呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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第35話 残酷なNoël(ノエル)

 クリスマス休暇が始まるとみんなこぞってホグワーツを後にした。

 今年はシリウス・ブラックが絶賛逃亡中、しかもホグワーツに侵入した。と言う事も相まって、去年よりもずっと多くの生徒が帰省した。

 

「ス、スリザリン寮は私一人が独占だぁぁぁ!」

 シルヴィアは、今まで出した事のない程の声を上げて全力で喜んだ。そして、寝室の廊下を駆け巡り、談話室を3周ほど走った。体力が無いのですぐに疲れ切ってしまい、暖炉前のソファーへ横になった。

 スリザリン寮生の親と言うものは、大抵が過保護だ。それに加えて、スリザリン寮生自体が保身的な行動を取る。よって、シルヴィア以外みんな帰省してしまったのだ。

 シルヴィアにとってそれが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。別に友達なんかもうっすら出来て、スリザリン寮での生活は悪くなかった。しかし、1人だけの時間も十分に欲しかったのだ。

 

「今日はどうしようかな〜、ゴロゴロ談話室で過ごそうかな〜、それとも、談話室を走り回っちゃおうっかな〜」

 

 シルヴィアはニコニコ笑顔で言ったが、途端、思い出す。

「あ、オリビアのところに行かないと! 最近、全然会えていないし……」

 

 

 降り積もった雪をどうにか避けながら、梟小屋に辿り着くとそこにはハリーの飼っているヘドウィグと言うシロフクロウしか居なかった。

「オリビア……は居ないのか……どこ行っちゃったのかな……。ヘドウィグは、知らないよね?」

 そう問うとヘドウィグはホーっと一言鳴いた。シルヴィアは勘でしかないが、彼女がオリビアの行き先を知っていると感じた。しかし、教えてはくれない様子で首をぐるっと回して明後日の方向を向いていた。

 

「そう言えば、あの暴れ柳っていつ見ても元気だよね……」

 ヘドウィグが見た方向。そこには暴れ柳があって今日も元気に暴れている。去年度の始まりには包帯をグルグル巻きにされていたので、元気になった事はいい事だろう。

 ……ただ、やはり何故ホグワーツと言う不特定多数の少年少女が住まう教育機関に植っているのだろう? これもまた魔法界倫理観とか言うやつなんだろうか?

 

「オリビアが居ないなら、クリフォードの所にでも行こう。脱狼薬の研究を進めたいし。いや、その前にスネイプ先生の所に行ってルーピン先生の容体を聞きに行った方がいいかな? あの薬を飲んだ後のルーピン先生の反応も気になるし……フィードバックってやつだね。うん」

 そう独り言をブツブツ言ってからシルヴィアはスネイプが居るであろう場所を巡って行った。城内はすっかり大掛かりなクリスマスの飾り付けが進んでいた。

 柳やヤドリギを編み込んだ太いリボンが廊下にぐるりと張り巡らされていて、鎧という鎧の中からは神秘的な灯りが煌めいて、大広間は木に露に輝く星を飾った12本のクリスマス・ツリーが立ち並んでいた。

 全て、フリットウィック先生のお手製らしく、道中で1回出会った時にとても上機嫌にシルヴィアへキラキラの星の飾りを渡してくれた。

 ただ、それを楽しむ人は殆ど居なくて、城内の多くの場所は雪が降る音とシルヴィアの足音だけが響いていた。

 

「スネイプ先生いらっしゃいますか?」

 無言。

 魔法薬の教室、個人用倉庫、研究室、職員室。どこに行ってもスネイプは居なかった。一体、どこに行ってしまったのだろうか?

「歩くの面倒くさくなってきたな……」

 シルヴィアはそう言って廊下の椅子に腰掛けて、雪が積もっていく様子をボーッと眺め始めた。

 1人でボーッと出来る時間。シルヴィアにとっては幸せな時間だった。

 養父母か実母か分からないが、親が殺されてひとりぼっちになった時もこうやって徐々に降り積もっていく白銀世界を見ていたような気がする。

 

「──あの時も……クリスマス辺りの話だっけ?」

 なんとなく思い出してきた気がする。

 雪が積もっている道を母親と共に歩いて、クリスマスの準備をしている村を練り歩いた気がする。その記憶には父親らしき人は居ない。つまりは、実母との記憶だろうか?

