呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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第40話 焼き焦がれし(セイリオス)物語

 1993年7月28日付の日刊予言者新聞にて、12年間追い求め続けたピーター・ペティグリューの居場所を掴んだシリウスの行動は驚くほど早かった。

 動物もどき(アニメーガス)である彼は、大型の黒い犬に変身して檻から脱出した。

 長い監禁生活で痩せこけていた彼は、鉄格子の隙間を犬の姿であれば容易にすり抜けることができたのだ。加えて、吸魂鬼(ディメンター)は人間以外の感情を正確に感知出来ない。これはシリウスが何度か牢屋の中で犬に変身し、既に確認済みの事実であった。

 こうして、シリウスはあっという間に牢から抜け出すことに成功した。

 

 しかし、ここからが本当の試練だった。

 北海はいつも荒れている。アズカバンの囚人たちに脱獄の絶望を叩きつけるかのように、容赦ない波が打ちつけていた。

 アズカバンの周囲と言うのはもし囚人が逃げ出した場合を想定して、姿現しが使えないのだ。姿現しを使うにはブリテン島へ向かうしか無い。シリウスはハリーの為、ペティグリューを追い詰める為、躊躇う事なく海に飛び込み、必死に犬かきで進んだ。

 アズカバンとブリテン島の距離など知る由もない。シリウスはただ、進むしかなかった。

 

 だが、12年間も狭い牢屋で過ごし、体力の限界はすぐに訪れた。北海の冷たさと波の激しさは、久しぶりの運動にはあまりにも過酷だった。

 

 ──奇跡は、時に重なるものだ。

 力尽きて海の底に沈みかけた刹那、シリウスの目の前に、ほんの1メートルほどの木片が流れてきた。だが、それだけで十分だった。シリウスは自分の犬の前足で木片を掴み、その上に体を乗せた。これでわずかでも体力を回復出来る。

 犬の前足で必死に木片にしがみつきながら、少しずつブリテン島を目指して進んだ。シリウスは木片にしがみつき、休み休み、それでも確実にブリテン島を目指した。

 

 やがて、腹は減り喉は渇き、意識も朦朧とする中、ついにブリテン島の海沿いのセント・アブスという小さな漁村に辿り着いた。

 

「おばーちゃん! なんか、おっきな犬が居るー!」

 薄れいく意識の中で無邪気な少年の声を聞いた。

 

 

 シリウスが再び目を覚ますと、そこは家の中だった。驚いて中を見回す。一般的な田舎のマグルの家だった。シリウスは起きあがろうとしたが、あまりの疲労で起き上がれなかった。

 

 暫くすると杖を付いた老婆が現れた。

「おや、起きたのかい。ちょっと待っておいてね」

 老婆はシリウスをほのぼのとした笑顔で見つめてから、隣の部屋でゆっくりと向かった。また、暫く待っていると老婆は大きな肉の塊が乗った皿を持ってきた。

「犬っころにはこう言うのが良いんだろう?」老婆はそう言って皿をシリウスの前に置いた。

 シリウスは目の前に置かれた肉を勢いよく齧り付いた。人間としての矜持など今のシリウスには関係のない話だった。久方ぶりの食事という食事なのだ。

 アズカバンでは囚人の命をなるべく削るべく、食事は非常に簡素で雑だった。いつも1ヶ月ぐらい置いたとしか考えられない固く、少しかびているパンが一欠片。1日2回か酷い時は1回だけ渡されていた。

 その話をオフィーリアに少ししたら、『魔法族は本気でマグルの社会から学びを得た方がいいね。少なくともマグルは人道と言う言葉を知っている』と言っていたのを不意に思い出した。

 

「おやまぁ……食べるのが早い事。そんなに腹が減っていたのかい? 可哀想に……」

 老婆はそう言ってシリウスの頭をひと撫でした。

「まぁ、気が向くまでここに居なさい。孫はきっとお前さんを可愛がってくれる」そう言うと老婆は肉が載っていた皿を片付けた。

 

 それから、シリウスはこの親切な老婆の家に3日間だけ滞在した。

 その間、老婆はシリウスに大きな肉の塊を毎食提供してくれたし、老婆の孫という5歳くらいの少年に捏ねくり回されるように撫でられた。別に悪い気はしなかった。

 シリウスにとってこれから永遠に犬として過ごすならば、こんな家に過ごしたいと強く思った。しかしそれではどっかのペティグリューと同じだ。シリウスは4日目の朝に遂に老婆の家から出て行った。

 何も無しに出て行った訳では無い。老婆への感謝の印に壊れていたテレビをこっそりと直しておいた。

 

 

『続いてのニュースです。今朝未明、特に凶悪な囚人を収容する刑務施設から、シリウス・ブラック受刑者が脱獄しました。ブラック受刑者は12年前、ロンドン市内で大規模な爆発を起こし、通行人13人を殺害した罪で終身刑が言い渡されており、高度な警備が施された独房に収容されていました。脱獄は不可能とされていた施設からの逃亡に、専門家たちは驚きを隠せません。』

 テレビ画面には、魔法省がせっせと作ったのであろう()()()()()監獄の画像が貼られていた。

 

『現在、警察当局はブラック受刑者を極めて危険な人物と見なし、厳重に警戒しています。市民の皆様には、不審な人物を見かけた場合、絶対に近づかず、直ちに特設された通報用ホットラインにお知らせください。

