呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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シビル・トレローニー関連の捏造が多分に含まれます。気になる方はご注意してご覧いただくか、ブラウザバックをよろしくお願いします。



第37話 トレローニーの3度目の予言

 シビル・トレローニーは予見者である。かの著名な予見者カッサンドラ・トレローニーの曾々孫にあたるその人だった。

 しかし、予見と言うものは魔法界に於いても最も不正確な分野の1つであるし、彼女自体が自らの才能を完全に信じ切っている訳では無い。

 彼女は時々、些細な事を偶然言い当てては驚かれる経験はあったが、彼女自身、自分の〝内なる目〟が機能しているか否かは知り得ないし、魔法界の賢者とも言われたダンブルドアですら知り得ないものであった。

 そんな彼女がその人生の中で〝本物の予見〟をした事は今までに3度ほどあった。

 

 

 シビル・トレローニーが1度目の〝本物の予見〟をしたのは、1979年の夏。

 ホグワーツを卒業し、7年間のホグワーツ生活で唯一出来た友人、金髪のクレア・ガーディナーと共にヨーロッパ1周をしている時だった。

 

 シビルとクレアはドイツ、スペイン、イタリア、オーストリア……その他多くの国を巡り廻った。最後にイギリスから1番近い国、フランスに辿り着いた。

 フランスはシビルにとってはギリシャの次に思い入れの強い国でもあった。かの大予言者。ミシェル・ノストラダムスを輩出した国である。

 ノストラダムスはマグル界に於いては、時々注目される大昔のインチキ予言者。と解釈される事が多い。

 しかしながら、彼は魔法界に於いては大きな影響力を持った予見者の1人であり、それに加えてマグル界にも名をそれなりに馳せていた為、フランスやドイツ、イギリスの魔法界は1900年代前半頃まで彼の予言を気にかけながら過ごしていた。

 それに、彼が1999年には世界が滅ぶ。と言う予言をした為、予見者は1999年以降の予見が出来ないのだ。

 

「……ここが、ミシェル・ノストラダムスの生まれ故郷……サン=レミ!」

 シビルは、彼女にしてはハイテンションでそう言った。クレアは隣で少々呆れた様子で隣の友人を見ていた。

 プロヴァンス地方のサン=レミ。ミシェル・ノストラダムスが生まれた土地である。卒業旅行先を2人で決めた際も、シビルは必ずここに訪れたい。と語っていた。

「あれが、百詩篇第5巻57番にて語られたゴシエ山。それに、グラヌム遺跡があちらの方に!」

「良かったわね、見られた。さ、もう夕方よ。今日はずっと電車にバス移動で疲れたのよ。さっさとコミューン通りの〝箒の居城(シャトー・バレ)〟に行きましょ。」

 そう言うと、クレアは半ばトレローニーを引き摺るように歩き始めた。

 道中、シビルはノストラダムスの生家。そしてノストラダムスの泉に興奮して、クレアは何度もマグルの目に映るような変な事はするな。と注意した。

 2人が箒の居城(シャトー・バレ)に辿り着く頃には、既に日も沈み切って宵闇が街に訪れていた。

箒の居城(シャトー・バレ)ってロンドンの漏れ鍋的な所なのかしら?」

「そうだと聞いたけど。確か……ここね」

 そこには確かに〝箒の居城(シャトー・バレ)〟と書かれた看板の吊り下げられた店があった。マグルから見ればきっと廃れ果てた空き家なんかに見えるのだろう。

 クレアはドアを押し開けて中に入った。

 中は2人の想像するよりもずっと綺麗だった。2人の想像上は漏れ鍋のようなパブで、少々汚らしい店を想像していた。

 

「あ、案外、綺麗で安心しましたの」

「お嬢さん達かい? イギリスから卒業旅行でここに来たって言う2人組は」

 フランス人にしては流暢な英語で、店主と見られる老婆が話しかけて来た。老婆は安楽椅子に心地良さそうに腰掛けていた。

「え、えぇ……そうです。ガーディナーとトレローニーです」

 クレアは、少々困惑した様子を隠せないままそう答えた。

「お2人さん。あたしが英語が流暢な事に驚いてるようだね?」

「い、いえ! あたくしは、最初からこの店主が英語が流暢だと知っていましたのですわ! 予言者ですもの!」

 シビルはそう強がって言った。クレアは「こう言う子なんです。悪い子では無いんです」と言った。その様子を老婆はニカニカ笑いながら見ていた。

「いいんだいいんだ。ここら辺りを数世紀前から訪れるイギリスの魔女が居るんだ。あたしは彼女に幼い時、英語を学んだ。けれども、彼女と話す以外は殆ど無用の長物だったんだ。こうやって得たものを使えるだけで嬉しんだ。」

