呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

29 / 58
シルヴィア・ネクロタフィオとアズカバンの囚人
第27話 珍道中


 シルヴィアが漏れ鍋より煙突飛行で、家へ帰ってくるなりいきなりオリビアは饒舌に話し始めた。

「な、なんで……! なんで話してくれなかったの!?」

「ちょ、チョ〜ットだけの悪戯よ。そしたら、その〜……後戻りデキナイところまできちゃって……タッ、タネアカシはしようと思っていたのよ。けど、その……タイミングを逃しちゃって……」

 オリビアは非常に申し訳ない、の声音で言った。シルヴィアは涙と鼻水と涎と、顔から出せる物を全て出して泣き喚いた。そして、オリビアを抱きしめた。

「わ、私……オリビアと会話出来なくなってたらどうしようって……本当に、本当に不安で不安で……!」

 

 結局、その日は太陽が沈み、月が空を横断し、また太陽が登るまでシルヴィアはオリビアを抱きしめたまま泣き続けていた。その後、泣き疲れたのか、シルヴィアは床で眠りこけてしまった。

 オリビアは申し訳ないと思いながらも呆れ、シルヴィアに毛布をかけてやった。シルヴィアはすやすや健やかな表情で寝ていた。

 

「──ゴメンなさいね……シルヴィア。」

 

 

 朝、シルヴィアは確かに床に寝ていた為に体が痛かった。それでも、オリビアがかけてくれた毛布のおかげで寒い思いをする事無く、目覚める事が出来た。

 

 シルヴィアは漏れ鍋で購入したサンドウィッチを片手に日刊予言者新聞を読み始める。

 ハーマイオニーが日刊予言者新聞を取れば、魔法界の情報をすぐに手に入れる事が出来るから。と勧めて来ていたのだ。その助言通りにシルヴィアは潤沢なローズブレイド家の金庫を使って定期購読の契約をした。

 1面には『元魔法界インフルエンサー、ギルデロイ・ロックハートの悪行!』と言う文字が踊っており、彼のドヤ顔の白黒写真は鬱陶しく動いていた。

 

 また、その少し外れた場所には『恐怖:ルシウス・マルフォイ氏の恐喝』と言う見出しと共に、彼がホグワーツの理事を呪うぞと脅してダンブルドアを停職に追い込んだ事。そして、彼が理事を辞めさせられた事が書かれていた。

 1番下には『求ム:ホグワーツ魔法魔術学校『闇の魔術に対する防衛術』教授』と言う広告が出ていた。

「教授のボシューは新聞コウコクで募るのね……ヤッパリ、あの校長は粋ね……」

 オリビアは若干驚いている様子だった。あまり前例のない事なんだろう。シルヴィアはそう勝手に納得した。

「あ、そう言えば……校長と言えばなんだけど、夏休みが始まって数日後にダンブルドア校長が来るんだ〜」

「えぇ!? それはイッタイどんな風の吹き回しで?」

 オリビアはダンブルドアの来訪をそれなりに驚いている様子だった。

「えぇっと、あの森に行ってみたいんだって。その森に行けばもしかしたら、お母様や私の中から聞こえてくる謎の声について分かるかもだって。」

 シルヴィアはそう言ってから重要な事を思い出した。

「そう言えば、オリビアが悪質な悪戯をするから言えてなかったけどね……私、お母様のおかげで助かったの。お母様がトム・リドルにトドメを刺したの。そして、お母様が私を治療してくれた。だから、私はここに帰ってこれたの。……それで質問なんだけど、オリビアは私のお母様を見た?」

「いや……そのトキ、私は気絶していたからサッパリ見てないわ……」

「そっか……オリビアも信じてくれないだろうけど、お母様が助けてくれた。あれは、あの時見た光景は絶対に現実の事だった。……けど、お母様は現実にもう亡くなっている。何者かによって殺されている。って言うのは覚えている筈なんだけど……なんだか、それがお母様の話か養母の話かも分からなくなってきちゃった……。」

 シルヴィアは悲しげな表情でそう言う。オリビアはそんなシルヴィアを見て、何処かちょうどいい言葉を探している様子だった。

「シルヴィア……けど、いつの日かオモイダセル日が来るんじゃ無いかしら? それがいいかワルイかは……私には分からないけれど……」

「そう、だよね……うん。けど、私は例え何を思い出したとしてもそれを受け入れようと……思う。私は過去を恐れたく無い。」

 シルヴィアの瞳は確かに決意に燃えた目であった。

「さてと……丸々1年家を開けたんだ。お掃除しないと! オリビアも少し手伝ってね!」

「ふ、梟にテツダエル事なんてあるかしら?」

「あるある! 全然あるよ。昨晩、毛布をかけてくれたのはオリビアでしょ? だから、少し軽めの物を持ってきて欲しいの。まずは台所の布巾をお願い」

 オリビアは梟なりに嫌だ。と言いたげな表情になってから、渋々台所へ飛び立ち布巾を咥えてやってきた。シルヴィアはその布巾を受け取るとまずテーブルを拭き始めた。

 

