呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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第34話 城を這う陰謀

 それから数日間は、ホグワーツ内では〝シリウス・ブラックどうやって城内入ったか推理発表会〟でみんな忙しかった。

 

 ある人の説によれば、ブラックは灌木に変身出来る。だの言っていた。

 また、ある人によればブラックは鼠の動物もどき(アニメーガス)に変身出来て、ホグワーツの穴から入って来たんだ。と主張していた。

 ヨランダはルーピンがブラックの手引きをしたんだ。と主張していたが、100%スネイプに吹き込まれた内容だったし、ヨランダのような一部生徒を除けばルーピンは良い教授だったので、誰も信じようとしなかった。

 

 シルヴィアのお気に入りの説はシリウス・ブラックの名前が体を示すように、星に成れる。ブラックは流れ星としてホグワーツ敷地内に入って来たんだ。とトンデモ説だった。

 ただ、1番有力候補は明らかにシルヴィアとメアリー・クロッカーの魔法道具を使って移動して来た説であり、瞬く間にその説は城内に広がった。

 その説を耳に入れたフィルチは病的に城内にある棚、キャビネット、洋服箪笥にトラバサミを設置し始めた。

 しかし、哀れにもネビル・ロングボトムがトラバサミで右足首の骨を粉砕させてしまい、マダム・ポンフリーが怒り狂いながら、フィルチにトラバサミを全て回収するように命令した。その後、フィルチは悪態を吐きながら回収していた。

 

 因みに、3つほど数が合わないらしい。

 

 

「ルーピン先生はシリウス・ブラックがどうやって城に侵入して来たか、見当が付きますか?」

 シルヴィアがゴブレットに入れた〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版_2〟を持ちながら聞いた。

 

 結果だけ言うのならば、最初に調合した〝完全脱狼薬 - 19931024〟は脱狼薬としての効果は示したらしい。

 確かに、ルーピンはその満月の夜。大部分が人間だった。しかし、本人の話によれば手足の先っちょだけ狼が出て来てしまったようだ。ただ、それ以外は全て素晴らしかったらしく、理性だってしっかり保てていたらしい。

 ルーピンは物凄く喜んでいたし、シルヴィアは手応えを感じていた。その為、張り切って改良版である〝完全脱狼薬 - 最新版〟を作った。

 しかし、こちらは人間に飲ませるには毒の濃度が強すぎたらしい。流石のスネイプもルーピンに飲ませるのは止めた。

 その際、クリフォードは「君にもその程度の倫理観はあったんだな」と皮肉を言って、本気でスネイプに除霊されかけていた。

 

 その次は〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版〟を作った。それを飲んだルーピンは確かに満月の夜に人間だった。しかし、〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版〟を飲むと微熱が出続けるらしい。

 医務室から借りて来た水銀体温計を見る限り、確かにルーピンの平熱と比べて0.5℃〜1.0℃高かった。

 スネイプはそのくらい耐えろ。と言う無茶を言っていたが、シルヴィアはどうにか微熱が出ない薬。〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版_2〟を作り出した。

 

「そうだね……わたしにはとても思い付かないよ。吸魂鬼(ディメンター)を出し抜ける魔法使いがこの世に居る事自体驚いているからね……」

「ですよねぇ……」

 シルヴィアもルーピンもオフィーリアがシリウス・ブラックの無罪を信じていた。と言う情報がノイズになって引っかかり続けているのだ。

 不意に、シルヴィアの足元に鼠が1匹突っ込んで来た。

 シルヴィアは彼女にしては素早く足を動かして、鼠がぶつかって来ないようにした。

「最近、城内に鼠が多いよね」

「そうですか? ただ単に自分が最近、鼠に恨みを買われているだけかと思っていました」

 シルヴィアは自分が退いた事によって壁に激突して脳震盪を起こしている鼠を拾い上げて、〝薬品実験動物A〟とラベリングされた籠の中に突っ込んだ。この鼠もまた、指が1本欠けている。

 何故だか、シルヴィアが見つけた鼠は全部、指が1本欠けているのだ。ホグワーツの地下で鼠達の熾烈な争いが起こっているのかもしれない。シルヴィアはそう考察した。

「明らかに多くなっているよ。変な病気とか流行ってくれなきゃいいけど……」ルーピンは不安気に言った。

「まぁ、確かに鼠が持っている病気とか……そう言えば、黒死病(ペスト)って鼠が原因で拡がったりもしたんでしたっけ?

