穏やかで暖かな春の午後の陽射しが窓から差し込み、部屋に温もりを与えていた。
ゆっくりとまぶたを開く。未だ、夢と現実の境目にあったシルヴィアの意識がぼんやり覚醒していく。少し手を伸ばせば、布団の温もりが指先に触れた。
ゆっくりと体躯を起こし、大きく息を吸い込みながら背伸びをする。シルヴィアはまだ、あの暖かな夢を見ていたかった。先ほどまで見ていた夢の残骸を追いかけたかった。しかし、自分はそうするべきでは無い。やるべき事があるのだ。そう自覚をして、ゆっくりと現実へ帰還する。
「ふぁ〜……ゆっくり寝たぁ……」
──まるで、午睡を終えた子供のような事を言っているが、このシルヴィアは自殺未遂を図り、丸々3ヶ月ほど昏睡状態で居たのだ。しかし、シルヴィアは知り得ない。そんな事を知らないのだ。
「えぇっと……なんで、医務室に居るんだっけ?」
シルヴィアはそう呟いてから、ボーッと過ごし始める。
いつもなら、起きてすぐにマダム・ポンフリーが飛んでくるのだが、今日はそうとはいかないようだ。それに、オリビアも前回よろしく居ない。
そう言えば、自分は全てが嫌になって死にたいと思った。そして『生ける屍の水薬』を大量摂取した事を思い出した。そうだ、自分は死のうと思ったのだ。
けれども、今のシルヴィアにはそんな感情はすっかり忘れ去り、今まで通りの澄み切った水のような澱みのない感情を抱いていた。今にでも、日常生活に戻ってしまいたいと思った。
「あの子は、あれから3ヶ月が経つと言うのに……未だに起きません……!」
マダム・ポンフリーの悲痛な叫びとも言える声がシルヴィアの耳に突き刺さって来た。どうやら、医務室の隣にあるマダム・ポンフリーの事務室の扉が少し開いていたようだ。
「ポピー安心するのじゃ。彼女は絶対に起きる筈じゃ」
ダンブルドアがマダム・ポンフリーを落ち着かせるように優しく声かけをした。
「僕が……あの時、薬を煎じている時に違和感に気が付いていれば……」
クリフォードが落ち込んでいる声で言った。確かに、彼には悪い事をしてしまった。と言う自覚がシルヴィアにはあった。
「今回の事案はシルヴィアもクリフォードも悪くない。確かに、嘆きのマートルとその他生徒達の言動は行き過ぎていた部分が多々あったじゃろう。新学期に話した事をしっかりと受け止めてくれたようじゃから、暫くは大丈夫じゃろう。」
ダンブルドアは2人諭すように優しい声で言った。それから暫くの間、沈黙が訪れた。
「し、しかし……どこで、彼女は『生ける屍の水薬』の材料を手に入れたのでしょうか?」
マダム・ポンフリーは大層不思議そうに聞いた。ここで、シルヴィアはギクっとした。自分が薬を作る為に盗みを働いた事が、絶対に、絶対にスネイプにバレている自信があったのだ。
「私の個人用保管倉庫の鍵が勝手に外されて、丁度、『生ける屍の水薬』の材料が消えていた。あの、ネクロタフィオは愚かにも盗みを働いたのだ。」
シルヴィアはひっそりと医務室から抜き出したかったが、自分がそんな事が出来ない事ぐらい知っていた。
「まぁ、君の倉庫は盗む為にあるようなもんだし……」
「黙れ、クリフォード・プリンス」
スネイプは憎悪の籠った声で言い放った。
途端、医務室の入り口の方からバターンと大きな音を立てて扉が開いた。
「グレンジャー! 毎回言っていますよね!? 医務室に入る時には静かに……──「シルヴィア!!!」
ハーマイオニーはシルヴィアと目が合うなり、大声を上げた。そして、シルヴィアに駆け寄るなり、抱きついてきた。それと時同じくして、マダム・ポンフリーの事務室に居た者達が皆、飛び出してきた。
「ごめなさい、ごめんなさい! シルヴィアが……シルヴィアが1番辛い時に引き離してしまって!!」
ハーマイオニーは涙を流しながらそう言って謝った。その頃にはハリーとロンが遅れてやって来た。
「え、あ、え〜と……あ、うん……いや、その……」
シルヴィアはそどう返せばいいのか分からなかった。それに、皆が見ている間で抱きついているのも少々気不味かった。
「だ、大丈夫だよ。うん。あ、あんま……──「あぁ、本当にごめんなさい。何度謝っても許されないとは知っているわ」