 ブラック受刑者は武器を持っております。銃を持っており、極めて危険です。IRAとも関係があるとも報じられています。絶対に、絶対に近づかないでください。』

 そう、しつこく言うとテレビはシリウスの手配書を大きく映し出した。シリウス自身、自分の顔なんてものを久しぶりに見たので、少し驚いた。

 

『ブラック受刑者は身長約180cm、痩せ型、長い黒髪に灰色の瞳が特徴です。目撃情報によりますと、最後に確認された際には非常に憔悴していたとのことです。今後も最新情報が入り次第、お伝えしていきます。』

 そして、テレビは次のニュースであるカーレースの話題に移った。

 

 

 それからシリウスは、老婆もセント・アブスの人々も寝静まった深夜にリトル・ウィンジングへ姿現しをした。12年ぶりの魔法で失敗しないか少し不安だったが、上手く移動出来た。

 オフィーリアの言っていた事が正しければ、ハリーはサリー州リトル・ウィンジング、プリベット通り4番地に居る筈だ。シリウスは、一度でいいからペティグリューを追う前にハリーをこの目に入れておきたかった。シリウスは静かに深夜の住宅街を歩いて行く。

 

 静かな住宅街の中、何かを引きずる音が響いてきた。シリウスは近くのマグルの家の影に隠れて様子を伺う。

 トランクを引きずり、息を弾ませながら歩いている眼鏡をかけた小柄な少年が居た。

 

 ──ジェームズ!

 

 その少年はシリウスの12年前に亡くした友人、ジェームズ・ポッターの生き写しだった。シリウスは目を奪われ、ハリーをジーッと見つめ始めた。

 しかし、シリウスは忘れている。彼がアニメーガスとして変身する姿は黒い大きな犬だ。とても人懐っこい犬の見た目はしていない。

 ハリーは誰かに見つめられている事に気が付いて、暗い街に杖で光を灯した。そして、その光に照らされたシリウスは……

 

 大きな目をぎらつかせ、得体の知れない、何か図体の大きいものに見えた。ハリーは驚きのあまり、後退りしてトランクに引っかかって転んでしまった。

 シリウスはここで思い出した。セント・アブスの幼い少年や老婆で少し忘れていたのだが、自分は可愛らしい見た目をしていない。それどころかどちらかと言えば、怖い見た目をしている事を。

 

 シリウスはクーンと悲しげな鳴き声をあげてから、ハリーの前から立ち去った。そして、心に誓う。絶対にペティグリューを見つけ出して、しっかり自分の目でハリーを見るのだと。

 

 次に姿現しをした先はホグズミード村だった。

 ホグズミード村とホグワーツは非常に近い。それに、シリウスはいくつかの抜け道を知っていた。ウィーズリー家の飼い鼠をしているペティグリューを待つには、ここが1番最適な場所だろう。

 シリウスはホグズミード村に行ったらすぐに三本の箒の裏にあるゴミ箱を漁り始めた。セント・アブスの時のような豪華な食事は手に入らないが、それでもアズカバンと比べたら十分な食事が手に入る。

 ゴミ箱を漁って、シリウスは確かにカボチャパイの残りをいくつか発見する事が出来た。それに錆びたナイフを見つけられた。魔法使いからしたら殆ど脅威にならないが、無いよりはマシだ。

 

 その後、ホグワーツの新学期が始まるまでシリウスは、三本の箒とホグズミード村の近くにある洞穴を行き来した。

 

 

 ホグワーツが新学期に入る前、とある報せが耳に入って来た。

 魔法省は凶悪脱獄犯のシリウス・ブラックからホグワーツを守る為に、吸魂鬼を配置して周りを固めるらしい。

 確かにシリウスはアニメーガスになれる。しかし、吸魂鬼をホグワーツに派遣したという事は、もし仮にシリウス・ブラックを見つけた際は吸魂鬼の接吻も辞さないという判断なのだろう。

 シリウスは久しぶりに恐怖を覚えた。

 

 ──ピーター、待ってろよ。絶対にお前を見つけ出して、殺してやる!

 

 ホグワーツの新学期は例年通りに始まった。シリウスは欲をかいてハリーをもう一度見ようとした。しかし、それは大きな梟に突っつかれた事によって中止になった。

 大きな梟は、梟にしては珍しい灰色の瞳を持っていた。動物状態であると、他の動物と人間時よりはコミュニケーションを交わせるような気がする。シリウスの勝手な推測だったが、取り敢えず当たっていたようだ。

 梟は今は『ハリー・ポッターの所に行くのはやめて置きなさい』と、そう言った気がする。そして、梟はこう続けた気がする。『貴方の隠れ家に案内しなさい。私にはもう1匹協力者を用意出来る』

 シリウスは、梟を連れて暴れ柳の下に広がる洞穴を通り、叫びの屋敷へ向かった。屋敷に着くなりシリウスはアニメーガスの術を解いた。

 

「君は……こう、誰かに似ているような気がする……。誰かのアニメーガスだったりするのかい?」

 そう聞いても特に返事はなかった。この梟とならば会話が出来るような……そんな気がしたのだ。けれども、よく考えれば、バカバカしい話だろう。梟と人間が話せるわけが無い。

 

