翌日、シルヴィア何事も無かったように目覚めた。その後、マダム・ポンフリーより退院の許可を貰い、寮へと帰って行った。
部屋には、いつも朝食を食べないダフネが1人で今日の授業の準備をしていた。
「昨日、大丈夫だった? ホグワーツ特急で倒れたって聞いたわよ」
「うん、まぁ……一応、大丈夫。ダフネは大丈夫だった?」
「私は……まぁ、一応大丈夫よ」
若干、苦々しい表情でダフネはそう答えた。
「あ、そうだ。貴女の時間割よ。昨日、スネイプに寄越されたのよ。はいどうぞ。」
そう言って時間割表をシルヴィアに渡した。今日の時間割を見てみれば、1時限目から選択科目のマグル学だった。
「占い学は北塔のてっぺんで授業をやるみたいなの。私、もう行くわね。2時限目の防衛術の授業で会いましょ」
そう言うなり、ダフネは教科書を詰め込んだ鞄を提げて部屋から出て行った。
シルヴィアも今日の授業である、マグル学、闇の魔術に対する防衛術、変身術の教科書をそれぞれ詰め込んだ。
最後の最後に魔法学校飼育学の『怪物的な怪物の本』を入れようとしたが、暴れたので書店の店員がやっていたように杖で叩き、紐でグルグル巻きにして鞄に放り込んだ。シルヴィアは出来るものならば、この教科書を開くタイミングが来なければいいのに。と切に願った。
時間割に記されている通りだと、マグル学の授業は1階で行われるらしく、チャリティ・バーベッジと言う女性教諭が教えるらしい。
シルヴィアはバーベッジが一体誰なのか見当も付かなかったが、行けば分かるだろう。と思い、マグル学の教室へ向かった。
マグル学の教室には、シルヴィアが見た事の無いような機材が沢山置いてあった。これを自分が触ると何らかの現象により、壊れてしまうのだろう。と何となく察した。
また、教室の前の方ではまだ授業始まり20分前なのに、栗毛の少女。ハーマイオニー・グレンジャーが茶髪の女性。バーベッジと雑談を交わしていた。
「あら、シルヴィア! 昨日は大丈夫だった?」
シルヴィアが教室に入室している事に気が付いたハーマイオニーは、バーベッジとの雑談を打ち切ってシルヴィアの元へ駆け寄って来た。
「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「良かった〜」
そうして、シルヴィアはハーマイオニーの隣の席に座り、ハーマイオニーとバーベッジの雑談を横から聞いていた。
バーベッジはマグルの技術が凄い。と言う話をしていて、その事についてマグル生まれであるハーマイオニーに意見を求めているようだった。
授業始まり1分前になっても埋まった座席は半分も満たない。4寮合同授業だと言うのに、受講者は20人以下である。それに加えて、スリザリン寮生はシルヴィアを含めて、3人だけだった。
「さて、授業を始めましょう。私の名前はチャリティ・バーベッジ。アリフ・シカンダー教授の後を継いで、今年からマグル学の教授に就職しました。よろしくお願いします。」
そう言って女性は挨拶をした。
「では、早速ですが教科書の8ページを開いて下さい」
そう言って授業が始まった。
初日である今日はマグルの生み出した技術をさらっと習った。
シルヴィアが特に興味を惹かれたのは、宇宙系の技術で今から24年も前に打ち上げられたアポロ11号が人類を、あの夜に見えるあの煌々とした白銀の円盤。月へ足を踏み入れ、そして無事地上に帰還した。と言う事だった。
ダイアゴン横丁で教科書をパラパラとチラ見した時、確かに月へ行った。と言う記述は見たが、そのまま大地に帰って来たと言うのだから、シルヴィアはびっくりしてしまった。
また、〝電話〟と言う文字だけは無く音声をも伝達する技術。と言うのもシルヴィアは驚いた。……と言うよりシルヴィアはマグル学の教科書の記述を一々全て驚いていた。隣に座るハーマイオニーからは呆れられていた。
