ヨランダ率いるスリザリン寮3年生たちは、朝食の時間よりも早くにスネイプのもとへ向かい、ルーピンへの懲戒処分願を提出した。
スネイプはその願いを受理して、流れるようにダンブルドアに提出したらしい。
しかし、ダンブルドアは即座にその願いを却下したらしい。その事が朝食の席で発表されたらしく、ヨランダは憤慨していた。らしい。
全て呪文学の授業始まりの前に、ミリセントから聞いた話だ。
シルヴィアは心底安心したし、ダフネは心底呆れていた。
因みに、パンジーはちゃっかりヨランダ一派に食い込んでおり、今日の5限目にある防衛術の授業をストライキしてやろうと血気盛んになっていた。
「学生ストライキだなんて、自分から成績を落としたい。って言っているようなものでしょ」
ダフネは終始冷笑気味で、シルヴィアはそんな彼女を苦笑いしながら見ていた。
ただ、そんな態度の生徒も多く、セオドール・ノット何かはその代表例とも言える生徒だった。シルヴィアはそんな自分の考えるまとも〝まとも〟な生徒が居て安心した。
呪文学の次はグリフィンドールと合同の魔法薬学だったが、スネイプは終始不機嫌だった。
どのくらい不機嫌かを示すならば、自寮であるスリザリン寮から数点減点する程度には不機嫌だった。(その後に、色んな理由付けをして加点の方が多くなるようにしていたが)
シルヴィアは校内の噂と言うものに疎いので当初、理由を知る由も無かった。ただ、話によれば昨日、スリザリンの防衛術の授業が終わった次の時間にグリフィンドールが同様の授業を受けたらしい。
その時、ネビル・ロングボトムの怖いものはスネイプだった。ロングボトムはスネイプの姿に変身した
彼の祖母の服というのが、長いレースで縁取られたドレス、見上げるように高い帽子、そのてっぺんには虫食いのあるハゲタカ。そして手には巨大な真紅のハンドバッグをユラユラと揺らしていたそうだ。
シルヴィアはその話を魔法薬の授業中にダフネから聞いた時に笑ってしまったし、ダフネも半笑いだった。それの所為で、2人はスネイプから1点ずつ減点されたのだ。
スネイプは勿論、それを面白くともおかしくも無い。まぁ、確かに当人に取ってはそうだろう。
ただ、スネイプはグリフィンドール生の口からルーピンと言う名前が出ただけで、スネイプの漆黒の目がギラリと脅すように光った。
それに加えて、スネイプによるロングボトムいじめはそれ以降、さらに磨きがかかり、ダフネですらロングボトムに同情していた。
しかし、これでシルヴィアもダフネも理解した。スネイプはルーピンを恨んで恨んで仕方がないのだ。これは、ロングボトム事変が発端となったのでは無く、もっと昔からの話のように思えた。
「もしかしたら、スネイプとルーピンは学生時代からの知り合いだったのかも知れないわね。それで、2人は憎しみ合う相手だったとか」
「う〜ん……けど、少なくともルーピン先生はスネイプ先生を恨んでいるようには見えないけど……」
シルヴィアがそう言って、2人は唸る。
「確かにそうなのよね。……スネイプの一方的な憎悪かしら?」
「どうなんだろう?」
シルヴィアとダフネは大鍋を洗いながら考察をし始めたが、特にこれと言った結論は浮かび上がってこなかった。
その後はマクゴナガルの変身術で、マクゴナガルは昨日に引き続いて
マクゴナガル自身、目の周りに眼鏡と同じ形の縞のあるトラ猫のアニメーガスに変身出来るそうだが、アニメーガスになる事は非常に難しいらしい。
以降、アニメーガスになってみたい。と言ってみる生徒は頗る減った。
シルヴィアだって、自分がまともに箒を使えない代わりに鳥などの空を飛ぶ動物のアニメーガスになってみて、オリビアと共に空を自由に飛んでみたいと思った。
けれども、マクゴナガルが説明した理論はあまりにも難解で、これが理解出来るのはハーマイオニーぐらいしか居ないだろう。そう強く思った。
◇
昼食を食べ終えれば、いよいよ問題の闇の魔術に対する防衛術の授業だ。
シルヴィアとダフネが授業開始5分前に教室へ向かうと、スリザリン生は午前中の授業と比べて半数強の人数になっていた。
「本当に、あのラスボーン-セルデン一派はストライキしたのね……馬鹿ね」
ダフネはシルヴィアの隣でそう言った。シルヴィアも正直言って心底呆れていたが、あまり気にしないように努めて、席に着いた。
