シルヴィアはダイアゴン横丁より帰って来てから数日間に1回はトワイグフェレスト村に顔を出した。
「あぁ! もう馬鹿馬鹿! なんで、メザマシとかかけないで寝ちゃうの!?」
シルヴィアは頭を突っつく痛みで起きる。なんだかデジャブを感じた気がするが、記憶にない。本当にただのデジャブなのだろう。
「うぅ……オリビア? 今の時間は……?」
「イマはもう9時半よ! ホグワーツ特急がデルのは11時でしょう!? 15分でヨウイしなさい!」
オリビアはそう言うなりシルヴィアの頭を突っつく。
シルヴィアは痛い痛いと言いながら準備を進める。昨日のうちにトランクに大抵のものは詰め込んでいたのですぐに準備は終わった。
服はハーマイオニーがクリスマス・プレゼントで贈ってくれたワンピースだ。
「じゃあ、マズハ漏れ鍋にムカイましょう。」
そう言うなり、オリビアはシルヴィアの肩を結構な力で掴んできた。煙突飛行で迷わない為だろう。それにしては痛かった。
「ダイアゴン横丁!」
そう言うと先日ダイアゴン横丁に行った時と同じ気持ち悪さに襲われる。ぐるぐると自分が回転している。気分が悪くなってくる。そして……
「痛っ!」
シルヴィアはまた漏れ鍋の床に体を強打させた。一方オリビアは華麗に椅子の背もたれに着陸していた。
「さ、テンシュにキングス・クロス駅のイキカタを教えてもらいましょ」
「オリビアは分からないの?」
「ワカラナイワ。梟だもの」
シルヴィアはその言葉に落胆した。
オリビアはやたらと色んな事を知っている梟だ。知っててもおかしくはないと思ったが、そう言う訳ではなかったらしい。
「あの〜……キングス・クロス駅への行き方を教えて欲しいんですけど……」
シルヴィアは恐る恐る漏れ鍋の店主に話しかける。
「あぁ、お嬢さんは今日からホグワーツかい? 親御さんは?」
「えぇっと……その」
シルヴィアが親は死んでしまっている。と言う事実を言おうと口をモゴモゴしていると店主は何処か納得した様子になった。
「そうか、ご不幸があったんだね。なるほど……教えてしんぜよう。1番早いのはマグルの地下鉄を使って行く行き方だ。
ここはチャリング・クロス通りに位置するのだけど、店を出てすぐ左に進むんだ。そしたら、レスター・スクエアにあるコックフォスターズ駅に辿り着く。
そこからピカデリー線に乗り込み4駅乗る。そうすれば、キングス・クロス駅に着く。ピカデリー線はこの時間だと3分間隔で出ているそうだからもし乗り遅れても大丈夫だと思うよ。これで20分もせずにここからキングス・クロス駅に着く。」
店主はそう一通り語ってから行き方メモをカウンター下から取り出してシルヴィアに手渡した。
シルヴィアはあんまりな情報量に完全にパンクしていた。そこで隣のオリビアが「貴女、マグルのオカネ持っていないでしょ? それ言わなきゃダメでしょ?」と言った。
「あぁっと……店主さん。私は、その……マグルのお金を、持っていなくて……」
「おぉ! これは失礼。マグルの格好をしているからマグル出身の子かと思ったよ。そうだね……じゃあ、歩いて行く方法が無難だろう……」
そう言って、またカウンターの下からまた他のメモを取り出す。
「まずは店を出てからすぐに右に進むんだ。しばらくするとシャフツベリー・アベニュー通りに着く。何かしらの看板があったと思うから分かると思うよ。
その通りを道なりに進んで行く。暫くするとグレート・ラッセル・ストリートが出てくるから右折。目の前には〝大英博物館〟という大きな建物があるから分かりやすいと思うよ。
大英博物館の縁を歩き、モンタギュー・ストリートへ右折。暫く歩くとラッセル・スクウェアと言う公園が見えてくる。そこの中を対角線上に横切れば良い。
T字路まで進み、左折して北上する。すると大通りに出る。その大通りを右に曲がって、少し歩けばキングス・クロス駅だよ。大体40分でたどり着く筈だ。まぁ、スムーズに行けば間に合うと思う」
シルヴィアは、その細かい手順がびっしりと書かれたメモを受け取る。シルヴィアは意味が分からず若干涙目になった。現在時刻は10時。本当に間に合ってくれるのか心配だった。