「──私は……トリアエズ、アニメーガスでは無いわ。ただのイッパン郵便梟よ」

 梟は独特な喋り口調でそう言った。

「な、何故! 何故、わたしは君の言葉がわかるんだ!?」

「ウルサイ。騒がないでチョーダイ。それに、私が知ったハナシじゃ無いわ。……ソレヨリ、貴方がシリウス・ブラックね。随分と痩せオトロエテいるわね……ヨワソウ。」

 梟はシリウスの問いには答えず、そう言った。

「私は、オリビア。……貴方がサガシ求めている人物をシッテイルわ」

 シリウスの灰色の瞳は見開かれた。

「……ピーターを知っているのか?」

「エェ、そうよ。私をカッテイル子のトモダチが飼っているわ。ゲンジョー、気が付いているのは、ワタシを飼っているコのトモダチが飼っているネコだけ。」

 オリビアはそう冷静に言った。

「ピーターを……ピーターをここに連れて来る事は出来るかい!?」

「ザンネン。私を飼っているコの寮と貴方がサガシモトメテいる鼠を飼っているコの寮はチガウわ」

 シリウスは落胆した。

「ケド、私は貴方のエンジョがデキル。先ずは、杖とローブのテイキョーね。2、3日マッテいなさい。モッテ来てあげるから。それに、キョウリョクシャになり得そうなネコもイッショに」

「あ、ありがと……う? き、君は一体何者なんだ?」

「だから、言っているじゃ無い。ワタシは只の一般ユービン梟、オリビアだって。じゃ、ここでマッテいるのよ。」

 そう言うと叫びの館の窓から飛び立って行ってしまった。

 シリウスは呆然とその姿を見てから、叫びの屋敷内にある朽ち始めている家具に腰掛けた。シリウスが信じられないほど痩せ衰えているが故に、家具はシリウスの体重に耐え切っているのだと思った。

 

 

 それから梟オリビア、猫クルックシャンクス、アニメーガスシリウスの奇妙な生活が始まった。

 2匹と1人はそれぞれに毎日、何かしらの行動を起こして鼠スキャバーズとしてウィーズリー家の末息子、ロンに飼われているペティグリューを捕まえようとした。

 1番、ペティグリューに近い者はクルックシャンクスだった。彼女の飼い主のハーマイオニー・グレンジャーはロンと同じグリフィンドールらしく、寮を自由に出入り出来るそうだ。

 しかし、クルックシャンクスのその行動でロンが怒り出して、ハーマイオニーにクルックシャンクスを寮の部屋に閉じ込めておけと言ったそうだ。

 クルックシャンクスは数日。大人しく閉じ込められていたが、また機を伺ってペティグリューを捕らえようとしている。

 

 また、オリビアもそれなりに行動はしてくれているらしい。しかし、彼女の飼い主はスリザリン寮生らしくグリフィンドール寮に入る事は容易な話では無いそうだ。

 それに、数日間ペティグリューが行方不明になった事だってあった。シリウスは遂に痺れを切らしてホグワーツへの侵入を試みようとした。

 オリビアに何度も今はその時じゃ無い。と言われてなければ、あと3週間は早くにホグワーツへ侵入していただろう。

 

 ハロウィーンの夜。

 遂に、クルックシャンクスがペティグリューが寮へ戻って来た。という報告をして来た。それを聞いたオリビアがシリウスに話す。

 

 やっとこの時が来た。今のシリウスには恐るモノは無かった。やっと、やっとあの悪夢のようなペティグリューを捕まえ、殺す事が出来る。

「ペティグリューは確かにホグワーツに居るんだな!?」

 確認の為、もう一度オリビアに問うが彼女は静かに頷いた。

「あぁ、決行日は今日だ! 今日にもアイツを殺してやる!」

 

 その時、扉の向こうから物音が聞こえた。人が2人近付いて来る音だった。ふと、扉が風に傾いて少し開いた。

 そこに立っていたのは、灰色の瞳に黒髪に差し色のように白髪が数本の束になって生えている少女と金髪青眼の少女だった。どちらもどこか儚げだった。十中八九、ホグワーツの生徒だろう。

  

「オ、オリ──「大声出すんじゃ無いっ! 逃げるわよ!」

 黒髪の少女がオリビアの名前を出そうとした。それを金髪の少女が止めて黒髪の少女を引っ張って、館から出て行った。金髪の少女の方が声は大きかったが、あまり突っ込んではいけない話だろう。

 

「い、今のはホグワーツの……生徒かい……?」

「そうね。イマのこそ、私のカイヌシよ。あ、黒髪の方ね。シルヴィア・ネクロタフィオってイウワ」

 その言葉を聞いてシリウスの記憶はぐるぐると巡り始める。そして、1つの記憶が弾き出される。

 

「オフィーリアの養子の子か?」

「えぇ、ソウネ。あの子、ヘンナところで察しがイイカラ2人マトメテ記憶をケシタ方がいいわ。」

 オリビアがそう言ったが、シリウスは迷っていた。あんな幼い少女2人の記憶を消した方がよっぽど闇の魔法使いっぽいでは無いか。っと……

「ホントにホントに記憶を消す事をオススメするわよ。ツエはあるでしょ? ホグワーツへ向かうミチはきっとイマの時間、人はホトンド居ない筈。貴方のカンゼン犯罪がセーリツするわ」

「……分かった。そうだな、ピーターを捕まえる為に」

 シリウスはそう決意を決め、ローブを深く被って杖を持つ。

 オリビアは何故だか知らないが、オフィーリアの杖を持って来た。その訳を聞いてもオリビアは「なんかソコラ辺にあったのをモッテキタまでよ」と言った。

 

「では、行って来る。」

 シリウスのその姿は一見、誰だか分からないものだった。まず、アニメーガス状態で建物の影や草むらを抜けてホグワーツへ向かう一本道まで辿り着いた。オリビアの言った通り、人っ子ひとり居なかった。

