クリスマス休暇に入り、シルヴィアはようやく医務室を退院した。
ホグワーツは、外に積もった雪と同じくらい静まり返っていた。ダンブルドアの言葉通り、大半の生徒はホグワーツ特急に乗り、城を後にしたようだ。
去年のことを考えれば、スリザリンの生徒もほとんど帰省しているはず。寮を独り占めできるかもしれない──そう期待しながら、シルヴィアはスリザリン寮へと足を踏み入れた。
「おや、シルヴィア。退院できたのか」
談話室の暖炉の前、ドラコが取り巻きのビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルとともにソファに深く腰掛けていた。辺りを見回してみれば、思ったよりも生徒が残っている。独りになれると思ったのに──シルヴィアは心の中でため息をついた。
「ま、まぁ……」
そうシルヴィアは小さく答えた。ドラコは何か言いかけたが、シルヴィアはそれを聞く前に踵を返した。寮を出て、静寂の中へと逃げ出した。もう誰とも会いたくなかった。誰とも話したくなかった。ただただ1人になりたかった。
自分の身が、凍ってしまうほど寒い廊下を歩き続けた。迷っても構わない。むしろ、そのほうがいい気がした。あてもなく何処かを彷徨いたかったのだ。
時々、城に残っている生徒とすれ違った。彼らは皆、シルヴィアを避けるようにして反対方向へと去っていった。なかには、すれ違いざまに罵詈雑言を浴びせる者もいた。
シルヴィアは嫌になってトイレに逃げ込むように飛び込んだ。トイレは何故だかポリジュース薬を煎じたような匂いがした。しかし、今のシルヴィアにはそんな事を気にしている余裕は無かった。
「どうして……私が、こんな目に……」
シルヴィアが洗面台に向かってそう呟いた時だった。
「あら、スリザリンのおチビちゃん。」
横からスーッと現れてそう言う存在が居た。
随分とずんぐりした女子生徒のゴーストで、今の自分の顔といい勝負な陰気くさい顔をしていた。その顔もダラーッと垂れた猫っ毛と分厚い乳白色のメガネの影に半分隠れていた。
クリフォードよりは昔の人では無さそうだが、今の制服とデザインの異なる制服を着ていた。裏地の色からしてレイブンクローの生徒だったのだろう。
「だ、誰……? い……今、誰とも話したく無いの……」
シルヴィアはそう絞り出すように言葉を発した。しかし、ゴーストの女子生徒はシルヴィアの隣まで滑り込んで来た。
「貴女、今、何か困っているのでしょ? 私に話してみなさいよ。私が……助けてあげる」
マートルはそんな事を言って笑みを浮かべた。シルヴィアにはこのマートルと言うゴーストが一体何をしたいのか分からなかった。
「ど、どうせ……貴女だって……私が、スリザリンの継承者ってよ、呼ばれているの……知っているんでしょ……」
「えぇ、そうみたいね。」
マートルは短く返した。
「わ、私……もう嫌だよ……やっても無い事で……とやかく言われるの……ほ、本当にやっていないの……やっていないんだよ……! もう、こ、こんなの……嫌だ……し、死んでしまいたい……」
「あら、それなら死んでしえばいいじゃ無い」
マートルはそう言った。シルヴィア自身、別に「それでも生きなさい」と言われたいとは微塵も思っていなかったが、そう直球に言われてしまえば困惑する。しかし、そんなシルヴィアの困惑を他所にマートルは話を続けた。
「けど、ただ死ぬだけじゃダメよ? ホグワーツでは私が知っている限り、1度だけ、いじめに耐えきれず自ら命を絶った。と言う生徒が居たわ。……確かにその当時は日刊予言者新聞やその他、
「……──それで、誰がその生徒のことを覚えているわけ? 1年も経てば自ら命を絶った哀れな子供の事なんて忘れてしまう。同学年で同じ寮だった子でも怪しいわ。いじめた当の本人も覚えちゃいないわ。」
「自分の身を焼こうが、毒を飲もうが、高い場所から飛び降りようが、首を吊ろうが……どんな悲惨な方法を取ったとしても結局、忘れ去られるのが運命なのよ。」
