気づいたら、遙か上空、雲を見下ろせるほどの天空に私はいた。
「・・・は?」
というか、どうやら私は現在進行系で落下しているらしい。・・・この高さから。
「いやいやいやいや。どういうこと?!」
とりあえず、落下を止めるためホバリングしようと力を行使する。
「・・・止まんないんだけど。」
まずい。これは非常にまずい。
この高さから地面に激突したとしても、私が死ぬことはない。
けれど、下にいる民たちはそうではない。私がもし彼らに当たれば間違いなくその人は死んでしまう。
280秒。あと280秒で地面と熱烈なキスをする羽目になる。それまでにどうにかして状況を改善しなければ!
アナライザーからの報告によれば、飛行系の力は全て機能不全のようだ。衝突する気体分子の運動を制御して姿勢を制御する技法も何故か上手く機能していないらしい。
精密な姿勢制御ができない以上、狙った場所へ落下するのは難しい。人口密集地は避けて、広い草原へ体を向ける。
残り時間が1分を過ぎ、雲を抜けたため、地面を全スキャンし、安全に落下できる場所を決定する。
着陸誤差は半径100m。この範囲に人がいなければそこが落下場所になる。幸いなことに落下予想地点から半径1km圏内には人がいなかったため、このまま着陸準備に入る。
そして着陸の瞬間、自身に加わるはずだった作用を全て反転させ、地面に着陸する。はずだった。
ところが実際は、反転させて地面に加わるはずだった衝撃は私の衣服に向かい、着陸と同時に服が爆発四散してしまった。
「さすがに色々おかしいよ!」
飛行は上手くいかず、着陸の衝撃は地面ではなく服に行く。そのせいで全裸になったわけだけど、ここまで予想とは違う結果しか起こらないのは、夢かなにかでなければおかしい。
けれど、そもそも私は夢を見れない。フルダイブ型のゲームを遊んでいた記憶もないのだから、その線も薄い。第一、ゲームなら送られてくる信号を解析すればそれがゲームか検証できるし、そんな信号無いのだからゲームではない。
しかしここで、調査を依頼していたアナライザーから重要度"最高"で報告が入った。しかも、私が想定していた中では最も最悪な内容で。
結論から先にいうと、私は異世界に来てしまった可能性が高いということらしい。
アナライザーからの報告によれば、先の飛行系の力が機能不全になっていたのに注目し、一旦世界の物理モデルを再構築し直そうとしたみたいだ。ところが、実際に作り直された物理モデルは基底物理しか実装されていなかった。けれど、基底物理のみで作られた世界のシミュレーション結果からは明らかに乖離した物理現象も見られたため、この世界を基準世界や私が元いた世界とも違う、まったく新しい世界の可能性が高いと結論付けたようだ。
「異世界かぁ。普通なら
そんなことを考えていると、遠くから少年が小走りで近づいてくるのが見えた。
しかし私は今は全裸。このまま少年と邂逅すれば、私は自分の裸体を思春期真っ只中と思われる少年に出血大サービスでお見せすることになってしまう。まぁ、私なんかで興奮はしないだろうけど。
コパイロットからは既に周りの利用可能な元素から服を修復するようアナライザーに指示を出したみだいだけれど、物理モデルが正確じゃない所為で作業に難航しているらしい。最低でもあと10分は掛かるとか言ってきた。
ひとまず、光学迷彩とホログラムの原理を応用して、周りからは服を着ているように見せる。
そして、異世界に渡界したかの確認のため、私も少年の方へ歩を進めようとしたとき、気付いた。
あんなところに人なんていたっけ?
いや、ただ単に私のスキャンミスかもしれない。けれど、少なくとも消えずに残っているスキャン情報からは、どれだけ精査しても人影一つ見つからない。なら、あの少年は一体いつからそこにいたのだろうか?
本当に、私のスキャンミスならば、何も問題はない。けれど、もしそうでないのであれば・・・。
あの少年は安全に接触できる人型知的生命体か?
