呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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第25話 I will always be by your side.

 シルヴィアは細長く奥へ延びる、薄灯の部屋の端に立っていた。近くには蛇が絡み合う彫刻が施された石の柱が、上へ上へと聳え立っていた。天井は暗闇に吸い込まれて見えない程高く、妖しい緑がかった何かが漂っていた。

 バジリスクは、スリザリンの継承者は一体何処に潜んでいるのだろうか?

 シルヴィアは自分の肩にかけてある鞄の紐を固く握り、杖を前に構えながらゆっくりと前へ進む。一歩一歩数進むたびに、シルヴィアの足音が、薄暗い壁に嫌に反響した。

 オリビアもまた、静かに何者かの音を1つたりとも聞き逃さんとしていた。

 

 薄暗い中、奥へ奥へと慎重に進んで行くと、部屋の天井に届くほど高く聳え立っている石像が、壁を背に立っているのが目に入った。シルヴィアもオリビアも無言でその巨大な石像の顔を見た。

 年老いた猿のような顔に、細長い顎髭がその魔法使いの流れるような石の裾まで伸びており、その下に巨大な足が2本、滑らかな床を踏み締めていた。

 その下にこの場に置いて不自然な何かが落ちていた。

 

「これは……一体?」

 シルヴィアはその何かに近付いて言葉を発する。シルヴィアの声は部屋の中で嫌に響いた。

「ノート……かしら?」

 確かにそれはノートだった。水に浸った日記帳と思われる物だった。シルヴィアは恐る恐る落ちている日記帳を覗き込む。表紙の文字はすっかり消えかけている。ただ、日記の開始日は1942年9月1日と書かれていた。50年前の代物のようだ。

 シルヴィアが日記の1ページ目を開くと名前が書かれているのが読み取れた。

「T・M・リドル……? 誰なのかな?」

「う〜ん、サッパリ分からないわね」

 シルヴィアは日記帳を捲ってみた。しかし、日記帳には何も書かれていなかった。何か、今日1日の感想やら今後の予定やらが書かれていてもおかしく無いのに。そうシルヴィアは不自然に思った。

 

「けど、ここに落ちているって事は……スリザリンの継承者の物って可能性が高いよね。50年前なのが不自然だけど……」

 シルヴィアはまた探偵のポーズを取りながら、思考に明け暮れる。しかし、謎は解ける事無く、時間ばかりが過ぎていく。シルヴィアは日記帳を拾い上げ、詳しく見ていく。

 

「本当はハリー・ポッターにも会ってみたかったが……君だけでも十分だ。」

 シルヴィアの後ろから声が聞こえた。素早く振り向くと背の高い、黒髪の少年がすぐそばの柱にもたれながらこちらをみていた。まるで曇りガラスの向こうにいるかのように、輪郭が奇妙にボヤけている。

 シルヴィア自身は他人の美醜には詳しく無い方だが、彼は確かにハンサムである、と分かった。

「やぁ、初めまして。シルヴィア・ネクロタフィオ。僕の名前はトム・マールヴォロ・リドル。」

 そう言って人が良さそうな笑みを浮かべた。しかし、シルヴィアもオリビアもすっかり目の前の少年。トム・リドルを警戒していた。

「あ、貴方が……スリザリンの継承者……ですか?」

 シルヴィアは声を震わせながらリドルに問う。彼は笑みを崩さなかった。

「まぁまぁ、折角だ。少しばかり話そうじゃ無いか?」

 そう言って、リドルはまた笑みを浮かべた。

「……沈黙。って事は了解の意味でいいね?」

「貴方は……ゴーストですか?」

「いや、記憶だ。その君が今持っている日記の中に、50年間残されていた記憶だ」

 そう言ってシルヴィアの手にある日記を指差した。

「それでも、まさか、今の時代にネクロタフィオ。と言う名字を持つ人間が居るとは思わなかった。」

「……よく言われます。」

「だろうね。君はどのくらい自分の一族について知っているのかい?」

 リドルは大層興味深そうに聞いてきた。シルヴィアはホグワーツに来てから色んな人に言われ、教えてもらった知識しか知らなかった。

「あまり……知りません。500年前に名字が変わったらしい……って事と、とんだ殺人趣味を持った一族だった。と言う事しか……」

「あぁ、確かに。僕としても不思議に思っている。君のその立場ならばローズブレイドと名乗った方が自然だ。しかし、そう名乗っていなかった。君のご両親は一体?」

「……それもあまり……。最近になって、自分には養父母が居た。と言う事実とその養父母がヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア・ローズブレイドである。と言う事を知っただけです。その養父母がどうなったのかも……記憶に無くて」

