寮を勢いよく飛び出したはいいもののシルヴィアは何処に行けばいいのか迷っていた。図書館に行くのはなんだか気分では無かったのだ。
ハーマイオニーには申し訳ないが、それでも気分では無いものは仕方がない。シルヴィアはそう開き直り、思うが儘に城内を彷徨い始めた。
とある空き教室では
またとある空き教室ではとんでも無い腐卵臭がした。(最もシルヴィアでさえ腐った卵の臭いは嗅いだ事が無かったが)彼らは小さな硝子玉を囲っており、こんな腐卵臭の中なのに盛り上がりを見せていた。きっとこれも何かしらのゲームのクラブなんだろう。
そのまたとある教室ではやたらと距離が近い男女が1組居た。鈍感なシルヴィアでさえ、見てはいけないもの。と判断がついてさっさとその場から離れていった。
いつの間にか人があまり居ない空き教室にまで来ていた。
それなりに低層階の筈なのに、澄み渡る群青色の空が見え、それが鏡のような湖畔に反射しているのも見えた。シルヴィアは少しの間、その景色に見惚れてた。
「来るんだ……。俺様のところへ……引き裂いてやる……八つ裂きにしてやる……殺してやる……」
シルヴィアは今まで聞いた声の中で2番目ぐらいに悍ましい声を聞き、飛び上がった。周囲を見渡しても誰も居なかった。
「な、何……?」
「君は気にしない方がいい」
そう後ろから男子生徒の声が聞こえた。
シルヴィアはすぐに後ろを振り向く。そこにはゴーストが1人、椅子に腰掛けて居た。
乳白色なので分かりにくいが確かに、黒髪だとは分かった。ただ、表情は硬いのかもしくは不機嫌なのかそんな雰囲気でいた。
そして、シルヴィアは彼を何処かで見た事がある。と感じた。
ゴーストは早死にしたのか、見た目年齢は7年生ぐらいに見える。随分とデザインは違うがホグワーツの制服に身を包んでいた。
ローブの裏地の色的にレイブンクロー生だったようだ。
「あ、貴方は……一体?」
「僕? 僕は……クリフォード・プリンスだ」
そう、若干不機嫌そうに気不味そうに言った。こんな人、何処か身近にいた気がするがあまりピンと来なかった。
「えぇっと……その、──「今聞こえた声だろう? あまり気にしない方がいい。それに、今聞こえた声についてあまり人に言い触らさない方がいいと思う」
クリフォードはそう言い切った。
「貴方も……聞こえるのですか?」
「……僕も昔から聞こえた。兄には聞こえないそうだったが、母も聞こえていたそうだ。」
「い、今の声は聞こえる人と聞こえない人が居るのですか?」
そうシルヴィアが聞くとクリフォードは少し悩んだ表情になってから決心したような表情に変わった。
「そうだ。聞こえる者と聞こえぬ者が居る。君も僕も聞こえる側だったんだ。これは運命的に定まっている事だった。」
「い、今のは一体、何の声……ですか?」
「……──蛇だ。」
シルヴィアはあまり驚かなかった。梟であるオリビアの言っている事が分かり、意思疎通を図れているシルヴィアだ。動物の言葉を理解出来る事ぐらいあり得るだろう、と言うスタンスでいた。
「君、あまり驚かないな……」
「だって私、梟と話せるんです。動物の声が理解出来る事はもう私にとっては日常になっているんです。」
「ふ、梟と話せる!?」
クリフォードは酷く驚いた表情になった。ただ、なんとか咀嚼し受け入れたようだった。
「……き、君が、梟と話せるのは……まぁ、この際……どうでもいい。けれども、蛇と話せる。その事を誰かに言ってはいけない。」
「な、なんですか……?」
「──もうすぐ、この学校にとって悍ましい事件が起こる。約50年前にも同じような事が起こった。今度はその時よりも酷い事になるかも知れない。
