シルヴィアは秘密の部屋が何を意味しているのかがよく分からなかった。そして、継承者の敵が誰を指すのかもさっぱりだった。
「なんだろう──下に吊り下がっているのは?」
ロンの声は微かに震えていた。
ジリジリと近寄りながら、ハリーは危うく滑りそうになった。ハーマイオニーとロンが受け止めようとしたが、残念ながらシルヴィアは転んで水溜りに突っ込んでしまった。
ハリーは文字に少しずつ近づきながら、4人は文字の下の黒い影に目を凝らした。一瞬にしてそれがなんなのか4人とも分かった。シルヴィアはハーマイオニーとロンの助けで立ち上がり、皆がその場から後退りした。
ホグワーツの管理人の飼い猫、ミセス・ノリスだ。松明に吊り下がっていた。板のように硬直し、目はカッと見開いたままだった。シルヴィアはどこかでこの現象を見た事があった気がしたが、上手く思い出せなかった。
しばらくの間、4人は動かなかった。動けなかった。ロンがやっと口を開いた。
「ここを離れよう」
「た、助けるべきじゃないのかな?」
ハリーが戸惑いながら言う。
「僕の言う通りにして。ここに居るところを見られない方がいい」
ロンがそう言ったはいいものの、既に遅かった。ハロウィーン・パーティーが終わったらしい。
4人が立っている廊下の両側から階段を登ってくる何百という足音が聞こえてくる。皆、パーティーを楽しんだようで各々に感想を言い合っている声も同時に聞こえてくる。次の瞬間、生徒達が廊下にワッと現れた。
前の方に居た生徒がぶら下がった猫を見つけた途端、音が突然消えた。沈黙が生徒たちの群れに広がり、悍ましい光景を前の方で見ようと押し合った。その傍で、シルヴィア、ハリー、ロン、ハーマイオニーは廊下の真ん中にポツンと取り残された。
静けさを破って誰かが叫んだ。
「継承者の敵よ、気をつけろ! 次はお前達の番だぞ! 『穢れた血』め!」
ドラコ・マルフォイだった。群衆を押し除けて最前列に進み出したマルフォイは、冷たい目に生気をみなぎらせ、ぶら下がったままピクリとも動かない猫を見て、ニヤッと嫌な笑みを浮かべていた。
「なんだ、なんだ? 何事だ?」
騒ぎを聞きつけてやって来たのは1番、この場に来てほしくなかった人物。アーガス・フィルチだった。フィルチは自身の飼い猫であるミセス・ノリスを見た途端、恐怖のあまりで手を顔で覆い、たじたじと後退りした。
「私の猫だ! 私の猫だ! ミセス・ノリスに何が起こったというのだ!」
フィルチが金切声を上げた。フィルチのお世話に今のところ殆どなった事の無いシルヴィアでも知っていた。フィルチはミセス・ノリスを大層可愛がり大切にしている事を。
そして、フィルチの飛び出した、血走った目が、シルヴィアを見た。
「お前だな! お前だ! あの『墓場の君主』の! 人殺しの一族のお前が! お前が私の猫を殺したんだ! あの子を殺したのはお前だ! 俺がお前を殺してやる!」
フィルチは今にでもシルヴィアに飛びかかろうとして居た。シルヴィアは涙目になって首を横に振り、否定した。
「アーガス!」
フィルチの動きは止まる。ダンブルドアが他の数人の先生を従えて現場に到着したのだ。
そして、素早く4人の脇を通り抜けてダンブルドアは、ミセス・ノリスを松明の腕木から外した。そして、壁の文字を少しの間見つめた。
「アーガス、一緒に来なさい。ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、ミス・ネクロタフィオ、ミス・グレンジャー。君達もおいで」
ダンブルドアがそう呼びかけた。すると、何を思ったのかロックハートがいそいそと進み出る。
「校長先生、私の部屋がすぐ上にあります。どうぞご自由に……」