「この授業では、最終的に魔法使いである皆さんがマグル界で就職する事を想定したカリキュラムが組まれてします。ですから、マグルの技術をただ面白がって学ぶだけは無く、実際に使いこなす事も学びます。
また、マグル界の芸術文化や娯楽文化。マグルが歩んできた歴史。それに加えて、マグル界の発展した社会構造について、そして、成人したマグルが当然持っているであろう教養などについても学びを深めていく予定です。」
バーベッジの言葉を聞き、シルヴィアは生半可な気持ちでマグル学を受講した事を半ば後悔した。
シルヴィアは就職については完全に魔法薬学者と決めていたし、マグル界に少し興味があるだけでマグル界に就職しよう。だなんて微塵も考えていなかったのだ。
「先生! マグルが持っている教養とは具体的には何でしょうか?」
レイブンクローの男子生徒がそう質問をした。
「例えば、マグルであれば当然触れるだろう文学。……そうですね、シェイクスピアの戯曲だったり、ガリヴァー旅行記、不思議の国のアリス。他国の文学も学びます。また、我々が住まう国、イギリスの歴史。欧州の歴史。
それに加えて、少々の計算をします。例えば、マグルが導き出した重い物を持ち上げる為の式とかですね。」
なんだか、シルヴィアは頭が痛くなっていた。それに加えて、マグル学と言う科目は1つに色んな事を詰め込み過ぎているとも感じた。そして、最後のは何だ。マグルは何か持ち上げるのにも1つ、2つ以上考えなければならないのか。そう心の中で叫んだ。
「それでは、次のページ。14ページを開いて下さい。」
そこには『第1章:マグルの光と文明』と書かれており、その下に『1:電球とは何か』と書かれていた。
「先ほども述べた通り、マグルは魔法が無い代わりに〝科学〟を発展させました。その中でも1番、革命的だったのは〝電気〟でした──」
そうして、電気についての講義が始まった。別にバーベッジの教え方が頗る下手。と言う訳でも無かったのだが、シルヴィアに取って異世界の話を聞いているような気分であり、何が何だか分からなかった。
取り敢えずは板書に間に合うようにノートを埋めていった。
◆
就業のベルが聞こえて来た。
「はい、それでは授業はここまで。次回の授業までに電気と電球の関係性についてレポートに記述してください」
バーベッジがそう言って授業は閉めた。シルヴィアは頭がクラクラしていた。
……確かに、何となく分かった。電気というものは謂わば、魔法の杖であり呪文だ。対して、電球はその中でも呪文の結果の1つ。電気(杖、呪文)があるからこそ、光る。
1番例を分かりやすくすれば、〈ルーモス 光よ〉だ。〈ルーモス 光よ〉は、杖先に光を灯すシンプルで便利な魔法だ。杖を構え「〈ルーモス 光よ〉」と言うからこそ、杖先が光る。それと大体同じなんだろう。
「けど……そしたら、電気は魔法で置き換えると呪文じゃ無くて魔法使い当の本人? いや、魔法を放つと言う過程が……電気?」
シルヴィアはその自己解釈をノートの1番下に書いておいた。
「ねぇ、ハーマイオニー。電気って……──あれ? もう居ない……」
隣に座っていた筈のハーマイオニーは既に姿を消していた。辺りを見渡してもハーマイオニーは居らず、既に教室を出て行ってしまったようだった。
「ミス・グレンジャーはバーベッジ先生が宿題を発表して、それをメモするなり走り去って行ったよ。」
丁度後ろに座っていた、数少ないスリザリン生の1人であるアイザック・サザランドがそう言った。彼は焦げた小麦色の肌にヘーゼル色の瞳。それに加えて、金色の髪を伸ばしているのが特徴的な少年だ。
「えぇ……早くない……?」
「彼女、凄く急いでいた……次の授業の教室が果てしなく遠いんじゃないか?」
サザランドの隣に座っていた、同じくスリザリン生のヴァージル・マグワイアがそう続けた。マグワイアは少し色彩の低い赤毛に黄色の瞳を持ち、何処か頭良さそうに見える縁無し眼鏡をかけている。
確かに、ここから魔法史の教室は少しばかり遠い気がする。グリフィンドールの次の授業が魔法史かは知らないが、シルヴィアはしょうがないので、机の上をさっさと片付けた。