マートルはそう熱心に話した。
「け、けど……そんな事をすれば……神様は、神様は……お赦しにならない……殺人者になってしまう……殺人者になったら……地獄に落ちてしまう……。」
「この世界に神様なんて居ないのよ。私だって、嫌な事があったら祈っていたわ。けど、救ってやくれなかった。それに、天国も地獄も結局は人間の創作物よ。そんなもの存在しない。存在し得ない……。」
そう言うとまたマートルは話を続ける。
「私は生前、いじめられていたのよ。オリーブ・ホーンビーって言う子に……ニキビの事とか眼鏡の事で。不条理よね。そして、私は不幸にも死んでしまった。意味も分からず死んでしまったわ……。けど、その後はオリーブ・ホーンビーにずっと取り憑いてやった!」
マートルは恍惚の笑みを浮かべてそう言った。
「彼女は私の死体の第一発見者だったの。だから、私はずーっと、それを思い出させてやったの。彼女の兄弟の結婚式でもやったから、魔法省がここに連れ戻したのだけど……。まぁ、ゴーストに生者の尺度なんて通用しないわ。
結局、彼女は死ぬまでトイレで見た私の死体のことを忘れなかった! ふふ」
そう言うと、少しの時間、ずっと笑い声を上げていた。それは確かに少女の笑い声なのだが、随分と不気味なものだった。
「貴女……どうせ、もう死んでいるような存在なんだし、神様なんて居ない。ゴーストになって自分をいじめた奴に取り憑いてしまえばいいのよ! 案外楽しいわよ。あいつらの恐怖の顔って最高だわ。
もし、飽きたとしても私と遊びましょう。ホグワーツの水道管は私が1番詳しく知っているの」
マートルは擦り寄りながらそう言った。
シルヴィアは頭をガーンと殴られた気分になった。たまたまかも知れないが、このマートルが言っている事は謎の声と言う名の殺人衝動が、言っている事と同じだったのだ。
「わ……わた……私は……」
シルヴィアはマートルが怖くなりトイレから飛び出した。そして、またあてもなく廊下を彷徨った。外を見れば昼間なのに暗く、空は鈍色の雲に覆われており、雪が静かに降っていた。
こんな天気なのに外に出て楽しげに雪合戦をしている生徒も居た。その様子を見ると何故だか、シルヴィアの落ち込みきった心はまた一段と落ち込んだ。
誰かに知らない事で責められる日々にとっくにシルヴィアの心は疲れ切っていた。殺人衝動。そして謎の力……それを持っている自分は死んでしまった方が世の為になるのでは無いか? そんな思考に頭を侵食され始めた。
シルヴィアの思考は完全に悪い方向へ転がしているのだ。それを止められる人も居らず、深みに落ちていくばかりだった。
「私は……お母様に……会いたい……」
シルヴィアはそう呟いてからとある場所へ向かった。
◆
「確か……ここ……だっけ?」
木の扉の前に立ち、シルヴィアは呟いた。
扉の奥はスネイプの個人用保管倉庫だった。
ホグワーツの誰が流した話かは知らないが、何か困った事があればここに向かえば大抵の物(魔法薬関連であれば)が揃っているらしい。今のシルヴィアはなんでも出来る、と言う全能感に狩られていた。
ドアノブを捻る。しかし、開かない。まぁ、それはそうだろう。普通に考えて鍵をかけない訳が無い。シルヴィアはローブのポケットから杖を取り出す。
「えぇっと……確か……〈アロホモラ 開け〉」
鍵穴に杖を向けてそう唱える。そうすればガチャッと音と共に扉が開いた。中は狭く暗く、誰も居なかった。一旦、安心して扉をもう一度閉める。部屋は真っ暗になった。それでもシルヴィアは落ち着いてまた呪文を唱える。
「〈ルーモス 光よ〉」
光を灯した杖を片手に薬品棚から目当ての材料を探す。アスフォデルの球根、ニガヨモギ、カノコソウの根、催眠豆、ナマケモノの脳髄……。
「良かった……全部、全部あった……」
材料が入れてある瓶にはご丁寧にラベルが貼ってあったので見つけやすかった。スネイプの几帳面な性格に感謝した。