 老婆は本当に嬉しそうに語った。

「数世紀前? そ、その魔女はそんなに長生きなんですか?」

「あぁ、そうだとも。あたしのひいひい婆さんの時代には、既にここを訪れていたそうだよ。あたしも彼女が何年生きているかは分からない。言える事はただ1つ。彼女は若く見える。20歳ぐらいに見えるんだ。不思議な話だとも。……さて、部屋に案内しよう。ここに来るまで随分と大変だったでしょう?」

 そう言って、老婆は立ち上がって2人を2階にある客室まで案内した。客室は2つベッドと2つ椅子だけがある簡素なものだった。ただ、窓からはカフェで夕食を楽しんでいるマグル達の姿が見えて、愉快なものだった。

「お夕食はイギリス料理とフランス料理、どっちが宜しいかな?」

「フランス料理でお願いします。」

「分かった。出来たら呼びますよ」

 そう言うと老婆は立ち去った。

 

「今日は絶対にブイヤベースが出るわよ。それに、貴女はフランスの赤ワインじゃなくてシェリー酒を選ぶ。」シビルが予見をしたみたいに、深刻そうに言った。

「そりゃあ、フランス料理を頼んだのだから出るに決まっているでしょうね。ここはマルセイユにもそれなりに近いのよ。それに、どこへ行っても私がシェリー酒を飲んでいるのは、貴女の経験則でしょ?」

 クレアはそう言うとベッドで一旦横になった。

「……けど、案外悪いものじゃなかったわね。フランスのマグルの公共機関。」

「そうだけども、あたくしはすっかり疲れてしまったわ……。こう予測出来ない方向に揺れる乗り物! あれってどうにかならないのかしら?」シビルが嫌そうな顔をしながら言った。

「それ言ったら、魔法界の移動方法も散々じゃないの」

「そ、それも……そうね。」

 シビルはそう言うと欠伸をして、もう一対のベッドで横になった。2人は料理が出来るまでの間、旅の疲れを癒すようにゆっくりと過ごした。

 

「……ブイヤベース出たわね」

「でしょう! やっぱり、あたくしの予言は当たっていたのですわ!」

 シビルは大層嬉しそうに言った。

「ブイヤベース憲章でのカサゴ、足長ガニ、ホウボウ、マトウダイ、アンコウ、西洋アナゴの中で何が入っているか当ててれば最高だったと思うわ」

「うっ、そうね……。けど、知っていましたの。カサゴ、マトウダイ、アンコウ、ホウボウが入っているのは!」

「はいはい。お見事。冷めないうちに食べてしまいましょ」

 そう言って2人は食べ始めた。食べている間もシビルは、細々と予言をしてクレアが冷静に突っ込む。と言うのを続けていた。

 クレアは折角のフランスだと言うのに、ワインを飲まずにシェリー酒を飲んでいた。

 

「あたくし、将来は人に囲まれながら仕事をしている気がするのですわ」シビルは呟くように言った。

「人に囲まれながら……う〜ん、つまりは無言者では少なくとも無いって事だね。」

 クレアは聖マンゴの職員として働く事を決めていたが、シビルは就職先を決めかねていた。

「出来れば、危険性の少ない場所で働きたいのですわ……」

「そうだねぇ……最近、イギリスは不穏だし……」

 昨今はヴォルデモートこと〝例のあの人〟が力を付けて居る頃だった。クレア達の先輩の中にも〝例のあの人〟の配下である死喰い人(デスイーター)に殺された人が居る。

「クレア、本当に気を付けてくださいませ……。貴女はその……」

「マグル生まれだしね。全く、ふざけているよ。マグル生まれが劣っているだなんて。ただの嫉妬? って話。私の事をバカにするスリザリンの連中よりも私の方がずっと成績良かったし!」