 まぁ、そんな事があれば、マダム・ポンフリーがすぐに治してくれますよ。あのお方は素晴らしい癒者(ヒーラー)ですから。さぁ、ルーピン先生。薬を飲みましょう!」

 シルヴィアが笑顔で言うと、ルーピンの顔が引き攣る。

「もう少し……もう少しだけでいいから……不味さはどうにかならない……かな。ほら、例えばチョコレートを一緒に飲んでも効果が打ち消されない程度には……」

「う〜ん、それはまだ少し難しいかもですね……。そもそも論として一部魔法薬とチョコレートって奇妙な相互作用があるようで……それについても何れ研究してみたいですね。

 兎に角、今はどうか耐えてください。もう少ししたら、味やら飲む頻度やらの研究に着手出来ると思うので!」

「ほ、本当かい? じゃあ……今は耐えるよ……」

 そうして、ルーピンはシルヴィアから〝完全脱狼薬〟の入ったゴブレットを受け取って一気に飲んだ。(一気飲みしたとは言え、5分程度は時間をかけたが)

 

「や、やっぱり……酷い味だ……まぁ、これで……うん。」

「今回はどうですか? 今のところ、体調不良などはありませんか?」

「だ、大丈夫だよ……うん」

 ルーピンは気分悪そうに言ったが、それでも目立った変化は無かったのでシルヴィアは大丈夫なもの。と判断した。

「それは良かったです。何か体調に変化があればスネイプ先生に言ってください。では私は失礼しました!」

 そう言い、シルヴィアはルーピンの私室から出て行った。

 

 

 クィディッチ・シーズンで生徒達が盛り上がりを見せている。そんなある日、スリザリン寮の掲示板に新たな情報が追加された。

 

 11月中旬の〝闇の魔術に対する防衛術〟の授業はルーピン教授の体調不良により、スネイプ教授が引き受ける事になった

 

「これ絶対、スネイプ有頂天に決まっているわ」

 ダフネが掲示を見て最初に呟いた。

 ホグワーツ生であればみんな周知の事実なのだが、スネイプは本来〝闇の魔術に対する防衛術〟の教授に志願している。と言うか毎年しているらしい。しかし、ダンブルドアにより悉く却下されているそうだ。

 その為か、防衛術の教授を毎年、不倶戴天の敵を見るような目で見ている(ルーピンは例年以上に酷い)。

 

「確かに。今頃、自分の部屋で小躍りしてるんじゃない?」

 シルヴィアの冗談にダフネや近くに居たルシアン・ヨークが吹き出して、メアリー・クロッカーがツボってずっと笑い転けていた。2人曰く、スネイプが小躍りしているところを実際に見られたら、一生分笑ってられる。そうだ。

 

 防衛術の授業に向かうと、いつもより断然人が多かった。ヨランダ一派はスネイプが授業をやると聞きつけて「それなら安心ね」と言いながらやって来たのだ。

 その態度にイザベル・ブラッドフォードは若干馬鹿にするような事を言っていた。もう手遅れだ。

 

「スネイプ先生。終ぞルーピンは懲戒処分となったのでしょうか?」ヨランダが大層嬉しそうに聞いた。

()()()()()、ルーピン先生は今日、気分が悪くようで教えられないとの事だ。」

 スネイプの口元は歪んでいた。シルヴィアは一瞬、自分が作り出した薬の影響を疑ったが、よくよく考えてみれば今日は満月の日だ。

 あの薬があっても尚、満月の日前後は体調が優れないそうだ。シルヴィアはそこも改良点に入れようと脳内の狭いメモスペースに書き込んだ。

 

「しかし、ルーピン先生は記録を書かないタイプの教授のようで、これまでどのような内容を教えたのかさっぱり分からない」

 スネイプは愚痴るように言った。

 ただ、シルヴィアはルーピンの部屋に薬を届けに行った際、何度か今日の授業内容をまとめを書いているのを見た事がある。ただ単純にスネイプの調べが甘いか、わざと言っているのかのどちらかだろうと推測した。