 過去のシルヴィアの片付け効果により掃除はスムーズに終わらせる事が出来た。

「そう言えば、ダンブルドアはいつクルのかしら?」

「え、それは知らないなあ……夏休みが始まってから数日後だとは聞いたけど。いつだろうね?」

 シルヴィアはそう他人事のように言って、掃除完了記念の紅茶を啜った。

「まぁ、夏休みには確実に来るからそれまでのんびりと待っていればいいんだよ」

 オリビアはあまりも適当なシルヴィアの態度にため息を漏らした。

 

 

 結局、その後数日間はダンブルドアが来る事は無かった。

 ただ丁度、シルヴィアはウィーズリー氏が『日刊予言者新聞・ガリオンくじグランプ』を見事当ててエジプトに行っている写真を見ながら、ロンの手に居る鼠が何故、一本指が無いのかについて熱い討論をオリビアと交わしている(オリビアは何かしらの黒い理由を感じる。と言っていたが、シルヴィアは鼠同士の喧嘩だろうと言った)時に手紙が2通やって来た。1通はハーマイオニーからの手紙だった。

 

シルヴィア、お元気?

 私は今、フランスで休暇を過ごして居ます。貴女はきっと異国に訪れた事はないでしょう。いくつかフランスの景色を写した写真を送ります。

 フランスにも、いくつか興味深い魔法の地方史があります。私、こちらで発見したことを付け加えるのに、魔法史のレポートを全部書き換えてしまったの。長過ぎないといいんだけど。ビンズ先生がおっしゃっていた長さより、羊皮紙2巻分長くなっちゃって。

 私はロンとハリーと休暇の最後の週にロンドンへ行くの。貴女も来られるかしら? それと、私は休暇最後の日は漏れ鍋で宿泊しようと思うの。貴女も絶対そうした方がいいわ。貴女1人だと、キングス・クロス駅に辿り着けないもの。

 それじゃあ、貴女と休暇の最後の週にロンドンで会える事を願って。

 シルヴィアは休暇中、旅行中にも勉強に励んでいるハーマイオニーに苦笑いしながら、送ってくれたフランスの名所の写真を何枚か見た。

 ハーマイオニーは非常に丁寧で、写真の裏には写っている建物の名前を書いて居てくれて居た。エッフェル塔、ノートルダム大聖堂、凱旋門、そしてモンサンミッシェル。

 シルヴィアは特にセーヌ河岸のクルーズ船から撮ったパリ市内の写真に心を奪われた。

「いいなぁ、外国。……私も行ってみたい。」

「卒業リョコーとかで行けばいいんじゃない?」

「それいいね!」

 その後のシルヴィアはハーマイオニーに手紙を返信してから、何処の国に行くのかいいのか。とオリビアと討論を始めた。オリビアはフランス以外にもオランダやスイス、ブラジルを勧めた。

 シルヴィアは、どこの国もまともに知らなかったので、オリビアから話を聞くたびに行きたい国を変更し続けた。

 

 

 結局、ダンブルドアがシルヴィアの元に訪れる。と言う通達の手紙を送ってきたのは翌日の朝の事だった。

「手紙によれば今日の昼間に来るみたい! 宿題を終わらせちゃおっと」

 そう言ってシルヴィアは宿題にラストスパートをかけた。オリビアは少しだけ緊張している様子だった。

「今日来るのに今日、テガミを送って来るなんてヒジョーシキが過ぎなくないかしら?」

「まぁ、スネイプ先生だってそうだったし……魔法界はそう言うもんなんじゃないかな?」

 シルヴィアはのんびりとした口調で羊皮紙に面を向けながら、そう言った。

「貴女がイイナラ、それでいいけど……」

 そうして、シルヴィアは目の前にあった魔法薬学のレポートを決められている羊皮紙3巻から大きく超えた10巻を書き上げてシルヴィアの夏休みの宿題は晴れて終了した。

 オリビアは「珍しくスネイプがカワイソウに思えるわ。これを全部読まなくちゃイケナイだなんて……」と言ったが、シルヴィアは「それが教授の仕事でしょ」と言った。

 