授業開始までダフネ、ミリセント。そして近くに居たこの授業に参加してきた女子4人と雑談を繰り広げた。
シルヴィアは以前、バーバラ・ボーモントとは話した事があるが、イザベル・ブラッドフォード、レイラ・ランフランク、レジーナ・マーティンソンとは話した事がなかったので、新鮮だった。
彼女達曰く、ヨランダは要らないお節介をしてくれる
特にバーバラとレジーナの語気は強かった。
逆にレイラは1つ2つ皮肉を言うだけのダフネみたいな生徒で、イザベルは殆どヨランダのディスりはせずに、それどころかヨランダを少しでも擁護しようと努めていた。
授業開始のベルが鳴ったタイミングでルーピンがやって来た。そして、教室を一通り見渡した。
「さて、授業を始めよう……っと、今日は人が少ないね」
ルーピンのそのいい草は、まるで天気の話をしているかのようだった。その後、ルーピンは出席簿と教室の状況を確認して人数を数え始めた。
「15人だけか……やっぱり、昨日の授業は少し刺激が強かったのかな?」
みんな一様に黙っていた。
この教室に来た人々は、確かにヨランダの意見に賛同はしなかった。
けれども、昨日の授業の刺激が強かったか否かを問われれば、ちょっと刺激が強すぎた。と答えるようなメンバーだ。
「──確かに……自分の恐怖と向き合うのは、とても勇気のいる事だ。けれども、君達のようにまだ若いうちに、恐怖に立ち向かう経験を積む事も重要なんだ。
ボガートは厄介なことに、あちらこちらに潜んでいる。魔法界でも遭遇率の高い妖怪だと言える。だからこそ、ボガートに立ち向かったという経験も大切なんだ。それだけは知っておいて欲しい。」
ルーピンがそう語らった。皆は納得した様子で頷いた。あのダフネですら何か、ディスりを加えずに飲み込んでいた。
すると、1人、ロイド・バーネットが手を上げた。
「なんだい? ロイド」
「あー……その、ルーピン先生はスリザリンの僕達じゃ無い他の生徒達によって……ご自身の懲戒処分願が提出されている事は……ご、ご存知でしょうか……? いえ、僕もその願いが速攻却下されたと言うのは知っているんですが……」
バーネットは不安気に聞いた。ルーピンは微笑みを浮かべた。
「あぁ、一応知っているよ」
「そ、その……だ、大丈夫でしょうか? せ、先生の……メンタル? 的に……ぼ、僕はルーピン先生が今までの闇の魔術に対する防衛術の教授で1番の教授であると確信しています。そのー……辞めてほしく無くて……」
バーネットの意見に濃淡はあるだろうが、皆が賛同した。
今までの教授はみんなダメだった。
1年目の教授は吃っていて〝例のあの人〟を後頭部にくっつけたクィレル。〝例のあの人〟が取り憑いている以外にもそもそも、彼の授業は、理論中心でつまらなかった。
2年目の教授はペテン師。無能のロックハート。彼は授業を自分の武勇伝発表会に変えてしまって、誰も得しない授業だった。
そんな中、現れたルーピンは今のところ性格に難があるわけでもなさそうである。それに、昨日の授業は少々問題があったかも知れないが、それを抜きにすれば、実践的で面白かった。
「はは、そう言ってくれると嬉しいよ。わたし自身、あまりそう言った事を気にしていなくてね。今まで気にする余裕もなかったし。……そんな話よりも面白いものを見せよう。さぁ、みんな立って。移動しよう」
そう言ってルーピンは皆を連れて、防衛術の教室を出て行った。みんなで何処へ行くのだろうと考察し始めた。
ルーピンがスリザリンの寮やスネイプが授業をしている地下牢の方へ向かった時は、みんな肝を冷やした。本当はスリザリン生に対して怒っているでは無いか? 報復をしようとしているのでは無いか? と誰もが思った。
しかし、当たり前だがそんな事はなかったらしい。
一行が辿り着いたのは、授業でも使われない空き地下牢教室前の廊下だった。
「さてと……ここの教室にはとある妖怪が居るんだが……誰か分かる人は居るかな?」
少し間が空いてアイザック・サザランドが手を上げた。
「おぉ、アイザック。分かったのかい?」
「
サザランドの解説を聞いて、若干ルーピンと言う人物は色々な意味で懲りないタイプなのだろう。とシルヴィアは感じた。
前回は、人に恐怖を与える妖怪だった。けれども、それだけだった。しかし、今度は人を殺そうとかかる妖怪では無いか!
