呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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第21話 孤独な化け物

 クィディッチの季節が来て数週間もすれば、シルヴィアが継承者と言う噂は一段落した。

 シルヴィアは知る余地も無いのだが、グリフィンドールの1年生が深夜に石にされたらしい。ただ、その夜シルヴィアは寝室から出て居ない。とダフネ達が証言してくれたおかげで、一旦は落ち着いたのだ。

 

 噂が落ち着いたタイミングでダフネはシルヴィアに近付いてきて、今までの変わらな日常を何食わぬ顔で再開した。

 彼女なりに上手く生きているつもりだろう。しかしながら、シルヴィアとしては、裏切られた。と言う気持ちが若干、先行していた。

「『決闘クラブ』が始まるそうよ」

 そして、ダフネはシルヴィアに一緒に決闘クラブを見に行こう。と誘った。

 

 『決闘クラブ』が行われると言う大広間に入ると、食事用の長テーブルは取り払われ、金色の舞台が出現していた。何千もの蝋燭が上を漂い、舞台を照らしている。

「一体、誰が教えると思う? やっぱり、フリットウィックかしら? あの人、若い時に決闘チャンピオンになったそうだし……」

「じゃあ……そうなんじゃない……」

 シルヴィアはあまり決闘クラブ自体に興味が無かったので、そう短く答えた。

 既に舞台の周囲には生徒達が集っていた。

 

「静粛に!」

 そう言いながら登壇したのは、ギルデロイ・ロックハートだった。ダフネは呻き声を上げた。

「みなさん、集まって。さあ、集まって。みなさん、私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構!」

 ロックハートは嬉しそうにそう呼びかけた。ダフネは「あいつかよ」と呟いて、嫌そうな顔で舞台に近付いた。シルヴィアもそれに着いて行く。

「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しを頂きました。私自身が数え切れない程経験して来た様に、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、皆さんをしっかりと鍛え上げる為です──詳しくは、私の著書を読んでください」

「ちゃっかり、自分の本の宣伝までして」

 ダフネはそう吐き捨てるように言った。そこまで言うなら帰ればいいのに、とシルヴィアは思った。

 

「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう!」

 ロックハートは満面の笑みを振りまいた。

 

「スネイプ先生が仰るには、決闘について極僅かご存知らしい。訓練を始めるにあたり、短い模擬演技をするのに、勇敢にも、手伝ってくださると言うご了承を頂きました。

と言うご了承を頂きました。

 さてさて、お若いみなさんにご心配をおかけしたくはありません──私が彼と手合わせしても皆さんの魔法薬学の先生はちゃんと存在します。ご心配なさるな!」

 スネイプは静かに怒りの雰囲気を漂わせており、ロックハートはよく笑顔でいられるな。とシルヴィアを含む多くの生徒が思った。

 

 ロックハートとスネイプは向き合って一礼した。ロックハートの方は腕を振り上げ、くねくね回しながら体の前に持って来て大袈裟な礼をした。

 スネイプは不機嫌そうに頭を浅く下げただけだった。それから2人とも杖を前に突き出して構えた。

 

「ご覧の様に、私達は作法に従って杖を構えています。」

 ロックハートはシーンとした観衆にそう説明した。

「3つ数えて、最初の呪文をかけます。勿論! どちらも相手を殺すつもりはありません」

 ロックハートはそう言うが、スネイプの方は完全に殺意を剥き出しにしていた。この決闘の模擬演技が終わる頃には、ロックハートは息をして居ないだろう、とシルヴィアは勝手に思った。

 

「1──2──3──」

 

 2人とも杖を肩より高く振り上げた。それと同時にスネイプが叫んだ。

「〈エクスペリアームズ 武器よ去れ〉!」

 目が眩むぐらい眩しい紅の閃光が、ロックハート向かって走る。すると次の瞬間ロックハートはその閃光に当たり舞台から吹き飛んで、後ろ向きに宙に浮かび、壁に激突し、壁傳にズルズルと滑り落ちて、床に無様に大の字になる。