 丁度、太陽が頭上に来た時。家の扉を叩く音が聞こえてきた。

「は〜い!」

 シルヴィアは音がするなり、扉に素早く駆け出して扉を開いた。そこにはきらきらしたブルーの瞳と少なくとも2回は折れ曲がっている高い鼻が印象的な髭と髪が長いご老人。ダンブルドアがそこに朗らかな笑顔を浮かべながら戸口に立っていた。ダンブルドアは旅行者用マントを羽織っていた。

「どうもこんにちは。シルヴィア」

「こんにちはです。ダンブルドア校長先生。早速、森へ行きますか? それとも、お紅茶を1杯飲んでから行きますか?」

「では、お言葉に甘えてお紅茶を1杯頂こうかの」

 シルヴィアはダンブルドアの通る道を開けて、部屋に通した。そして、椅子を1つ出してダンブルドアに勧めた。それから台所に行き、紅茶を淹れると村へ行く為に作ったお菓子を添えてダンブルドアに差し出した。

「おぉ、お菓子もくれるのか。わしは甘いものが好きでの!」

 ダンブルドアは嬉しそうにそう言ってからお菓子と紅茶を食べ始めた。

「実は村に行く時は村の人達に配る用として、いつも焼いて持って行っているんです」

 シルヴィアは誇らしげに語った。

「なるほど……やはり、これほどまで美味しいと村の人々も大層喜んでくれるじゃろう?」

「えぇ! いっつも皆んな貰って行ってくれるんです。それが嬉しくて嬉しくて……」

 満面の笑みで語るシルヴィアを見て、ダンブルドアは少々心配そうな表情を見せながらも朗らかに笑っていた。

 

「それでは、森の方へ行くかの」

「はい!」

 ダンブルドアが一通り紅茶とお菓子を食し終えて立ち上がりながらそう言った。シルヴィアはお菓子の入った籠を片手に提げてドアの方へ向かった。

「そうじゃそうじゃ。お主の梟も連れて行ってくれると嬉しいんじゃが……?」

「分かりました! オリビア。一緒に行こう!」

 シルヴィアは本棚の上に留まっていたオリビアに話しかける。オリビアはシルヴィアにも分かる程には嫌そうな表情になっていたが、仕方がない。の表情になってシルヴィアの近くに飛び移った。

 そうして、一向は家を出て小川を超えて森の中へと入って行った。

「実にこの森は、古くからの姿を残しているものじゃ。わしとして興味が湧くの」

 ダンブルドアは、夏なのに暖かい木漏れ日に照らされながらそう言った。シルヴィアは満面の笑みを浮かべた。

「この森は本当にいい場所ですよ。魔法薬作りに使える薬草が沢山植わっています。小さい頃はよく森の中へ薬草採りに行きました。」

「なるほど、なるほど……」

 ダンブルドアは警戒するように、それでいても散策するように辺りを見渡して居た。動物の気配は僅かにある。しかし、人間であるシルヴィア、ダンブルドア、腐っても猛禽類のオリビアが近寄ると皆、恐れをなして立ち去って行ったのを音で感じられた。

 シルヴィアは薬草が植っているのを発見すると、少しばかり説明を加えてから採った。ダンブルドアは博識で、シルヴィアの薬草語りに返答するだけの知識があったので、シルヴィアとしても話して居てとても楽しかった。

 

 途端、ダンブルドアが「うぐっ!」と呻き声を上げた。

「どうしたんですか!? 校長先生!」

「お主、お主、わしのローブを踏んでおる」

「えぇ!? あ、あぁわ……すみません! ごめんなさい!」

 シルヴィアは大声で謝って、すぐさまダンブルドアの近くから離れた。ダンブルドアは少しばかり焦っている様子だった。

「く、首が詰まるかと思ったの……セブルスがお主を前にすると、やたらと早歩きな理由がよう分かった……」

「も、もしかして、私って……いつの日かにスネイプ先生のローブを踏んだってことですか……? けど、それはいつ……?」

「わしとセブルスは6年前にお主と会っておる。お主は覚えておらんようじゃがの……。もしかしたら、お主はその時にセブルスのローブを踏んだのかも知れん。あの者のローブはやたらと長いし」

 シルヴィアは、自分が少々怖いと思いそれ以降、ダンブルドアと一定の距離を保ちながら歩みを進めた。

 

「あ! 彼処に見えるのが村です! 私、ちょっと村の人達に挨拶してきます。1年丸々会えて居なかったので!」

 そうシルヴィアは嬉しそうに言ってから駆け出した。

 ダンブルドアは遠い目をして、廃村へ駆け出して行くシルヴィアを見つめて居た。

「──はてさて……お主は確か、梟でオリビア。と言ったの。お主もまた……一体何者かの?」

 ダンブルドアは近くの枝に留まっているオリビアの灰色の瞳をジッと見据えた。オリビアはただ黙って、ダンブルドアを見つめ返すのみだった。

「まぁ、現実的に考えて……何の繋がりの無いわしとお主が語らえれるとは考えておらんかった。しかし……お主が()()()を使ってくるとなると……やはり、わしの推測は大部分で正しかったようじゃの」

