呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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第38話 鼠の大立ち回り

  6月が近付いてきて、空は雲1つ無く蒸し暑い日々が続いた。こんな気候の所為でシルヴィアは3回ほど熱中症で倒れた。

 みんながみんな、ぼやーっとしていた。勉強する気が起きず、校庭や中庭の少々冷たい芝生に座り込んで冷たい魔女カボチャジュースをたっぷり飲むだとか、ゴブストーンのゲームに他愛なく興ずるとか、湖上で眠たそうに泳ぐ大イカを眺めるとかして過ごしたいと思っている。

 しかし、現実問題そんな甘ったるいものでは無かった。学期末試験が近付いているのだ。

 みんな脳みそに気合いを入れて試験勉強をしなければならなかった。

 シルヴィアは、これまで以上に必死こいて魔法史の年表に向き合ったが5分も見ていれば眠ってしまっていた。ダフネがそんなシルヴィアを杖で突っついて起こすものだから、シルヴィアは生きた心地がしなかった。

 また、マグル学もスリザリンでマグル学を取っているアイザック・サザランドやヴァージル・マグワイアと共に勉強をした。シルヴィアは車の仕組みはなんとか覚えられた。

 しかし、マグルの社会構造は似たり寄ったりしたものだらけで、中々覚えられなかった。

 勿論、計算問題もダメだった。ヴァージルは「公式に入れればいいんだ」と言っていたが、シルヴィアはその公式が覚えられなかった。

 

 シルヴィアは、少し前に不審な闇の魔法使いに杖を奪われてしまった。実技試験をどうしようかと思い、フリットウィックやマクゴナガル、ルーピンに尋ねたら、母親の形見の杖を一度試してみて不具合があったら、また別日に試験を実施する。という話になった。

 そうして、シルヴィアは自分の母親の形見の杖をトランクの中から引っ張り出してきて、試しに簡単な呪文を使ってみた。

 

「〈ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ〉」

 フリットウィック監督の元、シルヴィアは魔法を試してみた。すると、机の上に乗っていた重そうな本はシルヴィア目掛けて吹っ飛んできた。

「ウビャッ!?」

 ギリギリシルヴィアへぶつかる前に、フリットウィックが魔法で受け止めてくれた。

「やはり……他人の杖だと上手くいかないものですね……。ミネルバやリーマスにも伝えておきましょう。貴女の試験は杖が戻ってきてから、若しくは杖を購入してから行いましょう」

「はい……」

 なんだか魔法使いとしてのアイデンティティーが根こそぎ持っていかれたような気分になり、シルヴィアは心底落ち込んだ。

 それと同時に、自分の杖を奪ったあの男を次見つけたら、絶対に杖を取り返してやる。という復讐心に漲っていた。

「大丈夫ですよ。今はアズカバンの者が沢山居ますから、犯人はしっかりと捕らえられるでしょう」

 フリットウィックはシルヴィアを元気付ける言葉を言ってから、ストロベリー味の飴を渡した。

 

 その後、シルヴィアが教室を出て飴を舐めながら1人で歩いているとオリビア、クルックシャンクス、謎の黒い犬か狼が校庭を横切って行ったのを見た。

 シルヴィアは一瞬、追いかけて行こうかと思ったが面倒くさくなってやめた。

 

 

 そして、週明け6月3日。遂に試験の日々が始まり、城内は異様な静けさに包まれた。

 

 スリザリンの3年生は、初っ端からスネイプによる魔法薬学の試験だった。

「えぇっと……トモシリソウは、どのタイミングで入れるんだっけ?」

「トモシリソウは最後の最後! ラビッジをふやけてなくなるまで煮込んだ後だよ!」

 混乱薬の作り方を聞いているダフネの方が、よほど混乱していた。ただ、周囲の生徒達も友人同士で試験内容の確認をしているがみんな混乱していた。

 

「そ、それで……オオバナノコギリソウを入れて、どの方向に何周鍋を攪拌させるんだっけ?」

「オオバナノコギリソウを入れて薄い緑色になったら、3周右回り。その後、7周左回りに攪拌させる!」

 ダフネに何度もしつこく聞かれて、シルヴィアは少しイラつき始めていた。しかし、自分も後で魔法史について詳しく教えてもらうつもりだったので、あまり怒りすぎないように気をつけた。