 

 女子生徒が悲鳴を上げ、「先生大丈夫かしら?」「スネイプやりすぎよ」と言っているのが聞こえた。ダフネは「ナイス! 流石は我らスリザリンの寮監!」と歓喜の声を他のスリザリン、男子生徒共に上げていた。

 

「さぁ、皆分かったでしょうね!」

 フラフラと立ち上がりカールした髪が逆立ったロックハートはそう言う。よろめきながらも壇上に戻って行った。

「あれが、『武装解除の術』です──ご覧の通り、私は杖を失ったわけです──あぁ、ミス・ブラウンありがとう。

 スネイプ教授。確かに、生徒にあの術を見せようとしたのは、素晴らしいお考えです。

 ……しかし、遠慮無く一言申し上げれば、教授が何をなさろうとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。(何故か半笑いだった)それを止めようと思えば、最も簡単でしょう。しかし、生徒に見せた方が、教育的に良いと思いましてね……」

 スネイプは殺気をロックハートに向けていた。ロックハートも流石に気がついたようだ。

 

「模範演技はこれで十分!これから皆さんの所に下りて行って、2人ずつ組にします」

 シルヴィアとダフネは向き合った。すぐ近くにドラコが居て、ドラコはノットとペアになっていた。しかし、30秒後にはスネイプの裁量により、ドラコはハリーと組む事になった。

 

「相手と向き合って!そして礼!」

 ロックハートが声を張り上げて言った。

「杖を構えて!」

「私が3つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい──武器を取り上げるだけですよ?皆さんがここで事故を起こすのは嫌ですからね。責任を負うのは私になりますからね?さて……1──2──3──」

 シルヴィアは杖を肩の上に上げ、3の時に「〈エクスペリアームズ 武器よ去れ〉!」と叫んだ。すると忽ち、ダフネの杖はシルヴィアの手元に吹き飛んできた。

 

「あぁ……うん。せ、成功……か……な?」

 シルヴィアはそう呟いて、すぐにダフネに返した。近くのドラコ、ハリーペアは武器を奪う呪文では無い呪文を放ちあっていた。

 また、ミリセントとそのペアのハーマイオニー(何故その2人が?)は、ミリセントがハーマイオニーに体術を仕掛けていた。魔法を使え、とシルヴィアは強く思った。

 他のペアも大抵がカオスな事になっており、大広間には緑がかった謎の煙が漂っていた。

「やめなさい! ストップ!」

 ロックハートがそう叫んだが、スネイプが乗り出した。

「〈フィニート・インカンターテム 呪文よ終われ〉!」

 スネイプがそう叫ぶと隣で踊っていたハリーの足は止まり、ドラコは笑うのをやめた。

 ネビル・ロングボトムと誰だか知らないハッフルパフ生男子はハーハー言いながら床に横たわっていた。

 ロンは蒼白な顔をしたグリフィンドール生男子に何かを謝っていた。

 ミリセントはまだハーマイオニーに体術を仕掛けており、ハリーが飛び込んでミリセントを引き離した。ただ、ミリセントがあまりも大柄だった為、一筋縄ではいかなかった。シルヴィアも近くだったので、一応手伝って2人を引き離した。

 

「なんと、なんと……」

 ロックハートは生徒の群れを素早く動きながら、決闘の結末を見て回った。

「マクミラン、立ち上がって……。そう、気をつけてゆっくり……。ミス・フォーセット。しっかり押さえていなさい。鼻血はすぐに止まるから。ブート……むしろ、非友好的な術の防ぎ方をお教えする方がいいようですね」

 ロックハートはそう言った。ダフネは「たまにはまともな事を言うじゃ無い。もう遅いけど」と毒を吐いた。

 

