超天才清楚系病弱美少女ハッカー風転生者がヤケクソになる話 作:VISP
C.E.71年8月初頭 ヤキンドゥーエ要塞周辺宙域にて
「勝ったな。」
こちらの誘い通りの場所に放たれたジェネシスの砲撃を見ながら、大西洋連邦宇宙軍総旗艦メネラオスの艦橋にて、ハルバートン提督は呟いた。
「は?」
「被害状況を確認せよ。調子に乗ったザフトがすぐに来るぞ。予定通りここからが本番だ。」
ハルバートンの言葉通り、コロニー質量弾とアルテミス要塞の破壊に成功したヤキン司令室では歓声が上がっていた。
「油断するな!未だ敵艦隊は健在だ!ここで攻め手を緩めず攻勢に転ずるのだ!ただし、消耗の激しい部隊は一度後退させ、補給と整備に回せ!」
第二次ヤキンドゥーエ攻防戦はジェネシスの砲撃を切っ掛けとして、第二ラウンドへと移行していく。
「陣形を整えよ!敵が来るぞ!アークエンジェル級3隻は予定通り露わになった敵戦略兵器の破壊のため、独自行動を許可する。各艦はこれを援護し、何としても敵戦略兵器を破壊せよ!」
『閣下、被害状況は想定内です。ダミー艦隊は消滅しましたが、牽引していたメビウス隊含め、逃げ遅れた者達はおりません。』
「よし、各艦隊に通達。本艦隊は予定通り敵戦略兵器の破壊作戦を実施する。各艦隊は援護されたし。」
ハルバートンの命令と共に、地球連合は素早く態勢を立て直し、ザフト側の攻勢へと備えるべく穴の空いた陣形を事前の想定通りに整えていく。
その直後、調子づいたザフト部隊がジェネシスによって空けられた陣形の穴目掛けて殺到してきた。
『よぉし、漸くの出番だ!各機暴れろ!食い放題だ!』
『しゃぁ!一番槍はオレだぁ!』
そこに真っ先に突入したのは学徒兵らの乗る対艦突撃部隊だった。
本来なら通常のMS部隊が露払いをしてから対艦攻撃を行うのだが、加速性能だけは高かった事から前衛のMS部隊を置いてきぼりにして独断先行してきたらしい。
確かに合同艦隊が混乱した状態で、対艦のみの一撃離脱に徹するのならば十分な戦果を見込めた事だろう。
彼らの敗因は、徹頭徹尾この世界の異分子にそっぽを向かれていた事だった。
艦隊陣形に空いた大穴、そこが既に殺し間である事に気付かずに、彼らは意気揚々と踏み入ってしまった。
『ははははは!ザマァないなナチュラr』
『な、敵がもう建て直してるぞ!』
『くそ、艦隊がやられたんじゃなかったのか!?』
陣形に空いた大穴。
確かにそこならば防衛ラインもなく、敵陣形の深くまで切り込む事も出来るだろう。
だが、それら全てが予定通りならば、ノコノコと突出してきた敵を誘い込むキルゾーンにする位は多少質の落ちたとは言え、地球連合宇宙軍にとっては十分可能な事だった。
そして、加速性能は高くともグーンやゾノを改修した対艦攻撃専用のMAモドキが通常のMSの様な回避機動を行える筈もなく、学徒兵らは命令無視の独断先行という愚行の代価を支払う事となった。
『後ろに付かれた!誰かたすk』
『くそ、くそ!当たれ!当たれよ!』
『敵の対空砲火が厚過ぎる!突破できない!』
『馬鹿が!ここで死ねぇ!』
『油断するなよ、エース級はここからでも食い破ってくる。』
『必ず複数機で弾幕を絶やすな!数はこっちが上なんだ!』
ヤキンドゥーエ要塞の背後にはプラントが、その正面には地球連合・火星連邦合同艦隊が展開している。
合同艦隊の右から火星連邦・ユーラシア連邦・大西洋連邦・東アジア連合の艦隊が展開し、ユーラシアと大西洋の間にあった偽艦隊及びアルテミス要塞、そしてコロニー質量弾頭はジェネシスによって消滅した。
これを好機と見たザフトMS部隊は敵の防衛線に空いた大穴に潜り込み艦隊の懐へ入り、これを撃滅しようとしたのだが即座に建て直した、否、最初からこうすると想定していたユーラシアと大西洋両艦隊からの十字砲火を受け、思うように接近できずにいた。