「……な、なるほどね……うん。分かった、分かったわ」

 ダフネは半ば自分に言い聞かせるようにそう言った。

 

 その後、ダフネの鍋は結局、濃い色にはならず失敗していた。ダフネは3周左回り、7周右回りに攪拌してしまっていたのだ。

「はぁ……やっぱり、魔法薬学苦手だわ……」

 ダフネは悲壮的に言った。

「やっぱり魔法薬は慣れだよ慣れ。ダフネはちょっと慣れが足りなかったんだよ。次は……あぁ、変身術か……」

 今度はシルヴィアが悲壮的になる番だった。

「杖を闇の魔法使いに奪われてお母さんの形見の杖を使おうとしたら、魔法は悉く失敗するから今回は試験を受けないんだっけ?」

「そうなの……まるで、杖店での悲劇の再来だよ……早く、あの杖を奪った犯人から杖を取り返さないと……」

 シルヴィアは確かにあの後、何度か今の杖で魔法を試していた。

 しかし、少し離れた教科書を引き寄せうと〈アクシオ 来い〉を唱えれば、自分の腕が引き千切らそうになったり、〈スコージファイ 清めよ〉を使えば自分の頭上から水の塊が落ちてきた。

 その後処理は大抵、ダフネがやってくれたのだが、シルヴィアは完全に落ち込みきっていた。

 

 みんなが試験を受けている中、シルヴィアは図書館で1人黙々と明日の試験科目である薬草学の復習。そして明後日の試験科目である魔法生物飼育学、魔法史の復習をしていた。

 薬草学はシルヴィアにとっては、魔法薬学の次に容易いもので復習するまでも無い。と判断して魔法生物飼育学の復習をしていた。

 風の噂によればヒッポグリフに餌をやる。と言う実技試験らしい。シルヴィアは大抵のヒッポグリフと仲が良かったので、あまり恐る事では無いだろう。と判断し、魔法史の教科書を開いた。

 ダフネが言っていた小鬼関係。そしてハーマイオニーが言っていた中世の魔女狩りについての年表を眺めていた。

 

「結局、ホグズミードの旅籠が小鬼反乱の本拠地になったのはいつだっけ……」

 呟きながら教科書を捲っていく。

「1612年か……」

 コラム的には、大層詳しく小鬼反乱について書いてあった。しかし、シルヴィアはチラッと目を通すだけで、魔女狩りについての記述を探し始めた。

「変わり者のウェンデリン……ほんとに変わり者だなぁ……」

 14世紀ごろの魔女で、生涯47回に渡って火刑に処されたことで有名らしい。

 教科書の記述だと魔女狩りはマグル達の集団ヒステリーの賜物であり、無用な同族殺しが頻発した。と少々冷笑気味に書かれていた。

 ただ、しっかりと魔女狩りの悲劇が語られており、その中でも最たるものがアメリカで起こった悲劇。セーレム魔女裁判だった。

 その魔女裁判でマグルも大量に処刑されたが、その中に魔法使いも数名混ざっており、これにより魔法族は魔女狩りの恐怖を感じるようになった。と書かれていた。

 また、幼い魔法使いなどが不幸に亡くなったとも書かれており、15世紀後半には名称不明の幼い魔女が母親共々処刑され死んだ。とも書かれていた。ただ、彼女は魔女の母親が居るので母娘共々殺されているのは、解釈の余地があるらしい。

 

 

「──図書館で寝ない!

