呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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2025/03/12 本文編集


第3話 ダイアゴン横丁

 シルヴィアが、早足のスネイプに置いていかれないように必死に着いて行くと、煉瓦の壁に囲まれた小さな庭に出る。

 スネイプは何1つ感情を感じられない仏頂面で煉瓦の壁の内、1つをその手にある黒檀の杖で叩いた。

 

 途端、叩かれた煉瓦が震え出した。その次にはクネクネと動き出す。

 シルヴィアは、その様子を気味悪がって一歩後退りする。その頃には煉瓦の壁は、アーチ状の門になっていた。

 アーチ状の門の向こう側には、石畳が敷き詰められた地面が見えた。シルヴィアが恐る恐る視線を上げると、シルヴィア史上最高人数の人を一気に見た。

 ここでシルヴィアは気を失いかけるが、これでへこたれてはいけない。と自分を鼓舞して、どうにか気を強く保つ。

 そうしてシルヴィアは石畳の道を歩き始めた……──のだが、シルヴィアは数回転びかけた。そして、覚束ない足取りでスネイプに着いて歩いて行く。

 

「……どっ、何処へ……向か、うのですか?」

 シルヴィアは勇気を出してスネイプに話しかける。スネイプは一瞬無視した後に口を開く。

「〝グリンゴッツ魔法銀行〟だ。君のご両親が残した財産が少々ある。」

 初耳だった。

 朧げな記憶の中に居る自分の親は、自分の為に財産を残してくれていたと言う。シルヴィアは心の奥底から感謝の意をもう居ない自分の親に伝え、同時に節約を誓った。

 

 〝スクリブルス筆記道具店〟と言う店では羽ペンや羊皮紙、インク壺が所狭しと並べられており、中には勝手に動き出す羽ペンなんかもあった。

 〝ポタージュの鍋屋〟には様々なサイズや材質の鍋が店先にまで置かれていた。

 また、魔法で何か細工されているのか鍋が高く積み上げられている塔があり、シルヴィアはいつか崩れてしまうのでは無いか。と言う杞憂に駆られた。

 〝スラッグ・アンド・シガーズ アポセカリーとミスター アルペッパーの薬問屋〟ではどうやら魔法薬の材料が売っているよだった。シルヴィアも本の中で読んだ事のある材料がいくつか置いてあり、行ってみたいと思った。

 〝新聞販売店〟と書かれた店の店頭には新聞が置かれていたのだが、その写真が全て動いておりシルヴィアは腰を抜かした。

 と言う感じに、シルヴィアが見慣れない店がたくさん立ち並んでいた。そして、遂に最初の目的地である〝グリンゴッツ魔法銀行〟に辿り着いた。その頃にはシルヴィアは情報過多で疲れ切っていた。

 

 その銀行は小さな店の立ち並ぶ中、外壁は真っ白で一際高く聳え立っていた。奇怪な店が軒を連ねるダイアゴン横丁の中でも、特に存在感があった。

 スネイプはシルヴィアに特に何か説明する訳でも無く、磨き上げられたブロンズの観音開きの扉へ向かう為の白い石段を登っていた。

 シルヴィアはすっかり自分が置いてかれている。と言う事実に気が付き、すぐさま駆け出す。

 他の人間であれば、もう少し優しくしてくれてもいいでは無いか。と不満を溢すだろうが、シルヴィアはある意味悲しい程に心の奥底から純粋無垢であった。

 なのでこんなスネイプの態度にも特に文句を言わずにいた。

 

「あ、痛っ」

 シルヴィアは見事なまでに転んだ。綺麗に華麗に。そして間抜けに地面に倒れ込んだ。シルヴィアはそこで気が付く。観音開きの扉には自分よりも頭1つ小さい、浅黒い賢そうな顔つきの異形の何かが居る事を。

 シルヴィアはブルっと体を震わせた。この謎の生物が放つ鋭く冷たい視線から早く逃げたかった。素早くシルヴィアは立ち上がり、銀行の中へと入って行く。

 

「……」

 スネイプは、無表情ながら呆れたような表情でシルヴィアを見ていた。シルヴィアはその視線にも耐えかねて、銀行内の大理石の床をジッと見つめ始める。

「着いてこい」

 一言そう言うとスネイプは窓口で手の空いているあの異形の元へ向かう。

 シルヴィアにとっては、近付きたく無い相手であるが、『着いてこい』と言われてしまった以上、着いて行かないわけにはいかなかった。

 

