呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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シルヴィア・ネクロタフィオと炎のゴブレット
第41話 月影の魔女


「アストリアの具合がまだ良くならない……ダフネ。すまないが、クィディッチ・ワールドカップへは行けない」

「……はい、お父様」

 父は少し寂しげな表情をして、私の部屋から立ち去った。

 アストリアはあの去年度、数世紀前に流行ったマグルの流行り病(黒死病)に感染して以来、体調があまり芳しくない様子だった。

 私も一緒に感染したけれど、私の体調はまだ「芳しい」と言える程度だった。それが、どれほど皮肉なことか……。

 

 ベッドに横たわる、弱りきったアストリアを見るのは怖い。見たくない。

 

 ──薄暗い部屋の中、母が細い息を繰り返している。掛け布に包まれた母の身体は骨ばっており、その肌は蝋のように青白い。

 父はそんな悲惨な状態にある母の骨のように細い手を握って「大丈夫。きっと、いつか良くなる」と意味の無い言葉を繰り返す。父は啜り泣いていた。

 妹の今の状態とは正にそうだった。6歳のときに見た母の最期の時とよく似ていた。あの時の母よりは、まだ肌の色は明るい。それに骨もまだ見えていない。

 けれども私は、あの子が、母のように見るも無惨な姿で死んでいく夢を毎晩見る。私は嫌だと叫んで夢から覚める。

 その所為で、最近は碌に眠れていない……きっと今日だってそうだろう。

 

 私は沈む気持ちを引きずりながら、家の中にある図書室へ向かった。そこには、幾人ものグリーングラス家の者たちが、呪いに抗おうと必死に重ねた研究の痕跡が散乱している。

 父はグリーングラス家に婿入りしてきた。当時、家には母ひとりしか残っておらず、存続は風前の灯火だったらしい。そんな中でこの図書室を目にした父は、大層驚いたそうだ。

 この図書室の本棚には何百年前の魔法書から闇の魔術に関する書物まで……呪いの分野を余すことなく網羅している。

 それでも、血の呪いは今も尚存在し続けている。つまり、誰ひとりとしてこの呪いに打ち勝てなかったのだ。

 

 私だって、幼い頃からずっと1人でこの本棚の本を読み続けている。何か、祖先達が見落とした情報がないかと、本棚の本はすべて読み尽くした。

 しかし、どれだけ時間を費やしても、祖先が見落とした情報など無かった。全てが試されて、全てが失敗していた。血の呪いを打ち破る方法には辿り着けなかったのだ。

 結局、私もあの子も……母のように、かつての幾人ものグリーングラスのように……惨めに、惨たらしく死ぬ運命なのだろう。深い絶望の闇を漂いながら、それでも私は希望の光を見つけ出そうと足掻く。

 ──けれども、その足掻きさえ、滑稽で虚しいものに思えてならなかった。私は呪いの道化だった。

 

「はぁ……」

 1人、深いため息を吐いた。図書室の小さな窓から差し込む蒼白の月光は私を嘲笑うように、ただ1人でに私を照らし続けた。その月は丸く欠けが無い。

 

「『呪いとは思考の檻であり、人々の信心深さによるもの。されど、その力は膨大で壁にナイフで文字を刻み記すほどの力を持つ。故に呪いには中々抗えない』――っていう言葉を今考えてみたんだ。君はどう思う?」

 知らない女の声が聞こえた。

 私は目を見開いて読んでいた本を素早く閉じて、周囲を見渡す。図書室は暗く、私の手元にあるランプの光と窓から差し込む月光しか光源が無い。そんな状態で人探しなど無理な話だった。

 

「初めまして。ダフネ・グリーングラスちゃん。その血に宿る忌まわしき呪いを解こうと精進する少女」

 そう言って、私が今居る場所から2個ほど離れた本棚から姿を見せた魔女が居た。

 魔女は20歳ぐらいに見えた。月に反射して白銀の輝きを見せる不気味なほど白い髪を靡かせている。魔女の瞳は友人(シルヴィア)のマグル学教科書をパラパラと見た時に目を奪われた、宇宙の様子と似ている。そして、随分と豪華なドレス? ローブを纏っていた。頭には大きな魔女帽子が被せられている。

 一眼でこの人は計り知れない人である、と判断する事が出来た。

 