 司書、マダム・ピンスが耳を擘くような声でシルヴィアを起こしてきた。シルヴィアは、魔法史の年表を見たまますっかり眠ってしまっていたようだった。

 窓の外を見るとすっかり夕方になっていた。

 シルヴィアはマダム・ピンスに追い立てられるように図書館を出て行って寮へ戻った。

 

 次の日の薬草学では夏の焼けつくような太陽の下で温室に入った。課題である嚙み嚙み白菜の収穫をやって寮へ戻った。シルヴィアは完全に暑さにやられて、嚙み嚙み白菜を3つ収穫し終えるとそのまま倒れた。その後、今季4度目となる医務室へ送られる事になった。

 水曜日は例の魔法生物飼育学の試験があって、ヒッポグリフの餌やりをした。シルヴィアは難なくクリアした。

 次の時間には魔法史の試験が行われた。ダフネやハーマイオニーが言った通りの範囲が出て来たので、シルヴィアは一応落ち着いて回答する事が出来た。

 水曜日の真夜中には1番高い塔に登って天文学の試験を受けた。シルヴィアは最後の30分間は眠気との勝負だったが、一応一通り問題を解く事は出来た。

 最終日、木曜日はマグル学というシルヴィアに取って大きな壁が立ちはだかっていた。

 シルヴィアはオールしてテスト対策をしたが、それは結局、睡眠時間を縮める以外の何者でもなくて、あまり解答が出来なかった。

 

 そして、最後の最後に闇の魔術に対する防衛術のテストがあった。あのストライキをしていた生徒達はどうしたものか。と見てみれば、何をやればいいのか分からないので、焦って授業を受けていた生徒に何をやるのか尋ねていた。

 その様子を見てイザベル・ブラッドフォードは憐れみの目を向けており、完全に愚かしい者達を見る。みたいな目だった。彼女にそこまでの態度を取らせた、ヨランダ一派が逆に凄いと思えた。

 ちなみに、シルヴィアは防衛術も実技系の科目だった為、杖を取り返してから受ける事にしていた。

 

 

 他の生徒達が試験を受けている中、シルヴィアは校庭の日陰で乾燥させて固形化させた〝完全脱狼薬 - 固形化試作No4〟の調子を見ていた。

 少し遠くにはハグリッドが魔法生物飼育学の試験をしているのが見えるし、もう少し視界を横にズラせば、ルーピンによる防衛術の試験が行われているのが見えた。

 防衛術の試験は様々な障害をクリアしていくものだった。障害というのは例えば水魔(グリンデロー)が入った水槽を渡り、赤帽子(レッドキャップ)がいっぱい潜んでいる穴だらけの場所を横切り、道を迷わせようとするおいでおいで妖怪(ヒンキーパンク)をかわして沼地を抜けて、最近捕まった真似妖怪(ボガート)が閉じ込められている大きなトランクに入り込んで戦う。というものだった。

 シルヴィアは(自分の杖を持っているならば)面白いものだと思った。しかしその反面、ヨランダ一派は完全に涙目だった。

 ルーピンは、成績を半減する代わりに彼らでも一度は対処した事があるボガートと戦う課題に変更する。という慈悲を与えており、大抵のヨランダ一派はそちらの方を選択していた。

 

 シルヴィアは〝完全脱狼薬 - 固形化試作No4〟の硬さを1つ1つ確認しながら、それを見ていた。

 しかし、少しするといい加減飽きて来て不規則な動きをしている暴れ柳に視線を移し──……

「あれぇ? なんで暴れ柳が落ち着き柳になってるの?」

 なんといつも枝葉を鞭のようにしならせている暴れ柳が今日は落ち着いているのだ。

 シルヴィアは気になって、〝完全脱狼薬 - 固形化試作No4〟を一通り回収し、革袋に入れて暴れ柳に近付いて行った。

 驚いた事に暴れ柳の根元には洞穴があってどこまでも続いているように見えた。シルヴィアは何を血迷ったのかこの先の様子が気になり始め、樹下の洞穴へ潜って行った。

 