 シルヴィアはそう今まで起きた事を整理するように言った。

「あ、けど……前に……し、死のうとした時に……母親の幻を見ました。母によれば……私の曽祖母はスリザリンの末裔のゴーント家だった。とは聞きました。だから、私は蛇語が喋れるんだって……」

「なるほど……シルヴィア。君は実に不思議な存在だよ。君は秘密の部屋の正門。と言うよりは旧入口から入ってこれた。あそこは話によれば、17世紀に水道工事が施工された時に、当時のスリザリンの末裔だったコルヴィヌス・ゴーントと言う人物が他の場所に入口を移した為に、継承されなくなったそうだ。」

 いくら察しの悪いシルヴィアでも何と無く察する事が出来た。彼がスリザリンの継承者で間違いないだろう。と言う事実を。

 

「貴方は……一体、何のつもりで秘密の部屋を開いたのですか?」

「シルヴィア? 君がもし死に急ぐ愚か者でなければもう少し僕とお喋りしよう。」

 リドルは優しい声で、しかし言いつけるように言った。シルヴィアはすっかり怯えてしまった。

「あはは、そう怯えなくていいんだ。僕は人生の中で初めて出会ったんだ。スリザリンを祖にする生きている魔法使いをね」

「……」

「スリザリンは実に偉大な人だった。彼はゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクローらと共にこのホグワーツを創立した魔法使いだ。そして、彼は魔法教育を魔法族のみに限定するようにと主張した。確かにそうだ。この神聖なる城にマグルの穢らわしい足を入れる訳にはいかない」

「……」

「僕たち魔法族は特別な才能を持っている。しかしながら、マグルは実に平凡だ。……つまらない程に。それなのに、マグルは魔法族を差別し挙句の果てには異端だと罵って殺した! ……シルヴィア。君はそんな現実、不条理だと思わないかい?」

 シルヴィアの中の何かが叫んでいる。『ソウダ! 現実トハ不条理ナモノデアル。我々ハ、ソレォ呪ウシカ無イ!

 

「シルヴィア。落ち着いて。ゆっくりとシンコキューをして」

 そう、腕に乗っているオリビアがシルヴィアに優しく問いかける。シルヴィアはゆっくりと深呼吸をした。冷たい湿った空気が自分の身の中に入ってくるのは少々、不快だったが、それでも十分落ち着く事が出来た。

「……君は実に特別な存在さ。僕は、この姿になってから魂を見る。と言う能力を少しばかり得た。君……あぁ、その梟も含めて……不思議な魂の形をしている。1つの確固たる魂がありながら、その横に継ぎ接ぎの魂がいくつか漂っている。そんな魂だ。」

 シルヴィアにはこのリドルが言っている事が理解出来なかった。一体、彼は何を言いたいのだろうか?

「君は不自然に思った事は無いのかね? その()()()()()()()について。その不自然なほどに強大で制御しきれない魔力について。」

「なっ……」

 シルヴィアは目を見開いて驚いた。何故、この少年が知っているのだろうか?

「勿論、僕自身はその声や魔力について何か情報を持っている訳は無い。何故なら、この時代の僕は君を知らないからだ。けれども、未来の僕は君を知っている。君についての情報を得た。」

「み、未来の……貴方?」

「未来の僕は実に偉大な存在になったよ。死を凌駕し、完全無欠の唯一無二な存在になった!」

 リドルはそう満面の笑みで言った。シルヴィアはその様子がとても怖かった。そんな様子をリドルは少しばかり面白おかしくみていたが、少してから、指で空中に文字を書いた。3つの単語が揺めきながら淡く光った。

 

 

TOM MARVOL RIDDLE(トム・マールヴォロ・リドル)

 

 リドルは文字に手を翳す。すると名前の文字が並び方を変える。そこで現れた文字にシルヴィアもオリビアも驚愕の表情を隠せなかった。

 

 

I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿だ)

 

「分かったね? この名前はホグワーツ在学中に既に使っていた。勿論、親しい友人にしか明かしていないが。……穢らわしいマグルの父親の姓を僕がいつまでも使っていると思うかい? 母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れている僕が? 穢らわしい、俗なマグルの名前を。僕が生まれる前に、母が魔女だと言うだけで捨てた奴の名前を、僕がそのまま使うと思うかい?」