「ローズブレイド家の金庫から金を下ろしたい」

 そう言ってスネイプは何処からか鍵を取り出し、それを目の前の異形の彼に手渡した。

「……承知致しました。誰かに金庫へ案内させましょうか。グリップフック!」

 窓口の異形の彼はまた他の異形の彼を呼び出す。グリップフックと呼ばれた異形の彼は直ぐに現れた。

 

「この方々を500番金庫へ案内しなさい」

「承知致しました。それでは私に着いて来てください」

 シルヴィアは薄らと嫌な予感がしていた。なんだか、また気分が悪くなるような道を辿るような気がしたのだ。

 暫く歩いてからグリップフックはホールから外へ続く無数の扉のうちの1つを開けた。

 大理石の床が進むと思ったら、そこは松明に照らされた細い石造りの通路だった。急な傾斜が下の方へ続き、床にはシルヴィアにとって見慣れない何かが着いていた。

 シルヴィアにとってそれは知る筈も無いのだが、それはトロッコの線路である。グリップフックが口笛を吹くと、小さなトロッコがこちらに向かって元気よく線路を上がって来た。

「馬車の……馬無しか、な?」

 シルヴィアはそう小さく呟く。スネイプは勿論の事、グリップフックもその呟きに反応を見せなかった。

 

 間も無く3人はトロッコへ乗り込み、トロッコはクネクネ曲がる迷路のような地下通路をトロッコはビュンビュンと走った。

 シルヴィアは、自分が知らない&心地良いとは到底言えない移動方法〝その2〟がやって来て早くも辟易としていた。

 

 シルヴィアが吐く手前。やっと目的地に辿り着いた。此処に来るまで随分と長く感じられた。

 トロッコを降りてシルヴィアは直ぐに床に座り込み、どうにか吐き気に耐えようとしていた。冷たく少々湿っている地面はあまり心地良いものでは無かったが、地下洞窟の中。と言う事もあって、程よく涼しい風が通り抜けていく。

 先程の気分の悪さが少しばかりは薄れていく。

 グリップフックは扉を鍵で開けた。

 そこには一生分ぐらいの金貨銀貨銅貨。その他、財宝が眠っていた。スネイプは革袋を取り出してその金庫の中からある一定量の硬貨を取り出し、直ぐにシルヴィアに渡した。

「あっ、あり……ありがとうござい……ます。」

 

 シルヴィアは息も絶え絶えでそう感謝の言葉を発する。そして直ぐに一行はトロッコに乗り込み、地下空間から出る。

 

 結局、シルヴィアは銀行内で吐きかけた。しかし、それより前にスネイプはシルヴィアに吐き気止めを押し付けていたので、ギリギリでシルヴィアは吐く事は無かった。

 

「君は〝マダム・マルキンの洋装店〟に行って来い。我輩は他の物を買いに行く」

 そう銀行を出て直ぐにスネイプはそう言い切ると、洋装店のある方向を指さしてから直ぐにシルヴィアの元を離れた。

 シルヴィアは1人置いていかれてしまった。ここで立ち止まって居てもどうしようもないので、震える足を一歩ずつ進めて洋装店へ向かう。

 

 店内に入るとそこには恐らくマダム・マルキンであろう女性が1人で立っていた。

 彼女は藤色ずくめの服を着ており、シルヴィアは直感で目の前の人物は愛想はいいだろうが自分とはつくづく合わないタイプであろう。と察する。

「あら! お嬢ちゃん。ホグワーツなのかしら?」

 マダム・マルキンがそう言う。シルヴィアは頷く。するとマダム・マルキンは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「分かったわ! こちらにどうぞ。丁度、もう1人お若いお嬢ちゃんの丈を合わせているところよ」

 シルヴィアはまた目眩がした。もうこれ以上、人間に会いたく無かった。これ以上人間と会話を交わしたく無かった。シルヴィアの許容度は、とっくの昔に超えてしまっていたのだ。

 ──静かな子がいいな。

 シルヴィアはそう心の中でぽつりと言う。店の奥には栗毛色の強い癖毛少女が居た。

 