「ありがとうギルデロイ」
群衆が無言のままパッと左右に割れて、一行を通した。ロックハートは得意げに興奮した面持ちで、先導した。シルヴィアには何故、彼がこんなにイキイキとしているのかが理解出来なかった。
シルヴィア達、4人の後ろにはマクゴナガルとスネイプが続き、シルヴィアを今にでも殴りかかろうとしているフィルチもそれに続いた。
灯りの消えたロックハートの部屋に入ると、何やら壁面があたふたと動いた。シルヴィアが目をやると、写真の中のロックハートが何人か、髪にカーラーを巻いたまま隠れた。なんて騒がしい部屋なのだろう。とシルヴィアはまず初めに思った。
本物のロックハートは机の上に蝋燭を灯して、後ろに下がった。ダンブルドアはミセス・ノリスを磨き立てられた机の上に置き、調べ始めた。
4人は顔を見合わせた後、灯りの届かないところでぐったりと椅子に座り込み、じっと見つめていた。
ダンブルドアはその長い指でそっと突っついたり刺激を与えながら、ミセス・ノリスを診ていた。ロックハートは皆の周りを意味も無くウロウロとして居た。
「猫を殺したのは呪いに違いありません。多分、『異形変身拷問』の呪いでしょ──「アーガス、猫は死んでおらんよ」
ロックハートの頓珍漢な話を遮るようにダンブルドアは告げた。
「死んでない? ……それじゃ、どうしてこんなに、固まって……冷たくなって?」
フィルチは顔を覆っていた指の間からミセス・ノリスを覗き見ていた。
「石になっただけじゃ」
ロックハートは後ろで「やっぱり! 私もそう思いました!」と言っていたが、誰にも相手にされていなかった。
「但し、どうしてそうなったのか、わしには答えられん……」
「あいつに聞いてくれ! 殺戮のネクロタフィオに!」
そう言ってフィルチはシルヴィアへ指を指した。
「先生! 聞いてください。シルヴィアは私達と一緒にほとんど首無しニックの500回目の絶命日パーティーに行ってたのです! ほとんど首無しニックが証人になってくれる筈です! 他にも何百人とゴーストが居ました! シルヴィアにはアリバイがあります!」
ハーマイオニーがそう言った。シルヴィアは自分が弁解しようしたら恐らく、口下手で結局は疑われてしまう。と言うオチは見えていたので、ハーマイオニーが先にそう言ってくれて助かった。
「じゃあ、こいつがやったんだ!」
フィルチはそう言ってハリーを指差した。
「こいつがやったんだ! こいつは私が……私が、私が……スクイブだと知っている!」
「僕ではありません! 僕はスクイブの意味も知らないのですから!」
ハリーはそう反論した。シルヴィアもスクイブの意味は知らなかったが、フィルチの口ぶりを見る感じ、あまりいい意味では無いのだろう。
「では、何故3階に居たのかね?」
スネイプは標的をハリーに定めてイキイキと追及を始めた。いつもの事だ。
「ぼ、僕たちは疲れたのですぐにベッドに向かいたかったんです」
「夕食も食べずにか? あのパーティーに生きた人間に相応しい料理など出るとは到底思えんが……まさか、空腹のままベッドに入ろうとしたのかね?」
「そ、それは……その、僕達は空腹では無かったんです」
ハリーはすっかり狼狽えた。その様子を見て、スネイプは口元を歪ませて嗤った。
「ほぉ? 校長、ポッターは真っ正直に話しているとは到底思えませんな。全てを正直を話してくれる気になるまで、彼の権利を1部取り上げるのがよろしいかと存じます。
我輩としては、彼が告白するまでグリフィンドールのクィディッチ・チームから外すのが適当かと思いますが……」
スネイプの言っている事はあまりにも不条理で、支離滅裂だった。何故、やってもない事を罰されなければならないのだろうか?