 そう言うとダンブルドアはオリビアから視線を逸らして、シルヴィアが入って行った廃村へ歩みを進めた。

 

 村の中はすっかり荒廃しており、家屋は崩れ既に自然に帰っている。と言う状態だった。

 そして、何よりも目を引くのが遠い昔に死んだと見られる骸。その骸もまた崩れ朽ち果てて、自然の輪廻の中に組み込まれているようだった。その骸の脇には可愛らしい包装紙で包まれたお菓子が置いてあった。

 

「……シルヴィアはただの在りし日の追憶を見ているだけじゃ。……確かに、幻想に浸りすぎるのは良く無い。しかしながら、今は特段焦る時では無い。」

 ダンブルドアは独り言のように。オリビアと会話をするように言った。オリビアは少し離れた瓦礫の上に留まって居て、ダンブルドアをその灰色の瞳で睨むように直視して居た。

 ダンブルドアはまた歩みを進める。奥に進めば進むほどに自然に還っている部分が多く、歩みを進めるのは少々大変だった。

 多くの蔦が右往左往に蔓延っている道を抜けると、広場が見えてきた。その頃にはオリビアもいい加減、ダンブルドアの後を追いかけるのはやめていた。

 広場には大きな火刑台が設置されていた。ダンブルドアは杖を取り出して、ヒュイっと宙に振った。

 すると、ダンブルドアの目の前には随分と朽ちた喪服のように黒を基調としたドレスを纏った骸骨が現れた。骸骨には、長いかつては美しかったのだろう黒く長いざんばら髪がくっ付いていた。

 これらの情報を全て合わせて、やっとこの骸骨が女性であると分かる。

 

ユルサナイ……呪ッテヤル

 この世の物とは思えない、世界の全てを呪ってしまいそうなそんな憎悪と復讐心に塗れた声だった。ダンブルドアはその声を聞いても、特に驚く事なく静かに骸骨を見つめてから口を開いた。

「初めまして……でも無いかの? わしはアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。現在、ホグワーツで校長をさせて貰っておる。早速お主に疑問を呈したいのじゃが……お主は、一体何者なのかね?」

本当ハ、オ前モ呪イ此ノ森カラ追イ出シテヤリタイ。然シ、契約上不可能デアル……

 骸骨はダンブルドアの問いを無視して、そう言葉を発した。

「お主は、一体何者なのかね? 何故、シルヴィア・ネクロタフィオに取り憑いている?」

人間ナド……否、此ノ地上デ生キ永ラレテイル命アル者ハ全テ滅ンデシマエバ良イ!

 またもや骸骨はダンブルドアの問いを無視した。

「しかし、シルヴィアはそれを望まぬじゃろう?」

否、彼女ハ我ト契約ォ結ンダ者。望モウガ、望マザロウガ我ノ意思ォ受ケ入レシ物。我ノ器ニ成ル者。

 骸骨はここで初めてダンブルドアの問いに答えた。

「成程……お主は、一体何者なのかね?」

……我ハ森。森ノ意思

 短く骸骨は答えた。

「森の意思とは一体?」

人間ハ皆、他者ォ憾ミ、憎シミ、復讐心ォ抱ク。ソシテ、世界ォモ呪ウ。其ノ心ハ、其ノ呪イノ意思ハ最終的ニハ森ニ流レ込ミ停滞スル……。故ニ我ハ純粋ナル復讐心デアリ、呪イ其ノモノ……

 ダンブルドアはその言葉を聞いて少し悩み始めた。目の前の存在は自らを森ノ意思。と自称し、自らが人間の復讐心と呪いの塊である。と言った。しかし、目の前の存在はそれ以上の何かであるとダンブルドアは思っていた。

己ガ、全テニ対シテ富ンデイルト勘違イォシタ傲慢ナ人ノ子ヨ……死ォ想エ(Memento Mori)。何時如何ナル時モ、死ォ恐レヨ

「お主は、復讐心よりも……〝死〟そのものかの?」

自分ガ、此ノ世ノ全テォ識リ得ルト思イ込ンダ痴レ者ヨ。穢ラワシキ其ノ者ヨ、此ノ純粋ナル森カラ、散レ去レ往ネ!