 そう言ってクレアは笑い飛ばした。しかし、シビルは不安気な表情でクレアを見つめていた。

「大丈夫だって、シビル。私は殺されたしないよ。もし、私の元へ襲撃に来たら、あのクソッタレどもを吹き飛ばしてやる。」

「そ、そうですものね。クレアは強いですものね……あの方々から、あたくしを。あたくしを助けてくれたですもの……」

「このフランスパン、イギリスで食べるものよりもずっと美味しいわよ。やっぱり、イギリス料理ってどうにかしていると思うわ。ほら、食べなよ」

 そう言ってクレアは切り分けたフランスパンをシビルの皿の上に乗せた。シビルは少しぼんやりとした後、フランスパンを食べ始めた。

 その日は2人ともすぐに眠りについた。

 

 結局、シビルはサン=レミと言うお世辞にも広いとは言えない街を1週間滞在した。

 クレアは2日目にしてもう飽きており、街に住まうマグルの子供達と一緒に遊んだり、〝箒の居城(シャトー・バレ)〟の店主の老婆、ナタリア・サンベールと世間話をしたりした。

 

「はぁ〜……素晴らしい場所でしたわ。」

「良かったわね……」クレアは呆れたと言いたい表情でシビルを見ていた。

「そして、明日からはサロン=ド=プロヴァンス! あの街のサン=ローラン教会にはノストラダムスの遺骨が眠っていると言う話ですの。あぁ……楽しみですわ。あたくし、その街には2週間滞在するような気がしますの」

 そう言って夢見心地なシビルを傍目にクレアは、自分とシビルの荷物をまとめていた。シビルはずっとサロン=ド=プロヴァンスへの思いを語っており、全然荷物をまとめないのだ。

 

「はぁ……いい加減、自分で荷物を──「終末は必ずや起きる……」ど、どうしたの?」

 シビルは、野太いクレアが今まで聞いた事の無いような声でそう言った。虚な目をして、口をだらりと開けて、ベッドの縁に座ったまま硬直していた。

「ど、どうしちゃったの? ひ、ひきつけを起こしちゃった? だ、大丈夫!?」

 クレアはすぐさまシビルに近寄った。

1999年、暦が第7の月を迎えし時、終末の鐘(破滅への讃歌)は鳴り響く。

 まずそう言うと目がギョロギョロと動き始めた。クレアは豹変した友人に戦慄して、どうしようかと慌て考え始めた。

 

憎悪と絶望に彩られた影(復讐の残響)が、呪いを或いは祝福を授かった1人の少女を器として、終末を齎す為、再び現世に降臨する。

 大地に長く醸造されて来た憤怒の炎は、遂にその鎖を解かれ、天と地を紅蓮に染め上げるだろう。

 大地を闊歩していた人類(傲慢なる覇者たち)に裁きの炎を与える。その炎は留まることを知らず、静寂を引き裂きながら、世界の隅々へと撒き散らされる。誰1人逃さんと。

 やがて、終焉という名の洪水が沸き起こり、全てを飲み込む。その奔流は容赦なく、誰一人として逃れることは叶わない。

 城塞は崩れ、街は焼かれ、摩天楼は砕かれる。生命あるものはただ何も語らぬ塵と化し、文明の灯火は夜に呑まれる。愚者の祈り()などではその炎は消せぬ。

 かくして、かつて繁栄を謳歌した大地(神々が愛した楽園)は、朝も夜も来ない黄昏の荒野へと変わり果てるだろう。

 この災厄を齎す者、その正体は運命()そのものであり、または人の怒りそのものである。モリの意志は誰にも止められない。

 神々はただ黙したまま何も語らぬ。生きているのか、死んでいるのかそれすら分からない。

 器となった少女の瞳に死を抱く紫水晶の光が宿り、その唇は静かに滅びの詩を紡ぐ。

 『全ては灰へと帰す──怒りも、憎しみも、歓びも、哀しみも、誓いも……。我が腕に抱かれるのは、ただ無垢なる荒野(静寂)のみ。』

 人々はその声に絶望し、空は暗転し、星々は輝きを失うだろう。

 誰も運命()から逃れられない。運命()を否定する事は赦されない。今度は救世主(ノア)は居ない。終末の舞台は整い、終焉の舞台(断罪の物語)はじきに始まろうとしている。

 

 そう言い切るとシビルの頭はガクッと前に傾き、胸の上に落ちた。ウゥーっと呻くような音を出したかと思うと、すぐにピンと起き上がった。

「ど、どうしたのかしら?」

 シビルはまるで夢から覚めた。と言う風な口調で言った。クレアはそんなシビルを見て未だ呆然とするしかなかった。

 