 また思い出される記憶。その記憶では両親が2人揃ってクリスマス・ツリーを部屋に飾っている。自分は、父親に抱き上げられてクリスマス・ツリーのてっぺんに星を取り付けているのだ。

 

「……一体、この幸せを壊したのは誰なんだろう?」

 シルヴィアは沸々と、親を殺した人への憎しみを募らせ始めた。

 その誰かの所為で、自分は5年間も1人ぼっちで森の奥に暮らしていたし、今後も一生、両親が居ない人生だ。いくらオリビアが居ても、彼女は梟だ。

 友人が居たとしても、いつその関係が途絶えるかは分からない。

 両親と言う確固たる人がシルヴィアは欲しかった。母と呼べる人が、父と呼べる人が欲しかった。実母でも養父母でもいい。少なくとも彼、彼女らの記憶を留めておきたかった。

 

「お母さん……お父さん……」

 

 そう呟いた時、少し遠くから走って来る靴の音が聞こえた。

 シルヴィアはびっくりして目を拭った。少しすると、ハリーが物凄い勢いでシルヴィアに気が付く事無く、走り去って行った。ハリーは涙を流していた。

 

「ハ、ハリー! どうしたの……」

 シルヴィアの声も虚しく、ハリーは廊下の角を曲がって完全に見えなくなった。

 

「シルヴィア! ハリーはどこに行ったんだい?」ロンとハーマイオニーが焦ったような表情で走ってきた。

「えっと……あっちの角を左に曲がったけど……その、どうしたの?」

「後で話すわ!」

 そう言って2人はハリーが行った方向へ走り去ってしまった。

「い、一体……どうしたんだろう……?」

 シルヴィアはただただ呆然とそこで佇むしかなかった。

 

 結局、スネイプはルーピンの私室から出て来たのを見つけた。どうやら、容体を確認していたようだ。

「どうでしたか? ルーピン先生の体調は……?」

「体温は平熱。気分もそこまで悪くないそうだ。明日のクリスマス・パーティーに出られるだとか息巻いていた。まだ苦いだの不味いだの言っていたが、まぁ、気にしなくて良いだろう」

「それは良かったです……」

 

 そうして、シルヴィアはクリフォードの部屋へ向かった。

 今のところ、上手くいっているようで〝完全脱狼薬 - 最新版の決定版_2〟も上手い事効果を示してくれそうだ。後は飲む頻度と味の改善だろう。

 最初のうちはあまりにも不味かった所為でルーピンは一言言ってから飲んでいた。最近はそんな事無い。しかし、シルヴィアとしてもあれは不味い物だろう。と察している。そこら辺をどうにかしたかった。

 以前、ハーマイオニーの父親が言っていた注射はどうだろうか。一度、調べて見たがどうやら人の皮膚に針をさして薬剤を注入するらしい。しかし、他者の肌に針を刺すにはそれなりの技量が必要だと思うし、自分ができるとはとても思えない。却下だ。

 マグル界の薬について少し調べた事がある。その際、マグル界では水薬はあまり使われていない様子で、錠剤や粉末状の薬が多かった。脱狼薬を乾燥させて固体にしてしまうのはどうだろうか?

 しかし、そうなるとゴブレット1杯分の薬を飲むために何粒の錠剤を飲まなければならないのだろうか? 詳しく考えずとも果てしない量であると推察できる。

 

「うーん……どうすれば……」

「クリスマス休暇も魔法薬の研究とは、非常に打ち込んでいるとは……本当、君は魔法薬狂いもいいところだ」

「私、前に本で読んだのだけど、クリフォードも生前はイベント毎に殆ど興味を示さず黙々と自分の家に閉じこもって魔法薬の研究をしていたそうじゃん」

 シルヴィアがクリフォードにそう厳しく言うとクリフォードは「ゔっ」と、虫を潰したような声を出した。

「折角の休暇だよ。好きな事やってなんぼだと思わない?」

 そう言いながら、シルヴィアは大鍋を火にかけ始めた。それによってビシッと冷え切った空き教室はポカポカと温かくなって来た。

 

 

 次の日はクリスマスだった。

 シルヴィアは、空き教室から帰ってくるなり、そのまま談話室で寝落ちしてしまったが、誰かが自分に毛布をかけてくれていたようだ。本当に誰がやってくれたのか見当が付かず、若干怖かったが気にしないでおいた。