 しかし、シルヴィアはそれを指摘出来るほどのメンタリティーを持っているわけでは無かったので、無言を貫いた。

「これまでにやったのは、真似妖怪(ボガート)赤帽鬼(レッドキャップ)、河童、水魔(グリンデロー)です。スネイプ先生」

「ご丁寧にありがとう。ミスター・バーネット。尤も、我輩は教えてくれ。と頼んだでは無く、ルーピン先生のだらしなさを指摘しただけであるがな。」

 物凄く、皮肉気に返した。別に教えて欲しく無かったのだなら、素直にそう言え。

「レッドキャップやグリンデローなど、1年坊主でも出来る事を3年生である君達にやらせていたのが甚だ疑問を呈するが……。さて、本日我々が学ぶのは──」

 スネイプは教科書の最後の最後の方までページを捲っていた。一体、何を教えるつもりなんだろうか……?

「人狼である」

 シルヴィアは目を見開いた。

 これはスネイプの作為だろう。ただ、それが強ち間違った行動でも無いとシルヴィアは思っていた。確かに、今現在。シルヴィアは〝完全脱狼薬〟を作っているが、完全に人狼の生態などに詳しいとは言えない。

 恐らく、自分は普通の狼と人狼の狼を目の前にして、まともに判別出来ないだろう。とは思っていた。

 ただ、スネイプはきっとルーピンが人狼だと白日の下に晒されてほしいのだろう。やっぱり、スネイプはルーピンの事を何らかの理由で恨んでいるらしい。

 いつも通り、大人気ない人だ。シルヴィアはそう思いながら、人狼の事が書いてあるページを開いた。

「けど、先生。これからやる予定なのは、おいでおいで妖精(ヒンキーパンク)で──「ミスター・エンフィールド。この授業は我輩が教えるのであり、君では無いのだ。さて、諸君。394ページを開き給え」

 マシュー・エンフィールドは物凄く詰まらない。と言う表情で居た。それをヨランダ一派が嗤っていた。地獄の光景である。

 

「さて、人狼と真の狼とをどうやって見分けるか、分かる者は居るか?」

 教室はシーンとなっていた。

 普通、自分がやっているページの300ページ先の内容なんて覚えている生徒など居ないのだ。

 しかし、少し経ってからマージョリー・フェアフィールドの手がノロノロと上がって来た。

「ミス・フェアフィールド。分かるかね?」

「はい。人狼の狼は普通よりも鼻が短く、人間らしい小さな瞳孔を持ち、尻尾に房飾りが付いています。加えて、普通の狼よりも凶暴です。人狼は人間を襲うことを好んでおり、他の生き物はほとんど攻撃しません」

「素晴らしい。5点差し上げよう」

 フェアフィールドはあまり面白くなさそうな反応をして座った。

 その後、詳しい説明を延々と聞かされて最後に〝人狼の見分け方と殺し方〟と言う明らかに悪意を感じせざるおえないレポートの課題を羊皮紙1巻分出されて授業は終了した。

 

 ヨランダ派(ダフネ曰く「ヨランダやドラコの一部生徒以外は付き合いでやっているんだと思うわ」だそうだ)は羊皮紙1巻分の課題が出されたと言うのに、上機嫌で「あれこそ正しい〝闇の魔術に対する防衛術〟の授業だわ」と言っていた。

 対して、エンフィールドはどっかの誘拐野郎*1と同じように理論ばっかでつまらない。と言って、端から課題をやる気はないようだった。

 彼はより実践的な授業で、妖怪を吹き飛ばしたいらしい。それはそれで危なっかしいので勘弁して欲しかった。

 

 

 今年は12月の中旬ぐらいまでずっと天気が悪く、ずっと雨が降っていた。それの所為でシルヴィアもダフネもうっすら体調の悪い日が続いた。

 また、ダフネの妹であるアストリアはどうやら重めに体調を崩したようで、数週間、医務室に入院する羽目となった。そして、遂に酷い症状に見舞われたようで、聖マンゴ行きになってしまった。

 その際の、ダフネの表情はシルヴィアが見たことないほどに悲しいものだった。また、シルヴィアが最後に見たアステリアの様子は本当に悲惨なもので、手先に黒ずみのようなものが出来てしまっていた。