「あら、貴女もホグワーツ?」

 栗毛少女はシルヴィアが横に来るなり直ぐに話しかけて来た。シルヴィアは仕草には表さないものの頭を抱える。

「そっ、そう……です。」

「そうよね! 私ね、マグル生まれだから魔法の学校があるって聞いた途端、ウキウキしちゃったの! 魔法の学校だなんて……私、ファンタジー小説の中の世界だけにしか無いと思っていたのよ。

 本当に楽しみなんだけど、私、勉強に着いていけるか心配なの。ほら、他の魔法使いの家出身の子はきっと、私よりもずっと呪文を知っているじゃない? だから、私すぐに置いていかれないかって心配なの。

 貴女は、きっと格好からしても魔法使いの家の子だから大丈夫でしょう? 私は努力しなきゃいけないの。」

 栗毛少女はいきなり話を始めた。それも自分の事をいきなり話し始めるのだから、シルヴィアは驚いてしまった。それにマグルだとか聞き慣れない単語を発した。

 

「そ、そうなんだ……」

「貴女、何処の寮に入るか分かってる? 私、色んな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でも、レイブンクローもいいかもね。貴女は?」

 シルヴィアは今度は知らない単語を連続で聞いて目をぐるぐる回していた。グリフィンドール? レイブンクロー? 何の事か分からなかった。

「わ、わた……しは……人が、少ないりょ、寮なら……何処でも……いいよ」

「えぇ!? もっとしっかり考えた方がいいわよ。寮は7年間を過ごす場所よ? まぁ、まだ始業式まで1ヶ月ぐらいはあるから、じっくり考える時間はあると思うわ!」

「へぇ──……」

 シルヴィアは栗毛少女の勢いに圧されつつも、どうにか反応できた自分を少し褒めたいと思った。

「これから教科書を隅から隅まで読んで暗記するつもりなの。呪文学の呪文は全部暗記するわ。それに魔法史の出来事だって、魔法薬学も作り方から効用まで。それに薬草学の薬草だって全部覚えてみせるわ。」

 シルヴィアにとってとんでも無い事をこの栗毛少女は言っていた。教科書を全部暗記だなんて正気の沙汰では無い。

「す、すごいね……き、君は。わ、私もそのくらい……が、頑張らんきゃ……いけないかな……?」

「そうねぇ……貴女、きっと魔法使いの家の子でしょ? だったら、魔法について色んな事知っているでしょ?」

「わ、私……ま、魔法薬と薬草……以外、よく、知らない……」

 シルヴィアは事実を述べた。すると栗毛少女は少し驚いた顔を見せたが、すぐに戻る。

「魔法薬と薬草の事については詳しいの?」

「うっ、うん。にゅ、入学案内の教授、から……魔法薬学は、最上きゅ、級生って……い、いわれた。」

 シルヴィアはここ数時間で言われて一番嬉しかった事を口にした。

 魔法薬作りは、シルヴィアにとっては日常の一端の1つでしか無かった。しかし、それを素直に褒められて仕舞えば自信も付くし、単純に嬉しかった。

「それって凄いじゃない! つまりはライバルね……貴女は魔法薬学は最上級生並み力を持っていて教授に認められる程にはとても得意……。私、絶対貴女を超えてみせるから!」

 栗毛の少女はそうシルヴィアの事を褒めてから、ライバル心を燃やし始めた。

 シルヴィアは一瞬、この少女が言っている言葉を理解出来なかったが、教科書を買ったら魔法薬学と薬草学だけはしっかりと目を通しておこうと心に決めた。この栗毛少女に釣られて、シルヴィアもライバル心が少し芽生えたのだ。そう思った頃には栗毛少女の採寸は終わった。

 

「あら、私って嫌だ。名乗っていなかったみたいね。私はハーマイオニー・グレンジャー。私の事はハーマイオニーって呼んで頂戴。貴女は?」

「……シ、シルヴィア・……ネクロ、タフィオ。シ、シルヴィア……でいいよ」

 シルヴィアはそう小さな声で言った。それでも栗毛少女、ハーマイオニー・グレンジャーはしっかりと聞き取ったようでパッと明るい笑みを浮かべた。

「シルヴィア。ね……分かったわ。じゃあ、ホグワーツで会いましょうね!」

 ハーマイオニーは嬉しそうに言うとマダム・マルキンから制服を受け取って、店から出て行った。

 あのハーマイオニーは果たしてこの時間が楽しかったのだろうか? 不思議な人が居るもんだな。とシルヴィアが回想する頃には制服の採寸は終わっており。制服のローブとシャツ、スカート。それに冬用マント、手袋を渡された。