「そうだ、大正解。……今のアイザックの説明を聞いてみんな、少し怖くなったかも知れない。けれども、安心して大丈夫。レッドキャップは簡単な魔法でやっつけられる。
昨日みたいに複雑な手順を踏まなくとも、例えば〈イモビラス 縛れ〉や〈インペディメンタ 妨害せよ〉、〈エクスペリアームス 武器よ去れ〉でも対処出来る。」
その解説を聞いて、安心したようなしなかったような微妙な反応を皆が見せた。
「それに、ここに居るのはまだ1回も人を殴った事の無いような弱いレッドキャップだ。レッドキャップと言う名前をしておきながら、まだ奴の帽子はホワイトキャップだ」
その言葉で笑えた生徒が半数、笑えなかった生徒が半数。と言う具合だった。
「それに、私たちは1人じゃ無い。誰かが対処に失敗しても誰かがフォロー出来る。だから安心して。──さぁ、この部屋に入ってみよう。」
ルーピンはドアノブを回し、扉を開く。
地下牢教室は一切光源が無いせいで暗かったが、ルーピンが中に入るなり杖を宙へ大きく振って、部屋の松明を灯した。すると、部屋の中央に居る〝奴〟に目が奪われた。
長く薄気味悪い髪、燃えるような赤い眼。突き出た歯に、鋭い鉤爪を持ち、醜悪で背の低い老人の姿をしている。
そして、まだ白い帽子と鉄製の長靴を身に着けていた。お世辞にも気分のいい見た目はしていなかった。
教室にはルーピンに引き続いて、サザランド、ミリセント、その他男子の順番に入って行った。
その後、シルヴィアがダフネにくっ付きながら入り、バーバラ達もまた団子になりながら教室に入って来た。
レッドキャップ(帽子は白いが)は突然の来訪者に驚きつつ、ニタリと笑みを浮かべて棍棒を構えた。
「さぁ、みんなも杖を構えて!」
皆、一応に杖を構えレッドキャップを向かい合う。
レッドキャップが最初に向かったのはブレーズ・ザビニの方で、ザビニと隣に居たノットは驚きながらも、それぞれ呪文をかけた。レッドキャップは呪文の効果で2、3メートル後方に吹き飛ばされた。
「いいぞ、ブレーズ! セオドール!」
ルーピンは嬉し気に言った。
レッドキャップはその頃には、ヴァージル・マグワイアやティモシー・ベレスフォードの方へ行っており、2人もまた各々呪文をかけてレッドキャップを吹き飛ばした。
一度、ミリセントとサザランドの方へ向ったが、その近くに居たマシュー・エンフィールドは呪文を唱えた。エンフィールドの放った呪文がやたらと邪悪なもので、レッドキャップは右手に深い傷を負う羽目になっていた。
シルヴィアとダフネ、その他団子になっている女子の所にやって来たが、数が数だったのでレッドキャップはいくつもの光線に打たれた所為か、気絶してしまった。
「あ、ルーピン先生。ミス・ブラッドフォードが持っているロザリオの所為でレッドキャップは怯んだ。って事ですよね?」
サザランドが嬉しそうにそう聞いた。確かに、イザベルの首からはロザリオが下げられている。
「そうだね、レッドキャップの弱点はロザリオなどの十字架だ。……さて、この中に聖書の文句を一言二言言える生徒は居るかな?」
「え、えぇっと、はい……」イザベルが不安気に手を上げる。
「じゃあ、イザベル。このレッドキャップに対して何か聖書の言葉を言ってみて」
イザベルは少し悩んだ末に言葉を発し始めた。
「主は私の味方。私は恐れない。人は、私に何ができよう。主は、私を助けてくださる私の味方。私は、私を憎む者をものともしない。」*1
そう言うとレッドキャップは呻き声を上げながら、その姿を消した。
その様子を見て、全員がイザベルに対して拍手をした。イザベルは「わ、私は……ただ一言言っただけで……」と若干、困惑した様子を見せていた。
「よくやった!」
ルーピンは大声でそう称賛した。