シルヴィアは全て見つけるとポケットに全て突っ込み、スネイプの個人用保管倉庫からそそくさと退散して行った。
◇
次に向かったのはクリフォードの居る空き教室だった。
「あぁ、シルヴィア……君、大丈夫かい? 最近、色々と面倒な事になっていると聞いたよ」
「あ、うん。大丈夫。あと少しすれば、全部……全部大丈夫になるから」
シルヴィアはそう言って部屋を見渡した。部屋の奥にすっかり埃を被った大鍋がいくつか転がっていた。その中でも状態のいい物をいくつか選ぶ。また、近くに散らばっていた何も書かれていない羊皮紙も拾い上げた。
「えぇっと……魔法薬の実践かい?」
「まぁ、そうだよ」
「あぁ……よく、ヘンリーとオフィーリアもやっていたよ。2人は『魔法薬クラブ』って言うクラブの一員でね。オフィーリアはあの感じでクラブ長をしていたんだよ。」
まず、シルヴィアは羊皮紙を魔法で燃やし、その上に大鍋をかけた。とてもでは無いが、いつも魔法薬を煎じるような火の勢いにはならなかった。しょうがないので、床に転がっていた椅子を一脚、魔法でバラしそれにも火を付けた。
「オフィーリアが卒業してから、魔法薬クラブは空中分裂してしまってね……あのクラブは完全にオフィーリアが居たからこそ成り立っていたんだよ」
「魔法薬クラブには5年生以上のクラブ長の選りすぐりの生徒と希望者の中で選別に合格した生徒が入っていたんだ。
オフィーリアが7年生の時に、7年生がオフィーリアを含めて3人。6年生が2人。ヘンリーと同学年の5年生が5人居たんだ。その5人が頗る関係が悪くてねぇ……」
シルヴィアは大鍋の中に水を入れ、まずニガヨモギを煎じる。煎じている間にアスフォデルの球根を粉末状にする。ニガヨモギを煎じ終えるとそれを大鍋に加えた。
そして、その次にアスフォデルの球根の粉末を投入し、二度時計回りにかき回した。
「まずは、ヘンリー。ヘンリーはどうしてか分からないけど、オフィーリアに気に入られていてね。1年生の頃から彼女に付き回されていた……。随分とお気の毒な話さ。」
「そして、2人目はリリー・エバンズって言って……可愛らしいし、強い正義感を持っていた。そしてなんて言ったって、誰にも分け隔てなく愛情を持って接していた。リリーは僕が会った中で1番性格の良い子だ。彼女こそ、聖女の名に相応しいと思うよ」
「そしてもう1人はセブルス・スネイプって言って……彼は随分と陰気臭いし闇の魔術に傾倒しているし……で結構散々な子だったよ。あの子が僕の兄の子孫だなんて信じ切れないさ……。あぁ、彼とヘンリーは従兄弟だったんだけど、セブルスの母親はどうやらプリンス家から勘当されてね……それが原因か、彼とヘンリーの仲は最悪だったさ。ま、どちらかと言えば、セブルスが勝手にヘンリーの事を恨んでいたんだけど……。」
次にシルヴィアは催眠豆を小刀で切り刻んだが、期待していた程の汁は出なかった。
シルヴィアは少々の試行錯誤の結果、小刀の平たい面で豆を砕いた。すると、萎びた豆の割りに汁が出てきた。そして、全て掬って大鍋に入れた。
「そして、次にジェームズ・ポッター。彼はリリーに惚れていたらしくて、それが理由で希望してクラブに入ったんだ。けれども、彼もまた他に負けず劣らず、優秀だったさ。魔法薬学者になればいいと思ったんだけどね。」
「5人目はシリウス・ブラック。彼はジェームズと一緒で希望してクラブに入ったんだ。ジェームズと一心同体でね……2人が居れば、出来ない事は無いんじゃ無いか? って具合に何でも出来たんだ。あの2人は偉大になる道はあったんだと思うんだけどね……。あんな事になってしまって残念だ……。
あぁ、名字が同じだけどシリウスとオフィーリアもいとこ関係だったらしい。僕も正確なところを聞いていないから詳しくは知らないけど。……シリウスはオフィーリアの事を測りかねていたけど……まぁ、そうだよね。彼女は本当に意味分からない存在だった。」
