迷い家の少女   作:ウルハーツ

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開拓者:3&クラーラ - ホタル:5

 目が覚めた時に天井じゃない何かを見て起きる場面が多い気がする。今日もそう。

 

「おはよう」

 

「……なんで、布団に入ってるの?」

 

 目を開けた瞬間、視界一杯に映る開拓者の顔。ここは私の部屋で間違いないけど、ベッドの上で布団も被っている状態なのに目の前には開拓者が居る。同じ布団の中に入っているのは間違いない。背中に手の感触があるから、抱かれていると思う。ホタルの時は気持ち良さそうに目を細めたりして、それから終始微笑んでいるけど……開拓者は無表情にジッと見てきて少し不気味。

 

「今日は約束の日だから」

 

「寝坊、した……?」

 

「大丈夫。四時間前」

 

「早すぎ」

 

 今日、開拓者と会う事にはなっていた。私が開拓者や天才二人の力を借りて、外へ出られる様になってから数日。帰って来てから一度も私はまだ外へ出ていない。何処へ行けばいいのか、どうやって行けばいいのかが分からなかったから。そもそもの話、私はこの家から出る方法を知らなかった。銀狼が言うには、玄関の外は普段何処とも繋がっていない壁の状態らしい。だけどチケットを持つ者が外で使うと壁が消えて道が繋がり、帰れば元に戻る仕組みになっている。

 

「ご飯、食べる?」

 

「そうだね」

 

 まだ時間は早い。なので朝ご飯を食べる為にまずはリビングに行って、準備をする。スマホには……メッセージが来てる。

 

 

―――――――――――――――

 

『(*゚▽゚)ノ』

 

『(≧∇≦)』

 

『( -ω- )スヤァ……』

 

『(⌒-⌒; )』

 

『今日、初めての外出。ヤリーロ-VIって場所に行く』

 

『(°д°)』

『( °Д°)』

『ホントo(゚Д゚)』

 

『ε=┏(・ω・)┛』

 

―――――――――――――――

 

 

 メッセージが帰って来なくなった。普段文章をしっかり入れる事は殆ど無かったけど、嬉しさからつい入れてしまった。開拓者の方で今度は通知音がする。食事を待っていた開拓者がそれを確認したら、やがてこっちを見た。

 

「クラーラに会いたい?」

 

「クラーラ?」

 

「普段、メッセージをしてる相手の筈」

 

「……」

 

 さっきまで送り合っていた画面を見る。この流れから開拓者にメッセージが行ったと思って間違いないと思う。この顔文字を送り合っていた相手の名前がクラーラ。ここへ来たことが無いのは、私がメッセージだけでしかやり取りした事の無い怪しい人物で、保護者の様な存在が許していないからと聞いている。会えるなら、会ってみたい。メッセージを送り合っている人で、まだ会ってないのはこの人だけだから。

 

「ん。会いたい」

 

「それじゃあ、今日はヤリーロ-VIの機械集落へ行こう」

 

 ヤリーロ-VIへ行く事は決まっていたけど、取り敢えずそこを適当に歩いてみるとしか予定は決まっていなかった。クラーラという人へ会う為には、その場所へ行く必要があるらしい。私も、メッセージを改めて送った方が良いかな?

 

 

―――――――――――――――

 

『あなたに、会いに行く事になった』

 

『クラーラも、お姉さんから聞きました。待ってます』

『( ・ω・)b』

 

―――――――――――――――

 

 

 ヤリーロ-VI

 

 初めて家から意識を持ちながらの外出。開拓者が入って来た道を消える前に手を繋いで一種に入ったら、全然知らない場所に居た。私の常識として知る、空がある。建物が沢山並んでいて、何より知らない人が沢山歩いている。開拓者が入った場所から外へ出て来れる筈だから、家へ来る前はここに居たって事になる筈。

 

「ここが、ヤリーロ-VI?」

 

「うん」

 

「……寒い」

 

 見た事のない景色。ところどころそれでも分かるのは、開拓者が写真を見せてくれた事があるから。街の中はとても明るくて賑やかだけど、かなり寒い。今まで暑くも寒くもない場所に居たから、この感覚は新鮮というか、この身体では初めてだと思う。

 

「行こう。動いてれば温まる」

 