「そうお思いで──「やってもいない罪を裁こうだなんて、神にでもなられたおつもりですか? たかが人間ガ? 貴様ハどれだけ傲慢ナノカ?」
シルヴィアはマクゴナガルの言葉を遮ってそう言った。シルヴィアの中で何かがふつふつと沸き上がって来ていたのだ。偽りの罪を被せようとする愚か者への復讐心。怒りと憎悪の心。
『……人間ハ愚カダ。醜イ存在ダ。自ラノ独善的ナ感情デ、息ォスルヨウニ他者ニ罪ォ擦リツケル。愛シイ我ガ娘ヨ。我ニ身ォ委ネルノダ。……ソンナ穢レタ人間達ォ全テ呪イノ炎デ、復讐ノ炎デ焼キ尽クシテ終エ!』
シルヴィアは誰かの声を聞いた。蛇では無い、時々聞こえてくる誰かの声だ。
「ちが、違う……それでは、あの人達とお……同じ……」
「シルヴィア! しっかりするのじゃ!」
ダンブルドアがシルヴィアの肩を掴み、揺すった。シルヴィアは目を見開き、そこでやっと現状を把握した。
ロックハートの部屋はあちらこちらに黒い炎が上がっており燃えていた。写真や肖像画がいくつか焼け焦げて、ロックハートが慌てて消そうと炎に本を振り翳していた。
スネイプにも炎が飛んだのか、ローブと毛先が一部燃えた跡があった。スネイプはただ驚いていた。
マクゴナガルが杖を振って消火していたが、ハーマイオニー、ハリー、ロンは身を寄せ合って完全に怯えきった目でシルヴィアを見ていた。
「ち、ちが……わ、わた……あ、あぁ……」
シルヴィアは絞り出すように声を出した。否定しようにも現実は否定出来ない。
「や、やっぱり、やっぱりお前がやったんだ! こ、こんな事が出来るなんて! ば、化け物!」
「アーガス! お主は一旦黙るのじゃ。……ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャー。お主達は寮へ戻るのじゃ。……出来れば、この事は誰にも言って欲しくない。この現象は唯の不幸な事故じゃからの。」
3人は何も言わずにコクリと頷き、足早にロックハートの部屋から出て行った。
「さ、ミス・ネクロタフィオ。行こう。」
ダンブルドアはシルヴィアの腕を掴み、部屋から出ようとした。
「こ、校長先生! 私の……私の猫はどうなるのですか!?」
「スプラウト先生が、最近やっとマンドレイクを手に入られてな。十分に成長したら、すぐにスネイプ先生がミセス・ノリスを蘇生させる薬を作る事が出来るじゃろう」
そう、ダンブルドアが手短に言い切るとシルヴィアを連れて部屋を出て行った。
◇
シルヴィアはずっとダンブルドアに連れられて歩いていた。やっと立ち止まったと思えば、目の前には醜い大きな石のガーゴイル像があった。
「レモン・キャンデー」
ダンブルドアがそう言うと、合言葉だったのだろう。ガーゴイル像が突然、生きた本物になった。そして、ピョンと跳んで脇により、その背後にあった壁が左右に揺れた。
一体、どうなるのだろう。と恐れていると、壁の裏から螺旋階段が出て来た。その螺旋階段は滑らかに勝手に上の方へ動いていた。
「さ、気を付けて乗るのじゃ」
そう言われて、シルヴィアはダンブルドアと共に階段に乗った。2人の背後で壁はドシンと閉じた。螺旋階段はクルクルと動き、2人は上層階へ運ばれて行った。
上に着くと、前方に輝くような樫の扉を見た。扉にはグリフィンを象ったノック用の金具が付いている。
ダンブルドアはその樫の扉を押し開け、中に入る。そこは広く美しい円形の部屋で、おかしな小さな物音で満ち溢れていた。ダンブルドアは部屋に入って扉を閉めてからやっと、シルヴィアの腕から手を離した。
「少し痛かったじゃろうか?」
「い、いいえ……だ、大丈夫です……」
「それは良かった」
ダンブルドアはいつも笑みを浮かべているご老人だ。しかし、今の表情は明らかに作った笑みだった。どこか思い詰めているような表情であった。