「みんなよく出来た! みんなが協力しあってレッドキャップを対処出来た! スリザリン生には1人につき5点をやろう。それに、アイザックはレッドキャップについて詳しく教えてくれた。10点だ。そして、イザベルはレッドキャップを完全に倒してくれた。よって10点をやろう。」
サザランドもイザベルも何処か恥ずかし気に、何処か誇らし気にしていた。
「いい授業だった! 宿題だ。レッドキャップについての章を読んで、まとめを提出しておくれ、次の授業までに。そんなにたくさん書かなくてもいいから」
そうして、授業は終わった。みんなぺちゃくちゃ喋りながら地下牢教室を出て行った。
「ラスボーン-セルデン一派はこんなに楽しい授業を受けられなかっただなんてお可哀想に!」
エンフィールドは憎たらしくそう言った。その隣で語気強めにヨランダの事を批判していたバーバラとレジーナが、ヨランダに対するディスりをこれでもか。と言う勢いで繰り広げていた。
シルヴィアやダフネ、ミリセントそれにイザベルはそれを遠巻きに見ていた。
「いくら……ラスボーン-セルデンさんが憎らしいからって……陰口は、よく無いと思います……」
イザベルがそう呟いた。
「全く、人は誰かを叩かなくちゃ生きていけない哀しき生物なのね……」
ダフネが呆れたように言っていた。
地下牢教室から寮までの距離は非常に近く、スリザリン生はすぐに寮へ辿り着く事が出来た。
「どうでしたの!? 今日のルーピンの授業は!」
ヨランダが不安気な顔を提げて、寮に入って来たスリザリン寮3年生達に問いかけた。その後ろには、不満そうな表情をしたドラコやパンジー達も控えていた。
「今日、君達が授業を受けなかった事が可哀想になるぐらいには楽しい授業だったぞ?」
エンフィールドは皮肉気に言った。
面倒な事になる事をいち早く察知したダフネは、シルヴィアを引っ張り、それに続いてミリセント、イザベルも着いて行って部屋の方へ向かった。
◆
談話室での言い争いが一通り落ち着いたのを見計らって、シルヴィアはひっそりと寮を出た。
シルヴィアが向かった先は、防衛術の教室だった。
愚かな事にも、シルヴィアはルーピンに去年のお礼を言いに行くのを、すっかり忘れてしまっていたのだ。
なんて無礼なんだろう。どうか防衛術の教室に居てください。そう願いながら、シルヴィアは自分の行動を呪いながら防衛術の教室へ向かった。
シルヴィアの願いが叶ったのかルーピンは何やら、大きな水槽を動かしていた。
「あぁ、シルヴィアじゃないか。どうしたのかい?」
ルーピンは笑顔でシルヴィアの方を向いた。
「えぇっと……その、言いたい事がいくつかあって……。ま、まず。去年、私がロンドンを迷っている時に……助けてくださってありがとうございます。」
シルヴィアはそう言って礼をした。
「あぁ、そう言えば、そんな事もあったね。あの後、しっかりホグワーツに辿り着けたかい?」
「はい。しっかりと辿り付けました。本当に、あの時は助かりました。」
「それは良かったよ。」ルーピンは微笑みながら言った。
「それと他に謝りた──「あぁ、そうだ。紅茶を飲まないかい?」
ルーピンは微笑みながら言った。
「え、えぇ……はい」
ルーピンは水槽を壁まで持っていくと、シルヴィアに着いて行くように言った。
そうして、防衛術の教室の前方にある階段を上がった先にある部屋へ案内された。
「ちょっと待っていてくれるかな。さぁ、そこにお座り」
ルーピンはそう言いながらヤカンを探していた。シルヴィアはぎこちなく、空いている椅子に腰掛けた。
「すまないが、ティー・バッグしかないんだ。」
そう言いながらルーピンはヤカンを杖で叩く。すると忽ち、ヤカンの口から湯気が吹き出した。何やら便利そうな魔法だ。
