『少しの時間だけだったけれども、私は貴女に会えて嬉しかった。貴女は強いわ。』
目は開かない。静かすぎて、耳鳴りが聞こえてくる静寂の空間でその声だけが響いている。懐かしい。誰の声だろうか?
『これから幾千幾万と貴女には哀しみが降りかかってくるでしょう。けれども、それと同じく幾千幾万の歓びが貴女を包んでくれるでしょう』
そうだ、この暖かい声はお母様の声だ……! 私は、その声に応えようとする。しかし、声は出ない。
『誰かの恨みや憎しみに呑み込まれる事無く、ただ、誇りを忘れずに信じたその道を無理せずに歩み続けなさい。』
瞼が開いていないと言うのに眩しい、と言う感覚だけを覚える。お母様はまた何処かに行ってしまうのだろうか?
『私はいつでも貴女を見ている。貴女には見えないけれども、私はいつも貴女のそばにいる。さぁ、そろそろ目覚めるのよ。貴女を待っている人が沢山居るわ』
意識がふわりと浮かんでいくのを感じた。お母様は見えないけれども、きっと私の傍に居る。それだけで私は嬉しかった。
『どうか……貴女は、貴女は幸せになって……──』
◆
次の瞬間、まぶたの裏に眩しい光が差し込む。ゆっくりと目を開くと、ぼやけた視界が最初に見えてくる。徐々にその視界はハッキリとしたものになって、今居る場所が医務室である。と
ホグワーツに入学して2年間。一体自分は何度医務室で目覚めれば気が済むのだろうか? シルヴィアのにはそんな感情すら湧いてくる。けれども、先ほど見た自分の母親の声を聞いて今やどうでも良くなった。
「あら、やっと起きましたか!」
マダム・ポンフリーは目を開きながらも未だ微睡の中を漂っているシルヴィアを発見するとそう声を出した。そして、一瞬で踵を返し、何処かへ行ってしまった。
けれども、すぐに戻って来た。その頃にはシルヴィアは先ほどよりは意識をハッキリとさせていた。
「さぁ、水を飲みなさい。貴女は1ヶ月近く眠っていたのですから!」
そう言ってマダム・ポンフリーはシルヴィアに押し付けるようにコップを渡して来た。シルヴィアはそのコップを受け取り、4分の1ほど水を口に流し込んだ。その、冷たくも無く熱いわけでも無い水はすぐに体温と同化し、飲み込まなくとも無くなっていったのを感じた。
「貴女の梟も怪我を負っていましたが、ハグリッドが引き取って1週間前にはすっかり元通り元気になっていますから安心してください」
マダム・ポンフリーはまずそう言った。シルヴィアとしても心に引っかかっていたので、大層安心した。
「ダンブルドア校長を呼んできますから。ここで安静に待っているのですよ?」
そう言ってまたマダム・ポンフリーは忙しそうにどこかへ行ってしまった。シルヴィアはまた水を口に流し込んだ。
今の自分に安静にする以外の行動が出来ないのに、わざわざそんな言いつけるように言わなくとも……っとシルヴィアはこっそり呟いた。その呟きを耳に入れる者も居らず、呟きは医務室に溶けていった。
10分ほどすると、外から足音が聞こえて来た。
「おはよう。シルヴィア。目覚めはどうかの?」
ダンブルドアはそう言ってシルヴィアは微笑みかけた。こんな状況、少し前にもあったような気がしたが、気にしては負けだと感じた。
「……まぁ、いい方です」
「それは良い良い。少々、わしにあの秘密の部屋で起こった冒険譚を聞かせてはくれぬかの?」
ダンブルドアはそう自然に聞いて来た。
「えっ、えぇっと……」
シルヴィアはあの地下にあった部屋(オリビア予想ではスリザリンの私室)の洋服箪笥から地下へ降りて行き、迷宮を通り抜けて秘密の部屋に入った事。そして、そこでトム・マールヴォロ・リドルと言うヴォルデモートの過去と出会った事。その後、バジリスクとの決闘。何故だか分からないが現れた自分の母親がトム・マールヴォロ・リドルにトドメを刺した事と自分を治療してくれた事。
これら全てを丁寧に語った。丁寧に語りすぎて、実に1時間程度シルヴィアは話していた。しかし、ダンブルドアはそんなシルヴィアの話を傾聴していた。
「なんとまぁ、驚きの連続じゃ。」
ダンブルドアは最初にそう言った。