 小さな声でマダム・マルキンに礼を述べるようとした時だった。

「貴女のそのお洋服。確かにいい生地で作られますわ。けれども、如何せんデザインが古いのですわ。……この場合心機一転、お洋服を選んでみては如何ですの?」

 マダム・マルキンがそう言って来た。自分の服が古い。それはなんとなく理解していた。表のダイアゴン横丁を歩く魔法使い達と自分の服は、あまりにも作りが違うと思った。

 それに何よりもあのハーマイオニーと言う女の子の服は自分のとは随分違った。それに加えて、あの子は女の子なのに男性が着るようなズボンを履いていた。何か、自分の常識が違うのかも知れない。と思っていた頃だった。

 

「は、はい……」

「そうこなきゃっ! さぁて……と、これとかどうかしら?」

 そう言って、マダム・マルキンはローブを何着か持って来て「これかしら? いえ、違うわ」と言いながらシルヴィアに合わせた。

 最終的に深い紫色のローブ、シャツにスカート。それに冬用に暖かそうなセーターまで渡して来た。

「これでいいわね。うん、代金は……そうね。10クヌートでいいわ。」

「……は、はい。」

 シルヴィアはマダム・マルキンの勢いに負けながらも先程スネイプから受け取った革袋を出す。

「そ、その……クヌートって……?」

「クヌートは銅貨よ。これね。10枚貰っていくわ。」

 そう言い、シルヴィアに銅貨を見せてから革袋から10枚ほど取り出して言った。

 

「金貨がガリオンで銀貨がシックル。銅貨がクヌートね。17シックルが1ガリオン。1シックルは29クヌートよ。覚えた?」

「えっ、えぇ……確かに……あ、ありがと、とうございました。」

 そうしてシルヴィアが外に出る。

 シルヴィアは若干思い始めていた。先程の銀行の時に通貨の話もしてくれない。自分が歩くのが遅いのが分かっておきながら置いていくように早足に行く。

 あのスネイプ先生という人物は、実は心底親切心の無い人間では無いのか? っと。ただ、こうやって誰かの言付けとは言え、自分の案内をしてくれているだけマシなのだろうか?

 そう思いながら、顔を上げるとそれなりに大きいトランクを下げたスネイプが立っていた。

「これが君の荷物だ。教科書類、大鍋、薬瓶、望遠鏡、秤は全てこの中に入っている。」

「あっ、えっ……はい。わかり、ました……」

 シルヴィアはスネイプからトランクを受け取る。随分と重いものだったが、別に持てない事も無かったので、シルヴィアは安心する。

 自分が洋装店で時間を取っている中、この人は買って来てくれたのだろうか? 優しいのか優しく無いのか。シルヴィアは益々、スネイプが分からなくなる。

 

「……何故、これほどまで手間取った?」

 スネイプは随分と待たされたようで明らかに不機嫌な様子で聞いて来た。ただ、シルヴィアとして、スネイプがダイアゴン横丁に来てから初めて自分から話しかけた事に若干の驚きを覚えた。

「その……マ、マダム・マルキンから……ふ、普段着を他に仕立ててもらってて……」

 シルヴィアがそう言うと、あまり興味なさそうに「ふん」と言った。聞かれたから答えたのに……とシルヴィアは心の中で呟いた。

「最後に杖だ。」

 そう言うとスネイプはまたズカズカと進み出す。

 少し先に行くと〝オリバンダーの店〜紀元前382年創業高級杖メーカー〜〟と書かれた看板の文字を見つける。これがきっと最後の目的地なのだろう。シルヴィアはスネイプに続いて店の中に入る。

 〝オリバンダーの店〟は、随分と狭くみずぼらしかった。

 ただ、天井に届くまで整然と積み重ねられた数えきれない細長い箱には目を奪われた。あれは全て杖の箱なのだろうか? シルヴィアは少々考えを巡らせる。

「いらっしゃいませ」

 柔らかな声が突如とした。店主、恐らくオリバンダー老人は店の奥から現れた。ぼんやりと暗い店内にその薄い色をした瞳が灯るように浮かび上がる。

「お嬢さん。お名前は?」

 オリバンダー老人はこれまた柔らかい声で言った。

 