『よし、敵の動きは想定通りだ。大西洋とユーラシアは後退しつつ誘い込め。東アジアと火星連邦はそのままの位置を保つよう要請しろ。』
こうして出来上がった陣形は突撃してくるザフト部隊を迎撃する半包囲陣、所謂鶴翼の陣である。
遮二無二中央の穴(と思っている場所)へと突撃するザフトMS部隊だが、実態は両翼からのクロスファイアによるキルゾーンに誘い込まれたも同然だった。
数=火力に勝り、閉じる必要の無い鶴翼の陣。
驚きからの回避機動で勢いも鈍り、少勢で突破力の低いザフト側にこれをどうにかする力は無かった。
『議長、敵の建て直しが早過ぎます!奴らは最初から自分達の損害を度外視しているものかと!』
「えぇい、ジェネシスの次弾発射までの時間は!?」
『約4時間です!全安全工程を無視しても1時間は必要です!』
「何たる事だ!!」
ドン、とヤキン司令室に怒声と拳を叩き付ける音が響く。
逆転の一撃たるジェネシスによる敵要塞及びコロニーの破壊。
当初の目標は成功したものの予想よりも敵艦隊は動揺せず、寧ろこちらの突撃に合わせて半包囲陣形を組んで逆撃を加えてくるという始末にヤキン司令部の中に絶望感が漂い始める。
地球連合・火星連邦合同艦隊司令部では事前にジェネシスの存在及び効果範囲等が念入りに共有されており、今回の作戦内容もまた同様だ。
自派閥のみに知らせて味方に最後まで知らせていなかったパトリックとは異なり、情報共有と連携を上から下まで徹底した合同艦隊側の作戦勝ちだった。
「特別防衛隊からの連絡は来ていないのか!?」
『音信不通のままです…。』
「ぬぅぅ…ッ!」
パトリックの喉から唸り声が漏れ、脳裏を焦燥と怒りが焼いていく。
予備の切り札からの定期連絡が絶えて一日、辺境の宙域に配置されていた事もあって、偵察部隊を派遣しても確認まで時間が掛かっていたのだ。
実際は火星連邦の先行艦隊によりジェネシスαと防衛部隊が撃破されたのみならず、偵察部隊すらミラージュコロイドステルスによって隠密航行中だった先行艦隊と鉢合わせて殲滅されてしまったのが真相だったのだが、自派閥のみで独占していた戦略兵器の情報が完全に敵側にすっぱ抜かれている等、パトリックの想像の埒外だった。
勿論、特別防衛部隊は必死に通信を試みていたが、電子戦機とGN粒子による通信妨害とジャミングにより、彼らは何も伝える事も出来ずに壊滅していた。
『頃合いだな。各艦、ミラージュコロイドステルス解除!敵の脇腹を食い破るぞ!』
故に、これはザフト側にとって完全な不意打ちだった。
半包囲され、集中砲火を受ける前衛部隊の援護のために前進し始めて隊列が前後に伸びて薄くなった所。
既に至近と言える距離に、突如として火星連邦先行艦隊が姿を現した。
『MS部隊、暴れ回れ!敵を攪乱しろ!』
『撃て撃て撃て!手あたり次第だ!』
突如として艦隊側面に別動隊、それも練度の極めて高い部隊の出現にザフト側は慌てた。
「エース部隊を出せ!ヴェステンフルス隊を向かわせよ!」
『地球連合艦隊から新型艦3隻が前に出てきました!例の陽電子砲搭載艦です!』
「そちらにはクルーゼ隊を出せ!何としてもジェネシスを守り通すのだ!」
そして、迷いなく今まで温存していたエース部隊投入の決定を下す。
他のエース級の中でも群を抜いて優秀な彼らは他のエース級部隊と異なり、完全に切り札として温存されていたのだが、パトリックは生来の果断さからあっさりとここが勝負所だと決断した。
尤も、戦争をここまで泥沼化させた点で指導者としての才覚等無きが如しであったが。
「ジェネシスは全安全工程を無視して作業を行え!何としても目の前の艦隊を撃退せねば、我らに未来は無いぞ!」
ジェネシスさえ艦隊に、地球に直撃すれば、最終的に自身の目的は叶う。
復讐者たるパトリックは本気でそう考え、その狂気に自国を道連れにする事を躊躇わなかった。