 少し待っているとシルヴィア・ネクロタフィオとその友人がやって来た。

 

「ね、ねぇ? ダフネ……あの道の先に居るのって……誰かな?」

「う〜ん……闇祓いとかかしら? まぁ、知らない大人には話しかけない。話しかけられたとしても無視するのが得策ね。さっさと行きましょ」

「そうだね……」

 うっすらと2人の話し声が聞こえて来る。そして、少し待てばシリウスの目の前までやって来た。

 

「そ、その〜……道の真ん中に突っ立っていると、邪魔なんですけど」

「………。」

 シリウスはこの状況下で何を言えばいいのか分からなかった。ただ、2人に謝りたかった。

「そ、その〜! 聞こえてますか? 道の真ん中に突っ立っていると邪魔なんですけど!」

「悪いとは思っている。しかし、わたしはやり遂げなければならないのだ。ハリーの為にも」

 そう言うと2人とも怪訝な顔をした。

「は、はぁ? ハリーってハリー・ポッターですか? ……まぁ、いいや。その、退いてくれませんか?」

「君がシルヴィア・ネクロタフィオだね。オフィーリアから話は聞いていたよ。君も君のお友達も聡明そうだ。──ただ、君の聡明さは今のわたしにとっては少々、厄介らしい。」

 そう言って私は2人に杖を向けた。シルヴィアの友人は咄嗟に危機を察知したようで、杖を高く空に上げて花火を打った。この異常事態を誰かに伝える為の花火だろう。シルヴィアの友人は非常に頭の回転が早いようだった。

 シリウスは今までの逃亡生活でかつて無いほどの危機を感じた。すぐに小声で「〈オブリビエイト 忘れよ〉」と呟いて魔法を発動させる。2人は途端、どこを見ているのか分からない虚な表情になる。記憶は問題なく消せたようだ。

 そうと分かれば、シリウスはすぐに大犬になって逃げ出し、叫びの屋敷へ向かった。

 

「こう……罪悪感がものすごくあった。それに……闇の魔法使いにでもなった気分だよ。少女2人に忘却呪文だなんて……」

「ナンカ、変なところでフッキレテいないのね。貴方は。まぁ、イイワ。今日のヨル。ハロウィーン・パーティーの最中がネライ時だわ。寮にはダレも居ない。モチロン、あの鼠をカバッテいるロン・ウィーズリーだって。」

「あぁ……絶対にペティグリューを捕まえて、殺してやる!」

 

 夜になるのを待ってからシリウスはハニーデュークスの地下倉庫へひっそりと入り込んだ。ハニーデュークスの店主が地下倉庫からホグワーツへの抜け道を知らないのは、昔からの事で特にバレずに抜け道を通っていけた。

 そして、ホグワーツの城内。隻眼の魔女の石像のコブ。シリウスは吸魂鬼にもホグワーツ内の魔法使いにもバレる事なく、すんなりと侵入する事が出来た。

 ここからはペティグリューへの恨みだけを考えながらグリフィンドール寮へ続く道を行けばいい。自分が学生時代数えきれないほど歩いた道だ。

 

「貴方は? 今、大広間で宴会中なんだけど?」

 グリフィンドール寮の門番である太った婦人(レディー)の肖像画は眠そうにそう言った。

「ここを開けてくれ」

「はぁ? 合言葉を教えてくれないと入れる事は出来ないわ」

「いいから入れてくれ! ここには私が探し求めているものがある。」

 シリウスは苛立ちを覚え始めていた。この先には確実にペティグリューが居る。あのペティグリューはこの肖像画を挟んだ部屋の奥に居る。すぐ近くに居る。なのに、この肖像画に憚れて入る事は許されない。

「さっさと私を入れてくれ! あいつを、あいつを殺さなくてはいけないんだ!」

 シリウスはナイフを取り出して肖像画を脅した。肖像画という物理的な者を脅すには、ナイフの方が適しているだろう。そう考えた。

「あ、貴方……どっかで、どっかで見たことがあると思ったら……シリウ──ぎゃー!!!」

 太った婦人(レディー)の肖像画に騒がれる前に肖像画をナイフで切った。そして、さっさと隻眼の魔女の石像へ戻って行ってハニーデュークスの地下倉庫へ繋がる道をただただ駆け抜けた。

 そして、夜の闇に隠れるようにまた叫びの屋敷に帰っていった。完全に敗走だった。

 

「アイコトバが言えなかったから貴方はハイレナカッタのね……そこまでカンガエテいなかったわ……次ハイル時は、クルックシャンクスに合言葉をニューシュしてもらいましょう」

 オリビアは若干呆れ気味に言った。

「すまない……色々と手伝ってくれているのに……」

 

 

 ペティグリューはシリウスがグリフィンドール寮まで入って来ようとした事に恐れをなしたのか、ブリテン島全土、それに加えてヨーロッパ全土から呼び寄せた鼠で城を埋め尽くした。

 彼が何処でそんなコミュニティーを手に入れていたのか、シリウスやオリビアの知り及ぶ所ではなかった。しかし、その鼠達は皆ご丁寧に指が1本欠けており、ややこしいっちゃありゃしなかった。

 

 城内の人間達はそれに気付かず、若干鼠が多いな。と思う程度だった。

 その後、その鼠はかつての流行り病(黒死病)を持って来て、それがホグワーツにて大流行した。魔法族はその程度の事を気にするような性分では無いが、確かにその病によって倒れる生徒が現れたりした。

