それは素人でも分かる、居合の構え。このままじゃ不味いと分かっているのに、足が動かない。顔を下げて息を整える様に全体を低くした異形が、顔を上げると同時に動いた。その刃は真っ直ぐ私に迫って来る。

 

「させないっ!」

 

「!」

 

 斬られると思った。だけどそれが私に届く間際、開拓者が間に入って槍でそれを受け止めた。衝撃が後ろにまで来て、思わず後ろに転んでしまう。今さっき、私は殺されそうだったんだと分かって身体が震える。(抜け殻)(意志)だけ逃げた事を許さないと怒っているのが分かる。

 

――――――お前も独りで生き続けろ!

 

「立って!」

 

――――――それが嫌なら、今ここで死ね!

 

「ぐっ、うぅ……!」

 

――――――邪魔、するなぁ!

 

「っ! 開拓者っ!」

 

 受け止めてくれていた開拓者が、異形の力に押し負けて後ろに飛ばされていった。血は出ていないけれど、しっかり斬られているのは分かる。私を守ってくれたのに、私がそんな彼女を傷つけた。込み上げて来る感情がある。身体の震えは今も続いているけれど、動く事は出来る。足に力を入れて立ち上がれば、剣を斜めに降ろして私を見つめる様に顔を向けている異形と向かい合った。

 

――――――ずるい、ずるい

――――――にくい、にくい

――――――なんで、お前だけ

 

「私が私を恨んでる。それは分かった。でも、私を守ってくれた人を傷つけるのは、許さない」

 

 私に戦う力は無い。それでも、私は私を許す訳にはいかない。

 

「!? なに?」

 

 突然、私の手の平が光り始めた。ゲームとかじゃこういう時に覚醒したりして力が手に入るけど、もしかしてその流れなのかもしれない。眩い光に目を開けられなくて、収まるまで反射的に閉じてしまう。そしてゆっくりと手を見れば、あるのは一枚の写真みたいなモノ。映っているのは私を真ん中に、銀狼とホタルが左右で私の方を向きながら眠っている光景。開拓者や銀狼達が持っているのを見た事がある。光円錐だ。記憶の断片が保存された、持つ人に力を与える道具。

 

 何をすれば良いのか、自然と頭に浮かんだ。私は後ろに飛ばされて言った開拓者の居る方に向けて、手を伸ばす。

 

「行くよ」

 

「二回戦を始めよう」

 

 バットを手に飛び出してくる開拓者が異形に突撃する。私の伸ばした手からは光が伸びて開拓者を包み、それが彼女にとって良い効果を出しているのが分かる。やっぱり私に戦う力は無い。だけど、誰かを強くする事は出来るみたい。ゲームのタイプで言えば、バッファーだと思う。

 

「貴女に、力を」

 

「くらえっ!」

 

――――――アあアァぁァぁ!

 

 もう、私からは叫ぶ様な声しか聞こえない。守りを捨てて攻撃に特化した開拓者の攻撃を受けつつ、自分は傷一つ付けられない状態に怒り狂っているみたい。このまま、終わらせないと。第二形態とか、そんなのは要らない。

 

「私はここで生きる。みんなの傍で」

 

「ルールは破るためにあるっ!」

 

 全身全霊で、開拓者に力を使う。その輝きは開拓者を輝かせて、バットを回転させた開拓者が力強く鎧にそれを叩きつけた。鎧の砕ける音がする。顔面の部分が剥がれて半分程度見える様になったのは、前の私だった顔。悲しそうに、悔しそうにこっちを見つめるその顔はやがて黒い霧に包まれて身体ごと消えていった。

 

「ふぅ。お疲れ」

 

「ん。開拓者、ありが……と、う」

 

「っ!」

 

 汗を拭う様な仕草をした開拓者にお礼を言おうとして、そこから先の記憶は無い。私は倒れてしまったみたいだから。

 

 

 目が覚めた時、私は知らない場所に居た。そこは宇宙ステーション『ヘルタ』で、私の身体はそこに移動させられていたみたい。私は開拓者、ヘルタ(人形)、アスター、ルアン・メェイに囲まれていた。身体を起こそうとしても全然動かなくて、ルアン・メェイが言うには調整したばっかりだからもう少し時間が掛かるらしい。

 

 私は家じゃない場所に居る。それはつまり、全てが上手くいったって事。あの場で何があったのかは開拓者がヘルタ達に伝えてくれた。数日はここで調子を見ないといけないらしいから、銀狼とホタルには後で報告しておかないと。

 

「良かったわね。これでお出掛け出来るわ。私が用意した服で是非行ってね、後輩ちゃん!」

 

「案内なら、私に任せて」

 

「ここへ来るのは勝手にすれば? 研究の邪魔だけはしないで」

 

「その身体は定期的にメンテナンスが必要でしょう。その都度、連絡しますね」

 

「ん……みんな、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 家に帰って来た私はまず最初にホタルの強い抱擁で迎えられた。しばらく離してくれなくて、銀狼との会話はホタルの身体に抱かれながら。ヘルタと銀狼は何かあったのか余り仲が良くなかったけど、今回の件では大きな借りが出来たと言っていた。私の事だから、私が借りを作っただけで銀狼じゃないのに。『保護者として当たり前だから』らしい。

 

 私は外へ出られる様になった。今まで出ない様にしていたけど、これからは何処にでも行ける。勿論、必要が無い時は今まで通りこの家に居る。銀狼とホタルの外出について行きたいと言ったら、難しそうな顔をしたからそれは無理そう。だけど今度、開拓者とは約束した。顔文字だけでメッセージのやり取りをしている相手とは、まだ会っていない。何でも保護者みたいな存在が許してくれないらしい。相手が分からないから、警戒するのは当然の事だと思う。

 

「銀狼。お願いがある」

 

「なに? 一緒に行くのは駄目だよ」

 

「違う。……私も、武器が欲しい」

 

「危ないモノは持たない方が良いけど、護身用にだね」

 

「ん。二人と同じのが良い」

 

 銀狼もホタルも剣を使っているのは知ってる。普段どんな風に戦っているのかは分からないけど、これから外へ出るのなら攻撃出来ないとしても、身を守るくらいの事はしないと。

 

 ゲームでも色々な武器がある。凄く変わった武器を使ったり、身の丈以上の大剣を使うのにはそれなりにロマンを感じる。だけど現実的に考えると、難しい。普段からそんなに重い物を持ったりはしないから。そこで、思いついたのが二人の武器。必要な時に刃を出現させられるあれなら、常に重い物を持たなくて良いから常備出来そう。

 

「必要? 開拓者とかが基本一緒でしょ? 勝手な行動しないで、逸れなければそれでいいじゃん」

 

「そうはいかない。別行動、するかも」

 

「そういう時は安全な場所で待機すれば良い」

 

「むぅ……」

 

「外に出れる様になって、少し好奇心が旺盛になっちゃってるのかも。でも銀狼、あたしも護身用にあった方が良いと思うよ?」

 

 ホタルは味方になってくれた。それから銀狼を説得して、すぐには無理でもいつかは用意してくれる約束を取りつけた。無理を言っているのは分かってるから、何時までとかは決めない。開拓者との約束の日までに貰えれば良いけど。

 

「外の世界……楽しみ」




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