 お金は無い。だから上着を買ったりする事は出来ないので、開拓者の言う通りに動こう。逸れない様に、歩き出した開拓者について行く。同じ様な景色でも、動いていれば徐々に変わって来る。下へと降りたり、雪が積もった道を歩いたり。気付けば人通りが殆どない場所で、機械ばかりが動いているところになっていた。

 

「この下だよ」

 

 円型の足場に立つ。開拓者が何かの機械を操作してから私と並べば、足場が下降した。変な浮遊感を感じながらも降りた先で開拓者に変わらずついて行くと、少し広い場所に出る。その中央には大きな人型の機械と、雪の様に白い髪をした赤い服の女の子。

 

「ぁ……」

 

「……クラーラ?」

 

「っ! はい!」

 

 ここに人は何人かいる。だけどみんな大人の男性ばっかりで、女の子は目の間に居る人だけ。そんな彼女が誰なのか、私は不思議と分かった。向こうも同じだったみたい。少し不安に思いながらも名前を呼んでみれば、返事をしてこっちに駆け寄って来る。後ろの大きな人型の機械もゆっくりと近づいてきた。

 

「初めまして、クラーラです! えへへ。やっと会えました!」

「危険度測定中……現状、無害と判断」

 

 私の手を取るクラーラと、その後ろで私が危険な存在かどうかを測定? している大きな人型の機械。正直、かなり怖い。

 

「あ、スヴァローグは怖くないですよ。クラーラの家族です」

 

「家族?」

 

「クラーラはここで暮らしてるんだ。ここに居るみんなが彼女の家族」

 

「お姉さんも、家族ですよね?」

 

「そうだね」

 

 傍に居る人が家族。その気持ちは凄く分かる。私にとって銀狼とホタルは家族だから。クラーラにとって例え機械であっても、目の前に立つ大きな人型の……スヴァローグは家族なんだ。多分、クラーラが家へ来るのを止めていた保護者は彼だと思う。

 

「こうしてみると、二人は少し似てるね」

 

「そうですか?」

「髪色、身長、体重。身体的特徴が類似している。但し眼球、及び声は異なっている」

 

「双子って言われたら、信じる人は居るかも」

 

 私とクラーラは顔を見合わせる。髪の色は確かに似ている。クラーラの方が白寄りで、私は銀に近いけど。身長は私の方がほんの少し高い? 体重は分からないけど、スヴァローグが言うには近いらしい。声は確かに違う。目の色も私は碧色だった筈。対してクラーラは透き通る様に綺麗な赤。ゲームだったらお互いに2Pカラーとか言われても案外分からないかも。

 

「なら、クラーラがお姉さんですか?」

 

「ん? …………そうかも」

 

「あぁ、生まれた年で言えば一年にも満たないんだった」

 

「否定。人間は一年以内でここまで成長しない。10年以上は最低でも生存している」

 

「彼女はちょっと、特殊な生まれだから」

 

「クラーラがお姉さん……!」

 

「なんか、またお姉ちゃんが増える気がする」

 

 目を輝かせ始めるクラーラにこの後どうなるのか、何となく想像はついた。別に嫌って訳じゃない。クラーラが身近な人を家族と思う中で、小さい子が果たして何人いるのか。もし少ないのであれば、自分を年上の存在として見る相手はきっと貴重。ホタル、ロビン、クラーラ。お姉さんが三人は多い気もするけど、気にしない。アスターは先輩だったから、年上でも種類が違う。開拓者は……お姉さんっぽいのに、なんか違う気がする。

 

 それから、案の定クラーラは一度私にお姉ちゃんと呼んで見て欲しいと言ってきた。言われた通りにすれば、凄く嬉しそうな顔をする。そこまで喜ばれると、私も少し嬉しい。クラーラにそのまま手を引かれて、機械集落を少しの間歩き回った。後ろには開拓者とスヴァローグも一緒に。

 

「?」

 

「あ。この子、怪我しちゃってる」

 

「修理しよう」

 

 機械集落にはその名前の通り、人より機械の方が多い。歩いていると、壊れた様子でカクカクと変な動きをしながら崩れている機械があった。私が見つけるとクラーラが近寄って、開拓者も近づく。そして手際良く修理をして、その機械は元気? になった様子で動き始めた。

 

「開拓者、凄い」

「お姉さん、凄いです!」

「感謝する、開拓者」

 