そうシルヴィアが考えている最中、ダンブルドアはどこからか椅子を取り出し、机の前に置いた。ダンブルドアは机の向こう側の背もたれの高い椅子に腰掛けた。
「シルヴィア、そこに座るのじゃ」
「は、はい……」
シルヴィアはダンブルドアと対面になるように座った。今まであまり、しっかりとそのブルーの瞳を見てこなかった。そのブルーの瞳は全てを見通すような瞳をしていた。シルヴィアは少々、その瞳が怖いと思ったが、逸らせなかった。
「紅茶と水、どっちが飲みたいかの?」
「み、水で……」
そう言うと何処かからコップが飛んできて、水も注がれた。そして、シルヴィアの前に出された。
シルヴィアはその水を飲んだ。それと同時ぐらいに、ダンブルドアの隣にあった止まり木に留まっている美しい赤と金色の鳥が起きた。きっと、ダンブルドアのペットの鳥なのだろう。
「おぉ、フォークス。起きたのかの?」
ダンブルドアがそう取りに話しかけると鳥は羽を伸ばした。そして、止まり木から飛び出し、シルヴィアの膝の上に着地した。
「どうやら、シルヴィア。フォークスはお主の事が気に入ったようじゃ。頭を優しく撫でてやっておくれ」
シルヴィアはダンブルドアに言われた通りに鳥の頭を撫でた。オリビアとは違った暖かさを感じた。
「こ、この子は……一体?」
「不死鳥じゃ。見事な赤と金色の羽を持ち、驚くほどの重い荷を運び、涙には癒しの力がある。そして、ペットとして忠実な事この上ない」
ダンブルドアはそうフォークスのことを讃えた。シルヴィアには少しばかりフォークスが誇らしげにしていると見えた。
「あの……さっきのは……い、一体?」
「……先ほども言ったように、ロックハート先生の教室で起こった事は完全な事故じゃ。お主は悪くない。きっと今頃、ミネルバが原状回復させているじゃろう。何も恐る事は無い。」
ダンブルドアはそう言うがシルヴィアにとって自分が恐怖の対象だった。
あの9月1日にロンドンで迷った際に出会った人狼の魔法使いが言っていた
『……みんな恐れているのさ。人狼は満月の夜になれば狼になり、人間のような理性を失い狂気に支配される。大切な人でさえ殺してしまう狂気を抱いているのだよ。……私だって、自分の狼の部分がとても恐ろしく思えるよ。』
と言う言葉がやたらと身に沁みた。
「わ、私は……化け物なのでしょうか?」
「違う。お主はただの今を生きる人間であり、勉強中の魔法使いじゃ。」
ダンブルドアは即座に否定した。その言葉に救われたような見放されたような複雑な感情を抱いた。もしかしたら、自分が化け物と認めて欲しかったような。そんな感情すら心の何処かにあった。
「お主の魔力は強大じゃ。それをコントロールする為にはそれ相応の時間が必要になってくる。お主はまだ魔法の勉強を始めて2年じゃ。そんな事故が起きたってしょうがないものじゃよ。
それに、自分の身に留めて身を壊すより、発散した方がよっぽど良いものじゃ。」
そう言ってダンブルドアは朗らかに笑った。ただ、その笑みにはどこか影があるようにも見えた。ただ、シルヴィアは今は自分の事で一杯一杯だった。
「けど……みんなは……他の人達はこんな風になっていません。みんなは……コントロール出来ているのに……わ、私だけ……」
「シルヴィアよ。あまり、自分と他者を比べるのは良くない。皆が皆、特別なのじゃ。お主だってその特別の一例に過ぎん。」
「そ、そうですか……」
シルヴィアはコップの水を一口飲み込んだ。
「そ、その……ダンブルドア校長。」
「何かね?」
ダンブルドアは優しい態度だった。シルヴィアにとってそれが何よりの救いだった。
「その……私……多分、『秘密の部屋』の継承者だと勘違いされると思うんです。けど、私は、本当にやっていないんです。