 目を擦って、周囲を見てみればプレゼントがいくつ置いてあった。よく見ればそれは全て自分宛のプレゼントだった。

 

「わぁ! うれしい!」

 シルヴィアは1人で喜びの舞(側から見れば呪いの舞だったが、誰も居なかったのでセーフ)を一頻り踊ってから、プレゼントの包みを開け始めた。

 パンジーからは何やら綺麗な若葉のような煌めきを持つ宝石が1つ埋められた腕輪だった。どうやら、つけていれば1日1回はいい事が起こる。と言う物らしい。

 ミリセントからはどうやら有名店の物らしいミンスパイを1ダースだった。試しに1つ食べて見たが、確かに美味しかった。

 そして、ダフネからは〝世界の魔法薬大全〟と言う分厚い辞書で、シルヴィアが少し前から〝ふくろう通信販売〟で目を付けていた物だった。ただ、ダフネのメッセージカードの字は酷く歪んでおり、未だ容体が悪い事を察せてしまった。

 また、ハーマイオニーからは〝ボールペン〟と言うマグルの筆記用具だった。説明書きによれば、インク壺にいちいち突っ込まなくても良いし、持ち手も広々していて書きやすいらしい。

 試し書きをしてみたら、羽根ペンなんぞゴミだと思う程度には書き心地は最高だった。

 

 他にもウィーズリー夫人から自分のイニシャルである〝S〟と言う刺繍がなされたセーターの贈り物が届いていた。

 ハリーとロンからもプレゼントが来ており、それぞれ可愛らしい生物(パフスケインと言うらしい)のキーホルダーとハニーデュークスのお菓子の詰め合わせだった。

 そして、ルーピンからも贈り物が届いており、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーの10回分の無料券だった。いつかしっかりとしたお礼をしたい。とカードに書かれていた。

 

 

「ん? これは……」

 シルヴィアがプレゼントを談話室に広げているともう1つ封筒があるのを見つけた。一通りの親しい人から貰っている筈だ。

「誰からだろう?」

 封筒を見れば、そこには差出人の名前としてヘンリー・ローズブレイド、オフィーリア・ローズブレイドと書かれていた。シルヴィアは唾をごくりと飲み込み、机の上に置いてあったペーパーナイフで封を切った。

 すると一気に靄が出て来て、シルヴィアの周囲を覆った。

 

 

『どうも、久しぶり。シルヴィアちゃん。……っと言っても君にとっては初めまして。に近いかな?』

 目の前には、鴉の濡れた羽のような黒髪で灰色の瞳を持っている女性が何に座っているのかは見えなかったが、座っていた。

 その横には漆黒のように暗い髪に黄金の瞳を持ち、メガネをかけた男性が同じく何に座っているのかは見えなかったが、座っていた。

 シルヴィアはただただ困惑するしかなかった。

 

『困惑しているようだね? よろしい。シルヴィアちゃん、そこにお座り。我々が自己紹介をしてあげよう!』

 女性はそう仰々しく言うと隣の男性と共に立ち上がった。

 シルヴィアはどこに座れば分からなかったが、取り敢えず腰を下ろしてみる。本当によく分からないのだが、座れてしまった。

 

『我が名はオフィーリア・ローズブレイド! 旧姓はブラックだったりしたね。何処ぞの誰か(父親)は自分が、その時読んでいたマグルが書いた小説に出てくる娘の名前にしたそうだ。どうやら、恋やら愛の所為で狂気に呑まれたヒロインの名前だそうだ。

 ……自分の娘にそんな名前を付けるだなんて、全く酷いものだね。ただ、父親は確かに数十年後には星の名前になるって言っていたのだが……確かに1988年6月8日に天王星の第7衛星の名前として付けられたようだ。私が死んでから2年後の話さ』

 そう言うとオフィーリアは礼をした。シルヴィアはただ、口をポカンと開けたまま聞いているしかなかった。

『オフィーリア先輩。貴女の所為でシルヴィアが困惑していますよ』

 隣に座ったヘンリーが呆れた。と言いたげな目でオフィーリアを見ながら言った。

 

『おや、そうかい? ……んー確かにそうみたいだね。悪かったよ。さぁ、ヘンリー自分の自己紹介をしてみてはどうだい?』

『あぁ……わたしの名前はヘンリー・ローズブレイド。シルヴィア。君の名字の子孫であり、親戚だね。』

 そう言うとぎこちなく笑顔を浮かべた。

 