 そう言うと骸骨は、ダンブルドアの方へ骨の手を向けて何らかの力で一気に突き飛ばした。ダンブルドアは抵抗も出来ずに吹き飛ばされ、広場から追い出された。

 

「えぇ!? ダ、ダンブルドア校長先生! ど、どうしたんですか? 大丈夫ですか!?」

 突き飛ばされたダンブルドアを見て、シルヴィアはすぐに駆け寄ってきた。

「あぁ、いや。大丈夫じゃ。……少しばかり森に足を踏み入れてみたのじゃ」

 シルヴィアの助けでダンブルドアは立ち上がり、ローブについた土埃を払いながらそう言った。

「そ、その……何かが分かったのでしょうか?」

「分かった事が少しだけ増えて、分からない事が沢山増えた。」

「そ、それは……一体?」

 シルヴィアは唾を飲みながらダンブルドアに聞いた。ダンブルドアは長い間、黙り込んだ。

「わしに考える時間をくれないかの? 答えは来年度中には出したいと思う。」

「は、はい……」

 ダンブルドアはシルヴィアの返答を聞くと、パッと表情を変えた。

「そうじゃ、そろそろここを発ってスリザリンの元寮監の元へ向かい、君の養父母であるヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア・ローズブレイドの学生時代の事について聞きに行こう。お主はもう村の人々への挨拶回りは終わったかの?」

「えぇ! バッチリです。因みに、そのスリザリンの元寮監のお名前は何でしょうか?」

「あぁ、ホラス・スラグホーンと言う人物じゃ。わしの古い友人で同僚じゃった。今はスコットランドのリーディン・スピィリングと言う素敵な場所に住われているようじゃ」

 シルヴィアは「なるほどです」と呟いた。

「さて、シルヴィアよ。その梟も連れて付き添い姿現しで向かおう。」

「分かりました。」

 シルヴィアは近くの家の(元)外壁に留まっていたオリビアを、先ほどまでお菓子が入って居た籠の中に入れる。

 そして、ダンブルドアの右手に触れる。すると、一気に視界が歪む。四方八方をそれぞれ違う方向に掻き回されているような感覚に襲われる。内臓は押し付けられ、眼球を引っ張られるような感覚だった。

 

 

「うっ……」

 シルヴィアはその場所に着くなり、地面に倒れ込んだ。オリビアはシルヴィアに押し潰されぬようにさっさと逃げていた。

「大丈夫かの?」

「え、えぇ……」

 シルヴィアは自分のポケットを探って吐き気止めを取り出し、すぐに飲み込んだ。

「スネイプ先生と何度か一緒に付き添い姿現しをした、と聞いたのじゃが……まぁ、慣れが必要じゃろう」

 ダンブルドアがそう言った頃にはシルヴィアは立ち上がり、辺りを見回して居た。寒い地域だからか、道沿いには一面色の抜けたような背の低い草が生えているのみだった。

 もう少し視野を広げれば大きな湖があった。その湖の辺りには犇くように葦が生えており、風にのんびりと揺らされていた。ここら一体は湿地帯なのだろう。

 ただ、とてもマグルが住んでいる場所では無いだろう。と言う事が一眼で分かる。シルヴィアが今、足を付けて立っている道も砂利でマグルの手の行かない場所だとすぐに分かった。魔法使いが住むには丁度いい場所なんだろう。

 

「あそこにあるのが彼が住んでいる家じゃ」

 そう言ってダンブルドアが指さしたのは、どうも数十年ほど前に建てられたと見られる掘立て小屋だった。

「あの、小屋? ですか……?」

「そうじゃ、かつて人付き合いの苦手なマグルが建てた掘立て小屋じゃ。そのマグルが亡くなって以来、彼が住んでいるようじゃ」

 そう言うとダンブルドアは湖の方へ歩みを進めた。シルヴィアもオリビアを籠に乗せてダンブルドアに付き従う。

 大体10分程歩いた頃だった。急に、景色が溶けるように変化して掘立て小屋が小振りな屋敷になった。屋敷の周囲には立派な煉瓦の壁なんかも現れ、格式高い事が一眼で分かる。

「こ、これは……?」

「侵入者避けの魔法じゃろう。こう、変化した。つまり彼は、わしらの訪問を歓迎してくれているようじゃ。」ダンブルドアは満足気に語った。

 ダンブルドアが塀を押し開け、敷地内に入っていく。シルヴィアも後に続く。そして、ダンブルドアが扉の前に立ちドアノッカーを叩く。暫く待てば、扉が開いた。

 

 飛び出した目と、堂々たる銀色のセイウチ髭。ぴかぴかした禿頭で太って居た。しかし、小綺麗なローブに身を包んでいる為、総合的にはいい人そう。と言う評価にシルヴィアの中で落ち着いた。