「……シルヴィ……ア・ネクロ、タフィオ。です」

 すると今まで温厚そうにしていたオリバンダー老人の瞳が見開かれる。

「ネッ、ネクロタフィオっと!?」

 シルヴィアは困ってしまった。なんて答えればいいのか分からなかったのだ。オリバンダー老人は一旦静止してまた動きだす。

 

「──いや、いやいや……なんでも無い。ネクロタフィオさん。あまりにも珍しい名前だったもので……。おや? 後ろにいらっしゃるのは、ホグワーツのセブルス・スネイプ教授? いやはや、これは珍しい。貴方が新入生の案内だなんて。」

「校長のご命令だ。」

 スネイプはそう短く答えた。

 オリバンダー老人は少々スネイプを探るような目で見たが、直ぐにやめてシルヴィアを見つめる。

「ふ〜む。さてと……ネクロタフィオさん。拝見しましょうか」

 オリバンダー老人は、銀色の目盛りが入った長い巻尺をポケットから取り出した。

「どちらが杖腕ですか?」

 シルヴィアはまたもや聴き慣れない言葉につまずく。杖腕とはなんだろうか? 利き手と同じようなものだろうか? 

 けれど、これで違ったら恥ずかしい……。けど、答えなきゃ。そう考えたが至ったのはオリバンダー老人に聞かれて10秒程経ったぐらいだった。

「みっ、み、右です」

「成程。腕を伸ばしてみて。そうそうその通り」

 オリバンダー老人はシルヴィアの肩から指先、手首から肘、肩から床、膝から脇の下、頭の周り。と寸法を採った。

 昨日のシルヴィアでは逃げ出していたでろう。しかし、今日のシルヴィアは先ほどマダム・マルキンの店で散々寸法測られた後のシルヴィアだ。

 今日1日で色々と諦めて受け入れる。と言う感情をなんとか、手に入れていたのだ。

 

「ネクロタフィオさん。オリバンダーの杖は1本1本、強力な魔力を持った物を芯に使っております。

 一角獣(ユニコーン)のたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。ユニコーンもドラゴンも不死鳥も皆それぞれ違うものじゃから、オリバンダーの杖には1つとて同じ杖は無い。

 勿論、他の魔法使いの杖を使っても決して自分の杖ほどの力は出せないわけじゃ」

 聞き慣れない言葉を連発されシルヴィアの頭が完全に思考停止している中、オリバンダー老人は近くにあった細い箱を持ち上げて中の杖を取り出した。

 

「では、ネクロタフィオさん。これをお試しください。トウヒの木にユニコーンのたてがみ。19cm。硬くしなりにくい。手に取って、振ってご覧なさい」

 シルヴィアはオリバンダー老人の言った通りに杖を振ってみる。しかし、オリバンダー老人は納得がいかなかったようで、直ぐにシルヴィアの手から杖を取り上げた。そして、次の杖を探し始めた。

「ヤナギに不死鳥の羽根。29cm。振りごたえがある。どうぞ」

 シルヴィアは今度も振る。しかし、オリバンダー老人は先ほどと同じく早々に引ったくってしまった。

「ふ〜む。ではこれはどうかね? 柊にドラゴンの琴線。16cm。バネのように振りやすい」

 今度は振るか振らないかのタイミングで引ったくられてしまう。

 その後も何本もシルヴィアは杖を試した。イトスギ、サンザシ、黒檀、ナナカマド、ブドウ。どれもこれもダメだったようでオリバンダー老人は悩みに悩み始めた。

 

「ふ〜む……流石は、名前も難解なお客様じゃ。ふむ、そう心配なさるな。必ずピッタリと合う杖をお探ししますのでな。」

 そう言うと店の奥へ引っ込んでしまった。シルヴィアはそろそろ決まらなければ、スネイプに迷惑がかかる。と気が付いていた為。

 と言うか、シルヴィアの後ろに居るスネイプの視線がだんだんと痛くなっているのを肌で感じていた為、そろそろ決まってほしい。と切に願っていた。先程の二の舞を薄ら感じていた。

 それに、シルヴィアが杖を振るう事に店の中に災難が訪れる。

 先ほどは花瓶の水を暴走させてびしょ濡れになった。その前は、杖の箱が棚の上から100箱ほど落ちてきた。後ろに居たスネイプが杖を振っていなかったら、全てシルヴィアの頭上に落ちて来たであろう。