「さて、誰か進んでモデルになる組みはありますかね?」

 ロックハートがそう呼びかけたが、先程の騒動もあってかどこの組みも手を挙げなかった。

「マルフォイとポッターはどうかね?」

 スネイプはそう口元を歪めて言った。いつもの事だ。

「それは名案!」

 ロックハートはハリーとドラコに大広間の真ん中に来るように手招きをした。他の生徒達は下がって、2人の為に空間を開けた。2人は間も無く、大広間の真ん中に辿り着く。

 そして、ハリーにはロックハートがドラコにはスネイプが何かしらの声かけをした。

 

 

「1──2──3──それ!」

 ロックハートの号令と共にドラコは素早く杖を振り上げた。

「〈サーペンソーティア ヘビ出よ〉!」

 ドラコの杖先から、長く黒い蛇が飛び出した。そして、蛇は2人の間の床にドスンと落ちた。

ニョロニョロ〜っと……お、俺っちは……なんでここに?

 シルヴィアには確かに蛇の声が聞こえた。前、聞いた蛇の声よりはずっと軽く明るい声だった。

ヒッ! なんか大きな生き物が沢山居る! なんてこったい神様! 俺っち、パニックになっちまうぜ!

 そう蛇が言うと鎌首をもたげて攻撃の態勢を取った。周りの生徒は悲鳴を上げ、サーッと後退りして、そこだけが広く空いた。

 

「動くな、ポッター」

 スネイプは悠々と言った。ハリーは身動きも出来ないようで、当惑しパニックになっている蛇と目を合わせて立ちすくんでいた。スネイプはそんな光景を楽しみながら見ていた。

「我輩が追い払ってやろう……」

「私にお任せあれ!」

 ロックハートが叫んだ。そして、蛇に向かって杖を振り回すと、バーンと大きな音がして、蛇は消えるどころか2、3メートル宙を飛んだ。

俺っちが何をやったんだって言うんだ! ここは地獄かい?

 そう蛇は叫び、ビシャンと大きな音を立ててまた床に落ちてきた。

 蛇はロックハートの行動を挑発と受け止め「腹立ってきたぞ。俺っちの牙でグサリとやっちまうんだからな!」と言いながら、ハッフルパフの男子生徒目掛けて滑り寄り再び鎌首をもたげ、牙を剥き出して攻撃の構えを取った。

 

 シルヴィアはシルヴィア史上最速に体が動いた。

 

ダメ! その人に攻撃しちゃダメ!

 シルヴィアは蛇に駆け寄り、そう言った。蛇はシルヴィアの方を見上げ、大人しくトグロを巻いた。

分かったっすよ……

私の元に来て、安全な場所に連れて行ってあげるから……

 そう言ってシルヴィアは、屈み込んで蛇に手を差し出した。蛇がシルヴィアの手の上に乗るか否かのタイミングで蛇はポッと黒い煙を上げて消え去った。

 シルヴィアが急いで見上げるとスネイプが杖を構えていた。きっとスネイプが蛇を消したんだろう。スネイプは鋭く探るような目つきでこちらを見ていた。

 また、近くのロックハートは目を見開いて気絶する一歩手前のような顔をしていた。

 

「一体、何を悪ふざけしているんだ?」

 ハッフルパフの男子生徒はそう叫んで、背を向けて起こって大広間から出て行ってしまった。

 周りからはヒソヒソと、何やら不吉な話をしているのにシルヴィアはぼんやりと気付いていた。その時、シルヴィアの袖を引く存在が居た。それはダフネだった。

「いいから黙って来なさい」

 ダフネはそう言うとシルヴィアを大広間の外へ連れ出した。大広間を抜ける時、病気が感染るのが怖いとでも言うかのように、2人が進むたびに群衆達は両側にサッと引いた。

 シルヴィアには何がなんだか分からない。ダフネも何も説明してくれなかった。人気の無いスリザリン寮に入り、談話室を抜け、寝室に入った。そして、シルヴィアをベッドの縁に座らせた。