 リドルはそう大層恨めしそうに語り始めた。

「……君は分からないだろう。生まれた時から既に純血一族の、それも過去の栄華を極めた一族の名前を名乗っている君には理解出来ないだろう? けど、まぁ、それでもいいんだ。」

 シルヴィアは既に2歩、3歩とヴォルデモートから離れて行っていた。

「君は素晴らしい。君のその血もその才能もその身に宿している存在も全てが素晴らしい! 君はマグルに強い憎しみを抱いている。僕にはその事が手に取るように分かるんだ。僕の元に着けばマグルへ復讐を果たせるのだ! あの怨みを果たせるのだ! 君はそのまま衝動に身を任せればいい。そうすれば全てが成るんだ!」

 リドルはそう嬉しそうに語り始めた。

 

「わ、私は! 嫌だ! 貴方の元に着くものか! 貴方みたいに、マグルやマグル生まれの子達を死んでいいと言うような人にはならない! なるものか!」

 シルヴィアはそう叫んだ。するとリドルは一瞬で興味を失った表情になった。

「人の命は! マグルも魔法族も平等に全て平等に尊くて素晴らしいものだ! 貴方は間違っている。この世に死んでいい命なんて無い!」

「……君は愚かなお嬢さんだ。……君はこの世界が綺麗事1つで成り立つと本当に思っているのかい? なら、君は本当に本当に幸せ者なんだろうね。」

 リドルは憎悪の感情を向けてきた。シルヴィアはまた2歩、3歩と下がっていく。

 

「僕の未来は君以上に君の事を良く知っている。君が永遠と謎に思っていた事は僕の未来が答えを持っている」

「……そんな、言葉に乗るものか!」

「そうかい? 僕の未来は例えば……君の養父母の最期を知っている。それに、君の出生だって知っているさ。そして、君の身に振りかかった悲劇。君の身に宿る謎の衝動。それら全てを知っている。」

「貴方の元に着くぐらいなら、いっその事死んだ方がマシだ!」

 シルヴィアはそう言い放った。リドルは大層驚いた表情をした。

「なんで、君はそこまでムキになってマグルを庇おうとするのかい?」

「私には、マグル生まれの友達が居る。彼女は私の……私の初めての友達だ。それに、彼女はとても優秀で少しお節介なところもあるけれど、優しい。……貴方みたいな人には分からないだろうけど、友達って素晴らしい物なんだよ」

 

「……あぁ、そうだろうね。僕には一生理解出来ないさ。何か面白い論理でも聞けるかと思えば、友達だの何だの。……君には実に失望したさ。」

 そう言ってリドルは歪んだ笑みを見せた。そして、何かすると思えば特に何もせずにその場を離れた。彼がどこまで行くのだろう。と横目で見ていると一対の高い柱の間で立ち止まり、ずっと上の方に、半分暗闇に覆われているスリザリンの石像の顔を見上げた。横に口を開くと、シューシューと言う音が漏れた。シルヴィアにはその声が何を言っているのか理解してしまった。

 

スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ

 シルヴィアはゆっくりとオリビアと共に石像を見上げた。スリザリンの巨大な石の壁が動いている。恐怖に心が支配されていく感覚をひしひしと味わった。石像の口はだんだんと広がっていき、遂に大きな黒い穴になるのを見ていた。

 何かが石像の口の中でうごめていた。そして、奥の方からズルズルと這い出てきた。

 

「シルヴィア! 目を瞑って!」

 オリビアが咄嗟に声を出した。オリビアはシルヴィアの肩から飛び立ってしまった。1人にしないで! と言いたかったが、それどころでは無かった。

 それと同時に何か巨大なものは部屋の石の床に落ち、床の振動が伝わってきた。何が起こっているのか分かる。感覚で分かってしまった。巨大な蛇がスリザリンの口から出てきたんだ! 正気が失われるような感覚が訪れる。

 しかし、ここは冷静に目を瞑りながら鞄の中を掻き回す。中々、お目当ての物は見つからない。

 

あいつを殺せ

 そのリドルの低い声と時同じくして、バジリスクがシルヴィアに近付いてくる。床をズルッズルッとずっしりとした胴体を滑らせる音が聞こえてきた。

 シルヴィアはしっかりと目を瞑り、後退りしながら鞄の中を掻き回す。あんだけ大きい鏡だ。何故、こう言う時に限って見つからないのだろう?