「わし自身もホグワーツ城の全てを知っている。と自分を過信している訳ではないのだが、それなりに知っているものじゃと思った。しかしながら……スリザリンの私室と思われる部屋があるとは……」
感心したようにそう言った。
「随分と埃を被っていて、あまり綺麗な部屋ではありませんでしたけどね……」
シルヴィアはそう言って苦笑した。
「しかし、良かった。秘密の部屋に1人で行ってしまった。と聞いた時はどうなるかと思った。しかしながら、お主はバジリスクとスリザリンの継承者を鮮やかに倒し、大殺戮の刃を封じ込めてくれた。これは偉大な働きじゃ」
ダンブルドアは実に嬉しそうに語った。その笑みにシルヴィアも少し釣られて笑みを浮かべた。
「ホグワーツの長い歴史の中でも中々の功績じゃろう。よって、お主には『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それに、お主の功績によりスリザリン寮には200点加点じゃ」
シルヴィア自身、スリザリン寮の点数は知らなかった。ただ、200点の加点だ。圧倒的な加点である。これはもしかしたら……。
「今年の寮杯はスリザリン寮じゃな。お主が退院出来る。とマダム・ポンフリーからお許しが降る頃には学年末パーティーが催されるじゃろう。お主の学友の話によれば、お主は未だまともに宴会を参加した事が無い。と聞いたからの。」
シルヴィアはその事実に苦笑した。なんやかんやでシルヴィアはホグワーツの宴会にしっかりと参加した事が無かった。(去年の学年末パーティーはいつの間にか眠っていた)
「あぁ、それと……バジリスクが倒された、と言うお祝いで期末試験は中止。とマクゴナガル先生が仰っておった」
「え! 良かった〜!」
期末試験無しの情報は『ホグワーツ特別功労賞』が授与されると言う話よりも、寮に200点加点される。と言う話よりもずっと嬉しかった。今年のシルヴィアは勉学に遅れを取り過ぎていたのだ。
このままではシルヴィアの特に不得意な『魔法史』や『変身術』で遂に赤点を取りそうな気がしたからだ。
──ただ、その嬉しい話題よりもシルヴィアにはずっと気になっている事があった。
「そ、その……校長先生。『例のあの人』の過去であるトム・リドルは不思議な事をいくつか言いました……」
「ほぉ? 何かの?」
「彼は……私の養父母の最期を知っている。と言っていました。それに、私の出生や私の身に振りかかった悲劇。私の身に宿る謎の衝動。それら全てを知っている。そう言っていました。わ、私には……何の事か……さっぱりで……」
ダンブルドアはシルヴィアの言葉を聞くと、すっかり悩んだ表情になってしまった。
「そ、それに……さっき言ったように私は結局、トム・リドルにトドメを刺せませんでした。しかし、お母様が……お母様が現れて、何かをしました。彼は苦しみ出して……それがトドメになったのです。その後、お母様は確かに私を……バジリスクの毒牙に体を侵食されている私を……治してくれたのです。」
「お母様は確かに亡くなっている筈です。死んだ人が……どうして?」
シルヴィアはそう続ける。ダンブルドアは実に悩んだ表情だった。シルヴィアはここで後悔した。あまりにも一方的に物を言い過ぎたのだ。シルヴィアは小さな声で「ごめんなさい」と言った。
「いや、良いのじゃ……それよりもここで1つ、わしはお主に対して謝りたい事がある」
そう言ってダンブルドアのブルーの瞳はシルヴィアの灰色の瞳に注がれた。シルヴィアは何か疾しい事をした覚えは特に無いが、少し気が引ける気分になった。
「わしは去年の丁度今頃。お主に、『お主はまだその時では無い。お主にはまだ時間が必要じゃ。真実を受け止め受け入れるだけの時間が』などと宣ったが、わしが知っているお主の事はほんのひと握りに過ぎない。」
「ど、どう言う……事、でしょうか?」
「恐らくの話になるのじゃが……わしよりもヴォルデモート卿。否、トムの方がお主について知っている情報が多い。と言う事じゃ」
シルヴィアは一気に悪夢を見ている気がして来た。自分も十分、自分の事を知らない方ではあるが、自分の事について多くの情報を持っているのが、この目の前に居る気の良さそうなおじいちゃんでは無く、あの過激思想を持って突っ走っている老人なのだ。普通に嫌な話だった。