……口だけじゃ信用されないのは分かります。けれどもやっていないものはやっていないんです……。」
「勿論、わしはお主の言っている事を信頼し、尊重する。しかし、それでもお主を疑う者が居るのであるのならば、そしてもし、在らぬ疑いをかけられて嫌になったとしたら、お主は逃げ出してしまってもよいのじゃよ。
そして、我慢せずに助けを求めて良い。ホグワーツでは助けを求める者には必ずそれが与えられる。分かったかね?」
ダンブルドアのその言葉はシルヴィアに勇気を与えてくれるものだった。
「分かりました……」
シルヴィアはまたフォークスを優しく撫でた。なんだか、フォークスを撫でていれば心が落ち着いたのだ。もしかしたら傷付いた心を癒してくれる能力を持っているのかも知れない。
「そ、その……あともう1つ……い、いいですか?」
「良い良い、何かの?」
ダンブルドアは朗らかな笑みを浮かべている。シルヴィアは悩んでいた。ずっと聞こえてくる何者かの声について言おうか言うまいか悩んでいた。ただ、この際、言ってしまった方が楽になるのかも知れない。
「私……ずっと、誰かの声が聞こえてくるのです」
「なるほど……」
「そ、その声の主は、た、多分……人間を……世界を……憎んでいるんだと思うんです。そ、それで……その声はわ、私に……こ、殺しを……させてこようと……してるんだと……お、思います……」
最後の方は絞り出すような声だった。しかし、ダンブルドアはしっかりと耳に入れて考えていた。
「わ、私は……やはり化け物なのでしょうか?」
シルヴィアの灰色の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。それをローブの裾で拭った。
「お主は化け物なのでは無い。お主が何度問おうがわしはそう答えよう。ただ……お主は実に複雑な経緯を持つ存在じゃ。
その声についてはわしも今ここで何かを判断する。と言う事は出来ん。少し考えさせてもらっても良いかね?」
「あ、はい……ご、ごめんなさい……」
少しの沈黙が訪れた。シルヴィアはフォークスの羽を優しく撫でた。フォークスは嬉しそうに鳴き声を上げた。
「一応、聞くが……お主はいつからその声が聞こえるのかの?」
「……正確な日付は分かりません。けど……去年、ホグワーツ入学してから何度か聞こえたと……記憶しています。」
「なるほど……」
そう言ってダンブルドアは静かに自分の長く蓄えた白い髭を撫でた。
「もしかすると……じゃが、お主の中には何か他の何者の存在が居るのかも知れん。わしは実を言うとお主と6年前に会っている。お主は覚えていないじゃろう。
その時から、お主に対して少しばかりの違和感を感じていた。もしかしたら、その違和感とはお主に宿っている声の主なのかも知れん……」
「そ、その……声の主は、私から離したり……こう取り除けないのでしょうか?」
シルヴィアの問いにダンブルドアはすっかりと悩んでしまった。
「……仮定の話にしか過ぎないのじゃが……。その声の主がお主を生かす存在……お主、シルヴィアをシルヴィアたらしめる存在なのかも知れん」
シルヴィアはすっかり落胆してしまった。シルヴィアはこの『謎の声』という名の殺人衝動を心の中に秘めて今後も生きていかなければならない。と言う事だったからだ。
「ふむ……もうこんな時間じゃ。お主も眠いじゃろう? わしも少しばかり調べてみたい事が増えた。何か進捗があればお主を呼び出してもよいかの?」
「はい……。ありがとうございます。」
シルヴィアはあまり眠く無かった。自分と言うものがただただ恐ろしかった。自分が眠り、次目覚めた自分は本当に自分なのだろうか? 自分が眠っている間に、もしさっき起きたような事が起きてしまったら、どうすれば良いのだろうか?