「こう、なんと言うか……探検って感じでいいね! まぁ、変なところに辿り着きそうだったらすぐに引き返せばいいし!」

 シルヴィアはそう気軽な独り言を言った。しかし、シルヴィアは忘れている自分の杖が使い物にならないものである事は……。

「暗いな……〈ルーモス 光よ〉──アッチィ!?」

 杖の先に灯りを灯す呪文を唱えただけで手の中の杖は熱くなり、とてもじゃないが掴めないものになった。シルヴィアは驚いて杖を手放した。軽い杖が落ちる音を聞いた。

「ど、どうしよう……あ、そうだ」

 自分のローブのポケットから何かがあった時用として持ち出していたマッチ箱を取り出した。マッチを3本ほど折ってようやく火を付けた。

 自分の周囲、精々1メートルほどしか照らせなかったが、悪く無い代物だと思い、杖を拾い上げてローブのポケットに入れてからそのまま洞穴を進み始めた。

 洞穴はシルヴィアが想像していたよりもずっと長く、永遠と続く洞穴に迷い込んでしまったのだとシルヴィアが思い始め、息が上がって来た頃だった。

 急に洞穴は上り坂となり、すぐに道が捻じ曲がった。

 すると、小さな穴から漏れるぼんやりとした明かりがシルヴィアの目に入った。シルヴィアは一旦小休止して息を整えて、前進した。

 

 そこには部屋があった。雑然とした埃っぽい部屋だ。壁紙は剥がれ、床は染みだらけで、家具という家具は、まるで誰かが打ちこわしたかのように破損していた。

 そして、闇の彼方から杖を構えた誰かが現れた。

 

「シ、シリウス、殺してやる! 〈アバダ・ケダブラ 息絶えよ〉!

 そう叫び呪文を放ったのは、シルヴィアの杖を奪ったあの小柄な男だった。男の杖は間違いなくシルヴィアの物で、杖からは緑色の閃光が放たれた。

 

 

『アノ子ヲ、殺ソウトシタ……ナンテ無意味ナ事ォ……。ケレドモユルサナイ。ソノ代償ハイツノ日カ支払ウ事ニナル……呪ッテヤル!』

 

 

 

「ねぇ、ハーマイオニー? あれって君の猫じゃない?」

 ハリーが校庭を見ながら言う。確かに校庭にはオレンジ色の毛にブラシのような尻尾を持った猫。クルックシャンクスが居た。

「気の狂った殺人猫だろう?」ロンが皮肉気に言った。

「ロン! なんて事を言うの!? けど一緒に居るのって……シルヴィアの梟よね? 確か……オリビアとか言った気がするわ……」

 梟と猫の相容れないペアはそれなりに滑稽な光景だった。梟はハリー達が自分の方を見ているのを確認すると一気に飛び出して、ハーマイオニーの腕を掴んだ。

 

「ちょ、オ、オリビアさん! 痛い、痛いって!」

 ハーマイオニーが悲鳴を上げるが、オリビアはその鉤爪でハーマイオニーを何処かへ連れて行くように引っ張って行った。

 ハリーもロンもオリビアとハーマイオニーを引き離そうとするが、オリビアはバサバサと羽を羽ばたかせているので上手くいかない。

「ハ、ハリー! ロン! も、もしかしたらの話なんだけど……オリビアさんは、シルヴィアの危機を伝えようとしているのかもしれないわ」

「はぁ!? なんでそう思うのさ?」

 ロンが大声を上げて疑問を呈する。

「この、この、オリビアさんは少なくともシルヴィアと会話が出来る程度には頭がいいわ。だから、だから、私達の事も認識して、シルヴィアの危機を伝えようとしてくれたのよ! きっと!」

 ハーマイオニーはそう言うと「だからお願いだから引っ張らないで」と言った。するとオリビアは羽をバサバサするのをやめた。

 オリビアは静かに暴れ柳の根元を指さした。

 既にクルックシャンクスは暴れ柳の根元に居た。3人は瞬時にこの状況のおかしさに気が付く。暴れ柳が大人しいのだ。

 

「暴れ柳って暴れてるのがアイデンティティーなんじゃないかい?」

 ロンが呟くがその呟きに誰も答えず、ただクルックシャンクスとオリビアの先導の下、暴れ柳の樹下にある洞穴へと潜って行く。

 洞穴は延々と続くほど長くて、3人はぞれぞれの杖に光を灯しながら進んで行く。3人は緊張から息が完全に上がっていた。

 暫くすると洞穴が上り坂に変わり、やがて道が捻じ曲がって先を歩いていたクルックシャンクスの姿が消えた。

 その代わりにさな穴から漏れるぼんやりとした明かりが見えた。

 3人とも顔を見つめ合わせて、一旦止まる。息を整えてから光の方へ歩んで行った。その途中、猫の威嚇する声が聞こえて来た。

 