「にしても……ジェームズ、シリウスとセブルスの仲は最悪だった! 目を合わせば呪文を掛け合って、ヘンリーが止めても言う事を聞かず……リリーが止めてやっと呪文の掛け合いは止まったんだ。オフィーリアが1番、その場の静かにさせるのが上手だったんだ。けど、当の本人は呪文の応酬をニコニコって普段中々見せない笑みを浮かべて見ていたけどね……。やっぱり彼女って性格が宜しく無いんだよ……。」
催眠豆の汁を大鍋に入れて少しすれば、薬はたちまちライラック色に変化した。
「……ん? あぁ、『生ける屍の水薬』を作っているのかい? その工程の後は反時計回りに7回
シルヴィアはそのアドバイスだけは耳に入ったようで、クリフォードの言う通りに7回
「彼らはやっぱり優秀だったんだ。けど、やっぱり人間関係というのは難しいんだろうね。今までにグリフィンドールとスリザリンが同学年に居る事は無かったんだ。
オフィーリアの同級生はレイブンクローだったし。僕の時代からそうだけど、グリフィンドールとスリザリンは頗る仲が悪いものだ……あれ、どうにかならないのかな……」
薬は少しずつライラック色から透明に変化していく。そして、遂に、透明な水薬になった。
「おぉ、流石だ。良い出来じゃ無いか。これは今の学習指導要領だと6年生で習う筈の魔法薬だ。やっぱり、流石はシルヴィアだね」
そう言ってヘンリーは誉めた。
「そう言えば、さっき何か色々言っていたけど……えぇっと、オフィーリアがクラブ長で……空中分解したの? オフィーリアが?」
「……違うが……まぁ、いいんだよ。ただの僕の思い出話さ。実にならない話だから気にしないで良いさ。」
ヘンリーは何処か悲しげな様子だったが、シルヴィアは気にせずに出来た水薬を瓶に詰め始めた。
「ところで、こんなに『生ける屍の水薬』を作ってどうしたんだい? 不眠症?」
「まぁ、そんなところ」
そう言うと詰めた瓶をローブのポケットに詰め、立ち上がる。
「色々と君を取り巻く状況は複雑化しているようだからね……。ゆっくり休むんだよ。それに、用法用量を守って正しく使うんだよ」
「うん、ありがと」
そう言うとシルヴィアは空き教室から立ち去った。
◇
今、ハリーとロン、ハーマイオニーはポリジュース薬を使ってスリザリン生になろうとしていた。ハリー、ロンは先ほど採集して来たクラッブとゴイルの髪の毛を手にしていた。
「次はなんだい?」ロンが囁く。
「薬を3杯に分けて、髪の毛をそれぞれ薬に加えるの」
ハーマイオニーは柄杓でそれぞれの薬をたっぷりと入れた。
「そう言えば、ハーマイオニーのは一体誰の髪の毛なの?」
「私のはシルヴィアのよ。……決闘クラブの時にブルストロードに体術をかけられた時に、引き離してくれたじゃない? その時にコッソリって。……悪いって分かっているわ。けど、シルヴィアは夕食の席にも居なかったし、好都合だと思って。」
そうハーマイオニーは罪悪感を言葉の端々に込めながら言った。
「さ、中に入れちゃいましょう」
そう言って、自分のグラスの中に髪の毛を入れた。煎じ薬は、やかんのお湯が沸騰するようなシューシューと言う音を立て、激しく泡たった。次の瞬間、薬は煌めく銀色に変わった。
「……それ、本当に飲んで良いもの?」
「飲んで良いものよ。さ、貴方達も加えて」
ハーマイオニーが促し、2人は髪の毛をグラスに入れた。すると忽ち、色が変わった。ゴイルのは耳くそのようなカーキ色、クラッブのは濁った暗褐色になった。
そして、3人はそれぞれ別の個室に入って飲んだ。
「2人とも大丈夫?」
ハリーの口から出て来たのはゴイルの低いしゃがれ声だった。
「あぁ」
右の方からクラッブの唸るよな低音が聞こえた。
「私もよ」
シルヴィアの自信なさげな声も聞こえて来た。
3人は個室から出て、互いに見つめあった。
「おっどろいたあ……」
ロンが繰り返しそう言った。
「急いだ方がいいわ。私たち、スリザリンの談話室が何処か分からないし、どんな方法で開くかもよく分かっていないもの」