だが、彼の狂気は既に成就するには余りに風向きが悪かった。
……………
C.E.71年8月初頭 ヤキンドゥーエ要塞内部にて
「随分と用意周到な事だな。」
「以前から火星連邦とは親しくさせて頂いているのですよ。」
密かに脱出したシーゲルと共に、ギルバートはヤキンドゥーエ要塞内部に侵入していた。
侵入とは言っても、随分と堂々としたもので、周囲には護衛というには大分無理のある陸戦隊が配置されており、その装備もまた物々しかった。
大西洋連邦製パワードスーツ「プロテクトギア」を纏った一個中隊規模の彼らは物々しい雰囲気を放ちながら、しかし殆ど物音を立てずに粛々と移動する。
正面装甲及び左腕増加装甲ならば一般的な歩兵の小銃弾にも耐え得る抗靭する防御力(それ以外の装甲部位なら拳銃弾まで)、本来なら弾薬手が必要な筈の分隊支援火器を単独で十全に運用可能なパワーアシスト機能、各種機能を備えた複合現実ヘッドセット付き先進ヘルメット。
MS登場以前から存在する旧式装備の一種だが、あのミョウジョウ博士の発明した一品という事で未だ歩兵装備として現場からの評価は高く、地上戦線においては対MSロケットを携行し、都市部で連携してMSを撃破した事例も多く存在する現役の代物だ。
とは言え、旧式装備だけあって多方面に販売されており、こうしてプラントでも少ないが採用されている。
「突入のタイミングは任せる。ジェネシスの発射阻止、或いは破壊直後かね?」
「おっしゃる通りです。議長の身柄の確保、それがスポンサーからの注文でして。」
「おまけにプラント内部の放送局も確保する用意は万全と。抜け目のない事だ。」
「お褒めに与り恐悦至極ですな。」
二人共、既に愛国心といったものはプラントには抱いていない。
片や一人娘の安全のため、片や愛する女性との結婚&子供のためとは言え、個人の欲のために国を切り捨てる決断を下した大悪党だった。
「…ラクスはもう行った頃合いか。」
「彼らはビジネスに誠実です。こちらが成果を出せば、我々はどうなろうと契約は履行してくれるでしょう。」
「だと良いがね。彼女の期待を裏切り続けた側としては今更過ぎるとは思うが…。」
「既に賽は投げられました。後は走り切るだけですよ。」
こうして、二人の大悪党に率いられ、黒い鎧の騎士達は悠々と要塞内を進んでいくのだった。
……………
火星連邦 上層部通信会議にて
『勝ちましたね。』
そこではいつもの火星連邦上層部がリアルタイムで第二次ヤキンドゥーエ攻防戦の戦況を見守っていた。
『こちらの作戦勝ち、ですか。』
『正直、第一射が地球だったら終わってましたな。』
『その辺り、どうだったのですかミョウジョウ博士?何か確信でも?』
『ふふふ、簡単な事ですよ。』
ころころと上品に微笑むミョウジョウ博士だが、この作戦の骨子を提案したのは彼女だった。
ジェネシスの存在看破及び性能の推定に始まり、各兵器群の開発及び各種資源やバタラ等の輸出。
極め付けは艦隊の派遣までしておきながら火星連邦の、ミョウジョウグループの財政は完全に健全な状態を保っていた。
流石にプラントに宣戦布告してからは戦時体制に入っていたが物価高は開戦時からずっと継続中だし、治安組織が目立つように活動している位しか一般市民には違いが分からない程度でしかない。
遠い地球圏に比べて、戦時に入ったと言うのに火星連邦圏は平和なままだった。
『どんな狂気を抱えた人間も、理性がある内は自らに降り掛かる火の粉は払うものです。ジェネシスの操作はヤキンドゥーエ要塞から行っていましたから、パトリック・ザラ議長にとってコロニー質量弾の放置は自身の死に繋がる。狂った独裁者ではありますが、ナチュラルへの報復を自らの手で完遂するまでは死ねないと思っていた様ですからね。そこまで割と簡単でしたよ。』