「わ、わ……わわ、わか……わかり……分かりましたたた。あ、ああ、ありが……とう……ご、ござ、ございます……」
シルヴィアは震えながらもそれでもメモ用紙とトランクはしっかりと持って、店のドアを引き、開いた。
「お嬢さん、ホグワーツに行ってらっしゃい」
「は、はい! い、行って来ます?」
シルヴィアは表に出た途端、目が眩んだ。
田舎では見られないような建物達。知らない素材の床。
何よりも驚きなのは四角い何かが地面を滑るように移動しているのだ。しかも、その箱の中には人間が座っている。馬が引いていないと言うのに動いている。
「シルヴィア? シルヴィア? 大丈夫かしら?」
「わ、私が……い、田舎者だから……あの四角いのを……し、知らないんだよね?」
「……う〜ん、まぁ、ソウネ。さ、そのメモ通りにススミマショ」
「う、うん……そうだね……時間もアレだし……」
シルヴィアはメモ通りに左に進んだ。
「それにしても……大英博物館って何?」
「う〜ん、色んなクニやジダイの物をテンジする博物館よ。ウワサによれば盗品を紛れているらしいけど……ま、梟的にはシッタこっちゃ無いわ。それに、噂に過ぎないわ。ウソかも。」
「えぇ……」
シルヴィアは次にシャフツベリー・アベニュー通りを右に曲がった。
「ここから先は……道なりに進むのか……」
「シルヴィアって、ホントに歩くのがオソイわね……」
「しょうがないじゃん! あんまり歩いてこなかった人生なんだから!」
シルヴィアはそう言ってから、周囲の目を気にする。
しかし、周囲の人々は梟をトランクの上に乗せていると言う奇怪な少女を気にしている暇は無い。と言う様子で誰1人として、シルヴィアを気にしていなかった。
「みんな、忙しいのかな……」
「ニンゲンってそう言うものよ。いっつも何かしらイソガシそうにしている。ジッサイ、忙しいのかは知らないけど……」
「ふ〜ん。……こっちを左だよね。うん。だいえーはくぶつかん……中々出てこないな……」
「ちょっとバカ! 車に轢かれてシニタイわけ?」
オリビアはシルヴィアの耳を引っ張った。シルヴィアは驚いて尻餅をついた。
「い、痛いよ……何?」
「交通ルールを守りナサイ! あの光ってるのがミドリになるまでシャドウを渡ってはいけないのよ?」
オリビアが羽で指した場所には確かに光る何かがあった。
暫くすると緑色に光が変わる。シルヴィアはオリビアに言われた通りに、車道を渡る。光が緑に変わると、四角い箱(車)はピタリと静止した。
「私の知らない色んなルールがあるんだね」
「まぁ、ソウネ……」
シルヴィアがまた歩き始めると大通りが見えて来た。そこをシルヴィアは何の迷いなく右に曲がった。
「あ、オリビア! なんか、大きな建物が見えてきたよ! あれが、キングス・クロス駅かな?」
「た、多分……アレは……バッキンガム宮殿だと思うわ……」
「え? ……え?」
シルヴィアは困惑した。自分はキングス・クロス駅に向かっていた筈だ。しかし、バッキンガム宮殿? ナニソレ。と言う状態なのだ。
「えぇっと……その宮殿はキングス・クロス駅の隣にあったりするのかな?」
「いや、それなりにハナレテいるわ……大体、2.8マイル*1ぐらいは……徒歩で1時間ぐらいカカルワ……」
シルヴィアは驚愕した。丁度、隣を馬に乗った衛兵らしき人が通って行った。
「も、もしかしてだけど……は、早くしないと……き、汽車に間に合わない?」
「えぇ……ソウナルワ。……そうねぇ……あの、キンパツの女性に道順を聞きナサイ。」
「え、えぇ? う……うん、分かった。」
シルヴィアは物凄く嫌だったが、このままでは汽車に間に合わないので、どうにでもなれ! の精神でオリビアが指定した女性に道順を聞いた。
女性は懇切丁寧にシルヴィアに道順を教えてくれたが、シルヴィアはまたパンクしていた。