「ク、クレア? あたくしをそんなに見て……どうしたのですの?」

「……──貴女、きっと今。〝本当の予言〟をしたのよ」

「へ、へ?」

 シビルは先ほどの自分の様子を一切覚えていない様子で、ただただ困惑していた。

「いいから、冷静に聞いて。貴女は今、終末予言をした。1999年の7月に世界が滅ぶって。えぇっと…… 呪いか祝福を授かった少女を器として終末を齎す存在はこの世界に降臨する。って言っていたわ。」

 クレアは少々興奮気味で言った。その様子をシビルは呆然と見ていた。

「正直に言ってしまうと貴女の予見の能力は……出鱈目であって、たまたま当たる事があっても偶然だったり、貴女の今までの経験則だと思っていたの。けど、違う。やっぱり貴女は本物の予見者だった! 貴女、凄いのよ!

 ホグワーツの占い学の教授に志願した方がいいわ! 貴女のその才能、ダンブルドアだって認めてくれる筈よ!」

 クレアはそう嬉しそうに言い切った。「ホグワーツはいいわよ。ダンブルドアが居るから絶対に〝例のあの人〟は手出し出来ない! 絶対に安全な職場だわ」そう続けて言っており、シビルはまだ呆然と1人盛り上がり始めた友人を見ていた。

「そ、そんな……あたくしが、あたくしが終末予言だなんて……あたくし、そこまで途轍もない予言をするほど厚かましくないですわ……」

「私は聞いたし見たのよ。貴女が本当の予言をするところを! 自信を持っていいよ。貴女は本物の予見者なのよ!」

 シビルは結局、その後も自分が〝本物の予言〟をした事を信じきれていなかった。

 

 そうして、2人はサロン=ド=プロヴァンスへ移動して、シビルはサン=ローラン教会に実に2週間通い詰めた。

 

 

 シビル・トレローニーが2度目の〝本物の予見〟をしたのは、1979年11月17日。

 冷たい雨の日。占い学の教授をしたいと言ってダンブルドアの面接を受けている時だった。

 

 ホグズミード村に存在する山羊の匂いが漂う小汚いパブ。ホッグズ・ヘッド。その上にある旅籠の一室にてダンブルドアは、目の前の占い学の教授志願者のシビル・トレローニーと面接をしていた。

 ダンブルドアとしては、占い学と言う不正確な科目を続ける自体、自分の意に反する事だった。

 しかし、シビル・トレローニーは卓越した能力がある非常に有名なカッサンドラ・トレローニーの曾々孫にあたる人物だった。

 また、彼女の友人であるクレア・ガーディナーはダンブルドアに対して熱烈なる推薦状を出していた。ガーディナーの話によれば、〝本物の予言〟をする事が時々あるらしい。彼女が聞いたのは、世界の終末予言だった。

 ダンブルドアはガーディナーの手紙には半信半疑だった。しかし、著名な予見者の子孫の志願者には会うのが一般的な礼儀だと考えて、彼女の元に向かった。

 

 しかし、向かってみればただの出鱈目の予言という名の戯言しか言わない女性が目の前に居た。とても彼女が予見の才能があるとはダンブルドアに思えなかった。

 

「すまないのじゃが……お主にはこの職は向いていないと思うようじゃ……」

 ダンブルドアは悲しげに言った。

「そ、そんな……そんな事御座いません! あたくしは〝本物の予見者〟なのです。あぁ……えぇっと……あ! 貴方は、近い未来に殺されます!」

 シビル・トレローニーは最初からこの調子だった。

 魔法省大臣が2年後のクリスマスに毒蛇に腕を噛まれて死ぬだの。闇の魔術に対する防衛術の教授が今年は、トロールに殴られて一生聖マンゴ生活になる。だとか、正直に言ってダンブルドアはもう沢山だと思っていた。

 

「そうかの……では、気を付けておこう……」

 そう言いダンブルドアは立ち上がり、ポールハンガーにかけてあった自分の旅行用マントを取り、部屋から出ようとした。

 

闇の帝王を打ち破る力を持った者が近付いて来る

 ダンブルドアはその言葉を聞いて目を丸くした。先ほどまで儚い声を出していたシビル・トレローニーは荒々しい野太い声だったのだ。

7つ目の月が死ぬ時、帝王に3度抗った者達から生まれる……そして闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印すであろう。