私は少年に対する警戒レベルを引き上げ、コパイロットに臨戦態勢で行動するよう指示をする。
そうしている間にも少年は近づいて来ていて、既に彼我の距離は500mを切った。
私も、警戒を緩めこそしないものの、相手に余計な警戒感を与えないように、軽快な足運びで少年に接近していく。
そして、彼我の距離が25mを切ったころ、ついに少年の方から接触があった。
「すみませ~ん。ちょっといいですか~?」
彼我の距離は5m。もう、私も少年もお互い静止していた。
「どうしたんですか? 先ほどから駆け足で近づいて来てましたけど。」
言葉が通じることに多少驚いたものの、すぐに返事を返す。
しかし、次に少年が発した言葉は予想の斜め上を行く内容だった。
「あぁ、いや俺、さっきまで道路を歩いてたはずなんですけど、気づいたらこんなところにいて、ここってどこかわかります?」
少年はすこし困惑気味の様子で、頬を抓ったり、自身の左腕に抱えている何かのパッケージを確認したりしている。
けれど、私の思考リソースは少年の行動を解析することよりも、さっきの発言の真意を汲み取ることに多くのリソースを割いていた。
なにしろさっきの発言、内容だけ聞くと私の状況に似ているところがあるのだから。
もしかしたら、この少年も渡界してきた人なのかもしれない。
私は確認のためにより詳しく状況を聞くことにした。
「えーと、ごめんなさい。実は私も似たような状況に置かれてて、ここがどこなのかは分からないの。・・・ねぇ、お名前聞いてもいい?私は
「あ、俺佐藤和真っていいます。霊津身根比売神さん?でしたっけ、も、いきなりこの草原に来てたんですか?」
「そうなの。まぁ、私の場合雲の上から落っこちてきたんだけど。そういえば和真君はここに来るまでのこともう少し詳しく話せる? もしかしたら今がどういう状況か分かるかもしれないから、話してくれるとうれしいな~。あと私の事は霊津身でいいよ。」
努めてフランクに接し、警戒していることを相手に悟らせない。もっとも、状況からしてこの子も渡界してきた可能性が高いから既に警戒レベルは下げているけれど。
「俺の聞き間違いか?なんか空から落ちてきたって聞こえたんだけど。あんたホントに人間か?」
さっそく怪しまれた。
「だ、大丈夫!私は人間では無いけど危険はないから!ほら、こんなにか細い腕で和真君に危害を加えられると思う?」
なんとか必死で無害さをアピールする。ここで警戒感を持たれて何処かへ行かれでもしたら、帰るための手がかりを失ってしまいかねない。
「人間じゃないのかよ!そういえば、名前も何処か日本神話に出てくる神の名前っぽかったし、もしかして霊津身って神様だったりするのか?」
「うーん、確かに私は種族的には神だけど、そんな様付けされるほど高貴な身分じゃないよ?それに日本神話って言うのも知らないし。」
ここまで和真君と会話してきたけど、おそらく和真君は私と同じ世界からは来ていない。
彼の着ている服の材質や持っているパッケージの内容。そして日本神話なんていう存在しない物語。これらを総合すれば、自ずとそう考えられる。
「やっぱり神様なんだな。でも日本神話を知らないってどういうことだ?もしかして神様の世界じゃ神話って括りじゃないのか?」
まだ、和真君の状況を詳しく把握していないから憶測が多分に含まれることにはなるけど、私達の状況を彼にも説明した方がいいような気がしてきた。
「和真君、これはまだ推測の域を出ないんだけど、多分私達はそれぞれ別の世界からこの世界に来てしまったんじゃないかな。そうすれば、私達の間で通じない言葉や概念があることとも矛盾しないし。」
そう伝えた途端、和真君は持っていたゲームパッケージを落とし、数秒硬直してしまった。
そして、再起動すると同時に激しく狼狽し始めた。
やっぱり、まだ伝えるのは早かったかもしれない。
そう思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。
「え、それって異世界転生ってことか?!あ、でも俺死んだ記憶ないし、この場合は転移か。どっちにしても異世界に来れたってことだよな。てことはこれから、異世界ものにあるような冒険とかバトルとか、できちゃうのか?!」