「そうね、大英博物館への道順が書かれた看板が途中途中にあるから、それに従って行けば良いと思うわ。それで、大英博物館前に着いたらもう一度聞けば多分駅にたどり着くとは思うわ。まぁ、私としては地下鉄で行くことを勧めるけど……」
女性はそうアドバイスをして立ち去った。
「えぇっと……この道を入ってから左折……だっけ?」
「違った気がするけど……進まないわけには話は始まらないわ」
「う、うん……」
シルヴィアは不安でしか無かったが、取り敢えず、道なりに進んだ。30分近く歩くと目の前には大きな時計塔。大きな川が見えた。
「えぇ!? も、もう……11時半じゃん!」
時計塔の針は11時39分を指していた。そうだ、先ほど鐘の音が聞こえて来ていた。この時計塔から聞こえて来たのだろう。
シルヴィアは焦りながらも、少し感心していた。
「あ、アレは……ビッグ・ベン……ね……オカシイわ……ビッグ・ベンとキングス・クロス通りってズイブンと離れたバショにある筈……なのに……」
オリビアは完全に困惑していた。
ここまで見て頂ければ分かる通り、シルヴィアは方向音痴。ついでにオリビアも地上では方向音痴をかましているのだ。
「ちょ、ちょっと戻ってみるべきかな?」
「そうね、もう一度バッキンガム宮殿の所まで戻りましょ。」
シルヴィアは戻る為に歩く。しかし、いつの間にか先ほど通った道とは違う道を通っていた。
「う〜ん、あれがバッキンガム宮殿? かな。なんか形……変わった?」
「アレは、ウェストミンスター寺院……ね。オカシイわ。貴女、方向音痴が過ぎない?」
「うぅ……だって、無理だよ。一本道しか無い村を行き来していたんだよ? 今まで。……そんな人間がこんな複雑な道を歩けると思う?」
シルヴィアは少し中を覗いた。
「お祈りした方がいいかな?」
「はぁ!? イマ!?」
オリビアは流石に驚いて声を上げた。
周辺の観光客や地元住民達に謎に喚き出す梟を連れた少女が居る。と言う認識を受け、好奇な目を寄せ付ける事になる。
ただ、シルヴィアは至って大真面目に礼拝をしようとしていたのだ。
「す、すみません?」
シルヴィアは恐る恐ると受付のスタッフに話しかける。スタッフはさっきまで真顔だったのに、笑顔になりシルヴィアを見た。
「はい? お嬢ちゃん、私的な祈りの為に来たのかしら?」
「そ、そうです……」
受付のスタッフは極めて明るくシルヴィアに接した。シルヴィアはその意気に若干やられていた。
「分かったわ。ただ、ペットの持ち込みは禁止なのよね……」
「え、あ〜っと……す、すみません! お手数かけました!」
シルヴィアは逃げるようにウェストミンスター寺院から離れて行く。ここでオリビアと別れたらもっと酷い事になる。とシルヴィアは知っていた。
ビッグ・ベンの麓にある橋、ウェストミンスター橋からシルヴィアはテムズ川の流れを見ていた。
オリビアは欄干に止まって、苦悶の表情を浮かべていた。ビッグ・ベンの時計の長針は既に12の数字を過ぎていた。
「……もう、何も分からないよ……。キングス・クロス駅は中々辿り着けないし、そもそも汽車はもうとうの昔に出発しちゃってるし……お腹も空いたし。ホグワーツ特急の車内販売のおばあちゃんが恋しいよ……」
シルヴィアはお腹を鳴らして完全に降参状態だった。
「ホントは私が、ホグワーツに手紙を出しに行くのが──「そ、そんな事したら! 私は、1人でロンドンを彷徨わなきゃ行けなくなるよ! 心細すぎる……」そうでしょう? ドウスレバいいのかしら……」
1人と1羽はため息を吐いた。
「君……は、ホグワーツ生。だよね?」
後ろから声を掛けられ、シルヴィアは驚き、橋から落ちかける。
幸い、声を掛けて来た人がシルヴィアの腕を引き、シルヴィアはテムズ川に落ちる事は無かった。
「え、えぇ……ええ……な、なんで……わ、分かった……んですか?」
シルヴィアは非常に動揺しながら後ろを振り向く。
後ろに立っていたのは継ぎ接ぎのかなりみずぼらしく、小汚いスーツに身を包んだ男だった。手にはかなり草臥れた小振りな鞄を提げていた。
一見マグルの格好をしていたが、ホグワーツの事を知っているのであれば、彼は魔法使いで間違い無いだろう。