 オリバンダー老人曰くよくある事らしく、濡れたのも箱の暴走も杖を一振りするだけで原状回復させてしまった。それでもシルヴィアの心は休まらなかった。

 

「これじゃこれ。随分と前の……大体今から500年ぐらい前にこの店の主人をしていたオリバンダーが作った品じゃ。柘榴の木に不死鳥の羽根。35cm。良質でしなやか。振りごたえがある。」

 そう店の奥からオリバンダー老人は言いながら出て来てシルヴィアに杖を渡した。杖を受け取った途端シルヴィアの手の中が指の先が暖かくなる。

 シルヴィアが杖を振ると優しくも明るい花火が飛び出した。花火は特に破壊活動する事なくただ、美しい花火であってくれた。

「ブラボー!」

 オリバンダー老人はそう叫んだ。

「素晴らしい。いや、よかった。本当によかった。まさかこの杖が誰かの手に渡るだなんて思っていませんでしたからね。やっと杖に主人が出来て杖も喜んでいるでしょう」

 そう感慨深そうにオリバンダー老人は言った。シルヴィアにとって杖が喜んでいる。と言う状態は分からなかったが、遂に杖代の7ガリオンを支払い店を出た。

 シルヴィアはどっと疲れがどっと襲ってくる感覚を味わう。

 

「また、付き添い姿現しで帰るのだが……──先に吐き気止めを飲んでおけ」

 スネイプはそう忠告し、シルヴィアは吐き気止めを一気に喉に胃に流しこむ。

「行くぞ」

 そう言われ、シルヴィアは朝よりは随分とスムーズにスネイプの腕を掴んだ。

 

 また吐き気は訪れたが、行きよりはずっと楽だった。シルヴィアはやっと見慣れた我が家の前に辿り着けて安心のあまり地面に座り込む。

「ホグワーツ特急の切符だ」

 スネイプは封筒をシルヴィアに手渡した。ただ、シルヴィアはポカーンとしていた。

「9月1日、キングス・クロス駅、11時発、9と3/4番線。重要な事は全て切符に書いてある。」

 スネイプはそう言い、立ち去ろうとする。

「ちょっ、と。まっ、待って! く、ください……」

 シルヴィアは自分でも驚くほどの大きな声を出した。

「何かね?」

「その、〝ホグワーツ特急〟とか……〝キングス・クロスえき〟とか〝9と3/4番線〟って……な、なんですか? そ、その……どっ、どうやって……その場所まで、行けば……いいんでしょうか?」

 スネイプは一旦頭を抱えてから、思い出したかのように黒い羽ペンを取り出した。

「いいか? よく聞け。これは9月1日の10時に君をキングス・クロス駅に送る為の『移動(ポート)キー』だ。絶対に無くすな。今すぐに、どこかにメモしろ」

 スネイプにそう言われ、シルヴィアは急いで日記帳を取り出しメモ欄に『黒い羽ペン 9月1日 10時 移動(ポート)キー』と書き込んだ。

「あの梟にも吹き込んでおけ」

「はっ、はい……」

「では、我輩はここで失礼する。しっかりと入学式の日に来るんだ。」

「わっ、わかり……ました。」

 すると一瞬でスネイプは消えていた。きっと〝姿現し〟をしたのだろう。そうシルヴィアは推測し数時間ぶりの我が家に入る。シルヴィアにとっては数年ぶりに感じた。

 

「オソカッタわね。ニンゲンの買い物ってジカンがかかってタイヘンなのね。」

「そ、そう言えば、オリビアさんは自分の家? とかに帰らなくていいの?」

 そう言うとオリビアはどこか誇らしげな表情になる。

 勿論、シルヴィアは梟の感情の表現など知らないので分からないのだが……

「キューショク届けを出しておいたわ。貴女のペットになってあげるわ」

「ペット? オリビアさんが? ペット?」

 シルヴィアはオリビアが自分のペットになる。と言う事実を驚いていた。

 ペットというより、なんだかんだ自分に色んな事を教えてくれる人(梟)と思っていたからだ。

「まぁ、良いのよ。コマカイところは。マホーカイでは梟を飼っていると色々とベンリよ。……まぁ、貴女は梟を使うようなヨウジが出来るかどうかチョット怪しいけど。もし、ペットが引っかかるなら……そうね。貴女のユウジンとしてもこれからよろしくね。シルヴィア」