「シルヴィア、貴女……パーセルマウスだって、どうして教えてくれなかったのよ?」

 ダフネは初めて口を開いた。ダフネは落ち着かない様子で寝室をウロウロしている。

「パー……えぇっと、何それ?」

蛇語使い(パーセルマウス)よ! 貴女は蛇と会話する事が出来る! なかなか居ないのよ魔法界には。蛇と話せる人だなんて。

 それにさっきの貴方はあのハッフルパフのフィンチ-フレッチリーに蛇をけしかけているように見えたわ。貴女がそう言う事するタイプの人間じゃ無い事は分かっているけど……」

 シルヴィアはここで思い出した事がある。クリフォード・プリンスと初めて出会った時、彼は確かに蛇と話せる事は誰にも言ってはいけない。と言ったのだ。

 

「け、けど……私の知り合いに話せる人……居るよ?」

「はぁ? 誰よ、その人」

「クリフォード・プリンスって言う……ホグワーツ城の人気の無い場所に居るゴースト……450年前の人らしいけど……」

 ダフネは少し悩む素振りを見せた。

「あぁ、確か、『生ける屍の水薬』を作った人よね……まぁ、今はどうでもいいわ。ゴーストだし、450年前の人だもの。」

「その……あんまり居ないの? 蛇と喋れる人は……」

「えぇ、そうよ。それに……はぁ、貴女って状況を……悪化させる能力に長けているタイプ?」

 ダフネはそう言ってすっかり手詰まりだ、と言う態度を示した。

「貴方の今日の行動で、貴女がスリザリンの継承者の説はより強く補強される事になった。あぁ、折角、落ち着いたのに……」

「そ、それは……ど、どう言う事?」

「あのサラザール・スリザリンはパーセルマウスだったのよ。……きっと今日中には学校中が貴女の事をスリザリンの子孫。そして、継承者だって噂が立つわ。えぇ、そうに決まっているわ!」

 ダフネはそう言うとまた寝室をウロウロと廻り始める。

「貴女はネクロタフィオとかいう滅んでいる一族。かつ殺戮に塗れた一族の名前を名乗っている時点で、随分と話がこんがらかっているのに! これで、パーセルマウスって言う事が知れ渡れば、忽ち、数週間前に後戻り。それどころかもっと酷くなる可能性だってあるわ。

 スリザリンの純血主義者は暴走して、他寮の生徒は貴女を恐れ、間違った正義を振りかざして貴女を攻撃する可能性だってあるのよ!」

 ダフネはそう嘆き、叫ぶように言った。ダフネはシルヴィア以上にシルヴィアの事を気にかけてくれているようではあった。数週間前、無視していたが……。

 

 結局、シルヴィアはダフネの話を一通り聞いてからベッドに横になり、狸寝入りをした。実際、一睡も寝れやしなかったが……。もうスリザリン生徒とも顔を合わせたくなかったし、寮の外に出て下手に攻撃されるのも嫌だった。

 

 

 ……ただ、シルヴィアはずっと引っかかっていた。自分がスリザリンの末裔であるか否かだ。

 シルヴィアは自分の親を知らない。前、やっとクリフォードから自分を引き取り育てた。と言うローズブレイド夫妻について少しばかり話を聞いただけだ。

 

「そう言えば……」

 クリフォードは蛇語が分かる。と言っていた。ならば、彼も話せるのだろうか? 彼はスリザリンの末裔なのだろうか?