「その〜……この空間は……?」

『そうだねぇ……あまり、詳しく説明するとやたらと長くなってしまうから、簡潔に言えば〝魔法的な不思議な空間〟だね』

 あまりも簡潔で殆ど情報量の無い言葉だった。

 

『まぁ、難しい事を考えるべきじゃ無いって事だね。』

 そう言うとオフィーリアもヘンリーもシルヴィアの事をじっと見つめた。

『君が元気そうでなりよりだ』

 ヘンリーが呟くように言った。オフィーリアも先ほどの巫山戯た笑みでは無く、心から満たされた。と言う笑みを浮かべていた。

 

『私は君を引き取ってから自分達の命が短いと悟ったんだ。別にそこは重要な問題では無い。君ならば、生き抜いて生き延びていけると信じていたし、そうなると知っていた。……けれども、私達は少々望んでみたんだ。君の成長を見てみたい。って。

 どうやら、セブルス・スネイプはこの手紙の存在を3年はド忘れしていたようだね。本当に薄情な男だ。後で一言二言言ってやれ』

 オフィーリアがそう語らった。

「えぇっと……何故、2人は自分が死ぬ事を察していたんですか?」

『2人じゃない。オフィーリア先輩が勝手に察していただけだ。わたしがその話を聞いた時、多少は驚いた。』

 ヘンリーがそう言うと、オフィーリアは軽く笑った。

『私は幼い時分より、色んな事象を見抜くのが得意だったんだ。シルヴィア、君も話を聞いているだろう? 私は生まれながらの〝開心術士〟だったんだ。

 シルヴィア、この意味が分かるかい? ──私は、人の心が見放題だった。それの所為で実につまらない人生だったさ。他者の企み、本音、闇。全てが見えてしまった。全てが分かってしまった。』

 オフィーリアは憎らしげに言った。

『人の心が見放題だと、全てを察する事が可能だった。それと、この事は、ヘンリー以外まともに話した事がないんだけど……。いつからか、私は……きっと、運命を見る事が出来たんだと。あの賢すぎる魔女の所為だろうね。

 生まれながら持っていた開心術の才能。そして、運命を読み解く能力。その2つ所為で私は、自分とヘンリーが死ぬのを察したんだ。』

『オフィーリア先輩から自分達が死ぬと言われた時は驚いた。もっと、君と過ごして見たかったし、君の成長を見ていみたかった……けれども、それは叶わない注文だったそうだ。だから、わたし達はこの手紙を作り出した。シルヴィアの成長を見る為にね』

 ヘンリーが穏やかにそう語った。

「お、お2人は……一体、どうして死んでしまったのですか?」

『そんな残酷な事は考えなくていいんだよ。君は、今日を残酷なクリスマスにしたくないだろう? 君はただ、明日へ向かって歩いていけばいい。』

 そう言うとオフィーリアはシルヴィアの頭を撫でた。確かにほんのりと温かみを感じた。

 

『本当は……去年の今の時期、君と話してみたかった。……あの時の君は酷く……可哀想だった』

「2人は、去年の私をみていたのですか?」

『さっきも言っただろう? 私は見ればなんでも分かる。』そう言うとほんのりと笑った。

『それと、絶対にセブルスには言っておいてくれ、手紙を忘れるな。と100回以上言ったのに忘れるだなんて、正気か? と』ヘンリーはスネイプが大層恨めしいようだった。ただ、ファーストネームで呼んでいるのだから、生前親しかったりしたのだろうか?

「は、はい……」

 

『けど、君がその純粋さをその高貴な心を保ち続けていた事に私は、世界に対する感謝の意を述べられるよ』

 オフィーリアは満たされている。と言う表情で言った。

『シルヴィア、君があのルーピンの為に脱狼薬を作っていると言う事も知っているんだ。確かに人狼という生物は大層哀れな人種だとは思うが、私もオフィーリア先輩も大層な理由が無い限り、人狼をどうにかする為の薬を作ろうだなんて思わない。』

『私は学術的な興味から少し挑戦してみた物だけどね』

『貴女のは貴女。シルヴィアのはシルヴィアでしょう? シルヴィアは学術的興味からでは無い。単純な親切心から作ろうと考えた。その心の尊さは、普通の人が中々持てない物だ。誇りに思いなさい』