 

 

「な、なんだって!? ハリーはクィディッチでシーカーを務めているのかい!?」

「あーー、だからイイタク無かったのに……」

 ホグワーツでクィディッチ・シーズンが始まってから、シリウスはオリビアにクィディッチについて聞いてみた。あのジェームズの息子だ。クィディッチ・チームに入って活躍していると思っていた。

 確かにその読みは当たっていたようで、オリビアはどこかぎこちなく「シ、ラナイ……わよ」と答えた。その後、シリウスがしつこく聞いてみれば遂にハリーはグリフィンドール・チームでシーカーを務めている。と言った。

 

「やっぱり、そうだろう! ハリーが1歳になった時に誕生日プレゼントで子供用箒を送ってやったんだが、ハリーはすぐに乗りこなしていた。それを見てジェームズとリリーは大層喜んでいた……」

 シリウスの脳裏に浮かぶのは、あの暗黒の時代だったとは幸せそうに笑みを浮かべるジェームズとリリーの顔。そして、箒に乗って地上から30cmほど浮かんでいるハリーの様子だった。

「まさか……クィディッチの試合をミニ行きたいだなんてイワナイわよね?」

「そのつもりだったが……?」

 そう言うなりオリビアはシリウスの頭を突っつき始めた。シリウスは「痛い痛い」と喚いたが、オリビアはその後暫くシリウスの頭を突っついた。

「ふざけないで! チョーダイ!」

「け、けど……頼む。絶対にアニメーガスの姿で見に行くから……」

 オリビアは小一時間ほど悩んだ末、クィディッチの試合を見に行く許可を与えた。

 

「但し、ゼッタイにハリー・ポッターの目の前にアラワレナイ事よ! 貴方、オセジにも人懐っこいイヌのミタメはしていないのだし」

「わ、分かった……」

 

 そうして、3日後。遂にシリウスはハリーのクィディッチを見に行く為、ホグワーツの校庭に姿を見せた。犬の姿であってもクィディッチを楽しんでいるシリウスを見てオリビアは肝を冷やした

 

 ──な、吸魂鬼が! ハリーを襲っている!?

 

 シリウスは自ずとクィディッチ・スタジアムの方へ駆け寄ろうとしていた。しかし、それはオリビアとクルックシャンクスによって止められた。

 

 ──けど、あの高さから落ちたら……ハリーは……ハリーは!

 

「ダンブルドアが居る。それに、他のキョージュも観戦に来ているわ。ゼッタイに彼は助かる」

 オリビアはそう言ってシリウスの荒ぶる心を収めた。

 その後にハリーが担架に乗せられてクィディッチ・スタジアムから出て来た。その時、ハリーは特に怪我をしているようには見えなかった。これにより、シリウスは安心して叫びの屋敷に戻る事が出来た。

 

「待って、ダレカ居るわ……」

 叫びの館に向かう為、暴れ柳の元へ向かうと、オリビアがそう言ってシリウスを茂みの中に隠した。茂みの中から様子を伺うと、あの呪文学の教授フリットウィックが何かを拾い集めている様子が見えた。

 

 ──あれは……もしかして、ハリーの箒か?

 

「あんな高いバショから落ちてキタもの……カゼにアオラレテここまで吹っ飛んでシマッタようね……。それで、暴れ柳にトドメをササレタのね……」

 オリビアの声もどこか悲壮的だった。

 

 ──そしたら……ハリーは……ハリーはクィディッチがプレー出来ないじゃないか……

 

「……まぁ、ソウナルわね。」

 ──どうにか出来ないのか!?

 

 シリウスのその言葉にうーんと言いながら悩み始めた。そして、フリットウィックが箒の残骸を全て拾い上げたぐらいに閃いた。

「ソウダワ、新しいホウキがランドルフ・スパッドモアからハツバイされたそうよ。なんでもセカイイチ速い箒だとか……」

 ──それは一体、いくらなんだ?

「……確か、500ガリオン」

 ──わたしの家の金庫は数えきれないほどのガリオンが入っている! 頼む、オリビア。どうかハリーの為に箒を買って来てくれ。それを……クリスマス・プレゼントにしたいんだ……。今まであげてやれていなかった分のクリスマス・プレゼントだ。頼む……。

 

「……カンガエテおくわよ」

 オリビアはそうあまり気が進まない様子で言った。

 

 

 

 その後、シリウスもオリビアもクルックシャンクスもペティグリューを探し求めたが、中々上手く行かなかった。ペティグリューはまるでシリウス達の居場所が分かるかのように、上手いタイミングで逃げ出すのだ。

 一度、クルックシャンクスがグリフィンドール寮の合言葉が書かれた紙を拾って来て、シリウスが深夜に侵入した時があった。ペティグリューを探そうとロンのベッドを探してもペティグリューの姿形も見当たらなかった。

 その後、異変に気がついたロンによって叫ばれて、2度目の敗走をする羽目になった。

 

「一体……どうやってピーターは私達から逃げおおせていると思う?」

「ウーン、難しいわね……こう、ホグワーツに居るニンゲンがドコに居るのかワカル何かを……持っていたりするんじゃナイカシラ?」

 オリビアがそう言った時にシリウスは最悪の想定が頭に浮かんで来た。

 