「ちょっと、話を聞いてみても……いいかも……」

 

 シルヴィアはそうみんなが寝静まった寝室で呟いた。

 

 

 翌朝、昨夜から振り続けて居た雪が大吹雪となり、学校中は身を裂くような寒気に襲われていた。

 シルヴィアはなるべく自分の気配を消す事に努めようとした。しかし、寝室を出るな否やスリザリン内の純血主義者がシルヴィアに駆け寄って来た。

 

「ネクロタフィオ様! クリービーの次は誰をやりますか? グレンジャー? フィンチ-フレッチリー?」

「私は……違う! 継承者じゃ無い!」

 シルヴィアはそう叫んでから闇の魔術に対する防衛術が行われる教室へ駆けて行った。

 

 道中も散々だった、シルヴィアを見るなりスリザリン以外の生徒達は憎悪の目を向けていた。また、ハッフルパフ生の集団はシルヴィアを見るなり、シルヴィアを睨みながらコソコソと話し始めていた。十中八九、皆自分を疑っているのだろう。

 闇の魔術に対する防衛術が行われる教室へ着くなり、ロックハートは「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げた。もう、それは随分と前からの事だったので、どうでも良かった。

 その後、ロックハートの実にならない授業を聞いてから変身術、呪文学。そして最後に魔法史の授業を受けた。遂に、シルヴィアが待ちに待った放課後が訪れた。

 シルヴィアは教科書が入った鞄を提げたまま、クリフォードが居る空き教室へ急いだ。

 

「あ、痛っ……」

 シルヴィアは何かに足を取られ、転んでしまった。こんなに寒いのだから廊下が凍っていたのだろうか? そう思って振り返ってみると、あのハッフルパフの生徒のフィンチ-フレッチリーが転がっていた。

 冷たく、ガチガチに硬直していて、恐怖の跡が顔に凍り付き、虚な目は天井を凝視している。その隣にもう一つ、シルヴィアが今までに見たことのない摩訶不思議なものだった。

 それは確かにほとんど首無しニックだった。しかし、彼は透明な真珠色では無くて、黒く煤けて、床から15cmほど上に、じっと動かず浮いていた。首は半分落ちて、フィンチ-フレッチリーと同じように恐怖が貼り付いていた。

「う、うそ……」

 シルヴィアは生まれたての子鹿のように足を震わせながら立ち上がった。しかし、息はすっかり上がって、肺が痛かった。心臓は今までに感じた事ないぐらい早鐘を打っており、はち切れるような痛みを感じた。

「ど、どうすれば……」

 シルヴィアはなんとか、この現象の原因を探ろうと。自分の記憶の中に残っている何かを思い出そうと必死になった。しかし、考えるのにも頭が回らなかった。

 パニックになって突っ立っていると、すぐそばの戸がバーンと音を立てて開いた。そして、ポルターガイストのピーブズがシューっと飛び出して来た。シルヴィアはあまり絡まれた事がないが、ピーブズが厄介な存在である事ぐらいはしっかりと知っていた。

 

「おやまあ、これはこれはスリザリンの継承者のネクロタフィオちゃんじゃないか! チビのネクロタフィオ! バカのネクロタフィオ! 殺人鬼のネクロタフィオ!」

 ピーブズそう囃し立てた。シルヴィアは嫌な予感をひしひしと感じていた。そして、その予感は見事的中し、ピーブズはそれを見つけてしまった。フィンチ-フレッチリーとほとんど首無しニックを見つけてしまったのだ。シルヴィアはこの状況は好転する事が無い。それ以上に悪化するのだろう。と悟った。

 ピーブズは空中を半回転して宙返りした。そして、肺一杯に息を吸い込むと、シルヴィアの止める間も無く、大声で叫んだ。

襲われた! 襲われた! またまた襲われた! 生きてても死んでても、みんな危ないぞ! 命かながら逃げろ! おーそーわーれーたー!