「うっ、うん? うん!」

 シルヴィアは一瞬『貴女は梟を使うようなヨウジが出来るかどうかチョット怪しいけど』の言葉に引っかかるが、気にしない事にする。

「待って、お友達?」

「ソウヨ。私とシルヴィアはユウジン。オトモダチよ。」

「わぁ〜……お友達。いいね。お友達。お友達!」

 シルヴィアはそう言って小躍りし始める。

「貴女、そのくらいですましておきなさい。コロブ──あーほら、言わんこっちゃ無い……」

 シルヴィアはオリビアの予測通り、部屋の中で本に引っかかって転んだ。それでも、シルヴィアは何処か幸せそうだった。

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校の校長室。

 そこでアルバス・ダンブルドアは物思いに更けながら月を眺めていた。日が落ちて数時間経った空はどんどんと闇に染まり、星の煌めきを映させる。

 あの明るい星は火星だろうか? そうダンブルドアが思った頃に、校長室の扉を叩く音が聞こえた。

 ダンブルドアはやっとか。と腰を上げて「入りなさい」と声をかけた。

 入ってきたのは、ダンブルドアの予想通り漆黒のローブに身を包み不機嫌そうな表情のセブルス・スネイプだった。

 

「ミス・シルヴィア・ネクロタフィオの入学準備の案内ご苦労。──さて、早速本題に入るが……あの子はどうだったかの?」

「魔法薬以外で言えば、一般的な生徒よりもずっと劣っている。と言えましょう。よく転んでいましたし、どんな移動方法でもすぐに酔って吐いていた。いくら育ちが()()()だったとは言え、ずっと他人を怯えておりましたし。」

「それはゆっくりじっくりと慣らすしかないのじゃよ。ところでセブルス? ……魔法薬はお主が認めるほどの実力があった。と云う事かの?」

「そうですね。()()()を作る事自体、非常に難しいでしょう。しかし、それを難なくこなしていた。それに、薬の効果はしっかりと効いているようでした。過去の母親の教育の賜物でしょうな。」

 ダンブルドアはスネイプからの報告を聞き、一旦息を吐く。

 

「あの薬の効果がよく効いているならば上々。──しかし、何れは真実を知らなければならない……。酷な事じゃが、過去から逃げてばかりだと彼女は成長できないじゃろうな。」

 ダンブルドアはとても悲しそうに言った。

「彼女がホグワーツ(ここ)での生活に上手く適応できたらいいのじゃが……」

「私は、もう帰っても良いでしょうか?」

「あぁ、下がって良いぞ。今日1日ありがとうの。これで彼女も順調な滑り出しを切れるじゃろう」

 スネイプは直ぐに部屋から立ち去りまたダンブルドア1人になる。

 

「《祝福された少女》……かの。その祝福は《呪い》か《祝い》か……一体どちらなんじゃろうの……」

 ダンブルドアの独り言は夜の闇へと溶けていった。

 その頃にはいい加減、ダンブルドアは部屋が暗いと思って蝋燭に火を灯した。






グリップフック:
 原作でも出てくる小鬼。原作ではポッター家の金庫と713番金庫の案内をした。今回は500番金庫を案内した。

マダム・マルキン:
 藤色ずくめの服を着ている。シルヴィアに洋服を殆どプレゼント価格で売った。魔法界の硬貨を教えてくれた。

ローブ:
 原作にて魔法界の服がローブとしか書いていなくて詳しくは分からないけれど、シルヴィアに魔法界的に普通の服をシルヴィアはマダム・マルキンに渡した。と言う設定です。
 因みに、原作通りだとどうやらスネイプ先生ですらズボンを履いていない可能性が高いそうです。(第1巻の描写より)衣装は基本的に映画版を参考にします。困った時はローブの一言で閉めます。

ハーマイオニー・グレンジャー:
 シルヴィアと同じタイミングで採寸をしていた栗毛色の少女。めっちゃ喋る。シルヴィアが魔法薬学と薬草学得意かも〜と言った為にライバル心を燃やす。
 
オリバンダー老人:
 ギャリック・オリバンダー。『オリバンダーの店〜紀元前382年創業高級杖メーカー〜』の現店主。シルヴィアの名字を聞いて驚いた。
 シルヴィアに柘榴の木に不死鳥の羽根。35cm。良質でしなやか。振りごたえがある500年ぐらい前の杖を売る。500年前の杖にやっと買い手がついて喜んでいる。


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