「まさか、まさかと思うが……ピーターが忍びの地図を持っているのか!? あぁ! これで全て繋がった! 奴は忍びの地図を見ながら私達から逃げているのか!?」

「……何よソレ……忍びのチズって……」

 シリウスは一通り、オリビアに忍びの地図の解説をした。オリビアは怪訝な表情でシリウスを見ていた。

 

「貴方達って……ケッコー天才なのね……」そう一言零した。

 

「トリアエズ、ペティグリューが忍びの地図をモッテいようがいまいが、未だにホグワーツ城に残っているコトはカクジツなのよ。今は、ペティグリューをシツコク追いかけるしかワタシタチに能は無いわ……。

 もう少し、ニンゲンと会話がデキルようなソンザイが協力者になってくれると……ありがたいのだけど……」

「君の飼い主の……その、シルヴィアはどうなんだい?」

「私のカイヌシをキケンに巻き込まないでクレルかしら?」

 オリビアは厳しく言い放った。シリウスはすぐに考えを改めた。

「あぁ……そうだな。それに、オフィーリアが可愛がっていた子だ……こんな事件に巻き込むべきではないな……」

「ケド、そうね。頼りになるニンゲンが思い付いたわ。アシタにでも会いにイキマショ」

 そうオリビアが言ったが、シリウスには見当も付かなかった。

「一体……誰だい?」

「セイカクにはニンゲンでは無い人。そう、ゴーストのクリフォード・プリンスよ」

「あー、あの……空き教室にひとりぼっちで居る皮肉屋の大昔の魔法薬学者か……」

 確かに悪く無い人選だろう。シリウスはそう思えた。もし、クリフォード・プリンスに協力を頼めたら、それこそリーマスに協力するように頼めるかもしれない。

「よし、明日会いに行こう。」

 そう言ってシリウスはまた叫びの屋敷で眠り始めた。あまり、衛生面的には心地よい場所とは言えないが、外は雪が積もるほどの寒さに見舞われている。外で寝れば風邪をひくのは火を見るよりも明らかな話だろう。

 

 

 次の日、寒空の下。シリウスとオリビア。それにクルックシャンクスはクリフォード・プリンスが居るという教室の外へ向かった。教室の窓は空いており、もしかしたら自分達の姿が教室からでも見えるかも知れない。

 シリウスは周囲に人が居ない事を何度も確認した後、木の影の下変身を解いた。

 

 暫くするとクリフォード・プリンスが窓から顔を出した。どうやら、部屋の中に居る人に何か話しかけているようだった。少しすると、部屋の中から人が出てくる。

「シリウス・ブラック!?」

 シルヴィアの叫び声が嫌にこだました。そして、すぐにシルヴィアは部屋の奥へと引っ込んだ。

 それと同時にクリフォードは窓から飛び出して、シリウス達の元へ軟着陸した(ゴーストである彼が()()()だなんて変な表現であるが)。

 

「クリフォード・プリンス。どうか、わたしの話を聞く為について来て欲しい」

「……分かった。着いて行こう」

 そして、シリウスはまた大犬に変身して暴れ柳の根元へ向かい、洞穴を通って叫びの屋敷までクリフォードを案内した。その後、人間に姿を戻した。

 

「驚いたよ……まさか、あんな道があって……こんな場所に繋がっているとは……にしても、ここは汚らしいね。」

 クリフォードはまず感想を述べた。次にシリウスをしっかりと見た。

「シリウス、君もまた随分と変わったよね。あの頃よりも大きく……そして、若干汚らしくなった」

「貴方は……私の無罪を信じてはくれないか?」

 シリウスはクリフォードの皮肉を無視してそう聞いた。クリフォードは少し悩んだ後に言葉を発した。

「実は、シルヴィアから聞いたんだ。君のご友人であるリーマス・ルーピンによれば、オフィーリア・ローズブレイドは君の無罪を信じていたって……その言葉を聞いてハッとしたさ。君は友達を裏切るぐらいなら自分が死ぬ。とか言うタイプの()()()だったって言うのを思い出してね。」

「じゃ、じゃあ……貴方は私の無罪を……信じてくれるのか?」

「まぁ、そうだね。信じよう。それに……シルヴィアはオフィーリアが君の無罪を信じていた。と言う話をルーピンから聞いたそうだ。……もしかしたら、彼も君の罪を疑っているのかも知れない」

 シリウスはこの逃亡生活でオリビアと協力関係を結べた時と同じくらいの安堵の心が湧き上がって来た。リーマスが自分の無罪を信じてくれればなんて心の軽い事か。

「僕はルーピンにその事を探りを入れる機会がある。どうするかい?」

「どうか……頼みたい。」

「分かった。では、今日中にでも彼に探りを入れてこよう。明日には報告出来るようにする」

 そう言うと叫びの屋敷からスーッと滑るように去って行った。

 

「……これは、ワタシタチにツキが回って来たのかもシレナイわね。」

 オリビアは彼女にしては素直に嬉しそうな反応を見せた。

 

 

 次の日、クリフォードはルーピンを連れて叫びの屋敷にやって来た。ルーピンは一旦、シリウスを警戒した。

 

 シリウスは必死に12年前に起こった事実を伝えた。

「これまた……オフィーリアが疑っていた時点で君の無罪については疑念を持っていたのだが……やはりそうだったのか」

「信じてくれるのか!?」

「まぁ、信じよう。少し前に忍びの地図を拾ったんだ。一体、何処から出て来たんだろうね。しかし、その忍びの地図にはしっかりとピーターの名前が記されていた。私は目を疑ったが、あの地図は絶対に嘘を付かない。」