「ロリっ娘二人に尊敬の眼差しを向けられてる。悪くない。デカいのも居るけど」

 

 クラーラとの顔合わせも兼ねてここへ来た事もあって、何時までもここに居る訳じゃない。クラーラとは機械集落を出る場所でお別れする事になった。スヴァローグが私を危ない人間とは判断しなくなってくれたから、今後家へ来るのは大丈夫だと思う。次は私がお菓子を持って来るか、予めメッセージを貰っておもてなしをする約束をして。私は開拓者と帰路を歩く。

 

「どうだった?」

 

「外の世界は楽しい。クラーラとスヴァローグにも会えた。満足」

 

「そっか。今度また、違う場所に行こう」

 

「ん。ありがとう。また、よろしく」

 

 街まで帰って来たところで、開拓者とはお別れ。適当な民家の扉を利用して、チケットを掲げる。そして開拓者へお礼を言って光る扉を潜れば、見慣れた玄関に私は立っていた。今日の事はまた、銀狼とホタルに話そう。今までと違って家での出来事じゃない外での思い出話、二人に聞かせられるのは楽しみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外へ出られる様になって、私は開拓者と一緒に色々な場所へ行った。と言っても、まだ宇宙ステーション『ヘルタ』とヤリーロ-VIの二ヵ所だけだけど。アスターとはあれから何度か会って、クラ―ラとも何度か。他にも新しい人と知り合ったりもして、友達も少し増えた。

 

「ねぇ、今日もどこかに行くの?」

 

 今日は朝からホタルが居る。外出する用事は無いらしくて、一日一緒に居られるらしい。私もあれから毎日外へ出ている訳じゃ無いけど、ホタルと一緒に居る時間は少し短くなった様な気がする。普段から外へ出ているホタルとは勿論一緒に居られないし、二人が帰って来た時に私が居ない事だって最近はあったから。

 

「予定はない」

 

「それじゃあ、今日は一緒に居ようよ」

 

「ん。そうする」

 

 別のソファに座っていたホタルが、私に予定のない事を知って嬉しそうに近づいて来る。そのまま同じソファで並ぶのかと思ったら、前みたいに両脇に手を入れられて持ち上げられる。行先は勿論膝の上。なんとなく、今日はもう一日中この状況になる予感がする。

 

「ふぅ。あぁ……染みるよぉ」

 

「何が?」

 

 くすぐったい。背中に擦れるホタルの身体と、私の髪に鼻を埋めて嗅がれる感触が。余り表現したくはないけど、中毒性のある何かを摂取してるみたい。確かに最近、一緒に居る時間は本当に短かった。偶に過ごせる日はこうして引っ付いている事も多いし、銀狼みたいに吸って来る事もあった。でも、私に中毒性のある何かは無いと思う。……無い、よね?

 

「すぅー。はぁ~」

 

「ホタル?」

 

 返事は返って来ない。これ、本当にこの状況から変わらない流れだ。何かをして過ごしたくても、動けない。ホタルはそもそも動く気が無いので、されるがままになるしかない。銀狼の時もそうだけど、一方的に好き放題され続けるのは少し納得がいかない。こうなったら、あの時と同じ様に仕返しをしよう。

 

「な、なに?」

 

「お返し。えいっ」

 

「!?」

 

 ホタルの抱擁は強い。だけど私は強引にその場で反転する。さっきまでホタルを背中に感じていたのが、今は前で感じられる状況。膝の上なので、顔の位置は殆ど同じ。そんな状態で、私は自分からホタルに抱き着いた。それも頭を抱えてホタルを顔を私の胸に押し付ける感じで、足も背中へ回してしがみ付く様に。どうせ吸うなら、好きなだけ吸えばいい。痛くも苦しくもしないけど、圧迫感はあると思う。

 

「どう?」

 

「い、良いの?」

 

「?」

 

「抑えられなくなっちゃうかも」

 

「え?」

 

 背中に手が回る。一瞬の浮遊感の後、私はソファに転がっていた。足はホタルの身体で持ち上がったまま、ベッドに倒れた私に覆い被さるホタルの姿勢を言葉で表現するには少し卑猥な気がする。というか、全く動けない。仰向けに倒した私に正面から抱き着いて、胸に顔を埋めて来るホタルから逃げられそうにない。

 

「やっぱりあたし、もう君が居ないと駄目かも」

 

「……」

 