「次は、防衛術の授業だよね。ネクロタフィオさん一緒に行こう」
サザランドはシルヴィアにそう話しかけて来た。特に断る理由が無かったので、シルヴィアは2人と共に次の授業へ向かった。
彼らと話すのは殆ど、初めてだったがそれなりに面白かった。2人とも純血主義では無く(そもそも純血主義者ならばマグル学など取るわけが無い)、それぞれマグル界に対して並々ならぬ情熱を持っていた。
サザランドは卒業したら、この世界の果てから果てまで旅してみたいと言った。
彼曰く、今熱いのはインドらしい。今年の夏休み中もインドに行って〝ジャンタル・マンタル〟と言う天文台を見て来たそうだ。また、彼に〝エローラ石窟群〟を勧められたが、何が何だかだった。
そして、アグワイアは魔法よりも物理学を極めたいと言っており、ホグワーツを卒業するか退学するかをしてオックスフォード大学と言うマグルの学校に進みたいと言っていた。
彼曰く、〝原子力〟を用いた宇宙開発を夢見ているらしい。ご丁寧にな事に〝原子力〟についての解説もしてくれたが、シルヴィアにとっては何を言っているか、理解出来なかった。何やら、危ないけれども凄い力を秘めている物らしい。
サザランドは「彼はいつもこうなんだ」と言って苦笑していた。
「あっ、ねぇ、そんなにマグルの技術について詳しいなら電気と電球について教えてよ。何となくしか理解出来なかったからさ」
そう言うとマグワイアは初めに、マグル学の教科書についてに批評を始めた。
彼が批評を軒並み言い切る頃には、防衛術の教室に、1番乗りで辿り着いていた。教室はどう言う訳か、机と椅子が撤去されており、前には古びた洋服箪笥が静かに置かれていた。シルヴィア達は教室の壁沿いに立っているしか無かった。
マグワイアの主張としては、教科書に書かれている内容はあまりにも大雑把で、本質を解説していない。との事だ。あの教科書ですら、難しかったのだからこれ以上の情報は詰めてほしく無い。と心底思った。
そして、それと同時にマグワイアに解説を頼んだ自分を呪った。
「こうなったのは、君の所為なんだからね?」
「うぅ……ごめん……」
サザランドに言われてしまって、シルヴィアは素直に謝った。
そして、電気についての解説を始めた(この頃には数占い学受講者のスリザリン生は教室に辿り着いていた)。マグワイアは〝原子〟がどうとか〝陽子〟がどうとか話し始めていた。彼が言うには〝物質を構成する最も小さな粒子〟らしい。
シルヴィアは単純にマグルはそんなに、この世界を細かい目で見ていのか。と唖然とした。(因みに、彼が言うに電気について解説するに当たって序章も序章の話らしい)
「まず、電気の正体っていうのはさっき言った、原子の一部である電子が移動することで発生する現象なんだ」
「はぁ……」
シルヴィアとサザランドはため息を吐くように答えた。
それと同時のタイミングでマグワイアの後ろにルーピンが現れ、マグワイアの肩を優しく叩いた。マグワイアは驚いて後ろを振り向いた。
「えぇっと、君はヴァージルだね? マグルの技術について詳しく同級生に説明するのは、とてもいい事だ。けど、もう次の授業が始まっているんだ。授業を始めてもいいかな?」
「あ、あぁ……すみません」
マグワイアは素直に謝った。ルーピンは微笑み、また教室の前の方に戻った。
「マグワイアから、一体何を聞いていたのよ? 彼、とんでもない程に元気良かったけど……」
シルヴィアの隣に滑り込むようにダフネがやって来てシルヴィアに聞いた。
「えぇっと……電気についてだよ」
ダフネは若干怪訝な顔をした。
「さて、授業を始めよう」
「センセー!」
「なんだい? ドラコ」
「机も椅子も無いなか、僕たちはどう授業を受ければいいんですか〜?」
ドラコは何処か、人を苛立たせる話口調で言った。
シルヴィアは知らなかったが、スリザリン生の多くは継ぎ接ぎのローブを着て現れたルーピンを軽蔑している。