なにやら、すごい興奮した様子で目を輝かせている。
「か、和真君?これはまだ憶測が混ざってるからあまり参考にしないほうが・・・」
「いや、そうは言っても異世界だぞ?俺からすれば早速神様が登場してるし、信憑性高いんだが。」
なるほど。和真君目線だとそう見えてるのか。
ただ、私の存在でここを異世界って認識しているところは興味深い。
「もしかして、和真君がいた世界って人間しか知的生命体いなかったの?」
「ん?ああ、そうだな。俺が知ってる限りだと地球上の知的生命体は人類だけだったぞ?」
となると、この仮説はある程度信憑性があると考えていいかもしれない。
「へぇ。多分その地球っていうのは惑星の名前でしょ?持ってるものからして文明レベルも高そうだし、もしかしたら、案外私達の世界って似たもの同士だったりしてね。」
「言葉が通じてる時点でだいぶ似てるだろうしな。それとさっきから気になってたんだが、俺のことは和真でいいよ。君付けされるとむず痒いんだよ。」
「そう?ならそうさせてもらうね。それじゃあ、改めてよろしくね、和真。」
「ああ、俺の方こそよろしくな、霊津身。」
そうして、私達は深い握手を交わした。
すでに、私の中での彼に対する警戒心は無くなっていた。
「ところで和真って、どのタイミングでこの世界に来たか分かる?」
私は、少し前から気になっていた、ある心配を解消するために和真に質問をした。
「いや、分からないな。気づいたらこの場所にいたし、それで周りを見回したら霊津身がいたって感じだ。」
ここまではさっきまでと一緒。問題はこの次だ。
「それって、私が空から落ちてくるのは見えてなかったってことだよね?着地する瞬間も。」
これの回答如何では、私は和真に手荒な真似をしなくてはならなくなる。
「そうだな。俺が霊津身を見つけたのは多分そのあとだったし、そもそも、着地する前に転移してても、混乱してて見つけられなかったと思うぞ?というか、なんでそんなこと聞くんだ?」
良かった。つまり私の痴態は見られていなかったってわけだ。
あとは、それっぽいことを言ってこの会話を終わらせれば大丈夫なはず。
「いや、私が空から落ちてくるときは和真のこと欠片も見つけられなかったから、もし、和真の近くに落ちてたら危なかったな~って。でも、聞く限りだと、和真がこの世界に来たのは私が着地した後みたいだから、安心したよ。」
「そういうことか。まぁ、俺って前から運だけは良かったからな。ゲームのレアドロップアイテムなんて望んでなくても手に入るレベルだ。」
なんかサラッととんでも無いことをカミングアウトした和真だけれど、私としてはあの痴態を見られてなかっただけで十分だ。
「そういえば、実は俺も気になることがあったんだ。霊津身ってこっちに来てから着替えたりしたか?はっきりとは見えなかったんだが、最初裸だったような気g」
やっぱり見られてた!
とっさに電気ショックで気絶させたけれど、長くは持たない。早く記憶を消さなくては。
私は和真の額にふれ、力を行使する。幸い、和真の体は基準世界の物理法則で説明できる部分が多く、記憶回路も神経細胞のネットワークで構築されていた。これならば、余計な手間をかけずに消去できる。
神経ネットワークを思考領域に再現し、目当ての記憶が存在しないネットワークを構築する。最後に現実の和真の脳をそのネットワークに再構成して終わりだ。
私は和真を膝の上に寝かせ、和真が起きるのを待った。
「ん。う~ん。え?!なんで俺膝枕されてんの?!霊津身、お前何か知らないか?」
「え?いや、私からは和真が話の途中で気絶したようにしか見えなかったよ?それで、起きるまで膝枕してただけ。」
本当は自分が気絶させて、記憶を消したなんて口が裂けても言えない。
「そ、そうなのか?でも、普通会って間もない男のことを膝枕するか?」
よし!まだ少し懐疑的だけど、このまま話題をずらしていけば有耶無耶にできる。
「あれ?和真の世界だと、膝枕ってあまりしない感じ?」
私の世界でも普通しないけどね!