「けど、シルヴィアとクラッブとゴイルが一緒に居るところなんて見た事あるかい?」
ロンがそう言った。確かに、シルヴィアは基本1人かダフネ・グリーングラスと一緒に居る印象があった。
「分かったわ。私が先に探しに行きましょう。シルヴィアなら正直言って、自分の寮への帰り方を忘れていても何ら違和感無いわ」
「確かにそうだけど……」「ちょっと酷過ぎないかい?」
ハリーとロンはそう続けたが、ハーマイオニーはもうトイレから出て行っていた。2人はハーマイオニーを追いかけた。
城の地下へ地下へと歩いて15分すれば暗い廊下でハーマイオニーが止まっていた。ハーマイオニーは何やら羊皮紙の切れ端を持っていた。そして、ハリーとロンを手招きした。
「なんだい? それは……」
「スリザリン寮に入る為の合言葉だわ。それに、筆跡はシルヴィアで間違い無いわ」
そう言ってハーマイオニーは今週の合言葉を探し始めた。
「今週は……『純血』ね……悪趣味な合言葉だと思わない? それに、このメモを見る限り結構な頻度で使われているわ……」
メモには『純血』と言う文字が7回に1回程度出現していた。次に多いのは『マーリン』だった。
「それで、多分……この壁だわ。2人が先に行って頂戴」
「分かったよ」
そうして、ハリーとロンは壁の目の前に立ち同時に「純血」と言った。すると、壁に隠された石の扉がするすると開いた。
スリザリンの談話室は、細長い天井の低い地下室で、壁と天井は荒削りの石造だった。暖炉前のソファーにお目当ての少年が座っていた。
「ん? あぁ、お前達やっと帰って来たか。いつまで大広間でバカ食いしてるんだ? やっと、お前たちに凄い面白い物を見せてやれる。ここで待っていろ。今持ってくる。父上が送ってくれたばかりなんだ。」
そう言うとマルフォイはスリザリン寮の奥の方へ行ってしまった。ハリーとロンはなるべく寛いでいるフリをした。
そして間も無く、マルフォイは帰って来た。マルフォイの手には新聞の切り抜きのような物を持っている。
「これは笑えるぞ」
そう言ってロンへ突き出したのは日刊予言者新聞の切り抜きで、ウィーズリー氏が魔法省で尋問を受け、50ガリオンの罰金を払ったと言う内容だった。
「どうだ? おかしいだろう?」
「ハッ、ハッ」
ハリーは沈んだ声で笑った。
「アーサー・ウィーズリーはあれほどマグル贔屓なんだから、杖を真っ二つにへし折ってマグルの仲間に入れてしまえばいい」
マルフォイは蔑むように言った。それと同じタイミングでハーマイオニーが談話室に入って来た。
「おや、シルヴィア。何処へ行っていたんだい? 君が夕食を摂らない事は有名だけど、今日一日中姿を消していたじゃ無いか」
「え、えぇっと……その、と、図書館で……ほ、本を読んでいたの……」
ハーマイオニーのシルヴィア・ロールプレイは結構上手い方だった。
「そうかい? 僕が図書館へ見に行った時には見当たらなかったが……」
ハーマイオニーは何かを言おうとしたが、特に何も思いつかなかったようだった。そこでハリーがマルフォイに小声で話しかける。
「彼女と言えば。スリザリンの継承者だけど、君は彼女が本当の継承者だと思っているかい?」
「ん? 何度言ったら分かるんだい? 彼女は継承者じゃないさ。確かに
マルフォイはそう言った。3人はほんの少しばかりマルフォイを見直した。マルフォイであれば、事実であれ虚構であれシルヴィアを継承者扱いする。と勝手に思っていたからだ。
「裏で誰かが糸を引いているってわけかい?」
ロンがそう聞く。
「そうだろうね。一体誰が継承者なのか僕が知ってたらなあ……手伝ってやれるのに……」
マルフォイはそう焦ったそうに言った。
「君には誰だか考えはないのかい?」
「いや、ない。ゴイル、何度も同じ事を言わせるな。それに父上は前回『部屋』が開かれた時の事を全く話してくださらない。……50年も前の事だ。