──確かに君は安全かも知れない。……それでも君、シルヴィア・ネクロタフィオ。気をつけて。」
シルヴィアは少し疑問に思った自分はまだ名乗って居ない筈だ。しかし、クリフォードは自分の名前をフルネームで知っていた。それに、ただの一介のゴーストの割に自分を気にしてくれている。
「どうして、私の事を気にかけてくれるのですか?」
「……た、ただの……こ、こんな辺境の空き教室に来て、会話をしてくれたお礼だ。」
クリフォードは今、思いついた言い訳を言い放つようにそう言った。
「あ、貴方はホグワーツの制服を着ていますけど……その〜、早死にしたのですか?」
「君は……まぁ、そうだね。大胆な事を聞いてくるね。
僕は確かに早死にだったが、一応50年は生きた。自分が学生時代の姿でゴーストになっているかは計りかねている。つい2年前までは……」
「理由が分かったのですか?」
クリフォードは(ゴーストなのに)唾を飲み込む仕草をした。
「確かに分かった。……僕自身未練なんて無い筈だった。それでも、死んでからここ450年以上、ゴーストとしてホグワーツ城に居た理由が明確に分かった。
──そう言えば、(クリフォードは理由を話す気は無いようで、話を逸らすように新たな話を始めた)君は……ヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア・ブラックに引き取られた、と聞いたよ。
あの2人が結婚するとはとても思えないけど……どうだい? 彼らは元気?」
「えぇっと……私は、あまり2人の事について知らないのです。それに、死んでしまったみたいで……。私……6歳以前の記憶が無くて……」
そう言うとクリフォードは一眼で見て分かるぐらいには複雑な表情になった。
「そ、そうかい……あぁ、そうだったのかい……そうか……」
「ご、ごめんなさい……」
シルヴィアがそう返すとクリフォードは彼なりに朗らかな笑みを見せた。
「いいんだ。君は悪く無い。悪いのは……──「そ、その……あの、ヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア……ブラック? について貴方は何か知っているのですか?」
シルヴィアが意を決して聞くと、クリフォードは随分と悩んだ表情を見せた。
5分くらいは悩んでいたであろう。シルヴィアは空き教室の中で、それなりに状態のいい椅子を取り出した。そして、その椅子を魔法で埃を払って座った。
「ヘンリーの方は僕の兄の血筋で最後の2人のうちの1人だった。僕の兄の血筋、プリンス家はもう女系でしか残っていなくて滅亡してしまったようだけど……。
それに、女系の最後の生き残りも僕と一緒で結婚しなさそうな面をしている。栄枯盛衰とはこの事か……。」
そう、クリフォードしみじみと語った。
「オフィーリアの方は魔法界の特性上、何処かで血筋が繋がっているかも知れないが……それより、彼女は魔法薬学について僕に執拗に質問してきた。正直鬱陶しかったよ……。
それに、全てを見抜いているような目をしてて気味が悪かったしね……」
クリフォードは悪態を付いたが、すぐに悲しげな表情になった。
「……けど、そうか……2人とも死んでしまったのか。」
「ふ、2人はどんな人だったんですか?」
「そうだね……僕はずっとこの空き教室に篭りっぱなしで詳しくは知らない。スリザリン寮の寮監が詳しく知っていると思うけれど……彼はもう辞めてしまったからな……。
君もきっとあの辞めてしまったスリザリン寮の寮監に気に入られると思う。いつか会える機会があればいいものだ。」
「2人は……スリザリン寮だったのですか?」