 そう言うとすぐに廊下の彼方から駆け足の音が聞こえた。大勢の生徒がこの現場に駆けつけて来たのだ。

 石になったフィンチ-フレッチリーは踏まれそうになっていた。ほとんど首無しニックの体の中で立ちすくむ生徒達が何人もいた。比較的良識がある上級生が静かにするように言ったが、それと同時に下級生をシルヴィアから引き離した。

 

「お〜、ネクロタフィオは悪いやつだ〜 血濡れた一族〜 お前は生徒を皆殺し お前はそれが大愉快」

 ピーブズがそう歌い出した。シルヴィアは視界が歪んできた気がした。けれども、このまま意識を手放してはダメだ。と強く思った。

 

 

「お前、ロックハートから聞いたぞ」

 駆けつけて来た生徒の中で、グリフィンドールとレイブンクローの上級生6人がシルヴィアに絡んできた。他の生徒も勿論居るが、お構いなしだった。

「な、な……なんです……か?」

「これ、お前がやったんだろ?」

 上級生6人の中で体格の良いグリフィンドールの生徒がそう聞いて来た。

「ち、違う! 私は……私はやっていない! 神に誓ってやっていません!」

 シルヴィアはそう叫んだが、誰もが疑っていた。疑わざる得ない状況だろう。シルヴィアでも分かっていた。

「この期に及んでまだ言い訳をするわけね……ロックハートの部屋で魔法を暴走させたって聞いたわ? あいつの言っている事は大抵、出鱈目だけど、その事ばかりは真面目な顔で怯えた顔で言っていたわよ?」

 そうレイブンクローの女子生徒が言った。最悪な出来事は続くらしい。シルヴィアは自分の不幸をつくづく呪った。

「それに、フィルチはお前を化け物だって言っていた」

「お前は噂だと頭が足りないって聞いたからご丁寧に教えてやるよ。魔法が制御出来ない魔法使いはオブスキュリアルって言うんだ。オブスキュリアルは病院送りが大抵の鯔のつまりだ。お前だってそうなる運命なんだよ!」

 そう言うと6人皆が杖を抜いた。周囲の人は誰も止めない。

 

「スリザリンの継承者のお前を病院送りにすれば、学校は平穏ってわけさ!」

「そ、そんな……理論、あ、あんまりですよ!」

 そう反論してみたものの、すぐに恐怖が全身を支配した。もう、ダメだ。誰もがシルヴィアへの罰を望んでいた。皆、正義の鉄槌が下されるところを見物している。

 この際、いつも自分を持ち上げているスリザリン生徒が助けてくれればいいのに。と願ったが、皆、見て見ぬ振りをしていた。

 シルヴィアは何かがフラッシュバックして来た気がした。けれども、記憶では無い。

 絶望、失望、憾み、怒り、妬み、黒く渦巻く復讐心。それに、恐怖、死にたくないと泣く声。熱いと叫ぶ声。

 

「ステュー──「おやめなさい!」

 マクゴナガルが駆けつけて来た。

「けど、先生。彼女はスリザリンの継承者で、ここで確かに、フィンチ-フレッチリーとほとんど首無しニックを殺そうとしたんですよ。それに、魔法をまともに操りきれないオブスキュリアルだ。彼女が学校に居る方が危ない」

 マクゴナガルが生徒達を叱りつけるように何か言っているのがぼんやりと聞こえて来た。シルヴィアの意識は確かに保たれて居た。しかし、どこか現実味を帯びていない。

 

 途端、声が聞こえてくる。シルヴィアに語りかけるあの声だ。あの殺人衝動だ。

コノ場ニ居ル人間達ハ、皆、自ラノ独善的ナ感情デ、息ォスルヨウニ他者ニ罪ォ擦リツケテイル。コノ数週間、貴女ハ嫌ナホド見テ来タダロウ? 愛シイ我ガ娘ヨ。我ニ身ォ委ネテ良イノダヨ。……穢レタ人間達ォ全テ呪イ炎デ、復讐ノ炎デ焼キ尽クシテ終エバ良イ! ソレダケデ良イノダ!

 ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。そんなのダメだ。そんな事をしたら私は……本当に……

世界ナド呪イ滅ボシテ終エバ良イノダ。コノ世界ニ価値ナド無イ

 ダメ。ダメ。そんな事をしたら神様はお赦しになられない。

黙レ! コノ世界ノ神ナド、疾ックノ昔ニ此ノ穢レタ大地ニ骨ォ埋メタ! オ前ノ信ジテイルソノ存在ハ、虚構ノモノニ過ギン!