暫くするとティーカップを2つ用意して、カップの中にティー・バックを入れた。そして、ヤカンからお湯を注ぐ。忽ち、いい香りをただ寄せた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
シルヴィアが口を付けるとルーピンの忠告通り、熱く「アッチィ!」とシルヴィアは声を悲鳴を上げた。
「だ、大丈夫かい?」
「だい……じょーぶです。」
シルヴィアは、紅茶に息を吹きかけながら言った。
「そ、その、それよりも……ルーピン先生。私の所為で……スリザリン生が暴走し始めたりして……ごめんなさい」
シルヴィアは去年の謝意と共に言いたかった事。スリザリン生の無礼について謝った。
ルーピンは一瞬呆気に取られた表情になったが、すぐに表情を戻した。
「それは君の所為じゃないさ。……確かに、最初の授業には少し刺激が強かったかも知れなかった。わたしの落ち度も少々あるだろうね。──それより、君は新学期の汽車で
「は、はい……1日医務室で休ませてもらったら、すっかり大丈夫になりました。」
「良かった。過去にあまりにも強すぎるトラウマがある者だと吸魂鬼の影響を特に受けやすい。君にどんな過去があるかは、わたしの知り及ぶところでは無いけれども、人にはそれぞれ悲しい過去があるものだ。」
シルヴィアはその言葉を聞いて、少し悩み始めた。
自分は自分の過去から徹底的に逃げ続けている。本当にそれでいいのだろうか? 少しでも自分の過去は受け入れていくべきなのでは無いか。っと。
「そう言えば……君はあのヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア・ブラックの養子だと聞いたよ。あの2人が結婚するとは……わたし自身、信じきれなかったが……」
「ルーピン先生も……2人の事をご存知なのですか?」
「一応ね。ヘンリー・ローズブレイドの方とは同学年だった。まぁ、わたし自身は何か関係があった。と言う訳ではなかったんだけど……。
オフィーリア・ブラックとも卒業後何度か会った事があってね。……わたしがあまりにも惨め過ぎた所為か、彼女に何度か食事を奢ってもらったりもしたんだ。
何か感謝を伝えようとはしたんだが、その前に亡くなってしまった。」
ルーピンはどこか懐かし気な表情でそう語った。
「やっぱり、みんな言いますね……。ヘンリーとオフィーリアが結婚するとは思わなかったって……」
そう言って苦笑いをしながら、シルヴィアは紅茶を飲み込んだ。今度は熱くなくて、すんなりと飲み込めた。
「あの2人は不思議な関係だったからね。みんな最初は信じきれていなかった。
ここで、シルヴィアは1つの疑問を思い出した。
オフィーリアと最近、話題のシリウス・ブラックは奇しくも姓が同じだ。彼女の事を直接知っていたルーピンならば、2人の関係を知っているのだろうか?
「そ、その……ルーピン先生」
「なんだい?」
「オフィーリア……は、名字がブラックですよね……それで、今話題の脱獄囚のシリウス・ブラックもまた名字がブラックですよね? その……2人はどんな関係だったのでしょうか?」
そう聞くと、ルーピンは少し悩んだ表情を見せた。
「……オフィーリア・ブラックとシリウス・ブラックは、いとこ同士だったようなんだ。……──そして、不思議な事に……オフィーリア・ブラックはシリウス・ブラックの無罪を信じている様子だった。」
「シリウス・ブラックの……無罪を?」
シルヴィアとして、意外な新情報だった。シリウス・ブラックは残酷な罪を犯し、確かにアズカバン監獄の囚人だった筈だ。
なのに何故、オフィーリアはシリウス・ブラックの無罪を信じているのだろうか?