 そう言うとヘンリーもまたシルヴィアの頭を撫でた。オフィーリアと同じくほんのりと温かみを感じられた。

 

『……オフィーリア先輩。そろそろ時間が』

『そうだね。これは時間切れというやつだろう。続きは来年にしよう』

「来年も……来年もまた会えるのですか?」

『そうだとも。また、来年のクリスマスに会える。また会おう。シルヴィア』

 そう言うとヘンリーは靄の向こう側に行ってしまった。

『君は大丈夫だよ。さぁ、シルヴィア! 君は君の明日を目指して歩き続けなさい。君は森を歩き抜けなさい。君の旅路はまだまだ続いている。私はそう信じているし、そう信じたい。シルヴィア、自分を信じなさい。明日を恐る必要はない──っと、こんな感じにカッコいいことを言ってみたかったんだよね。』

 そう言うとオフィーリアはシルヴィアを抱きしめた。実体こそなかったが、温かったし、シルヴィアも嬉しかった。

 シルヴィアがオフィーリアを抱きしめ返すと、オフィーリアの姿は霧散してしまった。

 

 もう一度、目を開けるとスリザリンの談話室の床に座り込んでいた。そして、涙を流していた。

 

「──1つ釈明するとすれば、君の記憶の暗部とあの2人の記憶は非常に密接な関係にあった。上手く取り扱わなければ、君が思い出すべきでは無い記憶も思い出される可能性があった。」

 談話室の入り口にはスネイプが壁に寄り掛かるように立っていた。

「もうそろそろ、クリスマス・パーティーの始まる時間だ。君がパーティーに参加したいと思うならば、さっさと立って大広間に向かうといい」

 スネイプはそう言い残すと談話室から出て行った。

 シルヴィアは暫くボーッと談話室を見た後、自分宛のクリスマス・プレゼントを片付けて大広間に向かった。

 

 

 大広間に向かうと各寮のテーブルは壁に立てかけられ、広間の中央にテーブルが1つ、食器が13人分置かれていた。

 ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、スプラウト、フリットウィック、ルーピン。その他科目の先生も並び、あのホグワーツの管理人であるフィルチですら、いつもの茶色の上着では無く、古びたカビ臭い燕尾服を着て座っていた。

 そして、生徒は緊張でガチガチの1年生が2人。ロンとハーマイオニーが着席していた。

「メリー・クリスマス! やっぱり来てくれると思っていましたぞ、シルヴィア。これだけしか居ないのだから、寮のテーブルを使うのは、いかに愚かに見えたのでのう。さぁ、お座り!」

 シルヴィアはハーマイオニーの隣の席に着いた。しかし、いつもロンとハーマイオニーと一緒に居るハリーの様子が見えなかった。

「あれ、ハリーは?」

「ちょっと、今は落ち込んでいるんだ。訳は……えーっと、後で話すよ」

 ロンがこっそり言った。

「クラッカーを!」

 ダンブルドアがはしゃいで、大きな銀色のクラッカーの紐の端をスネイプに差し出した。スネイプはしぶしぶ受け取って引っ張った。

 バーンっと大きな音がして、クラッカーは弾け、ハゲタカの剥製をてっぺんに載せた、大きな魔女の三角帽子が現れた。それを見た途端、ロンは吹き出し、スネイプはそんなロンを殺意の籠った目で見ていた。

 スネイプはその後、その魔女帽子をダンブルドアの方へ押しやった。ダンブルドアはすぐにその帽子を被った。

 

「どんどん食べましょうぞ!」

 ダンブルドアはニッコリとみんなに笑いかけながら促した。

 シルヴィアは目の前に置いてあったロースト・ポテトを3口分取り分け食べた。そして、ロンとハーマイオニーからハリーについて聞き出した。

 

「──えぇ!?」

「ちょ、静かにしてよ」

 ロンから注意を受けてシルヴィアはすぐに口を手で覆った。

 この大広間に居る誰もが他人と深く話し込んでいたので、シルヴィアの絶叫を誰も聞いていなかった。

「け、けど……シリウス・ブラックはハリーの後見人でそれなのに、ポッター夫妻を裏切った。って話を聞けばみんな驚くよ……。それに、ハリーのそのシリウス・ブラックに対する復讐心……ちょっぴり、分かるよ」