 神様はいらっしゃる! 神様は我々を天の上より見られている……!

 

 その途端、シルヴィアは自分の体の中に何か熱いものが流れるのを感じた。きっとあの黒い炎だ。

 あと数秒もすれば、それは周囲に放たれるだろう。そして、あのロックハートの部屋で起こったような事。それ以上に酷いことが起こるだろう。

 そんな事、起こってはいけない!

 シルヴィアは咄嗟の判断で自分の掌を心臓がある部分に押しつけた。すると、何かが自分の中で爆発した。

 

「うっ……」

 シルヴィアは血を吐いた。そこでやっと元の自分に戻ってこれた。ただ、内臓の至る所が痛かった。

 その頃には、生徒達はこの場から離れさせられてフリットウィックとシニストラがフィンチ-フレッチリーを運んでいる。ビンズがほとんど首無しニックを移動させていた。

 

「ミス・ネクロタフィオ!? 大丈夫ですか?」

「せ、先生は……マクゴナガル先生は……私を、私を化け物だと……思いますか?」

「思いませんよ!」

 マクゴナガルはそうは言ってみたものの、マクゴナガルの顔は恐らくシルヴィアを疑っていた。

「ただ、私の手には負えない事が起こっております……取り敢えず、貴女も医務室へ行きましょう!」

 シルヴィアの意識は一気に暗くなって行った。それは沼に沈むように冷たく、寂しく、暗く……。手を伸ばしても光には届かない。ただ、それは心地いいと思った。このまま深い深い眠りについてしまいたいと思った。

 

 

 次に目を覚ましたのは、医務室だった。また、去年と同じ。進歩が無い。そう思った。しかし、今回オリビアは居なかった。遂に、オリビアにまで疑われているのか……そう思ったが、まず自分がオリビアに話に行っていなかったことも原因だろう。シルヴィアは自分を呪った。

「あら、やっと起きたのね。良かった良かった」

 マダム・ポンフリーはそう言って「今、水を持って来ますから」と言ってすぐに立ち去った。

 正直言って仕舞えば、シルヴィアはもう目覚めたくなかった。あの暗い暗い冷たい沼の中を漂いたかった。漂い、そのまま痛みも知らずに、眠りに着くように死んでしまいたかった。

 

「はい、どうぞ」

 そう言って、マダム・ポンフリーは水の入ったコップをシルヴィアに差し出した。シルヴィアはそれを受け取り、飲んだ。

 喉が渇いていたのだろうか。シルヴィアは全てを飲み干した。

 精神は死にたいと嘆いているのに、体は生きようとしている。そんな矛盾にシルヴィアは苛まれていた。

「ちょっと待って居てくださいね。ダンブルドア校長を呼んできますから」

 そう言うと、マダム・ポンフリーは立ち去った。

 シルヴィアは初めて医務室を見渡した。カーテンがかかっているベッドが2つあった。きっとどちらか一方にはフィンチ-フレッチリーが居るのだろう。

 

 窓から見る夜空はシルヴィアの今の心情とは真反対に嫌なぐらいに澄み切っていて美しかった。星々はそれぞれ煌めいて、荘厳な景色だった。

 

 

「シルヴィア? 星を眺めているところよろしいかの?」

 ダンブルドアがやって来た。

「えぇ……大丈夫です……」

「先生は……私がやったとお考えですか?」

 ダンブルドアは悲しげな表情をしていた。

「思っておらん。お主のような心優しい者がこんな事をするとはとても思えん。それよりじゃ、お主は自分で自分の身を傷付けてしまった。」

「けど、きっと……あのままだと、酷い事になっていました……。あ、あの……声は……世界を呪い滅ぼせと……言っていました。あのままだったら、もしかしたら……ホグワーツは無かったかも知れない……です。」