「あぁ、そうだ……。彼女は1年に何回かアズカバン監獄に行って、シリウス・ブラックと面談していたらしい。彼女が何を吹き込まれたのかは知らないが……シリウス・ブラックは無罪である。と度々主張していた。」
ルーピンはそんな話信じていない。と言う表情をしていたが、それでも疑っている様子だった。
「……わ、私は……今まで数人からオフィーリア・ブラックについての事を聞きました。か、彼女は……──「なんでも見透かすような瞳を持っている……」
ポツリと呟くようにルーピンが言った。
そのタイミングでドアをノックするような音が聞こえてきた。その所為で2人の思考は中断された。
「どうぞ」ルーピンが言った。
ドアが開いて入ってきたのはスネイプだった。手にしたゴブレットから微かに煙が上がっている。シルヴィアはそのゴブレットの中身が何か瞬時に判別する事が出来た。
「ああ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いて行ってくれないか?」
ルーピンは愛想良く言った。対してスネイプの愛想は頗る悪かった。スネイプは紅茶を飲んでいるシルヴィアを目に留めると少し経ってから話し始めた。
「ミス・ネクロタフィオ。君が1年生の時にも言ったが、純粋無垢は人を救わない。自分も救えない。君自身、1番知っているのだろう?」
スネイプは、シルヴィアが少なからず抱いていたルーピンに対する憐憫の心を見抜いていたようだ。
「そ、それは……ルーピン先生が、人狼である。と言う事に……関係していますか?」
「あぁ、そうだとも。全く、人狼である者を教授職に添えるだなんて、流石のダンブルドアも痴呆が進んできたようだ」
スネイプはオリビアと全く同じ事を言った。
「……──な、何かしらの属性を持っている人を否定し、冷遇し、差別したところで生まれるモノは不幸の連鎖でしか無いと思います。」
シルヴィアがどうにか絞り出すように言う。スネイプは鼻で笑った。
「そうかも知れんが、人狼を差別せずいたら我々に被害が及ぶ。君も十分知っているだろう、人狼の習性については。……しかし、君がそこまで言うならば……君が提出した夏休みの宿題をその男で実験でもしてみればいい」
スネイプは蔑むような言い方をした。
そんな表情よりも、シルヴィアはその夏休みの宿題について心当たりが無かった。しかし、少し経ってから昨日提出したレポートの存在を思い出した。
「……っ! そうでした! わ、私……完全な脱狼薬の研究をしたいです!」
シルヴィアはそう声を強く張り上げた。しかし、その反応はスネイプにとっては想定外だったようで、目を見開いて驚いた。
「私の、養母か……実母か分かりませんが……どちらかの母親が、
シルヴィアのその灰色の瞳には確かに炎が揺れて、強かな信念を持った瞳をしていた。そんなシルヴィアを、スネイプは汚らわしものを見るような目で見ていた。
「学生が作り出すような薬は体にどんな害を為すか分かったものじゃない。」
「い、いや……セブルス。わ、わたしはその研究に……協力しよう……!」
ルーピンのその言葉にスネイプは一層、軽蔑したような目で見ていた。暫くするとため息を吐いた。
「この、魔法薬狂いめ……」そうスネイプはとても小さな声で言った。
「──勝手にしたまえ。……ネクロタフィオ。悪用しない事を約束する代わりに、我輩の個人用倉庫を使う事を許可しよう。」
シルヴィアの表情は一気に明るくなった。
「あと、あれだ。我輩かあのクリフォード・プリンスの監督下に無い時に薬を作ろうとしない事。薬が粗方完成したら、我輩に報告する事。いいか?」
「えぇ、えぇ! 了解しました!」
そう返事をするなり、「お紅茶ありがとうございました!」と言って部屋を駆け出て行った。
「あ、あの子って……元からあんな感じなのかい?」
「いや、違う。もう少し気弱だった。どうせ、薬を作る際に負う自分の責任に恐れて断念するものだと思っていたのだが……」
スネイプは非常に呆気に取られた様子で、彼史上1番ペラペラと話していた。
◆
「──それで、これが材料なんだけど……上手くいくと思う?」
シルヴィアは一通りの材料をクリフォードが居る空き教室に並べた。
「と、突然来たと思ったら……対バジリスク毒薬の次は完全脱狼薬の研究かい……」
クリフォードは呆気に取られている様子だった。
「うん。スネイプ先生からは許可を貰ったし、ルーピン先生は協力してくれるって言ってくださいったし!」
「はぁ……君って本当に変なところでブレないものだね……それに、君を見ているとオフィーリアとヘンリーの影が見えてくる」
シルヴィアはそんなクリフォードの呟きを無視して、大鍋を火にかけ始めた。