シルヴィアはハーマイオニーの謝罪は止められないものだと悟り、約10分程度その謝罪を聞いていた。
シルヴィア自身、別にハーマイオニーが原因だとは一切思っていなかった。今、シルヴィアの心にあったのは継承者を許さない。と言う気持ちと怪物、バジリスクを倒す。と言う固い決意だけだったのだ。
「ご、ごめんなさい。ずっと謝り倒して……」
そう言ってハーマイオニーはシルヴィアから離れた。ハーマイオニーは涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっていた。隣の呆れ顔のロンからハンカチを渡されてそれで思いっきり拭いた。ロンはドン引きした表情でハーマイオニーを見たが、元の呆れ顔に戻った。
「なんとも! 尊い友情じゃ……」
そう言ってダンブルドアはハンカチで目元を拭った。
「さぁ、あなた達は一旦寮へお帰りなさい。ミス・ネクロタフィオに聞くべき事がいくつかありますから」
マダム・ポンフリーがそう言う。シルヴィアは一気に寒気が訪れた気がした。何を聞かれるのだろうか? あまり、踏み込んだ事を聞いて欲しくない。そう強く思った。3人は、不満気な表情のまま医務室を出て行った。
「シルヴィアよ。そう恐る事勿れ。たったの1つだけ、質問するだけじゃ……お主はあのクリスマス・イヴに何を見たのかね?」
「何を……見た……?」
シルヴィアは一瞬ダンブルドアの言っている事が理解できなかった。ただ、少しして思い出した。
「わ、私は……お母様を……見ました。」
「なるほど……やはりそうじゃったか」
ダンブルドアは何かを納得したように言った。
「実を言うと、あのクリスマス・イヴにクリフォード・プリンスの報告により、わしらはお主を探して回った。中々、見つからぬものだから焦ったものじゃ。すると、黒髪で灰色の瞳をした、少々自分の肩に雪を積らせた女性がお主を抱えて校庭からやって来たのじゃよ」
シルヴィアは目を見開いた。有り得ない。そんな事、現実的では無い。
「け、けど……あれは幻で……幻想で……」
「わしらとしても驚いたと同時に、彼女がお主の母君であると安易に推察する事が出来た。彼女はお主をわしらに任せるとすぐに校庭へ戻って行ってしまった。追ってみても、姿は無かった。雪に足跡すら着いておらんかった。……実に不思議な事じゃった。」
「な、何故……お母様はもう、死んでしまった筈なのに……?」
驚きで目を見開いて乾燥したのか、それとも哀しみと歓びで感情がぐしゃぐしゃになっているのか、涙が出て来た。
「お主は、お主の母君の愛によって生かされているのじゃろう。それだけは忘れはならんぞ?」
「は、はい……」
シルヴィアは大粒の涙を拭いながら答えた。視界は潤んでいた。
「ふむ、良かろう。では、お主の意識も戻った事だし、わしはここら辺でお暇させていただくの。」
ダンブルドアが立ち去ってから、シルヴィアはスネイプから追及を受けた。幸いな事にクリフォードがシルヴィアを庇おうとしてくれた。しかし、シルヴィアはあまりにも単純だったもので真実の全てを大体話した。
「教授から物品を盗み出すなど、言語道断。これから、学期終わりまで罰則を受けてもらう。罰則内容は後で通達する。」
そう鋭く言い放つと医務室からさっさと帰って行った。
「セブルスはそれなりに、シルヴィアの安否を気にしていたんだよ。まぁ、あまり悪く思わないでやっておくれよ……」
「あはは……今回は普通に自分が悪い自信があるよ……」
シルヴィアはそう言って苦笑いを浮かべた。マダム・ポンフリーは「貴女用の薬を持って来ますから」と行って何処かへ立ち去って行った。
「あ、そうだ……。クリフォードって蛇語が分かるって言っていたじゃない? ……スリザリンの、末裔なの?」
「広義だとそうなるだろう。僕の曽祖母はスリザリンの一族、ゴーント家の者だった。あの人は非常に邪悪な人だったさ……」
大層、自分の曽祖母を嫌っているような口調でクリフォードは答えた。
「クリフォードは……バジリスクって知っている?」
「な、なんで……バジリスクをし、知っているんだい?」
「……お母様に、教えてもらったの。秘密の部屋の入り口と一緒に……ね」
クリフォードは苦難に満ち溢れた表情になった。そして、暫くしてから口を開いた。