僕があまりにも知り過ぎていると怪しまれると仰っていた。あぁ、そうだ。1つだけ知っている。50年前に『秘密の部屋』が開かれた時、『穢れた血』が1人死んだそうだ。だから、今度も時間の問題だ。あいつらのうちの誰かが殺される。グレンジャーだといいのに」
ハーマイオニーは少し離れた場所で俯いていた。それを見てマルフォイはハッとした表情になった。
「あぁっと……まぁ、早く穢れた血が殺されればいいと思う」
「父上は、僕が目立たないようにして、スリザリンの継承者にやるだけやらせておけって仰る。この学校には『穢れた血』の粛清が必要だって。
父上は今、自分の方も手一杯なんだ。ほら、魔法省が僕らの館を立ち入り検査しただろう?」
マルフォイは椅子に座ったまま落ち着かない様子で体を揺すった。
「幸い、大した者は見つからなかったけど。父上は非常に貴重な闇の魔術の道具を持っているんだ。クロッカーの所から買い取ったらしい。応接間の床下に我が家の『秘密の部屋』があって──」
「ホー!」
ロンがそう言ったぐらいに3人は体に違和感を覚えた。ポリジュース薬が切れかかっているのだ。既にハーマイオニーは瞳の色が戻り、髪の毛も癖っ毛になっていた。そして、ロンもまた真っ赤な髪の毛が見え始めた。
ハーマイオニーは既に寮から脱出しており、ハリー、ロンも「胃薬だ」と言いながら寮から脱出した。
「まぁ、全く時間の無駄にはならなかったよな。」
ロンがぜいぜいと息を切らしながらトイレの中からドアを閉めた。
「襲ってくるのが誰なのかはまだ分からないけど、明日パパに手紙を書いてマルフォイの応接間の床下を調べるように言おう」
「にしても、マルフォイがシルヴィアを疑っていないのは意外だったわ。」
「まぁ、冷静に考えてみなよ? あんな気弱な子がスリザリンの継承者なんてなれっこないよ」
そうロンが言った。ただ、皆、少し気不味そうに顔を見合わせた。
「──!」
「──。」
トイレの外側から言い争っている声が聞こえた。3人はグリフィンドールの制服に着替え、トイレの外をそーっと覗いた。
そこには、嘆きのマートルとあの絶命日パーティーの時、シルヴィアに話しかけていたクリフォード・プリンスと言うゴーストが居た。
「じゃあ、貴女は! あの子に自ら命を断とうとするように唆した。と言うのか!?」
クリフォード・プリンスはそう声を荒げたが、嘆きのマートルは唇を歪ませニヤっと笑っていた。
「貴方もゴーストならば、あの子の状況を理解しているでしょう? あの子は可哀想な子だわ。死んでるのに生きている状態で……」
「けど、それでもあの子は……今を、生きている!」
「貴方が今、何を言おうとも無駄だわ。けど、いいんじゃない? きっとあの子はゴーストになるわ。同じゴースト同士仲良く出来るわよ。私だって友達が欲しいのよ。きっと、仲良く出来るわ。」
3人は顔を見合わせた。あの子とは一体誰なのか。けれども、みんな見当が付いていた。付いていてしまっていた。
「あぁ! 部屋で『生ける屍の水薬』を作っている時に気がつければ! 思い出に浸っている場合じゃなかった!」
「と、取り敢えず、あの子の寮の……えぇっと、ホラスじゃなくて……。あぁ、そうだそうだ。セブルスに伝えなければ……あの子が、あの子が本当に死んでしまう前に……!」
そう言ってクリフォード・プリンスは廊下をスーッと高速で滑ってどっかに行ってしまった。嘆きのマートルは勝ち誇ったような顔をしていた。
「た、大変よ! シルヴィアは……シルヴィアは、自ら命を絶とうとしているのよ。……あぁ、私の所為だわ。シルヴィアを怖がらずに……接してあげていれば良かった! 私には……それが出来なかった!」
ハーマイオニーは後悔したように叫び、クリフォードが行った方向へ走り出した。ハリーもロンもハーマイオニーに遅れて着いて行った。
◆
夜になったと言うのに、昼とあまり変わらない暗さだった。全ては頭上を埋め尽くす鈍色の雲の所為なのだろう。辺り一面を雪景色に変えてしまった雲。とても重たく冷たい雲。見ているだけで鬱々としてくる。