「オフィーリアとヘンリーも君を引き取った途端、薬の研究を始めたものだ。その薬の意見を求める為にわざわざ僕の元にも訪れたりもした……」
「へぇー」
適当な返事をしたシルヴィアは、月長石をまず大鍋の底に置いて水を大量に入れる、火をかけた。その次に柳の樹皮とニガヨモギをナイフで細かく切り刻んで、大鍋に放り込んだ。
このシルヴィア、魔法薬を作っている時は特に人の話を聞いていないのだ。
「ちょちょ、ちょっと待った! まだ鍋の中が沸騰しきっていない時にトリカブトを入れるのは危険だ。」
「あ、そうだった」
「って言うか、なんで君はトリカブトを素手で持っているんだい?」
「なんか大丈夫だし。今から集中しなくちゃだから、クリフォードは一旦黙って」
シルヴィアはクリフォードに言いつける。その頃には鍋の中が完全に沸騰してきてシルヴィアはトリカブトを突っ込んだ。
そして、自分のメモを見て次は瓶詰めされた蛙の脳みそを取り出し、いつでも入れらるように準備を開始した。
トリカブトを入れてから30秒もしない頃に、大鍋の水は綺麗な菫色になった。
そのタイミングでシルヴィアは、火を弱めて蛙の脳みそを1個ずつ慎重に入れて計8個鍋の中に投入した。
その頃には鍋の色は綺麗な菫色の面影を無くし、ドブのような色に変わっていた。
「うん……いい調子……」
シルヴィアはその後も材料を慎重に、されど大胆に入れて行った。時々、鍋のかき混ぜたりもした。
クリフォードはその様子を、どこか感心したようなどこか心配気に見ていた。
「最後に、満月草を入れて鍋を3回右に回転させれば……完成!」
鍋の色は酷い色でとてもじゃないが、飲みたい。と思える色ではなかった。それに加えて、匂いだって最悪だった。
シルヴィアは持っていたハンカチを広げて顔半分に巻き付けていたし、クリフォードは鍋とシルヴィアからずっと離れた場所で見学していた。
「それを飲む、ルーピンって言う人が哀れに思える程度には酷い出来だね……その、名状し難い生物を煮込んだ。みたいな様相だけど……」
「効果は覿面の筈だよ。これを飲めば、きっと狼化しないで過ごせる筈。」
出来たそれを鍋から薬瓶に移し替えながらシルヴィアはそう言った。クリフォードはあまりいい予感がしていなかった。
「それは人間が飲んでも良いものなのかい? こう、毒性とか。トリカブトとか他にも毒薬になる物を入れたじゃないか」
「そうだね。ちょっと、そこら辺に居る鼠に試飲させてくるよ。なんか知らないけど、最近城内に鼠が多い気がするし。1匹や2匹使ってもモーマンタイの筈だよ。」
「いくら、実験台とは言え……これを飲まされる鼠には同情の意を示さざるを得ないよ……」
クリフォードがそう言った頃にはシルヴィアは教室から出て行っていた。
約1時間半後、シルヴィアは満足気な表情で戻って来た。
「どうだったかい?」
「試飲させた鼠はピンピンに元気だよ。まぁ、経過観察こそ重要なんだけど。……あとはちょっと気になる所があるから、そこら辺を調整しながら何度か作って、その後スネイプ先生に見てもらって、実際にルーピン先生に飲んでもらおう!」
シルヴィアは意気揚々としていた。クリフォードはルーピンを気の毒がっていた。
◆
その後、シルヴィアは授業が終わるなり、空き教室に向かって何度か改良を繰り返し、鼠に試飲を何度もさせた。
最終バージョンである薬をスネイプに提出し、検査も合格し(クリフォード曰くあまりにも適当で杜撰な検査)、ルーピンに薬を飲ませる頃にはハロウィーン1週間前になっていた。
因みにだが、ヨランダ一派はルーピンを懲戒処分に追い込む事をまだ諦めていない様子だった。その後、懲戒処分願を計10回提出していたが、全てダンブルドア却下され、今現在もストライキを続けている。
他寮の生徒からは笑い話になっていたし、元々ルーピンの授業に参加しているスリザリンの生徒達もその様子を嘲笑っていた。
この間は遂にイザベルと言う善性の塊である彼女に馬鹿らしい。と言われていた。
「そ、その……シルヴィア? こ、これを……わたしは……のま、飲まなければならないんだね……? ふ、普通の……脱狼薬よりも……こう、そのー、酷い雰囲気だけど……」
「ご安心ください! 人が飲んでも大丈夫な程には毒性に抑えられています! 鼠に何度も試飲させましたし、スネイプ先生の検査も合格しています!」
ルーピンの部屋にてシルヴィアはそう嬉しそうに目を輝かせながら語った。デスクの上には酷い色と匂いの液体がゴブレットに入れられていた。
「あーっと……リーマス・ルーピン? 君がその薬を飲む事を僕は同情してあげるよ……」
クリフォードは大層気の毒そうにそう言った。ルーピンはその言葉を聞いて苦笑いした。