「貴女……は、何処から……現れた来たの? ドアが開いた音なんてしなかった」

 私は臆する事無く、目の前の魔女に問う。魔女は少し呆れたような笑みを浮かべた。

「私の観測データによれば君は少々、理屈っぽいとは聞いていたけど……まず、それを聞かれるとはね。ふむ、何処から現れたか……魔法使いにとって、何処から入ってる来るかなんてさほど重要ではないと思わないかな? 究極的な事を言って仕舞えば、魔法使いの家にドアは必要ない。それに、壁も天井も要らない。魔法で境界線というものは簡単に作れるからね」

 一体、この魔女は何を言いたいのだろうか? 全然掴めなかった。

「貴女は……一体、何者?」

「そうだね……私はいくつかの通り名が存在するんだ。カッコいいでしょ? 代表的な物だと……探究の魔女、深淵に足を踏み入れた魔女、永遠に不滅な魔女。それに、無明の探求者だったり、虚路者。1番気に入っているのは月影の魔女かな?」

「通り名は……いい。貴女の名──「ところで、ダフネちゃん。君は障壁にぶつかってしまっているようだね。……君が探求しようとしている呪いというものは、実に難しい分野だ。少し足を踏み出すだけで深淵の底へと堕ちてしまうからね。」

 私の話を遮るようにそう言ってから、右手を前に出した。すると、本棚から一冊の本が飛び出して魔女の右手に飛び込んだ。そして、本を開いてページをパラパラと捲り始めた。

「例えば……この詩呪いの解呪方法。おぉっと、その前に詩呪いを知っているかい?」

「……ある所定の詩を読んでしまうと、一生その詩の形式で話してしまう呪い。」

 そこまで答えると魔女は微笑みを浮かべた。

「そうだね、有名なのは『魔法使いのソネット』とかだね。あの呪いにかけられた人は皆、不憫な日々を送っていたよ。けれども、この本に書かれている解呪方法を試すと詩呪いは解ける。……そう思われていた。しかし、それは喉を焼いて言葉を発せなくする新たな呪いだったんだよ。全く、性格が悪い」

 そう言うと本を宙に浮かせ、指をヒョイっと動かす。すると本は元の本棚に収まった。

「君が……いや、君達が足を踏み入れている場所は深淵の淵。あと一歩。何かのきっかけであと一歩を踏み出してしまえば、深淵の底の急転直下さ。君の3代前のオーウェン・グリーングラスと言う人が正にそうだった。彼は愛する妻の為、寝る間も惜しんで呪いの解呪方法を追い求めた。しかし、彼に訪れた終焉とは、発狂。自我の喪失。正気を失い、家の裏の崖より身を投げてしまった。普通の人間が踏み込むべきでは無い領域にまで、彼は達してしまっていたようだ。」

 この魔女は一体、何を言っているのだろう?

 確かにオーウェン・グリーングラスと言う人物は過去に存在した。けれども、彼は随分と前の人だ。何故、20歳ほどにしか見えない彼女がそのオーウェンについて知っている?

「貴女は、私を騙そうとしている?」

「心外だね。私は君に救いの手を差し伸べようとしているのだよ」

 この目の前の魔女の計り知れなさの理由が分かった。私には彼女の年齢が分からないからだ。

 彼女は見た目こそは20歳程であるが、実年齢は何百歳と超えているのかも知れない。魔法界でもあまりそんな人が居る。と言う話は聞かないが、あるにはある話らしい。

 

「貴女は……一体、いつから生きている?」

 そう言うと魔女は爽やかな笑みを見せた。

「私がどのくらい生きてるかって? 君はそんな事気になるのか……君は、目の前の大樹がいつ芽を出したのか気になるタイプ? ……けれども、私は君の気持ちを十分に理解出来る。私は止まらぬ探究心に突き動かされた人生を歩んでいるからね。

 ただ、残念な事に私は私が生きた年数を知らない。計算するにはあまりにも複雑すぎるからね。もしかしたら、私の年齢はこの宇宙をも凌駕しているかも知れない。若しくは生まれてきてまだ5分と経っていないのかも知れない。──私は、そればかりは知ろうとしても知る事が出来ないんだよ」

 一切、何を言っているのか分からない。

「まぁ、君は血の呪いを解呪する方法だけを考えていればいいのだよ。それは君の為にも君の妹の為にもなる。──そして、私の為にも……君もまた、運命への変数に十分なり得る。」