 また、同じような体調不良に覆われた生徒は何人も居たようで、医務室が満室になる日が数日間続いた。マダム・ポンフリー1人では回しきれなくなったようで、聖マンゴに協力要請を出したそうだ。見慣れない癒者が何人も医務室を出入りしていた。

 また、そのうちの数名がアストリアと同じように容体が悪くなり、聖マンゴ行きになった。

 

 学期が終わる2週間前。突然と空が明るくなり、眩しい乳白色になったかと思えば、ある朝、泥んこの校庭がキラキラ光る霜柱に覆われていた。

 城内はクリスマス・ムードで満ち溢れていた。

 フリットウィックなんかは、自分の教室にチラチラ瞬くライトを飾り付けていた。シルヴィアも最初、マグルの〝電気〟で光っているものだと思っていた。しかし、実は本物の妖精がパタパタさせている光だった。

 みんながクリスマスの予定を楽しそうに話している中、突如としてオリビアがシルヴィアの元に突っ込んでくるように飛んでやって来た。

 

「ど、どうしたの? オリビア……」

「シルヴィア。私、コトシはホグワーツに用事があるから居残るわよ」

「えぇ!?」

 報告だけするとオリビアはシルヴィアの元から飛び去ってしまった。シルヴィアとして、1人のクリスマスは寂しい。よってシルヴィアもまたホグワーツに居残る事を決定させた。

 確かに、ルーピンの〝完全脱狼薬〟の作成に集中できる。と考えれば、別に悪いクリスマス休暇にはならなそうだと感じた。

 

 そうして、クリスマス前最後のホグズミード行きがあった。シルヴィアはいつもの通り、寝坊をした。起きた頃にはもうお昼12時をゆうに越しており、いつも通りミリセントとパンジーは居なかった。

「ダフネ〜、ホグズミード行きだよ。一緒に行って、アステリアちゃんへのお見舞いのお菓子を用意しようよ〜」

 そう言ってシルヴィアはダフネを揺さぶり起こそうとする。しかし、ダフネは弱々しい唸り声を上げるのみだった。いくら朝に弱いダフネでもお昼過ぎになれば自然と起き始める筈だ。

「ダーフーネー、起きて〜!」

 もう一度揺さぶるがダフネは一向に起きなかった。

「た、体調でも悪いの?」

 シルヴィアがそう言いながら、ダフネの顔を覗き込むと顔が赤くなっていた。すぐさま額に手を乗せると信じられないほどに熱かった。シルヴィアは驚いて慄いてしまった。

 

「ひ、酷い熱だよ。これ。……ちょっと待って」

 すぐにシルヴィアは自分のトランクの方へ飛んで行って解熱剤が入った薬瓶を取り出す。

「ダフネ、ダフネ! ちょっとだけでいいから、薬を飲もう?」

 そう声をかけてもダフネはただただ苦しそうに弱々しい唸り声を上げるだけだった。

 一旦、薬を飲ませるのは諦めて水場に向かった。そして、水を桶に貯めて杖を振るい〈グレイシアス 凍れ〉と言って氷を作り出した。作り出した氷をすぐに布に包み、簡易的な氷嚢を作り出す。

 部屋に戻ってダフネの額の上に氷嚢を乗せる。

 先ほどよりはずっとマシになったようだった。

 

「ミリセントが居れば、ダフネを医務室に連れて行ってやれるんだけど……」

 シルヴィアは自分の無力さにため息を吐いた。

 現在時刻を確認すれば午後12時半。きっとミリセント達が帰ってくるのは16時近くになるだろうから、それまでダフネをこの部屋で何の処置をせずに寝かしておくのは、危ない。ダフネは妹ほどでは無いが、体の弱い少女なのだ。

「……ちょっと待ってね。ダフネ。今から医務室に行って癒者(ヒーラー)を呼んでくるからさ」

 シルヴィアは聞こえているか聞こえていないか分からないダフネに優しく声をかけてから、部屋を飛び出してシルヴィアなりの最高速度で医務室へと向かった。

 道中、古い羊皮紙を見ている奇妙な鼠を見かけたが、シルヴィアとしてその鼠に構っているような時間的余裕は無かった。

 