「いいや、オフィーリアの方はブラック家だったからスリザリン寮だった。けれども、ヘンリーはレイブンクローだった。レイブンクローの寮監の……えぇっと、あの小鬼の祖先が居る……えぇっと、フリットウィック? にも聞いてみる。と言うのも手かも知れないが……ちょっと辞めた方がいいかも知れない。」
クリフォードはそうシルヴィアに助言した。確かに、ダンブルドアもスネイプもあまり詳しく踏み込むな、と言っていた。自分はまだその時では無いのだろう。
「貴方の元にまた来てもいいですか?」
「えぇ? ……まぁ、どうぞ」
クリフォードはたじろいていた。
「ありがとうございます。……貴方、どっかで見た事がある気がするんです。こう、親近感がある。」
「そ、そうなのかい?」
「もしかしたら蛙チョコレートのおまけカードに見たのかもしれません。もう少し歳を取っていたと思うけど……」
「あぁ……確かに、僕はカードになっているらしいね。あまり本意では無いけど……。君、そろそろ帰った方がいいのではないかい? 大広間ではもうじき夕食の時間だろう?」
空き教室には正しく時を刻んでいる時計が、壁にかけてあった。
「そうですね。ありがとうございます。色々と」
シルヴィアは空き教室から出て行った。
結局、シルヴィアはハーマイオニーとの勉強会に行けなかった。それどころか、どう言う顔で大広間のスリザリンの長机に迎えばいいのか分からない。シルヴィアは結局、寮へ帰って行った。
◆
それから、シルヴィアとスリザリン生の多くは気不味い時を過ごす事になった。ダフネやミリセントですら挨拶ぐらいしか交わさなくなった。また、パンジーは時々軽蔑した視線を向けるようになっていた。
前、一緒に過ごしたヨランダ・ラスボーン-セルデンやバーバラ・ボーモントも余所余所しかった。
理由は、シルヴィアが『穢れた血』であるハーマイオニー・グレンジャーを庇った事。
それに、マルシベールとエイブリーが1人60点の大幅減点を食らったそうで、スリザリン寮は120点の史上最大の減点となったらしい。
シルヴィアは完全に一人ぼっちになっていたのだ。
ダフネ達とは関われず、他スリザリン寮生とは元よりパンジーがシルヴィアから離させていたらしい。
よって、シルヴィアに近付いて来るスリザリン寮生は誰も居なかった。
だからと言ってハーマイオニーと関わろうとしても、またマルシベールとエイブリーなどの過激派に攻撃されたり、何よりもハーマイオニーが攻撃されるのは恐ろしくて、怖くて関わりに行こうとは思えなかった。
……孤立とは怖いものではあった。
ただ、唯一の救いはクリフォードと言う親切なゴーストの存在だ。
シルヴィアはあのクリフォードの居る空き教室で籠って、宿題をしていた。クリフォードもまた、頭が良かった。また、魔法薬の話では随分と盛り上がる事が出来た。
ゴーストだったら攻撃される事も無い。それ以前に彼は450年前の人らしい。現代とはあまりに関係が無い。よって話している上で随分と気が軽かった。
クリフォードはあのオフィーリア・ブラックの性格がいいバージョンが居るような気分だ、と言った。(オフィーリアはお世辞にも性格がいい方では無かったらしい)
◆
「おぉ? これはこれは……運命とやらは面白い仕掛けをしますね」
そう言って現れたのはグリフィンドールの寮憑きゴースト、ほとんど首無しニックだった。
「どうしたのですか? ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿」
「今年もやってまいりましたよ! ハロウィーンという事は私の絶命日! 絶命日と言う事は、パーティー! 今年は記念すべき絶命から500年の節目なのですよ! 出席してくださいますよね、クリフォード・プリンス卿?