彼は幸薄そうな笑顔を浮かべていた。随分と疲れ果てている様子で、シルヴィアは一見、この男が病気をしているのでは無いか。と疑った。また、顔には大きな古傷が残っていた。それがより一層、男の顔をやつれさせてように見えた。
それに加えて、かなり若いのに、ライトブラウンの髪は白髪混じりだった。(それを言い始めたらシルヴィアはよく言えばハイライトのように、悪く言えば束で白髪が生えている訳だが)
「あぁ、梟を連れている子供は大抵、ホグワーツの生徒さ。君は、見た感じ、ホグワーツ特急に乗り遅れた生徒かな?」
「うぅ……まさしくそうです。迷っちゃって……キングス・クロス駅に辿り着けなくて……。」
魔法使いの男は心底、気の毒そうな瞳でシルヴィアを見つめた。
「なるほど。取り敢えず、漏れ鍋まで送ろう。そうすれば、梟も借りれるだろうからね。君はその梟を随分と大切に思っているようだからね。あまり離れたく無いんだろ?」
「あ、あはは……まさにそうです。あ、ありがとう……ご、ございます……」
シルヴィアは苦笑いを浮かべた。
恐らく彼は先程のシルヴィアの他者にとっては独り言に過ぎないオリビアとの会話を聞いていたのだろう。
「待って!」
そう声を上げたのはオリビアだった。
オリビアはこの彼が梟の言葉を(恐らく)理解出来ないだろうに、わざわざシルヴィアの肩に飛び乗り(毎度シルヴィアは思っているのだが、結構痛い)、耳元で話し出す。
「このオトコからは何か獣のニオイがするわ」
「え? 臭いなんて全然しないけど……?」
「そう言うイミじゃなくて! ……私のヨソクにしか過ぎないのだけど……彼ってタブン、人狼だと思うの。」
シルヴィアにも人狼。と言う言葉には聞き覚えがあった。それは決して授業では無くて、自分の親が何処かのタイミングで語っていたのだ。
『人狼は毎月満月の夜に極度の苦痛を伴いながら狼の姿に変身する。その後は誰彼構わず、例え愛大切な人でも構わず襲ってしまう。』
『人狼に襲われた者は、人狼の唾液が血液に混入する。それを銀粉とハナハッカの混合物で治療されると、被害者は人狼に変わってしまう。治療しなければ出血多量で死ぬ。』
「ねぇ、キイテル?」
「え、あぁ……うん。聞いてるよ?」
目の前の男は随分と怪訝な表情で1人と1羽の奇怪な行動を見ていた。
「人狼ってものはね、どっかのクソピンクが反人狼法を起草したお陰でシュウショクが出来ないのよ。職を得れない。
職無しって言うのは、大抵はヤミに堕ちるしか無いワケ。もしかしたら、このオトコはとんでも無いヤミの魔法使いで──」
シルヴィアはここで思い出した。
そう言えば、人狼の症状を克服する為の薬を自分のお母様は作り出そうとしていた。と言う事実に。
あの薬には、シルヴィアの玩具の積み木よりも揺らいでいる記憶が正しければ、トリカブトを使った記憶がある。
この人狼だと言う目の前の人物にその事を教えれば、何か役に立ってくれるのでは無いか。シルヴィアはそう考えに至った。
「ねぇ、ホントに聞いてる? 今は、センガッキのクィレルが貴女を誘拐したトキ並みの生命の危機な──「トリカブトを……使って薬を作れば、貴方の症状はどうにかなるかも知れない。です。
けど、トリカブトは毒性が強い薬草だから……ちょっと、扱いには気を付けた方がいいかも……。作り方は……忘れちゃった。……です。」
目の前の男もオリビアも目を丸くさせて驚いていた。特に目の前の男は驚きと同時に落胆の様子も見えた。
「な、な……なにが……何がだい? そ、そのく……薬とは……?」
「え? 貴方は人狼なんでしょ? だから、言ってみた……だけ……。作り方が分からなくて……ごめんなさい。私……あ、あまり、記憶力がよく無くて……けど、折角知ってるなら……教えておいた方がいい……って思って……知識は人を救うためにあるのだし……」
シルヴィアは恐らくこの状況は、コミュニケーションを失敗させてしまった。と感じ、心の中で深い反省をした。