「アルバス! 久しいな! 君も少しばかり老けたのでは無いかい?」

「わしも歳じゃ。本当は引退してしまってお主のように隠遁生活を送ってしまいたいが、そうはいかぬようじゃ。」

 2人は一旦、世間話を始めた。しかし、すぐにスラグホーンの丸い大きな目がシルヴィアの方へ移り、品定めするような目で見ていた。

「この子は、シルヴィア・ネクロタフィオ。前にも話したようにローズブレイド夫妻が引き取った子じゃ。お主はローズブレイド夫妻を気に入って居たじゃろう。どうかこの子に話してやってほしいのじゃ」

「ほうほう。良かろう良かろう。あの2人の事だったら、私は3日は語れる。まぁ、さぁさぁ入るんだ」

 そう言ってスラグホーンは2人と1匹を家の中に招き入れた。屋敷の中は人が1人住む分には随分と広かったが、綺麗に保たれて居た。

 スラグホーンの案内で2人はリビングに通され、ソファに座った。ソファはフカフカでシルヴィアはこんなソファが家にあればいいのに。と強く思った。

「そうじゃ、丁度わしはワインを持って来たのじゃ。飲まぬかね?」

 そう言ってダンブルドアはどこからかワインボトルを取り出した。シルヴィアは勿論、ワインの種類など分からないが一目で高そうだとは分かった。

「おぉ、流石だ。アルバス。それはいいやつじゃないか。グラスを2個持ってこよう。えぇっと、ミス・ネクロタフィオは……紅茶で良いかね?」

「えぇ、ありがとうございます。」

 そう言うとスラグホーンは一旦リビングから出て行った。シルヴィアがリビングを見渡すと飲み物や本、チョコレートの箱やふっくらしたクッションが置いてあるのがすぐに分かった。まるで一人暮らしの老婦人のような部屋だと思ったが、同時に過ごしやすそう。と思った。

 向こうの方にある棚にはずらりと写真立てが荒べられて居て、皆笑顔で映っていた。

 

「ほれほれ、持って来たぞ」

 そう言ってダンブルドアと自分の元には空のグラス。そして、シルヴィアの前には紅茶を置いた。その後、スラグホーンは上機嫌そう自分のグラスとダンブルドアのグラスにワインを注いで、飲み始めた。

「さて、お主は元気じゃったかの?」

「まぁ、上々。それなりだ。」

 スラグホーンはそう短く答えるとワインをまた一口飲み始めた。

「ところでミス・ネクロタフィオ。君のその梟が乗っかっている籠には、どうやら薬草が入っているようだが……君は魔法薬を自分で調合する趣味でも持っているのかい?」

 オリビアが姿現しをしてから籠に乗り直した為、薬草の一部が飛び出て居た。それをスラグホーンが見つけてそう聞いて来た。

「まぁ、そうです……」

「君はアルバスの話によれば『生ける屍の水薬』を2年生で調合出来るような実力を持っていると聞いたが……本当かい?」

「い、一応……」

 そう言うとスラグホーンは大層驚いた表情を見せた。

「流石は、ヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア・ブラックが引き取った子だ! ちょっと待ってくれ」

 スラグホーンはそう言うとグラスを置いて棚の方へ向かった。流石は養父母が引き取った子だ! と言われてもシルヴィアには養父母も実の母親も記憶が無かったので、何処か違う。と言う感覚を覚えた。

 

「これだこれ。これはオフィーリア・ブラックが7年生の時の写真。そして、こっちはヘンリー・ローズブレイドが7年生の時の写真。」

 そう言って持って来た写真には数人の生徒が写っていた。その為、シルヴィアにはどれがオフィーリアでどれがヘンリーか分からなかった。

「この黒髪のスリザリン生とこちらの眼鏡をかけたレイブンクロー生じゃな?」

 フォローするようにダンブルドアの節っくれな指が写真を指さした。

 黒髪の長い髪を持つ灰色の瞳のスリザリン生。彼女はとてもじゃ無いが、幸せそうな顔とは言えなかった。謂わば、人生に飽きていると言う表情だった。また眼鏡のこちらも黒髪で金色の瞳のレイブンクロー生。彼も少々、小難しい表情をしていた。

「2人とも実に優秀な生徒だった。オフィーリア・ブラックはあの学年の中で1番優秀だった。全てに対して秀でていた。まぁ、クィディッチだけがどうもダメだったようだが……。けれど、そんな事がどうでもよくなる程度には優秀だった。」

 スラグホーンはどこか浸っているような、少々酔っ払っているような表情だった。

「あれは天性の才能と言えるものだったのだろう。彼女は卒業後に魔法薬学者の道を選んだが、彼女のおかげで教えなければならない事が50ページは増えたと思う。彼女はよく私に魔法薬の新しい研究について意見を聞いて来てくれた。」

 そう言ってスラグホーンは苦笑した。

「そして、ヘンリー・ローズブレイド。彼はただただ直向きに努力を続ける子だった。確かに、彼は学年で1番では無かった。けれども、彼は……そうだ、磨けば光る原石!