今年はあの生き残った男の子、ハリー・ポッターとそのご友人達も参加してくださるようです!」
ほとんど首無しニックは嬉しそうにそう語った。
シルヴィアはまず、絶命日パーティーがなんなのか分からなかった。ただ、少し……いや、結構楽しくなさそうだと思った。自分の絶命日にパーティーを開くセンスがシルヴィアには理解が出来なかった。
「それで、貴女様も参加して頂けませんでしょうか? シルヴィア・ネクロタフィオ嬢。
私は、貴女のご先祖様に当たるメロペーの子とも少しばかり親睦があったのでね。あの子の血筋と500年ぶりに出会えて光栄です」
ほとんど首無しニックはそう言うと深々と礼をした。その所為でほとんど首無しニックの首は取れそうになって、とてもグロテスクな見た目になった。
それにシルヴィアは「ヒィ!」と短い悲鳴を上げ、クリフォードはシルヴィアがそのグロテスクな様相を見ないように、ほとんど首無しニックの間に移動した。
しかし、残念ながらゴーストの体は半透明。完全に透けて見えていた。
「おっとこれは失礼……」
そう言って頭を押さえて元の位置に戻した。彼はどうやら斬首されたらしい。それもギリギリ首が落ちなかったようだ。
「そ……その〜……メロペーってメロペー・ネクロタフィオですよね?」
「如何にもそうですね。」
「えぇっと……メロペー・ネクロタフィオとアルバート・ネクロタフィオの間の子ってどんな人だったのですか?」
ほとんど首無しニックは少し考えるような表情をした。
「あぁ……アルテミ──「それ以上は言わない約束だろう?」
クリフォードが話を遮った。
「おぉっと、そうでした。そうでした。フィリスとの約束で言ったら呪う、とまで言われましたね。これは失敬失敬。……えぇっと、シルヴィア・ネクロタフィオ嬢? 絶命日パーティーに来てくださるでしょうか?」
「だ、大丈夫……ですよ」
「おぉ、これは嬉しい!」
ウッキウキでほとんど首無しニックは空き教室から立ち去って行った。
「……生者である君はあまり絶命日パーティーに期待をしない方がいいだろう。あそこで出される料理の大抵はただの飾りでしか無い。死者は食べ物を食べないからね。」
「そ、そうなんですか……私はあまり食べないんで……多分大丈夫ですよ……多分。」
シルヴィアはそう言ってみたはものの、楽しみが半分、嫌な予感が半分した。
ただ、孤立を極めているシルヴィアにとって何か予定が出来る事は喜ばしい事だ。
それに、どうせ大広間に執り行われるハロウィーン・パーティーにも自分は出ないだろう。だから、どうでも良かった。
「ところで……メロペーとアルバートと貴方は知り合いなのですか?」
そうシルヴィアが問うと、クリフォードは苦悩の表情を見せた。
「──メロペーもアルバートも母のいとこだ……僕は実際に2人に会った事は無いけれども……」
「じゃあ、メロペーとアルバートはいとこ婚だったのですか?」
「まぁ……その時代はあまり珍しくないよ。それに聞くところによれば、数十年前にいとこ婚した家族も居たそうだし……」
シルヴィアは少し悩んだ表情になった。
「じゃあ、私と貴方は遠い親戚って事……ですか?」
「500年も経って魔法界とか言う狭い社会だと誰とだって遠い親戚になるものだよ……」
そうクリフォードは言った。
「さ、もう夕食の時間だ。大広間に行くといい」
「あ、はい……」
クリフォードは若干、シルヴィアを追い出すようにそう言った。シルヴィアは不思議に思いつつ、教室から出て行った。
◆
絶命日パーティーの当日。19時になるとシルヴィアはパーティーが行われる、と言う地下牢へ向かった。
「あ、シルヴィア!」
ハーマイオニーはシルヴィアに思いっ切り手を振った。
「あ……あ、ハーマイオニー……」