「わしとして、お主について詳しく知ってみたいとは大いに思う。しかしながら、それがお主を傷付ける事に繋がってしまう恐れがあった。……だから、わしはお主の記憶を封じ込めたのじゃ。それが6年前の話じゃ」
「そ、そうだったんですか……その、私の養父母は一体どう言う経緯で私を引き取ったのですか?」
「その経緯を話そうとすると実に長い話になる。しかし、わしはそれを伝えるか悩ましく思っている話じゃ。」
シルヴィアはあまりにも、色んなことを聞き過ぎた。と反省した。
「しかし、お主の母君がお主を助けてくれた事。それはもしかすると、何かしらの魔術的な効果かも知れん。お主の母君が最期に残した、お主を守る為の愛の護りなのかも知れん。」
「愛の護り……ですか?」
「そうじゃ。愛の護りと言うのは、愛する者の為に自らを犠牲にした際に生じる魔法ではあるようじゃ。……但し、未だ不可解な部分の多い古代魔術である。わしも1つ例を知っているのじゃが……その護りは死の呪いに対抗するような強い護りじゃった。死んだ者が愛する者の為に生き返って、物理的に護る。と言う話は聞いた事が無いのじゃが……。まぁ、いくつか種類があるのかも知れん。」
ダンブルドアは随分と悩みながらそう口にした。
「もしかすると……あのお主が住んでいるトワイグフェレストと言う村の森に行けば何かが分かるかも知れん。お主に宿る声と共にの」
そこまで言うとダンブルドアは、また先ほどの笑顔を取り戻した。
「お主の養父母についてはわしも少なからず知っている。しかし、わしよりも詳しい者が居る。今度の夏休み、もし時間があれば森に行くついでに彼に開いに行かんかね?」
「そ、その人って……もしかして、スリザリンの元寮監……ですか?」
シルヴィアがそう問うとダンブルドアの表情は一気に明るくなった。
「おぉ! 知っておったのかの? そうじゃ、もう数年前に辞めてしまったのじゃが、わしの旧友での。彼と個人的に話したい事もある。共に行かんかね?」
「え、えぇ……お邪魔にならないようでしたらご一緒させて頂きたいです。」
「構わん構わん。では、夏休みに入って数日後にお主の家へ向かおう。」
「分かりました!」
シルヴィアは少し嬉しかった。あまり記憶に残っていない養父母について詳しく知れるのだ。
2人はどんな人なのだろうか? クリフォードはあまり養母であるオフィーリアの性格は良く無い。と語っていたが、どれほど悪かったのだろうか? 養父であるヘンリーはローズブレイドの名字を持つ。自分と彼との間にはどんな関係があったのだろうか?
「そうじゃ、スネイプ先生がお主への罰則を来年度一杯に増やしたい。とか言っておったが、一応止めておいた。……しかし、今度また薬の材料が欲しくなったら正直に彼に言うのじゃよ?」
「あ、……はい……分かりました……。すみません……」
シルヴィアは小さく謝った。
「アドバイスに過ぎんじゃが……回復したら彼に謝っておくと良い。きっと許してくれるはずじゃ」
「は、はい……分かりました……」
シルヴィアにはとてもスネイプが他者を許している。と言う表情を想像出来なかったが、自分に非がある事は十二分に理解をしていたので、退院の許可が降りたら、謝りに行こうとは思った。
「では、ゆっくりと安静に過ごしておるのじゃぞ?」
そう言ってダンブルドアはゆっくりと医務室から立ち去った。
◇
それから、シルヴィアの元には度々面会者が訪れた。ハーマイオニーは相変わらず、上手では無いシルヴィアが出席出来なかった授業の講義をしていた。
パンジーやミリセント、それにダフネは大量の高級菓子の差し入れをくれた。シルヴィアは嬉しかったが、あまりお菓子を食べるタイプでは無かったので、結局その3人(7割ぐらいミリセント)が平らげていた。
それからハリー、ロン、ハーマイオニーから聞いた話で驚いた話がいくつかある。1つ目はロックハートのその後だ。
「ロックハートって、あの時、僕らがシルヴィアを助けに行こうとした時に『私はフランス、ミュンヘンで闇の魔術に対する防衛術連盟の会議があるのでね』とか支離滅裂な事言って尻尾巻いて帰って行っちゃったんだよ!