今度こそ、誰かを傷付け、殺してしまうかも知れない……。殺しは赦されない罪……。シルヴィアは自分が怖くて怖くて仕方なかった。
「そうじゃ、今夜は寝る前にこれをお飲み。夢見る事なく眠れるじゃろう」
そう言って水薬が入った小瓶を渡してきた。シルヴィアは素直に受け取った。
「それでは、シルヴィア。おやすみ」
「は、はい……おやすみなさい……」
シルヴィアは恐る恐る言うと扉を開き、校長室から出て行った。
◆
その次の日からシルヴィアはホグワーツ史上最悪な日々を送るようになった。
まず、スリザリン寮生。特に過激な純血思想を持っている生徒から不愉快な持ち上げられ方をした。
「スリザリンの継承者のネクロタフィオ様! 次は穢れた血を追放してしまいましょうよ!」
そう誰かが言った。その『追放』と言う言葉は『殺す』と同義だと言う事をシルヴィアは気が付いていた。
シルヴィアは詳しく知る訳も無かったが、『秘密の部屋』についての話はホグワーツ創立の時にまで遡る。
ホグワーツ創立者の1人、サラザール・スリザリン。彼はホグワーツは選別された生徒のみが入学すべきと主張した。つまりは魔法族の家系のみが魔法教育を受けるべき。と主張したのだ。それが元祖、純血主義だった。
彼は、他の3人の創立者と意見の齟齬から仲違いし、特にゴドリック・グリフィンドールとは激しく言い争い、スリザリンは学校を去ったそうだ。
伝説によれば、ホグワーツを立ち去ったスリザリンは学校に『秘密の部屋』を作った。そして、この学校に真の継承者が現れるまで、何人もその部屋を開けられぬように封印した。
そして、その相応しい継承者が『秘密の部屋』の封印を解き放ち、その中に眠る恐怖を用いてこの学校から魔法を学ぶのに相応しからざる者を追放すると言う話だそうだ。
誰かが知ってたのだろう。スリザリン生徒は他寮生徒よりもいち早く情報を得た。そして、シルヴィアを継承者として持ち上げ、マグル生まれを排除させようと躍起になっているのだ。
シルヴィアとして本当に、本当に迷惑だった。
そんな噂が出てしまえば、他寮生徒の大抵はシルヴィアを恐れた。マグル生まれの生徒なんか、シルヴィアの姿を見るなり目をひっくり返して、一目散に逆方向へ走り出した。
ついでにロックハートもシルヴィアから1番遠い場所に立って授業をするようになった。シルヴィアは自然と、1番後ろの目立たないところに座るようになった。
純血主義に対抗する生徒はシルヴィアが現れれば、杖をローブから取り出して魔法をいつでも放てる準備をしていた。
それに、シルヴィアはマグル生まれのグレンジャーと仲良くしていたが、それは殺す為に目を付けていたのだ。と言う噂まで流れ、グリフィンドールの中で『グレンジャーを守ろうの会』が勝手に結成された。
ハーマイオニーは確かに嫌がっていたが、何も言えなかった。ハリーもロンも同じだった。
3人はシルヴィアが黒い炎を自分の周囲から放ったその瞬間を見てしまっている。シルヴィアの恐ろしい一面を見てしまっているのだ。3人はその事を決して誰にも言わなかったが、シルヴィアを恐れていた。
シルヴィアの心はすっかり疲弊していった。
自寮には、自分を持ち上げる純血主義者。他寮には自分を継承者と罵る正義を見誤った者達。どうにかそれら全てを避けながら、シルヴィアは日々を過ごした。
アーガス・フィルチ:
ホグワーツの管理人。飼い猫のミセス・ノリスを石化され、シルヴィアをまず疑った。
次にハリーも疑ったが、黒い炎で部屋を燃やしたシルヴィアを見てシルヴィアがやったものだと決めつけた。
シルヴィアを化け物呼ばわりした。
スネイプ:
自寮の生徒には甘いが、シルヴィアにはそこまでなのでシルヴィアが犯人扱いされている中、庇わなかった。
ハリーに標的が移った途端、イキイキと追及を始めたが、謎にキレて魔力を暴走させたシルヴィアに燃やされる。
この人、2年連続で燃やされるな……
ダンブルドア:
ミセス・ノリスは死んでおらず、石化しているだけだと断定した。
暴走状態のシルヴィアを抑えた。シルヴィアと二者面談をした。シルヴィアは化け物では無い。
シルヴィアが聞こえてくる声について把握した。ダンブルドアも何かは分からない。
実は6年前にシルヴィアと会っている。
ロックハート:
イキイキとダンブルドア達を部屋に案内した。
シルヴィアに部屋を燃やされた。魔法ではなく物理で火を消そうとしている。魔法を使え魔法を。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。
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