 そう言うと右手をまた空中に翳した。すると、何も無い場所からそれなりに分厚い本が出て来た。そして、その本は勝手に私の方へゆっくりと飛んで行き私の手に収まった。

 タイトルは金文字で『呪いを書き換える』と書かれていた。何やら物々しい雰囲気だ。

「それは、かつて私の祖母である女性とその兄が何度か発表した、呪いに関する共同研究を私が手直ししたものだ。学生である君が触れても大丈夫なように加工してある。安心してその本から、血の呪いの解呪方法を探し出せばいい。」

 そう言うと魔女は微笑んだ。私は少し怖かったが、本の1ページ目を開いた。

 

 呪いとはいくつかの種類に分かれている。単純に魔法使いが杖から出力する結果以外にも、ジンクス的な意味を持つ呪い。他にもその血(ここでは血統的な意味)に作用する呪いが存在する。

 本書は1453年から1495年に発表された、バージル・ダンブルドアとその妹であり助手であるスーザナ・ブラックの呪いに関する論文を筆者であるアルテミシア・カーライルが集約し、改変を加えたものである。

 

 そう始めに書かれていた。

 バージル・ダンブルドアとその妹のスーザナ・ブラック。この2人は確か、呪いに関する研究者で非常に多くの呪いについての論文を出している。その論文の全てがこの図書館の本棚に入っていた。

 それに、1461年にはグリーングラス家の血の呪いの論文も出している。その論文ではあまり結論的な事は、書かれていなかったと記憶している。

 ただ、その論文と直接的な因果関係があるかは不明であるが、その論文が出てから暫くしてグリーングラス家の母を持つ女性が、夫から離婚を突きつけられた。とは聞いた。

 

「待って、あ、貴女は……まさか、アルテミシア・カーライル?」

「そうだね。じゃあ、ダフネちゃん。頑張って解呪方法を見出すんだよ。私はまたいつか……君の元に必ず来るから」

 そう言うと次の瞬間、姿を消していた。

 

 アルテミシア・カーライル。

 歴史上、謎深い人物のうちの1人。1519年に神秘部の前身である魔法研究会を設立させた魔女。

 しかし、歴史上彼女がホグワーツを通った記録は無い。

 だからと言って、近隣のボーバトン魔法アカデミーやダームストラング専門学校に在籍した記録すら無い。多くの人が彼女は家庭学習によって魔法を学んだ魔女だと結論付けている。

 彼女の明らかになっている経歴・功績は少なく、魔法研究会を設立させた事と言う記録しか残っていない。

 ただ、噂によれば今もまだ神秘部の奥深くで無言者達に何かを指令している。と言う噂が存在する。彼女はまさに、そうなのだろうか?

 

「なんだか、とんでも無い人に目を付けられちゃったみたいね……」

 そう一言漏らす事しか私には出来なかった。月は天空から私を嗤うように見ていた気がした。

 

 

 私。ハーマイオニー・グレンジャーは1人、夜のクィディッチ・スタジアム近くのキャンプ地の森の近くに来ていた。勿論、ウィーズリーおじさんやシリウスさん。それに、ハリー、ロンにも内緒でここまで来た。悪い事だとは知っている。だけど、確かめたい事がある。

 昼間は魔法使い達が沢山居たと言うのに、今ではすっかり静かになっている。それはそうでしょう。今は満月が空の真上に昇るような時間。自分の腕時計を見れば12の数字を指している。

 私は少々恐怖を胸に抱きながらも、ランプをしっかりと片手に持って森の中を進む。

 

 途中途中に聞こえてくる狼の遠吠えが、恐怖を掻き立てる。だけど、これだけは……これだけは何としても調べなければならない。ハリー達がよく、規則違反をしてまで深夜に寮から出る気持ちがよく分かった。

 私は〝とある人〟に指定された約束の場所へと向かった。

 そこは、薄暗い森の奥。木々のから刺さる月光は森を照らすにはあまりにもか弱すぎた。小さな泉がある場所で、そこだけは木々が無く明るかった。

 私にはなんて、綺麗なんだろう。と言っていられるような心の余裕は無くて、ただ、この場所が約束の場所であっているのかの確認をした。

 

「確か……ここよね?」

 別に誰が聞いている訳でも無いのに、声を潜めてそう言った。

「知ることは苦しみ、知らぬことは安らぎ。されど、安らぎは虚無へと溶ける。ならば、私達は進もう。無明の安息を棄て、星の影を追うものとして……」

 女性の声が私の背後から聞こえてくる。女性は詩を読んでいた。私は、あまりの突然の事で驚いて転びかけた。しかし、不思議な力(十中八九魔法だろう)で私の体は地面へ着く前に浮いていた。