ミュンヘンってフランスじゃ無くてドイツだよな? あいつどれだけ焦ってたんだよ……」
そうロンが言った。確かにシルヴィアはロックハートに期待など微塵も持っていなかったが、まさかそこまで腰抜けとは思っていなかった。その為、苦笑を浮かべるしか無かった。
ハーマイオニー曰く、「本来、様々な賞を受賞しているロックハート先生がこの1年間、ホグワーツと言う一箇所に留まっていられただけで奇跡だったのよ」と言った。
しかし、その1週間後に日刊予言者新聞の一面に匿名の通報により、ロックハートの今までの所業が全て明らかになり逮捕された。と言う記事が踊っていた。
記事によればロックハートは今まで様々な功績を打ち立てた人に近寄り、取材をしてから忘却術でその人が打ち立てた功績を記憶から消してしまう。と言う事をしていたようだ。証拠として、ある一定の期間の記憶が無いルーマニアの魔法使いと彼の仲間のインタビューが載せられていた。
彼の供述曰く『もし、アルメニアの醜い魔法戦士の話だったら、例え狼男から村を救った英雄だとしても、彼の偉業はせいぜい隣町の魔法使いにしか話は広がらなかっただろう!』だそうだ。
ハーマイオニーやパンジー、その他『ロックハート・ファンクラブ』の生徒達は驚きと失望に心を病ませていた。シルヴィアはその様子を見てすっかり哀れに思った。
そして、驚いた話その2が今回の事件はウィーズリー家を貶めたかったルシウス・マルフォイの策略であったことだ。
ハリーの話によれば、彼は夏休みにフローリシュ・アンド・ブロッツ書店でウィーズリー氏と殴り合いの喧嘩をしている際、ジネブラ・ウィーズリーの古い教科書にあの日記を忍ばせたようだ。
確かに証拠は無い話だが、逆に言えば誰にもマルフォイ氏が仕込んだとも仕込んでいないとも言えない話だった。
結局、自分が今年度中散々スリザリンの継承者と疑われた元凶はマルフォイ氏にあったようだ。一瞬、頭に血が上りかけたがシルヴィアは怒りを収めた。
『私の罪を赦してもらう為には、私も人を許さなければならない。』
◆
シルヴィアは学年末パーティーの当日にはマダム・ポンフリーから退院の許可を貰った。
城内を歩けば、大抵の人はスリザリンの化け物を倒したシルヴィアを讃えた。それはどの寮問わずの事だったので、シルヴィアは困惑した。けれども、気恥ずかしいながらも嬉しかった。罵詈雑言を浴びせられるよりはずっとずっとマシだった。
それから、シルヴィアはスネイプの居そうな場所を転々と探した。スネイプは個人用保管倉庫に居た。シルヴィアは意を決して、個人用保管倉庫の入り口に立って、スネイプと対面する。
「あ、あの〜……先生……えぇっと……薬の材料を勝手に奪って、ごめんなさい!」
シルヴィアは思い切って謝った。
「ダンブルドア校長から、ネクロタフィオの咎を許してやれとのお達しが来ている」
スネイプはそう一言だけ答えた。シルヴィアはこの場をどう乗り切ればいいのか分からなかった。
「……まぁ、君が我輩の個人用保管倉庫から薬を盗んでいなかったら、君の命は無かったそうだ。薬は人の命を助ける為に存在している。とも言える。」
呟くようにスネイプは言った。シルヴィアは下げていた頭を少し上げて、スネイプの様子を伺う。
「それに、対バジリスクの毒薬を作り上げた事は評価しても良い。」
シルヴィアは驚き始めた。何故かスネイプは普通に褒め始めたのだ。スネイプが人を褒めているところなどあまり見ない。珍しい光景である。
「しかし、その才能を持ってしても他者から許可を取る。と言う発想には至らなかったらしい」結局、皮肉を言い始めた。
「それに秘密の部屋の入り口を知りながら、何故、誰にも言わないのだ。」
シルヴィアはギクっとした。確かにあの時、1番自分が取るべき行動は秘密の部屋の入り口が分かったから、教授に伝える。と言う行動だろう。しかし、シルヴィアは思いっきり誰にも言わず、1人で行動した。