「あぁ、良い質問だ。これをみたまえ」
そう言ったタイミングで急に古びた洋服箪笥がワナワナと震えた。それを見てパンジーやその他女子が短い悲鳴を上げた。男子も何人かが驚いて後退りした。
「心配しなくていい。中には、
その言葉を聞いて、ダフネは分かりやすく嫌な表情をした。
「ボガートは暗くて狭いところ好む。洋服箪笥、ベッドの下の隙間、流しの下の食器棚など……私は一度、大きな柱時計の中に引っかかっているやつに出会った事がある。
ここにいるのは昨日の午後入り込んだやつで、職員室に置かれていたのだが授業で使いたいから、っとここに持って来たんだ」
ルーピンはそう語った。その後、教室を見渡した。
「さて、それでは最初の問題だ。ボガートは何でしょう?」
皆が皆、顔を見合わせた。その後、イザベル・ブラッドフォードが恐る恐る手を上げた。
「形態模写妖怪で……私達が1番怖いモノに変身します。故に……誰も正体を知りません……」
「素晴らしい! 大正解だ。」
ブラッドフォードは少しだけ笑みを浮かべた。
「観測するまで何者かが決定しない……量子力学的世界だ。実に面白い。」
シルヴィアの隣に居たマグワイアはそう呟き、先ほどよりもずっと興味深そうにルーピンの話を聞き始めた。
「つまり、初めっから私達の方がボガートより大変有利な立場にある。と言う訳だ。どうしてか分かるかな? では……ルシアン?」
ボーッと窓の外を眺めていたルシアン・ヨークが当てられて、彼は酷く驚いた顔を見せた。そして隣に居たヨランダ・ラスボーン-セルデンがご丁寧に今までの経緯を説明した。
「あ〜、えーっと……ここには沢山人が居るから……どんな姿に変身すればいいか、分からない。って事ですか?」
「その通り。いいね。……ボガートを退治する時には、誰かと一緒に居るのが1番良い。向こうは混乱するんだ。首の無い死体に変身すべきか、人肉を喰らうナメクジになるべきか。
私はその間違いを犯したを1度見た事がある──1度に2人を脅そうとしてね、半身がナメクジに変身したんだ。どう見ても恐ろしいとは思えなかった。」
それはそれで恐ろしいのでは。とシルヴィアは疑問に思った。ただ、ルーピンの話は続いていく。
「ボガートを退散させる呪文は簡単だ。しかし、精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけるのは、笑いなんだ。君達はボガートに、君達が滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。
初めは杖無しにで練習しよう。私に続いてみよう〈リディクラス 馬鹿馬鹿しい〉!」
「〈リディクラス 馬鹿馬鹿しい〉」
皆、若干小声でルーピンの軽蔑を深めるような目で言った。ドラコなんかは隣に居るクラッブとゴイルに「馬鹿馬鹿しいのはこの授業の方じゃないか?」と悪態をついていた。
「そう、とっても上手だ。呪文でけでは十分じゃないんだ。……さて、ドラコ? 少し前に出ておいで」
ルーピンに名指しで呼ばれて、ドラコは明らかに嫌そうな表情で前に出て行った。
「君が世界一怖いものはなんだい?」
「はぁ。何で、そんなのを先生に言わなきゃいけないんですか?」
ドラコはそう返答した。ルーピンは致し方ないと言う表情になって、自分の杖を抜いた。
「では、今からあの洋服箪笥を開ける。するとボガートがウワーッと出て来て君が1番恐ろしいと思う姿に変身する筈だ。そうしたら君は、さっき唱えた呪文。〈リディクラス 馬鹿馬鹿しい〉を唱える。
ただ唱えるんじゃない。自分が滑稽だと思う姿を想像しながら唱えるんだ。ボガートが1番恐ろしいと思うことは驚かそうとしたのに、笑われてしまう事なんだ。さぁ、みんなも想像してみて」
シルヴィアはそう言われて、自分が1番恐ろしいと思う物を想像した。すぐにはピンと来なかったが、ホグワーツ特急での出来事を思い出した。自分が怖いものはきっと炎だ。何故かはハッキリと分からないし、分かりたくも無いのだがきっと自分は炎が1番怖いのだ。