「──そうかも知れんの……」

 ダンブルドアはそう一言呟くと、「失礼するの」と言って面会者用の椅子に座った。

「夏休みにお主の家がある森に向かってみたいと思う。そこに行けば、そのお主の声の正体が分かるのかも知れん……」

「森……ですか?」

「そうじゃ。森じゃ」

 ダンブルドアはそう言うと先程のシルヴィアのように星を眺め始めた。

 

「お主の母君は、お主が笑って過ごせる光に満ち溢れた眩い世界を望んだようじゃ……」

「……せ、先生は、もしかして……私のお母様を知っているのですか?」

「お主を通して少々ばかりと知っているだけじゃ。詳しくは、未だよく分かっておらん……」

 シルヴィアは一瞬期待を持ったが、肩透かしだったようだ。しかし、その少々でも気になった。

「その、少しでもいいので……教えてください……お願いします。」

「……優秀な魔法薬学者であり、医者だった事じゃの。ただそれ以外は本当に一切分からぬ。申し訳ないとは思っているのじゃが……やはり、分からぬものは分からぬのじゃ……」

「そう……なんですね……。ごめんなさい。無理に……色々と聞こうとして……しまい……」

「いいのじゃよ。知らないと事があれば知りたくなる。それは人間の性じゃ。しかし、好奇心は猫をも殺すと言っての。取扱い注意なものなのじゃよ。よ〜く、覚えておきなされ」

「はい……」

 ダンブルドアはニコリと笑った。

「これを飲んで今日は休みなさい。きっと、マダム・ポンフリーはお主をあと3日は退院させないつもりじゃろう。

 明日にはクリスマス休暇が始まる。今年はホグワーツ特急の予約が矢鱈と多くての……学校中から人が居なくなるじゃろう。お主が家に帰りたいと言うのであるなら……それは不憫じゃが……それでも、久方ぶりに誰の視線を気にしないで過ごす事が出来るじゃろう」

 そう言ってダンブルドアはシルヴィアに薬瓶を渡した。それは翡翠の水薬だった。シルヴィアはそれを飲んだ。すると、すぐに眠る事が出来た。

 

 眠りと現実の境界の微睡で思い出した。あれは自分が調合して飲んでいた謎の薬である事。そして、自分が最近飲み忘れている事を。

 それを記憶に留める前にシルヴィアの意識は完全に暗闇の中に落ちていった。しかし、先程のような冷たい暗闇では無かった。ただただ、暖かった。





ダフネ:
 シルヴィア=継承者と言う噂が出回っている間、あまりシルヴィアと関わろうとしなかった。
 ロックハートに悪態をよくついている。
 シルヴィアに蛇語使い(パーセルマウス)の事を教える。

フィンチ-フレッチリー:
 フルネームはジャスティン・ハッフルパフの男子生徒。シルヴィアと同学年。イートン校とか言う名門中の名門校を蹴ってホグワーツに入学してくるとか言う、凄い経歴の持ち主。
 複合姓なのでマグル界で結構いい家庭の生まれの筈。こう言うタイプのマグル生まれって魔法界生きにくそう……(いきなりカースト上位から下位に落ちるようなものだし……)
 ほとんど首無しニックと一緒に石化していた。

ほとんど首無しニック:
 石化?をしている。

ピーブズ:
 ホグワーツに取り憑いているポルターガイスト。ゴーストと似て非なる存在。ホグワーツの子供達の集合的無意識から生まれた存在……らしい。
 シルヴィアはあまりピーブズの被害を受けたことは無かったが、今回はここぞとばかりに被害を被った。

上級生6人:
 正義の代行者。シルヴィアをスリザリンの継承者と決めつけ、ついでにロックハートやフィルチが漏らした情報により、オブスキュリアルと断定し、病院送りにしようとした。

ダンブルドア:
 ほんの少しだけ、シルヴィアのお母様の事について知っている。また、声の正体を探るために、夏休みシルヴィアの家のある森へ向かおう。と提案した。


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