 彼は、闇の帝王の知らぬ力を持つだろう……一方が他方の手にかかって死なねばならぬ。なんとなれば、一方が生きている限り、他方は生きられぬ。

 しかし、彼は打ち破る力のみを持っている。彼は本当に打ち破る事は出来ぬ。全ての者は等しく運命()に跪く。かの闇の帝王も必ずや運命()を前にして頭を垂れるだろう。

 

 そう言うとシビル・トレローニーの頭はガクッと前に傾き、胸の上に落ちた。ウゥーっと呻くような音を出したかと思うと、すぐにピンと起き上がった。

「ど、どうしたのかしら? あぁ、あたくし……な、何か無礼を働いてしまいましたのですか?」

「い、いや……」

 ダンブルドアが言葉に躓いていると、部屋の外から物音が聞こえて来た。

 ダンブルドアはすぐに扉を開ける。するとそこには、闇より暗いローブを身に纏っている若い男が居て、ホッグズ・ヘッドの粗野なバーテンが男に掴みかかっていた。

「アルバス・ダンブルドア。こいつはお前の教員採用面接を盗み聞きしていた!」

 バーテンは大声で怒鳴るように叫んでいた。

「違います! わ、私はただ間違えて階段を上がって来てしまっただけです!」

「セブルス……・スネイプ?」

 男の名前をダンブルドアが確認するように呟いている間に、若い男はバーテンの腕を逃れて、走り去って行った。

 

「ど、どうしたのですの?」

「なんでも無い。ミス・トレローニー。わしはお主を占い学の教授として引き入れたいと考えておる。」

 そう告げるとシビル・トレローニーは酷く驚いた。

「え、えぇ!? け、けれども……貴方は、あたくしに教授の職が向いていないっと……」

「いやはや、わしの早計じゃったようじゃ。シビルや。お主は必ず良い教授になれるじゃろう」

 そうして、シビル・トレローニーの職は決まった。

 

 

 親愛なるクレア・ガーディナーへ

 クレア元気かしら? 体調に変化ないかしら? (あたくしには貴女に変化ない事が見えますけど、手紙の礼儀として書きました)

 あたくし、遂に職が決まりましたの! ホグワーツ魔法魔術学校占い学の教授ですわ!

 最初はダンブルドア校長に『貴女はこの職には向いていない』と言われて驚きましたわ。

 けれども、すぐに彼は今の早計だった。と訂正してあたくしをホグワーツに引き入れてくださったのよ!

 貴女が勧めてくれなかったら、ホグワーツの教授になろうとなんて考えなかったです。それに、貴女の熱烈な推薦状も本当にありがとうございますわ!

 もし、貴女が暇を作れたら来週末、一緒にディナーを食べましょう。勿論、あたくしの奢りで!

 暇が作れなかったとしても近い先、一緒に食べましょうね。けれども、あたくしは見えるのですわ。貴女と来週末にディナーを食べている光景が!

 お返事しっかりくださいね。

 シビル・トレローニーより

 

 

 親愛なるシビル・トレローニーへ

 私は勿論、元気よ。今は聖マンゴ病院での新人研修に忙しい毎日ですが、充実しています。

 そして、ホグワーツ教授就任おめでとう! 貴女なら、絶対ダンブルドアに認められるって信じていたわ。

 貴女の才能は本物ですもの。誰も認めなくたって私は認めるわよ。

 ディナーの件。了解しました。丁度来週末は暇が取れそうだったので、一緒に行きましょう!

 貴女とのディナー楽しみに待っているわ

 クレア・ガーディナーより

 

 

 2人はその次の週末。一緒にロンドンのクレアの祖父母が経営しているレストランでディナーを楽しんだ。2人はそのディナーを大いに楽しんだ。クリアは今日もまたシェリー酒を飲んでいた。

 世間話を一頻りした後、自分の将来、そして友人の将来を夢見ながら語り合った。自分達がお婆さんとなっても、孫達と一緒にディナーを食べよう。そんな約束を交わした。(クレアは完全に、1999年に世界が滅ぶと言うシビルの予言を忘れていた)

 

「じゃあ、またお互い暇を作ってまた一緒にお食事に行きましょうね!」

「えぇ、絶対に!」

 