「さて、一旦みんな離れておこう。次の生徒は前に出てくるように私が声をかけるから……。さぁ、みんな下がって。」
そうルーピンが言ったのでみんな下がって壁にピッタリと張り付いた。ドラコは1人洋服箪笥の前にポツンと取り残されて、少々不安気は表情を見せていた。
「ドラコ。杖を構えて。3つ数えてからだ」
ルーピンに言われ、ドラコは杖を抜いた。
「いーち、にー、さん、それ!」
ルーピンの杖の先から、火花が迸り取手のつまみに当たった。洋服箪笥が勢いよく開いた。しかし、そこで出て来たのは恐ろしい怪物などでは無かった。カランコロンと軽い音をしてソレは床に落ちた。皆が後ろから、覗き見る。
洋服箪笥から飛び出して来たモノは、無様に2つに折られたドラコ自身の杖だった。ドラコはギョエっと言う何か生物を押しつぶしたような声を出した。また、観覧者側であったシリル・マルシベールとダン・エイブリーも同じ呻き声を上げた。
「リ……〈リディクラス 馬鹿馬鹿しい〉!」
そう言うとパチンと鞭を鳴らすような音が聞こえ、折れた杖は忽ち高価そうなハンドバッグに変容した。そして、ルーピンを睨みながらドラコは、生徒達の方へ戻って行った。
「じゃあ、次はミリセント! 前へ!」
ミリセントは躍り出るように今はハンドバッグのボガートの前へ出た。すると、ボガートは腐ったご馳走に変わった。シルヴィアは彼女らしいと強く思った。
ミリセントはキリッとして「〈リディクラス 馬鹿馬鹿しい〉!」と言って杖を振った。すると、腐ったご馳走は山盛りのマシュマロが乗った大皿に変身した。
「ロイド!」ルーピンがそう声を上げた。
ロイド・バーネットが前へ出てくるとマシュマロの大皿は、たまにスリザリンの談話室からも見える湖に居る大イカへ変化した。ロイドが呪文をかけると、イカリングに変身した。
「よしよし、では、メアリー!」
メアリー・クロッカーはいつも風を切って歩いるが、今回ばかりは不安気な様子で前に出て来た。イカリングは途端、グロテスクな様子の女性に変わった。皆、ヒッと声を上げた。よく見れば、クロッカーと同じように茶髪のストレートでブルーの瞳だった。
「彼女の母親、闇の魔法道具を作った時に酷い副作用を負って聖マンゴへ永久入院になってしまったのよ……哀れね」
ダフネがシルヴィアに解説するように言った。その頃にはクロッカーも呪文を唱えて、グロテスクな自分の母親を屋敷しもべ妖精に変えていた。
「では、ヴァージル!」
マグワイアが出てくると屋敷しもべ妖精は1枚の紙に変容する。その紙をよく見てみれば『オックスフォード大学不合格』と書かれていた。観覧者側の多くの生徒が笑い出した。
一方、マグワイアはこの世の終わりみたいな呻き声を上げながら、呪文を唱えた。すると、何やら難しそうなタイトルの紙束に変わった。
「次はセオドール!」
セオドール・ノットはいつもの通り、顔色1つ変えず前に出て来た。紙束は泣いている女妖精に変わった。誰かが言うにそれは
その後、マルシベールとエイブリーが呼ばれ相次いで折れた杖に変身した。その次に呼ばれたのはバーバラ・ボーモントで何処か、目の焦点が一致していないマグルの男に変身した。
次に呼ばれたブラッドフォードに対しては大柄な魔法使いの男に変わり、アントワーヌ・ド・ブランジェに対しては年老いた老人に変身した。ティモシー・ベレスフォードに対してはクィディッチ禁止令と書かれた新聞に変わり、一部生徒は大声で笑っていた。
ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルもまたミリセント同じように腐ったご馳走。レイラ・ランフランクに対してはグールお化けに、レジーナ・マーティンソンにはグリンデロー。パンジーには
ドミニク・スナイドは小鬼で、サザランドは