「ああ。他の国がどうかは知らないけど、日本じゃそこまで親しくもない男に膝枕する人なんていないぞ?」
「へぇ、そうなんだ~。ごめんね。世界が違うこと忘れてたよ。」
嘘だ。ほんとは注意を逸らすためにわざと膝枕したのだから。
「いや、俺も膝枕は嬉しかったんだけどな?いきなりだったから驚いただけだ。」
「ふふっ。和真も男の子なんだね~。それで和真?君はいつまで私の膝の上で寛いでいるのかな?」
そう。なんと和真はあれからずっと、膝枕され続けていたのだ。
しかも、次に和真が発した言葉は、予想だにしないものだった。
「ん?ああ。お構いなく」
流石の私も、この返しは想定していなかった。
「え、いや。あのね和真。今のは、もうそろそろ起き上がって欲しいって意味で言ったんだけど・・・」
「お構いなく」
まさかこの子、満足するまでこのまま横になり続ける訳じゃあるまいな?
取り敢えず、和真が起き上がるまでアナライザーの調査情報を精査することにする。
結局、和真が起き上がったのは、それから30分後のことだった。
あれから、私達は着陸地点からほど近い、やや大きめの城壁で囲まれた街に訪れていた。
街の中は、市場なのか様々なものが店先に並び、多くの客と思われる人々で賑わっている。
もっとも、話してる言葉は全く分からないけれど。
「なぁ、霊津身。これ本当に大丈夫なのか?言葉が通じないんじゃ、情報収集もできないぞ?」
あのあと、私の膝の上を堪能した和真と色々話し合って、まずは情報収集することにした。
ただ、さっき和真も言った通り、やっぱりこの世界の言葉は私達には分からないようで、さっきから音は聞き取れるものの、意味がさっぱり伝わってこない。
「大丈夫。この世界の言葉の解析をアナライザーにお願いしているから、少しづつだけど言語モデルが出来つつあるの。あと3時間くらい彼らの会話を観察していれば、日常会話くらいならできるようになるはずだよ?」
とはいえ、私の思考リソースを使えば、新しく言語モデルを組み立てることなんて造作もない。必要なのは学習に使う情報だけなのだ。
「え、たった3時間で異世界の言葉が話せるようになるのか?!もしかして、そのアナライザーってのがお前の能力なのか?」
そういえば、まだ和真には話してなかったっけ。
私は、拡大した知覚領域から大量に言語データを集めつつ、和真にアナライザーとコパイロットについて説明した。
「つまり、アナライザーは情報解析用の思考領域、コパイロットはアナライザーが解析した情報から行動を決定する思考領域ってこと。能力とは別物だね。」
私の世界では学校で習うような知能工学の初歩の話だったけれど、和真のいた世界ではそうではないみたいで、時折難しい表情をしながら話を聞いていた。
「へぇ。なんだかよくわからないけど、お前の頭がもの凄く良いっていうのは理解できたわ。」
結局、和真は理解することを諦め、歩き疲れたのか近くにあった広場のベンチに腰を下ろした。
「あ、そろそろ一旦休む?ここに来てからずっと歩いてたもんね。」
「ああ。そうしてくれるとありがたいな。もう足が動かないわ。」
少なくとも草原からこの街まで5km以上は歩いたのだ。あまり運動してなさそうな和真が疲れてしまうのも無理はない。
私も和真の隣に腰を下ろして、足を休める。アナライザーの言語解析は続けているから、予定通りあと3時間弱でモデルが出来上がるはずだ。
「・・・そういえば、気になってることがあるんだが、さっきファンタジーとかで出てくる魔法使いっぽい格好の女の子がいたよな。もしかして、この世界には魔法があるのか?」
ふと、和真がそんなことを聞いてきた。
「ん~。魔法に分類されてるかは分からないけど、それっぽいものはあるんじゃない?少なくとも私が把握してる物理法則以外の法則があるのは確実だから。」
実際、アナライザーが行っている物理モデルの再構築作業で、未知の相互作用があるのは確認されている。物体の状態変化が基準物理のみでは説明出来ないのだ。
でも、なぜ和真はそんなことを聞くのだろう。
「てことは何時かは俺も、魔法に触れる機会があるかもしれないってことか。クゥ、早く魔法を体験してぇ。」
どうやら、和真は早くこの世界ならではの現象を体験したいらしい。