 ルーピンのその言葉にシリウスはハッとした。

「つまりは……ピーターを追い詰めるのならば今のタイミングという訳か。ピーターは必ず、城内の何処かしらに居る。探すのを手伝ってくれ」

「分かった。手伝おう。」

 そう言って久方ぶりの再会を果たした2人は固い握手をした。

 シリウスは最終的には動物2匹。ゴースト1人、生身の人間1人を味方につける事に成功していた。その後、皆手分けをしてペティグリューを探し続けた。

 それでも尚、ペティグリューは狡猾に逃げ続けていた。

 

 

 遂にホグワーツは試験の6月が訪れて、ルーピンは試験準備の為にペティグリュー探しに全力を出す事が出来なくなっていた。シリウスとしてはしょうがないものと思っていたが、それでも不完全燃焼だった。

 

「シリウス! 大変だ。」

 ルーピンの部屋の奥のトランクに住んでいたシリウスの元にルーピンが雪崩れ込むように訪れた。手には羊皮紙の紙切れが握られていた。

 

「な、なんだい? それは……」

「恐らくではあるが……けれども、確実にピーターからの手紙だ。」

 そう言ってシリウスに紙切れを見せつけた。焼印で書かれたような文字だった。

 

 シリウスとリーマスへ

 日の入り後、叫びの屋敷に来てくれ。そこで全てを終わりにしよう

 

 それだけが書かれた手紙だった。差出人は書かれていなかったが、それでもすぐにペティグリューからの手紙である。と想像が出来た。シリウスは少々悪い笑みを浮かべた。

「ふん、全てを終わりにしようだって? 終わるのはお前だ。ピーター……。よし、リーマス。日の入り後だ。日の入り後。一緒に叫びの屋敷へ向かおう」

「あぁ、けど、1つ気になる事があるんだ。」

「なんだ?」

「これは恐らく、魔法を使って書いたと思われる。ちょうど、この前……とある生徒の杖が不審者によって奪われる。と言う事件が発生しているんだ。もしかしたら……ピーターは杖を持っているかも知れない」

「だとしてもあいつは小心者だ。私達に杖を向ける事も誰かを殺す事も出来ない!」

「そうだといいのだが……」

 

 その後、ルーピンはペティグリューの手紙を机の上に置いてから、今日の試験の為に部屋を出て行ってシリウスはオフィーリアの杖を磨き始めた。

 

 

 日の入りの少し前の時間。シリウスはこっそりと城内から抜け出してルーピンを待った。

「よし、シリウス。行こ──……なんで暴れ柳が落ち着いているんだ?」

 2人の視線の先の柳はいつものように、枝を鞭のようにしならせて威嚇するのでは無く、落ち着いてただの柳をしていた。

「もしかして……誰かが叫びの屋敷へ向かってしまったのかも知れない! それが、生徒では無くピーターだったら嬉しいが……とにかく早く行こう」

 ルーピンはそう言って暴れ柳へ駆け出して行った。それに引き続いてシリウスも駆け出す。

 

 暴れ柳の根元の洞穴は、確かに複数人誰かが通った足跡があった。シリウスもルーピンも嫌な予感がどんどんと醸造されていった。

 

 

「あ、あぁ……殺さなくては、殺さなくては……〈アバダ・ケダブラ 息絶えよ〉!

 ルーピンの目の前で起こった事だった。あの懐かしい声は許されざる呪文を、死の呪文を発していた。緑の光線が放たれて、見慣れた3人組の手前で1人倒れる人影が見えた。

 3人組はハリー、ロン、ハーマイオニーだ。そして、倒れた人影の正体はシルヴィア・ネクロタフィオだ。ルーピンはすぐさま悟ってしまった。

 

「〈エクスペリアームス 武器よ去れ〉 まさか、ここまで堕ちていたとは。ピーター……」

 

 ルーピンは武装解除の呪文を放ち、男の手に握られていた杖を手元に手繰り寄せた。不審な闇の魔法使いに杖を奪われた生徒。それもまたシルヴィアだった。この杖はシルヴィアのものなのだろう。

 

「さぁ、シルヴィアを抱えてこの男から離れなさい。あのソファー辺りに。少し、話さなければならない事がある」

 それからの流れはシリウスの逃亡生活よりもずっと単純明快だった。確かに、途中シリウスの学生時代の目の敵。スネイプが乱入して来たが、スネイプもスネイプで呆気に取られている様子だった。

 確かにそうだろう。ずっと死んだと思われていたペティグリューが生きていて、自分の監督する寮生の生徒が殺されているのだから。

 

 途中、シルヴィアが復活して何かを喚き出したり、オフィーリアが登場したりと意味の分からないことは沢山起こった。けれども、最終的にはペティグリューの運は尽き、捕らえられて真実薬(ベリタセラム)で自白させられていた。

 これにて全て一件落着だった。

 

◇ 

 

「さて、シリウス。無罪をおめでとう」

「はは……ありがとうございます」

 校長室でシリウスとダンブルドアは対面していた。

「少々聞きたい事がある。と言う表情じゃの?」

「えぇ、では……その、お聞かせいただきますが、わたしの従姉妹のオフィーリアは……わたしの無罪を信じてくれていました。

 その中で、オフィーリアはなんでも見抜いている筈の貴方が、わたしが無罪であると言う事を見抜けていないのは不思議だ。と言っていました。」

 シリウスがそう言うと、若干自嘲気味な笑みをダンブルドアは浮かべた。

 