「ごめんください!」

 医務室にそう言いながら転がり込む。医務室は結構なパニック状態らしく、床にもシーツをひいて寝かされている生徒が居た。

「どうされたのですか? 医務室はこの通り、逼迫状態です。軽微な怪我であれば、誰か教授にでも申し付けてください。」初老の癒者がそう厳しく言った。

「違います! 私の友人が酷い高熱を出していてベッドで寝込んでいるんです。どうか、助けてください!」

 やって来た恐らく、聖マンゴの癒者がそう言う。癒者は「また、増えるのですか……」と一言言った。

「分かりました。その子の元へ案内してください。ナタリー貴女も来なさい。」

 シルヴィアは一気に安心した。そして、癒者2人をスリザリン寮の部屋へ案内した。

 

「こ、この子です。」

 ダフネは先ほどよりも呼吸が浅く、顔を真っ赤でずっと体調が悪そうに見えた。

「名前は?」

「ダフネ・グリーングラスです」

 そう言うと癒者は若干深刻そうな表情を見せた。

「グリーングラス家の娘ですか……。それに、この子もまたそうみたいですよ。聖マンゴ直行ですかね。」先ほど、ナタリーと呼ばれていた若い女性がダフネの様子を見ながら言った。

「そうですね……。ナタリーはこの子を連れて医務室に戻り、聖マンゴへ送る手続きをしなさい。私はここの消毒を行いますから」

「分かりました」

 ナタリーという癒者はすぐに担架の用意をして、ダフネを担架の上に寝かせた。その時にチラッと見えたダフネの指先はアストリアと同じように黒ずんでいた。

 

「い、一体、何なんでしょうか? あの子の妹にも同じような黒ずみが出来ていましたが……」

 消毒作業をしている癒者にそう問いかけてみる。

「貴女はマグル生まれ、もしくはマグル社会で今まで生きて来ましたか? これは偏見などでは無く、ただの質問です。」

「え? ……あーっと……まぁ、その。どちられでもないと言うか……その、ずっとひとりぼっちで生きて来たので……世間知らずという自覚はありますが……」

 そう言うと癒者は「そうですか」と一言呟いた。

「まず、大前提として魔法族はマグル界のありとあらゆる〝平凡な〟病気にかかったとして死ぬことはありません。例えば、インフルエンザだったりです。魔法薬の効果はマグル界の薬とまた作りが違いますから、魔法が関係しない病気であれば大抵の場合治す事が出来るでしょう。今回ホグワーツで流行っているのは恐らくですが、14世紀辺りの流行り病でしょう。」

 シルヴィアは14世紀辺りの流行り病がすぐにピンと来た。しかし、何故それが今流行っているのかが不明だった。

「えぇ? けど、今は20世紀ですよ。何故、6世紀も前の流行り病が流行っているのですか?」

「病気という物は完全に消滅しない物なのです。未だに調査段階なので、詳しくは判明しておりません。がしかし、ここのところやたらと城内に鼠が多くいた。と言う報告が上がって来ています。実際、14世紀辺りの流行り病も鼠が媒介となって感染が広がった。と言う報告が存在します。」

 シルヴィアは一気に背筋が凍った。

「ただ、先ほども申した通り、魔法薬は少なくとも魔法が関係しない病に対しては、非常に有用な効果を示してくれます。故に、この学校は閉鎖されていないのです。マグル界でこんな感染爆発(パンデミック)が起これば、学校なんて言う不特定多数の人が面を合わせる場所など、十中八九閉鎖されるでしょう。」

 そう言った頃には癒者の消毒作業は終わった。

「けれども、根本的に有用な魔法薬の開発が追いついていない今現在……ホグワーツの少なくとも大人は危機感を持った方が宜しいと思いますがね。ポピー以外、まともに恐れていませんから……。病と言うものは正しく恐れて正しく対策をする。これ重要ですから」

 そうキリッと癒者は言った。

「さて、……今まで言って来てあまり効果のない言葉ですが、貴女も気を付けるのですよ。」

「は、はい……分かりました。」

「分かれば良いのです。分かれば。さて、消毒作業は終わりました。私はここら辺で失礼させて頂きます。」

 そう言うと初老の癒者は部屋から立ち去って行った。先程は会話に夢中だった為、気がつかなかったが……この部屋はそれなりに変な匂いがする。消毒の所為だろうか。

 シルヴィアは耐えきれず、一旦外に出た。

 