けれども、どうしてなのかシルヴィアにはあまり寒さは感じなかった。昼間に雪合戦をしていた生徒達はマフラーに手袋をしていた。シルヴィアはそんな物を付けなくても平常心でいられた。
「……」
7本目の『生ける屍の水薬』を飲み込む。全て飲み終えれば8本目。それを飲み終えれば9本目。と次々と飲み込む。遂に最後の瓶を飲み切ってしまった。
『生ける屍の水薬』は、睡眠薬の1種であり、飲んだ者を死んだような深い眠りに落とす魔法薬。成分が強過ぎたり、飲み過ぎたりすれば死に至る事がある。それはどの薬でも同じだが、『生ける屍の水薬』は眠るように死ぬ。
もう苦しみたくなかった。もうこれ以上、痛みを味わいたくなかった。
途端、眠気が訪れ座っていたベンチから崩れ落ちる。地面に倒れ込んだ訳だが、雪が積もっていたおかげで痛みは微塵も感じなかった。ただ、少し寒いとは思った。その時、たまたまシルヴィアは思い出した。今日はクリスマスだ。
「……あの、日も……雪が……降っていた……」
「貴女の歩みを見守れないで……ごめんなさい。貴女には光の中で生きてほしかった。けれども、貴女にも闇を背負わせてしまった。私があまりも罪深い存在だったが故の出来事でしょう……ごめんなさい。」
何か暖かい存在が自分に覆い被さっているのを感じた。シルヴィアは瞳を薄らと開ける。驚いた事に、そこには母親が居た。
「お母……様?」
「私は貴女を愛している。私は……貴女に生きていてほしい……。私はどうでもいい。貴女は……貴女だけは幸せになってほしいと願っている……。」
シルヴィアの灰色の瞳から涙が流れ出し、すぐに雪の上に落ちた。
「貴女が今を生きている。それが私の生きた痕跡であり、私の幸福……。どうか、生を諦めないで。死に魅入られないで……」
「……お母……様、が……私の……助け……ですか?」
暖かな意識の中でシルヴィアは母親に問う。
「そう、かも知れないわ。そうね、ホグワーツでは助けを求める者は必ずそれが与えられる。そう言っていたわね。」
シルヴィアの意識は薄れていく。けれども、幸福だった。暖かな光の中に居たからだ。
◇
「ここ……は?」
シルヴィアが起きると知っているような知らない空間に居た。
『私達の家よ』
「お母様!」
目の前には美しい黒髪ではっきりとした顔立ちに灰色の瞳を持っている母親が立っていた。シルヴィアは母親に飛び込む。母親はシルヴィアを優しく受け止め、抱きしめた。
『随分と成長したわね。私が知っている時よりもずっと大人になったわ』
「お母様と会うのはもう丸々6年ぶりですもの。」
そう言うと母親は優しく笑った。
『そうね……随分と時が経ってしまったわ……』
寂しげな声音で言った。そして、母親は屈んでシルヴィアと目線を合わせた。
『今の、ホグワーツでは恐ろしい事が起きているわ。無辜の命が愚かな裁量によって殺されそうになっている。そんな暴挙、赦される筈ない。
……そして、身に覚えの無い罪を貴女が着せられるのも許される筈ないわ。』
「それは……『秘密の部屋』の事ですか?」
『えぇ……。よく聞いて頂戴。これは私の祖母が言っていた事よ。『秘密の部屋』にはバジリスクと言う恐ろしい怪物が棲みついて居る。
その怪物は直視すれば即死の瞳を持っており、牙は全て即死の毒である。その怪物は何か道具を使わなければ倒せない。また、イタチの匂いを嗅がせる事が出来れば、怪物は倒せる。』
シルヴィアは息を呑んだ。そんな恐ろしい怪物がホグワーツに居たとは夢にも思っていなかったからだ。
「そ、そんな……強過ぎませんか? その怪物……」
『そうね。けど、私達は恐れる必要は無いわ。バジリスクをホグワーツに封印したのはサラザール・スリザリンだった。その血は私達の中に祖母を……貴女から見れば曽祖母ね。彼女を介して随分と薄まっているけれど、彼の血が入っているわ。』
「だ、だから……私は蛇語が話せたのですか?」
『そうよ、だから……少しばかりはバジリスクも言う事を聞いてくれる筈。』