 彼は自分の磨き方をよく理解をしていた。年々彼の才能は伸びていく。私は彼をスラグ・クラブに入れた事は間違いでは無かった。と確信したさ。彼もまたもっと長く生きる事が出来れば……良かったんだが……。彼も論文を書く時、私に意見を求めてくれた。」

 スラグホーンはどこか悲し気に言った。

「しっ、かし……この2人が結婚して子供を引き取ると誰が想像出来たものか!」

「2人は……あまり仲良く無かったんですか?」

「まぁ、悪いとまではいかないが……そうだな。ヘンリーはオフィーリアの事を鬱陶しいと思って居た。」

「鬱陶しい?」

 シルヴィアは疑問に思った。この写真上では、世界に飽きて居そうなオフィーリアが他人に鬱陶しい行動を取るのだろうか?

「オフィーリアは1癖……いや3癖ぐらいある子だった。彼女はまぁ、私の勝手な想像に過ぎないんだが……あまり人生に対して期待をしていなかったのだと思う。彼女は、なんでも見透かすような瞳を持っていてね。きっとあれは生まれつきの開心術士だったんだろう。」

 スラグホーンはどこか遠いものを見ている目をして居た。

「他人の一挙手一投足を全て見通す事が出来てしまう彼女にとって、世界とは随分とつまらないものだったんだろう。けれども、彼女の中で気に入った生徒が何人か居たそうだ。その中の1人がヘンリーだった。

 オフィーリアはヘンリーに対して研究対象のような眼差しを注いでいた。だからこそ、ヘンリーはオフィーリアの事を鬱陶しいと思って居たんだろう。」

 シルヴィアはクリフォードがオフィーリアの事を性格が悪い。と言った理由を理解出来た気がした。ただ、同時にオフィーリアの事を可哀想だと思った。全てを見透かせる彼女にとって世界はどんなものに写ったのだろうか?

 

「ただ、彼女がヘンリーと結婚して子供を引き取った。と私へ報告しに来たんだ。私は嬉しかったさ! 彼女の瞳に始めて光が灯ったんだ。君ついて語っている時、彼女は幸せそうだった。きっと君を愛していたんだろうね。」

「そう……だったんですか。」

 今までの話を聞いて自分はオフィーリアに仕方がなく引き取られたものだと思っていたが、意外な事に自分は愛されていたようだった。

「その後、ヘンリーもまた報告しに来たのだが、彼もまたいつもの仏頂面を辞めて笑みを溢して居た。君の存在はあの2人に良い影響を与えたようだ。──その半年後に亡くなってしまったのが、本当に悔やまれるが……」

 スラグホーンは本当に悲しそうな顔で言った。

 

「あぁ、すまない。悲しい話をしたかった訳じゃないんだ。そうだな、ではオフィーリアが3年生のと──「ホラス。今の時間はもう夕方の4時じゃ。良い子はそろそろ帰る時間じゃろう。その前に少々、お主に聞きたい事があってな?」

「何かね? アルバス」

「すまない。シルヴィア。少しばかり部屋の外で待って居てくれぬかの?」

「え、はい。分かりました。……えぇっと、スラグホーンさん。色々とお話ありがとうございました。」

 シルヴィアはそう言ってオリビアと一緒に部屋の外へ出て、部屋の扉を閉めた。

 

 ……ただ、どんな事を話しているのか気になり、ドアに聞き耳を立てた。

「お主は──トム──知っているかの?」

 微かに聞こえて来た。トムとはあのトム・リドルの事だろうか? スラグホーンはかつてリドルを教えていたのだろうか?

「何の──アルバス?」

「闇の魔術を──分霊箱(ホークラックス)

 そう聞こえた途端、シルヴィアの元に何かが飛んで来た。

「あいた!」

 柔らかいものだったが、それなりの速度でシルヴィアの頭に直撃したのでしっかり痛かった。

「新聞? 夕刊の時間だっけ? けど、私日刊予言者新聞と号外しか契約してないはずじゃ……」

 シルヴィアは頭にぶつかって来た新聞の紙面を見た。

 

ブラック、アズカバンを脱獄か!?