「そう言えば、確かクリフォードは450年ぐらい前の人だよね? 期間は被ってないとは言え……少しぐらいはこの病気について詳しくないかな……?」

 そうして、シルヴィアはクリフォードの居る空き教室へ向かった。

 

「おいおい。兄弟、〝地図〟を無くしたとかマジかよ!」フレッドかジョージ・ウィーズリーの声が道中にある空き教室から聞こえて来た。

「俺だってわざとじゃないんだ。朝、起きたらトランクの中からいつの間にか消えちまっていた!」

「今日、ハリーに寄越そうって言う約束だったじゃないか!」

「しょうがないだろ? 無い物はないんだ!」

 よく分からないが、何か言い争っているらしい。あの一心同体もいいところの双子が言い争うだなんて珍しい話もあるもんだな。と思いながら、シルヴィアは廊下を歩いて行く。

 

「よ〜、クリフォード!」

「あぁ、シルヴィア。なんだい? 今日も〝完全脱狼薬〟の研究かい? 僕から、1つ助言するとすれば1番最新バージョンが分かるように〝最新版の最新版〟とかにするよりも日付で管理した方がいいよ」

「日付で管理しようとすると数字が並んで頭が痛くなるじゃん。それよりも、クリフォードは黒死病を治す魔法薬を知ってる?」

 そう聞くとうーんっと唸り始めた。

「正直に言うと、あそこら辺の時代の事は記録が少なくてね。マグル界もそうだったが、魔法界も十分暗黒時代だったから……それに、何度か流行はぶり返していたようだけど、それは地中海域とかイスラム文化圏の話だったし。……まず、僕は興味なかったし……」

「記録が少ない……か。だから、中々黒死病を治す魔法薬が完成しないわけか……」

 そこまで言うとクリフォードは驚いた。

「も、もしかしてだけど……黒死病を治す魔法薬って君の個人的興味じゃ無くて、今必要とされているのかい?」

「そうだよ。今、校内で大流行中らしいの。何人かは聖マンゴに移送されて……私の友達なんかも罹っちゃって、聖マンゴに送られるみたいなの……」

「……今って本当に1990年代だよな? 1300年代じゃないよな?」

「確かにそうらしいけど?」

 クリフォードは随分と驚いている様子だった。

「これ、本当に魔法界の大人達はクリスマス休暇で生徒を家に帰らせようとしているのか? マグル生まれの生徒とかどうするんだ? このまま黒死病がマグル界に流行ったらどうするんだ? マグル(あいつら)は次、誰にするんだ? ユダヤ人……への差別はもう1930年から40年代にこっぴどくやったし……次は外国人やら移民か?」

 ブツブツと言葉を発していた。どうやら、マグル界にまた黒死病が流行ってしまう事を恐れているようだ。

 

「けど、なんで今頃いきなり流行り始めたんだろうね? 癒者の人は、病気と言うものは不滅だからよくあること。みたいな事を言っていたけど……こう、どこか不自然な気がする……。」

「おや、ネクロタフィオ迷探偵のご登場かい?」

「クリフォードって最初の時と比べて皮肉屋になったよね? なんで私の周りには皮肉屋しかいないのかな……」

「そりゃあ、ここはイギリスだ。」

「──それもそっか……」

 シルヴィアはそれ以上考えるのは諦めて、ホグワーツで発生している奇怪な流行り病。黒死病についての考察を始めた。

「鼠……鼠ってなんで急に増えたんだろう……?」

 教室をグルグルと歩き回りながらシルヴィアは考えに浸るが、それらしい答えは思いつかなかった。

「う〜ん、シリウス・ブラックの所為? ──だとしても世紀の大犯罪者が魔法使いが、病気を流行らすなんて、そんな細々した事するのかな?」

 思考も教室もグルグルしているうちにシルヴィアは目が回って転んでしまった。

 

「──もしかして、何かをした事による二次災害的なものなのかな?」

「それは、例えば?」

 クリフォードはシルヴィアのその考察に興味を示したようで、意見を聞いて来た。

「そうだなぁ……シリウス・ブラックが鼠のアニメーガス説が出てるんだけど、実際にそうだとするじゃない? そしたら、ホグワーツで何かを成す為に鼠のご友人達を使った。その鼠達はありとあらゆる場所からやって来ていたから、黒死病を持った鼠も紛れていた。その、黒死病を持っている鼠が今回の事件の原因である。……とか」