 2人はそう言い合って別れた。クレアは少々酔いが回って、石畳を転びかけていた。十中八九、シェリー酒の飲み過ぎだろう。シビルは家まで送ろうかと聞いた時、クレアは自分1人で帰れる。そう断言した。

 確かにクレアはしっかり者だったし、シビルとしても彼女が転ぶ未来は見えなかった。

「気をつけてお帰りなさいね」

「勿論っ!」

 クレアは元気良く言って道を曲がった。

 ──それがシビルが最後に見た彼女の姿だった。

 

 

 シビルは、次の日にやって来た速達ふくろう便が届いた。送り主は闇祓いからで、その手紙で彼女が殺されてしまった事を知った。

 彼女は運の悪いマグルの家族が死喰い人達に弄ばれ、殺されかけているのを偶然に目撃してしまった。そして、マグルの家族を助ける為、果敢な事に死喰い人と戦ったのだ。

 戦う前、彼女は闇祓いにふくろう便を送っていた。闇祓いは現場に駆けつけた。そのお陰でマグルの家族は助かったらしい。しかし、クレアは不幸にも殺されてしまったそうだ。

 闇祓いからの手紙には彼女は善戦した。英雄的な死だった。と綴られていた。

 

 シビルは涙を流せず、ただ愕然とするしか無かった。自分は、シビルはクレアの死を予言できなかったのだ。

 自分を〝本物の予見者〟だと言ってくれた彼女の死を予見する事が出来なかったのだ。

 シビルは恐ろしさを感じていた。

 ホグワーツに初めて来た時、学生時代からなんとなく察していたが、ホグワーツの教授達のレベルは高い。出鱈目の予言しか出来ない自分の立場が低い事を瞬時に理解してしまった。

 

 自分は友人の死の予言すら出来なかった。自分の無力感を酷く惨めに感じた。

 

 クレアが死んでから2日後。マグルの教会にて彼女の葬式が執り行われた。シビルも参加するように手紙は来たのだが、彼女は葬式に行けなかった。

 

 

 シビル・トレローニーが3度目の〝本物の予見〟をしたのは、1994年6月6日。

 ハリー・ポッターの学期末試験を丁度終えたタイミングだった。

 

「それじゃ、ね、ここでおしまいにいたしましょう……ちょっと残念でごいますわ……でも、貴方はきっとベストを尽くしたのでしょう」

 トレローニーはそうポッターに言う。ポッターは立ち上がり、鞄を取り上げて帰ろうとした。しかし、ポッターの背後から荒々しい声が聞こえた。

ことは今夜に起こるぞ

 ポッターはくるっと振り返った。トレローニーは虚な目をして、口をだらりと開けて、肘掛け椅子に座ったまま硬直していた。

「な、なんですか?」

 ポッターがトレローニーに問うが返事はない。目はギョロギョロと動いており、ポッターは医務室に駆けつけるべきか悩んだ。すると、またトレローニーは言葉を発する。

 

闇の帝王は、友もなく孤独に、朋輩に打ち棄てられて横たわっている。その召使は、12年間鎖に繋がれていた。今夜、真夜中になる前、その召使は自由の身となり、ご主人様のもとへ馳せ参じるだろう。

 闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう。以前より更に偉大に。より恐ろしく……今夜だ。真夜中、召使いが、そのご主人様の、元に……馳せ参じるだろう

 

 そう言うとトレローニーの頭はガクッと前に傾き、胸の上に落ちた。ウゥーっと呻くような音を出したかと思うと、すぐにピンと起き上がった。

「あーら、ごめんあそばせ。今日のこの暑さでございましょ……あたくし、ちょっとウトウトと……」

 ポッターはその場に突っ立ったままだった。

「まぁ……あなた、どうかしまして?」

「先生は──先生は、たった今、仰いました……。闇の帝王が再び立ち上がる……その召使いが帝王の元に戻る」

 トレローニーは仰天した。

「闇の帝王? 〝名前を言ってはいけない例のあの人〟の事ですの? まぁ、坊や、そんな事を、冗談にも言ってはいけませんわ……再び立ち上がるだなんて……」

「でも、先生がたった今、仰いました! 先生が、闇の帝王が──」

「坊や、きっと貴方もウトウトしてたのでございましょ! あたくし、そこまで途轍もない予言をする程厚かましくございませんし、それより、〝本物の予見者〟なんかではありま──それは良くて……兎に角、坊や。ウトウトしているのよ」