シルヴィアは気不味かった。ハーマイオニーを守る為だとか大義を建てながら、シルヴィアはハーマイオニーの事をここ1ヶ月近く無視していたのだ。
「スリザリンの人に呪文を放たれたって聞いたけど大丈夫?」
「う、うん……」
「全く酷いものね。……けど、ありがとう。私の事を庇ってくれたのでしょう?」
いつの間にかそこまで話は広がっていたのだと。シルヴィアはホグワーツの噂の広がる速度に恐ろしさを覚えていた。
「君も、ニックの絶命日パーティーに誘われたの?」
ハリーがハーマイオニーの隣でそう聞いてきた。
「……うん。ちょっと前までは楽しみだったんだけど……ちょっと不安になって来た……」
地下牢へ続く道筋は、キャンドルが立ち並んでいる。
しかし、それは普通の炎では無くてひょろりと長い真っ黒な細蝋燭が真っ青な炎を挙げていた。
「全くその通りだよ……」
ハリーがそう言って身震いをしてローブを自分の身に引き寄せた。その途端、巨大な黒板を千本の生爪で引っ掻くような物凄く嫌な音が聞こえた。
「あれが音楽のつもり?」
ロンがそう囁いた。4人が角を曲がるとほとんど首無しニックがビロードの黒幕を垂らした戸口のところに立っているのが見えた。
「親愛なる友よ。(とても悲しげに挨拶をした)これは、これは……この度は、よくぞおいでくださいました……」
ほとんど首無しニックは羽飾りの帽子をさっと脱いで、4人を招き入れるようにお辞儀をした。
中は信じられない光景だった。
地下牢には何百という、真珠ように白く半透明なゴーストでいっぱいだった。その殆どが、混み合ったダンス・フロアをふわふわと漂い、不気味なワルツを踊っていた。
とても不気味な様子だった。
黒幕で飾られた壇上でオーケストラが、30本の鋸でワナワナ震える恐ろしい音楽を奏でている。頭上のシャンデリアは、更に千本の黒い蝋燭で群青色に輝いている
まるで冷凍庫に入り込んだようで、3人の吐く息が、鼻先に霧のように立ち上がった。
「見て……回ろうか?」
ハリーは動きたいらしく、そう提案した。皆、その提案に乗り会場内を歩き回った。
「誰かの体を通り抜けないように気をつけろよ」
ロンが心配そうに言った。
陰気な修道女の一団やボロ服に鎖を巻きつけた男も居たし、ハッフルパフに取り憑いている陽気なゴーストの太った修道士は、額に矢を突き刺した騎士と話をしていた。
スリザリンのゴーストで、全身銀色の血塗れ、げっそりとした顔で睨んでいる血みどろ男爵は他のゴーストを遠巻きに見ていた。
「あーっ、嫌だわ」
ハーマイオニーが突然立ち止まった。
「戻って、戻ってよ。嘆きのマートルとは話したくないの」
「誰だって?」
急いで後戻りしながらハリーが聞く。シルヴィアは名前だけ小耳に挟んだ事があるが、あまり詳しくは知らなかった。
「あの子、3階の女子トイレに取り憑いているの。あの子の所為で去年1年間、トイレが壊れっぱなしだったわ。あの子が癇癪を起こして、そこら中、水浸しにするんですもの。
私、壊れてなくたってあそこには行かなかったわ。だって、あの子が泣いたり喚いたりしているトイレに行くなんて、とてもじゃないけど、耐えられないわ」
同じような事を、ダフネ辺りが言っていたのを思い出した。
「そこの小娘!」
4人の後ろから声が掛かる。
後ろに居たのは血だらけの剣をこちらに向けた若い男だった。ほとんど首無しニックと同じ年代の人なのか、同じような服装に身を包んでいた。
「あぁ! なるほど、なるほど! 私がやり残した事とはこの事か!!」
そう叫びながら男は剣を振り回した。しかし、シルヴィアに刺さっても冷たい何かを感じるだけで傷を与える事すら出来ない。
「ちょっと、貴方! なんなのよ! いきなり、ゴーストとはいえ剣を振り回して!」ハーマイオニーは怒鳴る。