シルヴィアはここまで、防衛術の教科書に登場した様々な魔法生物を見る事が出来て、少し楽しかった。
「みんないい調子だ! 次はマージョリー!」
マージョリー・フェアフィールドは辛気臭い顔で前へ出て来た。ボガートは凶暴そうな狼に変身した。しかし、その狼はどう見ても普通の狼では無かった。人間的な瞳孔を持ち、口先は短く、房飾りのある尾を持っていた。
「あれは、人狼よ。満月の夜、凶暴な狼の姿に変身する哀れで残忍な半人間よ」
ダフネが横でそう言った時にシルヴィアは思い出した。ルーピンは人狼だ。やはり、去年助けてくれた人が人狼だっただなんて言わなくて良かった。
フェアフィールドは人狼を可愛らしい子犬に変えた。
次に呼ばれたヨランダに対しては、薄汚れて安っぽい服を身につけている惨めなヨランダ自身の姿に変身した。ヨランダは泣きそうになりながら呪文を唱える。すると、綺麗なドレスを着た彼女に変身した。
ここで、シルヴィアは思った。一体、いつになったら自分は呼ばれるのだろうか? こう言うのは早い方がいい気がする。しかし、生徒の半数が呼ばれている中、未だ自分が呼ばれていない。不安が大きくなっていった。
「ラストスパートだ! マシュー!」
マシュー・エンフィールドが呼ばれて、マグルの少年に変身した。エンフィールドは斬り殺すような勢いで杖を振って、マグルの少年をゴキブリに変えてしまった。「フランクリン! お前はゴキブリがお似合いさ!」そう捨て台詞を吐いて戻って来た。
「次はセルマだ!」
セルマ・ドリューウェットが前に出るとボガートは下卑た笑みを浮かべた小太りの男に化けた。ドリューウェットは変身したと同時に杖を振るって芋虫に変えた。
「ラスト3人! セシリー!」
セシリー・マーティンデイルが前に出ると、彼女と同じような赤毛でブラウンの瞳を持つ、少し年上の少年が出て来た。
そのタイミングでシルヴィアとダフネは顔を見合わせた。
「どっちが先に呼ばれると思う?」
「う〜ん……ダフネかな」
「じゃあ、私はシルヴィアに賭けておく」
ダフネがそう言った頃にはマーティンデイルもすぐに杖を振るって少年を古ぼけた柱時計に変えていた。
「次はダフネ!」
ダフネの賭けは外れ、自分が先に呼ばれた。ダフネは「ガリオンとか賭けてなくて良かった」と言いながら前へ出た。
彼女が古ぼけた柱時計の前に立つと彼女と同じ金髪青眼の女性が現れる。女性は弱々しく……と言うより、もう死にかけの状態だった。
ダフネは1歩下がってから、女性と対面して「〈リディクラス 馬鹿馬鹿しい〉」と呪文を唱えて女性にカーテンを被せた。女性はカーテンの重みにすら耐え切れなかったのか、その場に崩れ込んだ。
「ラストだ! シルヴィア! やっつけるんだ!」
シルヴィアはそう言われて前に出る。やっつけるだなんて上手く出来るのだろうか? 前へ出る道中、ダフネに「頑張って」と声をかけられた。
カーテンを被せられた女性と対面する。すると、女性の姿は一気に変わった。今まで人の姿を取っていたボガートが、シルヴィアの周りを取り囲むように広がった。
そして、ボッ! と音を出して燃え出したのだ。炎は忽ち、シルヴィアの身長を抜かした。シルヴィアは目を見開いた。
『異端には業火を持って裁きを!』
誰かの声が聞こえてくる。シルヴィアの息は段々と浅くなる。息が出来ない。今まで聞こえて来たスリザリン生の話し声や、ルーピンの楽し気な声が聞こえてこなくなって来た。
『魔女に鉄槌を! 正義の断罪を!』
「違う……違う……私は……わた……」
シルヴィアは炎の中、崩れ落ちるように座り込んだ。
ただただ息苦しかった。
ボガートと対面するまでの景色は自分が見ていた情景は全て、嘘だったのだろうか? 幻想だったのだろうか? 死ぬ前の幸せすぎた走馬灯に過ぎなかったのだろうか?
本当の自分は、今にでも誰かの作為によって焼き殺される目前だったのでは無いか?
「──ア! ──ヴィア!」
誰かが叫んでいる。それも幻想?