「それは、それは……わしはミセス・ローズブレイドからも買い被られていたようじゃの」

「へ?」シリウスは間抜けな声を出した。

「ミセス・ローズブレイドは……そのー、わしがなんでも見抜いていると……確かにそう言っていたのじゃの? (その言葉にシリウスは頷いた)ほうほう、わしとしては彼女と比べれば、全然物事を見抜く事は出来ない。そう主張しておこう。

 ミセス・ローズブレイドがそう勘違いしたのは恐らく、わしの少々たりとも誇りに思っている特技が起因しているじゃろう」

 ダンブルドアはそう語った。シリウスは未だに呆けている。

「わしは幼い時分より少々、言葉を操るのが得意じゃった。その言葉により人はわしを……そうじゃのう、賢者とまで言ったのじゃ。しかし、わしはそこまでの人間では無い。ただの老耄じゃ」

「あ、いや……その、ご自身をそんな貶めないでください。わ、わたしは……貴方を責めている訳では……無いですから」

 シリウスがそう慌てふためき始めた。それを見て、ダンブルドアは微笑んだ。

「お主の無罪をミセス・ローズブレイドのように見抜けていたら、どんなに幸せな事じゃっただろう。

 しかし、ミセス・ローズブレイドも人に協力を求める。と言う事を知っていてくれればよかったじゃが……」

「はは……」

 その言葉にシリウスは苦笑いした。オフィーリアは昔から個人行動をするタイプの人間だ。彼女が誰かに助けを求めたり、協力を求めたりしたところを、シリウスは見た事が無かった。

 

「それによりも、リーマスから聞いたのじゃが……ミセス・ローズブレイドの霊のような何かが現れて、何者かに取り憑かれたようなミス・ネクロタフィオを助けてくれたようじゃの。」

「あぁ! そうです。オフィーリアが突然現れたんです。……今思えば幻想のように思える。一体、どうやって現れる事が出来たと思いますか?」

「彼女が現れた理由は……まぁ、彼女自身が語った通り〝愛の力〟だったのじゃろう。愛というモノは偉大なモノじゃ。」

 ダンブルドアはどこか悪戯な笑顔で言った。

 

「それと、お主はあまり固執がないじゃろうが……わしの推測が正しければお主はブラック邸に入れないじゃろう」

「え? 別に構わないんですが……どうして?」

「少しばかり厄介な事になっておるのじゃ。まぁ、あの館を使う機会がある時までには、どうにかはなるじゃろう」

 シリウスはただただ困惑してしまった。

「そうじゃ、これまた厄介な問題によって起きたのじゃが……お主とハリーは夏休みの間、共に暮らす事は叶わなそうじゃ……」

「えぇ!? なんでですか!? オフィーリアは言っていましたし、ハリー自身も仄かしていました。叔母夫婦に虐待されているって!」

 シリウスは取り乱してダンブルドアにそう主張した。

「……けれども、夏休みの間全てでは無い。精々、2週間程度じゃ」

「2週間でも長い! 2週間も自分に暴力を振る恐るあの人と共に暮らせますか!?」

「──ハリーは……あの叔母夫婦の家を〝家〟だと認識せねばならぬ。これは、また複雑なんじゃが……一言で済ますのならば〝魔術的な問題〟じゃ。ハリーを護る為。ハリーの護りをより強固なものにする為に。シリウス。どうか、ご理解頂きますように。」

 シリウスはその言葉を聞いて完全に落胆した。

「では、では! 2週間経ったらあの子を迎えに行っても良いんですよね?」

「勿論、構わん。きっちり2週間じゃぞ? 13日目に迎えに行くのも無しじゃ」

「────分かりました。」

 小さな声で返事をした。

「わしはお主の夜明けを祝したい。よくぞ、ここまで耐え切った。シリウス。ハリーと共に良い家族の時間を過ごしてくれ」

「はい……」

 そう言ってシリウスは立ち去った。





セント・アブス:
 実在する町。スコットランドの南東海岸にある小さな漁村。今回限りの登場だと思う。

IRA:
 アイルランド共和軍。アイルランド独立を巡り、内戦やテロ行為を行ってきたアイルランドの武装組織。イギリス国内でよく爆破事件などを起こしていた。
 魔法使いが犯罪を犯した際の理由付けに都合よく使われてきた(独自設定)。多分、第一次魔法大戦でも頻繁に使われていたと思う。

シリウスの身長:
 公式情報が無いが、取り敢えずスネイプよりは身長は高いらしい。つまり、180cmは適当。

オリビア:
 ただの一般郵便梟。シリウスの支援やペティグリュー捜索に尽力した。

クルックシャンクス:
 ハーマイオニーの飼い猫。ペティグリュー捜索に尽力した。

忘却術:
 シルヴィアとダフネに忘却術をかけたのはシリウス。罪悪感が凄くあったらしい。

ファイアボルト:
 シリウスが依頼してオリビアが購入してハリーのクリスマス・プレゼントに贈った。

ピーター・人違いアバダ:
 シリウスとルーピンに手紙を出していて、来た瞬間殺したろ。と思っていた。しかし、最初に来たのがシルヴィアだったので勢いだけはあったペティグリューは、人違いアバダをシルヴィアに放ってしまった。

ダンブルドアの特技:
 言葉を操るのが上手い。

セイリオス:
 ギリシャ語で「焼き焦がすもの」。シリウスの語源である。


アズカバンはこれにて完です。次に閑話を一旦挟みます。


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