目の前の男は一瞬怖い顔を見せた。ただ、すぐに朗らかな笑顔に変わる。
「あ、あぁ! そうかい、そうかい。き、君は魔法薬学者の子供なのかい?」
男は何処か吹っ切れたような、動揺しているような様子を見せた。
「え? まぁ、多分……。あまり、親の事も覚えて……無いので……」
また、2人の間に無言が訪れる。シルヴィアは、自分のコミュニケーション能力の無さについて酷く反省をした。
「なるほど。だから、1人でロンドンを彷徨っていたんだね?」
「まぁ、そう……なります。」
「さぁ、漏れ鍋に行こう。君は疲れてるでしょ? バスで行こうか」
そう言い、歩み出す。
「ホントに着いて行くつもり? あのオトコ、人狼なのに?」
「別に大丈夫だよ。一見悪い人には見えないしさ。それに、なんで人狼だからってそんなに疑ってるの? 満月の日以外、ただの人間でしょ?」
「──君が……仮定の話だけど、梟と喋っていて……その梟が人狼であるわたしを疑っているなら……それはきっと梟の言っている事の方が正しいさ」
男は影のある低い声でそう言った。
「……今の魔法界じゃ人狼ってものは冷遇されている。わたしは安定した職業に就けないで、やっと職にあり付けたとしても満月前には辞職しなければならない。人狼だとバレてしまうからね。
職にあり付けたとして、その職が安全で安定しているものとは限らない。最近はマグルの社会の仕組みを覚えて、どうにかその日暮らしを続けて過ごしているんだ……」
シルヴィアはこの目の前の男が不憫に思えて来た。
「……ま、魔法界は何故、そこまで人狼と言うものを冷遇するのでしょうか? ……何かしらの属性を持っている人を否定し、冷遇し、差別したところで生まれるモノは不幸の連鎖でしか無いのに……」
「はは、君は理性的で、尚且つ慈悲深いよ。……みんな恐れているのさ。人狼は満月の夜になれば狼になり、人間のような理性を失い狂気に支配される。大切な人でさえ殺してしまう狂気を抱いているのだよ。
……わたしだって、自分の狼の部分がとても恐ろしく思えるよ。」
男は自嘲気味に言った。ここでバス停に辿り着く。バス停には〝ウェストミンスター駅、議会広場〟と書かれていた。
既に数人が雰囲気で列を成しており、シルヴィアと男は1番後ろの方に待機した。
シルヴィアにとってバスなんてダイアゴン横丁でグレンジャー夫妻からその言葉を聞いただけだった。
「あ……その、私、マグルのお金を持ってません……」
「いや、構わないよ。わたしが支払うから」
「えぇ? けど、貴方は貧困で……大変だって。あ、後で魔法界のお金で支払います。少し持ち合わせがあるので……」
「だから、いいんだ。」
そう言うと男は黙ってしまった。暫くするとバスがやって来た真っ赤で二階建てになっているバスだった。シルヴィアは思わず目を奪われてしまった。
「わたしに着いて来て」
少しすると2人の番が巡ってくる。2人は乗り込む。
車内は席がまだ空いていると言う程度の空き具合だった。シルヴィアとしても2階に登る気力が無かったので、1階に居座ることを決めた。
シルヴィアは完全に疲れっ来ていたので、4駅しか乗らないとは言え座席に腰を下ろした。男も隣に座った。
間も無く、バスは動き出す。シルヴィアはバスの窓に張り付いて車窓を見ていた。
車掌が精算の為に回って来た。
「大人1人に子供1人。ウェストミンスターからケンブリッジ・サーカスまで」
男は古ぼけた財布からマグルの紙幣を料金箱に放り込んだ。随分と慣れた様子だった。
そんな中、足元のシルヴィアのトランクにこっそり乗っているオリビアは疑いの目を男に向けていた。男は動物とは言え、そんな厳しい目で見られると無駄に緊張してしまった。
「次の停留所だ」
レスター・スクエア駅を過ぎ、すぐに男はそう言ってすぐ近くにあった天井から吊るされている紐を引っ張った。するとベルが鳴る。
それから少ししてバスは完全に停車し、シルヴィアは男に連れられて降車した。
「乗り心地良かったです。少なくとも付き添い姿眩ましだとかグリンゴッツのトロッコや煙突飛行よりはずっとマシでした。魔法界にバスを導入すればいいのに……」