「か、怪物と……話せたとして、話は通じるのですか?」
『それは分からないわ。けど、貴女の大切な友達を守る為にやってみる価値はあるわ。』
シルヴィアは少しだけ悩んでしまった。けれどもすぐに母親を見る。
「私、頑張ってみます!」
『ふふ、その調子ね。祖母から聞いた話によれば『秘密の部屋』の入り口は地下3階の南東の部屋。部屋の後ろにある洋服箪笥を開くと地下通路へ向かう梯子が伸びて居る。そして、地下通路を少し歩くと蛇語で反応する扉がある。と聞いたわ。けど、今はどうかは……分からない。』
「分かりました。私、そこへ行ってみます! ……あの、お母様」
『何かしら?』
「私の事を……見ていてくれますか?」
『勿論よ。私は貴女をいつでも見ているわ。それだけが唯一貴女に出来る贖罪なのだから……』
シルヴィアの表情が一気に明かるくなる。
「それなら心強いです! ……どうやって帰れば良いのでしょうか?」
『……この扉を開けて、少し歩けば小川があるでしょう? そこを飛び越えてしまえば戻れるわ』
「分かりました。……その、最後にもう1回。……もう1回だけ、抱きしめてほしいです」
『勿論。構わないわよ』
そう言うとシルヴィアはまた母親に飛び込んだ。母親はぎゅっと暖かく、少し強く抱きしめた。数分間はずっとそのままだった。
『私も……貴女と同じ時間を生きたかった。一緒に生きる事が出来ないで……ごめんなさい。』
母親はそう絞り出すように言った。
「ありがとうございます。お母様」
『えぇ、気を付けて』
そうしてシルヴィアはドアを開ける。すると見覚えのある景色が見えた。家の前の森だ。シルヴィアは慣れた歩調で小川へ向い、小川を飛び越えた。すると途端、体が宙に浮く感覚を覚えた。
『どんな苦難が訪れても諦めず、強く強かにお生きなさい。貴女は強い子だから……』
『人は自分の行き先は選べない。それは哀しい運命。私達は運命を受け入れるしか無い。それでも、貴女は歩み続けなさい。道は続いているのだから。』
『人は生と死を廻り続ける。私たちはいつの日か巡り会える。再開する事が出来る。その時が訪れるまで暫くお別れをするだけ。』
『貴女が光の中で生きていける事を私は祈っている。私は貴女を愛しているから。』
『天におられる私達の父よ。私達の罪をお赦しください。私達も人を許します。どうか……どうか、貴女に祝福を……貴女の未来に
『どうか貴女だけは……幸せになって』
『オ前ハ死ナナイ。死ナセナイ。ドンナニ苦シミニモガコウガ、死ヌ事ハユルサナイ。我ノ神聖デ偉大ナル計画ォ実行ニ移スマデハ絶対ニ死ナセナイ。ソレガ、我々ノ契約デアル。小娘、ソレダケハ忘レルナ!』
マートル:
嘆きのマートル。本名はマートル・エリザベス・ワレン。シルヴィアに困った事を聞くわ。と言った割にはシルヴィアを困らせる事を言う。
シルヴィアときっと仲良くなれると思っている。
ドラコ・マルフォイ:
スリザリンの継承者では無い。また、シルヴィアを継承者とは疑っていない。
後日、アーサー・ウィーズリーが実家を訪れ、闇の魔術に関する道具は徴収される。
クリフォード:
シルヴィアが自分の居る部屋で薬を煎じ始めたのを見て、過去の『魔法薬クラブ』の事を思い出し、永遠と思い出を語っていた。
シルヴィアが自らの命を絶とうしている。と言う事実を知り、自らの行動を後悔した。
母親:
シルヴィアの母親。ずっとシルヴィアに謝り倒している。また、秘密の部屋のことについて教えてくれた。
『魔法薬クラブ』:
かつてホグワーツにあったクラブ。オフィーリアは7年生の頃、クラブ長を勤めた。しかし、オフィーリアが卒業してからクラブは空中分解した。
クリスマス・イヴ:
どうやら、クリスマスの前夜では無くクリスマス当日の夜がクリスマス・イヴらしい。
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この後絶対にシルヴィアを幸せにします。