「黙れ小娘! 私はこの小娘を殺さなければ、私は死にきれん! この地獄のような現世に残り続けるのは、もう沢山だ!」
シルヴィアは意味が分からなかった。何故、この男に自分が殺されなければならないのかが理解出来ない。
「止せ、セバスチャン。お前は何をやっても無駄なのだ。……私と同じように」
そう言ってスーッと現れたのは血みどろ男爵よりも血みどろな男。恐らく『殺戮卿』のアルバート・ネクロタフィオだ。
「兄上……貴方は騙されたのですよ! あのメロペーとか言うバカな女に! あの女は子供を殺して居なかったんだ。この小娘はあの女そっくりだ! きっと、あの女の子供の家系は残っていたんだ!」
「何を言っておる。あのメロペーは確かに子供を殺した。あのメロペーは嘘を付けぬ女だからな。」
アルバートは完全に呆れた様子だったし、4人はすっかり意味が分からなかった。ただ、シルヴィアはこの状態でアルバートに自分の祖先について聞くのは危ないと判断した。
「じゃあ、この小娘はなんですか!? 他人の空似? それにしては似すぎている!」
「セバスチャン。君はネクロタフィオ家の家長になって以来ずっとそうだな。だから、息子にも愛想尽かされるんだ。さ、イーサン・ゴーント卿に挨拶しに行こう。
私達はこのパーティーを終えれば、悪夢のような幻想を見る存在に成り下がるのだから、今を楽しもうでは無いか。セバスチャンよ。」
アルバートはそう言うとセバスチャンと呼んだその人を連れて4人の前から立ち去って行ってしまった。
「な、なんだったの?」
ハリーがそう聞いてきた。明らかにシルヴィアに聞いている仕草だった。シルヴィアは随分と悩んでから「分からない」と一言答えた。
「見て、料理だ」
話を逸らす為か、ロンが地下牢の反対側の長テーブルを指さした。
4人は興味津々で近づいて行ったが、次の瞬間、ゾッとした。
吐き気を催すような臭いだ。洒落た銀の盤に置かれた魚は腐り果て、銀の丸盆には山盛りのケーキがあったが全て真っ黒焦げ。
スコットランドの肉料理、ハギスの巨大な塊には蛆が沸いていた。
厚切りチーズは毛が生えたように緑色のカビに覆われ、一段と高いところにある灰色の墓石の形をした巨大ケーキには、砂糖の代わりにコールタールのようなもので文字が書かれている。
「ねぇ、もう退散して大広間のハロウィーン・パーティーに参加しない? まだ、デザートぐらいなら残ってそうよ?」
ハーマイオニーが提案した。流石のシルヴィアでさえ賛同した。
「あぁ、君……来たのかい? そちらのは友人かい?」
そう言って4人の目の前にスーッと現れたのは今度はクリフォードだった。
「あ、うん。まぁ、もう退散しようと思ってるけど……」
「それが正しい。生者は生者のパーティーに出るのが1番だ。」
クリフォードからもそう言われたので、4人は地下牢から逃げるように退散した。
「今のは一体誰?」
「ホグワーツの辺境の空き教室にいる450年ぐらい前のホグワーツ生だよ。クリフォード・プリンスって言うの」
「えぇ!? クリフォード・プリンス? じゃあ、あの人凄い人よ。だって〝生ける屍の水薬〟を開発したのは彼だもの! 稀代の魔法薬学者って呼ばれた人だわ!」
ハーマイオニーが驚いてそう言った。
シルヴィアはそう言えば、そんな事が〝上級魔法薬〟の教科書に書かれていたのを思い出した。その頃には玄関ホールに出る階段の道に来ていた。
「引き裂いてやる……八つ裂きにしてやる……殺してやる……」
途端、そんな声が聞こえた。今度はどこから聞こえたか分かった。石の壁だ。シルヴィアはすぐに石の壁に張り付いた。
「ハリー、シルヴィア……一体何を?」
ハーマイオニーがそう聞いた。
「また、あの声なんだ……ちょっと黙ってて……」
ハリーはそう言った。シルヴィアも概ねその意見に同意をするように頷いた。