「もうちょっとだけ待ってね。言語モデルさえ出来上がればこの世界の人たちとも交流できるから。」
とはいえ、言葉が話せなくては異世界ライフを満喫できない。私は、和真に逸る気持ちを抑えさせ、異世界語を習得するまで待つように伝えた。
「確か、あと3時間弱だっけか。今が昼頃だから、夕方には会話出来るようになるのか。」
和真は空を見上げ、太陽の位置で時間を推し量りながら、自らが異世界で活動を開始するときを待った。
昼下がり。陽も少し傾き、街により一層の賑わいが見られるようになった頃、遂に言語モデルの構築が完了した。
知覚領域をこの街全体まで広げて大量のデータを集めた甲斐もあって、当初の予想より1時間早く作業を終えることができた。
「和真、待たせてごめんね。今モデルが出来上がったから、あと1ステップ踏むだけで和真も会話出来るようになるよ。」
私は横でうたた寝をしている和真を起こし、異世界の言語を習得する最後のステップのときが来たことを知らせる。
「ん、ああ。もう出来たのか?まだ3時間経ってないような気がするんだが。」
「この街は人口が多かったからね。学習用のデータを沢山集められたんだよ。それより和真。このままだと私しか言葉を話せなくて不便だから、学習したデータを和真の脳にインストールするけど問題ないよね?」
一応、他人の脳を弄るわけだから、本人に確認を取る。
え?さっき無許可で記憶を消してたじゃないか、だって?あれはノーカンノーカン。
「脳にインストールって、そんなことも出来るのか。お前の世界ってSFに片足突っ込んでるよな。」
和真は若干呆れながらもインストールには同意した。
「それじゃあ始めるね。もし、気分が悪くなったら教えてね。」
まずは和真の脳以外の神経系と私の思考領域との間にデータ転送用のバスを作る。次に、和真の神経ネットワークを私の思考領域で再現しエミュレートする。こうすることで、インストール作業中も対象の意識を落とさずに作業を進めることができるのだ。和真の感覚器からの情報はバスを通して私の思考領域に伝送され、エミュレータで処理された上で、同じくバスを通してフィードバックが送信される。
こうして環境のセットアップが終わったら、あとはさっき記憶を消したときと同じ要領で和真の脳を再構成すればいい。ただ、ここで注意しなければならないのは、和真の意識は今も私の思考領域で存在しているから、絶えず神経ネットワークは変化しているってこと。だから、再構成時には一旦エミュレートを停止して、呼吸とかの生命活動の維持のみをバスを通して私が行い、その間に停止中の神経ネットワークのスナップショットを再構成モデルに反映する必要がある。
これらを意識が飛んだ感覚を覚えさせる前に終わらせらければならないから、猶予は500ミリ秒程度しか無い。
私は、持ち前の演算能力の高さを活かして高速に処理を走らせることでこれに対処し、20マイクロ秒程度で問題なく作業を完了した。
「よし、インストール完了!どう和真。この世界の言葉は理解できる?」
作業を完了した私は、インストールが無事終了したかどうかを確認するためにさっそくこの世界の言葉で話しかけてみる。
「あれ、今何かしたの...か?分かる、分かるぞ!皆がなんて言ってるのかすらすら理解できる!」
和真はバッっとベンチから立ち上がると、次に近くの屋台の方に向かっていき、お店の人と二言三言話をすると再び戻ってきた。
「すごいぞこれ。内容が分かるだけじゃなく、言いたいこともしっかり伝えられる。これでやっと、俺も異世界生活を始められるんだな。」
しみじみと嬉し涙を流す和真。ここまで、いきなり言葉も通じない外国に来たようなものだったのだから、ようやく現地住人とコンタクトを取れたことを考えればその喜びも
「あはは。涙を流すほど嬉しかったんだね。・・・とりあえず、これで二人共会話が出来るようになった訳だし、ここがどんな場所なのか知るためにも情報を集めに行こっか。」
「ああ。きっとここまでがゲームのキャラメイキングみたいなものだったんだな。さようなら引きこもり生活。こんにちは異世界!」
こうして私達は、ちょっと興奮気味の和真と一緒に異世界での生活基盤を整えるべく、行動を開始したのだった。