「な、な!?」

 打ち捨てられた荒屋のような部屋の中に小柄な男が杖を構えて立っていた。男は、3人の来訪を酷く驚いている様子だった。

 3人の足元にはシルヴィアが目を見開いて倒れていた。

「シル……ヴィア?」

 ハーマイオニーは驚きのあまり声が掠れていた。この中で1番早く状況を理解したのはロンだった。

 

「こいつが、こいつがシルヴィアを……殺したんだ!」

 震える声でロンが絞り出すように叫んだ。3人は衝撃的な光景に何も出来なかった。

「こ、このお嬢さんが……このお嬢さんがいきなり現れるからいけないんだ! わ、わたしは……シリウスを、殺そうとした……までで……」

「あ、貴方はまず! 誰なんですか?」

 ハリーが勇気を出して小柄な男に問う。

 

「あ、あぁ……殺さなくては、殺さなくては……〈アバダ・ケダブラ 息絶えよ〉!

 小柄な男は確かに呪文を詠唱し、緑色の光が男の持っている杖から放たれた。3人は死を覚悟して、目を強く瞑った。

 しかし、3人はいくら経っても死んでいなかった。

 ゆっくり恐る恐る目を開くと3人を庇うようにシルヴィアが立っていた。しかし、次の瞬間。彼女は倒れて、先程と同じように目を見開いた死体に戻ってしまった。

 

「〈エクスペリアームス 武器よ去れ〉 まさか、ここまで堕ちていたとは。ピーター……」

 男が持っていた杖は弾け飛び、それをキャッチする者がいた。ルーピンだ。

 ルーピンはいつもの穏やかそうな声とは違い、完全に怒りが籠った声だった。そして、すぐにハリー達と小柄な男の間に移動し、小柄な男の首に杖を押し付けた。

「さぁ、シルヴィアを抱えてこの男から離れなさい。あのソファー辺りに。少し、話さなければならない事がある」

 ルーピンはそう言った。3人は協力してシルヴィアの死体を持ち上げた。酷く冷たく、そして軽かった。

 3人はルーピンに指定されたソファーの方へ移動した。ハーマイオニーはシルヴィアの目を閉じさせた。

 そのシルヴィアの死体の上にオリビアが留まった。オリビアは誰だって分かるほどには悲しんでいた。

「ル、ルーピン先生……この人は?」

「ピーター・ペティグリュー! 12年前、ジェームズとリリーを裏切った張本人だ!」

 次に部屋に入って来たのは黒いローブを羽織っている指名手配書で死ぬほど見た‪顔……よりは少しは体調の良さそうな顔。シリウス・ブラックが杖を持って入って来た。

 ハリーが少し前に持っていたシリウス・ブラックに対する復讐心は、目の前で友人を知らない男によって殺された為に完全に失われていた。

 

「あぁ……その子がシルヴィア・ネクロタフィオ……かい? あぁ、可哀想に……こんな男に殺されて……オフィーリアとヘンリーも悲しんでいるだろう……」

 シリウスは酷く悲し気な声音で言った。少しするとシリウス・ブラックもまたペティグリューと自身が呼んだ男に杖を向けた。

「そ、その! 何故、ピーター・ペティグリューは……生きているんですか!?」

 ハーマイオニーが勇気を振り絞って問う。

「あぁ、いい質問だ。ハーマイオニー……。シルヴィアを弔う前に全ての経緯を話さなければならない。この男は──」

「こいつの所為でジェームズとリリーは死んだ!」

 シリウスは叫ぶように言った。

「シリウス。それでは何も説明になっていない──おや、セブルス。また、どうして……君まで?」

 入口に立っていたのはスネイプだった。スネイプは部屋の様子を見て酷く驚いていた。

 

「……何故、その男は生きている?」

「あぁ、よくぞ聞いてくれたスネイプ! わたしは12年前、ポッター一家が襲われた時すぐに理解した。ピーターが居場所をヴォルデモートに言ったんだと。それから、わたしはすぐにピーターを追跡した。