「いいから、四の五の言わず飲むのだルーピン」スネイプは厳しく言い切った。
「うぅ、わ、分かった……」
ルーピンは震える手でゴブレットの掴み、自分の口元に持っていく。途中、「ゔっ」っと明らかに気分の悪そうな声を出していた。
そして遂にゴブレットに口を付けて、ゆっくりにされど早く飲み始めた。結局、ルーピンが全部飲み切るまでに実に10分程度の時間がかかった。
「だ、大丈夫かい? 君、元よりも酷い顔色だけど……」クリフォードが覗き込んだ。
「体調にお変わりないですか? 例えば、脈が上がって来ているとか視界が歪んでいるとか……頭痛がするとか……」
ルーピンは暫く、黙っていたがスネイプの厳しい視線の元、口を開いた。
「だ、大丈夫だ……あぁ、ただただ不味かっただけだよ……」
「それは良かった!」シルヴィアは大層嬉しそうに言った。
ルーピンは気分が少々悪そうで、口直しにコップ一杯の水を一気飲みした。
「じゃあ、その薬を満月の2週間前から毎食後飲めばきっと狼化せずに満月を越えられると思います!」
「ま、毎食後!?」
「確かに手間なのは分かっています。けれども、母が残した資料を参考に作ってみたそれだと、そのくらいの頻度で飲まなければ効かないのです……。いつかは善処したいのですが……今はこれが限界です……。
将来的には、薬を1回飲めば人狼としての力が無くなる。と言う薬を作ってみたいんですけど……それは随分と先の話になってしまいそうです。」
シルヴィアは大層申し訳ない。と言う口調で言った。ルーピンも反省した。と言う表情になった。
「ルーピン。この世に人狼と言う存在を憂いて、人狼化を防ぐ為の薬を作ると言う類稀ない人材が居る事に感謝しろ」
スネイプはそう言い切った。
「わ、分かっている……。あ、ありがとう……シルヴィア」
「いえいえ。去年ロンドンで救ってくれたお礼です!」
「……まぁ、容体の変化があれば我輩の所に来るんだな」そう言ってスネイプは立ち去って行った。
シルヴィアも「では、宿題を大量に溜めているので失礼します!」と元気に宣言して部屋から立ち去った。
「あー……頑張れよ……リーマス・ルーピン……」
クリフォードはそう言って壁を通り抜けて行った。
ルーピンはこの薬をなんとかマシな味に出来ないか一瞬悩んだが、無理なものは無理なんだろう。と言う結論へ至った。
自分が狼化しないと言うメリットと不味い薬を14日間毎食後飲まなければならないデメリットを釣り合わせた。断然、狼化しないメリットの方が上回っている。
「しかし……もう少し、もう少しだけでもいいからマシにならないものか……」
1人残された部屋で、ルーピンは呟いた。水槽の中の水魔は嘲笑うようにルーピンを見ていた。
動物に変身出来る能力。習得難易度は非常に高い。
バーバラ・ボーモント:
オリキャラスリザリン生。父親はマグルで精神科医。2巻時点ではヨランダと一緒に居たが、無理になった。
防衛術の授業に参加している。
イザベル・ブラッドフォード:
オリキャラスリザリン生。修道院の孤児院で過ごす。熱心なキリスト教徒。母親は修道女、父親は魔法使い。ヨランダを擁護している。
善性の塊みたいな人なので、彼女に見捨てられたら本当に味方が居ないものと思っていい。
防衛術の授業に参加している。
レイラ・ランフランク:
オリキャラスリザリン生。両親は神秘部の無言者。皮肉屋。
防衛術の授業に参加している。
レジーナ・マーティンソン:
オリキャラスリザリン生。孤児。父親は闇払いに母親は死喰い人に殺されている。ヨランダが嫌い。
防衛術の授業に参加している。
ロイド・バーネット:
オリキャラスリザリン生。両親は魔法省で働いている。生真面目な方。
防衛術の授業に参加している。
イギリスの民間伝承にある、極めて危険な妖精の一種である。帽子の赤は人の血。
マシュー・エンフィールド:
オリキャラスリザリン生。母子家庭(母はマグル)。マグルの世界で生き、マグルを見下している。それが故にマグルの学校でいじめられていた。使う魔法が若干邪悪。
防衛術の授業に参加している。
完全な脱人狼薬:
シルヴィアの養母か実母か知らないが研究が成された。シルヴィアの夏休みのレポートでは、完全な脱人狼薬についての内容で出した。
クリフォード曰く、名状し難い生物を煮込んだ。みたいな様相。
ルーピン曰く、クソ不味い。
材料やら作り方やらは、トリカブトが登場する事以外全て捏造。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。
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