 

「お転婆さんだね。私の観測データにはそんな記録は無いんだけども……こんばんは、ハーマイオニー・グレンジャーちゃん。君は少々生真面目な少女だと聞いていたから、本当に来てくれるか心配だったけど……君はしっかりと来てくれた。本当に良かった」

 私が地面に足裏を着けるか着けないかの時に、そう言ってきた。あの時、聞いた声だ。

 喋っている人は不自然なぐらい、月光のように白い髪の毛を持つ20歳ぐらいの女性だった。その瞳はみんな(マグル)が想像する宇宙の様子と似ているように思えた。それに着ている服だって、ダンブルドア校長ぐらいにはファンタジーなザ・魔法使いと言う格好だった。特に大きな魔女帽子が印象的な人だった。

 

「貴女が……あー、そのー……『魔法の根源について知りたいなら、森の奥の泉まで来なさい』って言った人? あの時、周囲を見渡したのに誰も居なくて……周りの私の友達もそんな声聞こえなかった。って言っていたの……。けど、やけに私の心に刺さって……」

 そう言うと目の前の彼女はニコリと笑った。

「良かった。君の心に私の言葉が刺さってくれて……。まぁ、私は確信があったよ、私の言葉は君の知識欲を刺激する事が出来るってね。君はグリフィンドールの割には知識欲がある。それに少々の()()()もしっかり効いたようだ」

 彼女は安心したような口振りでそう言った。

「君は……そうだね、関係無い話は削ぎ落として核心的な話だけしよう。時間はあまり取れないようだし。君は、本当のところマグル生まれである自分が魔法を使える原理について……少々たりと気になっているのでしょ? 

 君は自分が魔法を使える事は誇らしいものだと思っているし、むしろ最近ではそちらの方が常識になっている。けれども、少し怖いと思っている。理論が理解出来ない力を使える。と言う事実が……」

 彼女はニコリと笑ってそう言った。私の心はギクリと音を立てた。

 

「……1年生の時、少し調べたの。魔法使いとマグルの違い。そして、自分が魔法を使える理由を。けど、何にも分からなかった。出てくるのは、腐った純血主義者の自己肯定感を高める為の本ばかりだったわ。学術書みたいなものも読んでみたけど、当時の私には分からなかった。去年改めて読んでみたけど、結論〝分からない〟──」

「その通り。それについての問題は、実に世界の根幹を揺るがすような話であって、安易に普通の人が踏み込むような案件では無い。それで、踏み込まず去って行った研究者や賢者は数知れず……だから、〝分からない〟と結論付けてしまった方がよっぽど穏便に済む。聡明な人ほど、そう結論付けるよ。

 人間、分からなすぎるのも確かに駄目だけど、分かりすぎてしまう事も非常に危険なんだよ。知らない方が幸せな事……ってよく言うだろう? 魔法の根源とは、その分野の話だ。」

 ……多くの人がその境地に至らず、立ち去った。

 本を読んでいて、何度かぶつかった言葉を思い出した。〝魔法省神秘部〟魔法の深淵たる分野を研究している機関。されど、神秘部のやっている事は普通の魔法使いには分からず、魔法省大臣ですら触れる事が出来ない禁足地。

 誰が指導者で、誰が構成員なのかそれすら神秘のベールに包まれている。

 魔法の根源についての研究。これこそが、魔法省神秘部が研究する事なのだろうか?

 

「ハーマイオニーちゃん、君は私の誘いに乗って、その禁足地たる神域に踏み込もうとしている。この世界には確かに神は居ないが、絶対的な摂理は存在する。魔法の神秘は既に人間が想像する神の御業の範疇を超えている。けれども、こんな言葉があるね。『発展した科学は魔法と見分けが付かない』

 されど、怖がる必要は無いよ。君は聡明だ。そして、ハーマイオニーちゃんは勇猛果敢なグリフィンドールだ。レイブンクローのハーマイオニーだったら、私はこの本を渡そうとはしなかっただろうね。本当の深淵へ踏み出して、底へ落ちてしまう可能性があるからね」

 そう言って彼女はどこからか本を取り出した。それは分厚い本だった。そして、その本は勝手に私の方へゆっくりと飛んで行き、私の手に収まった。

 タイトルは金文字で『魔法理論-魔法使いの本質-』と書かれていた。何やら物々しい雰囲気だ。

 