 しかし、ピーターはマグルの街にて魔法で爆破を起こした。わたしは杖を持っているから生き延びる事が出来た。それでも、哀れなマグルが13人……死んでしまったがな。

 そして、ピーターはその間に自分の指を1本切って死んだふうに見せたんだ。わたしに殺されたように装ったんだ! ピーターは鼠に姿を変え、水道管へ逃げ込んだ! よって残された魔法使いはわたしだけ! あぁ、ピーター、あの時お前はさぞ気分が良かっただろうな!」

 シリウス・ブラックは最悪な記憶を語るように、しかし激しい怒りの感情を込めて言った。

「しかし、秘密の守人はブラック。お前では?」

 スネイプはまだ困惑状態から抜け出せていないようだった。シルヴィアが殺されていなかったら、3人は笑えていただろう。

「いや、最後の最後に変えたんだ。こいつのような小心者と何度も死喰い人(デスイーター)やヴォルデモートと渡り歩いたわたし。普通に考えてみて、どちらが秘密の守人を務めているか考えるには容易だろう?

 わたしはそんな中、()()()狙った。しかし、その狙いは大いに間違っていた。だから、わたしにも……ジェームズとリリーが死んだ責任がある……」

 シリウスは言葉に悔しさを込めて言った。

「わたしだって、信じきれなかった。それに、今年度まで全てシリウスがやって退けた事だと思っていた。しかし、シルヴィア。彼女のおかげで久しぶりにオフィーリアの事を思い出したんだ。彼女は、シリウスの無実を信じていた……いや、見抜いていた。

 わたしは当初、オフィーリアがシリウスに吹き込まれたのだと思っていた。しかし、彼女が何かを吹き込まれるような人間では無い事は……セブルス。君でも分かるよね? そこから、私はシリウスの罪を疑い始めたんだ。」

 その言葉を聞いてスネイプは複雑怪奇な表情をした。

 

さぁ、殺そう! リーマス!

ち、違うんだ! このシリウスの言っている事もリーマスの言っている事も全て間違っている!」

 ペティグリューは急に主張を始めた。

「ス、スネイプ! 君はシリウスやリーマスの言っている事を信じやしないだろうね?」

「……」

 スネイプは無言を貫いた。

「ブラックは世紀の大犯罪者だ! 大殺戮を起こした凶悪犯だ! そ、それに……リーマスは……そうだ、リーマスはじ、人狼だ! 人狼の言うことなんぞ信じられないだろう?」

「お前っ!」シリウスから呪文を出そうとする。しかし、それをルーピンが止める。

 それよりもハリー達3人は酷く驚いていた。

お、狼男だって!? 狼男が今まで僕たちの教師をしていたのかい!? ──ま、満月の時とか……どうしたんですか……?」

 特に驚いたのはロンだった。

「あぁ……確かにわたしは人狼だ。事の発端はもしかしたらわたしが人狼だった事に由来するのかも知れない。わたしはトリカブト系の脱狼薬があったおかげで、ホグワーツに就職する事が叶った。

 それに、シルヴィアは特に脱狼薬の研究を熱心にしてくれた。彼女のおかげで……私は、将来的には満月の日を酷く恐れる必要がなくなる寸前のところまでいった。」

 そこまで言うと、この部屋に居る誰もが見た事無いような表情でルーピンはペティグリューを見た。

 

「ジェームズとリリーをヴォルデモートに売った後、今度はホグワーツ生徒を殺すだなんて君は本当に堕ちるところまで堕ちたものだ。」

「ち、違う……そのお嬢さんを殺してしまったのは……その──()()だ! 偶然よくある事故だったんだ! わ、わたしは……シリウスを……殺そうと……ジェームズとリリーを裏切ったシリウスを……殺そうとしただけだ……」

黙れピーター! よくもそんな戯言を並べて! お前がジェームズとリリーの名前をよく口に出来たな! 今にでも殺してやる。ジェームズにリリー、そしてオフィーリアとヘンリーが愛したシルヴィア・ネクロタフィオの仇だ!」

 そう言い、シリウスは遂に呪文を放とうとする。それに乗じてルーピンも呪文を放とうとしていた。

 

やめて!