「い、一応……クリフォードには言いましたよ……」
「彼は若干、偽善者と秘密主義者の気概があるのだ。……今度から何か分かったりしたら、教師の手を借りろ。それに、何か欲しい薬品の材料があれば、我輩にいいたまえ。使用方法にもよるが、我輩にも手がある。君に直接渡す事が出来る。」
「は、はい……」
「さぁ、寮にでも帰りたまえ。入り口を塞がれては困る」
そう言われ、シルヴィアはもう一度謝ってから寮では無く、梟小屋に向かった。オリビアの怪我の具合がずっと気になっていたのだ。
「オリビア〜?」
梟小屋に入るなり、そう問いかけるとすぐに飛んできた梟が居た。
「オリビア、大丈夫? あの時、結構怪我を負っていたじゃない?」
「ホッホー」
シルヴィアは耳を疑った。オリビアが、言葉を発していないのだ。おかしい。自分とオリビアは確かに意思疎通が出来た筈なのに……。シルヴィアの瞳には涙が浮かんできた。
自分はオリビアと話す事が出来なくなってしまったのだろうか? その不安が胸を押し潰す事は容易だった。シルヴィアはオリビアを梟小屋に置き去りにして飛び出した。そして、半分泣きながらスリザリン寮へ向かった。
寮の談話室に入る前にシルヴィアは頑張って、平常心を取り戻して涙を拭いて鼻をかんだ。そして、寮に入るとスリザリン寮生は一応シルヴィアの英雄的行動を讃えた。ただ、一部の純血主義者の生徒達はつまらなそうな表情でシルヴィアの事を見ていた。
ただ、誰も自分を責めてこない。その事実だけでシルヴィアは十分、ホッと出来た。しかし、オリビアと話せなくなった自分が怖くて寝室に引っ込むなり、ふて寝を始めてしまった。
その後、大広間で学年末パーティーにて『ホグワーツ特別功労賞』の授与式が行われる筈だったが、肝心のシルヴィアが居らず授与式は行われなかった。
「どうしたのよ……」
パーティーから戻ってきたダフネがそうふて寝をしているシルヴィアに聞いた。シルヴィアは確かに起きていた。しかし、誰とも口を利きたく無かった。
「『ホグワーツ特別功労賞』を受け取れる。って中々に無い機会なのよ? 就活にも使えるわ。所謂、ガクチカってやつで。学生時代、スリザリンの怪物、バジリスクを倒しました。とか書いちゃえば、間違いなく就職先には困らないわよ?」
パンジーがそう続けた。
「嫌な事でもあったのか? トライフル・カスタードでも食べる?」
ミリセントがシルヴィア用にと持ち出していたトライフル・カスタードの器をシルヴィアに差し出す。シルヴィアは寝たまま手を伸ばしトライフル・カスタードの器を受け取った。そして、起き上がってミリセントからスプーンを受け取り食べ始めた。
「んで、どうしたのよ?」
ダフネにそう言われてシルヴィアは大粒の涙をポロポロとトライフル・カスタードに落とした。そして、それを食べる。本来甘い筈のトライフル・カスタードは若干、塩気のある味になっていた。
「友達を……失ったかも知れない……?」
「それって、グレンジャー?」
パンジーはなるべく平常心を持って聞いた。しかし、若干の高揚感があるのがその声音から感じ取れた。ただ、シルヴィアは頭を横に振るう。
「え、誰だ? シルヴィアの友達……」
3人は頭を捻り始めた。シルヴィアの交友関係は狭い。この同室の3人とハーマイオニーそれに補欠でハリー、ロンが入る。と言う具合だ。
「も、もしかして……あの梟?」
ダフネは困惑した様子で聞いた。シルヴィアはスプーンを口に含んだまま、頷いた。
「え、まさか……し、しん……」
ミリセントが死んでしまったのか? と聞こうとしたが、シルヴィアはすぐに首を横に振って否定した。
「……どう言う事?」
「わ、分からなくて……いいの。ごめん、迷惑をかけて……。甘い物食べたら落ち着いた……ミリセント、このトライフル・カスタード美味しかったよ。わ、私……あまりお腹空いていないから……」