 どうやら、大人達はみんな隠していたらしい。

 けれども、ハリーはたまたま魔法省大臣であるコーネリウス・ファッジとマクゴナガル、ハグリッド、三本の箒の女店主が話しているのを聞いてしまったようだ。

 シルヴィアはハリーの心情を想像するだけでこれ以上、食が進まなかった。

 

 中々食べ進めないシルヴィアに、ダンブルドアがクリスマス・プディングを食べるように勧めていた時、大広間の扉がバーンと開いた。

 スパンコール飾りの緑のドレスを着て、大きな大きな分厚い丸メガネをかけている女性だった。

「あの人って?」

「そうね、シルヴィアは占い学をとって無いから知らないのね。あの人は占い学教授のシビル・トレローニー。エセ予見者よ」

 ハーマイオニーは偉く厳しい口調で言った。その頃にはトレローニーと言う教授はまるで車輪が付いているかのようにスーッと近づいて来た。

「シビル、これはお珍しい!」ダンブルドアが立ち上がった。

「校長先生、あたくし水晶玉を見ておりまして」

 トレローニーの声は霧のかなたから聞こえてくるような声をしていた。注意して聞かないと聞き漏らしそうだ。

「あたくしも驚きましたわ。1人で昼食を取ると言ういつものあたくしを棄て、みなさまとご一緒する姿が見えましたの。運命があたくしを促しているのを拒む事が出来まして? あたくし、取り急ぎ塔を離れましたのでございますが、遅れまして、ごめんあそばせ……」

「それはそれは! さぁ、シビルお座りなさい」

 13人目の席をダンブルドアは指さした。しかし、トレローニーは座ろうとしなかった。眼鏡の所為で拡大されている巨大な目玉でテーブルをズイーっと見渡した途端、小さくあっと悲鳴のような声を漏らした。

「校長先生、あたくし、とても座れませんわ! あたくしがテーブルに着けば、13人になってしまします! こんな不吉な数はありませんわ!  お忘れなってはいけません。13人が食事を共にする時、最初に席を立つ者が最初に死ぬのですわ!」

 シルヴィアは占い学を取らなくて良かった、と心底思った。また、隣のハーマイオニーは深いため息をついていた。

「シビル、その危険を冒しましょう。構わずお座りなさい。七面鳥が冷え切ってしまいますよ」

 マクゴナガルがイライラとした口調で言った。トレローニーは迷った末、空いているマクゴナガルの隣の席に腰掛けた。

 目を硬く閉じ、口をキッと結んで、まるで今にもテーブルに雷が落ちるのを予想しているかのようだった。マクゴナガルは手近のスープ鍋に匙を突っ込んだ。

「シビル、臓物スープはいかが?」

 トレローニーは返事をしなかった。マクゴナガルは呆れた様子だった。

「では、シェリー酒はいかがですか?」

「え、えぇ……では頂きますわ」

 シルヴィアもロンもハーマイオニーも思っている事は一緒だった。「酒に釣られるな」

 しかし、トレローニーはマクゴナガルからシェリー酒をグラスに注いでもらい飲み始めるとその後、臓物スープも受け取り食べ始めた。

 

「ま、まぁ!」

 平穏は長く続かなかった。トレローニーはシルヴィアが今始めて視界に入ったようで、シルヴィアの顔を震える手で指差しながら、驚いた表情を見せた。

「ミス・ネクロタフィオがどうしたのですか?」

 マクゴナガルは本当に迷惑そうな口調でトレローニーに問う。

「あ、あああ、あ貴女です。貴女なのですわ!」

 2個目のクリスマス・プディングを頬張っていたシルヴィアは、困惑と呆れが入り混じった目でトレローニーを見ていた。ロンやハーマイオニー、他の教授達もそうだった。

「あああ! 貴女の、貴女の所為で、1999年以降の予言が無いのですわ!」

「はぁ?」

 遂にハーマイオニーが完全に呆れ切ったと言う声を出した。

 

「ああ、貴女こそ、終末を齎すその存在。長年、大地に醸造されて来た怒りの炎を世界に撒き散らし、終焉と言う洪水を沸き起こす存在! 世界を荒野と化す死そのもの! あぁ、恐ろしや……恐ろしや!」