 ハリーがルーピンとシリウスの元へ向かってそう叫んだ。

「ハリー……こいつの所為で……君のご両親を殺されてしまった。それに、君の友人を直接葬った男だ……。許されざる男だ……」ルーピンはハリーを説得するように言った。

「殺してはダメだ……殺してはいけない……」

 シリウスとルーピンはショックを受けた表情になり、スネイプはハリーの正気を疑っているような表情だった。

「こいつを城まで連れて行こう。僕達の手で吸魂鬼(ディメンター)に引き渡すんだ。

 こいつはアズカバンに行けばいい、シルヴィアがこいつに殺されたのも……僕の両親がこいつの所為で殺されたのも許せない。けど、こいつの所為で貴方やルーピン先生がアズカバンに行くのは違う。……殺すのだけは止めて」

「ハリー! 君は──ありがとう、こんなわたしに──ありが──「ピーター! お前がよく易々とハリーの名前を口に出来るな!」

 そう言うと、ハリーに近付こうとしてたペティグリューをシリウスは蹴り上げた。

 

「待て、もう1つ聞きたい事が」

「何かね、スネイプ! 今、わたし達は忙しんだ!」

「シルヴィア・ネクロタフィオは本当に死んだのか?」

 スネイプがそう聞いた途端、キレ気味だったシリウスもまた静かになった。

「わたしが後もう1歩だけ早く行動出来ていたら、彼女は死んでいなかっただろう……シルヴィアは、友人を庇ってピーターの死の呪文を受けたんだ」

 ルーピンがそう語る。しかし、ハリー、ロン、ハーマイオニーはそれぞれ目を合わせた。

 

「そ、その……ルーピン先生。シ、シルヴィアは……確かに、私達が部屋に入った時点で殺されて……いました。」

「なんだって?」ルーピンは酷く驚いた表情になった。

「じゃあ、君達を庇ったのは、一体……?」

 暫くの沈黙の後、ハーマイオニーが口を開けた。

「と、取り敢えず、この人を連れて行きませんか? この人が逃げ出したら、シルヴィアの死すら無駄になってしまうと思うんです。」

 その意見に皆が同意した。

 

「いいだろう。ハリー、少し退いてくれ」

 ルーピンが言った。ハリーは退く事を躊躇した。

「縛り上げるだけだ。誓ってそれだけだ」

 ハリーはルーピンのその言葉を信じて、わきに退いた。

 ルーピンの杖先から、細い紐が吹き出して次の瞬間、ペティグリューは縛られ、猿轡を噛まされて床の上でもがいていた。

 

「……それでは、行こうか。ピーター。お前がもし変身したら、やはり殺す。いいね、ハリー?」

 ハリーは頷いた。

「ピーターはわたしとシリウスで繋げて行こう。こいつが逃げないように。セブルス、シルヴィアを連れて行ってやってくれ」

 スネイプはまだ困惑を残しているようだが、静かに頷いた。

 

 各々が行動し始めようとした時だった──。





シルヴィアの杖:
 シルヴィアの杖は不審者に奪われてしまった

シルヴィアの母親の形見の杖:
 シルヴィアの母親の形見であり、予備用の杖。しかし、呪文を悉く失敗するのでシルヴィア自身、あまり使いたくない

暴れ柳:
 ホグワーツの敷地内にある歴史ある灌木。暴れてるのがアイデンティティー。去年度はハリーとロンに車で突っ込まれた。

アバダ・ケダブラ:
 許されざる呪文の1つ。当たった相手に死を齎す。即死である。防御呪文を貫通する。反対呪文が無い。当たったら確定で死なので、本当に絶望的な魔法である。
 シルヴィアは人違いアバダを食らった

シリウス・ブラック:
 12年前にポッター夫妻を裏切り、とち狂ってマグルを13人殺した罪をペティグリューに擦りつけられていたその人。

スネイプ:
 ピーター・ペティグリューが生きている&シルヴィアが殺されていると言う、あんまりな情報量にフリーズしている。その為、名台詞「復讐は蜜より甘い」がキャンセルされた。


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