「シルヴィア!」
そう言ってシルヴィアの腕を引く人が居た。シルヴィアはその人に腕を引かれ、立ち上がり自分を取り囲んでいた炎の壁を通り抜けた。
「このッ! 無能教師! 人のトラウマを呼び起こさせようとするサディスティック教師!」
ダフネはそうルーピンに吐き捨てるように言うとシルヴィアの腕を引っ張ったまま教室から出て行った。
◆
ダフネはシルヴィアの腕を引っ張ったまま、暫く歩いた。あまりにも早歩きなのでシルヴィアは引き摺られるような様子だった。城内はどこも授業中で偉く静かだった。
「……」
石のベンチが見えたところでダフネは歩みを止めて、シルヴィアをベンチに座らせた。
「ダ、ダフネ……?」
「はぁ……全く、あの人なんなのよ!」
ダフネは珍しく冷静さを失い、叫ぶようにそう言った。
「け、けど……ルーピン先生はいい人だよ? きょ、今日の授業の内容とちょっと相性が悪かっただけで……」
シルヴィアがそう言ってルーピンをフォーローしたが、ダフネは聞いていなかった。
「──私はまだ、死なないわ。お母さんのように惨めに無様に……まだ、まだ死なないわ」
独り言のように、誰かに言い付けるようにダフネはそう言った。
「私が占い学を選んだ理由……分かるかしら?」
突如としてダフネはシルヴィアに問いを吹っかけて来た。シルヴィアは一旦悩んだ。その後、1つの答えが思い付いた。
「自分が……いつ死ぬかを、占う……為?」
「あら、察しがいいわね。そうよ、私は……自分の死を恐れながらも自分がいつ死ぬのかを愚かにも知りたがった。……けどね、どうやら占いって本当に適当みたいなの。1999年以降の占いが出来ないんだって。
同じ寮のレイラ・ランフランクって居るじゃない? 彼女の両親は魔法省の無言者らしいんだけど……あぁっと、無言者って言うのは神秘部の職員で、神秘部は魔法の深淵的な研究をしている部署よ。それで、彼女自体も言っていたわ。1999年以降の予言が無いって。」
「な、なんで……?」
シルヴィアが問うとダフネは分からない。と言う仕草をしてみせた。
「フランスの16世紀の魔法使いで予見者だったミシェル・ド・ノートルダムっていう人が1999年7月に世界が滅ぶって言う予言をしたらしいけど……」
「えぇ……この世界1999年で滅ぶの……?」
「さぁ、どうかしらね。あまりに予言されたのが昔だから……その精度がどうかは分からないわよ。一部分だけ伝承された、と言う可能性もあり得るからね」
ダフネはそう冷笑気味に言った。
「1999年に滅ぶとしたら、6年後? ……私達19歳で死んじゃうって事? 20歳にもなれずに死んじゃうの?」
「そうね。……けど、その方が嬉しいかも。」
何処か満足気な微笑みをダフネは浮かべていた。シルヴィアは少し困惑した。
「どうして?」
「みんな一緒のタイミングで死ぬなら、この血の呪いなんか無視出来る。だってみんな死ぬんだもの!」
ダフネはそう嬉しそうに言った。シルヴィアは苦笑を浮かべるしか無かった。
「さっきの事はこれで忘れてくれたかしら? 忘れたわよね。変身術の授業を受けに行きましょう」
そう言われて、シルヴィアはダフネと共に変身術の教室に向かった。教室ではまだ前のグリフィンドールが授業を受けていたので、2人は雑談をして時間を潰した。
◇
変身術の授業を終え、大広間で適当に昼食を取る。同学年のスリザリン生は皆、入れ替わり立ち変わりにシルヴィアとダフネに声をかけた。
シルヴィアはどうにか、ルーピンを擁護したが大抵のスリザリン生はルーピンに対して業を煮やしていた。皆、自分の怖いものを見せられて腹を立てていたのだ。
「どうして、貴女はルーピンを擁護出来るのですか!?」
机をバーンと叩きながら、いつもお嬢様言葉を使っているヨランダがそう荒々しく言った。彼女が苗字呼び捨てをするなんて珍しい話だ。
彼女がそう問いかけたので、スリザリン生は興味深そうにシルヴィアの方を見た。
「そ、その……ルーピン先生に去年、ロンドンを迷った時に……助けてもらったの……」
「そうですか。人としては良い人だったのかも知れませんね。それか、ただの
ヨランダがそう言うと多くのスリザリン生徒が拍手し、他の寮生が怪訝そうにこちらを見ていた。
シルヴィアはすっかり頭を抱えてしまった。あのロンドンの街で古ぼけたスーツを着ていた人がやっとこさ手に入れた職だ。シルヴィアとしては、今回がたまたまダメな日だったんだろう。と言うスタンスだったのでやめて欲しかった。