「──頼むから……秘密の部屋に行ってバジリスクを倒そう。だなんて考えないでおくれ……。今度こそ、君は死んでしまう……」
「え? そのつもりだったけど。それに、私、ちょっとスリザリンの継承者に怒っているの。私をこんな目に遭わせておいて……いや、何よりも学校のマグル生まれの子達を恐怖の奥底に叩き落としておいて、沈黙を貫くだなんて少し勝手がすぎるんじゃないかなって」
シルヴィアがそう言い切ると、クリフォードはあわあわしていた。
「君って……本当にスリザリン? グリフィンドールの方が向いてるんじゃないかな……」
「もしかしたら、そうかもね。けど、私にはきっと一生分からないよ。どこの寮に入るべきだったか、だなんて。
……私はもう入り口を知ってしまった。知らんぷりなんて出来ない。だから、私は絶対に秘密の部屋に向かってバジリスクを倒すよ。
……話し合いでどうにかなるものなら、ずっと楽だけど……世界はそんなに甘く無いって最近、知ったの。」
シルヴィアは完全に意気込んでいた。クリフォードは頭を抱え、暫くの間唸った。
「シルヴィア、聞いておくれ。勇敢と無謀は違う。今の君の言動は正直に言うと無謀だ……」
「勿論、何も考え無しでバジリスクに挑もうだなんて、そんな愚かな事はしないよ。準備していく。」
クリフォードはいよいよシルヴィアを止める事を不可能と感じ、無力感に悶えた。
「ミス・ネクロタフィオ。最低1週間は観察の為に入院してもらいますからね」
マダム・ポンフリーは水薬がたっぷり入ったコップを持って来て、シルヴィアに手渡した。
「えぇ……そんな……」
シルヴィアはさっさと退院して、秘密の部屋に行く為の準備を進めたかった。
「貴女の体にはまだ、多くの『生ける屍の水薬』が残っています。あまりにも大量に飲みすぎたのです。今、貴女が生きているのが奇跡なのです! ……その状態だと歩こうとでもすればすぐに倒れるでしょう。
勉学に遅れるなどの不安はある事は重々承知ですが、今はその薬を飲んで休んでいなさい。それまでスネイプ先生にも罰則は延期してもらうように申し付けておきますから」
「……はい」
シルヴィアはそう言われて、コップ1杯の水薬をなんとか飲み終えて、ベッドにまた横になった。マダム・ポンフリーは「ではおやすみなさい」と言って立ち去って行った。
「あぁ、本当にそうだ。彼女の言う通りだ。シルヴィア、君は休むべきだ。彼女も言っていた通り、あの量の『生ける屍の水薬』を飲めば普通は死ぬ。……僕に少しでも相談してくれれば、少しでも役に立てたかも知れないのに……。本当に、愚かな事をした。」
そう言ってクリフォードは立ち去ろうとするが、シルヴィアは「ちょっと待って」と言って引き留めた。
「なんだい? 秘密の部屋に行くのやめるって?」
「クリフォードも……『生ける屍の水薬』を大量に飲んで……結局、死んだんだよね?」
「……知っていたのかい。」
「あまり、意識はしていなかったけど……教科書に書いてあったし……」
クリフォードは深い深いため息を吐いた。
「あのカステロブルーシューの魔法薬学者*1め……僕に取材を申し込んできたと思えば、余計な事を書きやがって……」
そう呪詛を吐くように言った。
「カステロブルーシューって?」
「世界に11校ある魔法学校のひとつで、ブラジルにある魔法学校さ。薬草学と魔法動物学に特に力を入れているそうだよ。まぁ、君が今気にする事じゃないさ。」
シルヴィアにとってまず、魔法学校が世界に11校ある事について驚いた。そして、次にブラジルと言う場所が何処にあるのか一切見当が付かなかった。
「取り敢えず、僕は帰るさ。頼むから安静にしておくれよ」
そう言い残し、クリフォードは医務室から立ち去った。
◆
それからのシルヴィアは確かに、秘密の部屋がまた開かれないか。と言う不安には駆られていたが、取り敢えず安静に過ごした。
休み時間や放課後になるとハーマイオニーがやって来てシルヴィアが遅れを取っている、3ヶ月分の授業の講義をしてくれた。ただ、ハーマイオニーは教えるのはあまり上手とは言えなかった。
しかし、それでもシルヴィアはハーマイオニーのその親切心に感謝をして、自習も同時に進めた為、時間があまりにも有り余っていた為、1週間が経つ頃にはなんとなく追いつけるようになっていた。