「私が願う事で失礼だけど……君には生涯の研究として、魔法について学んで欲しいものだよ。君は先ほども言った通り賢い。自分が引き返すべき場所も見出せると私は信じている。そして……君もまた、運命への変数に十分なり得る。」

 彼女は非常に自身ありげに言った。期待されているのは嬉しいけれども、彼女の事を私はよく分からなかった。

「貴女は……一体、何者なのですか?」

「そうだね……私はいくつかの通り名が存在するんだ。カッコいいでしょう? 代表的なものを挙げるならば……星空の魔女、深淵に堕ちた魔女、境界を渡る月、それに答えなき学徒だったり、虚路者。1番気に入っているのは月影の魔女かな?」

 何を言っているのかさっぱりだった。

「貴女は突然、私の前に現れた。私の心の奥底に眠っていた事だって知っていた。私の名前だって……所属寮だって知っている。貴女は……一体誰?」

「君は足元を歩いている蟻が、同類からなんと呼ばれているか気になるタイプの子かい?」

 何を言っているのかさっぱりだった。

「さぁ、もうお時間だよ。クィディッチ・ワールドカップを楽しんでね。私にとっては、あんなあっちこっちで色んな事をしているスポーツを見るのは若干、疲れるから苦手なんだけど……」

 そう言うと次の瞬間、姿を消していた。

 

「ハーマイオニー!」

 森の奥からロンが飛び出して来た。

「あ! 君、こんな所に居たのかい? ジニーが、いきなり君が消えちゃった。ってパニックになってたんだよ! 危ないんだから、深夜にひとり散歩とか勘弁してくれよ!」

 ロンはそう説教するように私に言い付けた。いつもの私は他の人から見たら、こんな感じなのかな?

「……ってか、その本は? あ、本を読みたかったのか。君らしいけど、森の中で読むのはお勧めしないね。ホグワーツの禁じられた森じゃないとは言え、森は危ないんだぞ?」

 ロンはそう言うと、私の腕を引いてキャンプ地に戻した。その後、モリーさんにそれなりに厳しく怒られたが私はどこか上の空だった。

 アーサーさんがモリーさんに明日は試合なんだからここまでしてあげなさい。と言った1時半。私はベッドに戻って本を開いた。

 

 魔法の本質とは一言で現せば、共鳴する能力である。その能力は遺伝するが、遺伝とは不確定なものである。それが故にマグル生まれやスクイブが生まれる。

 本書はそんな魔法の本質について、様々な賢者達の研究の歴史。そして、今まで言われて来た誤情報、思い込みなども共にアルテミシア・カーライルが集約し、過誤を指摘し正しい理解を促す。

 

「……共鳴する。えっ!? 名前!?」

 思わず、声を上げてしまって周囲を見渡す。同じテントで寝ているジニーもモリーさんも起きていない。一旦、心を落ち着かせる。

 

 アルテミシア・カーライル。

 歴史上、謎深い人物のうちの1人。1519年に神秘部の前身である魔法研究会を設立させた魔女。

 しかし、歴史上彼女がホグワーツを通った記録は無い。

 だからと言って、近隣のボーバトン魔法アカデミーやダームストラング専門学校に在籍した記録すら無い。多くの人が彼女は家庭学習によって魔法を学んだ魔女だと結論付けている。

 彼女の明らかになっている功績は少なく、魔法研究会を設立させた事と言う記録しか残っていない。

 ただ、噂によれば今もまだ神秘部の奥深くで無言者達に何かを指令している。と言う噂が存在する。彼女はまさに、そうなのだろうか?

 

 少なくとも1519年以前から生きている彼女は余裕で500歳を超えている。と言う訳なの……?

 

「と、とんでもない人に目を付けられちゃったって事……?」

 私は、1人押し殺して言った。月は微笑うように私を見ていた気がする。





アルテミシア・カーライル
 頑なに自ら名乗らない魔女。白髪に宇宙のような瞳。それに、豪華なドレス?を身に纏い、大きな魔女帽子を被っている。
 1519年に神秘部の前身である魔法研究会を設立させた魔女である。但し、魔法研究会を設立させた事しか記録に残っていない。
 探究の魔女、深淵に足を踏み入れた魔女、永遠に不滅な魔女、無明の探求者、虚路者、星空の魔女、深淵に堕ちた魔女、境界を渡る月、それに答えなき学徒。と様々な肩書きを持っているが、1番気に入っているのは月影の魔女。
 
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