 そう言うとテーブルの下に隠れてしまった。

 シルヴィアは本当にこのトレローニーが何を言っているのか分からなくて、ポカンとしていた。それはロンもハーマイオニーも同じだった。

「何を仰い。ミス・ネクロタフィオはそんな事をするような生徒では御座いませんよ」

 マクゴナガルがトレローニーに言い付けるように言った。

「さぁ、シビル。シェリー酒をもう1杯飲みましょ」

 スプラウトがマクゴナガルの横にシェリー酒の瓶を持って現れた。

「え、えぇ……そうね……」

 この場に居る誰もが思っただろう。この人、チョロいな。っと。

 

 その後は実に愉快な物だった。トレローニーがシェリー酒を開けているからと言う理由で他の教授達も蜂蜜酒やシングルモルト・ウィスキー、ファイア・ウィスキーに手を出しており、パーティーが終わる2時間後には素面の大人が誰1人として居なかった。

 ルーピンはハグリッドにお酒を強要されて、ファイア・ウィスキーを3杯飲んで潰れていた。

 フリットウィックは酔い始めてからと言うもの、大広間に延々とクリスマス飾りを増やす。という奇行に走り始めていたし、スプラウトはマダム・ポンフリーと薬草話に熱くなっていた。

 またあのスネイプでさえ、酒に酔っていつもより饒舌になっており、隣のチャリティ・バーベッジと談笑していた。

 ロンは「スネイプ……談笑するって言う思考回路があったんだな」とぼやいた。

 

 ダンブルドアはいつも以上に陽気で、テーブルから少し離れた場所にて、1人で踊り出したりもしていた。(この際、トレローニーは1人でダンブルドアが死ぬだの何だの絶叫していた)ハゲタカの魔女帽子を被って踊っているダンブルドアは本当に滑稽で本当に面白かった。

 途中より、シングルモルト・ウィスキーを5杯ほど飲んだマクゴナガルが参加して2人でワルツを踊っていた。

 ロンが「あんなに酔っている状態で転ばないなんて、社交ダンス大会に出た方がいいじゃ無いか?」と1人呟いていた。

 学校がこんな調子で大丈夫なのかとシルヴィアは一瞬思ったが、このパーティーに於いて子供は5人だ。圧倒的に少数派である。つまり、そう言う事なんだろう。

 

「私……もう、眠くなっちゃった……帰ろうかな……」

「僕もハリーの様子が気になるし、帰るよ。」

 ロンはクリスマス・プディングを3つほど持って立ち上がった。

「君は帰らないのかい?」ロンがハーマイオニーに声をかけた。

「ううん。私、マクゴナガル先生にちょっとお話があるの」

 シルヴィアとロンは一緒に玄関ホールまで歩いて行った。

 

「ハリーによろしくね……」

「あぁ、分かったさ……」

 そして、お別れをした。

 スリザリン寮は地下深くにあるのだが、少なくとも月光が見える場所にしてくれた方が有り難かった。とシルヴィアは毎晩思っている。

 今晩もそう思いながら、暖炉の前のソファーに座ってぼやーっとし始めた。

 暫くすると眠くなってきて、シルヴィアはまた暖炉前で眠り始めた。

 

 

 シルヴィアが寝始めて少しすると、しもべ妖精が3匹ほど談話室に現れる。

 まず最初にソファーで眠ってしまっているシルヴィアに毛布を掛けた。次に、談話室の掃除や火が弱まっていた暖炉に薪を焼べる。

 そして、何事も無かったように立ち去って行った。





ヘドウィグ:
 ハリーが飼っているシロフクロウ。メスである。

クリスマス:
 養父母、実母。どちらか分からないが、親が死んだのはクリスマス辺りである。

養父母からの手紙:
 ヘンリー&オフィーリアがシルヴィアの成長を見たい。と言う理由で作り出した〝魔法的な不思議な空間〟スネイプが預かっていた。

クリスマス・パーティー:
 ハリーはシリウス・ブラックについての話を聞いてしまって、怒りと悲しみ心頭中なので欠席。
 教授達はみんな酒を飲んでいる。

シビル・トレローニー:
 占い学教授。カッサンドラ・トレローニーの曾々孫にあたる。頻繁に生徒の事故や死を予言するが、ほぼ当たっていない。出鱈目である。
 シルヴィアを見て変な事を言う。
 シェリー酒が好きらしい。


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