シルヴィアは満面の笑みで言った。
あまり酔わなかったのだ。(シルヴィアが魔法界の
「あぁっと……確かに、バスはあるんだけど……アレはあまりにも運転手の運転が荒くてね……」
「……なんか、魔法界の移動方法ってこう、上手く行きませんね……」
シルヴィアは非常にガッカリした。その頃には数時間ぶりの漏れ鍋の入り口が見えた。
「ここだ。わたしとはここでさようならだ。わたしは……中に入っても特にやる事が無いからね……。君は店主に事情を説明できるね?」
「では、ここまで連れて来てくれたお礼に……何か奢りましょうか? 紅茶とか……」
「いや、申し訳ないから大丈夫だよ。ありがとうね。じゃあ、君が迷わずにホグワーツに辿り着けることを願っているよ。」
そう言って、シルヴィアが何か言う前に早歩きで立ち去ってしまった。すぐに男はマグルの群衆に紛れて行ってしまったのだ。
「お礼の手紙とか送りたかったのに……名前すら聞くの忘れた……」
「まぁ、そんなコトもあるわよ。……それに、私としては出来ればもうイッショーあのオトコとは再会したく無いわね」
「なんで……そんな事言うの? ……あの人のお陰で私達は漏れ鍋まで戻ってこれたんだよ?」
シルヴィアは若干、オリビアに苛立ちを覚えた。何かに対して苛立ちを覚える。と言う事自体シルヴィア的には初めてだった。
「……言ってるでしょ? 人狼は穢らわしいソンザイなのよ。シルヴィア、貴女は確かにジヒ深いわ。けれども、キットそのジヒ深さが仇となるトキだって来るのよ。」
「そ、そう……」
シルヴィアはオリビアとの会話を終了させる為に漏れ鍋の中に入って行った。
その後の経緯は実にシンプルだった。まず、シルヴィアが店主にキングス・クロス駅にあり付けなかったと語る。すると、店主は慌てた様子でホグワーツに手紙を送った。
あの梟がどれほど早く飛べるのか知らないが、恐らく自分の迎いは夕方まで来ないだろう。と思った。
シルヴィアはまず、今までの経緯を一応忘れないように日記帳に書き込んだ。
あまり覚えていても嬉しく無い記憶だが、過去の失敗はいつかの成功に繋がる。とハーマイオニーが読んでいた本に書かれていた気がするからだ。
書き終えてから、シルヴィアはお腹を満たす為に漏れ鍋でサンドウィッチを2個注文した。次に、何と無く甘い物を食べたかったので〝フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラー〟にてアイスを2段頼んだ。
そして、疲れ切ったシルヴィアが机に突っ伏して眠り始めた。
◇
見た夢はオリビアも居らず、ただ1人でロンドンを迷っていた。
あの親切な男性に出会う事無く、遂にキングス・クロス駅にも漏れ鍋にも辿り着けず、夕陽に照らされたテムズ川に身投げする。と言う悲劇的なものだった。
「ん……?」
シルヴィアが次、目覚めたのはベッドの上だった。
「漏れ鍋のテンシュが貴女をここまで運んで来てくれたのよ。」
「そ、そうなの? いつの間にか、寝ちゃってた……。ねぇ? 今の時間は?」
「22時ね。もういい加減、宴会も終わってるジカンね。何と無くだけそろそろホグワーツから誰かしらクルと思──」
部屋の扉を荒っぽく叩く音が聞こえた。シルヴィアはまだボーッとしている頭をなんとか覚ます。
「は、はい。開けます。開けます」
ドアを開けた先に居たのは怖い顔をしているスネイプだった。シルヴィアは苦笑するしか無かった。
「君は、ホグワーツ特急に乗ることすら満足に出来ないのか?」
「あぁ……えぇっと、ロンドンで迷っちゃって……」
「全く。店主から道を教えてもらったのだろう? それも、メモも受け取ったようで? ……その通りに行けばトロールでも辿り着く筈だ。」
あまりにも酷い言い方では無いか。そもそも、スネイプが前回と同じく
すぐに荷物持ち、オリビアを抱え込んで(肩に乗られるのは結構痛いので)スネイプの付き添い姿眩ましでホグワーツ城手前まで辿り着いた。辺りはすっかり暗く、城の中の光がボーッと見えた。