「取り敢えずはオリビアの所に行かないと……会えてないのもあるし、彼女に頼まなくちゃいけない事があるからね」
シルヴィアは自分で作成したメモを見ながら、授業終わりに梟小屋へ向かった。
「オリビア〜居る?」
梟小屋に向かうも、オリビアは居なかった。
「う〜ん……おかしいな……」
「おぉ! これはいいところにおった。お前さん、シルヴィアだろう?」
そう言って後ろから現れたのは森番のハグリッドだ。
「え、えぇ……えぇっと? 何の御用でしょうか?」
「お前さんの梟がクリスマス過ぎた頃から弱っておってな。けど、お前さんは昏睡状態にあるって聞いて言ってやれてなかったんだ。あぁ、心配すんな。ちゃんと元気になっちょる」
そう言って、鳥籠を差し出した。
「オリビア!」
「シルヴィア……貴女は……」
オリビアは何処か呆れている様子だった。
「本人に伝える事が出来て良かった。じゃ、俺はここで失礼させてもらうぞ」
そう言ってハグリッドは帰って行った。シルヴィアは鳥籠からオリビアを解き放つ。するとすぐに飛び上がり、シルヴィアの腕に乗って思いっきり突っついた。
「こっのッ! お馬鹿ッ! オロカ者ッ! 自らイノチをッ! 絶とうだなんてッ! 愚か者ッ!」
そう言って、オリビアはシルヴィアの腕を突っつく。シルヴィアは痛い痛い。と言いつつ振り払う事は出来なかった。オリビアの言っている事が大体正しかったからだ。
「私がッ! どれほど、シンパイしたってッ! 思っているのよッ!」
「ごめんなさい……」
シルヴィアはただオリビアの心行くまで腕を突っつかせた。最終的には血だらけになったが、シルヴィアは決して止めなかった。
「やめてって言いなさいよ!」
オリビアが血だらけになった腕を目の前にそう言った。
「ごめん……」
シルヴィアはすぐにローブのポケットから茶色い液体、ハナハッカ・エキスの入った薬瓶を取り出した。そして傷口に塗り込む。すると忽ち、傷は止血された瘡蓋の状態にまで回復した。
「ねぇ、オリビア。私クリスマス・イヴの時に死んで……それで、お母様に会ったの」
「……そう、ハナシを続けて」
「突っ込まないんだね。まぁ、いいや。それで、お母様は教えてくれたの、秘密の部屋の入り口と学校中を恐怖に陥れている怪物の正体がバジリスクであるって事をね。私、スリザリンの継承者に怒ってるの。だから、一泡吹かせてやろうって。」
オリビアはただただ静かにシルヴィアの話を聞いていた。
「だから、オリビアにお願いがあるの。3匹ぐらいイタチを捕まえて来て欲しいの。バジリスク特攻の薬を作ろうと思って。あとで4階の北東の空き教室に持って来て。そこにはゴーストが居るから分かりやすいと思うよ。明日までによろしくね。」
「そう、ワカッタわ。猛禽類のホンキ、見せてあげるわ」
そう言って早速、オリビアは禁じられた森の方へ飛び立って行った。シルヴィアはただただそれを見つめていた。
「……オリビアにしては聞き分けがいいな……ま、この場合好都合だしいっか」
次にメモに従って、手頃な鏡を探す為に一旦寮に戻った。
スリザリン寮生はシルヴィアを見ても何も言わなかった。ダフネ達ですら詳しく言及する事は無かった。
また、他の寮の生徒達も何も言わなかった。シルヴィアを見てもコソコソ話し出す事も無かった。シルヴィアはそれがとても居心地が良く最高だった。
「ねぇ?」
寝室に入るとダフネ、パンジー、ミリセントの3人が丁度居た。
「何かしら?」
「要らない鏡とか無いかな? なるべく大きいといいんだけど……あまり酷くなければ割れててもいいんだけど……」
3人は少しだけ悩んでから思い出したような表情になった。
「あ、私が持っているわ。前に落としちゃって。デザインもあまり気に入ってなかったから、そのまま捨てちゃおうと思っていたんだよね。……ちょっと割れているんだけど……それでいいのよね?」
「うん」
そう言うとパンジーは怪訝な表情なまま、ベッドの下に置いてあった鏡を取り出した。鏡のサイズは縦20cm、横15cmのシルヴィアが予想した中で1番いいサイズの鏡だった。また、鏡には縁が付いており、縁には花の文様が少々派手目にあしらわれていた。