そう言ってシルヴィアはトライフル・カスタードの器をミリセントに返して、ふて寝を再開した。
◇
シルヴィアは毎日、梟小屋に通った。それでもオリビアは寂しそうに普通の梟と同じような鳴き声を出すだけだった。その事実は、シルヴィアの心を確実に弱らせた。
その後、シルヴィアは死んだように過ごし遂にホグワーツ特急に乗る日が訪れた。事前にハーマイオニーに漏れ鍋まで送るように頼んでいたので、オリビアと話せない事以外のあまり不安な要素は無かった。
ホグワーツ特急では、シルヴィアは1人でコンパートメントを確保し(シルヴィアがあまりにも負のオーラを放っているおかげで誰1人として近付いて来なかった)何度も懸命にオリビアに話しかけた。しかし、オリビアは返事すらくれなかった。
キングス・クロス駅に辿り着いた時、シルヴィアは亡者のようにハーマイオニーを探す為に歩み出した。
「ご機嫌よう。ミス・ネクロタフィオ」
シルヴィアの負のオーラに構わず話しかけてきたのはマルフォイ氏だった。
「あぁ……『例のあの人』の日記を使ってウィーズリー氏を貶めようとした……」
呟くように言った。今のシルヴィアは誰に対しても毒を吐けるような状態だった。ただ奇跡的にその呟きはマルフォイ氏に聴こえていなかったようで、朗らかな笑顔を続けていた。
「最近の調子はどうだい?」
「悪いですけど……」
シルヴィアはそう小声で呟いた。マルフォイ氏も流石に聴こえていたようだった。
「それは……一体どうしてかい? 相談に乗ろう」
「大丈夫です……」
シルヴィアのその答えにマルフォイ氏は朗らかな笑顔を崩さずにいたが、確かな苛立ちを感じた。
「そう言えばの話だが……君はオフィーリアに引き取られた子だったんだね?」
「……──なんで知っているのですか?」
「彼女は私の従姉妹だ。父の妹が彼女の母親だったんだ。それに、私の妻もまた彼女のいとこのいとこに当たるようだ。最近、家にあった少し古い手紙を読んだら、シルヴィアと言う子を引っ取った。と言う旨の手紙を6年前に彼女から受け取っていてね……。
その当時は実に驚いたよ。それに、手紙にはあのローズブレイドと結婚した。とも書かれていた。彼女には恋愛感情自体あるとは到底思えるような人間では無かったからね。まぁ、彼女は、その半年後に何らかの理由で亡くなってしまった訳だが……。」
マルフォイ氏は実に残念そうに語った。シルヴィアは正直、勘弁してくれ。と言いたかった。
「君の名前に少しばかり身に覚えがあると思えばの話だ。実に不思議な縁だと思わないかね? 君は少し、彼女について気にならないかね? 家へ招待しようか?」
「いや、いいです。……数日後には校長先生と会う約束がありますし、友達を待たせているので」
シルヴィアはそう言ってマルフォイ氏に向かって一礼して、ハーマイオニーを探し始めた。マルフォイ氏は確かに笑顔を浮かべていたが、その笑顔は無理矢理縫いつけたようなものだった。
そんな事なんて知らず、シルヴィアはハーマイオニーと合流し、彼女の両親と合流した。そして、漏れ鍋に向かって歩き始めた。
ロックハート:
匿名の通報により、今までの所業が全て明らかになり逮捕された。
ルシウス・マルフォイ:
完全に私利私欲の為に過去のご主人様のキーアイテムを使う。とか言う結構なムーブをしている。
スネイプ:
シルヴィアが素直に謝ってきた&スリザリン寮生である&その他諸々の理由により許した。もし、シルヴィアがグリフィンドール生だったら、マジで許されていない。
オリビア:
ホッホー(シルヴィアと意思疎通が交わせなくなった)
同室3人組:
シルヴィアを心配している。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。
また面白かったら評価、感想などを寄せていただけると励みになります。
明日も投稿があります。