「あぁ……ホグワーツ。やっと辿り着けた……。」
シルヴィアは心底疲れた。しかし、休む時間は無くやたらと早いスネイプに置いてかれないように馬車道を突き進む。やがて、ホグワーツ城の荘厳な樫の扉が見えて来た。
スネイプは杖を扉に向ける。すぐに扉は開いた。城内はすっかり暗く、実に不気味だった。
「スリザリンの合言葉は〝野心〟だ。我輩はここで」
そう言ってスネイプは闇の中に溶け込んでどっかに行ってしまった。
「え……ここで、置いていくの……」
「まぁ、私はミエテいるし、なんならシルヴィア、杖があるじゃない」
オリビアはそう助言する。そこでシルヴィアは自分が魔法使いである事を思い出し、杖を取り出す。
「えぇっと……明るくする呪文は……」
シルヴィアは頭を抱えてどうにか思い出そうとする。オリビアはその最中「貴女、本当に呪文学の授業受けていたの?」っと言った。
「あ、思い出した! 〈ルーマス・ソレム 太陽の光よ〉」
そう言うと杖先から閃光にも似た光が放たれる。シルヴィアは目が眩んだ。すぐに杖から手を離す。すると光は収まった。ただ、杖は闇の中に溶けてしまった。
「お、おかしいな……もう少し柔らかい光が出る筈なんだけど……と言うか、杖落としちゃった!」
オリビアは喚いているシルヴィアの腕から離れ、地上に着地する。そして、すぐに杖を嘴に挟んでシルヴィアの肩に飛び上がった。
「あ……そうか、梟は夜に目が効くんだ……え、じゃあ、案内してよ」
「そんなことしたら、貴女はどっかに引っかかって転ぶでしょ? 光を出す魔法を思い出しなさいよ」
「う、うん……そうだね。思い出すよ……」
暫く(約30分)悩んだ末にシルヴィアは呪文をやっと思い出す。
「〈ルーモス 光よ〉!」
そう叫ぶと杖先から暖かな光が出て来た。そうして、スリザリン寮に向かって歩き出した。
◇
確かに、シルヴィアは迷わなかった。しかし、結局光があったとしても至る所に引っ掛かり転び数カ所痛々しい傷を作った。
「シルヴィア!? どうしちゃったの? 汽車でグレンジャーと一緒に乗ってるのかと思ったら、グレンジャーの方が貴女が居ないって言ってて仰天して居たのよ!」
シルヴィアが部屋に入るなり、パンジーはそうキーキー声で言った。他2人も本当に心配しているような様子だった。
「えぇっと……その〜……」
経緯を話すと3人とも苦笑を浮かべた。シルヴィアならばあり得る。と言う表情だった。
「貴女、図らずにロンドン観光をしたって言う訳ね。けど、魔法使いに会えて本当に良かったわね」
シルヴィアは敢えて、自分が助けてくれた男性が人狼である。とは言わなかった。
嫌味では無いが、シルヴィアはこの寮、スリザリンの寮生は偏見が強い。と言う印象を持っていた。折角、自分を助けてくれた人だ。悪い印象をみんなに与えたくなった。
「本当に良かったよ……けど、すごい疲れちゃった。今までの人生の中で一番歩いたんじゃないのかな……」
シルヴィアはそう言うなり、倒れ込むようにベッドにダイブした。その後、すぐに意識は失われた。
魔法使いの男:
継ぎ接ぎのかなりみずぼらしく、小汚いスーツに身を包んだ男。男の顔をやつれさせてように見える。かなり若いのに、ライトブラウンの髪は白髪混じり。とても親切な人でシルヴィアが迷っているホグワーツ生であると分かって、案内する為にシルヴィアに話しかける。マグル界でその日暮をして生きているらしい。
オリビア曰く、人狼である。
キングス・クロス駅への行き方:
漏れ鍋はチャリング・クロス通りにある。
そこからの行き方は投稿者がGoogle Mapに煽られながら調べた。結構大変だった。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。
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次回投稿はいつになるか不明ですが今週中には出したいと考えています。どうかよろしくお願いします。