「おぉ〜! 最高! ありがとう、パンジー!」
シルヴィアは鏡を受け取るなり、そう言って丁重に紙袋に包んで鞄の中に入れた。
「けど、なんでそんな物が欲しいの?」
「ちょっと、使う用事が出来て。おっと、こんな時間だ。スネイプ先生の罰則に行かなきゃ」
そう言ってシルヴィアは部屋から抜け出した。3人は当惑した表情でシルヴィアを送り出した。
「え、待って、スネイプがスリザリン生に罰則だなんて聞いた事ないわよ!」
シルヴィアが出てってから数秒後、パンジーがそう叫ぶように言った。
◇
シルヴィアは恐る恐る、スネイプの罰則を受ける為に魔法薬学の授業が行われている地下牢教室へ向かった。地下牢教室へ向かう道は松明がいくつかあるとは言え、やはり暗く不気味な道だった。
「し、失礼します」
閉じられた教室のドアを叩いてからそう言う。中から返事が返ってくる事は無かったが、物音が微かに聞こえたのでシルヴィアは入っていいものだと判断して、ドアを押し開けた。
地下牢教室はやはり暗く、陰気な雰囲気だった。スネイプは何やら明日の授業の準備をしているようで、魔法薬の材料をすり潰したり煎じたりをしていた。
罰則とは何をするのだろうか? シルヴィアには日時のみの通達だった為に、何をするのかが完全に未知数だった。書取りだろうか? シルヴィアは色々と考えたが、思い付かなかった。
「やっと来たか。遅くて忘れてしまったかと思った」
スネイプはまず皮肉をシルヴィアに浴びせた。
「罰則とは何をするのですか?」
「……そこの魔法薬学で使う器具を洗うのだ」
シルヴィアが完全にスネイプの皮肉を無視したので、スネイプは苦々しい表情でそう言った。流し台に置かれていたのは大鍋8個、小刀5本、薬瓶9本、かき混ぜ棒5本だった。
このくらいは杖でちょちょいのちょい。だと思ってローブのポケットから杖を取り出そうとした。
「君が魔法使いである事は重々承知だが、これは罰則だ。魔法無しで洗いなさい」
「えっ……」
シルヴィアは絶句した。今の今まで洗い物の山は丘程度に見ていたが、今ではベン・ネヴィス*2よりも高く見えた。
「何か文句でもあるのかね?」
「い、いいえ……ありません……」
シルヴィアは洗い物の山に向き合ってから、仕方がなく袖捲りをして、洗い物に取り組んだ。
水道を捻れば水が出て来る。その水は3月とは言えまだ冷たかった。
シルヴィアは黙々と作業を続けたし、スネイプは特にシルヴィアの行動に突っ込みはしなかった。きっと自分がグリフィンドール生ならば、ズケズケと小言を言われただろう。
しかし、何故、彼はグリフィンドール生を不倶戴天の敵かのような接し方をしているのだろうか? もう少し、教授として私情を挟まない方がいいのではないか。
シルヴィアは心の中でスネイプへの小言をひとしきり言ってみた。
「……終わりました。」
約1時間後、シルヴィアはやっと洗い物を終えた。洗剤も無く、水の勢いと己の手で洗わなければいけないのはそれなりに大変な作業だった。シルヴィアの手はすっかりとふやけていた。
シルヴィアの声を聞いて椅子に座っていたスネイプはわざわざ仰々しく立ち上がり、シルヴィアが洗った洗い物の検査を始めた。
「──まぁ、自身の手で魔法薬を作っていたからか、洗い物は得意らしい」
スネイプはそう、いちいち皮肉っぽく言うと、シルヴィアに「もう帰りなさい」と一言言った。
「では、失礼します」
そう言ってシルヴィアは足早に魔法薬学の教室から立ち去った。
シルヴィアのメモ帳の次の項目には『予備食料』と書かれていたが、今日は既に夕食の時間を過ぎてしまっていたので、明日に回す事にした。
「う〜ん、早ければ1週間後ぐらいには部屋に行けるかな……それまでに死者が出なきゃいいけど……。スネイプ先生の罰則さえなければもう少し早く終えれるんだけどなぁ……」
シルヴィアは若干落ち込みながら、廊下を抜けた。そして、石の壁の前で『バジリスク』と言い、スリザリン寮へ入って行った。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。
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