 

「あった!」

 シルヴィアは鏡を自分の前に掲げる。しかし、途端、バジリスクの牙によって引き裂かれてしまった。

「バジリスクには鏡なんて平凡なものは効かないさ」

 そうリドルのせせら笑う声が聞こえてきた。そんな! こう言うのは大抵、鏡を使って自分の能力を跳ね返して倒すものだろう! そうシルヴィアは叫びたかった。しかし、バジリスクはもう目の前に居る。

 シルヴィアは左手に握っていた杖を振るい、結膜炎の呪いを放つ。しかし、それは恐らくバジリスクの目には当たらなかったようで、バジリスクはまだシルヴィアに滑り寄ってきていた。

「〈ディフィンド 裂けよ〉!」

 そう呪文を唱えると途端、狂ったようにシューシューと言う大きな音が聞こえ、何かがのた打ち回っている音を聞いた。それはバジリスクが苦しんでいる声だとすぐに分かった。目を上手く潰せたのだろうか?

 

「シルヴィア! 目をアケナイで! まだカタメしか潰れていないわ!」

 オリビアがそう言う声が聞こえた。その次の瞬間、バジリスクは先ほどよりも苦しみ始めた。シルヴィアは不運にもバジリスクの尾にぶつかり、数メートル離れた壁に衝突した。

「もうアケテいいわ!」

 オリビアの声がして、シルヴィアはゆっくりと出来るだけ細く目を開けた。するとまず目に飛び込んで来たのは巨大な蛇だった。そして、その蛇はテラテラと毒々しい鮮緑色の樫のように太い胴体を持っていた。そして、その胴体を高々と宙にくねらせ、その巨大な鎌首は酔ったように柱と柱の間を縫って動き回っていた。

 宙にはオリビアが果敢にも飛んでいた。彼女は器用にバジリスクの攻撃を避けつつ、自分は攻撃をしていた。

 シルヴィアは痛む自分の体を何とか動かして、鞄の中から薬瓶を探し始めた。これが「今がチャンス」と言う奴なのだろう。

違う! 鳥に構うな! 放っとけ! 小娘は後ろだ! 臭いで分かるだろう! 殺せ!

 盲目の蛇は混乱しながらもシルヴィアの方を向いて来た。シルヴィアは、立ち上がりバジリスクと相対した。薬瓶を開け、中身をバジリスクに投げ込んだ。

 すると、バジリスクはシュッーシューッと目を潰された時よりも踠き苦しみ始めた。ただ、致命傷までには言っていないようだった。シルヴィアはすかさず2本目の薬瓶を取り出してバジリスクに投げ込む。薬が鼻にかかったお陰か先ほどよりもずっと苦しみ始めた。

 それでも、バジリスクは懸命にシルヴィアの方へ近付いていっている。オリビアの攻撃に反応せずにシルヴィアの方へ向かっていた。シルヴィアは懸命に3本目、4本目と薬を投げ続けた。薬は残り、3本。シルヴィアは焦りを感じ、後退りする。

 やはり、対バジリスク毒薬を作る。と言うものは難しかったようだ。あまり致命傷になっていないように見える。

 

 シルヴィアは遂に部屋の端に追い詰められた。バジリスクは大きな口を開けてシルヴィアに噛みつこうとしていた。

 

「シルヴィア、アブナイ!」

 オリビアが急降下してシルヴィアとバジリスクの間に入り込んだ。そして……

「オリビア!!」

 バジリスクはオリビアの羽を挟んで噛み付いた。オリビアは苦しみの声を上げた。ただどうにかして、バジリスクが口を開けた時にすぐ逃げ出した。

 オリビアの右の翼はグロテスクな程に傷付き、血だらけになっていた。シルヴィアはここで最悪な事を思い出した。バジリスクの牙には毒が含まれている。

 一応、毒消しになる物は持って来ている(勿論、スネイプの個人用保管倉庫産だ)。しかし、隙を作るか倒すかしないとオリビアを治療する事は叶わないだろう。

 

 シルヴィアは意を決して、残っている3本の薬瓶の蓋を開けた。そして、次バジリスクが口を開いて自分に突進して来た時、シルヴィアは自分の腕ごと薬瓶をバジリスクに突っ込む。そして、薬をバジリスクの舌に落とした。

 バジリスクは先程よりも踠き苦しんだ。倒せたと思った。しかし、それと同時に肘あたりに焼けつくような痛みが走った。長い毒牙がシルヴィアの腕に突き刺さり、徐々に食い込んでくるところだった。