「や、やめてあげようよ……きょ、今日がたまたまダメだっただけだよ……きっと……」
「いいえ! これはわたくしの事情でもありますわ! わたくしはルーピンの授業を受けた事によって矜持を傷付けられた! やられたものはやり返すものですの! それが社会の通例というものなのですから!」
ヨランダはそう宣言し、スリザリン生の多くを引き連れて大広間を立ち去って行った。
シルヴィアは頭を抱えるしか無かった。
「ま、貴女がそこまでルーピンを庇うのも理解出来ないけど、あの子の行動も行き過ぎているわよ。あれが罷り通るなら、スネイプはとっくにアズカバンの中よ」
ダフネはそう言ってサンドウィッチを頬張った。
◆
次の授業は選択科目でシルヴィアとダフネは魔法生物飼育学だった。しかしながら、多くの生徒がヨランダと共に寮でルーピンに対する懲戒処分願を書いているらしく、スリザリンの生徒はシルヴィア、ダフネ、ティモシー・ベレスフォード、ブレーズ・ザビニ、ドミニク・スナイド、アイザック・サザランドぐらいしか居なかった。(勿論、他の選択科目の生徒が居るからと言うのも、少人数の理由である)
「……なんで、そんなにスリザリン生は大広間で盛り上がってたんだい?」
ハグリッドの小屋の周りに集まっている時、ロンがシルヴィアに聞いて来た。ロンの近くにはハリー、ハーマイオニーも居た。シルヴィアは防衛術の授業であった事を説明した。3人はそれぞれ、呆れ顔で聞いていた。
「スリザリンの連中って大抵がプライド高いから、そこで事故っちゃったのか……」
「まぁ、そうなるんだろうね……」
その後、ハグリッドが森から連れて来たと言うヒッポグリフと半鳥半馬の生き物との触れ合いをした。ヒッポグリフに近づく時は視線を外してはならず、礼儀をもって悪意のないことを示す必要があるらしい。
シルヴィアは、ヒッポグリフと仲良くなり、最終的にはその背に乗ることすら許された。ダフネは触れる事さえヒッポグリフから許されていなかったので、大層驚いていた。また、ハグリッド自身も「初日でこんなにも仲良くなれる生徒がいるなんて、驚いた」と喜んでいた。
シルヴィアはオリビアが言うには『動物アイゴを履き違えた大男』であるハグリッドが教える魔法生物飼育学を少々恐れていたが、すっかりこの科目が好きになった。
チャリティ・バーベッジ:
今年からのマグル学の教師。原作だと死の秘宝にて命乞いするシーンしか登場しない。
マグル学:
ありあらゆる方面からマグルを学ぶ。1つ教科に詰めすぎである。受講者は20人以下である。
アイザック・サザランド:
スリザリン寮生でありながら、マグル学を受講している数少ない人。焦げた小麦色の肌にヘーゼル色の瞳。それに加えて、金色の髪を伸ばしている。
卒業したら、この世界の果てから果てまで旅してみたい思っている。今熱いのはインド。
ヴァージル・マグワイア:
スリザリン寮生でありながら、マグル学を受講している数少ない人。少し色彩の低い赤毛に黄色の瞳を持ち、何処か頭良さそうに見える縁無し眼鏡をかけている。
魔法よりも物理学を極めたいと言っている。オックスフォード大学に入学したい。原子力を用いた宇宙開発について研究したい。
ルーピン:
ハグリッドの代わりに失職フラグが立ってしまった可哀想な人。一発目に
形態模写妖怪。目の前に立っている人物の1番怖いと思うものに変身する。ヨランダの行動はあまりにも過激だが、だとしても怖いものを強制的に見なければいけない。と言う授業を最初にやったルーピンも中々にイギリス魔法界倫理観をしている。
ヨランダ・ラスボーン-セルデン:
スリザリン寮生。お嬢様言葉を使う女子。混血であるが、マグルの家系は貴族である。そのため、プライドの問題は人一倍過敏である。明日には、スネイプにルーピンを懲戒処分するようにと言う書類を提出する予定。
ミシェル・ド・ノートルダム:
ノストラダムス。「ノストラダムスの大予言」のあの人。この人の所為か、魔法省神秘部には1999年以降の予見が無い。
ハグリッド:
魔法生物飼育学の教授に就任した。大多数のスリザリン生が居なかったので、ヒッポグリフ処刑フラグや授業がつまらなくなるフラグが立たなかった。
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