原作知識もそうだが、ミョウジョウ博士の持つ知性こそが最大の武器だった。
それが火星連邦を、ミョウジョウグループを支え、遂にはこの大戦争において地球そのものの生存すら成し遂げた。
今、戦乱に包まれている地球に比べ、火星で人々が平和に暮らしていけるのは、全てが全て彼女が発端だった。
『全く、貴方が味方である事を喜ばしく思ったのはこれで何度目でしょうか…。』
『いい加減卒業してくれても良いのですよ?』
『申し訳ありませんが、今暫くは相談役としていてくださると助かります。』
火星連邦はまだまだ生まれたてのヨチヨチ歩きの赤ちゃん国家なのだ。
急に手を引いてくれる母親にいなくなられては転倒必須だ。
『後は如何に被害を減らして詰みに持っていくか、ですか。』
『ここから先は地球連合の仕事です。ムルタ君達の手腕に期待ですね。』
火星連邦は平和で繁栄を享受していた。
それが億単位の人命を吸って成立している事を知りながら、戦争に明け暮れる者達にドン引きして。
何れ自分達にその火の粉が降りかかる事を恐れながら、それでも今はまだ平和だった。
〇グーン改
有り合わせの材料で作った宇宙用のグーン。
地上に輸送できずに倉庫の肥やしとなっていたグーンの再利用品であり、水中用装備を全て取り外し、代わりにミサイルやロケット、推進剤等を詰め込んである。
脚部はブースターユニットに換装し、背面には加速用ロケットブースターを追加している。
耐水圧構造特有の耐久性と大き目のサイズを活かし、多数のミサイルを内蔵する対艦攻撃機として完成した。
しかし、元々水中用であるために宇宙での機動性は低く、加速性能以外はメビウス並かそれ以下とされる。
また、余り物で作ったために性能や武装も完全に統一されておらず、徴兵された学徒兵パイロットが主に搭乗した事からその真価を発揮できずに撃破される事が多かった。
武装は水中用のライフルダーツ発射管とフォノンメーザー砲、魚雷発射管をミサイルランチャーに交換する事を基本とし、主にジンのD型装備の一部を機体各所に追加している。
〇ゾノ改
多くはグーン改と同じ。
しかし、より大型の機体のため、機動性は更に悪化している。
PDこそ無いもののグーン改よりも防御力は高い事から、グーン改に先行して艦隊攻撃を行う予定だった。
しかし、パイロットが未熟な学徒兵だった事から訓練通りに連携を組む事は少なく、多くが未帰還機となってしまった。
武装はフォノン・メーザー砲を撤去し、代わりに主に手の甲側に三連装ミサイルポッドやM66キャニス短距離誘導弾発射筒の携行式2連装小型ミサイル内蔵発射器を、背部に500mm無反動砲を複数束ねたもの等を無理に追加している。
〇ザウート改
主に対PD用に改装された支援用半可変MS。
主にザフト艦艇や拠点等にワイヤーやケーブル等で機体を固定し、砲台として運用する事が主眼となっている。
武装が単装レールガン×2、78mm重突撃機銃×2にまで削減されているが、頭部センサー系が強化された事で命中精度が向上している。
その性質上、友軍との連携が必須であり、学徒兵パイロットが乗っていても突出する事が出来ず、射撃精度も良好なので生存率はそれなりに高かった。
〇バクゥ改
有り合わせの材料で作った宇宙用かつ固定砲台となったバクゥ。
地上に輸送できずに倉庫の肥やしとなっていた機体の再利用品であり、地上用装備を全て取り外した上でウイングを切り詰め、スラスターを追加して宇宙での運用を可能としている。
艦艇や拠点等にワイヤーやケーブル等で機体を固定し、砲台として運用する事が主眼となっている。
センサー系の強化の他、リニアガンとミサイル、78mmガトリング砲の何れかを装備する事が可能であり、十分な射撃精度を持ちつつ逃げ足もそこそこ早かった事から学徒兵でも生存率は比較的高い部類だった。