 そのシルヴィアの考察を聞いてクリフォードは若干納得言っている様子だった。

「確かに、シリウスは優秀だった。あのシリウスがアニメーガスを習得していてもなんら不自然に思わない」

「あ、そう言えばクリフォードは知ってる? オフィーリアがシリウス・ブラックの無罪を信じていた。って言う話を。ルーピン先生から聞いてびっくりしちゃったんだけど……」

 そう言うとクリフォードは目を見開いて驚いた。

「オフィーリアがシリウスの無罪を信じていた……。やっぱりそうだ! そうさ、あのシリウスがジェームズやリリーを裏切るわけ無い! シリウスは友人を裏切るぐらいなら死ぬとでも言えるような男だ」

「えぇ……そうなの?」

 シルヴィアはシリウス・ブラック無罪説の信頼度が上がっている。と言う現実に驚きを隠せなかった。

 

「じゃあ、なんで捕まっているの……?」

「冤罪だろうな。魔法界の司法なんぞ元々健全ではないし。それに加えて、あの時代は打倒〝例のあの人〟の機運があまりにも強すぎて、疑わしきは全て罰する。みたいな風潮が強かった」

 それらが全て事実であればシリウス・ブラックは冤罪でアズカバン監獄に入れられていた事になるようだ。

「冤罪でアズカバン12年間とか……壮絶すぎない?」

「お可哀想に。冤罪が晴れればいいな」若干、他人事だった。

 

 ただ、シルヴィアには理解が出来なかった。シリウス・ブラックが無罪だったとして、彼は何故グリフィンドール寮の門番である〝太った婦人(レディ)〟を滅多刺しにしなければならなかったのだろうか?

 無罪云々の話以前に彼はアズカバン監獄で狂ってしまったのだろうか?

 いや、あの吸魂鬼を出し抜ける魔法使いだ。オフィーリアを出し抜く事も容易だったのかもしれない。

 

「やっぱり、よく分かんないな……」

「この世の中、何も全てを知ろうとしなくても良いのだよ。さぁ、もう夕食の時間だ。大広間に行けばいいさ」

「あ、うん」

 そう言った頃には窓の向こうは雪が激しく降り始めていた。

*1
クィレルのことである





トラバサミ:
 狩猟に使う罠。
 フィルチがブラック捕縛の為に病的にありとあらゆる場所に設置した。しかし、引っかかった生徒が居た為、マダム・ポンフリーによって回収が命じられた。
 回収したが、3つほど数が足りないらしい。

完全脱狼薬 - 最新版の決定版_2:
 現在の脱狼薬の最新版。シルヴィアはファイル名に最新版の決定版_(改訂版)とかつけちゃうタイプ。
 因みに、1番最初に作ったのが〝完全脱狼薬 - 19931024〟脱狼薬としての効果を十分に発揮したが、少し狼に変身してしまった。
 2番目が〝完全脱狼薬 - 最新版〟毒性が強すぎてスネイプに止められた。
 3番目が〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版〟飲むと微熱が出るようになった。
 4番目が〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版_2〟今回ルーピンに渡した物。

黒死病(ペスト)
 1346年から1353年にかけてアフロ・ユーラシア大陸でパンデミックを起こした流行り病。鼠が主に流行を広げた原因である。
 21世紀でもアフリカ、南北アメリカ、アジアで感染が確認されており、死亡者も出ている

マージョリー・フェアフィールド:
 オリキャラスリザリン生。両親は日刊予言者新聞でゴシップ記事を書いている。
 人狼について詳しい理由は自分のボガートが人狼になる程度には人狼を怖がっているから。

癒者(ヒーラー)
 魔法界の医者。因みに魔法界的には医者は人間を切り刻んじゃう、変人だと思われている。

医務室逼迫:
 なんでも高熱が出て手先やらが黒ずむ病気がホグワーツで流行っているらしい。

魔法界的衛生観:
 魔法薬は結構なんでも治してしまうので、マグルの平凡な病気に対しての意識は頗る低い。ので、ホグワーツでも病気が流行っててもすぐに治るだろうの意識でみんな居る。
 その為、ホグワーツは臨時休校にならないし、緊急事態宣言も出ない。
 が、今回は薬が出来ていないらしい。


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