 大きく書かれた文字が踊って居た。中央には威嚇するように写真に写っている男が居た。男は黒髪でぐしゃぐしゃの髪を持って居た。目の周りはすっかり黒い影に覆われているようだった。肌はすっかり白く汚くとても生きている人間には見えなかった。しかし、どこか目だけは生きていた。

 シルヴィアがその写真をマジマジと見ているとまた、何かが頭に直撃した。どうやら、先程の号外の続報のようだ。

 

魔法省が発表した情報によると、アズカバンの要塞監獄の囚人の中で最も凶悪だとされているシリウス・ブラックがアズカバンから脱獄した。

 コーネリウス・ファッジ魔法省大臣は「我々はブラック再逮捕の為に闇祓い、魔法戦士を特別に組織した。すぐさまブラックは再逮捕されるだろう」と語り、魔法界に対し、平静を保つように呼びかけた。

 ファッジ大臣は、この危機をマグルの首相に知らせたようで、その対応に国際魔法戦士連盟の一部から批判を受けている。

 大臣は「まあ、はっきり言って、こうするしか無かった。お分かり頂きませんかな」といらつき気味である。更に「ブラックは狂っているんですぞ。魔法使いだろうとマグルだろうと、ブラックに逆らった者は誰でも危険に晒される。私は首相閣下から、ブラックの正体は一言たりとも誰にも明かさないと言う確約を頂いております。それに、何です──例え、口外したとても、誰が信じると言うのです?」と語った。

 マグルにはブラックが銃(マグルが殺し合いをする為の、金属製の杖のようなもの)を持っていると伝えてあるが、魔法界はブラックがたった1度の呪いで13人も殺した、あの12年前のような大虐殺が起こるではと恐れている。

 

 文章をひとしきり読むとシルヴィアは体が震えて来た。そんな、悍ましい大犯罪者が世に解き放たれているのだ。明日にも自分が殺されてしまうのではないか。と言う恐怖を覚えた。

「それはチョット自意識カジョーよ。シリウス・ブラックが貴女をコロス理由なんてないでしょ?」

「けど、狂っているって……ファッジ魔法省大臣? が言ってるよ……?」

「彼はイジョー事態には弱いタイプの大臣なのよ。テキトー言ってるに過ぎないわ。1番、ケイカイすべ──「シルヴィア。帰ろう。」

 ダンブルドアが突如として部屋から出て来た。シルヴィアが部屋の中を覗くとスラグホーンはすっかり眠りこけて居た。

「あの、スラグホーンさんは……」

「彼は少々酒を飲み過ぎて寝てしまっただけじゃ。それよりもわしはこれから急いでロンドンに向かわなければならない。お主は新聞を読んでいて知っての通りだと思うのじゃが、大犯罪人が監獄から脱獄したようでの……。

 だけども、まずはお主を安全に家に送り届ける事が重要じゃ。さぁ、わしの右手を掴んで」

 そう言われてシルヴィアは差し出された右手をすぐに掴む。すると、またあの姿現しの気分の悪さがやって来る。それでも、何とか耐える。すると家の前に辿り着いて居て、シルヴィアはいつもの通り地面に倒れ込んだ。

 

「すまない。では、シルヴィア。また新学期に」

 そう急ぎめに言うとダンブルドアは姿現しをしたようで、シルヴィアは1回目を閉じて開いた頃には居なかった。

 

「やっぱり、おイソガシイ人みたいね」

「そうだね……」

 シルヴィアはオリビアを連れて家の中に帰っていった。

 





ユルサナイ……呪ッテヤル:
 ダンブルドアを森から追い出したいが、出来ない。
 地上に生きる全ての生き物が死ねばいいと思っている。
 自称森の意思であり、純粋な復讐心、呪いそのもの。
 ダンブルドアを吹き飛ばせる。

ホラス・スラグホーン:
 元スリザリン寮監。
 スコットランドのリーディン・スピィリングに住んでいる。(架空地名です)
 ワインが好き。
 シルヴィアの養父母について3日は語れる。

オフィーリア・ローズブレイド(ブラック):
 シルヴィアの養母。
 写真では幸せそうな顔では無く、生に飽きていると言う表情で写って居た。
 天性の才能を持っている所謂、天才。
 生まれつきの開心術士と思われる(スラグホーン談)
 シルヴィアを引き取って以来、瞳に始めて光が灯った。

ヘンリー・ローズブレイド:
 シルヴィアの養父。
 写真では小難しい表情をしていた。
 直向きに努力を続ける人であり、年々能力を伸ばして居た。秀才。
 オフィーリアからは研究対象のような扱いを受けて居た。
 シルヴィアを引き取って以来、いつもの仏頂面を辞めて笑みを溢して居た

シリウス・ブラック:
 12年前にマグルを13人殺したとんでもない凶悪犯罪者。どう言う訳かアズカバンより脱獄して来た。魔法界、マグル界共に恐怖に陥っている。


誤字脱字等ありましたら報告お願いします。
また面白かったら評価、感想などを寄せていただけると励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。