 毒牙の破片をシルヴィアの腕に残したまま牙が折れ、バジリスクはドッと無様に床に倒れ、ヒクヒクと痙攣した。倒せた。スリザリンが残りした怪物を倒す事が出来たのだ。

 シルヴィアは安心と疲労で床に倒れ込んだ。しかし、懸命に意識を保ちオリビアの方へ這い寄る。

 

 オリビアの元に辿り着いたシルヴィアはオリビアの傷口をまず抑えて、これ以上毒が回らないように布で羽を縛った。そして、オリビアの嘴を開けて解毒剤を流し込み、それを飲ませる。

「オリビア……どうか、どうか……起きて……」

 シルヴィアは祈るように言ったが、オリビアは反応を示さない。オリビアの心臓を探し当て手で押さえている。僅かに動いている。彼女は、オリビアはまだ生きているのだ。

「動物と人間の儚い友情だね。君もその梟も、もうじき天国さ。確かに、ネクロタフィオ家の生き残りが死ぬのは悲しい事だけども……まぁ、君にはもう価値は無い」

 そうリドルは嘲るように言った。シルヴィアの意識も徐々に薄れていった。視界は歪み、床に倒れ込んだ。

 

「君は死ぬんだ。僕はここに座ってネクロタフィオ家の臨終を見物させてもらおう。ゆっくりやってくれ、僕は急ぎやしない。」

 そう言ってリドルは座り込んだ。

「あ、そう言えば、僕がどうしてこうやって姿を現せているか話していなかったね」

 リドルはそう太々しく言うと勝手に語り出した。

「僕はその日記に入っている記憶に過ぎない。記憶は形にはなれない。けれども……僕のその日記は、半世紀を経てとある少女の手に渡った。それは、ジネブラ・ウィーズリー。あの小娘は何ヶ月も何ヶ月もその日記に馬鹿馬鹿しい心配事や悩みを書き続けた。小娘は得体も知れぬ日記に心を開いたんだ。それは魔法界的には自分の魂を注ぎ込む行為。それのおかげで僕はあの小娘を操る事が出来た。」

 シルヴィアは恐ろしい事に気がついてしまった。

「じゃ……じゃあ……バ、バジリスクを……しか、仕掛けた……のは……」

「そうさ。ジニーのおチビちゃんだ。但し、ジニーは自分のやっている事を最初のうちは全く自覚をしていなかった。馬鹿なジニーが日記を信用しなくなるまで随分と時間がかかったものだ。しかし、とうとう変だと疑い始めて捨てようとした。その時に現れたのはハリー・ポッターだった。

 彼との会話は確かに楽しかったさ。けれども、少して、またジニーの手に日記は渡った。ハリーの手にある日記を見て僕が全てバラしてしまわないか。と心配になったんだろうね。僕はどんだけ怒った事か。」

 ただ唖然としながらシルヴィアは薄まっていく意識の中、リドルの話を聞いていた。

 

「その頃……とある事件が起こっていたんだ。3日前から君が失踪している、と。君が秘密の部屋に向かっていると言う事は安易に予想出来た。僕は君もスリザリンの末裔である。となんとなく知っていたからね。僕は嬉しかった。だから、ジニーに日記をここに置かせた。そして、また戻してやったんだ。君と話せるならばおチビちゃん1人の魂などもうどうでもいい」

 リドルは大層嬉しそうに話していた。

「君が日記に触れた途端、日記には膨大な魔力が注ぎ込まれた。それのお陰で僕はこうやって存在する事が出来ているわけさ。君はあまり自覚していないようだけど、君の魔力量は目を見張るものがあるよ。まぁ、操る才能が少々乏しかったのが、本当に残念だったが……」

 そう言うとリドルはシルヴィアの方を見た。

「おや? そろそろ死にそうかい?」

 視界はリドルが話始めた頃よりもずっと狭まり、今ではオリビアさえ見えない。確かに自分はもう意識は保てないと気が付いていた。

「では、ゆっくりお休み。次はハリー・ポッターに会えるといい……──だ、誰だ!?」

 リドルは急に恐れの声を上げた。シルヴィアの傍から立ち上がる気配を感じた。

 

「さぁ? 強いて言うならば、この子の母親かしら?」

 暖かい。聴き慣れた女性の声だった。

「もう少し意識を保ってちょうだい」

 女性はそうシルヴィアに向かって言った。女性はシルヴィアの腕を掴んで、牙を引き抜いた。すぐに布でシルヴィアの腕を縛って血を止め、これ以上毒が回らないように処置をした。