 トレローニーがそこまで言うと、ポッターは納得したような納得していないような表情を見せながら屋根裏部屋から立ち去った。

 

 

「──あたくしはそこまでの予言をするような〝本物の予見者〟ではないですの……」

 1人、屋根裏部屋で呟くとトレローニーはシェリー酒の瓶を開けて飲み始めた。





ミシェル・ノストラダムス:
 マグル側から見たら、たまにオカルトブーム時に話題になる大昔の予言者。という認識だが、魔法界側からは正真正銘の予見者。という設定。

クレア・ガーディナー:
 捏造の星の元生まれてきたシビル・トレローニーの唯一の友人。
 レイブンクリー生で金髪。マグル生まれである。とても快活な性格でシェリー酒が好き。聖マンゴ病院に就職した。
 シビルの〝本物の予言〟を見てから〝本物の予見者〟として尊敬した。
 死喰い人に襲われたマグルの家族を助けようとして死んだ。

サン=レミ:
 フランス南部のブーシュ=デュ=ローヌ県、旧プロヴァンス州の都市。ノストラダムスの生まれ故郷。

百詩篇第5巻57番にて語られた:
 ゴルシエ山とアヴェンティーノから出るだろう。穴を通じて軍隊に知らせる者が。2つの岩の間で戦利品が取られるだろう。セクストゥスの霊廟の名声は衰える。
 というもの。モンゴルフィエ式熱気球の発明を的中させた予言らしい。

箒の居城(シャトー・バレ)
 サン=レミにある漏れ鍋的な飯屋兼旅籠。主人はナタリア・サンベールという老婆。英語が出来る。
 名前の由来はそのままでシャトーが城、バレが箒。
 少なくともナタリア・サンベールという老婆のひいひい婆さんの時代からやっている。

ブイヤベース:
 フランス料理の一つ。南フランス、プロヴァンス地方の地中海に面した港町、マルセイユの名物料理であり、海鮮料理。
 
ブイヤベース憲章:
 マルセイユに実在する憲章。本格派のブイヤベースには、作中内でクレア上げたカサゴ、足長ガニ、ホウボウ、マトウダイ、アンコウ、西洋アナゴの中で4種類が入っていなくてはならない。というもの。

シビル・トレローニー1度目の予言:
 1999年7月に世界が滅ぶ。という終末予言。聞いていたのはクレア・ガーディナー。
 これによってクレアはシビルの実力を信じるようになった。

サロン=ド=プロヴァンス:
 フランス南部のブーシュ=デュ=ローヌ県の都市。クロー平野に位置する。サン=レミからそれなりに近い。

サン=ローラン教会:
 ノストラダムスの墓は、フランス革命初期に暴かれたらしい。後に移転されたそうだが、その骨が本物かどうかは定かではないらしい。

ホッグズ・ヘッド:
 三本の箒や漏れ鍋に比べると小汚く、怪しげな雰囲気のパブ。チンピラや半グレが闇取引をする場にもなっている。シビル・トレローニーは予算が少なかった為、このホッグズ・ヘッドに宿泊せざるおえなかった。

シビル・トレローニー2度目の予言:
 ヴォルデモートを打ち破る力を持った者が生まれる。という予言。聞いていたのはアルバス・ダンブルドア。そして、セブルス・スネイプが盗み聞きしていた。
 この予言によってシビル・トレローニーはホグワーツへの就職を決めた。

シビル・トレローニー3度目の予言:
 闇の帝王の召使いが解き放たれて、闇の帝王が再び復活する。と言う予言。聞いていたのはハリー・ポッター。

今回の話:
 大体全てが捏造。
 トレローニーのハリポタwiki(https://www.harrypotter.com/ja/writing-by-jk-rowling/sybill-trelawney)を見ていたら、孤独に屋根裏部屋で過ごしている理由は、才能ある教師ばかりホグワーツで自分の立場が低いことを理解しており、劣等感を抱いている事。そして、シェリー酒はただの好みでは無く、ストレスからシェリー酒に溺れている。という記述を見つけて書き始めました。
 けれども全て捏造なので、原作トレローニー先生はもう少し強かな人でしょう。書き終わってからそんな気がしてきました。
 この今作の世界線のみの話です。これは二次創作です。以上予防線でした。


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