「腹が減ったぞー……こんなに長ーい間……」
「ほら、聞こえる! シルヴィアには聞こえるよね?」
「……うん」
そんな2人を見て、ハーマイオニーとロンはその場に凍りついたようになっていた。
「殺してやる……殺す時がやってきた……」
そして声は段々と幽かになって行った。
「移動している……?」
シルヴィアはそう小さく呟いた。ハリーは石の天井を見上げていた。表情は恐怖色に支配されていた。
「こっちだ!」
ハリーはそう叫ぶと階段を駆け上がって玄関ホールに出た。しかし、大広間から聞こえるぺちゃくちゃとお喋りの所為で耳を澄ますなんてとても出来なかった。シルヴィアとハリーは顔を見合わせて、そして大理石の階段を全力で駆け上がり、2階に辿り着いた。ロンもハーマイオニーもバタバタとその後に続いた。
「2人とも、一体僕らは何を……」
「「シーッ!」」
シルヴィアとハリーはもう一度、耳を澄ました。遠くの上の階から、ますます幽かになりながら、声が聞こえてきた。
「血の臭いがする……血の臭いがするぞ!」
シルヴィアもハリーも胃がひっくり返そうな恐怖を感じた。
「誰かを殺すつもり!?」
シルヴィアとハリーはまた顔を見合わせて、ロンとハーマイオニーの当惑した顔を無視して、3階への階段を駆け上がった。シルヴィアはここら辺で息が上がったが、それでも急いで移動した。
ハリーは3階を隈なく飛び回った。シルヴィアは走りすぎて内臓が痛くて歩速が随分と遅くなっていたが、それなりに頑張って走り回っていた。
「ハリー、シルヴィア! 一体、これはどう言う事だい!? 僕には何も聞こえなかった!」
ロンが汗を拭いながら2人に問う。しかし、ハーマイオニーは何かを見つけたようだ。そして、息を呑んで廊下の隅を指差した。
「見て!」
向こう側の壁に何かが光っていた。4人は暗がりに目を凝らしながら、そーっと近づいた。窓と窓の間の壁に、高さ30cmほどの文字が塗りつけられ、松明に照らされてチラチラと光を放っていた。
壁に真っ赤な字が書かれていた。それはまるで誰かが指で書いたようなそうな字だった。
クリフォード・プリンス:
約450年前のレイブンクロー生のゴースト。7年生ぐらいに見える。
蛇の声が聞こえることについて周囲に言わない方が良い。と忠告される。
ローズブレイド夫妻を知っている。
絶命日パーティーには来ない方が良いと勧める。
第4話に名前だけ登場し、その際はギルバート・プリンスとなっていました。しかし、投稿者がアルバートとギルバートで混乱してしまったので、彼の名前を変更しました。申し訳ないです。
ほとんど首無しニック:
本名はニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿。クリフォードとシルヴィアを絶命日パーティーに誘う。
アルバートとメロペーの子と親睦があった。
シルヴィアに聞かれたので、アルバートとメロペーの子の話しをしようとしたが、クリフォードに止められる。ニック曰く、「フィリスとの約束で言ったら呪う、とまで言われた」
ヘンリー・ローズブレイド:
クリフォードの兄の家系、プリンス家の女系の最後の2人のうちの1人だった。レイブンクロー生だった。
オフィーリア・ローズブレイド:
旧姓ブラック。スリザリン寮生で、お世辞にも性格が良い方では無かった。
クリフォードに魔法薬学について執拗に質問しており、クリフォードから鬱陶しがられている。
また、全てを見通す目をしていたらしい。
セバスチャン・ネクロタフィオ:
ゴーストなのにそれを忘れて、シルヴィアを殺そうとした。
アルバート・ネクロタフィオ:
殺戮卿。セバスチャンを宥めている。
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