「貴方がそこまでご丁寧に話して貰わないと貴方の倒し方を思いつかなかったわ。残念だったわね、トム・マールヴォロ・リドル」

「や、やめろ!!」

 リドルの悲痛な声は打ち消され、すぐに彼自身の耳を劈くような叫び声に変わった。その悲鳴は長々と続き、遂に聞こえなくなった。

 

「これで、こっちの方は一件落着ね。」

 そう言うとすぐに女性はシルヴィアの方へ向かって来て、シルヴィアの鞄から色んな物を取り出して治療を始めた。

「あ、……貴女……は?」

「私は、貴女の母親よ。あまり喋らないで、毒が回るわ」

 そう言われ、シルヴィアは聴きたい事が山ほどあったが、渋々黙った。シルヴィアは自分の意識手放さないよう、懸命に耐えた。

「これで貴女の方も一件落着ね。」

「お、お母……様?」

「大丈夫よ。時期に助けはくるわ。貴女の心強い友人達が貴女を助けに来てくれる。」

「ど、どうして……おか……お母様が……?」

 シルヴィアは絞り出すように最初の問いをぶつけた。

「私はいつでも貴女を見ている。私はいつも貴女のそばにいる。それだけよ。少しの時間だけだったけれども、私は貴女に会えて嬉しかった。貴女は強いわ。どうか、誇りを忘れずにそして無理せずに……その歩みを進めてちょうだい」

 シルヴィアの微かな視界にも見えた。黒髪で灰色の瞳を持つ女性の瞳に涙が浮かんでいる事を。そして、シルヴィアの頬に女性の涙が落ちた時、シルヴィアの意識は暗闇にへと落ちていった。

 

 

 ハリー、ロンはマクゴナガル、スネイプ、フリットウィックを連れて秘密の部屋へと突入した。

 秘密の部屋には大蛇の無様な死体が転がっていた。そして、その傍にシルヴィアとシルヴィアのペットの梟であるオリビアが倒れていた。

 

「シルヴィア! シルヴィア!!」

 ハリーはシルヴィアに駆け寄った。その声に釣られ、その他4人も倒れているシルヴィアに駆け寄った。そして、マクゴナガルがシルヴィアの息を確認し始める。

「せ、先生! シルヴィアは……!?」

「わ、僅かにですが……息をしています……! 生きています!」

 皆が胸を撫で下ろした。スネイプは床に転がっている日記帳と牙のカケラを慎重に拾い上げた。そして、シルヴィアの腕の傷跡と見比べた。

 

「まさか……バジリスクの毒牙を受けたのか?」

「なっ、それでは生きているのが奇跡ではありませんか!?」

 フリットウィックがそうキーキー声で言った。スネイプはシルヴィアの近くに散らばる薬を見た。

 

「我輩の個人用保管倉庫の在庫がやたらと減っていると思ったら……あれから懲りずにまた盗っていたのか……しかし、これだけの治療を自分の手で出来る筈がない……。それに布の結び目から見ても明らかに他人から治療を受けている。……誰からだ?」

 スネイプはそう独り言を言った。その独り言は誰の耳にも入っていなかった。

「さぁ、早くシルヴィアと梟を医務室に運びましょう!」

 そうして、1人と1匹はすぐさま医務室へと搬送された。





トム・マールヴォロ・リドル:
 ヴォルデモート卿の過去。
 アナグラムを頑張って考えた。
 同じスリザリンの末裔と出会えて有頂天だった。自分の主張、スリザリンの思想を全否定されて怒ってる。
 色々喋りすぎた所為でシルヴィアの母親? によって倒された。

バジリスク:
 目を潰されたり、毒薬を浴びせられたり。少し可哀想な奴。地獄でスリザリンと再開しているよ(多分)

ハリー、ロン:
 クリフォードに教えてもらった行き方を教授達に教えて、シルヴィア救出の為にやって来た。
 しれっと、ハリーの活躍の場が減っている。グリフィンドールの剣ぃ……

マクゴナガル、スネイプ、フリットウィック:
 ホグワーツの先鋭教授。スプラウト先生はマンドレイク薬を飲ませている。

ジニー:
 一連の(操られていたとは言え)犯人。シルヴィアが言うかジニーが自白しなければバレる事はないでしょう。

I will always be by your side.:
 訳.私はいつも貴女のそばにいる


次回投稿日は未定です。なるべく今週中に出せるようにしたいです。

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