 ホタル、かなり疲れてるのかも。そうじゃないと、こんな事をする理由が思いつかない。疲れていたとして、私の身体に覆い被さってまで匂いを嗅いでくる理由は思いつかないけど、突拍子もない理由でも無い限りこんな事は常識で考えてしないと思う。こうなったら自棄(やけ)になろう。もうホタルが望むまま、何ならホタルがもう嫌って思うまで私も引っ付いて、どっちが先に嫌になるかの耐久を始めよう。

 

 

 そんな風に思って数時間。ホタルが一向に嫌がり始める気配が無い。私自身、ゲームをしないでこんなに誰かと一緒にくっ付くだけの時間を過ごし続けた事はない。飽きはして来てるけど、嫌って気分にはならないのが不思議。誰かと一緒に居るって、心地良いから。流石に限度はあるけど。

 

『何してるの?』

 

「銀狼……ホタルが、離れない」

 

『えぇ……いくらメッセージを送っても返って来ないから、何かあったかと思った』

 

 突然、頭の上にホログラムで銀狼が現れた。私の上って事は、ソファの横に立っている筈。そんな銀狼を逆さに見ながら答えると、凄く変なモノを見る目で私達を見て来る。分からなくもないけど、どうしようも無いので今は置いておこう。メッセージを送っていたらしいけど、この状況じゃ確認も出来ない。それで心配させてしまったらしい。何か大事な事?

 

「どうしたの?」

 

『私今日、帰れないから』

 

「……え」

 

『助けてあげたいとは思うけど、無理。明日朝には帰るから、頑張れー』

 

 それだけ言って消えてしまう銀狼のホログラム。いつまでこれが続くか分からないけど、銀狼の帰宅が終わりの切っ掛けを作ってくれるとは思っていた。その可能性が無くなったって事は、本当にホタルが満足するまでこの状況は終わらない。最初の予感はやっぱり正しかった。

 

「ホタル」

 

「すぅ、はぁ」

 

「……ホタル」

 

「すぅ、はぁ」

 

「…………お姉ちゃん」

 

「! あれ、あたし……」

 

 何度か名前を呼んでも、ホタルは全く反応してくれない。そこで試しにと思いついたのは、お姉ちゃんと呼ぶ事。初めてあった時、それを聞いて悶えていたのを何となく思い出したから。ホタルの事をそう思う事はあっても、あれから言葉に出して呼んだ事は無かった。ちゃんと効果はあったみたいで、ホタルが顔を上げて我に返ったみたいに私を見つめて来る。これで解放される。

 

「一旦、離れて」

 

「やだ」

 

「……」

 

 訂正。我には返ったけど、解放はしてもらえなさそう。

 

 改めてホタルが私を抱き直す。また最初みたいに後ろから抱きしめられて、膝の上。結局この状態が一番過ごしやすい。下手にくすぐったさを無くそうとか、自棄になっては駄目。この際もうこのままで良い。だから何も出来なかった分まで、ゲームさせて欲しい。

 

 ゲームをしたいから端末を取りたいと言えば、私を抱えらたままホタルが立ち上がるので、地に足を付けないままに近づいてもらって取る。まるで女の子が抱える人形になった気分。髪に当たる鼻の感触とか、また匂いを嗅がれている事とか、全部気にしちゃ駄目だと自分に言い聞かせる。そして私はそのまま本当に一日中、ホタルに抱き締められて時間を過ごし続けた。

 

 

 翌日の朝、銀狼がやっと帰って来た。

 

「うわ、まだやってる」

 

「…………ぎん、ろぅ……たす、けて……」

 

「何か、生気吸い取られてない? ホタル、やり過ぎ」

 

「あ。銀狼、お帰り。ふぅ……満足したよ」

 

「こっちは凄い活き活きしてるし。えっ、マジ? こわっ」

 

 銀狼が帰って来た事でやっと解放された。だけど身体に力が入らない。私が真面に動ける様になるには、また一日掛かりそう。

 

「それじゃあ、あたしが看病してあげる」

 

「ホタル、今日は出る日じゃん。カフカが怒るよ」

 

「うぅ、仕方ないか。銀狼、お願い」

 

「はいはい。……お疲れ」

 

「ぅ、ん」

 

 もう、意識を保っていられない。銀狼の労う声を聞きながら、私は重い目を閉じた。




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